(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記設置工程では、前記ベースプレートの中央部を固定することにより、前記焼結層の変形に伴って前記ベースプレートが変形できるように、当該ベースプレートを設置する、請求項2に記載の三次元造形物の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。また、それぞれが独立して発明を構成する。
【0014】
図1に示すように、本発明の実施形態に係る積層造形装置は、マルテンサイト系金属である材料粉体からなる材料粉体層8を形成し、この材料粉体層8の照射領域にレーザ光Lを照射して材料粉体を溶融および固化させる(以下、焼結ともいう)を繰り返すことで、複数の焼結層を積層して所望の形状を有する三次元造形物を生成する積層造形装置である。以下の説明では、造形完了後の所望の形状を有する焼結体
81と、その焼結体
81とベースプレート
33の少なくとも一部分とが一体で成る所望の形状を有する生成物を含んで、三次元造形物という。ただし、本発明において、焼結体
81は、複数の焼結層で形成されている造形途中の金属体を含むので、三次元造形物と焼結体
81とは、全く同じものではない。
【0015】
本発明の積層造形装置は、チャンバ1とレーザ照射装置13とを有する。チャンバ1は、所要の造形領域Rを覆い且つ所定濃度の不活性ガスで充満される。チャンバ1には、内部に材料層形成装置3が設けられ、上面部に保護ウインドウ汚染防止装置17が設けられる。材料層形成装置3は、ベース台4とリコータヘッド11とを有する。
【0016】
ベース台4は、焼結体
81が形成される造形領域Rを有する。造形領域Rには、造形テーブル5が設けられる。造形テーブル5は、造形テーブル駆動機構31によって駆動されて上下方向(
図1の矢印A方向)に移動することができる。積層造形装置の使用時には、造形テーブル5上に治具プレート7
およびベースプレート33が配置され、その上に材料粉体層8が形成される。また、所定の照射領域は、造形領域R内に存在し、
焼結体81の輪郭形状で規定される領域とおおよそ一致する。
【0017】
造形テーブル5の周りには、粉体保持壁26が設けられる。粉体保持壁26と造形テーブル5とによって囲まれる粉体保持空間には、未固化の材料粉体が保持される。
図1においては不図示であるが、粉体保持壁26の下側には、粉体保持空間内の材料粉体を排出可能な粉体排出部が設けられてもよい。かかる場合、積層造形の完了後に造形テーブル5を降下させることによって、未固化の材料粉体が粉体排出部から排出される。排出された材料粉体は、シューターガイドによってシューターに案内され、シューターを通じてバケットに収容されることになる。
【0018】
図2および
図3に示すように、リコータヘッド11は、材料収容部11aと材料供給部11bと材料排出部11cとを有する。
【0019】
材料収容部11aは材料粉体を収容する。材料供給部11bは、材料収容部11aの上面に設けられ、不図示の材料供給装置から材料収容部11aに供給される材料粉体の受口となる。材料排出部11cは、材料収容部11aの底面に設けられ、材料収容部11a内の材料粉体を排出する。なお、材料排出部11cは、リコータヘッド11の移動方向(矢印B方向)に直交する水平1軸方向(矢印C方向)に延びるスリット形状である。
【0020】
また、リコータヘッド11の両側面には、それぞれブレード11fb、11rbが設けられる。ブレード11fb、11rbは、材料粉体を撒布する。換言するとブレード11fb、11rbは、材料排出部11cから排出された材料粉体を平坦化して材料粉体層8を形成する。
【0021】
切削装置50は、スピンドルヘッド60が設けられた加工ヘッド57を有する。加工ヘッド57は、不図示の加工ヘッド駆動機構により、スピンドルヘッド60を所望の位置に移動させる。
【0022】
スピンドルヘッド60は、不図示のエンドミル等の切削工具を取り付けて回転させることができるように構成されており、材料粉体層
8を焼結して得られた焼結層の表面や不要部分に対して切削加工を行うことができる。切削工具は複数種類の切削工具であることが好ましく、使用する切削工具は不図示の自動工具交換装置によって、造形中にも交換可能である。
【0023】
