特許第6564155号(P6564155)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6564155
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/3204 20160101AFI20190808BHJP
【FI】
   F16J15/3204 201
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2019-502825(P2019-502825)
(86)(22)【出願日】2018年7月19日
(86)【国際出願番号】JP2018027190
(87)【国際公開番号】WO2019039152
(87)【国際公開日】20190228
【審査請求日】2019年1月18日
(31)【優先権主張番号】特願2017-161672(P2017-161672)
(32)【優先日】2017年8月24日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504190548
【氏名又は名称】国立大学法人埼玉大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104204
【弁理士】
【氏名又は名称】峯岸 武司
(72)【発明者】
【氏名】本田 重信
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 哲也
(72)【発明者】
【氏名】田所 千治
(72)【発明者】
【氏名】長嶺 拓夫
(72)【発明者】
【氏名】中野 健
【審査官】 羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−264748(JP,A)
【文献】 特開2014−023234(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/203609(WO,A1)
【文献】 実開平03−067763(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/16−15/3296
F16J 15/46−15/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸心を中心に回転する回転軸と、
前記軸心と直交する方向に張り出して前記回転軸の外周を囲む回転面を有して前記回転軸と共に回転する回転部材と、
前記回転軸の外周を囲んで前記回転面に対向して非回転状態に設けられ、前記回転軸の軸方向に付勢力を受けて前記回転面に接触し、前記回転軸が回転することで前記回転面を摺動して前記回転軸に対して相対回転する被接触部を有する固定部材とを備え、
前記被接触部が前記回転面に押し付けられて接触して摺動することで、前記回転軸の軸周を介する密封対象物の漏れまたは外来物の侵入を抑制する密封装置において、
前記固定部材は、前記被接触部の相対回転中心が前記回転軸の回転中心に偏心して配置され、前記被接触部と前記回転面との間に生じる摩擦力によって生じるねじれに抗して前記相対回転中心周りに発揮される復元力の復元方向と非零の所定角度範囲内で交差する方向に前記回転軸から回転駆動力を前記被接触部が受け、前記復元力の復元方向に対して直交する回転駆動成分が前記回転面から前記被接触部に与えられることを特徴とする密封装置。
【請求項2】
前記回転部材は、フランジ面を前記回転面として有して前記回転軸に固定されるスリンガーであり、
前記固定部材は、先端部が前記被接触部として前記フランジ面に接触して摺動する、前記フランジ面に前記先端部を押し付ける弾性力を前記付勢力として発揮するリップ部と、このリップ部を支持する金属環とを有し、
前記リップ部の前記先端部が前記フランジ面に押し付けられて接触して摺動することで、前記回転軸の軸周を介する密封対象物の漏れまたは外来物の侵入を抑制するオイルシールから構成されることを特徴とする請求項1に記載の密封装置。
【請求項3】
前記回転軸は軸封止された封止部を有し、
前記回転部材は、フランジ面を前記回転面として有して前記封止部の近傍の前記回転軸に固定されるスリンガーであり、
前記固定部材は、前記封止部から前記フランジ面に向かって径が広がるスカート状をし、先端部が前記被接触部として前記フランジ面に接触して摺動する、前記フランジ面に前記先端部を押し付ける弾性力を前記付勢力として発揮するリップ部を有し、
前記リップ部の前記先端部が前記フランジ面に押し付けられて接触して摺動することで、前記回転軸の軸周を介する密封対象物の漏れまたは外来物の侵入を前記封止部と共に抑制することを特徴とする請求項1に記載の密封装置。
【請求項4】
前記回転部材は、前記回転軸の軸心に直交する回転環状端面を前記回転面として有して前記回転軸に固定される、剛性を有する回転環を有し、
前記固定部材は、前記回転環状端面に対向する静止環状面を前記被接触部として有して、前記静止環状面が前記回転環状端面に接触して摺動する、剛性を有する固定環を有し、
前記固定環の前記静止環状面を前記回転環の前記回転環状端面に押し付ける弾性力を前記付勢力として発揮する弾性体を備え、
前記固定環の前記静止環状面が前記回転環の前記回転環状端面に押し付けられて接触して摺動することで、前記回転軸の軸周を介する密封対象物の漏れまたは外来物の侵入を抑制するメカニカルシールから構成されることを特徴とする請求項1に記載の密封装置。
【請求項5】
変形可能な弾性を有する胴体部と、この胴体部の一端側に設けられ、ボールスタッドを回転かつ揺動自在に支持するソケットに固定される被固定部と、一端に球形部を有する前記ボールスタッドの軸部および前記ボールスタッドの被取付部に対してそれぞれ摺動自在に前記胴体部の他端側に設けられるシール部とを有するダストカバーを備え、
前記回転軸は前記ボールスタッドであり、
前記回転部材は、被取付面を前記回転面として有して前記ボールスタッドの軸部に固定される前記被取付部であり、
前記固定部材は、前記被取付面に接触するダストリップを前記被接触部として備えて前記シール部に設けられる、弾性を有するシール本体であり、
