特許第6564084号(P6564084)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6564084
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】口腔用組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/105 20160101AFI20190808BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALI20190808BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20190808BHJP
【FI】
   A23L33/105
   A61K8/9789
   A61Q11/00
【請求項の数】1
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2018-31798(P2018-31798)
(22)【出願日】2018年2月26日
(62)【分割の表示】特願2014-559359(P2014-559359)の分割
【原出願日】2013年9月5日
(65)【公開番号】特開2018-127455(P2018-127455A)
(43)【公開日】2018年8月16日
【審査請求日】2018年2月26日
(31)【優先権主張番号】特願2013-18728(P2013-18728)
(32)【優先日】2013年2月1日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】307013857
【氏名又は名称】株式会社ロッテ
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100128668
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 正巳
(74)【代理人】
【識別番号】100096943
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】毛利 彰太
(72)【発明者】
【氏名】津金 貴則
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 洋二
【審査官】 山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】 特許第6300736(JP,B2)
【文献】 特開平10−259136(JP,A)
【文献】 特開2009−027926(JP,A)
【文献】 特開2007−320926(JP,A)
【文献】 特開2013−056855(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00− 8/99
A61Q 1/00−90/00
A23L 5/40− 5/49
31/00−33/29
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水菜冷水抽出物を含有するバイオフィルム形成抑制用食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔疾患の原因である口腔バイオフィルムに対する歯周病改善効果に優れた口腔用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯周病とは歯周組織に見られる疾患群の総称であり、狭義では歯肉炎、歯周炎および咬合性外傷が相当される疾患である。歯周病はデンタルプラークが主な原因となり引き起こされる口腔内感染症である。ヒトの口腔内には700種類以上の細菌が存在し、健康な口腔内ではStreptococcus属やActinomyces属といった初期付着菌が歯面に付着している。その中のActinomyces naeslundiiは出血性歯肉炎原因菌と言われており、初期付着したA. naeslundii がバイオフィルムを形成しプラークを作ることで歯肉に炎症を発症させる。Actinomyces による歯肉の炎症は、菌体膜上のリポタンパク質により歯肉上皮細胞やマクロファージのTLR2を介してIL-8やTNF-αの産生をさせることで引き起こされるという報告がなされている。歯肉に炎症が起こると、歯周ポケットが形成され、また出血や歯肉溝滲出液の滲出を伴い、歯周病原性細菌として知られるPorphyromonas gingivalisやAggregatibacter actinomycetemcomitans、Treponema denticolaなどが歯周ポケットに住み着く環境が整えられる。また、A. naeslundiiは歯面へ付着するだけでなく多くの口腔内細菌と共凝集することで、歯周病原性細菌のプラークへの定着の足場となる。これらのことから、A. naeslundiiは初期プラークから後期プラーク(歯周病バイオフィルム)へ移行させるため、歯周病発症に関わる重要な細菌として近年注目を集めている。