チャンバ1の上面には、保護ウインドウ1aを覆うように保護ウインドウ汚染防止装置17が設けられる。保護ウインドウ汚染防止装置17は、円筒状の筐体17aと、筐体17a内に配置された円筒状の拡散部材17cを備える。筐体17aと拡散部材17cの間に不活性ガス供給空間17dが設けられる。また、筐体17aの底面には、拡散部材17cの内側に開口部17bが設けられる。拡散部材17cには多数の細孔17eが設けられており、不活性ガス供給空間17dに供給された清浄な不活性ガスは細孔17eを通じて清浄室17fに充満される。そして、清浄室17fに充満された清浄な不活性ガスは、開口部17bを通じて保護ウインドウ汚染防止装置17の下方に向かって噴出される。
【0024】
照射装置として、レーザ照射装置13が、チャンバ1の上方に設けられる。レーザ照射装置13は、造形領域R上に形成される材料粉体層8の所定箇所にレーザ光Lを照射して照射位置の材料粉体を焼結させる。具体的には、
図4に示すように、レーザ照射装置13は、レーザ光源42と2軸のガルバノミラー43a、43bとフォーカス制御ユニット44とを有する。なお、各ガルバノミラー43a、43bは、それぞれガルバノミラー43a、43bを回転させるアクチュエータを備えている。
【0025】
レーザ光源42はレーザ光Lを照射する。ここで、レーザ光Lは、材料粉体を溶融可能なレーザであって、例えば、CO2レーザ、ファイバーレーザ、YAGレーザ等である。
【0026】
フォーカス制御ユニット44は、レーザ光源42より出力されたレーザ光Lを集光し所望のスポット径に調整する。2軸のガルバノミラー43a、43bは、レーザ光源42より出力されたレーザ光Lを制御可能に2次元走査する。ガルバノミラー43a、43bは、それぞれ、不図示の制御装置から入力される回転角度制御信号の大きさに応じて回転角度が制御される。かかる特徴により、ガルバノミラー43a、43bの各アクチュエータに入力する回転角度制御信号の大きさを変化させることによって、所望の位置にレーザ光Lを照射することができる。
【0027】
ガルバノミラー43a、43bを通過したレーザ光Lは、チャンバ1に設けられた保護ウインドウ1aを透過して造形領域Rに形成された材料粉体層8に照射される。保護ウインドウ1aは、レーザ光Lを透過可能な材料で形成される。例えば、レーザ光LがファイバーレーザまたはYAGレーザの場合、保護ウインドウ1aは石英ガラスで構成可能である。
【0028】
本発明の実施形態に係る積層造形装置は、1層または複数層の焼結層が新たに造形される毎に、新たに造形された焼結層
を造形温
度、冷却温
度、造形温
度の順番で温度調整する温度調整装置
90を有する。なお、造形温度および冷却温度は温度調整装置
90によって調整可能な温度幅に含まれ、造形温度をT1、冷却温度をT2、焼結層のマルテンサイト変態開始温度をMsおよび焼結層のマルテンサイト変態終了温度をMf、とすると、下記式(1)から(3)の関係が全て満たされる。
T1≧Mf (1)
T1>T2 (2)
T2≦Ms (3)
ただし、本発明は、造形温度T1と冷却温度T2で実施した前の冷却工程の次の冷却工程において、造形温度T1または冷却温度T2を前の冷却工程における造形温度T1または冷却温度T2と同じ温度に設定する場合だけではなく、上記式(1)から(3)を満足する範囲で前の冷却工程における造形温度T1とは異なる造形温度T1'に変更して設定する場合(T
1→T
1')、あるいは、前の冷却工程における冷却温度T2とは異なる冷却温度T2'に変更して設定する場合(T
2→T
2')を含む。
【0029】
なお、以下においては、焼結層形成工程によって新たに形成された1層から数十層の焼結層を上面層とも呼ぶ。上面層は、焼結層によって構成される焼結体
81の上部に位置することとなる。焼結後、冷却工程において冷却される前の上面層はオーステナイト相を含む状態であって、冷却温度T2に冷却することによってオーステナイト相がマルテンサイト相へと変態していき、オーステナイト相の少なくとも一部分がマルテンサイト相になる。
【0030】
温度調整装置
90は、上面層を造形温度
T1および冷却温度
T2に温度調整可能に構成されていればよい。特に、温度調整装置
90は上面層を加熱可能な加熱器
92と、上面層を冷却可能な冷却器
93のうち少なくともいずれか一方を有し、好ましくは両者を有する。
【0031】
一例として、温度調整装置90は、造形テーブル5に設けられる。