前記胴体部が発揮する弾性力を前記付勢力として受けて前記ダストリップが前記被取付面に押し付けられて接触し、前記ボールスタッドが回転する際に前記ダストリップが前記被取付面を摺動することで、前記ボールスタッドの軸周を介するボールジョイント部からの密封対象物の漏れまたはボールジョイント部への外来物の侵入を抑制することを特徴とする請求項1に記載の密封装置。
【請求項6】
前記所定角度範囲は、前記回転軸の回転駆動方向が前記復元力の復元方向と成す角度φの絶対値を│φ│としたときに不等式0<│φ│≦90°で示される範囲であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リップ部等の被接触部が回転面に押し付けられて接触して摺動することで、回転軸の軸周を介する密封対象物の漏れまたは外来物の侵入を抑制する密封装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来この種の密封装置としては、例えば特許文献1等に開示されたオイルシールがある。オイルシールは密封流体を装置内に留めると共に、外部から装置内へ外来する異物の侵入を抑制する目的で、多くの機器に使用される機能部品である。オイルシールの中には、同文献に示されるように、回転軸に固定されて回転軸と共に回転する回転面に、ハウジングに固定されて静止した、非回転のリップ部等の被接触部を押し付けて接触させることで、密封を図る構造のものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−57729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の構造をした従来の密封装置では、回転面と被接触部との互いに押し付け合う摺動面において、両者の相対回転によって摩擦抵抗が生じる。この摩擦抵抗の摩擦係数は回転軸の回転数の増加に伴って減少する場合があり、摩擦抵抗が減少する領域において、回転面と被接触部との間にスティック・スリップを生じ、その結果、シールの鳴きを発生させる。この鳴き減少を抑制するには、スティック・スリップの排除が必要である。
【0005】
スティック・スリップを排除するには、被接触部を回転面に押し付ける押し付け荷重を小さくしたり、被接触部のリップ剛性を低減することで、面圧を低減する方策がある。また、摺動面の粗さを最適化したり、摺動部材のコーティングやゴム物性の最適化を図って摺動部材を変更する方策もある。しかし、押し付け荷重や使用部材といったシールの構成要素を変更することは、摩擦特性や、製品寿命、耐潤滑剤特性などのシールの他機能とのバランスを著しく崩すことに繋がる場合も多い。シールの鳴き対策の実際の現場においては、このバランスを見極めるために多くの時間と費用がかかっている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明はこのような課題を解決するためになされたもので、
軸心を中心に回転する回転軸と、軸心と直交する方向に張り出して回転軸の外周を囲む回転面を有して回転軸と共に回転する回転部材と、回転軸の外周を囲んで回転面に対向して非回転状態に設けられ、回転軸の軸方向に付勢力を受けて回転面に接触し、回転軸が回転することで回転面を摺動して回転軸に対して相対回転する被接触部を有する固定部材とを備え、被接触部が回転面に押し付けられて接触して摺動することで、回転軸の軸周を介する密封対象物の漏れまたは外来物の侵入を抑制する密封装置において、
固定部材が、被接触部の相対回転中心が回転軸の回転中心に偏心して配置され、被接触部と回転面との間に生じる摩擦力によって生じるねじれに抗して相対回転中心周りに発揮される復元力の復元方向と非零の所定角度範囲内で交差する方向に回転軸から回転駆動力を被接触部が受け、復元力の復元方向に対して直交する回転駆動成分が回転面から被接触部に与えられることを特徴とする。
【0007】
本構成によれば、復元力の復元方向に対して直交する方向の横滑り駆動成分が回転部材の回転面から固定部材の被接触部に与えられることで、被接触部に作用する摩擦力の復元方向成分と復元力とが自律的に安定して平衡する状態になり、回転面と被接触部との間に生じる摩擦に摩擦振動が生じなくなり、スティック・スリップが排除される。したがって、多くの時間と費用がかかるシールの構成要素を大きく変更することなく、回転部材の回転面と固定部材の被接触部との間における相対位置関係を適切に設定するだけで、極めて簡単な構成で安価に、シールの鳴き対策を行うことが可能となる。このため、密封面で生じる摩擦特性が摺動速度に対して負の勾配を持ち、回転軸の回転数の増加に伴って摩擦抵抗が減少する場合においても、スティック・スリップに起因する異音の発生を抑制することができる。また、密封装置が実際に市場で使われる際に、密封装置に初期的に封入されているグリースや油等の潤滑剤が枯渇した場合において、スティック・スリップに起因する異音の発生を抑制することができる。
【0008】
また、本発明は、回転部材が、フランジ面を回転面として有して回転軸に固定されるスリンガーであり、
固定部材が、先端部が被接触部としてフランジ面に接触して摺動する、フランジ面に先端部を押し付ける弾性力を付勢力として発揮するリップ部と、このリップ部を支持する金属環とを有し、
密封装置が、リップ部の先端部がフランジ面に押し付けられて接触して摺動することで、回転軸の軸周を介する密封対象物の漏れまたは外来物の侵入を抑制するオイルシールから構成されることを特徴とする。
【0009】
本構成によれば、リップ部の相対回転中心がスリンガーの回転中心に対して偏心して配置され、復元力の復元方向と所定角度範囲内で交差する方向にスリンガーから回転駆動力をリップ部が受けることで、復元力の復元方向に対して直交する回転駆動成分がスリンガーのフランジ面からリップ部に与えられる。このため、リップ部に作用する摩擦力の復元方向成分と復元力とが自律的に安定して平衡する状態になり、スリンガーのフランジ面とリップ部との間に生じる摩擦に摩擦振動が生じなくなり、オイルシールからスティック・スリップが排除される。
【0010】
また、本発明は、回転軸が軸封止された封止部を有し、
回転部材が、フランジ面を回転面として有して封止部の近傍の回転軸に固定されるスリンガーであり、
