特許第6564183号(P6564183)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6564183-n−プロピルベンゼンの調製方法 図000010
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6564183
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】n−プロピルベンゼンの調製方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 2/72 20060101AFI20190808BHJP
   C07C 15/02 20060101ALI20190808BHJP
   C07C 7/04 20060101ALI20190808BHJP
   B01J 27/232 20060101ALI20190808BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20190808BHJP
【FI】
   C07C2/72
   C07C15/02
   C07C7/04
   B01J27/232 Z
   !C07B61/00 300
【請求項の数】7
【外国語出願】
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-248822(P2014-248822)
(22)【出願日】2014年12月9日
(65)【公開番号】特開2016-41678(P2016-41678A)
(43)【公開日】2016年3月31日
【審査請求日】2017年9月12日
(31)【優先権主張番号】2609/MUM/2014
(32)【優先日】2014年8月13日
(33)【優先権主張国】IN
(73)【特許権者】
【識別番号】514313591
【氏名又は名称】ヴィナティ オーガニクス リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Vinati Organics Limited
(74)【代理人】
【識別番号】100112645
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 弘薫
(72)【発明者】
【氏名】プラシャント プルショッタム バルヴェ
(72)【発明者】
【氏名】ジャエシュ アジトクマー アシャー
【審査官】 阿久津 江梨子
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第5157186(US,A)
【文献】 米国特許第2748178(US,A)
【文献】 特開昭61−53229(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 2/72
B01J 27/232
C07C 7/04
C07C 15/02
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
n−プロピルベンゼンの調製方法であって、
(a)トルエンと固相担体を第1の反応器に加えて混合物を形成する工程と、
(b)アルカリ金属触媒とオレイン酸を前記混合物に加えて反応塊を形成し、前記第1の反応器を閉じ、30分〜1時間の間撹拌する工程と、
(c)前記第1の反応器に窒素ガスを流し込み、185〜190℃の範囲の温度にて15分間、前記反応塊を加熱する工程と、
(d)トルエンと開始剤を第2の反応器に加え、前記第2の反応器に窒素ガスを流し込み、15分〜30分の時間撹拌し、前記第2の反応器を前記第1の反応器に接続し、前記第2の反応器の内容物を前記第1の反応器に移動させる工程と、
(e)前記第1の反応器にエチレンを加えて反応混合物を形成する工程と、
(f)前記第1の反応器に少量の開始剤を定期的に加え、35〜40kg/cmで前記反応混合物を撹拌しながら、前記反応混合物を180〜220℃の範囲の温度にて1時間を超え5時間以下の時間維持する工程と、
(g)前記反応混合物に所望の量のメタノールと水を加える工程と、
