特許第6564244号(P6564244)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6564244
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】発振装置および発振装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H03B 5/32 20060101AFI20190808BHJP
【FI】
   H03B5/32 A
   H03B5/32 H
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-108729(P2015-108729)
(22)【出願日】2015年5月28日
(65)【公開番号】特開2016-225739(P2016-225739A)
(43)【公開日】2016年12月28日
【審査請求日】2018年2月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232483
【氏名又は名称】日本電波工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002756
【氏名又は名称】特許業務法人弥生特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100091513
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100162008
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧澤 宣明
(72)【発明者】
【氏名】依田 友也
【審査官】 鬼塚 由佳
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−090391(JP,A)
【文献】 特開2013−051677(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/008457(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03B 5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器内の基板上に配置された水晶振動子を備え、予め設定された周波数の周波数信号を出力する発振装置において、
前記水晶振動子を収容し、前記基板に対してはんだ付け固定された振動子カバーと、
前記水晶振動子に接続された発振回路と、
前記容器内の温度を検出する温度検出部と、
前記温度検出部により検出された温度に基づいて出力が増減され、前記容器内の温度を調節するためのヒーター回路と、を備え、
前記振動子カバーは、リン脱酸銅により構成されていることを特徴とする発振装置。
【請求項2】
前記ヒーター回路は、前記基板に取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の発振装置。
【請求項3】
信号発生用の水晶振動子が設けられ、制御電圧に応じた周波数の周波数信号を出力すると共に、PLL回路を構成する電圧制御発振部を備え、
前記水晶振動子は、前記電圧制御発振部から得られた周波数信号と位相比較される基準周波数信号を得るための基準水晶振動子であり、
前記信号発生用の水晶振動子は、前記リン脱酸銅より焼きなまし温度の低い金属により構成された振動子カバーに収容され、前記焼きなまし温度の低い振動子カバーが前記基板にはんだ付け固定されていることを特徴とする請求項1または2に記載の発振装置。
【請求項4】
前記水晶振動子を第1の水晶振動子としたとき、前記第1の水晶振動子とは異なる第2の水晶振動子を備え、
前記温度検出部は、前記第1の水晶振動子の発振周波数と、第2の水晶振動子の発振周波数との周波数差に対応する値に基づいて前記容器内の温度を検出し、
前記第2の水晶振動子は、前記リン脱酸銅より焼きなまし温度の低い金属により構成された振動子カバーに収容され、前記焼きなまし温度の低い振動子カバーが前記基板にはんだ付け固定されていることを特徴とする請求項1ないしのいずれか一つに記載の発振装置。
【請求項5】
容器内の基板上に配置された水晶振動子を備え、予め設定された周波数の周波数信号を出力する発振装置の製造方法において、
前記発振装置は、前記水晶振動子に接続された発振回路と、前記容器内の温度を検出する温度検出部と、前記温度検出部により検出された温度に基づいて出力が増減され、前記容器内の温度を調節するためのヒーター回路と、を備えることと、
前記水晶振動子は、リン脱酸銅により構成された振動子カバーに収容されていることと、
