【発明が解決しようとする課題】
【0005】
石炭火力発電所の稼働が増えるのに伴い、石炭燃焼灰、とりわけFAの生成量が増大し、その処理を如何にすべきかが問題となっている。FAの再利用に際して解決すべき主要な技術的課題として、(1)FAの粒度調整、および(2)FA中の基準値(土壌環境基準)を超えた重金属の除去の2つがある。
【0006】
第1の課題であるFAの粒度調整は、FAでは炭種、燃焼条件等によってその形状や量も異なるが、多孔質な脆弱性粗粒子(ガラス化溶融物、炭化物)を含んでいる場合が多く、粒度構成が不安定であることから生ずる課題である。すなわち、粒度構成が不安定であると、再利用の用途が限定されるため、各種用途に適した粒度構成となるように調整して、広範な用途に適合するようにすることが望まれる。
【0007】
第2の課題であるFA中の基準値(土壌環境基準)を超えた重金属の除去は、FA中に存在する重金属(例えば、六価クロム、セレン、ヒ素、フッ素、ホウ素など)が基準値以上であると、再利用が制限されることから生ずる課題である。重金属の除去は、空気などの気体中で粒度を調整する乾式法では困難であるため、水洗浄の湿式処理に関する研究開発(先行事例として本明細書「0044」参照)等が進められたものの、実用に供するまでには至っていない。
現状の対応では、重金属の溶出抑制の観点から、FAに水と共にセメント等を配合し、水和反応による重金属の固定化処理が行われてきている。しかし、得られる硬化物ではFAの大量利用として期待の大きい土木資材等利用を進める上での性状・形状、品質、コスト等の面で難点があり、FA利用は、概してセメント原料としての低サイクル段階にあるのが現状である。
【0008】
本発明は、このような状況に鑑みて開発されたものであって、粒度調整および重金属の効率的な除去を可能にする石炭燃焼灰の処理装置および該装置を使用した石炭燃焼灰の処理方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
FAの粒度調整と重金属の除去の2つの課題に分けて、課題を解決するための手段を説明する。
【0010】
(FAの粒度調整)
FAの粒度調整を行うには、FA中の脆弱性粗粒子を破壊する必要がある。本発明では、所定深さまで液体を満たした容器中にFAと粒状物を入れ、粒状物に液体噴流とFAを吹き付けて、FAと粒状物を互いに衝突させれば、脆弱性粗粒子が破壊されると着想した(
図1)。粒状物の材料は、適当な硬度を有するものであれば、任意のものでよく、適当な材料としては、例えば、アルミナ、ジルコニアがあげられる。また、粒状物は、作業時に転がりやすい方が粉砕効果は大きいと考えられるので、球状のものが好ましい。衝突によって小さくなったFA粒子には流動抵抗が作用するので、当該FA粒子は、液体の上向き方向の流れによって浮上する。
【0011】
その際、上昇する液体の空塔速度を調整することによって、上昇するFA粒子の粒径を制御することができる。空塔速度の調整は、以下のようにして行う。
FA粒子は、実際は球状ではないが、簡単のために直径D
pの球で近似する。FA粒子は小さく、比較的ゆっくりと動いているので、非定常力は無視でき、球に働く力の釣り合いは次式で近似できる。
【0012】
【数1】
【0013】
ここで、左辺はFA粒子の自重、右辺第1項はFA粒子に働く浮力、右辺第2項はFA粒子に働く流動抵抗である。また、r
pはFA粒子の密度、gは重力加速度、r
Lは流体の密度、C
Dは抵抗係数、v
pはFA粒子の上昇速度である。なお、抵抗係数はv
pの関数であって次式で与えられる。
【0014】
【数2】
【0015】
【数3】
【0016】
【数4】
【0017】
本願請求項1に記載された石炭燃焼灰の処理装置は、底部を有し、液体が充填された内径Dの円筒形容器、又は底部を有し、液体が充填された内接円径Dの多角形の平面形状をもつ容器と、前記容器の前記底部に配置された多数の粒状物と、前記容器の前記底部から所定高さの箇所に、下向きに液体、気体又は気液二相流体を吹き込む第1吹き込み手段とを備え
、前記容器中に、前記石炭燃焼灰中のフライアッシュと多数の粒状物を入れ、前記第1吹き込み手段から前記粒状物に噴流を吹き付け、前記フライアッシュと前記粒状物を互いに衝突させて前記フライアッシュ中の脆弱性粒子を破壊させることによって、前記フライアッシュの粒度調整を行うとともに、前記噴流により前記液体を攪拌することによって、前記フライアッシュ表面から濃度が一定値まで低下する個所までの範囲によって表される重金属の濃度境界層を薄くして前記フライアッシュ中の重金属を溶出し易くし、これにより前記石炭燃焼灰を処理するように構成されていることを特徴とするものである。
【0018】
ここで、Reはレイノルズ数、nは流体の動粘度である。FA粒子は小さいので、レイノルズ数が10
5を超えることはありえない。
上の関係式から明らかなように、レイノルズ数Reはv
pの関数であるためv
pを陽に求めることはできない。そこで、まずv
pに適当な値を代入してReを求め、これから抵抗係数C
Dを計算して式(1)に代入し、v
pを求める。もし、これらのv
pの値が一致していればそこで計算を打ち切り、その値をv
pとするが、一致しなければ一致するまで計算を繰り返せばよい。FA粒子が球状でない場合は、その形状に応じてC
D を求めることになる。
【0019】
FA中の脆弱性粗粒子を破壊するには、上述のように、粒状物に液体噴流を吹き付けるのが最も効果的であるが、液体噴流の代わりに、気泡噴流や気液二相噴流を吹き付けてもよい(
