特許第6564207号(P6564207)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6564207石炭燃焼灰の処理装置および該装置を使用した石炭燃焼灰の処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6564207
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】石炭燃焼灰の処理装置および該装置を使用した石炭燃焼灰の処理方法
(51)【国際特許分類】
   B09B 5/00 20060101AFI20190808BHJP
   B01F 3/12 20060101ALI20190808BHJP
   B01F 13/02 20060101ALI20190808BHJP
【FI】
   B09B5/00 N
   B01F3/12ZAB
   B01F13/02 A
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-46940(P2015-46940)
(22)【出願日】2015年3月10日
(65)【公開番号】特開2016-165684(P2016-165684A)
(43)【公開日】2016年9月15日
【審査請求日】2018年1月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】599083547
【氏名又は名称】井口 学
(73)【特許権者】
【識別番号】515065578
【氏名又は名称】丸山 敏彦
(73)【特許権者】
【識別番号】000001317
【氏名又は名称】株式会社熊谷組
(73)【特許権者】
【識別番号】500430903
【氏名又は名称】株式会社ヒューエンス
(74)【代理人】
【識別番号】100104330
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 誠二
(72)【発明者】
【氏名】井口 学
(72)【発明者】
【氏名】丸山 敏彦
(72)【発明者】
【氏名】内藤 敏
(72)【発明者】
【氏名】酒井 祐介
(72)【発明者】
【氏名】設樂 守良
(72)【発明者】
【氏名】中畑 佑介
【審査官】 齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−130608(JP,A)
【文献】 特開2005−066414(JP,A)
【文献】 特開2000−319837(JP,A)
【文献】 特開2003−047835(JP,A)
【文献】 特開2000−197877(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B1/00−5/00
B01F3/00,13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭燃焼灰の処理装置であって、
底部を有し、液体が充填された内径Dの円筒形容器、又は底部を有し、液体が充填された内接円径Dの多角形の平面形状をもつ容器と、
前記容器の前記底部に配置された多数の粒状物と、
前記容器の前記底部から所定高さの箇所に、下向きに液体、気体又は気液二相流体を吹き込む第1吹き込み手段とを備え
前記容器中に、前記石炭燃焼灰中のフライアッシュと多数の粒状物を入れ、前記第1吹き込み手段から前記粒状物に噴流を吹き付け、前記フライアッシュと前記粒状物を互いに衝突させて前記フライアッシュ中の脆弱性粒子を破壊させることによって、前記フライアッシュの粒度調整を行うとともに、前記噴流により前記液体を攪拌することによって、前記フライアッシュ表面から濃度が一定値まで低下する個所までの範囲によって表される重金属の濃度境界層を薄くして前記フライアッシュ中の重金属を溶出し易くし、これにより前記石炭燃焼灰を処理するように構成されていることを特徴とする処理装置。
【請求項2】
液面から深さHinの箇所に、上向きに気体、液体又は気液二相流体を吹き込む第2吹き込み手段をさらに備え、
前記深さHinと内径又は内接円径Dとの比Hin /Dが0.3〜1の範囲にあり、前記第2吹き込み手段から液体内に吹き込まれる気体、液体又は気液二相流体の流量Qaが、ρLa 2 /(σL3 )=10-5(ここで、ρL は液体の密度、σL は液体の表面張力)を満足する流量以上、かつ、気体の気泡又は吹き込まれた液体が液面を吹き抜けない流量以下であることを特徴とする請求項1に記載された処理装置。
【請求項3】
前記容器の前記底部が半球状又は角錐状に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載された処理装置。
