(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態における水素エネルギーシステム、水素エネルギーシステムの制御方法、及びプログラムについて説明する。
【0012】
(一実施形態)
一実施形態に係る水素エネルギーシステムは、時系列な物理量毎に優先度を設定することにより、より制御に適した時系列な計画値を取得しようとしたものである。より詳しく、以下に説明する。
【0013】
まず、
図1に基づき、第1実施形態に係る水素エネルギーシステム1の全体構成を説明する。
図1は、第1実施形態に係る水素エネルギーシステム1の構成を示すブロック図である。この
図1に示すように、本実施形態に係る水素エネルギーシステム1は、複数のエネルギー網2、4、6、8、10、12とエネルギーの授受が可能なシステムであり、水素エネルギー制御装置100と、水素製造装置102と、蓄電池104と、気体水素タンク106と、気体水素排出装置108と、液化装置110と、液体水素タンク112と、液体水素排出装置114と、気化装置116と、水素発電装置118と、蓄電池120とを備えて構成されている。
【0014】
ここで、複数のエネルギー網2、4、6、8、10、12について説明する。この複数のエネルギー網2、4、6、8、10、12は、自然エネルギー電力網2と、混成電力網4と、気体水素流通網6と、液体水素流通網8と、高温温水網10と、低温温水網12とで構成される。
【0015】
自然エネルギー電力網2は、自然エネルギー由来の発電設備のみが発電所として接続された電力網である。すなわち、太陽光を用いた太陽光発電装置P2(PV:Photovoltaics)、及び風力を用いて発電する風力発電装置W2などから電力を供給される電力網である。この自然エネルギー電力網2は、化石燃料などの燃料が不要であるが、その発電量は天候や風力などの環境の影響を受けるため不安定であり、発電出力を調整することが難しい。
【0016】
混成電力網4は、自然エネルギー由来の発電設備P2と化石燃料由来の発電設備F2が発電所として接続された電力網である。化石燃料由来の発電設備F2の発電量は安定しており、自然エネルギー由来の発電設備P2の発電量の変動は、化石燃料由来の発電設備F2の発電量で補われる。このため、混成電力網4の方が自然エネルギー電力網2よりも電力供給をより安定して行うことが可能である。一方で、混成電力網4は、化石燃料由来の発電設備F2により発電を行うため、二酸化炭素の排出量がより多くなる。
【0017】
気体水素流通網6は、水素を気体のまま輸送して、水素需要に対して供給する流通網であり、液体水素流通網8は、水素を液体として輸送して、水素需要に対して供給する流通網である。また、高温温水網10は、高温温水需要に対して、高温の温水を供給する水路網であり、低温温水網12は、低温温水需要に対して、低温の温水を供給する水路網である。
【0018】
水素エネルギー制御装置100は、水素製造に関する装置の制御を行う。また、水素エネルギー制御装置100は、時系列な複数の物理量と、それぞれの優先度とに基づき、これらの時系列な複数の物理量の内の少なくとも一つに対応する物理量の時系列な計画値を得ることが可能である。すなわち、水素エネルギー制御装置100は、各装置に対応する計画値に従い、水素製造装置102と、気体水素タンク106と、気体水素排出装置108と、液化装置110と、液体水素タンク112と、液体水素排出装置114と、気化装置116と、水素発電装置118とを制御する。より詳細な構成に関しては、後述する。
【0019】
水素製造装置102は、電気と水から、水電解により水素を製造する。すなわち、この水素製造装置102は、自然エネルギー電力網2、及び混成電力網4の少なくともいずれかから供給された電力を用いて、水の電気分解により水素を製造し、この製造した水素を気体水素タンク106に蓄える。水素製造装置102は、例えば、アルカリ性の溶液に電流を流すことにより、水素と酸素とを製造する電気水分解装置である。すなわち、水素製造装置102は、水素配管を介して、生成した水素を気体水素タンク106に蓄える。より詳細には、水素製造装置102は、水素エネルギー制御装置100と接続され、水素エネルギー制御装置100の制御に従い水の電気分解を行い、水素を製造する。このように、水素製造装置102は、自然エネルギー電力網2、及び混成電力網4のいずれからも電力供給を受けることが可能である。
【0020】