固定部材が、封止部からフランジ面に向かって径が広がるスカート状をし、先端部が被接触部としてフランジ面に接触して摺動する、フランジ面に先端部を押し付ける弾性力を付勢力として発揮するリップ部を有し、
リップ部の先端部がフランジ面に押し付けられて接触して摺動することで、回転軸の軸周を介する密封対象物の漏れまたは外来物の侵入を封止部と共に抑制することを特徴とする。
【0011】
本構成によれば、スカート状をしたリップ部の相対回転中心がスリンガーの回転中心に対して偏心して配置され、復元力の復元方向と所定角度範囲内で交差する方向にスリンガーから回転駆動力をリップ部が受けることで、復元力の復元方向に対して直交する回転駆動成分がスリンガーのフランジ面からリップ部に与えられる。このため、リップ部に作用する摩擦力の復元方向成分と復元力とが自律的に安定して平衡する状態になり、スリンガーのフランジ面とリップ部との間に生じる摩擦に摩擦振動が生じなくなって、スカート状をしたリップ部に起こるスティック・スリップが排除される。
【0012】
また、本発明は、回転部材が、回転軸の軸心に直交する回転環状端面を回転面として有して回転軸に固定される、剛性を有する回転環を有し、
固定部材が、回転環状端面に対向する静止環状面を被接触部として有して、静止環状面が回転環状端面に接触して摺動する、剛性を有する固定環を有し、
固定環の静止環状面を回転環の回転環状端面に押し付ける弾性力を付勢力として発揮する弾性体を備え、
密封装置が、固定環の静止環状面が回転環の回転環状端面に押し付けられて接触して摺動することで、回転軸の軸周を介する密封対象物の漏れまたは外来物の侵入を抑制するメカニカルシールから構成されることを特徴とする。
【0013】
本構成によれば、固定環における静止環状面の相対回転中心が回転環の回転中心に対して偏心して配置され、復元力の復元方向と所定角度範囲内で交差する方向に回転環から回転駆動力を静止環状面が受けることで、復元力の復元方向に対して直交する回転駆動成分が回転環の回転環状端面から固定環の静止環状面に与えられる。このため、固定環の静止環状面に作用する摩擦力の復元方向成分と復元力とが自律的に安定して平衡する状態になり、回転環の回転環状端面と固定環の静止環状面との間に生じる摩擦に摩擦振動が生じなくなって、メカニカルシールからスティック・スリップが排除される。
【0014】
また、本発明は、
変形可能な弾性を有する胴体部と、この胴体部の一端側に設けられ、ボールスタッドを回転かつ揺動自在に支持するソケットに固定される被固定部と、一端に球形部を有するボールスタッドの軸部およびボールスタッドの被取付部に対してそれぞれ摺動自在に胴体部の他端側に設けられるシール部とを有するダストカバーを備え、
回転軸がボールスタッドであり、
回転部材が、被取付面を回転面として有してボールスタッドの軸部に固定される被取付部であり、
固定部材が、被取付面に接触するダストリップを被接触部として備えてシール部に設けられる、弾性を有するシール本体であり、
胴体部が発揮する弾性力を付勢力として受けてダストリップが被取付面に押し付けられて接触し、ボールスタッドが回転する際にダストリップが被取付面を摺動することで、ボールスタッドの軸周を介するボールジョイント部からの密封対象物の漏れまたはボールジョイント部への外来物の侵入を抑制することを特徴とする。
【0015】
本構成によれば、ダストリップの相対回転中心が被取付部の回転中心に対して偏心して配置され、復元力の復元方向と所定角度範囲内で交差する方向に被取付部から回転駆動力をダストリップが受けることで、復元力の復元方向に対して直交する回転駆動成分が被取付部の被取付面からダストリップに与えられる。このため、ダストリップに作用する摩擦力の復元方向成分と復元力とが自律的に安定して平衡する状態になり、被取付部の被取付面とダストリップとの間に生じる摩擦に摩擦振動が生じなくなって、ダストカバーのシール部に起きるスティック・スリップが排除される。
【0016】
また、本発明は、所定角度範囲が、回転軸の回転駆動方向が復元力の復元方向と成す角度φの絶対値を│φ│としたときに不等式0<│φ│≦90°で示される範囲であることを特徴とする。
【0017】
本構成によれば、復元力の復元方向に対して直交する回転駆動成分が非零になって回転部材の回転面から固定部材の被接触部に与えられ、横滑り駆動成分に起因して、摩擦振動に対する減衰作用が発現される。このため、回転部材の回転面と固定部材の被接触部との間の摩擦に生じる摩擦振動が抑制され、スティック・スリップが排除される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、多くの時間と費用がかかるシールの構成要素を大きく変更することなく、回転部材の回転面と固定部材の被接触部との間における相対位置関係を適切に設定するだけで、極めて簡単な構成で安価に、シールの鳴き対策を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第1の実施形態による密封装置の断面図である。
図2図1に示す第1の実施形態による密封装置を構成するスリンガーと固定部材とをそれぞれ単独で示す断面図である。
図3】本発明の第1の実施形態による密封装置における、被接触部の任意の点Pが受ける回転駆動速度V、被接触部に作用する復元力の復元速度v、および被接触部に生じる摩擦力Fの関係を表す図である。
図4】(a)および(b)は、本発明の密封装置の原理を説明するための平面図および側面図である。
図5】本発明の第2の実施形態による密封装置の断面図である。
図6図5に示す第2の実施形態による密封装置を構成するスリンガーと固定部材とをそれぞれ単独で示す断面図である。
図7】(a)は、本発明の第3の実施形態による密封装置の断面図、(b)は、(a)に示す第3の実施形態による密封装置を構成する回転部材と固定部材とをそれぞれ単独で示す断面図である。
図8】(a)は、本発明の第3の実施形態の変形例による密封装置の断面図、(b)は、(a)に示す第3の実施形態の変形例による密封装置を構成する回転部材と固定部材とをそれぞれ単独で示す断面図である。
図9】(a)は、本発明の第4の実施形態による密封装置の要部の断面図、(b)は、(a)に示す第4の実施形態による密封装置を構成するダストカバーの断面図である。
