(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
<本発明の一態様を得るに至った経緯>
上述したように、従来のデュアルサーボ制御構造においては、同じ性能のモータを同じように制御しても一方のモータに対して他方のモータの位置の偏差が生じる問題があった。
【0011】
そこで、本発明の発明者らは上記課題を解決するため、鋭意研究を行った。この結果、本発明の発明者らは、デュアルサーボ制御を行った2つのモータのそれぞれの速度を解析することによって、一方のモータ(例えばマスタモータ)の速度変化に対して、他方のモータ(例えばスレーブモータ)の速度変化が追従できず、振動が発生したりして両者のモータ間の速度差が広がるという知見を得た。そこで、本発明の発明者らは、2つのモータの変位差は、両者の速度差に比例すると仮定し、両者に共通の電流指令値を用いつつ、スレーブモータの電流指令値に両者の速度差に基づいた補償値を加えるという制御態様を想到するに至った。これにより、マスタモータとスレーブモータとの間の速度変化を抑え、モータ間の位置偏差を小さくすることができる。
【0012】
<本発明の一態様の概要>
本発明は、以上のような発明者の知見に基づいて想到されたものである。本発明の一態様に係るロボットの制御装置は、ロボットの動作を規定する可動部分を駆動する駆動軸と、前記駆動軸を回転駆動するマスタモータと、前記駆動軸を回転駆動する1以上のスレーブモータと、を備えたロボットの制御装置であって、前記マスタモータの回転位置であるマスタ位置を取得するマスタ位置取得部と、位置指令値と前記マスタ位置とに基づいて原電流指令値を生成する原電流指令値生成部と、前記マスタモータの速度であるマスタ速度を取得するマスタ速度取得部と、1以上の前記スレーブモータの速度である1以上のスレーブ速度をそれぞれ取得するスレーブ速度取得部と、前記マスタ速度に対する1以上の前記スレーブ速度の偏差に基づいてそれぞれの偏差に対応する前記スレーブ速度を補償するための1以上の補償要素と、を備え、前記原電流指令値を分配してマスタ電流指令値と1以上のスレーブ電流指令値とを生成し、前記マスタ電流指令値に基づいて前記マスタモータを駆動し、前記1以上のスレーブモータにそれぞれ対応する1以上の前記スレーブ電流指令値に対しそれぞれに対応する前記補償要素の出力をそれぞれ加えた電流指令値に基づいて1以上の前記スレーブモータを駆動するように制御するものである。
【0013】
上記構成によれば、位置指令値からマスタモータおよびスレーブモータへのそれぞれに共通する原電流指令値が生成される。マスタモータへは、原電流指令値から分配されたマスタ電流指令値が入力され、スレーブモータへは、原電流指令値から分配されたスレーブ電流指令値に、マスタ速度とスレーブ速度との偏差に基づいたスレーブ速度の補償分が加えられた電流指令値が入力される。このようにして、両者に共通の電流指令値を用いつつ、スレーブモータの電流指令値に両者の速度差に基づいた補償値を加えている。これにより、マスタモータとスレーブモータとの間の速度変化を抑え、モータ間の位置偏差を小さくすることができる。
【0014】
前記補償要素は、比例要素を含んでもよい。これにより、マスタモータとスレーブモータとの間の速度偏差に比例した補償が行われるため、マスタモータとスレーブモータとの間の速度変化を抑えることができる。さらに、前記比例要素のゲインは、前記マスタ速度と前記スレーブ速度との偏差が単調に0に近づくような値に設定されてもよい。このように、両者間の速度偏差が単調に0に近づくような値にゲインが設定されることにより、より効率的に両者間の速度変化を抑えることができる。
【0015】