図2)。
【0020】
(FA中の重金属の除去)
図3は、ある重金属XのFA表面での濃度とその周囲の液体中での濃度勾配を示した模式図である。
図3において横軸zは、FA表面からの距離(z=0はFA表面)を示し、縦軸Cは重金属Xの濃度を示す。すなわち、
図3は、FA表面(z=0)において重金属Xが濃度C
1を有し、FA表面から離れる(zが大きくなる)につれて重金属Xの濃度が徐々に低下し、濃度境界層を超えると重金属Xの濃度が一定値C
2になることを示している。重金属の液体中への溶出は、濃度勾配に支配され、濃度勾配が大きい程、溶出量は大きくなる。濃度勾配は、FAの周囲の濃度境界層の厚さに関係するが、濃度境界層が薄い程、濃度勾配が大きくなるので、重金属が溶出しやすくなる。したがって、重金属の溶出を容易にするためには濃度境界層を薄くする必要があるが、濃度境界層を薄くするには、FAが含まれる液体を出来るだけ強く攪拌しなければならない。
【0021】
本発明では、液体を攪拌する手段として、インペラ(攪拌羽根)による機械的攪拌ではなく、本発明者のうち1名が開発した噴流吹き込み式攪拌方法を採用する。これは、機械的攪拌ではFAがインペラとの衝突により粒度が非常に小さくなって粒度分布を制御しにくくなること、FAとインペラとの衝突によりインペラ自体が破損するおそれがあることを考慮すると、機械的攪拌方法よりも噴流吹き込み式攪拌方法の方が好ましいからである。
【0022】
上述の噴流吹き込み式攪拌方法を採用すると、以下のような2つの利点も得られる。
(1)乱れ効果
気泡の存在によりFAの周囲の液体流れの乱れが大きくなって濃度境界層を薄くする「乱れ効果」が得られる。
(2)ジェットドロップ効果
マイクロジェット(大きさの異なる気泡の合体時に圧力の高い小さな気泡から圧力の低い大きな気泡の内部に向かって高速のガス噴流が発生するが、その際に小さな気泡の背後の液体が大きな気泡の内部に侵入する高速の液体噴流のこと)が分裂して生成される多数の微細な液滴(ジェットドロップ)がFA表面の濃度境界層を破壊することにより重金属の溶出が著しく促進される「ジェットドロップ効果」が得られる。
【0023】
上述の噴流吹き込み式攪拌方法は、特許第3058876号公報および同第4195782号公報において公開されている。
図4を参照して、噴流吹き込み式攪拌方法について説明する。まず内径Dの円筒形の有底容器又は内接円径Dの多角形の平面形状をもつ有底容器を準備する。容器内には、攪拌しようとする液体が収容されている。液体内に気体又は液体を吹き込むための1基又は複数基のノズルが液面から深さH
1 のところに上向きに配置されている。深さH
1 と内径又は内接円径Dとの比H
1 /Dは、0.3〜1(好ましくは0.5)の範囲にある。なお、容器の底から液面での深さがH
1 以上であり、容器の底からノズルまでの距離が0.5D〜2Dの範囲にあることが好ましい。このような装置において、ノズルから液体内に吹き込まれる気体又は液体の流量Q
aを、ρ
L Q
a 2 /(σ
L D
3 )=10
-5(ここで、ρ
L は液体又は水の密度、σ
L は液体又は水の表面張力)を満足する流量以上とし、かつ、気体の気泡又は吹き込まれた液体が液面を吹き抜けない流量以下にすると、容器内の液体は攪拌されることとなる。
【0024】
本願請求項1に記載された石炭燃焼灰の処理装置は、底部を有し、液体が充填された内径Dの円筒形容器、又は底部を有し、液体が充填された内接円径Dの多角形の平面形状をもつ容器と、前記容器の前記底部に配置された多数の粒状物と、前記容器の前記底部から所定高さの箇所に、下向きに液体、気体又は気液二相流体をフライアッシュとともに吹き込む第1吹き込み手段とを備えていることを特徴とするものである。
【0025】
本願請求項2に記載された石炭燃焼灰の処理装置は、前記請求項1の装置において、液面から深さH
inの箇所に、気体、液体又は気液二相流体を吹き込む第2吹き込み手段をさらに備え、前記深さH
inと内径又は内接円径Dとの比H
in /Dが0.3〜1の範囲にあり、前記第2吹き込み手段から液体内に吹き込まれる気体、液体又は気液二相流体の流量Q
aが、ρ
L Q
a 2 /(σ
L D
3 )=10
-5(ここで、ρ
L は液体又は水の密度、σ
L は液体又は水の表面張力)を満足する流量以上、かつ、気体の気泡又は吹き込まれた液体が液面を吹き抜けない流量以下であることを特徴とするものである。
【0026】
本願請求項3に記載された石炭燃焼灰の処理装置は、前記請求項1又は2の装置において、前記容器の前記底部が半球状又は角錐状に形成されていることを特徴とするものである。
【0027】
本願請求項4に記載された石炭燃焼灰の処理装置は、前記請求項1から請求項3までのいずれか1項の装置において、前記粒状物がアルミナボール又はジルコニアボールであることを特徴とするものである。
【0028】
本願請求項5に記載された、前記請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載された処理装置を使用した石炭燃焼灰の処理方法は、処理しようとするフライアッシュを前記容器内に前記第1吹き込み手段から液体、気体又は気液二相流体とともに投入する第1工程を含むことを特徴とするものである。
【0029】
本願請求項6に記載された石炭燃焼灰の処理方法は、前記請求項5に記載された方法において、前記第1工程に引き続き、前記第2吹き込み手段から気体、液体又は気液二相流体を吹き込む第2工程をさらに含むことを特徴とするものである。