図10図9(a)に要部を示す第4の実施形態による密封装置の全体像を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明による密封装置を実施するための形態について、説明する。
【0021】
図1は、本発明の第1の実施形態による密封装置1Aの断面図である。密封装置1Aは、軸心Aを中心に回転する回転軸11Aと、回転軸11Aに固定されて回転軸11Aと共に回転する回転部材であるスリンガー21Aと、回転軸11Aに対して相対回転する固定部材31Aとを備えて構成される。固定部材31Aは、その外周がハウジング41Aに嵌合してハウジング41Aに固定される。
【0022】
図2は、図1に示す密封装置1Aをハウジング41Aから取り外して、回転軸11Aを抜き去り、スリンガー21Aと固定部材31Aとをそれぞれ単独で示すそれらの断面図である。
【0023】
スリンガー21Aは、金属板を打ち抜きプレス成形することにより製作されたものであり、回転軸11Aの外周面に圧入嵌着される筒部21aと、この筒部21aから外径方向へ円盤状に展延するフランジ部21bとを有する。フランジ部21bは、回転軸11Aの軸心Aと直交する方向に張り出して、回転軸11Aの外周を囲むフランジ面21b1を回転面として有する。
【0024】
固定部材31Aは、金属板を打ち抜きプレス成形することで製作される金属環31aにゴム状弾性材料がリップ部として一体に成形されたものである。リップ部には、先端部がフランジ面21b1に接触する2つのグリースリップ部31bと、先端部が筒部21aの外周に接触するダストリップ部31cとが形成されている。このリップ部は金属環31aによって支持されている。グリースリップ部31bは、フランジ面21b1にその先端部を押し付ける弾性力を発揮し、その先端部は回転軸11Aの軸方向に付勢力を受けて図1に示すように撓む。
【0025】
固定部材31Aは、グリースリップ部31bの先端部が回転軸11Aの軸方向に付勢力を受けてフランジ面21b1に被接触部31b1として接触する。被接触部31b1は、回転軸11Aの外周を囲んでフランジ面21b1に対向し、ハウジング41Aにより固定部材31Aが支持されることで、非回転状態に設けられる。この被接触部31b1は、回転軸11Aが回転することでフランジ面21b1を摺動して、フランジ面21b1に対して相対回転する。密封装置1Aは、グリースリップ部31bの先端部がフランジ面21b1に押し付けられて接触して摺動することで、回転軸11Aの軸周を介する密封対象物の漏れまたは外来物の侵入を抑制する。このような密封装置1Aは、例えば、ハブベアリング用シールやオイルシールとして使用される。
【0026】
本実施形態では、固定部材31Aは、その相対回転中心が回転軸11Aの回転中心Aに一致するが、グリースリップ部31bの環状形状が固定部材31Aの相対回転中心に対称でなく、非対称に形成されている。したがって、グリースリップ部31bの被接触部31b1の相対回転中心Bは、回転軸11Aの回転中心Aに距離εの間隔で偏心して配置される。回転軸11Aが回転してスリンガー21Aが共に回転すると、グリースリップ部31bの被接触部31b1とフランジ面21b1との間には摩擦力Fが生じる。固定部材31Aを支持するハウジング41Aには、この摩擦力Fによってねじれが生じ、このねじれに抗して相対回転中心Bを中心とする復元力が被接触部31b1に作用する。また、被接触部31b1は、この復元力の復元方向と所定角度範囲内で交差する方向にスリンガー21Aのフランジ面21b1から回転駆動力を受け、復元力の復元方向に対して直交する回転駆動成分がフランジ面21b1から与えられる。
【0027】
すなわち、図3に示すように、フランジ面21b1を相対回転中心Bを中心に摺動する被接触部31b1をドット付きの円環で、回転中心Aを中心に回転するフランジ面21b1を白色の円環で示すと、グリースリップ部31bの被接触部31b1における任意の点Pには、フランジ面21b1との摩擦力Fが作用する。また、フランジ面21b1から回転駆動速度Vの回転駆動力が回転駆動方向βに作用する。また、復元方向αに復元速度vの復元力が作用する。この際、被接触部31b1の相対回転中心Bがフランジ面21b1の回転中心Aから距離εだけ偏心しているため、フランジ面21b1から被接触部31b1が受ける回転駆動力の回転駆動方向βは復元力の復元方向αと所定角度φで交差し、被接触部31b1には、復元力の復元方向αに対して直交する回転駆動成分Vsinφが与えられる。
【0028】
本実施形態では、回転駆動方向βが復元力の復元方向αと成す角度φ(ミスアライメント角度)の絶対値│φ│は、不等式0<│φ│≦90°で示される所定角度範囲内に設定され、駆動成分Vsinφが非零に設定される。この設定により、復元力の復元方向αに対して横滑りを起こす回転駆動成分Vsinφが確保される。
【0029】
このような本実施形態の密封装置1Aによれば、復元力の復元方向αに対して直交する回転駆動成分Vsinφがスリンガー21Aのフランジ面21b1からグリースリップ部31bの被接触部31b1に与えられることで、グリースリップ部31bの被接触部31b1に作用する摩擦力Fの復元方向成分Fcosθと、ハウジング41Aの発揮する復元力とが自律的に安定して平衡する状態になり、スリンガー21Aのフランジ面21b1とグリースリップ部31bの被接触部31b1との間に生じる摩擦に摩擦振動が生じなくなる。
【0030】
ここで、θは、フランジ面21b1の回転駆動速度Vと、ハウジング41Aからグリースリップ部31bの被接触部31b1に与えられる復元力の復元速度vとの相対速度Vrel が、復元力の復元方向αに対して成す角度である。復元力の復元速度vは、ねじりに応じて被接触部31b1がその円周方向に変位する変位量xの1階微分x’で表される。グリースリップ部31bの被接触部31b1に作用する摩擦力Fは、この相対速度Vrelを減じる方向に作用するので、摩擦力Fが復元力の復元方向αに対して成す角度もθとなる。
【0031】