【0003】
従来の歯周病予防ではP. gingivalis などの歯周病原性細菌を殺菌することで歯周病を抑制する考え方が主流であったが、歯周病原性細菌は歯周ポケットの深部にバイオフィルムと共に存在するため、抗菌物質が浸透しにくく、思ったような効果を得られないことが多い。
【0004】
この点を改善するために、特許文献1には、(A)N−アシルサルコシン又はその塩と、(B)ベンジルイソチオシアネートとを配合し、かつ(A)/(B)の質量比が0.5〜20であることにより、口腔バイオフィルム抗菌効果及び歯肉炎改善効果を示すことが開示されている。しかしながら、特許文献1においても、耐性菌が出現する危険度が依然として高い。
【0005】
歯周病は歯肉炎を発症することから進行するため、歯肉炎を予防することで、より効果的な歯周病予防が可能である。従って、A. naeslundiiのバイオフィルム形成を抑制する素材には効果的な歯周病予防効果が期待できる。
【0006】
本発明者等は、A. naeslundii のバイオフィルム形成は酸ストレスにより促進されることを確認し、水菜や小松菜などの5種類のアブラナ科植物とアイスプラントの抽出物にA. naeslundii の酸誘導性バイオフィルムの形成量を50〜90%低下させる活性を確認している(特許文献2)。
【0007】
本出願では、バイオフィルム形成抑制活性が認められた植物抽出物のうち、最も活性が高く、また入手し易い水菜(水菜、Brassica rapa var. nipposinica)を候補素材とし、詳細な活性評価とその活性成分の性状特定を詳細に検討した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−174542号公報
【特許文献2】特開2013−056855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
歯周病原性細菌は歯周ポケットの深部にバイオフィルムと共に存在しており、従来からある歯周病原性細菌を標的とした抗菌剤を用いた歯周病抑制法では、口腔バイオフィルムが抗菌剤の浸透を妨げ、狙ったとおりの歯周病抑制効果を出すことが困難であった。また、抗菌剤の使用は耐性菌が出現する危険性が高く、好ましくない。従って、歯周病原性細菌の抗菌剤によるコントロールよりも、初期の歯周病原性細菌のバイオフィルム形成の制御を行なうことが、より安全で効果の高い歯周病予防法であると考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等が鋭意研究を進めた結果、水菜の抽出物が酸により誘導されるActinomyces naeslundiiのバイオフィルム形成に対して阻害効果を有することを見出した。この阻害効果は抽出温度が低温であるほど高かった。水菜抽出物の活性成分を分画した結果、活性成分は分子量10kDa以上の成分であると推定され、活性画分中に含まれる成分の80%以上がタンパク質であることを見出し、本発明を完成した。なお、水菜抽出物はA. naeslundiiの増殖には影響を及ぼさなかったため、作用機序は抗菌作用とは異なることが考えられた。
【0011】
Actinomyces naeslundiiは、歯肉炎や根面う蝕部位から発見されるグラム陽性桿菌で、初期の歯周病原性細菌と言われている。連鎖球菌や歯周病原性細菌と共凝集するため、歯周病プラークへの菌叢遷移の鍵を握る細菌であり、A. naeslundiiのコントロールが歯周病予防に繋がると考えられる。本発明者等の研究では、歯周病原性細菌の産生する酪酸などの酸によりバイオフィルム形成が増加することを確認した。
【発明の効果】
【0012】