【請求項4】
前記粒状物がアルミナボール又はジルコニアボールであることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載された処理装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載された処理装置を使用した石炭燃焼灰の処理方法であって、
処理しようとする石炭燃焼灰を前記容器内に投入し、前記第1吹き込み手段から液体、気体又は気液二相流体を吹き込む第1工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項6】
前記第1工程に引き続き、前記第2吹き込み手段から気体、液体又は気液二相流体を吹き込む第2工程をさらに含むことを特徴とする請求項5に記載された方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、石炭燃焼灰の処理装置および該装置を使用した石炭燃焼灰の処理方法に関する。より詳細には、本発明は、粒度調整および重金属の効率的な除去を可能にする石炭燃焼灰の処理装置および該装置を使用した石炭燃焼灰の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震後に原子力発電所の稼働が一斉に停止されため、逼迫する電力需要に対応すべく、火力発電の比重が飛躍的に高まっている。火力発電所の稼働に伴う問題として、CO排出量の増加の他、石炭を燃料とする石炭火力発電の場合には、年間1,350万トンにも達する燃焼灰の処理があげられる。
【0003】
石炭燃焼灰は、燃焼後に静電気式集塵機により回収される微粒状飛灰であるフライアッシュ(以下「FA」という)と、粗粒状灰(クリンカー灰を含む)であるボトムアッシュとに大別され、両者の生成比率は、重量比で約9:1であり、FAの生成比率が圧倒的に高い。
【0004】
FAは、JIS規格に適合するJIS灰と、それ以外の非JIS灰とに分類され、前者は主としてコンクリート混和材として利用され、後者はセメント原料、土工材、建材、処分灰(海上埋立など)等に利用されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
石炭火力発電所の稼働が増えるのに伴い、石炭燃焼灰、とりわけFAの生成量が増大し、その処理を如何にすべきかが問題となっている。FAの再利用に際して解決すべき主要な技術的課題として、(1)FAの粒度調整、および(2)FA中の基準値(土壌環境基準)を超えた重金属の除去の2つがある。
【0006】
第1の課題であるFAの粒度調整は、FAでは炭種、燃焼条件等によってその形状や量も異なるが、多孔質な脆弱性粗粒子(ガラス化溶融物、炭化物)を含んでいる場合が多く、粒度構成が不安定であることから生ずる課題である。すなわち、粒度構成が不安定であると、再利用の用途が限定されるため、各種用途に適した粒度構成となるように調整して、広範な用途に適合するようにすることが望まれる。
【0007】
第2の課題であるFA中の基準値(土壌環境基準)を超えた重金属の除去は、FA中に存在する重金属(例えば、六価クロム、セレン、ヒ素、フッ素、ホウ素など)が基準値以上であると、再利用が制限されることから生ずる課題である。重金属の除去は、空気などの気体中で粒度を調整する乾式法では困難であるため、水洗浄の湿式処理に関する研究開発(先行事例として本明細書「0044」参照)等が進められたものの、実用に供するまでには至っていない。
現状の対応では、重金属の溶出抑制の観点から、FAに水と共にセメント等を配合し、水和反応による重金属の固定化処理が行われてきている。しかし、得られる硬化物ではFAの大量利用として期待の大きい土木資材等利用を進める上での性状・形状、品質、コスト等の面で難点があり、FA利用は、概してセメント原料としての低サイクル段階にあるのが現状である。
【0008】
本発明は、このような状況に鑑みて開発されたものであって、粒度調整および重金属の効率的な除去を可能にする石炭燃焼灰の処理装置および該装置を使用した石炭燃焼灰の処理方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
FAの粒度調整と重金属の除去の2つの課題に分けて、課題を解決するための手段を説明する。
【0010】
(FAの粒度調整)