すなわち、円環状をした被接触部31b1の相対回転中心Bが、スリンガー21Aのフランジ面21b1の回転中心Aに対して偏心して配置され、フランジ面21b1の回転駆動方向βが復元力の復元方向αと所定角度範囲内で交差することで、復元力の復元方向αに対して直交する回転駆動成分Vsinφがフランジ面21b1から円環状をした被接触部31b1に与えられる。本実施形態では、回転駆動方向βと復元方向αとの成すミスアライメント角度φが0<│φ│≦90°の範囲に設定されるので、復元力の復元方向αに対して直交する回転駆動成分Vsinφが非零になって被接触部31b1に与えられ、横滑りを起こすこの回転駆動成分Vsinφに起因して、摩擦振動に対する減衰作用が発現される。このため、グリースリップ部31bの被接触部31b1に作用する摩擦力Fの復元方向成分Fcosθと、ハウジング41Aの発揮する復元力とが自律的に安定して平衡する状態になり、スリンガー21Aのフランジ面21b1とグリースリップ部31bの被接触部31b1との間に生じる摩擦に摩擦振動が生じなくなる。
【0032】
よって、フランジ面21b1と被接触部31b1との間に生じるスティック・スリップがオイルシールから排除される。したがって、多くの時間と費用がかかるシールの構成要素を大きく変更することなく、スリンガー21Aのフランジ面21b1とグリースリップ部31bの被接触部31b1との間における相対位置関係を適切に設定するだけで、極めて簡単な構成で安価に、シールの鳴き対策を行うことが可能となる。このため、フランジ面21b1で生じる摩擦特性が摺動速度に対して負の勾配を持ち、回転軸11Aの回転数の増加に伴って摩擦抵抗が減少する場合においても、スティック・スリップに起因する異音の発生を抑制することができる。また、密封装置1Aが実際に市場で使われる際に、密封装置1Aに初期的に封入されているグリースや油等の潤滑剤が枯渇した場合において、スティック・スリップに起因する異音の発生を抑制することができる。
【0033】
図4(a)および(b)は、本実施形態の密封装置1Aの密封原理を説明するための平面図および側面図である。同図は、球5と平板6との間の滑り摩擦を模式的に表している。以下に述べる原理は、球5を本実施形態のグリースリップ部31b、平板6をフランジ面21b1に当てはめて、本実施形態の密封装置1Aの密封原理に適用することができる。
【0034】
静止した壁7に左端が固定された剛性kのばね8があり、その右端に質量mの球5が取り付けられている。球5の運動はばね8のたわみ方向(x方向)の並進のみが許されている。また、平板6は垂直荷重Wで球5と接触し、駆動速度Vでx方向とミスアライメント角度φを成して直動している。ばね8が自然長のときの球5の位置を原点0として、時刻tにおける球5の位置をx(t)とすると、球5の運動速度はtに関する微分(’)を用いてx’と表せる。平板6の駆動速度Vと球5の運動速度x’との相対速度Vrelがx方向となす角度をθとすると、球5に作用する摩擦力Fは相対速度Vrelを減じる方向に作用するので、摩擦力Fがx方向と成す角度もθとなる。ミスアライメント角度φ≠0のとき、相対速度Vrelは非零な側方滑り成分Vsinφを持ち、また、運動速度x’の変化により摩擦力Fの向きが変化する。
【0035】
球5に作用する摩擦力の大きさを相対速度Vrelの関数F=F(Vrel)で表すと、球5の運動方程式は次の式(1)で与えられる。
mx’’+kx=F(Vrel)・cosθ …(1)
【0036】
ここで、相対速度Vrelと角度θは幾何学的に式(2)、(3)で定まる。
Vrel=(V−2vx’・cosφ+x’1/2 …(2)
cosθ=(Vcosφ−x’)/Vrel …(3)
【0037】
また、ミスアライメント角度φ≠0のとき、球5に作用する摩擦力は動摩擦力に限られるので、F(Vrel)は動摩擦係数μ(Vrel)を用いて次の式(4)で与えられる。
F(Vrel)=μ(Vrel)・W …(4)
【0038】
球5に作用する摩擦力Fのx成分Fcosθとばね8の復元力kxが釣り合うとき、x’=0を考慮して得られる関係Vrel=V、θ=φから、平衡点xeqは次の式(5)で与えられる。
eq=F(V)・cosφ/k …(5)
【0039】
この平衡点xeqの安定性を検討するために平衡点xeqからの擾乱x を次の式(6)で与え、
x=xeq+x …(6)
式(6)を式(1)〜(3)に代入し、(x)’/Vを微少量とみなして線形化すると、次の式(7)が得られる。
m(x)’’+(c+c)(x)’+kx=0 …(7)
【0040】
ここで、左辺第2項の(x)’の係数c,cは次の式(8),(9)とした。
=μ’(V)・W・cosφ …(8)
=(μ(V)・W/V)・sinφ …(9)
【0041】
式(8)のμ’(V)は、Vrel=Vにおける関数μ=μ(Vrel)の傾きを意味する。係数cは、摩擦係数の相対速度依存性により発現する粘性減衰作用を表し、係数cは、非零なミスアライメント角度φ(側方滑り成分Vsinφ)を与えることにより発現する粘性減衰作用を表す。
【0042】
式(7)は2階の線形常微分方程式なので、平衡点xeqの安定性は(x)’の係数の正負で決まる。すなわち、次の式(10)
+c>0 …(10)
が成立するとき、平衡点xeqは安定となる。式(8)〜(10)を整理すると、平衡点xeqの安定条件として、最終的に次の式(11)の不等式が得られる。
tanφ>−μ’(V)・V/μ(V) …(11)
【0043】
μ’(V)>0のときは式(11)は任意のφに対して成り立つが、μ’(V)<0のとき、c<0(負減衰)が平衡点xeqを不安定化するが、次の式(12)
φ>φc=tan−1(−μ’(V)・V/μ(V))−1/2 …(12)
を満たすミスアライメント角度φを与えると、c>0(正減衰)の効果がc<0の効果を上回り、平衡点xeqは安定となる。このときは、平衡点xeqの近傍で摩擦振動は発生せず、なめらかな滑りの中で摩擦力Fcosθと復元力kxとが釣り合う。すなわち、ミスアライメント角度φを不等式φc<φ≦90°で示される範囲に設定すると、摩擦振動は最大限に抑制されて発生しなくなる。
【0044】