(h)アルカリ金属触媒、固相担体及び未反応のトルエンを回収するための水性相とn−プロピルベンゼン及び副生成物を得るための有機相とに前記反応混合物を分離する工程と、
(i)有機相を分析し、精製してn−プロピルベンゼンを生成する工程とを含み、
前記n−プロピルベンゼンが分留によって副生成物から分離され、ガスクロマトグラフィによって分析され、
前記方法は、さらに、
(j)副生成物の少なくとも一部が工程(a)で形成される混合物に含まれ、回収された固相担体の少なくとも一部が工程(a)において加えられる固相担体の少なくとも一部として加えられるよう工程(a)を行い、回収されたアルカリ金属触媒の少なくとも一部が工程(b)において加えられるアルカリ金属触媒の少なくとも一部として加えられるよう工程(b)を行い、工程()から工程(i)のそれぞれの工程を行う工程を含む、方法。
【請求項2】
副生成物が3−フェニルペンタンである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
固相担体がアルカリ金属炭酸塩である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
アルカリ金属触媒がナトリウム、リチウム及びそれらの組み合わせから選択される請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
開始剤が、ジ−tert−ブチルペルオキシド、アゾ−イソ−ビスブチロニトリル及び亜硝酸イソ−アミルのいずれかから選択される請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
開始剤が、単一段階又は複数段階にて50〜100ppmの範囲で使用される請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
さらに、反応混合物から未反応のトルエンを回収すること、及び、工程(j)を行うとき、回収された未反応のトルエンの少なくとも一部を工程(a)にて使用することを含む請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルキル化に関するものであり、さらに詳しくはn−プロピルベンゼンの調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルキルベンゼンは、たとえば、種々の最終生成物の製造における中間体として有用である。アルカリ金属はアルキルベンゼンと反応するとベンジル水素を置換することが数十年にわたって知られている(Chester E. Claff and Avery A. Morto, J. Org. Chem., 1955, 20(4), pp 440-442, Herman Pines & Norman C. Sih, ibid, 1965, 30(1), pp 280-284, Schramm and Langlois, Journal of the American Chemical Society, 1960, 82, pp 4912-4917)。結果として生じるアルキルベンゼンアニオンとアルカリ金属カチオンの対は、高温でオレフィンとの反応を行って、炭素原子上で単一の又はすべてのベンゼン水素原子をベンゼン水素原子1個当たり脂肪族鎖1個で置換するように単一の又はすべての飽和ベンゼン炭素原子がアルキル化されているアルキル化生成物を生じる。そのような反応は、飽和ベンジル炭素原子の数及び与えられたベンジル炭素原子上の水素原子の数に応じて種々の生成物を生じる。アルキルベンゼンの商業的製造において純度の高い生成物が一般に所望され、副生成物は除去されなければならない。
【0003】
幾つかの特許及び出版物がアルキルベンゼンの商業的製造に好適な方法を提供することに関する課題を扱っている。たとえば、米国特許第8,277,652 B2号、米国特許第6,100,437号及び米国特許第4,950,831号。
【0004】
米国特許第8,277,652 B2号及び米国特許第6,100,437号で挙げられた実験例は触媒としてナトリウム/カリウム合金を利用している。活性化工程の間の触媒は融解するが、アルキルベンゼンとは異なる相としてとどまる。これはアルキルベンゼンのメタル化を助ける。また反応における少量の水の使用もこの方法では言及されている。この操作は以下のような困難さをもたらす。