図5に示すように、本実施形態においては、温度調整装置90を備える造形テーブル5は、天板5aおよび3つの支持板5b,5c,5dを備える。天板5aとこれに隣接する支持板5bの間には天板5aを加熱可能な加熱器92が配置されている。
【0032】
支持板5bの下側の2枚の支持板5c,5dの間には天板5aを冷却可能な冷却器93が配置されている。造形テーブル5は、加熱器92および冷却器93によって温度調節可能に構成されており、加熱器92および冷却器93が温度調整装置90を構成する。
【0033】
なお、
図5に示される実施形態では、管材を支持板5c,5dの間に挟み込むようにして冷却器93を構成しているが、例えば、支持板5c,5dの一方または両方に配管穴を形成し支持板5c,5dを合わせることによって支持板5c,5dに直接冷却配管を形成するようにして冷却器93を構成してもよい。
【0034】
また、造形テーブル駆動機構31の熱変位を防止するため、温度調整装置90と造形テーブル駆動機構31との間に一定の温度に保たれた恒温部が設けられてもよい。以上のように温度調整装置90を構成することで、所望の温度に設定された造形テーブル5の天板5aと接触する治具プレート7
、ベースプレート33および下層の焼結層を介して、上面層を所望の温度に調整することが可能である。なお、材料粉体層8は焼結にあたり所定温度に予熱されていることが望ましいが、温度調整装置90は材料粉体層8の予熱装置としての役割も果たす。具体的に、材料粉体層8は温度調整装置90によって造形温度
T1に保温される。
【0035】
チャンバ1は所定濃度の不活性ガスが供給されるとともに、材料粉体層8の溶融時に発生するヒュームを含んだ不活性ガスを排出している。具体的には、チャンバ1には、不活性ガス供給装置15と、ダクトボックス21,23を介してヒュームコレクタ19が接続されている。
【0036】
不活性ガス供給装置15は、不活性ガスを供給する機能を有し、例えば、周囲の空気から窒素ガスを取り出す膜式窒素セパレータを備える装置である。不活性ガス供給装置15は、チャンバ1に設けられた供給口から不活性ガスの供給を行い、チャンバ1を所定濃度の不活性ガスで充満させる。
【0037】
チャンバ1の排出口から排出されたヒュームを多く含む不活性ガスはヒュームコレクタ19へと送られ、ヒュームが除去された上でチャンバ1へと返送される。なお、本発明において、不活性ガスとは、材料粉体と実質的に反応しないガスをいい、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等から材料粉体の種類に応じて適当なものが選択される。
【0038】
(三次元造形物の製造方法)
図6〜
図16を用いて、上述した積層造形装置を用いた三次元造形物の製造方法について説明する。なお、
図6〜
図16では、視認性を考慮し
図1〜
図5で示していた積層造形装置の構成要素を一部省略している。
【0039】
図6に示すように、造形テーブル5上に治具プレート7およびベースプレート33を載置した状態で造形テーブル5の高さを適切な位置に調整する。治具プレート7およびベースプレート33は、いずれも鉄または鋼鉄などの金属で構成される。治具プレート7およびベースプレート33は、同一の材質でもよく、または、異なる材質としてもよい。
【0040】
図7は、造形テーブル5上に載置される治具プレート7およびベースプレート33を示す斜視図である。本発明の三次元造形物における製造方法では、
図7に示すように、ベースプレート33を治具プレート7に設置する設置工程が行われる。まず、治具プレート7
の上にベースプレート33が設置される。さらに、当該治具プレート7
がその四隅において固定ボルト35で造形テーブル5に固定される。本実施形態では、治具プレート7およびベースプレート33は略正方形となる平面を備えるが、その例に限定されない。
【0041】
図8は、治具プレート7およびベースプレート33を示す平面図である。
図9は、
図8におけるA−A断面における断面図である。
図8および
図9に示されるように、設置工程において、ベースプレート33は、固定ボルト37によって治具プレート7に対して固定される。
【0042】
ベースプレート33は、ベースプレート