図5は、本発明の第2の実施形態による密封装置1Bの断面図である。密封装置1Bは、軸心Aを中心に回転する回転軸11Bと、回転軸11Bに固定されて回転軸11Bと共に回転する回転部材であるスリンガー21Bと、回転軸11Bに対して相対回転する固定部材31Bとを備えて構成される。回転軸11Bは直径の大きな大径部11aと、この大径部11aの直径よりも小さな直径の小径部11bとからなり、大径部11aの端部には、オイルシールによって軸封止された封止部11cを有する。固定部材31Bは、この封止部11cの外周がハウジング41Bに嵌合してハウジング41Bに固定される。
【0045】
図6は、図5に示す密封装置1Bをハウジング41Bから取り外して、回転軸11Bを抜き去り、スリンガー21Bと固定部材31Bとをそれぞれ単独で示すそれらの断面図である。
【0046】
スリンガー21Bは、金属板を打ち抜きプレス成形することにより製作されたものであり、回転軸11Bの外周面に圧入嵌着される内径筒部21dと、この内径筒部21dから外径方向へ円盤状に展延するフランジ部21eと、内径部21dに平行にフランジ部21eの外周縁部から立ち上がる外径筒部21fとを有し、封止部11cの近傍の回転軸11Bの小径部11bに固定される。フランジ部21eは、回転軸11Bの軸心Aと直交する方向に張り出して、回転軸11Bの外周を囲むフランジ面21e1を回転面として有する。
【0047】
固定部材31Bの封止部11cを形成するオイルシールは、金属板を打ち抜きプレス成形することで製作される金属環31eにゴム状弾性材料がリップ部として一体に成形されている。リップ部には、先端部が回転軸11Bの大径部11aに接触する軸リップ部31fおよび軸ダストリップ部31gと、先端部がフランジ面21e1に接触する端面リップ部31hとが形成されている。このリップ部は金属環31eによって支持されている。また、軸リップ部31fの外周を覆って金属ばね32が設けられており、軸リップ部31fはこの金属ばね32によって大径部11aの外周に押し付けられる。
【0048】
端面リップ部31hは、大径部11aの端部の外周縁部を囲む筒状部31h1と、この筒状部31h1からフランジ面21e1に向かって径が広がるスカート部31h2とを有する。この端面リップ部31hは、フランジ面21e1にその先端部を押し付ける弾性力を発揮し、その先端部は回転軸11Bの軸方向に付勢力を受けて図5に示すように撓む。
【0049】
固定部材31Bは、端面リップ部31hの先端部が回転軸11Bの軸方向に付勢力を受けてフランジ面21e1に被接触部31h3として接触する。被接触部31h3は、回転軸11Bの外周を囲んでフランジ面21e1に対向し、ハウジング41Bにより固定部材31Bが支持されることで、非回転状態に設けられる。この被接触部31h3は、回転軸11Bが回転することでフランジ面21e1を摺動して、フランジ面21e1に対して相対回転する。密封装置1Bは、端面リップ部31hの被接触部31h3がフランジ面21e1に押し付けられて接触して摺動することで、回転軸11Bの軸周を介する密封対象物の漏れまたは外来物の侵入を封止部11cと共に抑制する。このような密封装置1Bは、例えば、ディファレンシャルギヤの出力軸に用いられる駆動ユニット用シールとして使用される。
【0050】
本実施形態では、固定部材31Bは、その相対回転中心が回転軸11Bの回転中心Aに一致するが、端面リップ部31hのスカート部31h2の環状形状が固定部材31Bの相対回転中心に対称でなく、非対称に形成されている。したがって、端面リップ部31hにおける被接触部31h3の相対回転中心Bは、回転軸11Bの回転中心Aに距離εの間隔で偏心して配置される。回転軸11Bが回転してスリンガー21Bが共に回転すると、端面リップ部31hの被接触部31h3とフランジ面21e1との間には摩擦力Fが生じる。固定部材31Bを支持するハウジング41Bには、この摩擦力Fによってねじれが生じ、このねじれに抗して相対回転中心Bを中心とする復元力が被接触部31h3に作用する。また、被接触部31h3は、この復元力の復元方向αと成すミスアライメント角度φが0<│φ│≦90°の所定角度範囲内で交差する回転駆動方向βに、スリンガー21Bのフランジ面21e1から回転駆動力を受け、復元力の復元方向αに対して直交する回転駆動成分Vsinφがフランジ面21e1から与えられる。
【0051】
このような本実施形態の密封装置1Bによれば、スカート状をした端面リップ部31hにおける被接触部31h3の相対回転中心Bがスリンガー21Bの回転中心Aに対して偏心して配置され、復元力の復元方向αに対して直交する回転駆動成分Vsinφがスリンガー21Bのフランジ面21e1から端面リップ部31hの被接触部31h3に与えられることで、端面リップ部31hの被接触部31h3に作用する摩擦力Fの復元方向成分Fcosθと、ハウジング41Bの発揮する復元力とが自律的に安定して平衡する状態になり、スリンガー21Bのフランジ面21e1と端面リップ部31hの被接触部31h3との間に生じる摩擦に摩擦振動が生じなくなる。このため、スカート状をした端面リップ部31hに起こるスティック・スリップが排除され、第1の実施形態による密封装置1Aと同様な作用効果が奏される。
【0052】
図7(a)は、本発明の第3の実施形態による密封装置1Cの断面図である。密封装置1Cは、軸心Aを中心に回転する回転軸11Cと、回転軸11Cに固定されて回転軸11Cと共に回転する回転部材22を構成する回転環23と、回転軸11Cに対して相対回転する固定部材31Cを構成する固定環32とを備える。固定環32は、固定環32を収容するケース33の段付き内径円筒部33aの内周に嵌合して、ケース33に固定されている。ケース33は、その外径円筒部33bの外周がハウジング41Cに嵌合して、ハウジング41Cに固定される。したがって、固定環32は、ケース33を介してハウジング41Cに固定される。
【0053】
図7(b)は、同図(a)に示す密封装置1Cをハウジング41Cから取り外して、回転軸11Cを抜き去り、回転部材22と固定部材31Cとをそれぞれ単独で示すそれらの断面図である。
【0054】
回転部材22を構成する回転環23は、断面が直方体形状をした環状をしており、セラミック等から形成されて剛性を有する。この回転環23は、断面がL字形状をしたカップガスケット24を介して、断面がコの字形状をしたスリーブ25に収容されている。スリーブ25は回転軸11Cの外径部に嵌合して、回転軸11Cに固定される。したがって、回転環23は、回転軸11Cの軸心Aに直交する回転環状端面23aを回転面として有して、回転軸11Cに固定されることとなる。
