(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6564189
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】心臓カテーテル検査装置、心臓カテーテル検査システム、及び心臓カテーテル検査装置の作動方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/0452 20060101AFI20190808BHJP
A61B 5/0402 20060101ALI20190808BHJP
A61B 5/0408 20060101ALI20190808BHJP
A61B 5/0478 20060101ALI20190808BHJP
A61B 5/0492 20060101ALI20190808BHJP
A61B 18/12 20060101ALI20190808BHJP
【FI】
A61B5/04 312A
A61B5/04 310N
A61B5/04 300J
A61B18/12
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-3225(P2015-3225)
(22)【出願日】2015年1月9日
(65)【公開番号】特開2016-127890(P2016-127890A)
(43)【公開日】2016年7月14日
【審査請求日】2017年12月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】510094724
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立循環器病研究センター
(73)【特許権者】
【識別番号】000230962
【氏名又は名称】日本光電工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】特許業務法人 信栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中沢 一雄
(72)【発明者】
【氏名】稲田 慎
(72)【発明者】
【氏名】西原 辰夫
(72)【発明者】
【氏名】滝澤 晃司
(72)【発明者】
【氏名】湯瀬 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼良 直樹
【審査官】
清水 裕勝
(56)【参考文献】
【文献】
特表平08−504653(JP,A)
【文献】
特開2008−237882(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/04−5/053
A61B 18/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カテーテル検査室外に配置された計測装置により計測された第一心電図における、洞調律時の心拍の第一波形及び不整脈時の不整脈波形を取得する取得部と、
カテーテル検査室内で待機する患者に取り付けられた電極を介して第二心電図を計測する計測部と、
前記第一波形と、前記第二心電図における洞調律時の心拍の第二波形とに基づいて、前記第一心電図と前記第二心電図とを統計的にマッチングさせるための補正係数を算出する第一算出部と、
前記第一心電図に含まれる前記不整脈波形と前記補正係数とに基づいて、心臓カテーテルによるペーシングの応答波形と比較する対象となる比較波形を生成する波形生成部と、
前記応答波形と前記比較波形とのマッチング率を算出する第二算出部と、
を備える、心臓カテーテル検査装置。
【請求項2】
前記第一心電図と前記第二心電図は、12誘導心電図である、請求項1に記載の心臓カテーテル検査装置。
【請求項3】
カテーテル検査室外に配置された計測装置と、
前記計測装置により計測された第一心電図を取得して解析し、当該第一心電図から洞調律時の心拍の第一波形及び不整脈時の不整脈波形を抽出し、前記第一波形と前記不整脈波形とを外部に出力可能な心電図解析装置と、
請求項1または請求項2に記載の心臓カテーテル検査装置と、
を備える、心臓カテーテル検査システム。
【請求項4】
前記計測装置は、携帯型のホルター心電計である、請求項3に記載の心臓カテーテル検査システム。
【請求項5】
前記計測装置は、ベッドサイドモニタである、請求項3に記載の心臓カテーテル検査システム。
【請求項6】
心臓カテーテル検査装置の作動方法であって、
カテーテル検査室外に配置された計測装置により計測された第一心電図における、洞調律時の心拍の第一波形及び不整脈時の不整脈波形を取得するステップと、