本発明の水菜抽出物を含有する口腔用組成物は、初期歯周病原性細菌のバイオフィルム形成を顕著に抑制することから、抗菌剤よりもより安全で効果の高い歯周病予防法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】抽出温度の相違によるバイオフィルム形成抑制活性の比較
図2】抽出温度の相違によるバイオフィルム形成抑制活性の比較
図3】水菜冷水抽出物のハイドロキシアパタイト上でのバイオフィルム形成抑制活性
図4A】口腔内臨床分離株の系統解析
図4B】口腔内臨床分離株の系統解析
図5】水菜冷水抽出物の臨床分離株に対するバイオフィルム形成抑制活性
図6】フローセルにおける水菜冷水抽出物のバイオフィルム形成抑制活性
図7】共焦点レーザー顕微鏡によるバイオフィルム観察図
図8】水菜冷水抽出物、水菜冷水抽出物の透析処理による透析内液、透析外液のバイオフィルム形成抑制活性の比較
図9】水菜冷水抽出物透析内液の陰イオン交換クロマトグラフィーの結果
図10】水菜冷水抽出物透析内液の硫安分画のバイオフィルム形成抑制活性
図11】水菜冷水抽出物透析内液の硫安分画物の陰イオン交換クロマトグラフィーの結果
図12】水菜冷水抽出物配合チューインガムのバイオフィルム形成抑制活性
【発明を実施するための形態】
【0014】
本願発明は、水菜抽出物を含有する口腔用組成物に関する。
さらに、本願発明は、前記水菜抽出物が、冷水抽出物である口腔用組成物に関する。
さらにまた、本願発明は、水菜抽出物を含有する歯周病バイオフィルム形成抑制剤に関する。
さらに、本願発明は、前記水菜抽出物が、冷水抽出物である酸誘導バイオフィルム形成抑制剤に関する。
さらにまた、本願発明は、上記口腔用組成物からなる含そう剤、練り歯磨き剤、吸入剤、トローチ剤、及び食品に関する。
【0015】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、本願発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0016】
(実施例1)
水菜抽出物の調製法:
市販されている水菜(茨城県産)を購入し、凍結乾燥することで水菜乾燥葉を調製した。水菜乾燥葉を細かく粉砕し、この粉砕した水菜乾燥葉1gに対して脱イオン蒸留水50mlの割合で70℃、室温、及び4℃にて2時間抽出を行った。得られた抽出液を吸引ろ過し、13,000×g・10分間で遠心し、その上清を凍結乾燥したものを水菜抽出物として試験に供した。
【0017】
(実施例2)
バイオフィルム形成試験
【0018】
(実施例2−1)
96ウェルマイクロタイタープレートを用いたバイオフィルム形成
A. naeslundii ATCC19039またはActinomyces spp.臨床分離株を5mlのBrain Heart Infusion(BHI)液体培地にて37℃の嫌気条件下で一晩定常期まで培養し、1,100×g・10分間遠心集菌した。同条件にてPBSで3回遠心洗浄し、PBSでO.D.660nm=0.3に調製したものを供試菌懸濁液として試験系に供した。
バイオフィルム形成は96ウェルマイクロタイタープレートを用いて行った。各ウェルに0. 5%スクロース添加2×Trypticase Soy Broth(TSB)培地100μl、試験サンプル50μl、125 mM酪酸20μl、供試菌懸濁液20μl、PBS 10μlを添加し、37℃、5%CO条件下にて16〜20時間培養を行った。
【0019】
(実施例2−2)
96ウェルマイクロタイタープレートでのバイオフィルム形成量の定量
実施例2−1に従い培養した培養上清をデカントし、PBS 200μlにて各ウェルを洗浄後に0.25%サフラニン溶液(日水製薬)100μlを添加し15分間静置することでバイオフィルムを染色した。サフラニン溶液をデカント後に脱イオン蒸留水にて2回洗浄し、乾燥後に70%エタノールを100μl添加し、30分間振とうすることで、サフラニンを溶出させ、マイクロプレートリーダーを用いて492nmの吸光度にてバイオフィルム量を定量した。
上記した実施例により、水菜から70℃、室温、4℃の各条件下で抽出したそれぞれの水菜抽出物の重量辺りの比活性を評価したところ、4℃の条件下で抽出した冷水抽出物の比活性が最も高かった(図1及び図2)。また、水菜冷水抽出物はA. naeslundii の増殖には影響を示さなかった。
そのため、水菜冷水抽出物をActinomyces バイオフィルム抑制素材の候補材料として、ヒト口腔内で活性を示す可能性があるのか更なる検討を行った。
【0020】
(実施例2−3)
ハイドロキシアパタイト(HA)上でのバイオフィルム形成