・少量の触媒はアルカン相における触媒の不十分な分布の原因となる
・高い温度は触媒表面を覆うタール状の副生成物の生成を促進し、反応が低下する。
・また、水の存在下でのナトリウム/カリウム合金の使用も有害であり、方法の経済性に影響を及ぼす。
【0005】
現在のアルカリ金属、特にナトリウム/カリウム合金が触媒するアルキル化反応による深刻な問題は、アルキルベンゼン型アニオンのα炭素が、オレフィン性二重結合を含むいずれかの炭素に付加し、それによって2つのアルキル化生成物が生じ得るという事実である。反応条件の緩和が多様なアルキル化を排除するのに有効であることは判明している。
【0006】
しかしながら、付加選択性を都合良く改善できないという問題がある。アルキルベンゼンの多様なアルキル化に加えて、アルキル化反応で利用されるアルカリ金属触媒は、縮合重合又はアルカリ金属が触媒する重合反応の結果、不溶性のタール状副生成物の形成を促進すると思われる。アルカリ金属が触媒する反応では他の副残物も形成され、それは反応媒体に可溶性であり、反応媒体に暗い色を提供する。
【0007】
現在のアルカリ金属が触媒する反応におけるさらに別の問題は、反応系におけるアルカリ金属合金の適正な分布である。米国特許第8,277,652B2号において、0.5重量%のナトリウム/カリウム合金を触媒として使用することが参照され得る。合金は適切な形態で使用され、反応の終了時に破壊される反応媒体全体にわたって少量の触媒を均一に分散させるのが非常に困難である。良好な反応効率を得るために、アルキルベンゼンとカリウムの間の反応で形成されるアルキルベンゼン/カリウムのイオン対を反応混合物にて効果的に分散させてモノアルキル化のための良好な選択性を得るべきである。
【0008】
アルキルベンゼン/カリウムのイオン対及びアルキルベンゼンは不混和相を形成し、反応媒体に分布する触媒の機能不全は副生成物の形成を引き起こす。一般に、商業的に実践されている現在の系は、触媒及び関連する触媒種を反応媒体において乳化相とするために、少量のトール油と水を使用している。反応媒体を乳化するために現在の商業的な実践にて使用される少量の水は深刻な安全性の懸念をもたらす。
【0009】
触媒複合体であるアルキルベンゼン/カリウムのイオン対はアルカリ金属合金も被覆する乳化相で分散されるので、アルケンとの反応にはさらに大きな表面積が利用可能であると一般に考えられる。タール及び他の副生成物の形成は、反応物質の利用性を有意に低下させる。タール及び他の副生成物の形成は、さらなる商業的な影響を有する。それは、タール状の生成物によってアルキルベンゼン/カリウムのイオン対が覆われることで、触媒が活性を有しているにもかかわらず、アルキルベンゼンの形成速度が低下するというものである。タール状の生成物によって覆われた活性のある触媒は製造サイクルの終了時に水によって破壊される。これは生態系及び方法の経済性に重大な圧力を加える。
【0010】
同様に、現在のアルカリ金属合金の系によって、反応の終了に向かい、水が入れられ、その後層分離を行う水性の後処理(work-up)ののちアルキルベンゼンが単離される。これは、反応媒体の高いアルカリ度のためにエマルジョンを形成する原因となるという不具合があり、同様に高価なアルカリ金属合金の喪失の原因となる。濃厚なエマルジョンは有機相を失わせる傾向がある。これは生態系及び方法の経済性に重大な圧力を加える。
【0011】
Schramm及びLanglois(Journal of the American Chemical Society, 1960, 82, pp 4912-4917)は、高度に分散させたナトリウム金属又はカリウム金属又はリチウム金属及び鎖開始剤としての、たとえば、アントラセン、フルオレン、インデン、シクロペンタジエン、α−メチルピリジン等のような種々の活性化剤の存在下でアルケンの形態としてのプロピレンを用いたトルエンのアルキル化の詳細な研究を提示し、α炭素原子のアルキル化は149〜307℃で起きることを示した。
【0012】