前記マスタ速度取得部は、前記マスタ位置取得部と、前記マスタ位置を微分して前記マスタ速度を出力する微分器と、を備え、前記スレーブ速度取得部は、前記スレーブモータの回転位置であるスレーブ位置を取得するスレーブ位置取得部と、前記スレーブ位置を微分して前記スレーブ速度を出力する微分器と、を備えてもよい。これにより、既存の構成で容易に本発明の構成を実現することができる。
【0016】
本発明の他の態様に係るロボットの制御方法は、ロボットの動作を規定する可動部分を駆動する駆動軸と、前記駆動軸を回転駆動するマスタモータと、前記駆動軸を回転駆動する1以上のスレーブモータと、を備えたロボットの制御方法であって、前記マスタモータの回転位置であるマスタ位置を取得し、位置指令値と前記マスタ位置とに基づいて生成された原電流指令値を分配してマスタ電流指令値と1以上のスレーブ電流指令値とを生成し、前記マスタモータの速度であるマスタ速度を取得し、1以上の前記スレーブモータの速度である1以上のスレーブ速度をそれぞれ取得し、前記マスタ速度に対する1以上の前記スレーブ速度の偏差に基づいてそれぞれの偏差に対応する前記スレーブ速度を補償するための補償値を算出し、前記マスタ電流指令値に基づいて前記マスタモータを駆動し、前記1以上のスレーブモータにそれぞれ対応する1以上の前記スレーブ電流指令値に対しそれぞれに対応する前記補償値をそれぞれ加えた電流指令値に基づいて1以上の前記スレーブモータを駆動するものである。
【0017】
上記方法によれば、位置指令値からマスタモータおよびスレーブモータへのそれぞれに共通する原電流指令値が生成される。マスタモータへは、現電流指令値から分配されたマスタ電流指令値が入力され、スレーブモータへは、原電流指令値から分配されたスレーブ電流指令値に、マスタ速度とスレーブ速度との偏差に基づいてスレーブ速度を補償した電流指令値が入力される。このようにして、両者に共通の電流指令値を用いつつ、スレーブモータの電流指令値に両者の速度差に基づいた補償値を加えている。これにより、マスタモータとスレーブモータとの間の速度変化を抑え、モータ間の位置偏差を小さくすることができる。
【0018】
<実施の形態>
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0019】
<第1の実施の形態>
まず、本発明の第1の実施の形態について説明する。
図1は本発明の第1の実施の形態に係るロボットの制御装置の概略構成を示すブロック図である。
図1に示すように、本実施の形態におけるロボットの制御装置1は、ロボットの動作を規定する可動部分を駆動する駆動軸2と、マスタ動力伝達機構3を介して駆動軸2を回転駆動するマスタモータ4と、スレーブ動力伝達機構5を介して駆動軸2を回転駆動するスレーブモータ6と、を備えている。さらに、制御装置1は、マスタ電流指令値I
M(後述)に基づいてマスタモータ4を駆動するマスタモータ駆動部14と、補償後スレーブ電流指令値I
CS(後述)に基づいてスレーブモータ6を駆動するスレーブモータ駆動部15と、を備えている。
【0020】
本実施の形態が適用されるロボットは、例えば複数のアーム部材と、これらを接続する複数の関節(回転軸)とを備えた多関節ロボットとして構成される。すなわち、多関節ロボットにおける特定のアーム部材を可動部分として回動させる回転軸が本実施の形態における駆動軸2となる。マスタ動力伝達機構3は、マスタモータ4から出力される回転動力を駆動軸2に伝達する機構であれば特に限定されない。例えばマスタ動力伝達機構3は、ギヤ機構、アーム機構またはこれらを組み合わせた構成等、種々の構成を採用可能である。また、スレーブ動力伝達機構5もスレーブモータ6から出力される回転動力を駆動軸2に伝達する機構としてマスタ動力伝達機構3と同様に構成される。
【0021】
マスタ動力伝達機構3およびスレーブ動力伝達機構5は、それぞれ駆動軸2に対する所定の減速比を有している。本実施の形態においては、マスタ動力伝達機構3の減速比とスレーブ動力伝達機構5の減速比とは等しい値に設定されている。