HAディスクはウシ歯を表面がエナメル質で覆われるように7mm×7mm×1.5mmの形に成形したものを用いた。HAディスクをオートクレーブにて滅菌した後、PBSにより室温で1時間平衡化し、無菌的に採取したヒト唾液400μlを室温で1時間静置することでペリクルを形成させ、PBSにて洗浄後に5mg/ml BSA溶液で室温で30分間ブロッキングしたものを試験に用いた。
バイオフィルム形成は24ウェルマイクロタイタープレートを用いて行った。各ウェルに0.5%スクロース添加2×TSB培地400μl、試験サンプル200μl、125mM酪酸 80μl、供試菌懸濁液 80μl、PBS 40μlを添加し、HAディスクを各ウェルに置き、実施例2−1に従い培養した。
【0021】
(実施例2−4)
HA上のバイオフィルム形成量の定量
実施例2−3に従い培養した後にHAディスクをピンセットにて取り出し、PBSに一度浸すことで洗浄した。洗浄したHAディスクを新しいウェルに入れ、サフラニン溶液600μlを添加し15分間静置することでバイオフィルムを染色した。HAをピンセットにて取り出し、脱イオン蒸留水にて洗浄後に新しいウェルに置き70%エタノールを600μl添加し、30分間振とうすることでサフラニンを溶出させ、その溶出液300μlを96ウェルマイクロタイタープレートに移して実施例2−2に従いバイオフィルム量を定量した。
上記実施例によりペリクルを形成させたハイドロキシアパタイト上において、水菜冷水抽出物のバイオフィルム形成抑制活性を評価した結果を図3に示した。水菜冷水抽出物はハイドロキシアパタイト上においても、96ウェル上と同様にA. naeslundiiバイオフィルム形成抑制活性を示した。
【0022】
(実施例3)
Actinomyces 臨床分離株の分離
【0023】
(実施例3−1)
PCR/マルチプレックスPCR
PCRは10×Ex Taq buffer 2.5μl、DNAテンプレート1μl、dNTP 2μl、プライマー 各0.025μl、Ex taq 0.125μl、MgCl 2μl、HO 16.88μl、を PCRチューブに加えて行った。マルチプレックスPCRは上記の組成を50μM Forward プライマー 3 つ、Reverse プライマー 3つを各 0. 1μl、HO 16.75μlへと変更して行った。反応条件は95℃で10分間にて熱処理後に95℃・30秒、50℃・30秒、72℃・30秒を30サイクル行ない、最後に72℃で7分間にて完全に伸長反応を完了させた。マルチプレックスPCRはアニーリング温度を53℃にて行った。
【0024】
(実施例3−2)
臨床分離株の分離
任意選択した健常人男女7人(男:3人、女:4人)よりプラークを採取し、Actinomyces 選択培地(CFAT寒天培地)にて培養し、形成されたコロニーをグラム染色後、顕微鏡観察によりグラム陽性桿菌を選別した。
各グラム陽性桿菌からゲノム抽出キット(sigma)にてゲノムを抽出し、実施例3−1に従いPCRを行い 16SrRNA遺伝子の上流の約500bpを増幅させた。PCRに用いたプライマー配列は表1に示した。
PCR産物は PCR Clean-Up キット(promega)にて精製し、塩基配列分析を(株)マクロジェンジャパン社に外部委託して行った。取得した16SrRNA遺伝子の塩基配列をGenBank上のデータベースとの相同性検索にて菌を推定した。上記にてActinomyces 属と推定された菌はatpAを実施例3−1に従いマルチプレックPCRにて増幅させ、同様に塩基配列分析を(株)マクロジェンジャパン社に外部委託して行った。用いたプライマー配列は表1に示した。取得した塩基配列をデータベース上のatpAの塩基配列と共に系統解析することで、種の同定を行ない、得られた A. naeslundii、A. oris を Actinomyces spp. 臨床分離株とした。
【0025】
【表1】
【0026】
上記実施例により、ヒト口腔内から臨床分離株の分離を行った結果、7人から合計9株のActinomyces 臨床分離株(A. naeslundii:4株、A. oris:5株)の分離に成功した。さらに分離した Actinomyces 臨床分離株のうち7株に対して水菜冷水抽出物のバイオフィルム形成抑制活性を評価したところ、菌株によってバイオフィルム形成量は異なるものの、水菜冷水抽出物はすべての臨床分離株に対してバイオフィルム抑制活性を示した(図5)。図3の結果と合わせると、水菜冷水抽出物がヒト口腔内においてもバイオフィルム形成抑制活性を示す可能性が高いことが示唆された。