【0055】
固定部材31Cを構成する固定環32は、断面が凸形状をした環状をしており、セラミック等から形成されて剛性を有する。固定環32は、回転環状端面23aに対向する静止環状面32aを被接触部として有して、静止環状面32aが回転環状端面23aに接触して摺動する。また、固定環32と、ケース33の低部33cにおける内周底面との間には、金属ばね34がスプリングホルダ35によって保持されている。スプリングホルダ35は弾性を有するゴムベロー36を介して固定環32に接触する。金属ばね34は、固定環32の静止環状面32aを回転環23の回転環状端面23aに押し付ける弾性力を付勢力として発揮する弾性体を構成する。
【0056】
固定環32は、静止環状面32aが回転軸11Cの軸方向に付勢力を受けて回転環状端面23aに被接触部として接触する。静止環状面32aは、回転軸11Cの外周を囲んで回転環状端面23aに対向し、ハウジング41Cにより固定環32が支持されることで、非回転状態に設けられる。この静止環状面32aは、回転軸11Cが回転することで回転環状端面23aを摺動して、回転環状端面23aに対して相対回転する。密封装置1Cは、静止環状面32aが回転環状端面23aに押し付けられて接触して摺動することで、回転軸11Cの軸周を介する密封対象物の漏れまたは外来物の侵入を抑制する。このような密封装置1Cはメカニカルシールとして使用される。
【0057】
本実施形態では、固定部材31Cは、その相対回転中心が回転軸11Cの回転中心Aに一致するが、固定環32における静止環状面32aの環状中心が固定部材31Cの相対回転中心から偏心している。つまり、静止環状面32aの相対回転中心Bは、回転軸11Cの回転中心Aに距離εの間隔で偏心して配置される。回転軸11Cが回転して回転環23が共に回転すると、静止環状面32aと回転環状端面23aとの間には摩擦力Fが生じる。固定部材31Cを支持するハウジング41Cには、この摩擦力Fによってねじれが生じ、このねじれに抗して相対回転中心Bを中心とする復元力が固定環32の静止環状面32aに作用する。また、固定環32の静止環状面32aは、この復元力の復元方向αと成すミスアライメント角度φが0<│φ│≦90°の所定角度範囲内で交差する回転駆動方向βに、回転環23の回転環状端面23aから回転駆動力を受け、復元力の復元方向αに対して直交する回転駆動成分Vsinφが回転環状端面23aから与えられる。
【0058】
このような本実施形態の密封装置1Cによれば、固定環32の静止環状面32aの相対回転中心Bが回転環23の回転中心Aに対して偏心して配置され、復元力の復元方向αに対して直交する回転駆動成分Vsinφが回転環23の回転環状端面23aから固定環32の静止環状面32aに与えられることで、固定環32の静止環状面32aに作用する摩擦力Fの復元方向成分Fcosθと、ハウジング41Cの発揮する復元力とが自律的に安定して平衡する状態になり、回転環23の回転環状端面23aと固定環32の静止環状面32aとの間に生じる摩擦に摩擦振動が生じなくなる。このため、回転環状端面23aと静止環状面32aとの間に起こるスティック・スリップが排除され、第1の実施形態による密封装置1Aと同様な作用効果が奏される。
【0059】
なお、上記の第3の実施形態では、固定環32における静止環状面32aの環状中心が固定部材31Cの相対回転中心から偏心し、静止環状面32aの相対回転中心Bが、回転軸11Cの回転中心Aに距離εの間隔で偏心して配置される場合について、説明した。しかし、静止環状面32aの環状中心を固定部材31Cの相対回転中心から偏心させることなく、図8(b)に示すように、静止環状面32aの環状中心を固定部材31Cの回転中心と一致させ、図8(a)に示すように、ハウジング41Cの内径中心を回転軸11Cの回転中心Aから偏心させることで、静止環状面32aの相対回転中心Bと回転環23の回転中心Aとを距離εだけ偏心させるようにしてもよい。なお、図8(a)は第3の実施形態による密封装置1Cの変形例による密封装置1C’の断面図、図8(b)は、この変形例による密封装置1C’をハウジング41Cから取り外して、回転軸11Cを抜き去り、回転部材22と固定部材31Cとをそれぞれ単独で示すそれらの断面図である。図8において図7と同一または相当する部分には同一符号を付してその説明は省略する。
【0060】
このような変形例による密封装置1C’においても、復元力の復元方向αに対して直交する回転駆動成分Vsinφが回転環23の回転環状端面23aから固定環32の静止環状面32aに与えられることで、固定環32の静止環状面32aに作用する摩擦力Fの復元方向成分Fcosθと、ハウジング41Cの発揮する復元力とが自律的に安定して平衡する状態になり、回転環状端面23aと静止環状面32aとの間に起こるスティック・スリップが排除され、第3の実施形態による密封装置1Cと同様な作用効果が奏される。
【0061】
図9(a)は、本発明の第4の実施形態による密封装置1Dの要部の断面図であり、図10に全体像が示される。
【0062】
密封装置1Dは、ボールジョイント部からの密封対象物の漏れまたはボールジョイント部への外来物の侵入を抑制する。この密封装置1Dは、図9(b)に示すダストカバー51を備える。
【0063】
ボールジョイントは、図10に示すように、軸部52aの一端に球形部52bを有するボールスタッド52と、ボールスタッド52を回転かつ揺動自在に支持するソケット53と、軸部52aにおける球形部52bとは反対側に固定される、ボールスタッド52の被取付部としてのナックル54とを備えている。ソケット53は、環状のケース53aと、ケース53aの底側に固定される底板53bと、球形部52bの軸受53cとを備えている。軸受53cは、球形部52bの曲率半径と同径の球形状の面で構成された軸受面53dを有している。ナックル54は、ナット55によって軸部52aに固定されている。
【0064】