カテーテル検査室内で待機する患者に取り付けられた電極を介して第二心電図を計測するステップと、
前記第一波形と、前記第二心電図における洞調律時の心拍の第二波形とに基づいて、前記第一心電図と前記第二心電図とを統計的にマッチングさせるための補正係数を算出するステップと、
前記第一心電図に含まれる前記不整脈波形と前記補正係数とに基づいて、心臓カテーテルによるペーシングの応答波形と比較する対象となる比較波形を生成するステップと、
前記応答波形と前記比較波形とのマッチング率を算出するステップと、
を含む、心臓カテーテル検査装置の作動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不整脈の病巣の位置を同定する心臓カテーテル検査装置、心臓カテーテル検査システム、及び心臓カテーテル検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
心室性期外収縮等の不整脈が発生した場合、心臓カテーテルを用いてその原因となる異常興奮部位を選択的に焼灼(アブレーション)して治療することが知られている。この治療を行うには、不整脈惹起性の病巣の位置を正確に同定することが重要である。例えば、特許文献1には、不整脈惹起性の病巣の位置を特定する機能を有する装置が開示されている。
【0003】
特許文献1に記載の装置を用いてアブレーション治療を行う場合、医師は、まず、心臓カテーテル検査室のベッド上で仰臥位となった患者に対して電極を取り付けて、その患者の心電図を計測する。この計測により得られた心電図の中から、患者の心臓にて自然発生した不整脈の信号波形を取得する。そして、カテーテル治療中に、取得した不整脈の信号波形と心臓に対する電気刺激(ペーシング)の応答波形とを比較することにより、患者の心臓における不整脈惹起性の病巣の位置を特定し、医師はその位置に対してアブレーションを行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5160245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アブレーション治療を受ける場合、治療前の患者は緊張状態になりやすい。このため、不整脈の信号波形を治療前の限られた時間内で取得できない場合がある。この場合、不整脈の病巣の位置を正確に特定することが困難となり、アブレーション治療を行うことができなくなってしまう。そこで、例えば患者が携帯可能なホルター心電計等を用いてカテーテル検査室外で事前に長時間の心電図を取得しておき、その長時間心電図に含まれる不整脈の信号波形をアブレーション治療に利用することが考えられる。
【0006】
しかしながら、ホルター心電計等を用いて取得された長時間心電図に含まれる不整脈の波形を、ペーシングの応答波形と比較しても、不整脈の病巣の位置を正確に特定することはできず、長時間心電図をそのままアブレーション治療に利用することができなかった。
【0007】
そこで、本発明は、カテーテル検査室外で計測された心電図を用いて不整脈の病巣の位置を正確に特定することができ、アブレーション治療を行うことが可能な心臓カテーテル検査装置、心臓カテーテル検査システム、及び心臓カテーテル検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の心臓カテーテル検査装置は、
カテーテル検査室外に配置された計測装置により計測された第一心電図における、洞調律時の心拍の第一波形及び不整脈時の不整脈波形を取得する取得部と、
カテーテル検査室内で待機する患者に取り付けられた電極を介して第二心電図を計測する計測部と、
前記第一波形と、前記第二心電図における洞調律時の心拍の第二波形とに基づいて、前記第一心電図と前記第二心電図とを統計的にマッチングさせるための補正係数を算出する第一算出部と、
前記第一心電図に含まれる前記不整脈波形と前記補正係数とに基づいて、心臓カテーテルによるペーシングの応答波形と比較する対象となる比較波形を生成する波形生成部と、
前記応答波形と前記比較波形とのマッチング率を算出する第二算出部と、
を備える。
【0009】