Schramm及びLangloisはまた、副生成物、特に二重結合での非選択的な付加による異性体の広い温度範囲における収率に関するアルカリ金属の詳細な研究を提示した。彼らは、触媒としてのカリウムの存在下で107℃〜204℃の温度範囲にわたって生成物の異性体に対する比が低いことを認めた。ところが、カリウムの代わりにナトリウムを使用したら、生成物の異性体に対する比は大きかった。また、彼らは、カリウムの存在下での生成物形成の速度の方が、触媒としてのナトリウムの存在下よりも速いことをデータで示している。
【0013】
Herman Pines及びNorman C.Sih,(J. Org. Chem., 1965, 30(1), pp 280-284)は、高度に分散させたナトリウム金属又はカリウム金属及び鎖開始剤としてのo−クロロトルエンの存在下でのアルケンの形態としてのイソプレンを用いたトルエン、エチルベンゼン及びイソプロピルベンゼンのアルキル化の詳細な研究を提示し、α炭素原子のアルキル化は、o−クロロトルエンのような鎖開始剤の存在下にて125〜133℃で起きることを示している。
【0014】
また、現在の工業的操作では、カリウム金属及びナトリウム金属の合金のような大量の触媒が前アルキル化段階で使用され、それはサイクルの終了時に水又はアルコールを加えることによって破壊される。
【0015】
従って、従来技術の欠点を克服するn−プロピルベンゼンの調製方法を提供するニーズが存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】米国特許第8,277,652 B2号、
【特許文献2】米国特許第6,100,437号
【特許文献3】米国特許第4,950,831号。
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Chester、E.Claff及びAvery、A.Morto,J.Org.Chem.,1955,20(4),pp440−442
【非特許文献2】Herman Pines及びNorman C.Sih,ibid,1965,30(1),pp280−284
【非特許文献3】Schramm及びLanglois,Journal of the American Chemical Society,1960,82,pp4912−4917
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の目的は、所望の生成物に向かって出発する芳香族炭化水素の選択性を改善する開始剤を使用することである。
【0019】
本発明の別の目的は、金属触媒及び高級アルキル化生成物の再利用を促進することである。
【0020】
本発明のさらに別の目的は、副生成物を再生利用し、それによって所望の生成物に向かう選択性を高めることである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
従って、本発明はn−プロピルベンゼンの調製方法を提供する。方法は、トルエンと固相担体を第1の反応器に加えて混合物を形成することを含む。さらに、方法は、アルカリ金属触媒とオレイン酸を混合物に加えて反応塊を形成すること及び第1の反応器を閉じ、所定の時間撹拌することを含む。アルカリ金属触媒はナトリウム、リチウム及びそれらの組み合わせから選択される。さらに、方法は、第1の反応器を窒素ガスで洗い流すこと及び約185〜190℃の範囲の温度にて約15分間反応塊を加熱することを含む。その上、反応は、トルエンと開始剤を第2の反応器に加えることを含む。開始剤は、ジ−tert−ブチルペルオキシド、アゾ−イソ−ビスブチロニトリル及び亜硝酸イソ−アミルのいずれか1つから選択される。開始剤は、単一段階又は複数段階にて50〜100ppmの範囲で使用される。
【0022】
次いで第2の反応器を窒素ガスで洗い流し、第2の反応器の内容物を所定の時間、撹拌し続ける。次いで第2の反応器をその底面の液体排出弁を介して第1の反応器に接続する。
【0023】