ダストカバー51は、胴体部51aと被固定部51bとシール部51cとを有する。胴体部51aは、変形可能な弾性を有するお椀状をした膜からなる。被固定部51bは、胴体部51aの一端側に設けられ、ボールスタッド52を回転かつ揺動自在に支持するソケット53に固定される。シール部51cは、胴体部51aの他端側に設けられ、ボールスタッド52の軸部52aおよびナックル54に対してそれぞれ摺動自在に設けられる。これにより、ボールスタッド52は、矢印Sで示す方向にソケット53に対して揺動し、また、矢印Rで示す方向にソケット53に対して回転する。
【0065】
図9(b)に示すように、被固定部51bは、円環状の板状部51b1と、この板状部51b1の内周面側に設けられる第1円筒状部51b2と、板状部51b1の外周面側に設けられる第2円筒状部51b3とから構成される金属製の部材である。この被固定部51bに胴体部51aの一端が嵌め込まれた状態で第2円筒状部51b3が加締められることにより、胴体部51aの一端に被固定部51が固定される。被固定部51は、図10に示すように、ソケット53のケース53aの端部に嵌合によって固定される。
【0066】
シール部51cは、金属製の補強環51dと、この補強環51dに一体的に設けられるゴム状弾性体製のシール本体51eとから構成される。補強環51dは、円環状の板状部51d1と、この板状部51d1の内周面側に設けられる第1円筒状部51d2と、板状部51d1の外周面側に設けられる第2円筒状部51d3とから構成される。補強環51dに胴体部51aの他端が嵌め込まれた状態で第2円筒状部51d3が加締められることにより、胴体部51aの他端に補強環51dが固定される。また、シール本体51eは、第1環状凸部51e1、第2環状凸部51e2および第3環状凸部51e3により構成される内周シール部と、ダストリップ51e4により構成されるダストシール部とを備える。
【0067】
ボールスタッド52は、軸部52aの軸心Aを中心に回転する回転軸を構成する。ナックル54は、被取付面54aを回転面として有する回転部材を構成する。また、弾性を有するシール本体51eは固定部材を構成し、被取付面54aに接触するダストリップ51e4を被接触部として備える。胴体部51aは、その弾性力を付勢力として発揮して、ボールスタッド52の軸方向において、ダストリップ51e4を被取付面54aに押し付ける。密封装置1Dは、胴体部51aが発揮する弾性力を受けてダストリップ51e4が被取付面54aに押し付けられて接触し、ボールスタッド52が回転する際にダストリップ51e4が被取付面54aを摺動することで、シール部51cにおいて、ボールスタッド52の軸部52aを介するボールジョイント部からの密封対象物の漏れ、またはボールジョイント部への外来物の侵入を抑制する。
【0068】
本実施形態では、ダストカバー51は、その相対回転中心がナックル54の回転中心Aに一致するが、ダストリップ51e4の相対回転中心Bがナックル54の回転中心Aから偏心している。したがって、ダストリップ51e4の相対回転中心Bは、ナックル54の回転中心Aに距離εの間隔で偏心して配置される。ボールスタッド52が回転してナックル54が共に回転すると、ダストリップ51e4とナックル54の被取付面54aとの間には摩擦力Fが生じる。ダストリップ51e4を支持する胴体部51aには、この摩擦力Fによってねじれが生じ、このねじれに抗して相対回転中心Bを中心とする復元力がダストリップ51e4に作用する。また、ダストリップ51e4は、この復元力の復元方向αと成すミスアライメント角度φが0<│φ│≦90°の所定角度範囲内で交差する回転駆動方向βに、ナックル54の被取付面54aから回転駆動力を受け、復元力の復元方向αに対して直交する回転駆動成分Vsinφが被取付面54aから与えられる。
【0069】
このような本実施形態の密封装置1Dによれば、ダストリップ51e4の相対回転中心Bが被取付面54aの回転中心Aに対して偏心して配置され、復元力の復元方向αに対して直交する回転駆動成分Vsinφがナックル54の被取付面54aからダストリップ51e4に与えられることで、ダストリップ51e4に作用する摩擦力Fの復元方向成分Fcosθと、胴体部51aの発揮する復元力とが自律的に安定して平衡する状態になり、ナックル54の被取付面54aとダストリップ51e4との間に生じる摩擦に摩擦振動が生じなくなる。このため、ダストカバー51のシール部51cに起こるスティック・スリップが排除され、第1の実施形態による密封装置1Aと同様な作用効果が奏される。
【0070】
なお、上記の各実施形態および変形例による密封装置1A,1B,1C,1C’,1Dにおいて、回転中心Aに対する相対回転中心Bの偏心距離εは、相対回転する被接触部31b1,31h3、静止環状面32aおよびダストリップ51e4の直径の10%〜40%、好ましくは20%〜30%に設定するのがよい。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明による密封装置は、輸送機器や建設機器、農業機器等における各種回転軸の軸周を介する密封対象物の漏れまたは外来物の侵入を抑制するのに利用すると、好適である。
【符号の説明】
【0072】
1A,1B,1C,1C’,1D…密封装置
11A,11B,11C…回転軸
11c…回転軸11Bの封止部
21A,21B…スリンガー(回転部材)
21b1,21e1…フランジ面(回転面)
22…回転部材
23…回転環
23a…回転環23の回転環状端面(回転面)
31A,31B,31C…固定部材
31a…金属環
31b…グリースリップ部
31b1…グリースリップ部31bの被接触部
31h…端面リップ部
31h3…端面リップ部31hの被接触部
32…固定環
32a…固定環32の静止環状面(被接触部)
34…金属ばね(弾性体)
41A,41B,41C…ハウジング
51…ダストカバー
51a…胴体部
51b…被固定部
51c…シール部
51e…シール本体(固定部材)
51e4…ダストリップ(被接触部)
52…ボールスタッド(回転軸)
52a…軸部
52b…球形部
53…ソケット
54…ナックル(被取付部:回転部材)
54a…被取付面
A…回転中心
B…相対回転中心
α…復元力の復元方向
β…回転駆動方向
φ…復元方向αと回転駆動方向βとが成すミスアライメント角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10