(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、一実施の形態について図面とともに説明する。なお、以下の説明において、鉄道車両の進行方向に沿って車体が延びる方向を車両長手方向とし、鉄道車両の進行方向に対して直交する方向を車幅方向として説明する。
【0014】
[実施の形態1]
図1は実施の形態1における鉄道車両の概略構造を示す平面図である。
図1に示すように、本実施の形態における鉄道車両1は、乗客が搭乗する車体2と、車輪(図示せず)を支持する台車枠3とを備える。車体2と台車枠3との間には、車幅方向両側に設けられた一対の空気バネ4が設けられている。鉄道車両1には、1つの車体2に対して車両長手方向に2つの台車枠3が設けられ、1つの台車枠3に対して一対の空気バネ4がそれぞれ設けられる。各空気バネ4は、例えばダイヤフラム式の空気バネ等、公知の構成が採用される。
【0015】
鉄道車両1には、鉄道車両1の曲線走行時に台車枠3に対して車体2の姿勢を傾斜可能な車体傾斜装置を備えている。車体傾斜装置5は、一対の空気バネ4に給気する空気(加圧エア)を貯留するメインタンク6と、メインタンク6と一対の空気バネ4との間で加圧エアが流通するエア供給通路7と、各台車枠3に対応する一対の空気バネ4を用いて各台車枠3に対する車体2の姿勢を傾斜させる2つの傾斜機構20と、を備えている。
【0016】
エア供給通路7は、傾斜機構20として、各空気バネ4に接続されるように分岐され、加圧エアを各空気バネ4に供給する一対の給気通路13を含んでいる。各給気通路13には、各空気バネ4への加圧エアの流量を調整するためのエア供給用調整弁14が設けられている。さらに、エア供給通路7は、一対の給気通路13に並行して設けられ、途中にエア供給用調整弁14が設けられない一対の平常時用給気通路23が設けられている。エア供給通路7には、メインタンク6と一対の給気通路13および一対の平常時用給気通路23との間に切換え弁24が設けられている。切換え弁24は、メインタンク6内の加圧エアが通過する経路として一対の給気通路13および一対の平常時用給気通路23の何れかとメインタンク6とを連通するように切り換えられる。
【0017】
一対の空気バネ4には、各空気バネ4から排出された空気(排気加圧エア)を通過させるエア排出通路8が接続されている。エア排出通路8には、各空気バネ4から排気された排気加圧エアを貯留する排気タンク9が接続されている。エア排出通路8は、各空気バネ4に接続されるように分岐され、各空気バネ4から排出された排気加圧エアをエア排出通路8に合流させる一対の排気通路15、合流後の排気加圧エアを排気タンク9に導く還流通路18および後述する排気加圧エア導入通路19を含んでいる。各排気通路15には、各空気バネ4からの排気加圧エアの流量を調整するためのエア排出用調整弁16が設けられる。
【0018】
メインタンク6には、当該メインタンク6に加圧エアを供給する複数のコンプレッサ11,12が接続されている。複数のコンプレッサ11,12は、大気から導入した空気を加圧する第1コンプレッサ11と、排気タンク9から導入した排気加圧エアを加圧する第2コンプレッサ12とを含む。
【0019】
第1コンプレッサ11は、大気導入通路17上に設けられる。大気導入通路17は、メインタンク6と外部とを接続し、メインタンク6に大気を導入可能に構成される。第2コンプレッサ12は、エア排出通路8上に設けられる。排気加圧エア導入通路19は、排気タンク9と第2コンプレッサ12とを接続し、第2コンプレッサ12を介して排気加圧エアをメインタンク6に導入するよう構成されている。
【0020】
本実施の形態においては、車両長手方向に並んだ2つの台車枠3があり、傾斜機構20が台車枠3ごとに設けられる。第2コンプレッサ12および排気タンク9は、一車両あたりに1つ設けられる。
図1の例では、還流通路18は、各傾斜機構20から排出された排気加圧エアがそれぞれ排気タンク9に導入されるように配設されている。これに代えて、還流通路18は、各傾斜機構20から排出された排気加圧エアが予め合流してから排気タンク9に導入されるように配設されてもよい。