33上に形成される焼結層の変形に伴って変形できるように、その中央部が治具プレート7に対して固定される。治具プレート7は、ベースプレート33を変形可能に比較的容易に造形テーブル5に固定して設置することができるようにするために設けられている。ここで、本実施形態では、ベースプレート33の周縁が上方向へ反る変形、および下方向へ反る変形を許容するように、
図9に示すように治具プレート7の中央部に凸状部34を設け、当該凸状部34とベースプレート33とを固定ボルト37で固定する。
【0043】
ここで、変形するときに発生する強い力が固定している箇所に集中して作用し、あるいは外部からの力を受けることによってベースプレート33の位置がずれてしまうおそれがあるので、ベースプレート33を位置ずれが生じないように固定する必要がある。したがって、ベースプレート33は、ベースプレート33の位置ずれが生じない範囲で可能な限りベースプレート33の中心に近い位置において可能な限り少ない1以上の箇所で治具プレート7に固定するのであれば、この態様に限定されない。
【0044】
図10は、ベースプレート33と固定ボルト37との位置関係を示す。本実施形態では、材料粉体の材質はマルテンサイト系ステンレス鋼であり、ベースプレート33の材質は、機械構造用炭素鋼(S50C)でサイズが150mm×150mm×20mmである。ただし、どの位置を何箇所で固定するかは、ベースプレート33と材料粉体との材質、形状、サイズによって異なるため、この例に限定されない。
【0045】
図10において、ベースプレート33の重心Pから端部Qまでの長さをr1として示す。ここで端部とは、平面視において重心Pから最も離れたベースプレート33の点を意味する。そして、ベースプレート33の重心Pを中心とする円をCRとし、円CRの半径をr2として示す。このとき、r2/r1≦0.70となるように固定ボルト37の位置を定める。r2/r1の値は、具体的には例えば、0.05、0.10、0.15、0.20、0.25、0.30、0.35、0.40、0.45、0.50、0.55、0.60、0.65、0.70であり、ここで例示した数値のいずれか2つの間の範囲内であってもよい。上記条件を満たす固定ボルト37は1つであってもよいし、複数であってもよい。
【0046】
上記設置工程の後、焼結層形成工程を行う。焼結層形成工程では、造形テーブル5の温度を造形温度T1に設定した状態で、リコート工程と焼結工程とを1回以上繰り返す。
【0047】
図11に示すように、リコート工程において、材料収容部11a内に材料粉体が充填されているリコータヘッド11を、矢印B方向の左側から右側に移動させる。これにより、造形領域
R上に材料粉体
が供給され且つ平坦化されることとなり、材料粉体層8が形成される。
【0048】
次に、焼結工程において、材料粉体層8の照射領域にレーザ光Lを照射することで、当該照射領域を焼結させ、ベースプレート33上に1層目の焼結層81aを形成する。
【0049】
次に、
図12に示すように、造形テーブル5の高さを1層目の焼結層81aの厚さ分下げ、再度、リコート工程と焼結工程とを行う。具体的には、リコータヘッド11を造形領域Rの右側から左側に移動させ、造形領域
R上に材料粉体層8を形成する。そして、材料粉体層8の照射領域にレーザ光Lを照射して焼結させ、ベースプレート33上に2層目の焼結層81bを形成する。
【0050】
このように、焼結層形成工程では、複数の焼結層81a,81b...の形成を繰り返すことによって、焼結体81が形成される。これら順次積層される焼結層同士は、互いに強く固着される。
【0051】
図13は、焼結層形成工程完了後において、ベースプレート33上に焼結体81が形成された状態を示す。ここで、造形テーブル5の温度および焼結体81の温度は、造形温度T1となっている。
【0052】
以上の工程を繰り返して予め定められた1つまたは複数の焼結層が形成された後、温度調整装置
90によって冷却工程が行われる。冷却工程では、造形テーブル5の温度を、造形温度T1から、
造形温度T1よりも低い冷却温度T2に変更する。その結果、ベースプレート
33上の焼結体81の上面層の温度もT2まで低下する。
【0053】
図14は、焼結層形成工程および冷却工程における焼結体81の上面層において、ベースプレート
33および焼結体
81の変形を緩和するための温度調整方法の一例を示すグラフである。
図14に示すように、焼結層形成工程では、焼結工程におけるレーザ光