【0027】
(実施例4)
フローセルを用いた水菜冷水抽出物のバイオフィルム抑制評価
上記の実施例は、96ウェルプレートを用いた静止系による評価において、水菜冷水抽出物にActinomyces naeslundiiバイオフィルム抑制活性があることを示した。しかしながら実際の口腔内を考えると、唾液が絶えず分泌されており、口腔内に唾液の流動が存在する。そこで、水菜冷水抽出物が口腔内においてもA. naeslundiiのバイオフィルム抑制活性を示すか評価するため、口腔環境を模したフローセルシステムを用いて、水菜冷水抽出物のA. naeslundiiバイオフィルム抑制活性を評価した。
評価方法
(実施例4−1)評価菌株
Actinomyces naeslundii ATCC19039株を使用した。
(実施例4−2)水菜抽出物の調製
市販されている水菜を購入し、凍結乾燥にて水菜の乾燥葉を調製した。細かく粉砕した水菜乾燥葉1gに対して50mlの脱イオン蒸留水により、4℃条件下にて2時間抽出を行った。吸引濾過および遠心により水菜残渣を取り除いた上清を凍結乾燥し、水菜冷水抽出物を回収した。
(実施例4−3)フローセルを用いたバイオフィルム形成試験
A. naeslundiiを5mlのBHI培地にて一晩培養し、遠心集菌した後、PBSにて遠心洗浄を行ない、BHI培地にてO.D.660nm=0.4に調製し、これを供試菌液とした。供試菌液400μlをフローセルチャンバー(ACCFL0001:STOVALL LIFE SCIENCE社)に接種し、チャンバーの向きをバイオフィルム形成面を下側にした後、37℃条件下にて3時間静置し、バイオフィルム形成面に菌を付着させた。静置後、チャンバーの向きをバイオフィルム形成面を上側にし、0.25%スクロース・60mM酪酸を添加したTSB培地をペリスタポンプにより3ml/時間の流速にて流しながら48時間培養を行ない、バイオフィルムを形成させた。水菜冷水抽出物のバイオフィルム抑制活性は、終濃度1mg/mlの水菜冷水抽出物を上記培地に添加し、同様に培養することで評価した。
(実施例4−4)バイオフィルムの観察
形成されたバイオフィルムを脱イオン蒸留水にて洗浄し、LIVE/DEAE BIOFILM VIABILITY KIT(invitrogen社)によりLive/Dead染色を行った後、共焦点レーザー顕微鏡にてバイオフィルムを観察した。
上記した実施例により、フローセルを用いた流動系条件下にて水菜冷水抽出物のバイオフィルム形成抑制活性を評価したところ、水菜冷水抽出物はA. naeslundii のバイオフィルム形成を抑制した(図6、7)。また、共焦点レーザー顕微鏡による観察から、水菜冷水抽出物添加条件下にて形成されたバイオフィルムでは、死菌の占める割合が減少していた(図7)。
より詳細には、フローセルを用いた評価においても、酪酸を添加するとA. naeslundiiのバイオフィルム形成が増加し、そのバイオフィルムには生菌と死菌が同程度存在していた。バイオフィルムを構成する死菌の割合は、酪酸を添加しない場合に比べて高かった。1mg/mlの水菜冷水抽出物の存在下では、A. naeslundiiのバイオフィルム形成量が抑制され、特に死菌の付着量が減少した。従って、水菜冷水抽出物は、酪酸に依存したA. naeslundiiのバイオフィルム形成を抑制することが明らかとなった。
【0028】
(実施例5)
水菜冷水抽出物の分画
【0029】
(実施例5−1)
透析
水菜冷水抽出物を脱イオン蒸留水に溶解し、13,000×g、10分間遠心して上清を回収し、分画分子量10kDaの透析用セルロースチューブ(アズワン)に入れ、脱イオン蒸留水に対して低温室内で透析を2日間行った。透析内液と透析外液の一部を凍結乾燥し回収した。
上記のように水菜冷水抽出物の分子量を推定するため、分画分子量10kDaの透析用セルロースチューブにより水菜冷水抽出物を透析し、透析内液と外液のバイオフィルム形成抑制活性を評価したところ、透析内液の活性の方が高かった。活性成分の分子量は10kDa以上であることが示唆された(図8)。
【0030】
(実施例5−2)
水菜冷水抽出物の透析内液のイオン交換クロマトグラフィー
サンプルを10mMリン酸カリウムバッファー(pH7.4)に溶解し、遠心分離後の上清を DEAE-TOYOPEARL 650M ( ψ1.6×70cm)にアプライした。同バッファーにて洗浄後、0-0.5M NaClリニアグラジエントにより溶出し、各フラクションに5mlずつ分取した。なお、すべての操作は流速1ml/分にて行った。
