(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6564120
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】X線管制御装置、X線発生装置及びX線管制御方法
(51)【国際特許分類】
H05G 1/56 20060101AFI20190808BHJP
【FI】
H05G1/56 K
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2018-212913(P2018-212913)
(22)【出願日】2018年11月13日
【審査請求日】2018年11月16日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000103976
【氏名又は名称】株式会社オリジン
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】射越 浩幸
【審査官】
安田 明央
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−317996(JP,A)
【文献】
特開2017−107055(JP,A)
【文献】
特開2014−107158(JP,A)
【文献】
国際公開第2018/078676(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05G 1/00−2/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線管のグリッド電圧を制御する信号光を発する光源と、
前記光源からの信号光を受光する受光器と、
前記X線管のグリッドに印加する電圧を制御するグリッド制御回路と、
前記光源、前記受光器及び前記グリッド制御回路を収容する筐体と、
前記光源、前記受光器及び前記グリッド制御回路の間隙を埋める絶縁媒体と、
を備え、
前記グリッド制御回路は、前記X線管のアノードに接続されている昇圧回路と独立に設けられ、
前記光源は、接地側に接続され、
前記受光器は、前記グリッド制御回路と電気的に接続され、受光した信号光に応じた電気信号を前記グリッド制御回路に出力し、
前記グリッド制御回路は、トランスを介して接地側と接続され、前記受光器から出力された電気信号に従ってX線の放射のON/OFFを切り替える、
X線管制御装置。
【請求項2】
前記X線管のカソード、前記X線管のアノードに接続されている昇圧回路、及び前記グリッド制御回路は、トランスを介して前記筐体の外部と接続され、
前記光源、前記受光器、前記グリッド制御回路、前記昇圧回路、及び前記トランスの間隙が、前記絶縁媒体で埋められている、
請求項1に記載のX線管制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の前記筐体内に、前記X線管がさらに配置され、前記X線管の放射したX線を前記筐体外に出力する、
X線発生装置。
【請求項4】
光源、受光器及びグリッド制御回路が筐体に収容され、前記光源、前記受光器及び前記グリッド制御回路の間隙が絶縁媒体で埋められているX線管制御装置が実行するX線管制御方法であって、
前記光源がX線管のグリッド電圧を制御する信号光を発し、前記受光器が前記絶縁媒体を介して前記光源からの信号光を受光する手順と、
前記受光器が前記絶縁媒体を介して前記光源からの信号光を受光したことを契機に、前記グリッド制御回路が、X線管のグリッドに印加する電圧を制御する手順と、
を実行するX線管制御方法であって、
前記グリッド制御回路は、前記X線管のアノードに接続されている昇圧回路と独立に設けられ、
前記光源は、接地側に接続され、
前記受光器は、前記グリッド制御回路と電気的に接続され、受光した信号光に応じた電気信号を前記グリッド制御回路に出力し、
前記グリッド制御回路は、トランスを介して接地側と接続され、前記受光器から出力された電気信号に従ってX線の放射のON/OFFを切り替える、
X線管制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、グリッド付きX線管からのX線の放射を制御するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