Lの照射により、焼結体81の上面層は非常に高温(約1500℃〜1600℃)となる。その後、レーザ光
Lの照射が完了すると、上面層の温度は造形テーブル
5の温度(すなわち造形温度
T1)と熱平衡となるように低下し、所定の時間経過後に造形温度T1となる。
【0054】
図14に示されるように、造形テーブル5の温度を造形温度T1にしてから所定の時間経過して焼結体81の温度が造形温度T1になった後に、冷却工程では、造形テーブル5の温度を造形温度T1から冷却温度T2に変更して設定するため、それに伴いベースプレート33および焼結体81の温度も低下する。そして焼結体81の上面の温度が冷却温度T2になってから冷却温度T2の状態を所定の期間維持し、所定の期間中の冷却にともなう収縮によって発生する引張応力を相殺するようなマルテンサイト変態にともなう膨張による反力を発生させる。冷却工程完了後、再度造形テーブル5の温度を造形温度T1に設定し、焼結層形成工程が行われる。このようにして、焼結層形成工程と冷却工程とが繰り返される。
【0055】
ここで、上述したように、造形温度T1および冷却温度T2は、以下の関係を満たすように設定される。
T1≧Mf (1)
T1>T2 (2)
T2≦Ms (3)
このとき、材料粉体としてマルテンサイト変態が生じる金属材料を用いているため、マルテンサイト変態開始温度Msからマルテンサイト変態終了温度Mfの範囲で急冷される際に焼結体81の上面層ではマルテンサイト変態が発生し、マルテンサイト変態にともなって体積が膨張する。これにより、上面層の冷却による収縮に起因する引張応力を軽減することができる。ここで、変態量(=膨張量)は、造形温度T1と冷却温度T2との温度差に依存する。理論的に、冷却時の造形温度T1と冷却温度T2との温度差が大きいほど膨張量は多くなる。
【0056】
図15は、冷却工程実施後のベースプレート33上の焼結体81を示す図である。
図15Aに示す例では、ベースプレート33は周端が上方に反るように変形している。冷却工程において、上面層はマルテンサイト変態の進行による体積膨張とともに、冷却による収縮が発生する。そして、冷却による収縮量がマルテンサイト変態による
体積膨張量を上回ると、
図15Aに示すように焼結体81の上面層は収縮し、それに伴いベースプレート33も周端が上方に反るように変形する。
【0057】
それに対して、
図15Bに示す例では、ベースプレート33は周端が下方に反るように変形している。冷却工程において、マルテンサイト変態の進行による
体積膨張量が冷却による収縮量を上回ると、
図15Bに示すように、焼結体81の上面層は膨張し、それに伴いベースプレート33も周端が下方に反るように変形する。
【0058】
このように、マルテンサイト変態による体積膨張は、焼結層の体積および形状、冷却時の温度差などにより変化するため、収縮を抑制するための最適な温度設定を予測することは難しく、作業者が初期に設定した造形温度T1と冷却温度T2で温度調整すると、しばしば、冷却工程後に焼結体81およびベースプレート33にこのような反りが発生する。以下の説明では、
図15Aのようにベースプレート33の周端が上方に反るような変形を「正反り方向の変形」、
図15Bのようにベースプレート33の周端が下方に反るような変形を「逆反り方向の変形」とも記載する。
【0059】
本実施形態では、焼結層形成工程と冷却工程とを繰り返すことによる繰り返し工程において、少なくとも1回の反り測定工程を実施する。反り測定工程では、焼結層の反り、又は焼結層の変形に伴って変形するベースプレート
33のような焼結体
81と結合して一体化している部位の反りを測定する。
【0060】
本実施形態における反り測定工程では、冷却工程の終盤にベースプレート33の反りの大きさを、正反り方向への変形量を正の値とし、逆反り方向への変形量を負の値として測定する。測定方法としては、冷却工程実施前のベースプレート33について基準面(例えば、底面)を設定し、冷却工程実施後にベースプレート33の底面端部の基準面からの変位量を測定しても良い。または、ベースプレート33の基準面(例えば、底面)の冷却工程の前後における曲率の変化を測定しても良い。より具体的には、例えば、加工ヘッド57にタッチプローブあるいはポイントマスタのような測定子を取り付けておき、予め設定されているプログラムに従って測定子を予め決められている所定の位置まで移動させ、ベースプレート33の上面に当接させて測定データを取得し、冷却工程の実施後に発生した反り量を得て自動的に温度調整をするようにすることができる。