水菜冷水抽出物の透析内液を陰イオン交換クロマトグラフィーにより分画し、どの成分の溶出に依存して活性を示すか評価した(図9)。その結果、活性はタンパク質の第1ピークから第2ピークにかけてタンパク質の溶出パターンに依存して活性を示した。これらのことから活性成分はタンパク質である可能性が示唆された。
【0031】
(実施例5−3)
硫安分画
実施例5−1に従って調製した水菜冷水抽出物の透析内液サンプルをPBSに溶解し、硫酸アンモニウムの濃度を30%、45%、60%、75%と段階的に高め、各濃度での沈殿物を13,000×g・15分間遠心し回収した。回収した沈殿画分を脱イオン蒸留水に溶解し、透析後に凍結乾燥し回収した。また、75%未沈殿画分も透析後に凍結乾燥にて回収した。
上記のように、バイオフィルム形成抑制活性成分がタンパク質であれば硫安分画が有効であると考え、水菜冷水抽出物の透析内液を硫安により分画し、各濃度での沈殿画分のバイオフィルム形成抑制活性を評価した(図10)。硫安濃度45〜60%での沈殿画分に最も高いバイオフィルム形成抑制活性がみられた。
【0032】
(実施例5−4)
水菜冷水抽出物の硫安分画物のイオン交換クロマトグラフィー
実施例5−3に従い調製した硫安濃度45〜60%での沈殿画分を、実施例5−2に従い、陰イオン交換クロマトグラフィーにより分画した結果、2つのバイオフィルム形成抑制活性ピークがみられた(図11)。
【0033】
(実施例6)
含有成分定量
【0034】
(実施例6−1)
タンパク質定量
タンパク質の定量はBCA法を用いて行った。
【0035】
(実施例6−2)
糖定量
糖の定量はフェノール硫酸法を用いて行った。
【0036】
(実施例6−3)
ポリフェノール定量
ポリフェノールの定量はFolin-ciocalteu法を用いて行った。
上記、精製に関して、水菜冷水抽出物を透析、硫安分画および陰イオン交換クロマトグラフィーにより分画した結果のまとめを表2に示した。精製段階を進めるに従い、重量辺りの比活性が高くなっており、活性成分の精製は進んでいた。またイオン交換クロマトグラフィーの活性画分の含有成分は80%以上がタンパク質であり、活性成分がタンパク質である可能性が示唆された。
【0037】
【表2】
【0038】
(実施例7)
水菜抽出物配合チューインガムのバイオフィルム形成抑制活性評価
【0039】
(実施例7−1)
水菜配合チューインガムの作成
表3の組成で水菜抽出物配合チューインガムを作成した。
【0040】
【表3】
BFI - 01:水菜冷水抽出物を投入し、12分間混練。
BFI - 02:12分間練成後に水菜冷水抽出物を投入し、その後3分間程度混練。
【0041】
(実施例7−2)
チューインガム抽出液の調製
5gのチューインガムに37℃に加温したPBSを25ml加え、乳鉢内で5分間押しつぶすことで抽出を行い、1,100×g ・15分間遠心し、その上清を回収し、滅菌フィルター( 0.2μm ) にて滅菌処理を行った物をガム抽出液とした。
【0042】
(実施例7−3)
チューインガム抽出液のバイオフィルム抑制活性評価
96ウェルマイクロタイタープレートを用いて行った。各ウェルに1%スクロース添加4×TSB培地50μl、チューインガム抽出液100μl、125 mM酪酸20μl、供試菌懸濁液20μl、PBS 10μlを添加し、37℃で5%CO条件下にて16〜20時間培養を行った。バイオフィルム形成量の定量は実施例2−2に従い行った。
【0043】
(実施例7−4)
水菜抽出物のチューインガムからの溶出率評価
280nmの波長の吸光度 (Abs280nm) 測定を行い、以下の計算式により水菜抽出物の溶出率を評価した。
(A1)水菜抽出物を2000ppmの濃度でコントロールガム抽出液に溶解させたもののAbs280nm
(A2)水菜冷水抽出物配合チューインガム抽出液のAbs280nm
(A3)コントロールガムのAbs280nm
溶出率 (%)= ((A2−A3)/(A1−A3))×100
【0044】
上記の実施例により、水菜冷水抽出物配合チューンガム抽出液のバイオフィルム形成抑制活性について検討したところ、水菜冷水抽出物配合チューインガム抽出液はA. naeslundii のバイオフィルム形成を抑制した(図12)。また、水菜冷水抽出物をチューインガムに配合することによる活性の低下もみられなかった。なお、水菜冷水抽出物の溶出率はBFI-01が83.0%、BFI-02が85.7%であった。