蓄電池104は、水素製造装置102への電力供給が不足する場合に、水素製造装置102への供給電力を補う。これにより、水素製造装置102の水素製造をより安定的に行うことが可能である。
【0021】
気体水素タンク106は、水素製造装置102により製造された気体の水素及び、気体水素流通網6から供給された気体の水素を貯蔵する。この気体水素タンク106は、水素製造装置102と、気体水素排出装置108と、液化装置110とに配管を介して接続されている。より詳細には、気体水素タンク106は、水素エネルギー制御装置100と接続され、水素エネルギー制御装置100の制御に従い、水素製造装置102、気化装置116及び気体水素流通網6の少なくともいずれかから供給された水素を、気体水素排出装置108と、液化装置110とに供給する。これから分かる様に、気体水素タンク106に蓄えられる気体水素の量は、水素製造装置102、気化装置116及び気体水素流通網6から供給される気体水素の量と、液化装置110及び水素発電装置118に供給する気体水素量との差に応じて変動する。
【0022】
気体水素排出装置108は、気体水素タンク106から供給された気体水素を気体水素流通網6に供給する。より詳細には、気体水素排出装置108は、水素エネルギー制御装置100と接続され、水素エネルギー制御装置100の制御に従い、気体水素タンク106から供給された水素を、気体水素流通網6に供給する。なお、気体水素排出装置108は、気体水素タンク106と一体に構成してもよい。これらから分かる様に、気体水素タンク106、気体水素排出装置108、及び気体水素流通網6は、気体水素の循環系を構成している。
【0023】
液化装置110は、例えば圧縮機であり、気体水素タンク106から供給された気体水素を液体水素に変換する。より詳細には、液化装置110は、水素エネルギー制御装置100と接続され、水素エネルギー制御装置100の制御に従い、気体水素タンク106から供給された水素を液体水素に変換し、液体水素タンク112に供給する。なお、液化装置110は、気体水素の循環系から得られた気体水素を、液体水素として、後述する液体水素の循環系に供給している。
【0024】
液体水素タンク112は、液化装置110及び液体水素流通網8の少なくともいずれかから供給された液体水素を貯蔵する。より詳細には、液体水素タンク112は、水素エネルギー制御装置100と接続され、水素エネルギー制御装置100の制御に従い、液化装置110及び液体水素流通網8の少なくともいずれかから供給された液体水素を蓄えると共に、液体水素排出装置114に液体水素を供給する。
【0025】
液体水素排出装置114は、液体水素タンク112から供給された液体水素を液体水素流通網8、及び気化装置116に供給する。より詳細には、液体水素排出装置114は、水素エネルギー制御装置100と接続され、水素エネルギー制御装置100の制御に従い、液体水素タンク112から供給された水素を液体水素流通網8、及び気化装置116に供給する。なお、液体水素排出装置114は、液体水素タンク112と一体的に構成されてもよい。これらから分かる様に、液体水素タンク112、液体水素排出装置114、及び液体水素流通網8は、液体水素の循環系を構成している。
【0026】
気化装置116は、液体水素排出装置114から供給された液体水素を気体の水素に変換する。より詳細には、気化装置116は、水素エネルギー制御装置100と接続され、水素エネルギー制御装置100の制御に従い、液体水素排出装置114から供給された液体水素を気体の水素に変換し、気体水素タンク106に供給する。このように、気化装置116は、液体水素の循環系から得られた液体水素を、気体水素として、気体水素の循環系に供給している。
【0027】
水素発電装置118は、気体水素タンク106から供給される水素を用いて、電力と、熱とを生成する。ここでの熱は、例えば温水として供給される。水素発電装置118は、高温タイプの燃料電池118aと、低温タイプの燃料電池118bとを、備えて構成されている。すなわち、水素発電装置118は、水素エネルギー制御装置100と接続され、水素エネルギー制御装置100の制御に従い、酸素と、気体水素タンク106から供給される水素とを用いて電気を発電すると共に、熱を生成する。酸素は空気中の酸素を利用してもよいし、水素製造装置102が水素製造に伴い出力する酸素を酸素タンクに蓄積したものを使用してもよい。また、高温タイプの燃料電池118aは、例えば固体酸化物形型燃料電池であり、高温タイプの燃料電池118aにより製造される例えば750〜1000℃の高温温水は、水素エネルギー制御装置100の制御に従い、高温温水網10に供給される。一方で、低温タイプの燃料電池118bは、例えば固体高分子型燃料電池であり、低温タイプの燃料電池118bにより製造される例えば40〜90℃の低温温水は、水素エネルギー制御装置100の制御に従い、低温温水網12に供給される。なお、これらの温度域は、他の温度域を用いて定義してもよい。また、中温や超高音などの温度域があってもよい。