【0061】
反り測定工程実施後、測定された反りの大きさに応じて反り量が小さくなる方向に前記造形温度T1と前記冷却温度T2との差を変化させて、焼結層形成工程および冷却工程を繰り返す。本実施形態では、測定した反りの大きさと予め定められた閾値とを比較する。測定した反りの大きさが当該閾値より大きい場合には、造形温度T1を上昇させて、後続の焼結層形成工程を行う。また、反りの大きさが当該閾値より小さい場合には、造形温度T1を低下させて、後続の焼結層形成工程を行う。ここで、測定した反りの大きさが大きいほどT1をより上昇させ、測定した反りの大きさが小さいほどT1をより低下させるのが好ましい。
【0062】
ここで、閾値はゼロ(
すなわち、反り量がゼロ)としてもよいし、ゼロを含めるように特定の負の値から特定の正の値までの範囲をもって規定してもよい。
【0063】
図16Aに、反りの大きさが閾値より大きい場合(すなわち、正反り方向の変形)の上面層の温度変化を示す。このように、造形温度T1を反り測定工程実施前のt1aより高いt1bに設定することにより、反り測定工程実施後の冷却工程における造形温度と冷却温度との温度変化の差が大きくなり、マルテンサイト変態量を増加させることが可能となる。その結果、焼結体81の上面層の体積膨張量が多くなり、正反り方向の変形を小さくすることが可能となる。
【0064】
図16Bに、反りの大きさが閾値より小さい場合(すなわち、逆反り方向の変形)の上面層の温度変化を示す。このように、造形温度T1を反り測定工程実施前のt1aより低いt1cに設定することにより、冷却工程における温度変化の差が小さくなり、マルテンサイト変態量を減少
させることが可能となる。その結果、焼結体81の上面層の体積膨張量が少なくなり、逆反り方向の変形を小さくすることが可能となる。
【0065】
反りの大きさが閾値と一致する場合(または閾値の範囲内の場合)は、マルテンサイト変態にともなう体積膨張による変形と、冷却にともなう収縮による変形とが所望の均衡をしていると考えられる。この場合、造形温度T1を変化させることなく、焼結層形成工程および冷却工程を繰り返す。造形温度T1のみを変更する実施形態によると、焼結工程後に造形温度T1まで温度を低下させる時間が不必要に長くならないようにできるとともに、冷却温度T2を積層造形装置の周囲の環境温度に合わせたまま一定にしておくことができるので、その後の焼結体
81の継続的な変形と積層造形装置の変位を抑制する上で有効である。
【0066】
以上のようにして、本実施形態では、焼結層の冷却に伴って発生する焼結層の収縮または膨張などの変形に伴って変形するベースプレート33の反りの量に基づいて、冷却工程における温度設定を行うため、マルテンサイト変態による膨張量を制御することが可能となり、冷却による収縮を抑制した形で三次元造形物を形成することが可能となる。
<他の実施の形態>
【0067】
なお、本開示の技術的思想の適用範囲は、上記実施形態に限定されない。たとえば、ベースプレート
33の固定方法は、中央部に限定されない。焼結体81の変形に伴い、ベースプレート33が変形するような形態であればよく、たとえば、中心線上を固定するような形態でもよい。すでに言及されているが、ベースプレート33と焼結体81とを含む三次元造形物の全体に作用する応力が解放されるように変形を許容しながら、ベースプレート33が位置決めされている位置から移動してずれないようにベースプレート33が固定されていることが重要である。
【0068】
本発明の三次元造形物の製造方法においては、ベースプレート33を用いずに、造形テーブル5上に直接材料粉体を供給し、焼結層を形成してもよい。ただし、造形テーブル5から焼結層が移動してずれないように支持する手段を設ける必要がある。この場合、ベースプレート33ではなく、焼結体81の反りの大きさを測定することにより、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。あるいは、本発明の三次元造形物の製造方法においては、例えば、測定のためのダミーの焼結体を形成し、ベースプレート33または焼結体81以外の物体で反り量を測定するように変形することができる。
【0069】