【0022】
さらに、制御装置1は、マスタモータ4の速度(現在速度)を示す値(マスタ速度ω
M)を取得するマスタ速度取得部7と、スレーブモータ6の速度(現在速度)を示す値(スレーブ速度ω
S)を取得するスレーブ速度取得部8と、を備えている。本実施の形態において、マスタ速度取得部7は、マスタモータ4の回転位置(現在位置)を示す値(マスタ位置P
M)を取得するマスタ位置取得部9と、マスタ位置P
Mを微分してマスタ速度ω
Mを出力する微分器10と、を備えている。同様に、スレーブ速度取得部8は、スレーブモータ6の回転位置を示す値(スレーブ位置P
S)を取得するスレーブ位置取得部11と、スレーブ位置P
Sを微分してスレーブ速度ω
Sを出力する微分器12と、を備えている。位置取得部9,11が取得する回転位置は、各モータ4,6の出力軸(モータ軸)の回転角度位置(基準位置からの回転数および回転角度)を意味する。例えば、位置取得部9,11は、エンコーダまたはレゾルバ等により構成される。
【0023】
さらに、制御装置1は、位置指令値P
oとマスタ位置P
Mとに基づいて原電流指令値Ioを生成する原電流指令値生成部13を備えている。原電流指令値生成部13は、CPU、メモリおよび各種信号の入出力装置等を備えたコンピュータの機能ブロックとして構成される。位置指令値P
oは、マスタモータ4のモータ軸の回転位置(基準位置からの回転数および回転角度)を示す値として外部から入力される。
【0024】
原電流指令値生成部13で生成された原電流指令値I
oは、マスタモータ4への経路およびスレーブモータ6への経路に分岐することにより均等に分配されてマスタ電流指令値I
Mおよびスレーブ電流指令値I
Sとなる。マスタ電流指令値I
Mは、マスタモータ駆動部14に入力される。マスタモータ駆動部14は、入力されたマスタ電流指令値I
Mに基づいた出力トルクT
Mを発生させるようにマスタモータ4を駆動し、マスタモータ4は、回転動力を出力する。
【0025】
さらに、制御装置1は、マスタ速度ω
Mに対するスレーブ速度ω
Sの偏差Δωに基づいてスレーブ速度ω
Sを補償する補償要素16を備えている。補償要素16も、原電流指令値生成部13と同様にコンピュータの機能ブロックとして構成される。本実施の形態において、補償要素16は、比例要素(ゲインG)を含むように構成される。さらに、補償要素16は、速度偏差Δωを電流指令値に加えるための換算値を含むように構成される。
【0026】
なお、補償要素16は、ゲインGとして比例要素、積分要素、および微分要素の少なくとも何れか1つを有する。これらの要素を複数組み合わせることとしてもよい。すなわち、比例補償だけでなく、PI補償やPID補償を行うこととしてもよい。
【0027】
補償要素16から出力された補償値GΔωは、スレーブ電流指令値I
Sに加えられ、補償後スレーブ電流指令値I
CSとしてスレーブモータ駆動部15に入力される。スレーブモータ駆動部15は、入力された補償後スレーブ電流指令値I
CSに基づいた出力トルクT
Sを発生させるようにスレーブモータ6を駆動し、スレーブモータ6は、回転動力を出力する。
【0028】
マスタモータ4は、発生した出力トルクT
Mに応じた電流値をフィードバックし、当該フィードバック電流値とマスタ電流指令値I
Mとの偏差に対してPI補償を行うように構成されている。同様に、スレーブモータ6は、発生した出力トルクT
Sに応じた電流値をフィードバックし、当該フィードバック電流値と補償後スレーブ電流指令値I
CSとの偏差に対してPI補償を行うように構成されている。
【0029】
本実施の形態におけるロボットの制御装置1によれば、位置指令値P
oからマスタモータ4およびスレーブモータ6へのそれぞれに共通する原電流指令値I
oが生成される。マスタモータ4へは、原電流指令値I
oから分配されたマスタ電流指令値I
Mが入力され、スレーブモータ6へは、マスタ速度ω