【0021】
メインタンク6は、一車両あたりに1つ設けられる。
図1の例では、エア供給通路7は、各傾斜機構20へそれぞれ加圧エアを供給するように配設されている。これに代えて、メインタンク6から各傾斜機構20へ加圧エアを供給するためのポートは1つとし、エア供給通路7が各傾斜機構20へ加圧エアを供給可能なように途中で分岐するように配設されてもよい。
【0022】
車体傾斜装置5は、各調整弁14,16の開度制御、切換え弁24の切換え制御等を行う制御部10を備えている。さらに、制御部10は、複数のコンプレッサ11,12のオン/オフ制御をも行い得る。すなわち、制御部10は、第2コンプレッサ12の作動制御を行う第2コンプレッサ制御部10aとして機能する。制御部10は、RAMおよびROM等を含むマイクロコントローラ等により構成される。
【0023】
なお、
図1においては、制御部10と紙面左側(車両長手方向一方側)の傾斜機構20の各信号送受信対象との間の信号線が破線で示されているが、制御部10と紙面右側(車両長手方向他方側)の傾斜機構20の各信号送受信対象との間の信号線は一部省略されている。
【0024】
メインタンク6には、メインタンク6内の加圧エアの圧力(メインタンク6の内圧)P6を検出するメインタンク内圧検出器21が設けられ、メインタンク内圧検出器21で検出されたメインタンク6の内圧情報は、制御部10に送られる。ここで、メインタンク6に貯留された加圧エアは、一対の空気バネ4の他に、鉄道車両1の制動装置、ドア駆動装置、および警笛装置(何れも図示せず)等へ駆動源として供給される。このため、車体傾斜装置5(一対の空気バネ4)によってメインタンク6内の加圧エアが利用されない状態でもメインタンク6内の加圧エアが他の装置へ供給されることにより消費される場合がある。このため、制御部10は、メインタンク6の内圧P6が所定圧力以上を維持するように複数のコンプレッサ11,12を制御する。
【0025】
制御部10は、車体傾斜制御を行う場合には、メインタンク6内の加圧エアが一対の給気通路13を介して一対の空気バネ4に送られるように切換え弁24を切り換え、車体傾斜制御を行わない場合(平常時)には、メインタンク6内の加圧エアが平常時用給気通路23を介して一対の空気バネ4に送られるように切換え弁24を切り換える。
【0026】
一対の空気バネ4には、各空気バネ4の内圧P4を検出する一対の空気バネ内圧検出器22が設けられ、各空気バネ内圧検出器22で検出された各空気バネ4の内圧情報は、制御部10に送られる。また、各空気バネ4には、各平常時用給気通路23から自動的に加圧エアを給排気して空気バネ高さを調整する自動高さ調整弁(レべリングバルブ)29が設けられている。また、各空気バネ4には、各空気バネ4の全高(空気バネ高さ)を計測する空気バネ高さセンサ30が設けられている。車体傾斜制御を行わない場合には、制御部10は、切換え弁24を制御して、加圧エアが通過する経路として給気通路13を連通させて、自動高さ調整弁29を動作させることにより、空気バネ高さ(車高)が一定に保たれる。
【0027】
車体傾斜制御を行う場合には、エア供給用調整弁14は、制御部10からの指令信号によりそれぞれ独立して開度調整され、各給気通路13を流れる加圧エアの流量が調整される。同様に、エア排出用調整弁16も、制御部10からの指令信号により独立して開度調整され、各排気通路15を流れる排気加圧エアの流量が調整される。
【0028】
例えば、制御部10は、自車位置検出装置(図示せず)で検出された外部情報を線路曲線データベース(図示せず)と対照することにより車両存在位置における軌道の曲率、カント量を求め、その曲率、カント量に基づいて必要な車体傾斜指令角を算出する。制御部10は、この車体傾斜指令角に基づいて、外軌側となる何れか一方の空気バネ4の全高を設定し、かかる目標値と、空気バネ高さセンサ30により計測された車体傾斜時の空気バネ高さの計測値とを比較することにより、エア供給用調整弁14の開弁量を算出し、その指令信号を出力する。