FAの粒度調整を行うには、FA中の脆弱性粗粒子を破壊する必要がある。本発明では、所定深さまで液体を満たした容器中にFAと粒状物を入れ、粒状物に液体噴流とFAを吹き付けて、FAと粒状物を互いに衝突させれば、脆弱性粗粒子が破壊されると着想した(図1)。粒状物の材料は、適当な硬度を有するものであれば、任意のものでよく、適当な材料としては、例えば、アルミナ、ジルコニアがあげられる。また、粒状物は、作業時に転がりやすい方が粉砕効果は大きいと考えられるので、球状のものが好ましい。衝突によって小さくなったFA粒子には流動抵抗が作用するので、当該FA粒子は、液体の上向き方向の流れによって浮上する。
【0011】
その際、上昇する液体の空塔速度を調整することによって、上昇するFA粒子の粒径を制御することができる。空塔速度の調整は、以下のようにして行う。
FA粒子は、実際は球状ではないが、簡単のために直径Dpの球で近似する。FA粒子は小さく、比較的ゆっくりと動いているので、非定常力は無視でき、球に働く力の釣り合いは次式で近似できる。
【0012】
【数1】
【0013】
ここで、左辺はFA粒子の自重、右辺第1項はFA粒子に働く浮力、右辺第2項はFA粒子に働く流動抵抗である。また、rpはFA粒子の密度、gは重力加速度、rLは流体の密度、CDは抵抗係数、vpはFA粒子の上昇速度である。なお、抵抗係数はvpの関数であって次式で与えられる。
【0014】
【数2】
【0015】
【数3】
【0016】
【数4】
【0017】
本願請求項1に記載された石炭燃焼灰の処理装置は、底部を有し、液体が充填された内径Dの円筒形容器、又は底部を有し、液体が充填された内接円径Dの多角形の平面形状をもつ容器と、前記容器の前記底部に配置された多数の粒状物と、前記容器の前記底部から所定高さの箇所に、下向きに液体、気体又は気液二相流体を吹き込む第1吹き込み手段とを備え、前記容器中に、前記石炭燃焼灰中のフライアッシュと多数の粒状物を入れ、前記第1吹き込み手段から前記粒状物に噴流を吹き付け、前記フライアッシュと前記粒状物を互いに衝突させて前記フライアッシュ中の脆弱性粒子を破壊させることによって、前記フライアッシュの粒度調整を行うとともに、前記噴流により前記液体を攪拌することによって、前記フライアッシュ表面から濃度が一定値まで低下する個所までの範囲によって表される重金属の濃度境界層を薄くして前記フライアッシュ中の重金属を溶出し易くし、これにより前記石炭燃焼灰を処理するように構成されていることを特徴とするものである。
【0018】
ここで、Reはレイノルズ数、nは流体の動粘度である。FA粒子は小さいので、レイノルズ数が105を超えることはありえない。
上の関係式から明らかなように、レイノルズ数Reはvpの関数であるためvpを陽に求めることはできない。そこで、まずvpに適当な値を代入してReを求め、これから抵抗係数CDを計算して式(1)に代入し、vpを求める。もし、これらのvpの値が一致していればそこで計算を打ち切り、その値をvpとするが、一致しなければ一致するまで計算を繰り返せばよい。FA粒子が球状でない場合は、その形状に応じてCD を求めることになる。
【0019】
FA中の脆弱性粗粒子を破壊するには、上述のように、粒状物に液体噴流を吹き付けるのが最も効果的であるが、液体噴流の代わりに、気泡噴流や気液二相噴流を吹き付けてもよい(図2)。
【0020】
(FA中の重金属の除去)
図3は、ある重金属XのFA表面での濃度とその周囲の液体中での濃度勾配を示した模式図である。図3において横軸zは、FA表面からの距離(z=0はFA表面)を示し、縦軸Cは重金属Xの濃度を示す。すなわち、図3は、FA表面(z=0)において重金属Xが濃度C1を有し、FA表面から離れる(zが大きくなる)につれて重金属Xの濃度が徐々に低下し、濃度境界層を超えると重金属Xの濃度が一定値C2になることを示している。重金属の液体中への溶出は、濃度勾配に支配され、濃度勾配が大きい程、溶出量は大きくなる。濃度勾配は、FAの周囲の濃度境界層の厚さに関係するが、濃度境界層が薄い程、濃度勾配が大きくなるので、重金属が溶出しやすくなる。したがって、重金属の溶出を容易にするためには濃度境界層を薄くする必要があるが、濃度境界層を薄くするには、FAが含まれる液体を出来るだけ強く攪拌しなければならない。
【0021】
本発明では、液体を攪拌する手段として、インペラ(攪拌羽根)による機械的攪拌ではなく、本発明者のうち1名が開発した噴流吹き込み式攪拌方法を採用する。これは、機械的攪拌ではFAがインペラとの衝突により粒度が非常に小さくなって粒度分布を制御しにくくなること、FAとインペラとの衝突によりインペラ自体が破損するおそれがあることを考慮すると、機械的攪拌方法よりも噴流吹き込み式攪拌方法の方が好ましいからである。
【0022】
上述の噴流吹き込み式攪拌方法を採用すると、以下のような2つの利点も得られる。
(1)乱れ効果
気泡の存在によりFAの周囲の液体流れの乱れが大きくなって濃度境界層を薄くする「乱れ効果」が得られる。
(2)ジェットドロップ効果