Mとスレーブ速度ω
Sとの偏差Δωに基づいたスレーブ速度ω
Sの補償分が加えられた電流指令値(補償後スレーブ電流指令値)I
CSが入力される。このようにして、両者に共通の原電流指令値I
oを用いつつ、スレーブモータ6への電流指令値I
CSとして両者の速度差Δωに基づいた補償値GΔωを加えている。これにより、マスタモータ4とスレーブモータ6との間の速度変化を抑え、モータ4,6間の位置偏差を小さくすることができる。
【0030】
また、補償要素16が、比例要素(ゲインG)を含むことにより、マスタモータ4とスレーブモータ6との間の速度偏差Δωに比例した補償が行われるため、2つのモータに共通の原電流指令値I
oを用いつつ、スレーブモータ6の電流指令値I
CSに両者の速度差Δωに基づいた補償値を加えるという制御態様を容易かつシンプルに実現することができる。さらに、ゲインGは、速度偏差Δωが単調に0に近づくような値に設定されることが好ましい。このように、両者間の速度偏差Δωが単調に0に近づくような値にゲインGが設定されることにより、より効率的に両者間の速度変化を抑えることができる。
【0031】
本実施の形態において、第1電流指令値生成部13は、位置指令値P
oとマスタ位置P
Mとの位置偏差(時間的偏差)ΔPに基づいて速度指令値ω
Oを算出する速度指令値算出部17と、速度指令値ω
oとマスタ速度ω
Mとの速度偏差(時間的偏差)Δωから第1電流指令値I
1を算出する電流指令値算出部18と、を備えている。より具体的には、速度指令値算出部17は、位置ループゲインK
PMを用いて位置偏差ΔPに対してPI補償を行うことにより速度指令値ω
oを生成するよう構成される。また、電流指令値算出部18は、速度ループゲインK
ωMを用いて速度偏差Δωに対してPI補償を行い、第1電流指令値I
1を出力する。なお、位置ループゲインK
PMおよび速度ループゲインK
ωMは、それぞれ比例ゲイン(K
PP,K
ωP)および積分ゲイン(K
PI,K
ωI)を含み、微分ゲインと積分ゲインとの値は個別に設定される。
【0032】
このように、原電流指令値I
oに対してマスタモータ4の位置P
Mおよび速度ω
Mに基づいてフィードバック制御を行うことにより、マスタモータ4およびスレーブモータ6への共通の原電流指令値I
oに対して有効なフィードバック制御を行うことができる。
【0033】
また、マスタ位置取得部9で検出されたマスタ位置P
Mとこれを微分器10で微分して得られたマスタ速度ω
Mとを用いて位置フィードバック制御および速度フィードバック制御を行うため、速度検出器を別途設けることなく2つのフィードバック制御を容易に実現することができる。さらに、このような位置フィードバック制御および速度フィードバック制御を行う構成に予め設けられたマスタ速度取得部7を用いてスレーブモータ6への電流指令値I
CSが生成されるため、既存の構成で容易に本発明の構成(すなわち、2つのモータに共通の原電流指令値I
oを用いつつ、スレーブモータ6の電流指令値I
CSに両者の速度差Δωに基づいた補償値を加えるという制御態様)を実現することができる。
【0034】
なお、本実施の形態においては、マスタ動力伝達機構3の減速比とスレーブ動力伝達機構5の減速比とが同じ値であるため、電流指令値算出部18は、速度ループゲインK
ωMを用いて速度偏差Δωに対してPI補償を行った後の値に各モータへの分配のための0.5のゲインを掛けた値を原電流指令値I
oとして出力する。したがって、本実施の形態においては、実質的に原電流指令値Ioとマスタ電流指令値IMおよびスレーブ電流指令値ISとは同じ値となっている。
【0035】
また、マスタモータ駆動部14に入力される電流指令値として、マスタ電流指令値I
Mにロボットの駆動軸2に作用する重力を考慮した動力学トルクに基づく電流補正値を加えてもよい。同様に、スレーブモータ駆動部15に入力される電流指令値として、補償後スレーブ電流指令値I