さらに、方法は、エチレンを第1の反応器に加えて反応混合物を形成することに関与する。さらに、方法は、少量の開始剤を定期的に第1の反応器に加えること及び反応混合物を約35〜40kg/cmで撹拌しながら、約180〜220℃の範囲の温度で1時間超〜5時間の間反応混合物を維持することを含む。その上、反応は、所望の量のメタノールと水を反応混合物に加えることを含む。さらに、方法は、触媒、触媒担体及び未反応のトルエンを回収するための水性相と、n−プロピルベンゼン及び副生成物を得るための有機相とを分離することを含む。その上、方法は有機相を分析し、精製してn−プロピルベンゼンを得ることを含む。方法は、アルカリ金属触媒、固相担体、及び副生成物の少なくとも一部を再利用してn−プロピルベンゼンを調製することを含む。
【0024】
さらに、方法は、未反応のトルエンを反応混合物から回収すること及び回収された未反応のトルエンの少なくとも一部をn−プロピルベンゼンの調製にて使用することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明に従ってn−プロピルベンゼンを調製する方法を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
好まれる実施形態にて以下で記載されるような本発明によって、本発明の前述の目的が達成され、従来技術、技法及びアプローチに関連する問題及び欠点が克服される。
【0027】
本発明はn−プロピルベンゼンを調製する方法を提供する。方法は、ジ−tert−ブチルペルオキシド(DTBP)、アゾ−イソ−ビスブチロニトリル(AIBN)及び亜硝酸イソ−アミルのような開始剤/促進剤の存在下で、リチウム又はナトリウムのようなアルカリ金属、及び、炭酸カリウムのようなアルカリ金属酸塩に対して、トルエン及びエチレンの混合物を接触させることに関与する、単一工程の触媒的アルキル化によって、n−プロピルベンゼンの高度な選択性及び収率を生じる。
【0028】
本発明はn−プロピルベンゼンを調製する方法(200)を提供する。方法(200)を図1で説明する。方法(200)は工程(10)で開始する。工程(20)では、方法(200)は芳香族炭化水素と固相担体を第1の反応器(示さず)に加えて混合物を形成することを含む。一実施形態では、芳香族炭化水素は、飽和α炭素上の活性水素原子を含み、たとえば、トルエンである。固相担体は、その上でアルカリ金属触媒を広げるための媒体として作用するアルカリ金属酸塩、たとえば、炭酸カリウム粉末である。
【0029】
工程(30)では、方法(200)はアルカリ金属触媒及び分散剤としてのオレイン酸を混合物に加えて反応塊を形成することを含む。アルカリ金属触媒はナトリウム、リチウム及びそれらの組み合わせから選択される。一実施形態では、融解したナトリウム金属又はリチウム金属が使用され、固相担体上に被覆される。アルカリ金属触媒及びオレイン酸を加えた後、第1の反応器を閉じ、約30分〜1時間の時間、撹拌する。
【0030】
工程(40)では、方法(200)は第1の反応器を窒素ガスで洗い流しその中を不活性とすることを含む。工程(50)では、方法(200)は約185〜190℃の範囲の温度にて約15分間反応塊を加熱することを含む。
【0031】
工程(60)では、方法(200)は芳香族炭化水素及び開始剤を第2の反応器(示さず)に加えることを含む。一実施形態では、芳香族炭化水素はトルエンである。開始剤は、ジ−tert−ブチルペルオキシド、アゾ−イソ−ビスブチロニトリル、亜硝酸イソ−アミル及びそれらの組み合わせから選択される。次いで第2の反応器の内部を窒素ガスで洗い流し、第2の反応器の内容物を約15分〜30分の時間、撹拌し続ける。次いで第2の反応器の底面の液体排出弁(示さず)を第1の反応器に接続する。
【0032】
工程(70)では、方法(200)は第1の反応器にアルケンを加えて反応混合物を形成することを含む。一実施形態では、好まれるアルケンはエチレンである。
【0033】
工程(80)では、方法(200)は少量の開始剤を定期的に第1の反応器に加えることを含む。反応は所望量のエチレンの消費が認められるまで継続される。約35〜40kg/cmで反応混合物を撹拌しながら、約180〜220℃の範囲の温度にて1時間〜5時間、反応混合物を維持する。いったん所望量のエチレンの消費が認められたら、反応混合物を室温に冷却する。
【0034】
工程(90)では、方法(200)は、所望の量のメタノールと水を反応混合物に加えることを含む。次いで反応混合物を第1の反応器から取り出す。