【0029】
自車位置検出装置は、例えばロータリエンコーダにより得られた車輪回転数に車輪径を乗じて得た値を走行距離として積算し、軌道の近傍に設置されたATS(自動列車停止装置)やATC(自動列車制御装置)の地上子位置からの積算走行距離によって自車位置を算出する。
【0030】
例えば左曲線走行のとき、空気バネ高さの目標値と、空気バネ高さセンサ30の計測値とを比較することにより、左方の空気バネ4のエア供給用調整弁14と双方のエア排出用調整弁16を閉弁状態に保持するとともに、右方の空気バネ4のエア供給用調整弁14を開作動し、曲線走行における外軌側(右方)の空気バネ4の全高を旋回曲率とカント量と走行速度とに応じて高くする。これにより、車体2を台車枠3に対して最終的に1〜2°傾斜させて、鉄道車両1に加わる遠心力の車体床面に平行な成分を低減させ、鉄道車両1に加わる車体床面に垂直な成分の力を増大させる。車体傾斜制御を終了する場合には、空気バネ4の全高が高くなった側のエア排出用調整弁16が開弁され、対応する空気バネ4の高さが平常時の高さに収まるように調整される。 排気タンク9には、当該排気タンク9から外部に延びるタンク排気通路26が設けられている。タンク排気通路26には、エア放出用排気弁27が介装されている。エア放出用排気弁27は、排気タンク9の内圧P9が所定のしきい値より高い場合に弁開して排気タンク9が大気に開放されるように構成されている。エア放出用排気弁27の弁開のためのしきい値は、空気バネ4の内圧P4において想定される最低値より低い値に設定される。エア放出用排気弁27は、例えば機械式のリリーフ弁が採用される。空気バネ4の内圧P4が排気タンク9の内圧P9より高い状態を維持することにより空気バネ4から排気された排気加圧エアを排気タンク9へスムーズに移動させることができる。
【0031】
ここで、制御部10は、第2コンプレッサ12が、第1コンプレッサ11の作動に対して補助的に作動するように制御する。
【0032】
上記構成によれば、大気を導入する第1コンプレッサ11とは別に排気加圧エアを導入する第2コンプレッサ12が設けられており、車体傾斜動作を連続的に行う必要がある区間においては第2コンプレッサ12が補助的に作動する。このため、第2コンプレッサ12の作動時であっても、それとは独立して第1コンプレッサ11により大気を導入することができるため、メインタンク6の内圧が下がった場合でも、第2コンプレッサ12の作動を停止させる必要がなく効率が高い状態を維持することができる。
【0033】
さらに、第2コンプレッサ12の故障時においても、第1コンプレッサ11を継続的に作動させることができるため、鉄道車両1を停止させる可能性を低減することができる。
【0034】
さらに、第2コンプレッサ12の稼働率を下げることにより、第2コンプレッサ12の連続的な熱の発生を防止することができ、第2コンプレッサ12を長寿命化することができる。
【0035】
本実施の形態において、排気タンク9には、排気タンク9内の排気加圧エアの圧力(排気タンク9の内圧)P9を検出する排気タンク内圧検出器25が設けられ、排気タンク内圧検出器25で検出された排気タンク9の内圧情報は、制御部10に送られる。
【0036】
制御部10(第2コンプレッサ制御部10a)は、第2コンプレッサ12を第1コンプレッサ11に対して補助的に作動させるために、排気タンク9の内圧P9を大気圧以上に保つように、第2コンプレッサ12の作動を停止する制御を行う。これによれば、排気タンク9の内圧P9を検出し、検出された排気タンク9の内圧が大気圧未満(負圧)になるような値になる前に第2コンプレッサ12の作動が停止される。例えば、メインタンク6の内圧P6からは第2コンプレッサ12を作動可能な状況であっても、第2コンプレッサ12を作動させることにより排気タンク9の内圧P9が負圧になるような状況であれば、第2コンプレッサ12を作動させても効率的に第2コンプレッサ12を動作させることができない。したがって、排気タンク9の内圧P9が負圧にならないように、第2コンプレッサ12の作動を停止制御することにより、第2コンプレッサ12を用いることによる効率を高く維持することができる。