カテーテル検査室で待機している患者が緊張状態になり不整脈波形が取得できない場合であっても、洞調律時の心拍の波形(第二波形)は取得できる。上記構成では、当該第二波形と、事前に計測された第一心電図に含まれる洞調律時の心拍の波形(第一波形)とを用いて補正係数を求めている。そして、ペーシングの応答波形と比較する対象となる比較波形を生成する際に、この補正係数を利用するため、第一心電図の計測と第二心電図の計測の条件の相違(例えば、心電図を取得するための電極を貼り付ける位置や心電図を計測する際の患者の姿勢などの相違)の影響を軽減することができる。このように生成された比較波形とペーシングの応答波形とのマッチング率を確認することにより、医師は、心臓カテーテル治療の際に不整脈の病巣の位置を正確に特定することができ、アブレーション治療を行うことができる。
【0010】
また、本発明の心臓カテーテル検査装置において、
前記第一心電図と前記第二心電図は、12誘導心電図であっても良い。
【0011】
この構成によれば、12誘導心電図を用いることで、補正係数の精度が向上するため、心臓カテーテル治療の際に不整脈の病巣の位置をさらに正確に特定することができる。
【0012】
また、本発明の心臓カテーテル検査システムは、
カテーテル検査室外に配置された計測装置と、
前記計測装置により計測された第一心電図を取得して解析し、当該第一心電図から洞調律時の心拍の第一波形及び不整脈時の不整脈波形を抽出し、前記第一波形と前記不整脈波形とを外部に出力可能な心電図解析装置と、
上記の心臓カテーテル検査装置と、
を備える。
【0013】
このシステムによれば、カテーテル検査室で待機している患者が緊張状態になり不整脈波形が取得できない場合であっても、心臓カテーテル治療の際に不整脈の病巣の位置を正確に特定することができ、アブレーション治療を行うことができる。
【0014】
また、本発明の心臓カテーテル検査システムにおいて、
前記計測装置は、携帯型のホルター心電計であっても良い。
【0015】
このシステムによれば、携帯型のホルター心電計を用いることにより、活動および非活動(睡眠等)の時間帯を含む長時間の心電図を取得することができる。このため、患者の不整脈波形を事前に確実に取得することができる。また、不整脈の病巣が複数存在する場合であっても、それぞれの病巣に基づいて自然発生する不整脈波形を事前に取得することができる。
【0016】
また、本発明の心臓カテーテル検査システムにおいて、
前記計測装置は、ベッドサイドモニタであっても良い。
【0017】
このシステムによれば、ベッドサイドモニタを用いることにより、例えば入院している患者の長時間の心電図を事前に取得することができる。このため、患者の不整脈波形を事前に確実に取得することができる。また、不整脈の病巣が複数存在する場合であっても、それぞれの病巣に基づいて自然発生する不整脈波形を事前に取得することができる。
【0018】
また、本発明の心臓カテーテル検査方法は、
カテーテル検査室外に配置された計測装置により、洞調律時の心拍の第一波形及び不整脈時の不整脈波形を含む第一心電図を計測するステップと、
カテーテル検査室内で待機する患者に取り付けられた電極を介して第二心電図を計測するステップと、
前記第一波形と、前記第二心電図における洞調律時の心拍の第二波形とに基づいて、前記第一心電図と前記第二心電図とを統計的にマッチングさせるための補正係数を算出するステップと、
前記第一心電図に含まれる前記不整脈波形と前記補正係数とに基づいて、心臓カテーテルによるペーシングの応答波形と比較する対象となる比較波形を生成するステップと、
前記応答波形と前記比較波形とのマッチング率を算出するステップと、
を含む。
【0019】
この方法によれば、カテーテル検査室で待機している患者が緊張状態になり不整脈波形が取得できない場合であっても、心臓カテーテル治療の際に不整脈の病巣の位置を正確に特定することができ、アブレーション治療を行うことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の心臓カテーテル検査装置、心臓カテーテル検査システム、及び心臓カテーテル検査方法によれば、カテーテル検査室外で計測された心電図を用いて不整脈の病巣の位置を正確に特定することができ、アブレーション治療を行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の実施形態に係る心臓カテーテル検査システムの概要図である。
【
図2】(a)〜(d)は、第二不整脈波形を生成する過程を説明するための図である。
【
図3】心臓カテーテル検査システムの動作を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本実施形態の一例について、図面を参照して詳細に説明する。
【0023】
図1に示すように、心臓カテーテル検査システム1は、ホルター心電計(計測装置の一例)10と、心電図解析装置20と、心臓カテーテル検査装置30とを備えている。