【0035】
工程(100)では、方法(200)は、反応混合物から水性相及び有機相を分離することを含む。水性相は触媒、触媒担体及び未反応のトルエンを回収するために分離され、有機相はn−プロピルベンゼン及び副生成物を得るために分離される。工程(110)では、方法(200)は、有機相を分析することを含む。実施形態では、有機相はガスクロマトグラフィ(以後「GC」)によって分析される。GC分析によってn−プロピルベンゼンの収率は99.82%であることが見いだされる。方法(200)は工程(120)で終了する。
【0036】
方法(200)は芳香族炭化水素、アルカリ金属触媒及び副生成物の回収を促進する。方法(200)は、たとえば、ジ−tert−ブチルペルオキシド(DTBP)、アゾ−イソ−ビスブチロニトリル(AIBN)及び亜硝酸イソ−アミルのような異なる種類の開始剤を利用する。開始剤は反応塊に間欠的に充填されて使用される。本発明によれば、n−プロピルベンゼンの調製のための方法(200)では、3−ペンチルベンゼンが副生成物として形成される。化学反応のほとんどは平衡制御され、副生成物の形成も平衡制御される。加えて、方法(200)では、反応系にてトルエンと共に3−ペンチルベンゼンを慎重に充填するわずかな実験が行われ、方法(200)のn−プロピルベンゼンに向かう選択性を高めた結果が得られた。
【0037】
方法(200)の実施形態として、本発明に従って調製されるイソ−ブチルベンゼンのようなアルキルベンゼンを用いてさらに効率的に合成することができる生成物の中に、2−アリールプロピオン酸誘導体を含む化合物のファミリーのメンバーがある。特に商業的に成功した市販の鎮痛薬であるイブプロフェンは、原料として調製されたイソブチルベンゼンを用いて合成することができる。同様に、本発明の実施形態は、それぞれキシレン−プロピレン及びエチルベンゼン−エチレンから出発して3−イソブチルトルエン及びsec−ブチルベンゼンのようなアルキルベンゼンをさらに効率的に合成するのに用いることができる。
実験例によって以下で本発明をさらに説明する。
【0038】
〔実験例1〕
開始剤を用いずにナトリウム触媒のための固相担体として炭酸カリウムを用いたn−プロピルベンゼンの調製(対照実験)
【0039】
第1の反応器は、2リットル容量の高圧撹拌反応器である。第1の反応器に無水トルエン、無水炭酸カリウム、ナトリウム金属触媒及び分散剤としてのオレイン酸を加えた。次いで第1の反応器を閉じ、第1の反応器の撹拌を開始した。第1の反応器に窒素ガスを流し込んだ。次いで反応塊を約185〜190℃の範囲の温度にて15分間加熱して触媒を活性化した。
【0040】
一方、少量の無水トルエンを第2の反応器に入れた。第2の反応器は500ml容量の撹拌高圧反応器である。第2の反応器の内容物に窒素を流し込み、撹拌下に保持した。第2の反応器の底面の液体排出弁を第1の反応器に接続し、双方の反応器の排出口を接続した。
【0041】
いったん第1の反応器の所望の反応温度が達成されたら、エチレンシリンダーを用いて所望の量のエチレンを第1の反応器に加えた。第1の反応器の圧力はエチレンを添加した当初高まり、エチレンが消費されるにつれてゆっくり低下した。エチレンの所望の消費が認められるまで反応を継続し、次いで反応塊を室温に冷却した。反応塊に所望の量のメタノールを加え、その後、水を加えた。第1の反応器から反応混合物を取り出し、下方の水性相及び上方の有機相を分離した。GCを用いて有機相を分析した。使用したGCはShimadzu-17Aであり、使用したカラムはDB Petro長さ100m(ID:0.25mm、膜厚:0.5ミクロン)であり、FID検出器、注入器温度250℃、検出器温度260℃、初期温度80℃、保持時間2分、加熱速度4℃/分、最終温度250℃で30分間、窒素の流速1.4ml/分、分割比1:80であった。種々の実験例の結果は以下の表1に示すとおりである。
【0042】
触媒担体として炭酸カリウムを用いた実験例1.1及び1.2を示す。
【表1】
【0043】
〔実験例2〕
ナトリウム触媒のための固相担体として炭酸カリウム、及び、開始剤を用いたn−プロピルベンゼンの調製