【0037】
第2コンプレッサ12の作動制御についてより具体的に説明する。
図2は実施の形態1における第2コンプレッサ12の作動条件を示すグラフである。制御部10は、排気タンク9の内圧P9が第1しきい値Pth1より低い場合、または、メインタンク6の内圧P6が第1しきい値Pth1より高い第2しきい値Pth2より高い場合(P9<Pth1またはP6>Pth2)に、第2コンプレッサ12の作動を停止する。第1しきい値Pth1は、排気タンク9の内圧P9が負圧にならない値(例えばPth1=25KpaG)に設定される。また、第2しきい値Pth2は、メインタンク6の内圧P6が上限値にならない値(例えばPth2=880KpaG)に設定される。
【0038】
一方、排気タンク9の内圧P9が第1しきい値Pth1より高い第3しきい値Pth3より高い場合、かつ、メインタンク6の内圧P6が第2しきい値Pth2より低い第4しきい値Pth4より低い場合(P9<Pth3かつP6>Pth4)に、第2コンプレッサ12の作動を開始する。第3しきい値Pth3は、第1しきい値Pth1より所定の不感帯分低い値(例えばPth3=50KpaG)に設定される。また、第4しきい値Pth4は、第2しきい値Pth2より所定の不感帯分低い値(例えばPth4=780KpaG)に設定される。このように、第2コンプレッサ12の作動開始および停止条件にはヒステリシスが設けられる。
【0039】
また、第1コンプレッサ11は、メインタンク6の内圧P6に応じて作動制御される。制御部10は、メインタンク6の内圧P6が第2しきい値Pth2より高い場合に第1コンプレッサ11の作動を停止し、メインタンク6の内圧P6が第4しきい値Pth4より低い場合に第1コンプレッサの作動を開始する。
【0040】
この場合、メインタンク6の内圧P6が第4しきい値Pth4より低くても、排気タンク9の内圧P9が第3しきい値Pth3以下であれば、第2コンプレッサ12は作動せず、第1コンプレッサ11のみ作動する。すなわち、排気タンク9の内圧P9が負圧になりそうな場合には、第2コンプレッサ12の効率低下抑制のために、第2コンプレッサ12の作動が停止した状態となる。傾斜区間において車体傾斜制御が開始されると、第1コンプレッサ11のみを用いて空気バネ4に加圧エアが供給される。この結果、空気バネ4から排出された排気加圧エアが排気タンク9に充填されると排気タンク9の内圧P9が上昇する。排気タンク9の内圧P9が第3しきい値Pth3より高くなると第2コンプレッサ12の作動条件が成立するため、第2コンプレッサ12を効率的に動作させることができる。したがって、第3しきい値Pth3は、1回の車体傾斜制御で排気タンク9に充填される空気量(による内圧上昇値)に基づいて、なるべく少ない車体傾斜回数(例えば1回)で当該第3しきい値Pth3を超えるような値に設定される。
【0041】
また、メインタンク6の内圧P6が過剰になりそうな場合(P6>Pth2)には、メインタンク6およびメインタンク6から空気供給を受ける他の空気圧機器の過剰な負荷抑制のために、第2コンプレッサ12の作動が停止する。
【0042】
このように、メインタンク6の内圧が過剰とならない圧力下であり、かつ、排気タンク9の内圧がある程度高く、効率よく排気加圧エアを吐出できる状態になってから第2コンプレッサ12の作動が開始される。このような制御ロジックを用いて第2コンプレッサ12の作動または停止が制御されることにより、第2コンプレッサ12の稼働率を下げつつ、第2コンプレッサ12を効率的に作動させることができる。
【0043】
なお、第2コンプレッサ12のメインタンク6の内圧P6に関する作動条件(P6<Pth4)は、上記のように第1コンプレッサ11の作動条件と同じでもよいが、第4しきい値Pth4を第1コンプレッサ11の作動条件におけるしきい値より低い値としてもよい。これにより、第2コンプレッサ12の稼働率を下げ、第2コンプレッサ12を長寿命化することができる。
【0044】