220〜270℃の温度範囲内の温度で、前記基板に対して前記振動子カバーをはんだ付け固定する工程を含むことと、を特徴とする発振装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水晶振動子が置かれる雰囲気の温度を検出し、温度検出結果に基づいて周波数の安定化を行う発振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
発振装置であるOCXO(Oven Controlled Xtal Oscillator)として、例えば特許文献1に開示されているように、2つの水晶振動子及びこれらの水晶振動子の近傍にヒーター(ヒーター回路)を備えた構成が知られている。当該OCXOにおいては、2つの水晶振動子の周波数差を利用して水晶振動子が置かれる雰囲気の温度を検出し、温度検出結果に基づいて水晶振動子近傍に備えられたヒーターへの供給電力を制御することにより水晶振動子の温度を一定の範囲内に保ち、周囲の温度変化に対してOCXOの周波数を安定させている。
【0003】
このようにOCXOは、水晶振動子の温度を一定の範囲内に保つことにより周波数の安定性を図るものであり、特に、上述の構成のOCXOは、2つの水晶振動子の周波数差を利用することにより正確な温度検出を行い、高精度での周波数調整を実現している。
ところが、上述の構成を備えるOCXOを実際に製造したとき、ヒーター回路の温度調節範囲に対応した理論的な周波数変動範囲を超えて、OCXOから出力される周波数信号の周波数が変動してしまう場合があった。
【0004】
ここで特許文献2には、音叉型の水晶振動子を気密封止するキャップ(振動子カバー)を洋白(Cu−Ni−Zn系合金)やリン青銅で構成した例が記載されているが、本発明の構成については記載されていない。また、これらの材料は、比較的、熱伝導率が低く、ヒーター回路を用いて温度を安定化させる水晶振動子の振動子カバーの材料としては好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−51676号公報:段落0044、図1
【特許文献2】特開2010−16759号公報:段落0024〜0025、図1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような事情の下になされたものであり、その目的は、ヒーター回路による温度調節の結果を正確に反映した周波数信号を出力することが可能な発振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る発振装置は、容器内の基板上に配置された水晶振動子を備え、予め設定された周波数の周波数信号を出力する発振装置において、
前記水晶振動子を収容し、前記基板に対してはんだ付け固定された振動子カバーと、
前記水晶振動子に接続された発振回路と、
前記容器内の温度を検出する温度検出部と、
前記温度検出部により検出された温度に基づいて出力が増減され、前記容器内の温度を調節するためのヒーター回路と、を備え、
前記振動子カバーは、リン脱酸銅により構成されていることを特徴とする。
【0008】
上述の発振装置は、下記の特徴を備えていてもよい。
(a)前記ヒーター回路は、前記基板に取り付けられていること。
)信号発生用の水晶振動子が設けられ、制御電圧に応じた周波数の周波数信号を出力すると共に、PLL回路を構成する電圧制御発振部を備え、前記水晶振動子は、前記電圧制御発振部から得られた周波数信号と位相比較される基準周波数信号を得るための基準水晶振動子であり、前記信号発生用の水晶振動子は、前記リン脱酸銅より焼きなまし温度の低い金属により構成された振動子カバーに収容され、前記焼きなまし温度の低い振動子カバーが前記基板にはんだ付け固定されていること。
)前記水晶振動子を第1の水晶振動子としたとき、前記第1の水晶振動子とは異なる第2の水晶振動子を備え、前記温度検出部は、前記第1の水晶振動子の発振周波数と、第2の水晶振動子の発振周波数との周波数差に対応する値に基づいて前記容器内の温度を検出し、前記第2の水晶振動子は、前記リン脱酸銅より焼きなまし温度の低い金属により構成された振動子カバーに収容され、前記焼きなまし温度の低い振動子カバーが前記基板にはんだ付け固定されていること。
また、他の発明は、容器内の基板上に配置された水晶振動子を備え、予め設定された周波数の周波数信号を出力する発振装置の製造方法において、
前記発振装置は、前記水晶振動子に接続された発振回路と、前記容器内の温度を検出する温度検出部と、前記温度検出部により検出された温度に基づいて出力が増減され、前記容器内の温度を調節するためのヒーター回路と、を備えることと、
前記水晶振動子は、リン脱酸銅により構成された振動子カバーに収容されていることと、