【0045】
水菜冷水抽出物がActinomyces 臨床株に対してもバイオフィルム形成抑制活性を示し、またハイドロキシアパタイト上およびフローセルを用いた評価においてバイオフィルム形成を抑制したことから、水菜冷水抽出物がヒト口腔内においてもバイオフィルム形成抑制活性を示す可能性が示唆された。
水菜冷水抽出物の活性成分の分画によりタンパク質が活性成分である可能性が示唆された。一方、データでは示していないが、BSAや乳タンパク製剤にバイオフィルム抑制活性がみられなかったことから、タンパク質すべてに活性がみられるわけではなく、水菜抽出物中に含まれるタンパク質に特異的な Actinomyces バイオフィルム形成抑制活性がみられると考えられた。
【0046】
水菜冷水抽出物に Actinomyces バイオフィルム形成抑制活性がみられ、Actinomyces 臨床分離株に対しても効果はみられた。水菜冷水抽出物はハイドロキシアパタイト上において、またフローセルを用いた評価においてもバイオフィルム形成抑制活性を示し、ヒト口腔内において活性を示す可能性が示唆された。また、水菜冷水抽出物配合チューインガムはA. naeslundii バイオフィルム形成抑制活性を示した。
水菜冷水抽出物を透析・硫安分画・陰イオン交換クロマトグラフィーにより分画したところ、活性成分は分子量10kDa以上のタンパク質であることが示唆された。
【0047】
次に、上記したチューインガム以外の製品である、本発明の水菜冷水抽出物を含有するバイオフィルム形成抑制剤を含有する含そう剤、練り歯磨き、口臭用スプレー、トローチ、キャンディ、錠菓、グミゼリー、飲料を常法にて製造した。以下にそれらの処方を示した。なお、これらによって本発明品の範囲を制限するものではない。
【0048】
(実施例8)
下記処方に従って含そう剤を製造した。
エタノール 2.0重量%
水菜冷水抽出物 1.0
香料 1.0
水 残
100.0
【0049】
(実施例9)
下記処方に従って練り歯磨きを製造した。
炭酸カルシウム 50.0重量%
グリセリン 19.0
水菜冷水抽出物 1.0
カルボオキシメチルセルロース 2.0
ラルリル硫酸ナトリウム 2.0
香料 1.0
サッカリン 0.1
クロルヘキシジン 0.01
水 残
100.0
【0050】
(実施例10)
下記処方に従って口臭用スプレーを製造した。
エタノール 10.0重量%
グリセリン 5.0
水菜冷水抽出物 1.0
香料 0.05
着色料 0.001
水 残
100.0
【0051】
(実施例11)
下記処方に従ってトローチを製造した。
水菜冷水抽出物 92.3重量%
アラビアガム 6.0
香料 1.0
モノフルオロリン酸ナトリウム 0.7
100.0
【0052】
(実施例12)
下記処方に従ってキャンディを製造した。
砂糖 51.0重量%
還元水あめ 32.0
クエン酸 1.0
香料 0.2
L-メントール 1.0
水菜冷水抽出物 0.4
水 残
100.0
【0053】
(実施例13)
下記処方に従って錠菓を製造した。
砂糖 74.7重量%
乳糖 18.9
水菜冷水抽出物 2.0
ショ糖脂肪酸エステル 0.15
水 4.25
100.0
【0054】
(実施例14)
下記処方に従ってグミゼリーを製造した。
ゼラチン 60.0重量%
還元水あめ 32.4
水菜冷水抽出物 0.5
植物油脂 4.5
リンゴ酸 2.0
香料 0.5
100.0
【0055】
(実施例15)
下記処方に従って飲料を製造した。
オレンジ果汁 30.0重量%
水菜冷水抽出物 0.5
クエン酸 0.1
ビタミンC 0.04
香料 0.1
水 残
100.0
【産業上の利用可能性】
【0056】
本願発明の水菜冷水抽出物を含有する口腔用組成物は、従来の歯周病原性細菌に対する抗菌剤と異なる作用である、バイオフィルム形成抑制作用を示す歯周病予防作用を有することから、新しい着眼点での歯周病予防剤である。従って、既存の抗菌剤などと比較して、耐性菌出現リスクが低いなどのメリットが考えられ、種々の製品への応用化が可能である。
【0057】
この出願は2013年2月1日に出願された日本国特許出願第2013−018728号からの優先権を主張するものであり、その内容を引用してこの出願の一部とするものである。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12