【0024】
ホルター心電計10は、患者が携帯可能であり日常生活中の心電図を計測可能な装置であり、心臓カテーテル治療を受ける前の患者の例えば24時間の心電図である第一心電図を計測する。第一心電図は、ML誘導の心電図である。ML誘導(Mason−Likar誘導)とは、標準12誘導の電極のなかで、四肢誘導の電極(R、L、F、RF)を体幹内に位置させることによって、標準12誘導に相当する心電図を得ることができる12誘導である。四肢を動かしながら心電図を記録する際に採用されることが多い。なお、計測装置として、患者のベッドサイドに設置されるベットサイドモニタを用いても良い。この場合は、標準12誘導心電図を計測する。
【0025】
心電図解析装置20は、ホルター心電計10で計測されたML誘導の第一心電図を解析する。心電図解析装置20は、第一心電図の中から、洞調律時の心拍の波形である第一洞調律波形(第一波形の一例)と不整脈が発生したときの波形である第一不整脈波形とを抽出する。心電図解析装置20は、心臓カテーテル検査装置30と通信可能に接続されており、抽出した第一洞調律波形と第一不整脈波形とを出力端子から外部に出力する。
【0026】
心臓カテーテル検査装置30は、取得部31と、計測部32と、係数算出部(第一算出部の一例)33と、波形生成部34と、電気刺激発生部35と、相関算出部(第二算出部の一例)36とを備えている。
【0027】
取得部31は、心電図解析装置20から出力された12誘導の第一洞調律波形と12誘導の第一不整脈波形とを取得する。また取得部31は、取得した12誘導の第一洞調律波形から、導出18誘導心電図を作成することもできる。
【0028】
計測部32は、心臓カテーテル治療を受ける際の患者の心電図である第二心電図を計測する。第二心電図は、心臓カテーテル検査装置30に接続された生体電極Aを介して計測される。本例では生体電極Aとして、標準12誘導の心電図を測定する胸部電極および四肢電極が用いられる。生体電極Aは、カテーテル検査室内の治療台に乗せられた姿勢(仰臥位)の患者の体表面に装着される。
【0029】
計測部32は、第二心電図の中から、洞調律時の心拍の波形である第二洞調律波形(第二波形の一例)を抽出する。なお、計測部32は、第二洞調律波形から、導出18誘導心電図を作成することもできる。また、計測部32は、治療中、心臓カテーテルBによるペーシングによって発生する応答波形(擬似波形)を抽出する。心臓カテーテルBは、電気刺激発生部35に接続されており、患者の例えば大腿部の血管に挿入される。
【0030】
係数算出部33は、第一洞調律波形と第二洞調律波形とを用いて行列演算を行い、両波形の相関を略一致させる補正係数を算出する。補正係数は、例えば6個の電極で計測された12誘導の洞調律波形の各々で算出される。このようにして算出された12個の補正係数が、第一心電図と第二心電図とを統計的にマッチングさせるための補正係数として使用される。
【0031】
波形生成部34は、12誘導の第一不整脈波形に対して、係数算出部33で算出された各補正係数を用いて行列演算を行い、心臓カテーテル治療を受ける際の患者から取得されるであろうと推定される不整脈波形である第二不整脈波形を生成する。本例では、12誘導の心電図を用いるため、第二不整脈波形は、各第一不整脈波形に対してそれぞれ算出されて、合計12個の波形が生成される。この第二不整脈波形が、ペーシングの応答波形と比較する対象の比較波形になる。
【0032】
電気刺激発生部35は、ペーシングを行うための電気刺激信号を発生する。電気刺激発生部35から出力された電気刺激信号は心臓カテーテルBに送られる。患者の心臓内に挿入された心臓カテーテルBの先端部の電極から心筋に電気刺激を与えることで人工的に心筋の興奮を誘発させて、心電図にペーシングの応答波形を発生させる。
【0033】
相関算出部36は、ペーシングの応答波形と第二不整脈波形とのマッチング率を算出する。マッチング率は、12誘導の各波形毎に算出される。
【0034】
次に、
図2を参照して、第二不整脈波形を生成する過程を説明する。
図2(a)は、12誘導中の一部の波形例であり、ホルター心電計10によって計測された第一心電図の第一洞調律波形の一例を示す。
図2(b)は、12誘導中の一部の波形例であり、生体電極Aによって計測された第二心電図の第二洞調律波形の一例を示す。
【0035】
心電図は、心臓を中心とした起電力のベクトルを用いて表示すことができる。したがって、第一心電図と第二心電図との関係は、以下のような式1で表わすことができる。
【0036】
【数1】