220〜270℃の温度範囲内の温度で、前記基板に対して前記振動子カバーをはんだ付け固定する工程を含むことと、を特徴とする。


【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ヒーター回路を備えた発振装置に設けられる水晶振動子の振動子カバーとして、熱伝導率が高く、且つ、焼きなまし温度が高いリン脱酸銅を用いている。この結果、ヒーター回路による水晶振動子の温度制御を行いやすい状態を保ちつつ、基板へのはんだ付けを行う際の振動子カバーの軟化を抑制し、軟化に伴う歪みの発生などが周波数信号の周波数変動に与える影響を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態に係る発振装置のブロック図である。
図2】前記発振装置の縦断側面図である。
図3】前記発振装置に設けられている基板の平面図である。
図4】前記基板上に配置されている水晶振動子及び振動子カバーの縦断側面図及び横断平面図である。
図5】水晶振動子の一般的な周波数温度特性を示した特性図である。
図6】加熱温度に対する振動子カバー材料の機械的特性の変化を示す第1の説明図である。
図7】加熱温度に対する振動子カバー材料の機械的特性の変化を示す第2の説明図である。
図8】実施例及び比較例に係る発振装置の周波数温度特性を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は本発明の実施形態に係る発振装置1Aの全体を示すブロック図である。
発振装置1Aには、第1の水晶振動子10、第2の水晶振動子20と、これらの水晶振動子を発振させる第1の発振回路1、第2の発振回路2とが含まれる。第1の発振回路1、第2の発振回路2は、例えばコルピッツ型の発振回路により構成される。
【0012】
第1の発振回路1、第2の発振回路2の後段側には、DSP(Digital Signal Processor)ブロック5、PLL(Phase Locked Loop)回路部200、レジスタ7や分周器203が接続されている。DSPブロック5は、温度検出部53、PI演算部54、1次補正部56、PWM(Pulse Width Modulation)部55を含んでいる。さらに第1の水晶振動子10及び第2の水晶振動子20の近傍には、ヒーター回路50が設けられている。
ここで、既述の第1の発振回路1、第2の発振回路2、DSPブロック5、PLL回路部200、レジスタ7、及び分周器203は例えば一つの集積回路部(LSI)300内に形成されている。
【0013】
また発振装置1Aは、外部メモリ82を備え、外部メモリ82には発振装置1Aを動作させるための各種パラメータが格納されている。外部メモリ82に格納されたパラメータは、LSI300内のレジスタ7に読み込まれ、このレジスタ7を介してパラメータを利用するブロックへと読み出される。
【0014】
以下の説明では、第1の発振回路1により第1の水晶振動子10を発振させて得られた周波数信号をf1とし、第2の発振回路2により第2の水晶振動子20を発振させて得られた周波数信号をf2とする。
第1の発振回路1からの周波数信号f1は、PLL回路部200内に設けられている後述のVCXO(Voltage Controlled Xtal Oscillator、電圧制御発振部)から得られた周波数信号との位相比較が行われる基準周波数信号を得るために用いられる。さらに周波数信号f1は、水晶振動子10、20が置かれた雰囲気の温度(後述の容器41内の温度)を検出する目的にも用いられる。一方で、第2の発振回路2からの周波数信号f2は、水晶振動子10、20が置かれた雰囲気の温度検出の目的のみに用いられる。
【0015】
初めに、周波数信号f1、f2を用いた温度検出の手法について説明する。第1の発振回路1からの周波数信号f1及び第2の発振回路2からの周波数信号f2は温度検出部53に入力され、f1−f2に対応する値であるΔFが演算される。ΔFは水晶振動子10及び20が置かれている雰囲気の温度に対して比例関係にある値であり、温度検出値に相当しているということができる。
【0016】
さらに、温度検出部53の出口側には、不図示の加算部が設けられており、外部メモリ82から読み出され、レジスタ7に格納された水晶振動子10、20の温度設定値に対応する値(以下、「温度設定値」と呼ぶ)と、温度検出部53にて算出された温度検出値ΔFとの差分値が後段のPI演算部54へと出力される。なお、加算部の図示を省略した便宜上、図1においては、レジスタ7内の温度設定値を温度検出部53に入力した状態を示している。
【0017】
PI演算部54は、前記温度設定値と温度検出値ΔFとの差分値を積分することにより、ヒーター回路50の出力を調節するための制御信号であるPI演算値を後段のPWM部55へ出力する。なお、このPI演算値は、PLL回路部200内で既述の基準周波数信号を得る際の周波数設定値の補正値としても用いられる。