【0028】
蓄電池120は、水素発電装置118の発電電力が不足する場合に、電力網2、4への供給電力を補う。これにより、水素発電装置118の電力供給をより安定的に行うことが可能である。なお、電力網2、4、水素流通網6、8、温水網10、12に対して、水素エネルギーシステム1以外の需要家はいてもよいし、いなくても良い。
【0029】
図2は、水素エネルギー制御装置100の構成を示すブロック図で有り、この
図2に基づき、水素エネルギー制御装置100の詳細な構成を説明する。水素エネルギー制御装置100は、予め定められた複数の物理量毎に定められた優先度に従い、予め定められた複数の物理量毎に対応する時系列な計画値を生成する。すなわち、この水素エネルギー制御装置100は、例えばコンピュータであり、記憶部122と、取得部124と、設定部126と、計画部128と、制御部130とを、備えて構成されている。
【0030】
ここでは、水素製造に関する時系列な複数の物理量が予め定められている場合について説明する。また、時系列な物理量の時間範囲は、例えば現時点から24時間後まである。つまり、水素エネルギー制御装置100は、例えば現時点から24時間後までの、予め定められた複数の物理量毎に対応する時系列な計画値を生成する。
【0031】
記憶部122は、水素エネルギー制御装置100にて行われる各処理機能をコンピュータによって実行可能なプログラム形態で、記憶している。また、記憶部122は、磁気的もしくは光学的記録媒体または半導体メモリなどの、読み取り可能な記録媒体を含んだ構成を有している。
【0032】
取得部124は、水素製造に関する時系列な物理量を複数取得する。例えば、装置毎に予め定められた時系列な物理量を取得する。すなわち、装置に供給される予め定められた時系列な需要量、及び装置が供給する予め定められた時系列な供給量を装置毎に取得する。ここでの需要量は、例えば消費される電力量、熱量、水素量などである。また、供給量は、例えば生成される電力量、熱量、水素量などである。
【0033】
設定部126は、予め定められた時系列な物理量毎に優先度を設定する。この設定部126は、電力網、温水網、水素流通網がそれぞれ複数種混在する場合に、それぞれを優先する度合いを意味する基本優先度を設定する。本実施形態では、自然エネルギー電力網2及び、混成電力網4の第1組み合わせ、気体水素流通網6、及び液体水素流通網8の第2組み合わせ、高温温水網10、及び低温温水網12の第3組み合わせそれぞれに基本優先度を設定する。
【0034】
例えば、自然エネルギー電力網2から電力供給を受ける場合の自然エネルギー電力需要量と、混成電力網4から電力供給を受ける場合の混成電力需要量のそれぞれに基本優先度が設定される。この基本優先度には、例えば需要量の割合を示す0.6、0.4などが割り振られる。これにより、水素エネルギーシステム1が対応できる電力のうち、60%を自然エネルギー電力網2に対して割り振り、40%を混成電力網4に割り振る。すなわち、水素製造装置102は、供給を受ける電力の内、自然エネルギー電力網2から60%の電力の供給を受け、混成電力網4から40%の電力の供給を受けるように調整される。
【0035】
同様に、自然エネルギー電力網2に供給する自然エネルギー電力供給量と、混成電力網4に供給する混成電力供給量のそれぞれに基本優先度を設定する。
【0036】
同様に、高温温水網10へ供給する高温温水供給量と、低温温水網12へ供給する低温温水量と、に基本優先度を設定する。同様に、気体水素流通網6、及び液体水素流通網8からそれぞれ供給される気体水素需要量、及び液体水素需要量のそれぞれに基本優先度を設定し、気体水素流通網6、及び液体水素流通網8のそれぞれに供給する気体水素供給量、及び液体水素供給量のそれぞれに基本優先度を設定する。なお、ここでの基本優先度には、割合を示す0.0、1.0を割り振ってもよい。この場合、単一種のエネルギー網が優先的に選択される。