本実施の形態において、各調整弁14,16の開度制御、切換え弁24の切換え制御等を行う制御部10が第2コンプレッサ12の作動制御を行う第2コンプレッサ制御部10aとして機能する態様について説明したが、これに限られない。例えば、車体傾斜装置5は、制御部10とは別に第2コンプレッサ12の作動制御を行う他の制御部(マイクロコントローラ等)を有してもよいし、第2コンプレッサ12の作動制御を行う論理回路を備えていてもよい。
【0045】
[実施の形態2]
図3は実施の形態2における鉄道車両の概略構造を示す平面図である。本実施の形態において上記実施の形態1と同様の構成については同じ符号を付し説明を省略する。
図3に示すように、本実施の形態における鉄道車両1Bの車体傾斜装置5Bが実施の形態1と異なる点は、排気タンク9から排気加圧エアを大気開放するためのエア放出用排気弁27Bがリリーフ圧を変化させることができる電磁弁で構成されていることである。
【0046】
制御部10は、エア放出用排気弁27Bの作動制御を行う排気弁制御部10bとして機能し、制御部10は、排気タンク9の内圧P9が第5しきい値Pth5(Pth5>Pth3)より高い場合に、エア放出用排気弁27Bを開いて排気タンク9を外部に開放するように制御する。また、制御部10は、排気タンク9の内圧P9が第5しきい値Pth5より低い第6しきい値Pth6より低い場合に、エア放出用排気弁27Bを閉じるように制御する。すなわち、エア放出用排気弁27Bの作動制御においてもヒステリシスが設けられている。
【0047】
本実施の形態によれば、実施の形態1と同様に、排気タンク9の内圧P9を第5しきい値以下にすることで、加圧エアの空気バネ4からの排出および排気タンク9への導入が行えなくなるのを防止することができる。
【0048】
さらに、制御部10は、鉄道車両1が所定条件を満たす場合、一対の空気バネ4の内圧P4に応じて第5しきい値Pth5および第6しきい値Pth6を変化させる。より具体的には、制御部10は、空気バネ内圧検出器22により検出された空気バネ4の内圧P4が安定したときの一対の空気バネ4の内圧P4に応じて第5しきい値Pth5および第6しきい値Pth5を変化させる。基準となる空気バネ4の内圧P4は、鉄道車両1の走行経路の所定位置において各空気バネ内圧検出器22から検出される一対の空気バネ4の内圧P4のうち低い方の値が採用される。なお、一対の空気バネ4の内圧P4の双方の値を平均した値を所定位置における空気バネ4の内圧P4として採用してもよい。
【0049】
各鉄道車両1において乗車率が増減すると空気バネ4が支持する車体2の重量が増減するため、それに応じて各空気バネ4の内圧P4が増減する。前述の通り、空気バネ4から排気された排気加圧エアを排気タンク9へスムーズに移動させるためには、排気タンク9の内圧P9は、空気バネ4の内圧P4より低い状態(圧力勾配の形成)を維持する必要がある。しかし、第2コンプレッサ12を用いた排気加圧エアのメインタンク6への供給をより効率的に行うためには、排気タンク9の内圧P9は、なるべく高い値とすることが望ましい。
【0050】
そこで、制御部10は、排気タンク9の内圧P9を空気バネ4の内圧P4より低い値としつつなるべく高い値とすることができるように、エア放出用排気弁27Bの開弁条件(第5しきい値Pth5)を変更する。例えば、制御部10のメモリに、所定位置における空気バネ4の内圧P4、第5しきい値Pth5、および第6しきい値Pth6の関係式が記憶される。例えばPth5=P4−A、Pth6=Pth5−B(A,Bは予め定められる定数)が記憶される。制御部10は、所定位置における各空気バネ4の内圧P4を取得した後、上記関係式に基づいて各しきい値Pth5,Pth6を算出し、算出された値をエア放出用排気弁27Bの開弁条件および閉弁条件として設定する。
【0051】
このような関係式の代わりに、所定位置における空気バネ4の内圧P4に基づいて設定されるべき各しきい値Pth5,Pth6がそれぞれ定められる記憶テーブルが記憶されてもよい。
【0052】