【0018】
PWM部55は、PI演算部54から出力されるディジタル値をアナログ信号に変換するためのものである。既述のレジスタ7には、外部メモリ82から読み出されたデューティ比が予め格納されており、このデューティ比に基づいてPWM部55の動作が制御される。なおPWM部55に代えてD/A(ディジタル/アナログ)変換器を用いてもよい。
【0019】
水晶振動子10、20の近傍に設けられたヒーター回路50は、このPWM部55の出力を制御信号として出力が調節される。ヒーター回路50はパワートランジスタを備え、電源60から供給された電力が当該パワートランジスタのコレクタに供給される。そして、パワートランジスタのベースに前記制御信号を供給して、コレクタ−エミッタ間を流れる電流を増減することにより、ヒーター回路50の出力(発熱量)を増減することができる。
なお、電源60から供給される電力は、既述のLSI300などにも供給され、当該電力は、LDO(低電圧ドロップアウトレギュレータ)などからなる電圧安定化回路6によって安定化されている。
【0020】
次いで、第1の発振回路1から得た周波数信号f1を利用し、周囲の温度が変化しても安定した周波数の周波数信号を出力するPLL回路部200について説明する。既述のようにPLL回路部200は、LSI300内に構成され、不図示のDDS(Direct Digital Synthesizer)回路部と、位相比較部と、チャージポンプ部と、VCXOの発振回路と、を備える。さらにPLL回路部200には、PLL回路部200内の発振回路により発振し、当該発振回路と共にVCXOを構成する信号発生用の水晶振動子201や、ループフィルタ202が接続されている。また、PLL回路部200には、VCXOより得られた周波数信号を分周する分周器を設けてもよい。
【0021】
PLL回路部200のDDS回路部に対しては、外部メモリ82から読み出され、レジスタ7に格納された周波数設定値を用いて周波数設定が行われる。詳細には、PI演算部54から出力されたPI演算値に対して、1次補正部56にて係数を乗算して周波数補正値を算出し、加算部58にて周波数設定値に周波数補正値を加算する。こうして得られた補正後の周波数設定値がDDS回路部に入力される。さらに周波数設定値に対しては、例えば温度検出部53の出力である温度検出値ΔFから得られた周波数補正値を用いた補正を行ってもよい。
【0022】
そしてDDS回路部は、第1の発振回路1から出力される周波数信号f1を動作クロックとして、不図示の波形テーブルから振幅データを読み出し、前記補正後の周波数設定値に対応するディジタルの基準周波数信号を発生する。この観点で、第1の水晶振動子10は、当該基準周波数信号を得るための基準水晶振動子であるといえる。
【0023】
一方でVCXOの水晶振動子201を発振させて得られたディジタルの周波数信号は、必要に応じて分周された後、位相比較部にて基準周波数信号と位相比較され、位相差に応じた信号をチャージポンプ部でアナログ変換され、ループフィルタ202に入力される。ループフィルタ202では、アナログ変換された位相差が積分され、水晶振動子201の制御電圧とされる。ここで、VCXOから得られた周波数信号は、得られた周波数をそのまま基準周波数信号と位相比較してもよいし、周波数を適宜、分周、逓倍してから基準周波数信号との位相比較を行ってもよい。VCXOの水晶振動子201は、信号発生用の水晶振動子に相当している。
【0024】
以上に説明した構成により、水晶振動子201を発振させて得られた周波数信号の周波数が、DDS回路部にて発生させた基準周波数信号の周波数に近づくように周波数制御が実行され、安定した周波数の周波数信号がVCXOから出力される。VCXOの周波数信号は、分周器203にて適宜、分周された後、発振装置1Aから出力される。
【0025】
以上に説明したように、OCXOである発振装置1Aは、温度検出結果に基づいて周波数設定値を補正するTCXO(Temperature Compensated Xtal Oscillator)としても構成されており、ヒーター回路50の作用と、温度検出値ΔF(上述の例では温度設定値と温度検出値ΔFとの差分値を積分したPI演算値)に基づく周波数補正とによる二重の周波数安定化措置がとられ、高精度で周波数を安定させることができる。
【0026】
以上に説明した電気的構成を備える発振装置1Aの組み立て構造につい図2図4を参照しながら説明する。
図2は発振装置1A全体の縦断側面図であり、図3は発振装置1Aの内部に配置された基板31を上面側、及び下面側から見た平面図である。これらの図を用いて発振装置1Aの立体的な構成について説明する。
【0027】