・・・(式1)
V’は、第二心電図の波形、Vは、第一心電図の波形を示す。
iは、第二心電図の12誘導のうちのそれぞれの誘導を示す。
jは、第一心電図の12誘導のうちのそれぞれの誘導を示す。
{α
i,j}は、行列計算を示す。
【0037】
係数算出部33は、第一洞調律波形と第二洞調律波形とを式1に代入して行列演算することにより、両波形の相関が略一致するような補正係数である{α
i,j}を算出する。
【0038】
図2(c)は、12誘導中の一部の波形例であり、ホルター心電計10によって計測された第一心電図の第一不整脈波形の一例を示す。
波形生成部34は、補正係数である{α
i,j}を用いて、第一不整脈波形に対して行列演算を行うことにより、
図2(d)に示すような不整脈波形を求める。このようにして求められた不整脈波形が、生体電極Aを介して計測されるであろうと推定される第二不整脈波形となる。
【0039】
次に、
図3を参照して、心臓カテーテル検査システム1を用いた心臓カテーテル検査方法を説明する。
【0040】
先ず、事前に、心臓カテーテル治療が行われる前の緊張していない状態、即ち、患者の通常の生活状態において、患者の第一洞調律波形と第一不整脈波形とが含まれる第一心電図が、カテーテル検査室外で患者に携帯されたホルター心電計10によって計測される(ステップS101)。
【0041】
計測後、ホルター心電計10で計測された第一心電図が心電図解析装置20によって読み込まれ、第一洞調律波形と第一不整脈波形とが、第一心電図から抽出されるとともに、心電図解析装置20から心臓カテーテル検査装置30へ出力される(ステップS102)。
【0042】
心電図解析装置20から出力された第一洞調律波形と第一不整脈波形とが、心臓カテーテル検査装置30の取得部31によって取得される(ステップS103)。
【0043】
次に、心臓カテーテル治療の前に検査室内の治療台上で仰臥位の状態で待機している患者から、第二心電図が計測部32によって計測され、第二心電図から第二洞調律波形が抽出される(ステップS104)。
【0044】
続いて、ステップS103で取得された12誘導の第一洞調律波形とステップS104で抽出された12誘導の第二洞調律波形とを用いて行列演算を行い、各誘導にいて、第一洞調律波形と第二洞調律波形との相関を略一致させるための補正係数が、係数算出部33によってそれぞれ算出される(ステップS105)。
【0045】
続いて、ステップS105で算出された各補正係数を用いて、ステップS103で取得された12誘導の第一不整脈波形に対して行列演算が行われて、各々の第一不整脈波形に対応する第二不整脈波形(比較波形)が、波形生成部34によって生成される(ステップS106)。
【0046】
続いて、患者の心臓内に挿入された心臓カテーテルBを用いてペーシングが行われる。ペーシングによって誘発された心筋の興奮は、第二心電図に含まれる応答波形として、生体電極Aを介して計測部32によって計測されるとともに、計測部32によって第二心電図から抽出される。抽出された12誘導の応答波形とステップS106で生成された12誘導の第二不整脈波形との各マッチング率が、相関算出部36によって算出される(ステップS107)。
【0047】
ペーシングによって発生した応答波形、応答波形と第二不整脈波形とのマッチング率等は、心臓カテーテル検査装置30に設けられた表示部(図示省略)に表示される。表示された応答波形、マッチング率等が確認されながら、心臓カテーテルBによるペーシングが繰り返し行われる。各ペーシングにおいて算出された標準12誘導の心電図のマッチング率に基づいて、総合的に最もマッチング率の高い応答波形が特定される。そして、特定された応答波形を発生させた位置が不整脈の発生起源(病巣)として同定される(ステップS108)。同定された病巣の部位に対してアブレーション治療が実行される。
【0048】
ところで、アブレーション治療を受ける前の患者は緊張状態になりやすく、その影響で患者から自然発生する不整脈の信号波形を治療前の限られた時間内で取得することができない場合がある。また、不整脈の病巣が複数存在する場合には、それぞれの病巣に基づいて自然発生する不整脈の信号波形を取得する必要がある。しかし、治療前の限られた時間内で全ての病巣に基づく不整脈の信号波形を取得することが困難な場合がある。心臓カテーテルを用いたペーシングに対する応答波形と比較の対象になる心電図の波形を取得できない場合、不整脈の病巣の位置を正確に特定することが困難となり、アブレーション治療を行うことができなくなってしまう。
【0049】