マイクロジェット(大きさの異なる気泡の合体時に圧力の高い小さな気泡から圧力の低い大きな気泡の内部に向かって高速のガス噴流が発生するが、その際に小さな気泡の背後の液体が大きな気泡の内部に侵入する高速の液体噴流のこと)が分裂して生成される多数の微細な液滴(ジェットドロップ)がFA表面の濃度境界層を破壊することにより重金属の溶出が著しく促進される「ジェットドロップ効果」が得られる。
【0023】
上述の噴流吹き込み式攪拌方法は、特許第3058876号公報および同第4195782号公報において公開されている。図4を参照して、噴流吹き込み式攪拌方法について説明する。まず内径Dの円筒形の有底容器又は内接円径Dの多角形の平面形状をもつ有底容器を準備する。容器内には、攪拌しようとする液体が収容されている。液体内に気体又は液体を吹き込むための1基又は複数基のノズルが液面から深さH1 のところに上向きに配置されている。深さH1 と内径又は内接円径Dとの比H1 /Dは、0.3〜1(好ましくは0.5)の範囲にある。なお、容器の底から液面での深さがH1 以上であり、容器の底からノズルまでの距離が0.5D〜2Dの範囲にあることが好ましい。このような装置において、ノズルから液体内に吹き込まれる気体又は液体の流量Qaを、ρLa 2 /(σL3 )=10-5(ここで、ρL は液体又は水の密度、σL は液体又は水の表面張力)を満足する流量以上とし、かつ、気体の気泡又は吹き込まれた液体が液面を吹き抜けない流量以下にすると、容器内の液体は攪拌されることとなる。
【0024】
本願請求項1に記載された石炭燃焼灰の処理装置は、底部を有し、液体が充填された内径Dの円筒形容器、又は底部を有し、液体が充填された内接円径Dの多角形の平面形状をもつ容器と、前記容器の前記底部に配置された多数の粒状物と、前記容器の前記底部から所定高さの箇所に、下向きに液体、気体又は気液二相流体をフライアッシュとともに吹き込む第1吹き込み手段とを備えていることを特徴とするものである。
【0025】
本願請求項2に記載された石炭燃焼灰の処理装置は、前記請求項1の装置において、液面から深さHinの箇所に、気体、液体又は気液二相流体を吹き込む第2吹き込み手段をさらに備え、前記深さHinと内径又は内接円径Dとの比Hin /Dが0.3〜1の範囲にあり、前記第2吹き込み手段から液体内に吹き込まれる気体、液体又は気液二相流体の流量Qaが、ρLa 2 /(σL3 )=10-5(ここで、ρL は液体又は水の密度、σL は液体又は水の表面張力)を満足する流量以上、かつ、気体の気泡又は吹き込まれた液体が液面を吹き抜けない流量以下であることを特徴とするものである。
【0026】
本願請求項3に記載された石炭燃焼灰の処理装置は、前記請求項1又は2の装置において、前記容器の前記底部が半球状又は角錐状に形成されていることを特徴とするものである。
【0027】
本願請求項4に記載された石炭燃焼灰の処理装置は、前記請求項1から請求項3までのいずれか1項の装置において、前記粒状物がアルミナボール又はジルコニアボールであることを特徴とするものである。
【0028】
本願請求項5に記載された、前記請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載された処理装置を使用した石炭燃焼灰の処理方法は、処理しようとするフライアッシュを前記容器内に前記第1吹き込み手段から液体、気体又は気液二相流体とともに投入する第1工程を含むことを特徴とするものである。
【0029】
本願請求項6に記載された石炭燃焼灰の処理方法は、前記請求項5に記載された方法において、前記第1工程に引き続き、前記第2吹き込み手段から気体、液体又は気液二相流体を吹き込む第2工程をさらに含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、粒状物に液体噴流等とFAを吹き付けてFAと粒状物を互いに衝突させることにより、FA中の脆弱性粗粒子を破壊してFAの粒度調整を行うことができる。これにより、各種用途に適した粒度構成となるように調整して、広範な用途に適合したFAを得ることができる。また、粒度調整されたFAを、噴流吹き込み式攪拌方法により攪拌することにより、FAの周囲の濃度境界層を薄くし、従来の乾式法よりも効率的に重金属を溶出させることができる。なお、噴流吹き込み式攪拌方法を採用することにより、乱れ効果やジェットドロップ効果が得られるので、この点からも重金属の効率的な溶出が期待できる。本発明の処理装置は、比較的簡単な構造を有しているので、製造コストを安価にすることができるとともに、故障が少なく維持管理が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の好ましい実施の形態に係る処理装置の全体を示した模式図である。