このような構成によれば、乗車率によって空気バネ4の内圧が変化しても、排気タンク9の内圧P9の上限を空気バネ4の内圧P4に近付けることができるため、第2コンプレッサ12のための排気加圧エアの貯留量(排気タンク9の内圧P9)を可能な限り高くすることができる。
【0053】
本実施の形態において、各調整弁14,16の開度制御、切換え弁24の切換え制御等を行う制御部10がエア放出用排気弁27Bの作動制御を行う排気弁制御部10bとして機能する態様について説明したが、これに限られない。例えば、車体傾斜装置5Bは、制御部10とは別にエア放出用排気弁27Bの作動制御を行う他の制御部(マイクロコントローラ等)を有してもよいし、エア放出用排気弁27Bの作動制御を行う論理回路を備えていてもよい。
【0054】
第5しきい値Pth5および第6しきい値Pth6を変化させる所定条件についてより詳しく例示する。例えば、第1の条件として、鉄道車両1の走行速度Vが所定の第1速度以上となった場合に、制御部10は、鉄道車両1が所定条件を満たすと判定してもよい。本条件における所定の第1速度は、鉄道車両1の走行開始状態を示す速度として停止状態に近い速度(例えば5km/h)に設定される。なお、チャタリング動作の発生を防止するために、一度、第1の条件を満たした後は、制御部10は、鉄道車両1の走行速度Vが一旦当該所定の第1速度より低い速度(例えば3km/h)未満になってからでないと条件を満たさないと判定する。これにより、例えば、停止状態から走行速度Vが所定の第1速度以上となったことをもって、停車駅からの鉄道車両1の出発を容易に検出できる。したがって、鉄道車両1において乗車率が比較的安定している状態を容易に検出できる。
【0055】
これに加えてまたはこれに代えて、例えば、第2の条件として、鉄道車両1の乗客乗降用ドアの開閉を検知するセンサ(図示せず)により、乗客乗降用ドアが閉じた場合に、制御部10は、鉄道車両1が所定条件を満たすと判定してもよい。これによっても、鉄道車両1において乗車率が比較的安定している状態を容易に検出できる。
【0056】
また、例えば、第3の条件として、鉄道車両1が予め記憶された所定の停車駅に到着した場合に、制御部10は、鉄道車両1が所定条件を満たすと判定してもよい。例えば、制御部10には、乗客の乗降があり得る停車駅が予め記憶されており、鉄道車両1が停車した場合に、制御部10が当該予め記憶された停車駅か否かを判定する。例えば制御部10は、停車駅を認識することができる公知の車両モニタ装置(図示せず)から停車駅情報を鉄道車両1の停車時に受信し、当該停車駅が予め記憶されている所定の停車駅か否かを判定する。なお、鉄道車両1が停車したことは、走行速度V=0かつ乗客乗降用ドアが開状態であることを条件としてもよい。
【0057】
第3の条件も、第1の条件および/または第2の条件とのAND条件として設定できる。すなわち、第1の条件かつ第3の条件が成立した場合に、鉄道車両1が所定条件を満たすと判定されてもよいし、第2の条件かつ第3の条件が成立した場合に、鉄道車両1が所定条件を満たすと判定されてもよいし、第1から第3の条件がすべて成立した場合に、鉄道車両1が所定条件を満たすと判定されてもよい。
【0058】
また、例えば、第4の条件として、鉄道車両1の走行速度Vが安定的な走行状態を示す所定の第2速度以上となった場合に、制御部10は、鉄道車両1が所定条件を満たすと判定してもよい。本条件は、特に互いに乗客の行き来が可能な複数の鉄道車両1が連結された列車編成において適用され得る。本条件における所定の第2速度は、速度がある程度速くなり、複数の鉄道車両1間で乗客の行き来が生じ難い状態を示す速度(例えば40km/h)に設定される。なお、チャタリング動作の発生を防止するために、一度第4の条件を満たした後は、制御部10は、鉄道車両1の走行速度Vが一旦当該所定の第2速度より低い速度未満になってからでないと条件を満たさないと判定する。
【0059】