【0037】
また、設定部126は、装置毎の予め定められた時系列な需要量、及び供給量に稼働優先度を設定する。例えば水素製造装置102の時系列な需要量である電力需要量、及び時系列な供給量である気体水素供給量に稼働優先度を設定する。水素製造装置102では、水素製造装置102に供給される電力需要量に一定の係数K1を乗算した値に対応する気体水素供給量を製造する。ところが、ここでの予め定められた時系列な電力需要量は、自然エネルギー電力需要量と、混成電力需要量との加算値である。一方で、予め定められた気体水素供給量は、自然エネルギー電力需要量及び混成電力需要量とは独立に、水素エネルギーシステム1内で設定された気体水素供給量である。このため、予め定められた時系列な電力需要量に係数K1を乗算して得られる気体水素供給量と、予め定められた気体水素供給量との間に差が生じてしまう。このような差が生じた場合に、どちらをどの程度優先するかを定めた割合が、稼働優先度である。ここでの稼働優先度は、操作者により設定される。
【0038】
また、基本優先度として、1番目、2番目などの順番を設定してもよい。例えば、自然エネルギー電力網2に1番目、混成電力網4に2番目を設定する。この場合、自然エネルギー電力需要量をまず受電し、不足する電力需要量を混成電力需要量から受電する。このように、設定部126は、基本優先度として、順番を設定してもよい。
【0039】
計画部128は、時系列な複数の物理量と、それぞれの優先度とに基づき、時系列な複数の物理量の内の少なくとも一つに対応する時系列な計画値を得る。すなわち、この計画部128は、相互に関連する複数の時系列な計画値であって、複数の時系列な物理量それぞれに対応する複数の時系列な計画値を、物理量毎の優先度に応じて得るのである。
【0040】
例えば、計画部128は(1)式に示す目的関数Eに基づき計画値を演算する。すなわち、この計画部128は、Eを例えば最小にするように、計画値Saij、Sbijを生成する。ここでの目的関数Eは、単一の物理量が用いられている。ここでは、例えば電力量MWhを用いる。このため、水素量、熱量、などは全て電力量MWhに換算されている。
【数1】
【0041】
ここで、iは計画値を求める装置を示している。例えば、水素製造装置102、気体水素タンク106、気体水素排出装置108、液化装置110、液体水素タンク112、液体水素排出装置114、気化装置116、及び水素発電装置118毎の計画値を求める場合、水素製造装置102、気体水素タンク106、気体水素排出装置108、液化装置110、液体水素タンク112、液体水素排出装置114、気化装置116、及び水素発電装置118のそれぞれに1〜9を割り振る。
【0042】
また、jは、各時間を示している。例えば1時間を基本の時間単位として、24時間分の計画値を生成する場合、jには1〜24が割り振られている。すなわち、0時間後から1時間後までがj=1、1時間後から2時間後までがj=2、2時間後から3時間後までがj=3などである。
【0043】
Aiは、装置iの予め定められた時系列な需要量の稼働優先度を示し、Biは、装置iの予め定められた時系列な供給量の稼働優先度を示している。例えば、A1は水素製造装置102の予め定められた時系列な需要量の稼働優先度を示し、B1は水素製造装置102の予め定められた時系列な供給量の稼働優先度を示す。水素製造装置102の予め定められた時系列な需要量は、複数種の電力網2、4からの電力供給量であり、電力供給量の割合を示す基本優先度に従い、電力網2、4それぞれから電力の供給を受ける。水素製造装置102の予め定められた時系列な供給量は、複数種の水素網6、8への水素供給量と水素発電装置118への水素供給量とを加算した水素供給量である。水素製造装置102は、気体水素タンク106を介して、複数種の水素網6、8へ水素を供給する場合に、水素供給量の割合を示す基本優先度に従い、複数種の水素網6、8それぞれに水素を供給する。
【0044】
同様に、例えば、A2は気体水素タンク106の予め定められた時系列な需要量の稼働優先度を示し、B2は気体水素タンク106の予め定められた時系列な供給量の稼働優先度を示す。気体水素タンク106の場合、気体水素タンク106の需要量は、気体水素タンク106に蓄積される気体水素量を意味し、気体水素タンク106の供給量は、気体水素タンク106から供給される水素量を意味する。
【0045】