図2】本発明の好ましい実施の形態に係る別の処理装置の全体を示した模式図である。
図3】ある重金属のFA表面での濃度とその周囲の液体中での濃度勾配を示した模式図である。
図4】噴流吹き込み式攪拌方法を説明するための図である。
図5】FAの粒度調整を確認するための試験に用いた試験装置の図である。
図6図6(a)は、FA原粉の粒度分布を示した図、図6(b)は、FA原粉と実施例1の試験により処理した後(15分攪拌)のFAの粒度分布を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
次に図面を参照して、本発明の好ましい実施の形態に係る石炭燃焼灰の処理装置(以下「処理装置」という)について説明する。図1は、本発明の好ましい実施の形態に係る処理装置の全体を示した模式図である。図1において全体として参照符号10で示される本発明の好ましい実施の形態に係る処理装置は、半球状の底部11aを有する内径Dの円筒形容器11を備えている。円筒形容器11内には、深さHLまで水が充填されており、底部11aには、多数の粒状物12(例えばアルミナボール)が配置されている。
【0033】
処理装置10は、容器11の底部11aから高さH(<HL)の箇所に、下向きに液体を吹き込む第1吹き込み手段13を備えている。第1吹き込み手段13は、液体を吹き込むことにより、FAと粒状物12を衝突させ、FA中の多孔質な脆弱性粒子を破壊するためのものである。なお、図1では、第1吹き込み手段13は、円筒形のトップランスの形態で図示されているが、高さHの箇所で下向きに吹き込むことができるものであれば、他の形態の器具を用いてもよい。
【0034】
処理装置10はまた、水面から深さHinの箇所に、気体を吹き込む第2吹き込み手段14を備えている。第2吹き込み手段14は、容器11の上部分に位置する水を旋回させるためのものである。なお、図1では、第2吹き込み手段14は、J字ランスの形態で図示されているが、深さHinの箇所で吹き込むことができるものであれば、他の形態の器具を用いてもよい。また、第2吹き込み手段14は、気体を上向きに吹き込む形態で図示されているが、下向きに気体を吹き込んでも、気体が浮力によって上昇し液面を盛り上げるので、水を旋回させることはできる(ただし、上向きに気体を吹き込んだ場合の方が撹拌力は強くなるので、より好ましい)。
【0035】
処理装置10はさらに、処理済みFA(粒度調整され、重金属が除去されたFA)を排出するための排出口15を備えている。FAの液体内での滞留時間が長いほど重金属の溶出が進行するため水面に近い箇所に排水口15を設けるのが望ましいが、旋回運動によって容器側壁での水面位置が上下するため排水口15が水面に近すぎると空気を吸い込んでしまい液体の排出が困難になるおそれがある。したがって、排出口15は、第2吹き込み手段14による吹き込み前の静止水面から旋回運動の振幅の2〜3倍下方に配置するのが好ましい。
【0036】
以上のように構成された処理装置10を用いてFAを処理する方法について説明する。まず処理しようとするFAを容器11内に第1吹き込み手段13から液体とともに投入する(第1工程)。すると、FAと粒状物12が衝突し、FA中の多孔質な脆弱性粗粒子が破壊され、FA粒子が微細化される。次いで、第2吹き込み手段14から気体を吹き込む(第2工程)。すると、容器11内の水が強く攪拌されるが、これによりFAの周囲の濃度境界層が薄くなり、濃度勾配が大きくなるため、重金属が水に容易に溶出する。
【0037】
なお、処理しようとするFA中の重金属の量が基準値以内の場合には、上記第2工程は不要である。
【0038】
図2は、本発明の好ましい実施の形態に係る別の処理装置の全体を示した模式図である。図2において全体として参照符号20で示される処理装置は、第1吹き込み手段23から吹き込まれるのが液体ではなく気体又は気液二相流体である点、および底部21a付近に第3吹き込み手段26が設けられている点を除いて、図1に示される処理装置10と実質的に同一の構成を有している。すなわち、処理装置20は、底部21aを有する内径Dの円筒形容器21と、容器21の底部21aから高さH(<HL)の箇所に、下向きに気体又は気液二相流体を吹き込む第1吹き込み手段23と、水面から深さHinの箇所に、気体を吹き込む第2吹き込み手段24と、処理済みFAを排出するための排出口25と、底部21a付近に設けられた第3吹き込み手段26とを備えており、円筒形容器21内には、深さHLまで水が充填され、底部21aには、多数の粒状物22が配置されている。なお、処理装置20において第3吹き込み手段26を付加したのは、第3吹き込み手段26から水などの液体を容器21内に吹き込むことにより、粒状物12との衝突により粉砕されたFAを容器21の下部分から排出口15付近まで移動させ易くするためである。