CSにロボットの駆動軸2に作用する重力を考慮した動力学トルクに基づく電流補正値を加えてもよい。
【0036】
これらの電流補正値の基となる重力を考慮した動力学トルクは、例えば重力トルク、加減速トルク、摩擦トルク、他の軸の動きを支えるトルク(干渉トルク)等を含む。重力を考慮した動力学トルクは、ロボット動作における理論値に基づく値として規定され、予め設定される。このような動力学トルクに基づく電流補正値を加えるフィードフォワード制御を行うことにより、マスタモータ4とスレーブモータ6との位置偏差および速度偏差を予め小さくすることができ、より迅速な制御を行うことができる。
【0037】
<変形例>
図2は本発明の第1の実施の形態の変形例に係るロボットの制御装置の概略構成を示すブロック図である。本変形例において第1の実施の形態と同様の構成については同じ符号を付し、説明を省略する。
【0038】
本変形例のロボットの制御装置1Bが第1の実施の形態におけるロボットの制御装置1と異なる点は、マスタ動力伝達機構3Bの減速比αとスレーブ動力伝達機構5Bの減速比βとが異なることである。これに応じて、制御装置1Bは、減速比の割合に応じたゲインを各モータ4,6を駆動するための第1電流指令値I
1にそれぞれ掛けるための分配要素19,20を備えている。さらに、制御装置1Bは、マスタ速度ω
Mとスレーブ速度ω
Sとの速度偏差Δωを算出するために、減速比の影響をなくすゲインを掛けるための速度調整要素21を備えている。
【0039】
分配要素19は、原電流指令値生成部13(電流指令値算出部18)とマスタモータ駆動部14との間に設けられる。分配要素20は、原電流指令値生成部13(電流指令値算出部18)とスレーブモータ駆動部15との間であって、補償要素16から出力される補償値GΔωが加えられる加算器より前段に設けられる。
【0040】
マスタ動力伝達機構3Bとスレーブ動力伝達機構5Bとの減速比の割合がα:βであるため、マスタモータ4へ原電流指令値I
oを分配する分配要素19の比例ゲインは、α/(α+β)であり、スレーブモータ6へ原電流指令値I
oを分配する分配要素20の比例ゲインは、β/(α+β)である。したがって、本変形例においては、マスタ電流指令値I
Mは、原電流指令値I
oに分配要素19の比例ゲインα/(α+β)を掛けたものであり、スレーブ電流指令値I
Sは、原電流指令値I
oに分配要素20の比例ゲインβ/(α+β)を掛けたものである。
【0041】
また、マスタ動力伝達機構3Bの減速比αとスレーブ動力伝達機構5Bの減速比βとが異なるため、マスタ速度ω
Mとスレーブ速度ω
Sとは、目標とする速度がそもそも異なる。そこで、両者の速度ω
M,ω
Sを同じ目標速度に換算して比較するために速度取得部7,8の出力の少なくとも何れか一方に速度を調整するためのゲインを掛ける。本実施の形態において、制御装置1Bは、マスタ速度ω
Mをスレーブ速度ω
Sの速度に換算するために、マスタ速度ω
Mを速度調整要素21に入力し、速度調整要素21の出力とスレーブ速度ω
Sとの差を速度偏差Δωとして算出するように構成される。すなわち、微分器10の出力端と速度偏差Δωを算出する減算器の入力端との間に速度調整要素21が設けられる。この場合、速度調整要素の比例ゲインは、β/αである。
【0042】
なお、速度偏差Δωを算出するための速度調整要素21は、スレーブ速度ω
Sをマスタ速度ω
Mの目標速度に対応する速度に換算するようにしてもよいし、マスタ速度ω
Mおよびスレーブ速度ω
Sをその他の所定の目標速度に対応する速度(例えば駆動軸2の目標速度に対応する速度)に換算するようにしてもよい。これらの場合には、補償要素16において、再度スレーブモータ6の本来の目標速度に対応する速度に換算するためのゲインを掛けることが好ましい。
【0043】