例えば発振装置1Aは、既述の各水晶振動子10、20、201やLSI300、外部メモリ82などの各電子部品を基板31の上面側、及び下面側に分けて配置した構成となっている。図2図3に示すように、基板31の上面側には、第1の水晶振動子10、VCXO側の水晶振動子201、及び複数のヒーター回路50が設けられている。一方で、基板31の下面側には、第2の水晶振動子20、LSI300、外部メモリ82及びループフィルタ202が設けられている。
なお、図1に示した各水晶振動子10、20、201は、振動子カバー内に収容された水晶振動片(例えば第1の水晶振動子10の例につき、図4の水晶振動片10a)に対応するが、説明の便宜上、図2図4においては、各振動子カバー及び水晶振動片を含む電子部品全体に水晶振動子10、20、201の符号を付してある。
【0028】
第1、第2の水晶振動子10、20は、ほぼ同じ構成を備えるので、図4を参照しながら、第1の水晶振動子10の構成について説明する。図4(a)は第1の水晶振動子10の縦断側面図を示し、図4(b)は横断平面図を示している。
第1の水晶振動子10の水晶振動片10aは、第1の発振回路1から出力される周波数信号f1の周波数に対応する厚さを有し、例えば平面形状が矩形である水晶片101の上下両面に、当該水晶片101を介して互いに対向するように、薄膜状の励振電極102、103を設けた、エネルギー閉込め型の振動子となっている。
【0029】
水晶振動片10aを収容する振動子カバー111の一面には、水晶振動片10aを挿入するための開口が設けられ、蓋体113によってこの開口が気密に塞がれる。前記水晶振動片10aを構成する水晶片101は、例えばその一辺側が、蓋体113の一面に固定されている。そして、振動子カバー111の内部空間112に前記水晶振動片10aを挿入して、蓋体113にて前記開口を塞いだとき、励振電極102、103が形成された水晶振動片10aの上面及び下面は、振動子カバー111の内壁面との間に隙間を介して配置される。この結果、励振電極102、103が設けられた面は、他の部材によって拘束されない自由振動面となる。
【0030】
励振電極102、103は、蓋体113を貫通する導電性の接続ピン114に電気的に接続されている。そして、振動子カバー111と蓋体113とに囲まれた内部空間112から、外部へと延伸された前記接続ピン114の他端側を基板31上にプリントされた配線パターン(不図示)に接続することにより、LSI300内部の第1の発振回路1に対して、第1の水晶振動子10の水晶振動片10aが電気的に接続される。なお、蓋体113を貫通する接続ピン114は、当該蓋体113に対して絶縁されている。
【0031】
既述のように、容器41内の温度を検出する目的、及びDDS回路部の動作クロックとして用いられる周波数信号f1を得るための第1の水晶振動子10は、周囲の温度変化や経時変化に対して安定した周波数信号を得るため、他の水晶振動子(第2の水晶振動子20、及びVCXO側の水晶振動子201)よりも大きなサイズの水晶片101を用いて構成されている。このため、振動子カバー111を含む第1の水晶振動子10のサイズも、3つの水晶振動子10、20、201のなかで最も大きい。
【0032】
一方、第2の水晶振動子20には、図4(a)、(b)を用いて説明した第1の水晶振動子10とほぼ同様のエネルギー閉込め型の振動子が用いられるが、その周波数信号f2は容器41内の温度を検出する目的のみに用いられ、DDS回路部の動作クロックの生成を行わない。このため、第2の水晶振動子20について、周囲の温度変化に対する周波数の安定性は、第1の水晶振動子10ほどまでには周要求されない。そこで、発振装置1Aの小型化の観点から、図2図3(a)に示す例では、水晶片の一辺の長さが第1の水晶振動子10の半分程度であり、振動子カバーのサイズも小さな第2の水晶振動子20が採用されている。
【0033】
さらにVCXO側の水晶振動子201については、当該VCXOより出力される周波数信号は、PLL回路部200にて基準周波数信号と位相比較され、この基準周波数信号と位相が揃うように周波数調整される。そして、基準周波数信号に対しては、ヒーター回路50による容器41内の温度安定化や、温度検出値ΔFに基づく周波数設定値の補正により、高い精度で周波数の安定化が図られている。
【0034】
このように、受動的に周波数調整がなされるVCXO側の水晶振動子201単体の周波数安定性についても、周囲の温度変化に対する周波数の安定性は、第1の水晶振動子10ほどまでには要求されていない。そこで、当該水晶振動子201については、発振装置1Aの小型化を優先して、第2の水晶振動子20よりもさらに小型のものが用いられている。VCXO側の水晶振動子201の水晶振動片は、図4(a)、(b)を用いて説明したエネルギー閉込め型の振動子でもよいし、水晶片の表面にIDT(Inter Digital Transducer)を形成してなるSAW(Surface Acoustic Wave)振動子であってもよい。