X線管から放射されるX線のON/OFFを、X線管内のカソードとアノード間に配置されたグリッドを用いて制御するグリッド付きX線管が用いられている。グリッド付きX線管を制御するX線管制御装置において、カソード及びグリッドは高電位にフローティングされている。このため、グリッドへの制御信号の伝送には、絶縁された信号を伝送していた。特許文献1では、絶縁された信号を伝送するため、パルストランスを用いていた。
【0003】
パルストランスはそれ自体に重量と容積がある。このため、パルストランスを用いたグリッド付きX線管では、X線管制御装置の小型化が困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3922524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、グリッド付きX線管を制御するX線管制御装置の小型化を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のX線管制御装置は、
X線管のグリッド電圧を制御する信号光を発する光源と、
前記光源からの信号光を受光する受光器と、
前記受光器の受光した信号光に従って、前記X線管のグリッドに印加する電圧を制御するグリッド制御回路と、
前記光源、前記受光器及び前記グリッド制御回路を収容する筐体と、
前記光源、前記受光器及び前記グリッド制御回路の間隙を埋める絶縁媒体と、
を備える。
【0007】
本開示のX線発生装置は、
本開示に係る前記筐体内に、前記X線管がさらに配置され、前記X線管の放射したX線を前記筐体外に出力する。
【0008】
本開示のX線管制御方法は、
光源、受光器及びグリッド制御回路が筐体に収容され、前記光源、前記受光器及び前記グリッド制御回路の間隙が絶縁媒体で埋められているX線管制御装置が実行するX線管制御方法であって、
前記光源がX線管のグリッド電圧を制御する信号光を発し、前記受光器が前記絶縁媒体を介して前記光源からの信号光を受光する手順と、
前記受光器が前記絶縁媒体を介して前記光源からの信号光を受光したことを契機に、前記グリッド制御回路が、X線管のグリッドに印加する電圧を制御する手順と、
を実行する。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、グリッド付きX線管を制御するX線管制御装置の小型化を可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示に係るX線発生装置の第1の形態例を示す概略構成図である。
【
図2】本開示に係るX線発生装置の第2の形態例を示す概略構成図である。
【
図3】本開示に係るX線発生装置の第3の形態例を示す概略構成図である。
【
図4】本開示に係るX線発生装置の第4の形態例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本開示は、以下に示す実施形態に限定されるものではない。これらの実施の例は例示に過ぎず、本開示は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0012】
図1に、本実施形態に係るX線発生装置の第1の形態例を示す。本実施形態に係るX線発生装置は、グリッド13gが高電位にフローティングされているグリッド付きのX線管13と、これを制御するX線管制御装置と、を備える。X線管13には、カソード13c、アノード13a、グリッド13gが備わる。
【0013】
本実施形態に係るX線管制御装置は、インバータ回路18、昇圧回路14S、グリッド制御回路16C、を備える。本実施形態では、グリッド制御回路16Cとグリッド用絶縁トランス16Tの間に整流回路16Rが備わっている例を示す。
図3に示すように、本開示は、整流回路16Rを含まない形態を含む。
【0014】
昇圧回路14Sは高圧トランス14Tを介してインバータ回路18と接続され、整流回路16Rはグリッド用絶縁トランス16Tを介してインバータ回路18と接続され、カソード13cに備わるフィラメントはフィラメントトランス15Tを介してインバータ回路18と接続されている。
【0015】
X線管13、高圧トランス14T、昇圧回路14S、フィラメントトランス15T、グリッド用絶縁トランス16T、整流回路16R、及びグリッド制御回路16Cは、絶縁油12の充填された1つの筐体11に格納されている。絶縁油12は、本開示に係る絶縁媒体として機能する。
【0016】