また、Paijは装置iのj時間における予め定められた時系列な需要量を示し、Saijは、Paijに対応する計画値を示している。すなわち、Saijは、装置iのj時間における予め定められた時系列な需要量に対する計画値である。同様に、Pbijは装置iのj時間における予め定められた時系列な供給量を示し、Sbijは、Pbijに対応する計画値を示している。すなわち、Sbijは、装置iのj時間における予め定められた時系列な供給量に対する計画値である。
【0046】
さらにまた、計画部128は、記憶部122に保存された制約式に従い計画値Saij、Sbijを求める。例えば、需要量の計画値Saijと、供給量の計画値Sbijとは互いに関連する量である。このため、Sbij=Ki×Saij、又はSbij<Ki×Saijなる制約式であらわすことが可能である。Kiは1未満の係数である。例えば、水素製造装置102の需要量に対する計画値Sa1jである電力需要量と、水素製造装置102の供給量に対する計画値Sb1jである水素供給量とは、上述のようにSb1j=K1×Sa1jなる関係を有する。ここで、K1は単位電力量に対して生成される単位水素量を意味する。
【0047】
また、例えば水素発電装置の需要量に対する計画値Sa9jである水素需要量と、水素発電装置の供給量に対する計画値Sb9jである電力供給量とは、Sb9j<K9×Sa9jなる関係を有する。ここで、K9は、単位水素量に対して生成される単位エネルギー量であり、電力量と熱量との加算値を意味する。
【0048】
このように計画部128は、目的関数Eを最小化するために、制約式を満たす中で、各計画値を調整する。最小化の方法として、混合整数計画問題として厳密解を求めてもよい。或いは、メタヒューリスティックにより準最適解を求めてもよい。また、これらの方法以外の一般的な方法で解を求めてもよい。
【0049】
次に、異なる観点から定めた目的関数の例を説明する。例えば、水素製造装置102が電力網2、4からの需要要求に対して応えられないエネルギーを0以上の連続変数「x_gr_dem_unacc」として表現する。すなわち、自然エネルギー電力需要量、及び混成電力需要量の加算値との差分を連続変数「x_gr_dem_unacc」とする。また、水素発電装置が電力網2、4からの供給要求に対して応えられないエネルギーを0以上の連続変数「x_gr_sup_unacc」として表現する。すなわち、水素発電装置の予め定められた供給水素量との差分を「x_gr_sup_unacc」とする。
【0050】
この場合、水素製造装置102が電力網から別途供給されなければならないエネルギーを0以上の連続変数「x_gr_in_add」として表現し、気体水素タンク106が、気体水素流通網6に与えずに捨ててしまうエネルギーを0以上の連続変数「x_gas_throw」として表現し、液体水素タンク112が、液体水素を液体水素流通網8には与えずに捨ててしまうエネルギーを0以上の連続変数「x_liq_throw」として表現し、それぞれの重み係数を「C_gr_dem_unacc」「C_gr_sup_unacc」「C_gr_in_add」「C_gas_throw」「C_liq_throw」として、目的関数は、以下の(2)式で示すEで表現される。
E=C_gr_dem_unacc×x_gr_dem_unacc + C_gr_sup_unacc×x_gr_sup_unacc +C_gr_in_add×x_gr_in_add + C_gas_throw×x_gas_throw +C_liq_throw×x_liq_throw
(2)式
【0051】
この(2)式で示す目的関数Eを最小化の対象としてもよい。なお、本実施形態では、重み係数が優先度に対応する。このように、目的に応じた目的関数を定めて、解を計画値として求めることが可能である。また、水素エネルギー制御装置100は、装置毎に、関連する物理量を満たすように、時系列な計画値を生成してもよい。なお、優先度である基本優先度及び稼働優先度を決定するための指標として、CO2排出量、事業者優先度、環境上の影響度などを考慮してもよい。
【0052】
制御部130は、計画部128で得られた時系列な計画値に従って、当該計画値に関連する装置を制御する。すなわち、制御部130は、装置毎に得られた計画値に従った制御を行う。このように、制御部130は、計画部128で得た計画値に対応する装置に、計画値に従ったエネルギーが入出力されるよう、制御する。例えば、水素製造装置102に対しては1時間あたりの気体水素製造量Nm