また、本変形例は、マスタ動力伝達機構3Bの減速比αとスレーブ動力伝達機構5Bの減速比βとが同じ場合(α=β)でも適用され得る。この場合、分配要素19,20の比例ゲインは、何れも0.5となり、速度調整要素の比例ゲインは1となる。
【0044】
<第2の実施の形態>
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。
図3は本発明の第2の実施の形態に係るロボットの制御装置の概略構成を示すブロック図である。第2の実施の形態において第1の実施の形態と同様の構成については同じ符号を付し、説明を省略する。
【0045】
図3に示すように、本実施の形態におけるロボットの制御装置1Cが第1の実施の形態におけるロボットの制御装置1と異なる点は、1つのマスタモータ4と複数(
図3の例では2つ)のスレーブモータ6a,6bとを備えることである。スレーブモータ6a,6bが複数となることにより、スレーブモータ6a,6bに関連する構成5,8,11,12,15,16についても複数(2つずつ)設けられている。
図3ではこれらの各構成の相違を各符号にaまたはbを付すことにより区別して示している。以下では場合によって2つのスレーブモータ6a,6bを第1スレーブモータ6aおよび第2スレーブモータ6bと呼称する。
【0046】
本実施の形態においても、第1の実施の形態と同様に、マスタ速度ω
Mと第1スレーブモータ6aの速度ω
Saとの速度偏差Δω
aに補償要素16aの比例ゲインG
aを掛けた補償値G
aΔω
aをスレーブ電流指令値I
Saに加えた補償後スレーブ電流指令値I
CSaが第1スレーブモータ6aを駆動するためのスレーブモータ駆動部15aに入力される。また、マスタ速度ω
Mと第2スレーブモータ6bの速度ω
Sbとの速度偏差Δω
bに補償要素16bの比例ゲインG
bを掛けた補償値G
bΔω
bをスレーブ電流指令値I
Sbに加えた補償後スレーブ電流指令値I
CSbが第2スレーブモータ6bを駆動するためのスレーブモータ駆動部15bに入力される。スレーブモータ6の数が3つ以上の場合でも同様に、マスタモータ4のマスタ速度ω
Mと各スレーブモータ6のスレーブ速度ω
Sとの速度偏差Δωに基づいて各スレーブモータ6への電流指令値を補償することができる。
【0047】
本実施の形態において、マスタ動力伝達機構3およびスレーブ動力伝達機構5a,5bの減速比が同じ場合、電流指令値算出部18は、速度ループゲインK
ωMを用いて速度偏差Δωに対してPI補償を行った後の原電流指令値I
oに1/3のゲインを掛けた値をマスタ電流指令値I
Mおよびスレーブ電流指令値I
Sa,I
Sbとして出力する。これにより、共通の原電流指令値I
oをマスタモータ4とスレーブモータ6a,6bとに均等に分配している。
【0048】
なお、本実施の形態においても第1の実施の形態の変形例と同様に、マスタ動力伝達機構3の減速比とスレーブ動力伝達機構5aの減速比との割合が異なる場合、および/またはマスタ動力伝達機構3の減速比とスレーブ動力伝達機構5bの減速比との割合が異なる場合には、第1の実施の形態の分配要素19,20および速度調整要素21に対応する箇所に各要素を設けることにより、本実施の形態の構成を実現することができる。
【0049】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変更、修正が可能である。
【0050】
例えば、第1の実施の形態およびその変形例において説明した構成の一部を第2の実施の形態において適用することも可能である。
【0051】
また、上記実施の形態のマスタ速度取得部7およびスレーブ速度取得部8は、マスタモータ4およびスレーブモータ6の位置を検出し、速度に変換するように構成されているが、例えばエンコーダ等の速度検出器を用いてマスタモータ4およびスレーブモータ6の速度を直接取得することとしてもよい。