筐体11は、出射窓11Wを備える。X線管13の放射したX線は、出射窓11Wから筐体外に出力される。このように、本開示に係るX線発生装置は、X線管13、高圧トランス14T、昇圧回路14S、フィラメントトランス15T、グリッド用絶縁トランス16T、整流回路16R、及びグリッド制御回路16Cが1つにパッケージ化されている。
【0017】
昇圧回路14Sの出力端子T1は、アノード13aに接続されている。昇圧回路14Sの出力端子T2は、フィラメントトランス15Tとカソード13cとの間の接続点P1に接続されている。これにより、昇圧回路14Sで昇圧された電圧がアノード13aに印加される。
【0018】
グリッド制御回路16Cの出力端子T3は、グリッド13gに接続されている。グリッド制御回路16Cの出力端子T4は、フィラメントトランス15Tと接続点P1の間の接続点P2に接続されている。これにより、カソード13cに対してマイナスの電圧が、グリッド制御回路16Cからグリッド13gへ印加される。
【0019】
グリッド制御回路16Cは、グリッド13gへの印加電圧を制御可能な任意の回路である。制御は、例えば、グリッド13gへ印加する電圧のON/OFFであり、開閉器のほか半導体スイッチを用いることができる。この場合、グリッド制御回路16Cは、ONのときにX線管13からのX線の放射を停止可能なカソード13cに対してマイナスの電圧をグリッド13gに印加し、OFFのときにグリッド13gへの電圧の印加を停止する。制御は、グリッド13gへ印加する電圧のON/OFFに限らず、グリッド13gへ印加する電圧を変化させる任意の制御が含まれる。
【0020】
グリッド制御回路16Cは、接地電位に比べて高電位にフローティングされている。このため、グリッド制御回路16Cを制御するためのグリッド信号は、絶縁してグリッド制御回路16Cに伝送する必要がある。
【0021】
そこで、本実施形態に係るX線発生装置は、筐体11の絶縁油12中に、さらに、光源17T、受光器17R、を備える。光源17Tは、接地側に接続され、グリッド信号用の信号光を受光器17Rに向けて出射する。受光器17Rは、高電位側に接続され、絶縁油12を介して信号光を受光する。これにより、本開示は、高圧トランス14T、フィラメントトランス15T、グリッド用絶縁トランス16T、及び光源17Tと受光器17Rとの間を境に、X線管13側をインバータ回路18から完全に絶縁した状態で、グリッド制御回路16Cにグリッド信号を伝送することができる。
【0022】
具体的には、X線管13からX線が放射されていない状態で、受光器17Rが光源17Tから信号光を受光すると、グリッド制御回路16Cがグリッド13gへの電圧の印加をOFFにする。これにより、X線管13からX線が放射される。
【0023】
X線管13からX線が放射されている状態で、受光器17Rが光源17Tから信号光を受光すると、グリッド制御回路16Cがグリッド13gへ電圧の印加をONにする。これにより、X線管13からのX線の放射が停止する。
【0024】
光源17Tの発光波長は、任意であるが、例えば赤外光が例示できる。この場合、光源17Tとして、赤外線LEDを用いることができる。受光器17Rは、信号光を受光可能な任意のデバイスを用いることが可能であり、例えばフォトトランジスタを用いることができる。赤外線LED及びフォトトランジスタは、安価でありかつ絶縁油12中でも安定した動作が可能である。このため、本開示は、安価且つ簡単にグリッド制御回路16Cにグリッド信号を伝送することが出来る。
【0025】
ここで、絶縁油12中の信号伝達用に、光ファイバを用いることが考えられる。しかし、光ファイバは膨潤する可能性があり、これを防ぐためには耐油のための加工を行う必要がある。また光ファイバは絶縁のためにある程度の長さが必要になるため、小型化に適していない問題がある。
【0026】
また、絶縁油12中の信号伝達用に、パルストランスを用いることが考えられる。パルストランスは絶縁空間距離を短くできるが、パルストランス自体が大きく且つ重いため、小型化に適していない問題がある。
【0027】
また、X線の出射の有無の制御方法としては、カソード13cへの給電のON/OFF、アノードのON/OFFも考えられる。しかし、これらの場合、軟X線がON/OFFの際に放射される問題がある。
【0028】
一方、本開示は、絶縁油12を介した空間伝送が可能であるため、絶縁空間距離を短くすることができる。さらに光源17T及び受光器17Rは小さくかつ軽い。このため、光ファイバ及びパルストランスに比べて、格段に小型化及び軽量化が可能である。その上、グリッド13gを用いたX線放射のON/OFFは軟X線が放射されないため、人体への影響が小さく取り扱いも容易である。