さらに、第4の条件を採用する場合、制御部10は、鉄道車両1の走行速度Vが所定の第2速度より高い第3速度(例えば50km/h)以上となった場合に、車体傾斜制御を実行可能としてもよい。この場合、鉄道車両1の走行開始後、車体傾斜制御が開始される前に、必ず排気タンク9の内圧P9についての第5しきい値Pth5および第6しきい値Pth6が設定更新される。したがって、空気バネ4の内圧P4の実情に応じた排気タンク9の内圧P9の上限が設定された状態で車体傾斜制御を行うことができる。
【0060】
さらに、第4の条件には、鉄道車両1が直線区間を走行中かつ空気バネ高さが基準高さに基づいて設定される所定範囲内であることが付加されてもよい。この場合、例えば、制御部10は、公知の走行区間識別部(図示せず)を備えており、鉄道車両1が直線区間を走行しているか曲線区間を走行しているかを識別するように構成されてもよい。このような条件を付加することにより、排気タンク9の内圧P9についての第5しきい値Pth5および第6しきい値Pth6の設定をより適切に行うことができる。
【0061】
第4の条件も、第1の条件、第2の条件および/または第3の条件と組み合わせた条件として設定できる。すなわち、第1の条件、第2の条件および第3の条件のうちの何れか1つと、第4の条件とを所定条件としてもよいし、第1の条件、第2の条件および第3の条件のうちの何れか2つと、第4の条件とを所定条件としてもよいし、第1の条件、第2の条件、第3の条件および第4の条件を所定条件(AND条件)としてもよい。
【0062】
[実施の形態3]
図4は実施の形態3における列車編成の概略構造を示す平面図である。本実施の形態において上記実施の形態1と同様の構成については同じ符号を付し説明を省略する。
【0063】
上記実施の形態1および2には、一の鉄道車両1に第1コンプレッサ11および第2コンプレッサ12を備えた構成が例示されている。しかし、既存の鉄道車両、すなわち、特許文献1の構成または通常の大気導入型のコンプレッサ(第1コンプレッサ11)のみを備えた鉄道車両において、上記実施の形態1および2を適用しようとした場合、既存の鉄道車両のレイアウトではさらに第2コンプレッサ12を追加することがスペース上難しい場合がある。
【0064】
そこで、本実施の形態では、メインタンクの内圧が低下しても排気加圧エアの供給を効率的に行うことができる鉄道車両の車体傾斜装置を、既存の鉄道車両でも比較的容易に導入することができる列車編成を提供するための態様を例示する。
【0065】
本実施の形態における列車編成50は、エア供給通路7Cおよびエア排出通路8Cが、それぞれ、2つの車両1Ca,1Cbにわたって延び、2つの車両1Ca,1Cb単位で1つの車体傾斜装置5Cを形成するように構成される。本実施の形態では、エア排出通路8Cのうち、空気バネ4と排気タンク9との間の還流通路18Cが2つの車両1Ca,1Cbにわたって延びている。そして、2つの車両1Ca,1Cbのうちの一の車両1Caに第2コンプレッサ12が設置され、他の車両1Cbに第1コンプレッサ11が設置されている。なお、
図4においては制御部10からの信号線は図示を省略している。また、制御部10は、一の車両1Caのみに図示しているが、各車両に設けられてもよい。また、エア供給通路7Cおよびエア排出通路8Cは、
図4には車幅方向両端側に配設されるように図示されているが、両通路7C,8Cが車幅方向の何れか一端側に配設されてもよいし、車幅方向中央部に配設されてもよい。
【0066】
このように、本実施の形態における列車編成50においては、従来の大気導入型コンプレッサを採用する複数の車両を1ユニットとして、当該複数の車両のうちの少なくとも一の車両のコンプレッサを、排気タンク9から導入した排気加圧エアを加圧する第2コンプレッサ12に置き換えている。これにより、一の車両において、新たに第2コンプレッサ12を設置するスペースを設ける必要がなく、既存の車両においても本車体傾斜装置5Cを比較的容易に導入することができる。また、一の車両に第1コンプレッサ11および第2コンプレッサ12を設置するよりもスペース効率を良好にすることができる。
【0067】