【0035】
以上に説明した各水晶振動子10、20、201のうち、水晶振動子10と、VCXO側の水晶振動子201とが基板31の上面側に配置されている。
詳細には、図3(b)に示すように、最も寸法の大きな第1の水晶振動子10が、基板31の短辺方向中央部、長辺方向の一端側に寄った位置に配置され、寸法が最も小さいVCXO側の水晶振動子201は、第1の水晶振動子10と隣り合って、互いの長辺の向きを揃えるようにして配置されている。
【0036】
これら水晶振動子10、201が配置されている領域の周囲の基板31の上面側には、基板31の各辺に沿って複数のヒーター回路50が配置されている。図3(a)に示した例では、第1の水晶振動子10によって占有されていない3辺に沿って7個のヒーター回路50が互いに間隔を開けて配置されている。
各水晶振動子10、201やヒーター回路50は、例えばリフロー方式により基板31にはんだ付けされている。
【0037】
一方、残る第2の水晶振動子20は、基板31の下面側の中央部に設けられ、この第2の水晶振動子20となり合ってLSI300が配置されている。さらに、基板31の下面側には、外部メモリ82やループフィルタ202が設けられている。これら第2の水晶振動子20やLSI300などについても、例えばリフロー方式にて基板31にはんだ付けされている。
【0038】
以上に説明した各種電子部品が配置された基板31は、例えば金属製の容器41内に収容され、導電性の支持ピン64によって容器4の内部空間に浮いた状態で配置されている。支持ピン64は、基板31に設けられた電子部品と電気的に接続されている。また容器41の下面には、発振装置1Aが組み込まれる機器に対して当該発振装置1Aを接続するための導電性の接続ピン61が設けられている。接続ピン61は、基板31を支持する支持ピン64と電気的に接続されると共に、容器41からは絶縁されている。
【0039】
上述の構成を備える発振装置1Aは、容器41内がヒーター回路50によって一定の温度に調節されているので、各水晶振動子10、20、201が置かれる雰囲気の温度の変化を抑え、安定した周波数の周波数信号を出力する能力を有している。
ところが、高度な周波数安定化措置が図られている前記発振装置1Aを実際に製作したとき、ヒーター回路50に温度調節範囲に対応した周波数範囲を超えて、発振装置1Aから出力される周波数信号の周波数が変動してしまう事象が確認された。
【0040】
そこで発明者は、こうした周波数変動の原因について検討を行った。例えば上述のヒーター回路50は、20ミリ℃の制御幅内に収まるように容器41内の温度を調節することができる。このとき、例えばSCカットの水晶片101を用い、各水晶振動子10、20の温度設定値が、SCカット水晶の零温度係数点(ZTC点:Zero-Temperature Coefficient、水晶振動子の温度変化による周波数変化が最低となる温度)と一致するようにヒーター回路50の出力を調節すると、理論上の周波数変動は±0.1ppb以下に抑えることができる。
例えば図5は、SCカット水晶の周波数温度特性を示し、実線で示した温度範囲がヒーター回路50による概略の温度制御範囲を示している。
【0041】
ところが、実際の周波数変動幅は±2〜±7ppb程度になり、図5中に破線で温度範囲を示すように、±2℃以上の温度変動に相当する大きな周波数変動が観察された。また後述の比較例(図8)に示すように、周囲の温度を変化させたときの発振装置1Aの周波数温度特性は、正の一次直線を示し、図5に示すSCカットの水晶の周波数温度特性とは異なる挙動を示す(図8参照)。
【0042】
そこで発明者は、ヒーター回路50による温度制御以外に、発振装置1Aの周波数温度特性に影響を与える要素について、さらなる検討を行った。その結果、第1の水晶振動子10の水晶振動片10aを収容する振動子カバー111(蓋体113を含む。以下同じ)の材料の選択が、発振装置1Aの周波数温度特性に大きな影響を及ぼすことを見出した。
【0043】
既述のように、容器41内の温度検出、及びDDS回路部の動作クロックの発振用に用いられる第1の水晶振動子10は、周囲の温度変化に対して、発振装置1Aから出力される周波数信号の周波数の安定性に対する影響が最も大きい。このため、水晶振動片10aが置かれている振動子カバー111の内部空間112の温度も高い精度で調節する必要がある。また、第1の水晶振動子10の水晶振動片10aは、他の水晶振動子20、201の水晶振動片に比べてそのサイズも大きく、水晶振動片10aの全体を均一に加熱する必要がある。
【0044】
そこで、改善前の発振装置1Aにおいては、水晶振動片10aを収容する振動子カバー111は、熱伝導性の良好な銅、そのなかでも熱伝導率が高く、水素脆化のおそれもない無酸素銅(熱伝導率約390W/m・K)を採用していた。