【0044】
第1の反応器は、2リットル容量の高圧撹拌反応器である。第1の反応器に無水トルエン、無水炭酸カリウム、ナトリウム金属触媒及び分散剤としてのオレイン酸を加えた。次いで第1の反応器を閉じ、第1の反応器の撹拌を開始した。第1の反応器に窒素ガスを流し込んだ。次いで反応塊を約185〜190℃の範囲の温度にて15分間加熱して触媒を活性化した。
【0045】
一方、約184グラムの無水トルエンを第2の反応器に入れ、その中に50〜100ppmのジ−tert−ブチルペルオキシド(DTBP)を開始剤として加えた。第2の反応器は500ml容量の高圧撹拌反応器である。第2の反応器の内容物に窒素を流し込み、撹拌し続けた。第2の反応器の底面の液体排出弁を第1の反応器に接続し、双方の反応器の排出口を接続した。
【0046】
いったん第1の反応器の所望の反応温度が達成されたら、エチレンシリンダーを用いて所望の量のエチレンを第1の反応器に加えた。第1の反応器の圧力はエチレンを添加した当初高まり、エチレンが消費されるにつれてゆっくり低下した。エチレンの所望の消費が認められるまで反応を継続し、次いで反応塊を室温に冷却した。反応塊に所望の量のメタノールを加え、その後、水を加えた。第1の反応器から反応混合物を取り出し、下方の水性相及び上方の有機相を分離した。実験例1のもとで言及したようにGCを用いて有機相を分析した。実験例2.1から2.8の詳細及び結果を以下の表2に示す。
【0047】
開始剤としてのDTBPと共に触媒担体としての炭酸カリウムを用いた実験例2.1から2.8を示す
【表2A】
【0048】
表2の続き
【表2B】
【0049】
〔実験例3〕
開始剤と共にナトリウム触媒のための固相担体として炭酸カリウムを用いたn−プロピルベンゼンの調製
【0050】
この実験例では、固相担体としての炭酸カリウム、金属触媒としてのナトリウム及び開始剤としてのアゾ−イソ−ビスブチロニトリル(AIBN)を用いてn−プロピルベンゼンの調製を行った。方法(200)の工程は、実験例2で言及したのと同様であり、本発明の簡潔さのために同じことは本明細書では再び記載しない。実験例3.1〜3.3の詳細及び結果を以下の表3に示す。
【0051】
開始剤としてのAIBNと共に触媒担体としての炭酸カリウムを用いた実験例3.1〜3.3を示す。
【表3】
【0052】
〔実験例4〕
開始剤と共にナトリウム触媒のための固相担体として炭酸カリウムを用いたn−プロピルベンゼンの調製
【0053】
この実験例では、固相担体としての炭酸カリウム、金属触媒としてのナトリウム及び開始剤としての亜硝酸イソ−アミルを用いてn−プロピルベンゼンの調製を行った。方法(200)の工程は、実験例2で言及したのと同様であり、本発明の簡潔さのために同じことは本明細書では再び記載しない。実験例4.1〜4.3の詳細及び結果を以下の表4に示す。
【0054】
開始剤としての亜硝酸イソ−アミルと共に触媒担体としての炭酸カリウムを用いた実験例4.1〜4.3を示す。
【表4】
【0055】
〔実験例5〕
開始剤と共にリチウム金属触媒のための固相担体として炭酸カリウムを用いたn−プロピルベンゼンの調製
【0056】
この実験例では、固相担体としての炭酸カリウム、金属触媒としてのリチウム及び開始剤としてのジ−tert−ブチルペルオキシド(DTBP)を用いてn−プロピルベンゼンの調製を行った。方法(200)の工程は温度範囲が190〜200℃であることを除いて、実験例2で言及したのと同様であり、本発明の簡潔さのために同じことは本明細書では再び記載しない。実験例5.1及び対照実験(開始剤を使用しない)の詳細及び結果を以下の表5に示す。
【0057】
触媒としてのリチウム金属及び開始剤としてのDTBPと共に触媒担体としての炭酸カリウムを用いた実験例5.1及び対照実験例を示す
【表5】
【0058】
〔実験例6及び7〕
ナトリウム金属触媒のための固相担体として炭酸カリウムを用い、3−フェニルペンタンの部分再生利用と共にアルカリ金属触媒を再生利用するn−プロピルベンゼンの調製
【0059】