【0052】
<実施例>
以下に、上記第1の実施の形態の構成に基づいてマスタモータ4およびスレーブモータ6間のトルク差、速度差および電流指令値差をシミュレーションした結果を示す。比較例としてスレーブモータ6の電流指令値として補償要素16の出力GΔωを加えない(スレーブ電流指令値I
Sをそのままスレーブモータ駆動部15に入力する)態様におけるマスタモータ4およびスレーブモータ6間のトルク差、速度差および電流指令値差もシミュレーションした。
【0053】
図4は本実施例におけるマスタモータおよびスレーブモータのトルクおよび速度の時間的変化を示すグラフである。
図4の上側のグラフがトルクの時間的変化を示すグラフであり、下側のグラフが速度の時間的変化を示すグラフである。何れのグラフもマスタモータとスレーブモータとを重ねて示している。
図5は
図4に示す速度の時間的変化を示すグラフにおけるV部拡大図である。また、
図7は比較例におけるマスタモータおよびスレーブモータのトルクおよび速度の時間的変化を示すグラフである。
図8は
図7に示す速度の時間的変化を示すグラフにおけるVIII部拡大図である。
図7は実施例における
図4に対応し、
図8は実施例における
図5に対応するグラフである。
図5および
図8の拡大図においては、マスタモータの速度波形とスレーブモータの速度波形が分かり易いように、概略的な波形のみをトレースするように加工している。
【0054】
まず、
図4と
図7とのそれぞれのトルクの時間的変化を示すグラフ(上側のグラフ)を比較する。速度偏差Δωに基づく補償を行っていない比較例(
図7)においては、特に、発生するトルクの向きが変わるAc部においてノイズのような振動現象が大きく出ている。これは、トルク変動が大きいときに、一方のモータ(マスタモータ)に対して他方のモータ(スレーブモータ)がうまく追従できておらず、一方のモータのトルク値に対して他方のモータのトルク値が上回ったり下回ったりすることによるものと考えられる。
【0055】
これに対し、速度偏差Δωに基づく補償を行った本実施例(
図4)においては、発生するトルクの向きが変わるAe部においてもノイズのような振動現象は比較的抑えられ、全体的に滑らかな波形となっている。このことから、本実施例においては、マスタモータ4およびスレーブモータ6でそれぞれ発生するトルク値に差が比較的生じず、マスタモータ4のトルク変動に対してスレーブモータ6のトルク変動がよく追従していると考えられる。
【0056】
次に、
図4と
図7とのそれぞれの速度の時間的変化を示すグラフ(下側のグラフ)を比較する。比較例(
図7)においては、特に、速度が連続的に変化する領域(例えばVIII部)において、
図8に示すように、マスタモータの速度が比較的滑らかに変化するのに対し、スレーブモータの速度はマスタモータの速度にうまく追従できておらず、マスタモータの速度に対してスレーブモータの速度が近づいたり離れたりする結果となった。
【0057】
これに対し、本実施例(
図4)においては、同じ領域(V部)において、
図5に示すように、マスタモータ4の速度およびスレーブモータ6の速度が何れも比較的滑らかに変化する結果が得られた。このように、本実施例によれば、マスタモータ4の速度とスレーブモータ6の速度とが離れることなくよく追従できていることが示された。
【0058】
図6は本実施例における補償後スレーブ電流指令値I
CSの時間的変化を比較例とともに示すグラフである。
図6に示すように、速度偏差Δωに基づく補償を行っていない比較例においては電流指令値の振動幅が比較的大きいのに対し、本実施例では電流指令値I
CSの振動的変化が比較的抑えられ、滑らかに変化する結果が得られた。このように、本実施例によればスレーブモータ6への電流指令値I
CS自体の振動的変化が抑えられ、比較的滑らかなトルク変動制御が行われることが示された。