【0045】
一方で図4に示すように、前記振動子カバー111は、その下面側が基板31に対してはんだ115で固定されている。この振動子カバー111を基板31にはんだ付けする際には、リフロー方式の場合、220〜270℃の範囲の270℃程度まで振動子カバー111が加熱される。ところが、無酸素銅の焼きなまし温度は、およそ200℃程度であり、はんだ付けの際に焼きなましが発生して、振動子カバー111が軟化してしまう。
【0046】
振動子カバー111の軟化が発生すると、振動子カバー111に形成される温度分布の影響により水晶振動片10aに生じる歪みによって周波数信号f1の周波数が変化してしまうおそれがある。また、振動子カバー111自体の歪みによって、水晶振動片10aと振動子カバー111との間に形成される容量成分が変化し、これにより前記f1の周波数が変化することも推定される。このような周波数信号f1を、容器41内の温度検出や周波数信号f1を動作クロックとして用いると、DDS回路部から出力される基準周波数信号の周波数が変化し、発振装置1Aから出力される周波数信号の周波数までもが変化してしまうものと考えられる。
【0047】
そこで本発明の発振装置1Aにおいては、第1の水晶振動子10の振動子カバー111を構成する材料として、無酸素銅と比較して焼きなまし温度が高い(約300℃)、リン脱酸銅を選択している。リン脱酸銅は、無酸素銅と比較すると熱伝導率が低い(約340W/m・K)が、水素脆化のおそれがなく、また洋白(焼きなまし温度約600〜800℃、熱伝導率約30〜40W/m・K)やリン青銅(焼きなまし温度約500〜700℃、熱伝導率約70〜80W/m・K)と比較して熱伝導性が良好な材料である。このため、ヒーター回路50による温度調節の作用を殆ど減殺することなく、振動子カバー111の軟化の影響を低減することができる。
【0048】
ここで例えば図6は、リン脱酸銅、及び無酸素銅についての(1)引張強さ:加熱処理したリン脱酸銅または無酸素銅の各試験片について引張試験を行ったとき、試験片の破断時に当該試験片に加えられていた力、(2)耐力:引張試験と同様の試験により、試験片の伸びが0.2%となった際に試験片に加えられていた力を示している。また図7は、リン脱酸銅、及び無酸素銅についての(3)ビッカース硬さ:加熱処理したリン脱酸銅または無酸素銅の各試験片についてビッカース硬さを測定した結果、(4)伸び:(1)の引張試験に用いた試験片の破断時の伸びを示している。
それぞれのデータは、リン脱酸銅について「JIS H0500(伸銅品用語)の『2512 焼きなまし軟化曲線』の項に併記のデータ」、無酸素銅について「一般社団法人日本伸銅協会ホームページ 伸銅品板条材料特性試験データ 焼鈍軟化特性 C1020−H材」を出典としている。
【0049】
図6図7の横軸は試験片の加熱温度を示している。図6は、引張強さ及び耐力[N/mm]を示し、リン脱酸銅の引張強さは、白抜きの四角、無酸素銅の引張強さは白抜きのひし形でプロットしてある。また、リン脱酸銅の耐力は、バツ印、無酸素銅の耐力は白抜きの三角でプロットしてある。一方、図7はビッカース硬さ[HV]及び試験片の伸び[%]を示している。図7において、左側の縦軸はビッカース硬さを示し、リン脱酸銅は白抜きの四角、無酸素銅は白抜きのひし形でプロットしてある。また、図7の右側の縦軸は、試験片の伸びを示し、リン脱酸銅はバツ印、無酸素銅は白抜きの三角でプロットしてある。ここで、焼きなましが発生する温度を把握するうえでは、加熱温度に対する各データの変化の様子を確認することができればよい。このため縦軸の表示範囲の便宜上、図7のリン脱酸銅の伸びのデータ(バツ印)については、試験データの10分の1の値をプロットしてある。
【0050】
図6図7に示す結果によると、無酸素銅は、加熱温度が200℃を超えると、引張強さ、耐力及びビッカース硬さが急激に低下し、第1の水晶振動子10をはんだ付けする温度220〜270℃で焼きなましが発生することが分かる。一方で、リン脱酸銅は、加熱温度が300℃近傍となるまで引張強さ、耐力及びビッカース硬さは低下せず、上記のはんだ付け温度の範囲では焼なましの発生は見られない。
【0051】
以上の検討に基づき、第1の水晶振動子10の水晶振動片10aを収容する振動子カバー111の材料としてリン脱酸銅を選択することにより、後述の実施例に示すように周囲の温度を変化させたときの発振装置1Aの周波数偏差を±1.7ppb以下の精度に向上させることができた。