この実験例では、固相担体としての炭酸カリウム、金属触媒としてのナトリウム及び開始剤としてのジ−tert−ブチルペルオキシド(DTBP)を用いてn−プロピルベンゼンの調製を行った。方法(200)の工程は実験例2で言及したのと同様であり、本発明の簡潔さのために同じことは本明細書では再び記載しない。液相のみが移動するように加圧下で第1の反応器から反応混合物を抜き取った。残留触媒、炭酸カリウム及び未反応のトルエンを回収するために液相を用いた一方で、3−フェニルペンタンの回収には残りの有機相を用いた。そのように回収した残留触媒及び炭酸カリウムを次いでn−プロピルベンゼンの次の調製サイクルにて少なくとも10〜15回連続して再生利用した。アルカリ金属触媒の再生利用についての実験例6.1〜6.5の詳細及び結果を以下の表6に示す。触媒の再生利用及び3−フェニルペンタンの部分再生利用についての実験例7.1〜7.2の詳細及び結果を以下の表7に示す。
【0060】
触媒としてのナトリウム金属と共に触媒担体としての炭酸カリウムを用い、アルカリ金属触媒の再生利用を用いた実験例6.1〜6.5を示す。
【表6】
【0061】
触媒としてのナトリウム金属と共に触媒担体としての炭酸カリウムを用い、触媒の再生利用及び3−フェニルペンタンの部分再生利用を用いた実験例7.1及び7.2を示す。
【表7】
【0062】
〔実験例8〕
n−プロピルベンゼンの精製
【0063】
n−プロピルベンゼンの精製には、大気圧分留アセンブリを用いた。分留アセンブリは、50mm径で1500mm高の充填蒸留カラムをさらに有する10リットル容量の撹拌ジャケット付きの蒸留装置、還流凝縮器、蒸留受器、上部と下部の温度計等から成る。実験例1〜7のいずれかから得られた10kgの粗精製のn−プロピルベンゼンを分留アセンブリに加えた。熱油循環装置を用いて、粗精製物を撹拌しながら加熱した。上部温度が110〜125℃に達し、下部温度が150〜155℃に達し、還流比が「2」となするまでトルエンを回収した。回収したトルエンを次のn−プロピルベンゼンの合成の実行にて再生利用した。純粋なn−プロピルベンゼンは165〜170℃の上部温度及び180〜190℃の下部温度で回収された。n−プロピルベンゼンの回収の間、3〜4の還流比を維持した。留分、蒸留残渣はすべて実験例1及び2のもとで言及されたようなGC用いて分析した。n−プロピルベンゼン留分の純度はGC分析によって99.82%であることが見いだされた。
【0064】
本発明の利点
(1)方法(200)は、3−フェニルペンタンのような高度にアルキル化された生成物、アルカリ金属触媒及び選択性を改善する固相担体の再利用を促進し、廃水負荷そして廃棄物処理を減らし、従って経済的に且つ商業的に魅力的である。
(2)非プロトン性の性質である開始剤は非常に少量で必要とされ、所望の生成物に向かう出発アルキルベンゼンの選択性を改善する。
(3)方法(200)は、無水試薬を使用し、反応域では水を使用しないので、有害性が低い。
(4)炭酸カリウム粉末は、その上で金属触媒を広げるための大量の表面積を提供することによって触媒の分布を改善し、それによって反応のための大質量の転換領域を可能にする。
(5)炭酸カリウム粉末は、アルカリ金属触媒とアルキルベンゼンの間での接触面積を改善し、それによって混合を改善し、第1の反応器全体にわたってアルカリ金属触媒の利用性を確保する。
(6)カリウムに比べて、ナトリウム及びリチウムは入手し易く、取り扱うのに有害性が低く、低い/少ない原子量のためにさらに少量で使用される。
【0065】
本実施形態に記載された本発明によって本発明の前述の目的が達成され、従来技術の技法及びアプローチに関連する課題及び欠点が克服される。好まれる実施形態の詳細な説明が本明細書で提供されるが、本発明は種々の形態で具現化され得ることが理解されるべきである。従って、本明細書で開示される特定の詳細は、限定としてではなく、むしろ、クレームのための根拠及び実際に適宜詳細な系、構造又は事項にて本発明を採用するように当業者を教示するための代表的な根拠として解釈されるべきである。上記に記載されたような本発明の実施形態及び本明細書で開示された方法は、当業者にさらなる改変及び変更を提案するであろう。そのようなさらなる改変及び変更は、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく為され得る。
図1