3/hを計画値に合わせて制御し、水素発電装置に対しては1時間あたりの発電量MWhを計画値に合わせて制御する。
【0053】
また、制御部130は、各装置におけるセンシングデータを定期的に取得している。これにより、制御部130は、運転を実施中に、各装置が想定とは異なる状態になっている場合に、運転計画を再度、計画部128に作成させてもよい。例えば、制御部130は、各機器のセンシングデータ毎に予め設けた閾値を超えた場合に、運転計画を再度、計画部128に作成させる。
【0054】
再び(1)式を参照して、制御部130は、例えば、装置iのj時間における予め定められた需要量Paijと、計画値Saijとの差分を、需要量Paijを供給するエネルギー網2、4、6、8、10、12を管理するシステムに送信する。同様に、制御部130は、例えば、装置iのj時間における予め定められた供給量Pbijと、計画値Sbijとの差分を、供給量Pbijの供給を受ける外部のエネルギー網を管理するシステムに送信する。このように、制御部130は、計画部128による運転計画の結果によっては、需給要求に応えられない場合に、各要求元であるエネルギー網を管理するシステムに対して応答を行う。これにより、エネルギー網を管理するシステムは、エネルギーの発生状態を調整可能である。
【0055】
次に
図1、2を参照にしつつ、
図3に基づき、計画部128における計画値の時間変化量に制約を加える場合について説明する。ここでは、上述の(1)式において装置番号i=9の水素製造装置102における計画値Sa1j、Sb1jについて説明する。上述のように、制約条件として、Sb1j=K1×Sa1jなる関係を有する。
【0056】
また、水素製造装置102では、供給される電力量が急峻に増加しても、水素製造の製造が追いつかない。このため、更に、計画値の時間変化量に制約を加える。ここで、(3)式は、水素製造装置102単体に関する目的関数Eを示している。jは1〜6であり、3時間分に相当する。すなわちここでの時間単位は30分である。また、Pa1jは、時系列の需要量、すなわち電力網2、4から供給される予め定められた電力供給量であり、Pb1jは、時系列の供給量、すなわち気体水素タンク106に供給する予め定められた水素供給量であり、A1、B1は稼働優先度である。
【数2】
【0057】
計画部128は、(3)式を最小にする計画値Sa1j、Sb1jを算出する。
【0058】
図3(a)は、水素製造装置102の時系列な需要量Pa1jを示す図であり、
図3(b)は、時系列な需要量Pa1jに対応する時系列な計画値Sa1jを示す図であり、
図3(c)は、水素製造装置102の時系列な供給量Pb1jを示す図であり、
図3(d)は、時系列な供給量Pb1jに対応する時系列な計画値Sb1jを示す図である。
図3(a)、(b)、(c)、(d)内のグラフにおける縦軸は電力量の換算値を示し、横軸は時間を示している。ここでの
図3(b)、(d)は、(3)式の解を求める途中の状態であり、上述の制約条件をまだ満たしていない。
【0059】
また、
図3(b)内で示す3a、bの四角形は、需要量Pa1jと計画値Sa1jの差を示している。同様に、
図3(d)内で示す3c、d、eの四角形は、供給量Pb1jと計画値Sb1jの差を示している。さらにまた。線L2、L4の傾きは、計画値Sa1jの時間変化量を示している。
【0060】
すなわち、本実施形態では、線L2、L4の傾きが、水素製造装置102の製造能力で定まる時間変化量D1以下になるように、計画値Sa1j、Sb1jが演算される。
【0061】
これにより、水素製造装置102の実際の水素製造能力を反映した計画値Sa1jを得ることが可能である。
【0062】
次に
図1、2を参照にしつつ、
図4、5に基づき、設定部126が設定する稼働優先度に確率分布を反映する場合と、計画部128が用いる水素製造装置102の時系列な需要量に確率分布を反映する場合とについて説明する。
【0063】
まず、(3)式で説明した水素製造装置102の時系列な需要量Pa1jに対する稼働優先度A1に確率分布を反映する場合について説明する。
図4は、時間j=1、2、3、4における予め定められた電力供給量における確率分の表を示す図である。
図5は、時間j=1、2、3における水素製造装置102の時系列な需要量Pa1j値と、ばらつきの範囲6a、6b、6cを示す図である。この