【0039】
(実施例1)
FAの粒度調整を確認するための試験を行った。試験装置として、内径163mmのナス型フラスコ(「パイレックス(登録商標)」ガラス製)を用い、フラスコ内に1リットルの水を満たし、フラスコ底部に直径2mmのアルミナボール128グラムを投入した(図5参照)。そして、処理しようとするFAを、水に対して20重量%添加し、内径3mmの鋼製ノズルから下向きに空気を1,200cm3/sで所定時間吹き込んだ。
【0040】
その結果は、図6に示す通りである。図6(a)は、FA原粉の粒度分布を示した図、図6(b)は、本試験により処理した後(15分吹き込み)のFAの粒度分布を示した図である。なお、比較のためFA原粉の粒度分布も示している。図6(a)および(b)において、横軸は粒径(μm)、左縦軸は粒径頻度(%)、右縦軸は累計頻度(%)、黒色実線は15分間のガス吹き込みにおける粒径頻度、黒色破線は累計頻度、灰色実線は未処理FAの粒径頻度、灰色破線は未処理FAの累計頻度をそれぞれ示している。図6(a)および(b)から、FA原粉、本試験により処理したFAの45μm篩い残分はそれぞれ、72.6%、65.6%であることが分かる。したがって、前者は、JISの粉末度の規準(A6201−2008)を満たさないが、後者は、JISのIV種の粉末度の規準を満たすことが確認された。なお、ガス吹き込み時間が長いほどFAの粒径が微細化されるため(45μm篩い残分はそれぞれ30分で63.2%、60分で58.5%)、吹き込み時間を調整することにより、FAの粒度分布を適当なものにすることができる。
【0041】
この試験では、FAとアルミナボールを衝突させるのに、空気の吹き込みを利用したが、空気と比較して液体の密度が1,000倍程大きいので、液体の吹き込みを利用した方が、アルミナボールをより激しく動かすことができ、より効率の良いFA微細化効果を期待できる。
【0042】
(実施例2)
FA原粉を実施例1の試験により処理(15分吹き込み)した後、上述の噴流吹き込み式攪拌方法を用いて攪拌(15分攪拌)した場合のFA中の重金属の溶出量を測定した。表1(a)は、本実施例において測定された重金属の溶出量(以下「処理済みFA」という)を未処理のFA原粉中の重金属の溶出量(以下「未処理FA」という)とともに示した表であり、表1(b)は、環境基本法に基づき制定された土壌環境基準における重金属の許容値を示した表である。
【0043】
【表1】
【0044】
表1(a)および(b)から、未処理FAでは、全ての元素が土壌環境基準の許容値を超過しているのに対して、処理済みFAでは、セレン(Se)以外の全ての元素が土壌環境基準の許容値以下であることが確認された。なお、セレンについても、超過分は0.002mg/L(許容値の20%)にすぎない。研究(電力中央研究所:洗浄による石炭灰およびゴミ固形燃料焼却灰の環境負荷低減技術に関する実験的研究―六価クロム、セレン、砒素およびホウ素の洗浄効果―)によれば、繰り返し攪拌することによりセレン溶出量を更に下げることができるとの報告がなされているので、攪拌時間を長くすることによりセレンについても対処可能であり、本発明の方法の有効性が確認された。
【0045】
本発明は、以上の発明の実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0046】
例えば、図1および図2に示される処理装置10、20では、内径Dの円筒形容器11、21が用いられているが、内接円径Dの多角形の平面形状をもつ容器を用いてもよい。また、FAを中央に集まり易くするため、容器11、21の底部11a、21aを図示されているように半球状にする方がより好ましいが、容器の底部を平らにしても本発明の特有の効果を得ることは可能である。
【0047】
また、前記実施形態では、液体を旋回させるため、第2吹き込み手段14、24から気体を吹き込んでいるが、気体の代わりに液体又は気液二相流体を吹き込んでも液体を旋回させることができる。
【0048】
さらに、前記実施形態では、容器11、21内に水が充填されているが、水以外の液体(例えば、希塩酸、希硫酸のような酸性の液体)を充填してもよい。
【符号の説明】
【0049】
10、20 処理装置
11、21 容器
11a、21a 底部
12、22 粒状物(アルミナボール、ジルコニアボール)
13、23 第1吹き込み手段
14、24 第2吹き込み手段
15、25 排出口
26 第3吹き込み手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6