そこで、例えばホルター心電計等を用いてカテーテル検査室外で事前に長時間の心電図を取得し、その長時間心電図に含まれる不整脈の信号波形をアブレーション治療に利用することが考えられる。しかしながら、ホルダー心電計を用いた心電図計測とカテーテル検査室での心電図計測とでは、心電図を取得するための電極を貼り付ける位置や、心電図を計測する際の患者の姿勢が異なり、両計測で取得される心電図の波形の形状は同じとは限らない。このため、ホルター心電計等を用いて取得された長時間心電図に含まれる不整脈の波形を、ペーシングに対する応答波形と比較しても、不整脈の病巣の位置を正確に特定することはできない。このように、従来は、長時間心電図をそのままアブレーション治療に利用することができなかった。
【0050】
これに対し、本実施形態の心臓カテーテル検査システム1、心臓カテーテル検査装置30、及び心臓カテーテル検査方法によれば、カテーテル検査室外で事前に計測した24時間の第一心電図に含まれる第一洞調律波形と第一不整脈波形とを用いて、カテーテル検査時に発生するであろうと推定される第二不整脈波形を各誘導毎に演算処理によって生成している。
【0051】
カテーテル検査室で待機している患者が緊張状態になり自然発生の不整脈の波形が取得できない場合であっても、その患者の洞調律時の心拍の波形(第二洞調律波形)は取得できる。そこで、この第二洞調律波形と事前に計測された第一洞調律波形とから両波形の相関が略一致する補正係数を算出する。そして、この補正係数を用いて、事前に計測された第一不整脈波形に対して演算を行い、カテーテル検査時に発生するであろうと推定される第二不整脈波形を生成している。このため、第一心電図の計測と第二心電図の計測の条件、例えば心電図を計測するための12誘導の電極を貼り付ける位置や心電図を計測する際の患者の姿勢などが相違してもその違いの影響を受けることなく、カテーテル検査時に自然発生する患者の不整脈波形と相関の高い第二不整脈波形を生成することができる。このように生成された第二不整脈波形を利用してペーシングを行うことで、アブレーション治療を行う位置を精度よく正確に特定することができる。
【0052】
また、本例では、12誘導の心電図の各誘導における波形について補正係数を求め、各誘導について第二不整脈波形を生成している。このため、精度良く、アブレーションを行う位置を特定することができる。
【0053】
また、携帯型のホルター心電計10を用いることにより、活動および非活動(睡眠等)の時間帯を含む長時間の心電図を取得することができる。また、ベッドサイドモニタを用いてもよく、この場合、例えば入院している患者の長時間の心電図を事前に取得することができる。このため、患者の不整脈波形を事前に確実に取得することができる。また、長時間の心電図を利用することで、不整脈の病巣が複数存在する場合であっても、それぞれの病巣に基づいて自然発生する不整脈波形を事前に漏れなく取得することができる。
【0054】
このように、カテーテル検査室で待機している患者が緊張状態になり不整脈波形が取得できない場合であっても、生成された第二不整脈波形とペーシングの応答波形とのマッチング率を確認することにより、医師は、心臓カテーテル治療の際に不整脈の病巣の位置を正確に特定することができ、アブレーションによって確実に病巣を治療することができる。
【0055】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されず、適宜、変形、改良等が自在である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数値、形態、数、配置場所等は、本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0056】
例えば、上記の例では、12誘導や18誘導の複数の心拍波形を含む心電図を用いる例を説明したがこの例に限らない。少なくとも1つの心拍波形を含む心電図であれば本発明を適用することができる。
【0057】
また、本例の心臓カテーテル検査システム1における各機能をどの装置に実装するかについては、適宜選択可能である。例えば、第一心電図から第一洞調律波形と第一不整脈波形とを抽出する機能を、心臓カテーテル検査装置30が有するように構成しても良い。
【符号の説明】
【0058】
1:心臓カテーテル検査システム、10:ホルター心電計(計測装置の一例)、20:心電図解析装置、30:心臓カテーテル検査装置、31:取得部、32:計測部、33:係数算出部(第一算出部の一例)、34:波形生成部、35:電気刺激発生部、36:相関算出部(第二算出部の一例)