図4に示すように、電力網2、4を管理するシステムから送信される予め定められた電力供給量に確率分布が付与されている場合がある。j=1、2、3、4における電力供給量の分散値は、それぞれ2、3、2、1である。換言すると時間j=2の場合に、電力供給量の値が一番ばらつく可能性が高く、変動確率が高い。一方で、時間j=4の場合に、電力供給量の値が一番ばらつく可能性が低く、変動確率が低い。
【0064】
このため、設定部126は、稼働信頼度A1、2、3、4の中において、変動確率が一番低い時間j=4に対応する稼働信頼度A4の値を一番高くし、変動確率が一番高い時間j=2に対応する稼働信頼度A2の値を一番低くする。これにより、変動の生じる可能性の高い電力供給量の影響を低減可能である。
【0065】
次に、(3)式で説明した水素製造装置102の時系列な需要量Pa1jに確率分布を反映する場合について説明する。ここでは、計画部128は、電力供給量の値のばらつきが大きくなるに従い、電力供給量の値を大きくする。すなわち、計画部128は、需要量Pa11、Pa12、Pa13、Pa14の中において、時間j=2に対応する需要量Pa12の値に対する加算値を一番大きくし、時間j=4に対応する需要量Pa14の値に対する加算値を一番小さくする。例えば、需要量Pa11、Pa12、Pa13、Pa14のそれぞれに分散値2、3、2、1を加算する。これにより、時間j=1に対応する需要量Pa11=10+2=12とし、時間j=2に対応する需要量Pa12=5+3=8とし、時間j=3に対応する需要量Pa13=2+2=4とし、時間j=4に対応する需要量Pa14=0+1=1とする。これにより、変動の生じる可能性の高い電力供給量の値を予めより大きくしておくことで、変動が生じた場合にも、計画に即した水素量の供給が可能になる。
【0066】
図6は、水素エネルギーシステム1における画面の一例を示す図であり、この
図6に基づき、計画部128がモニター上に表示する水素エネルギーシステム1の監視画面の一例を説明する。この
図6に示すように、監視画面上では、設定値、各装置への制御指令値、各装置の状態情報が表示される。これにより、システムの稼働に必要な設定値が明確になる。また、運転計画に従って出力されている制御指令値の確認、及びの制御指令値によって各装置がどのような状態にあるかの確認も容易となる。なお、監視画面に表示する設定対象、制御指令対象、状態監視対象はこれら以外を含んでもよく、例えば蓄電池104、120への制御指令値や状態監視を表示してもよい。
【0067】
以上のように本実施形態では、設定部126が、時系列な物理量毎に優先度を設定し、計画部128が、複数の時系列な物理量それぞれに対応する複数の時系列な計画値を物理量毎の優先度に応じて得ることとした。これにより、より制御に適した時系列な計画値を取得可能であり、エネルギー網とより効率的にエネルギーの授受を行うことができる。
【0068】
本実施形態による水素エネルギーシステム1におけるデータ処理方法の少なくとも一部は、ハードウェアで構成してもよいし、ソフトウェアで構成してもよい。ソフトウェアで構成する場合には、データ処理方法の少なくとも一部の機能を実現するプログラムをフレキシブルディスクやCD−ROM等の記録媒体に収納し、コンピュータに読み込ませて実行させてもよい。記録媒体は、磁気ディスクや光ディスク等の着脱可能なものに限定されず、ハードディスク装置やメモリなどの固定型の記録媒体でもよい。また、データ処理方法の少なくとも一部の機能を実現するプログラムを、インターネット等の通信回線(無線通信も含む)を介して頒布してもよい。さらに、同プログラムを暗号化したり、変調をかけたり、圧縮した状態で、インターネット等の有線回線や無線回線を介して、あるいは記録媒体に収納して頒布してもよい。
【0069】
以上、いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例としてのみ提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図したものではない。本明細書で説明した新規な装置、方法及びプログラムは、その他の様々な形態で実施することができる。また、本明細書で説明した装置、方法及びプログラムの形態に対し、発明の要旨を逸脱しない範囲内で、種々の省略、置換、変更を行うことができる。添付の特許請求の範囲およびこれに均等な範囲は、発明の範囲や要旨に含まれるこのような形態や変形例を含むように意図されている。