また、上記実施形態では反り測定工程で測定した反りの大きさに基づいて、造形温度T1のみを変更しているが、冷却温度T2のみを変更するようにしてもよい。冷却温度T2のみを変更するようにした場合は、冷却温度T2を積層造形装置の環境温度の変化に合わせて設定できる点で有効である。また、冷却温度T2を20℃から25℃程度の常温の環境温度よりも低い温度に設定することができ、三次元造形物を常温よりも低温の環境で保管するときに、残留オーステナイト相のマルテンサイト変態にともなう三次元造形物の継続的な変形をより小さく抑えることができる点で有益である。または、造形温度T1と冷却温度T2との両方の設定温度を変更するようにしてしてもよい。造形温度T1と冷却温度T2を同時に変更するようにした場合は、造形温度T1と冷却温度T2の何れか一方の設定温度のみを変更する場合における利点を所要の範囲内で選択的に得ることができる利点がある。
【0070】
また、反り測定工程は、焼結層形成工程と冷却工程とを繰り返す中で1回以上であればよい。すなわち、最初の冷却工程の完了後に実施してもよく、または、冷却工程が完了するたびに実施してもよい。とりわけ、1回目の反り測定工程において、反り量が予め定められた所定の許容範囲量に収まっていて、しかもその後に反り量の変動が殆ど生じないことがわかっている積層造形の形態である場合は、それ以上反り測定工程を実施する必要がないと言える。ただし、反り測定工程の頻度を増やすほど、より正確にマルテンサイト変態による膨張量を制御することが可能であることに変わりはない。
【0071】
具体的には、反り測定工程を繰り返して造形温度T1の上昇、および低下を繰り返すことにより、造形温度T1は最適な温度に収束していく。ここで、反り測定工程をより具体的にどのように行うかについては、例えば、予め反り測定工程を造形プログラムの中にプログラムしておき、自動的に決められたタイミングで反り測定工程を実施するようにしておくことができる。あるいは、反り量の許容範囲量または造形温度T1の温度変化量を予め定めておき、所定の層数の焼結層を形成する毎に反り測定工程を実施し、反り測定工程で測定される反り量が予め定められた許容範囲量よりも小さくなった場合、または、造形温度T1の温度変化量が予め定められた許容範囲量よりも小さくなった場合に、それ以降の反り測定工程を行う頻度を減らしてもよく、または、その後の反り測定工程を行わないようにしてもよい。
【0072】
また、上記実施形態では、冷却工程の終盤において反り測定工程を実施しているが、この態様に限定されない。たとえば、冷却工程において上面層の温度が冷却温度T2となったときに、反り測定工程を実施するようにしてもよく、あるいは、冷却工程の期間中に継続して反りを測定し続けておき、反り量が0になったときに冷却工程を終了するように反り測定工程を実施することもできる。
【0073】
また、本実施形態のように切削装置50を備える積層造形装置においては、所定数の焼結層を形成する度に、焼結層の端面に対して、スピンドルヘッド60に装着された回転切削工具によって切削加工を行う切削工程を実施してもよい。
【0074】
また、温度調整装置として、焼結体81の上面層をその上方側から加熱する加熱器を用いてもよい。この場合、温度調整装置として例えばハロゲンランプ等を用いることができる。さらに、温度調整装置として、上面層に対しチャンバ1に充満される不活性ガス等と同種の冷却気体を吹き付ける送風機、またはペルチェ素子等によって冷却された冷却板を上面層に接触させる冷却器を備えるように構成してもよい。このような温度調整装置によれば、直接上面層を造形温度
T1および冷却温度
T2に温度調整することができ、多数層の焼結層を形成した後でも迅速に上面層の温度調節を行うことができる。
【解決手段】焼結層形成工程では、造形温度T1において、リコート工程と焼結工程とを1回以上繰り返すことによって焼結層を形成し、その後の冷却工程では、焼結層を冷却温度T2にまで冷却し、焼結層のマルテンサイト変態開始温度をMsおよび前記焼結層のマルテンサイト変態終了温度をMfとすると、下記式(1)から式(3)、式(1):T1≧Mf、(2)式:T1>T2、(3)式:T2≦Ms、の関係を全て満たし、繰り返し工程において少なくとも1回の反り測定工程を備え、反り測定工程では、焼結層の反り、又は焼結層の変形に伴って変形する部位の反りを測定し、反りの大きさに応じて前記造形温度T1と前記冷却温度T2との差を変化させて継続する製造方法。