【0029】
したがって、本開示は、グリッド付きX線管を制御するX線管制御装置の小型化及び軽量化を容易に可能にすることができる。ここで、本実施形態では、グリッド用絶縁トランス16Tが独立に備わるため、グリッド13gに電圧を予め印加しておき、その後アノード13aに電圧を印加することができる。このため、本実施形態は、アノード13aへの電圧の印加時のX線の放射を防ぐことができる。
【0030】
なお、
図1に示すX線発生装置の第1の形態例では、フィラメントトランス15T、高圧トランス14T、グリッド用絶縁トランス16Tを備え、カソード13c、アノード13aに接続されている昇圧回路14S、及びグリッド制御回路16Cがそれぞれ異なるトランスを介して筐体11の外部と接続されている例を示したが、本開示はこれに限定されない。
【0031】
図2に、本実施形態に係るX線発生装置の第2の形態例を示す。X線発生装置の第2の形態例では、グリッド用絶縁トランス16Tが高圧トランス14Tに接続されている。このように、本開示では、筐体11に格納されている回路が共通のトランスを介して接続されていてもよい。このように、部品を共通化して部品点数を減らし、X線管制御装置及びX線発生装置の小型化及び軽量化を更に行ってもよい。なお、
図4に示すように、本開示は、整流回路16Rを含まない形態を含む。
【0032】
さらに本開示では、X線管13から放射された光が筐体11内で散乱された迷光が受光器17Rに入射する可能性がある。そこで、本開示では、受光器17Rに入射する迷光によるグリッド制御回路16Cの誤動作を防ぐため、受光器17Rは、信号光と迷光を識別可能であることが好ましい。例えば、信号光が予め定められた波長若しくはパルス波形又はこれらの組合せを有し、受光器17Rがこれを識別する。
【0033】
また、本開示では、光源17T及び受光器17Rの周囲が、受光器17Rへの光の入射を防ぐ部材で覆われていることが好ましい。これにより、X線管13から放射された光が筐体11内で散乱された迷光が受光器17Rに入射されることによるグリッド制御回路16Cの誤動作を未然に防止することができる。
【0034】
また、絶縁油12は、絶縁性を有しかつ光源17Tからの信号光を透過可能な任意の物質を用いることができる。そのような物質としては、光源17Tからの信号光を透過可能な樹脂が例示できる。樹脂を採用することで、X線管制御装置やX線発生装置の軽量化が可能になるとともに、筐体11内での各構成を安定に保持することが可能になる。このため、本開示は、X線管制御装置やX線発生装置の取り扱いや流通が非常に容易になる。
【0035】
また、絶縁媒体として用いられる絶縁油12や樹脂は、光源17T及び受光器17Rの間の第1の領域とそれ以外の領域とで、同じであってもよいが、異なっていてもよい。例えば、第1の領域では光源17Tからの信号光を透過する媒体を用い、第1の領域の周囲では光源17Tからの信号光を吸収する部材を用いる。これにより、筐体11内での迷光の受光器17Rへの入射を防ぐことができる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本開示はX線放射装置に用いることができるため、医療機器産業に適用することができる。
【符号の説明】
【0037】
11:筐体
11W:出射窓
12:絶縁油
13:X線管
13c:カソード
13a:アノード
13g:グリッド
14T:高圧トランス
14S:昇圧回路
15T:フィラメントトランス
16T:グリッド用絶縁トランス
16R:整流回路
16C:グリッド制御回路
17R:受光器
17T:光源
18:インバータ回路
【要約】
【課題】本開示は、グリッド付きX線管を制御するX線管制御装置の小型化を可能にすることを目的とする。
【解決手段】本開示は、X線管(13)のグリッド電圧を制御する信号光を発する光源(17T)と、光源(17T)からの信号光を受光する受光器(17R)と、受光器(17R)の受光した信号光に従って、X線管のグリッド(13g)に印加する電圧を制御するグリッド制御回路(16C)と、光源(17T)、受光器(17R)及びグリッド制御回路(16C)を収容する筐体(11)と、光源(17T)、受光器(17R)及びグリッド制御回路(16C)の間隙を埋める絶縁媒体(12)と、を備える、X線管制御装置である。
【選択図】
図1