一方で、第1の水晶振動子10と比較して、相対的に周波数安定性の影響が低い第2の水晶振動子20やVCXO側の水晶振動子201の水晶振動片を収容する振動子カバーについては、リン脱酸銅よりも焼きなまし温度が低い無酸素銅を用いてもよいし、焼きなまし温度がリン脱酸銅よりも高い鉄系の材料を用いてもよい。例えば容器41がセラミック製の場合には、42アロイ(ニッケル42%、鉄57%の鉄系合金、焼きなまし温度:約800℃以上)などのように、熱膨張率がセラミックと同程度の振動子カバーを用いることで、基板31と振動子カバーとの接合部や、当該振動子カバーの膨張の影響が基板31、支持ピン64を介して容器41に伝わることによる容器41の破損を防ぐこともできる。
【0052】
ここで、図2図4を用いた上述の説明においては、便宜上、水晶振動片10aや振動子カバー111を含めて「第1の水晶振動子10」との呼称を用いた。一方で、特許請求の範囲に記載の発明特定事項と明細書中の呼称との対応関係を示しておくと、「水晶振動片10a」が水晶振動子に相当する。そして、振動子カバー111は、この水晶振動子(水晶振動片10a)を収容し、基板31に対してはんだ付け固定されている。
【0053】
本実施の形態に係る発振装置1Aによれば、以下の効果がある。ヒーター回路50を備えた発振装置1Aに設けられる水晶振動片10a(水晶振動子)の振動子カバー111として、熱伝導率が高く、且つ、焼きなまし温度が高いリン脱酸銅を用いている。この結果、ヒーター回路50による水晶振動片10aの温度制御を行いやすい状態を保ちつつ、振動子カバー111を基板31へはんだ付けする際の歪みの発生を抑制し、当該歪みが周波数信号の周波数変動に与える影響を低減することができる。
【0054】
ここで、第1の水晶振動子10を容器41内の温度検出用に用いることは必須ではなく、例えば熱電対やサーミスタを用いて温度検出を行い、これらの素子の温度検出結果に基づいてヒーター回路50の出力を調節してもよい。この場合には、第1の水晶振動子10は、基準周波数信号を得るためのみに用いられ、第2の水晶振動子20は設けられない。
【0055】
また、第1の水晶振動子10を用いて得られた周波数信号f1を、DDS回路部の動作クロックとして用いることも必須の要件ではない。例えば、当該周波数信号f1を基準周波数信号として、VCXOより得られた周波数信号との位相比較を行ってもよい。
【実施例】
【0056】
(温度周波数特性実験)
第1の水晶振動子10の振動子カバー111の材料としてリン脱酸銅、または無酸素銅を採用し、発振装置1Aの周波数温度特性を測定した。
A.実験条件
(実施例1〜3)第1の水晶振動子10の振動子カバー111の材料としてリン脱酸銅を用い、最高温度が270℃となるリフロー方式にて、基板31に振動子カバー111をはんだ付けで固定した。この方法で、図2図4を用いて説明した構成の発振装置1Aを3台製作し、周囲の温度を−40℃〜+85℃の範囲で変化させながら、各発振装置1Aから出力される周波数信号の周波数の温度特性を測定した。第1の水晶振動子10の水晶振動片10aには、M−SC(Modified SC)カットの水晶片101を用い、第1、第2の水晶振動子10、20の温度設定値が93℃となるようにヒーター回路50にて温度制御を行った。発振装置1Aの周波数設定値は10MHzである。
(比較例1〜3)振動子カバー111の材料を無酸素銅とした点を除いて、実施例1〜3と同様の手法で3台の発振装置1Aを製作し、発振装置1Aから出力される周波数信号の周波数の温度特性を測定した。
【0057】
B.実験結果
実施例1〜3、比較例1〜3の結果を図8に示す。図8の横軸は、発振装置1Aの周囲の温度[℃]、縦軸は周波数設定値に対して発振装置1から出力された周波数信号の周波数偏差((周波数設定値−出力周波数)/周波数設定値)[ppb]を示している。また、同図中、実施例1は実線、実施例2は点線、実施例3は短い破線で示し、比較例1は長い破線、比較例2は一点鎖線、比較例3は二点鎖線で示してある。
【0058】
図8に示す結果によれば、実施例1〜3において、各発振装置1Aの周囲の温度が最低(−40℃)または最高(+85℃)のときの周波数偏差は、±1.7[ppb]以下の範囲内であった。これに対して、比較例1〜3において、同様の周波数偏差は、±2.0〜±7.0[ppb]の範囲まで大きくなった。
これらの結果によれば、第1の水晶振動子10の振動子カバー111の材料としてリン脱酸銅を選択することにより、周囲の温度の変化に対して、発振装置1Aから出力される周波数信号の周波数の安定性が向上することを確認できた。
【符号の説明】
【0059】
1A 発振装置
1 第1の発振回路
10 第1の水晶振動子
10a 水晶振動片(水晶振動子)
111 振動子カバー
115 はんだ
2 第2の発振回路
20 第2の水晶振動子
200 PLL回路部
201 水晶振動子(VCXO)
31 基板
41 容器
53 温度検出部
50 ヒーター回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8