なお、メインタンク6は、各車両1Ca,1Cbに1つずつ設けられる。また、排気タンク9も、各車両1Ca,1Cbにそれぞれ1つずつ設けられる。
【0068】
排気タンク9が各車両1Ca,1Cbに設けられることにより、各空気バネ4と各排気タンク9との間に接続されるエア排出通路8C(還流通路18C)の距離を短く(一定に)することができ、複数の空気バネ4における排気速度の偏り(圧力勾配の偏り)を防止することができる。このため、さらに、エア排出通路8C(還流通路18C)の内径をエア供給通路7Cの内径に比べて小さくすることができる。これにより、複数の車両1Ca,1Cb間に延びるエア供給通路7Cおよびエア排出通路8C(還流通路18C)の配設に要するスペースを小さくすることができる。
【0069】
排気タンク9を各車両1Ca,1Cbに設けることに加えてまたはこれに代えて、各空気バネ4と排気タンク9との間のエア排出通路8Cの内径を大きくしてもよい。この場合には、各空気バネ4と排気タンク9との間の距離が長くなっていても(各空気バネ4と排気タンク9との間の各距離が異なっていても)、複数の空気バネ4における排気速度の偏りを抑制することができる。したがって、この場合には、各車両1Ca,1Cbに排気タンク9を必ずしも設けなくてもよい。
【0070】
なお、本実施の形態において、2両編成の場合を説明したが、これに限られない。本実施の形態における2両を1ユニットとして、複数ユニットを連結した列車編成としてもよい。
【0071】
[実施の形態4]
図5は実施の形態4における列車編成の概略構造を示す平面図である。本実施の形態において上記実施の形態3と同様の構成については同じ符号を付し説明を省略する。本実施の形態の列車編成51は、3つの車両1Ca,1Cb,1Cc単位で1つの車体傾斜装置5Cを形成するように構成される。したがって、中間車1Ccにおいて、エア供給通路7Cおよびエア排出通路8Cが、隣接する各車両1Ca,1Cbに延びている。そして、3つの車両1Ca,1Cb,1Ccのうちの一の車両1Caに第2コンプレッサ12が設置され、他の車両1Cb,1Ccに第1コンプレッサ11が設置されている。
【0072】
本実施の形態における列車編成51においても、2両1編成である実施の形態3における列車編成50と同様に、メインタンク6の内圧が低下しても排気加圧エアの供給を効率的に行うことができる鉄道車両の車体傾斜装置5Cを、既存の鉄道車両でも比較的容易に導入することができる効果を奏する。
【0073】
なお、本実施の形態において、3両編成の場合を説明したが、これに限られない。本実施の形態における3両を1ユニットとして、複数ユニットを連結した列車編成としてもよい。
【0074】
なお、複数の車両のうちの少なくとも一の車両に第2コンプレッサ12が設置されればよい。したがって、1つの車体傾斜装置5Cを構成する複数の車両において第2コンプレッサ12が設置される車両の位置(先頭車、中間車等)は、限定されない。また、1つの車体傾斜装置5Cを構成する複数の車両において第1コンプレッサ11の数に対する第2コンプレッサ12の数の割合も、各コンプレッサが少なくとも1つずつ設置される限り、適宜変更可能である。また、4両以上の車両単位で1つの車体傾斜装置を構成してもよい。この場合も、第1コンプレッサ11の数に対する第2コンプレッサ12の数の割合や、各コンプレッサ11,12が設置される車両の位置は限定されない。
【0075】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変更、修正が可能である。例えば、複数の上記実施の形態における各構成要素を任意に組み合わせることとしてもよい。例えば、実施の形態3および4において
図4および
図5には排気タンク9から排気加圧エアを大気開放するためのエア放出用排気弁27が実施の形態1のような機械式のリリーフ弁であるように示されているが、実施の形態2のようなリリーフ圧を変化させることができる電磁弁で構成されていてもよい。
【0076】
また、上記実施の形態における車体傾斜装置5,5B,5Cが設けられる鉄道車両1,1Bないし列車編成50,51は、一対の空気バネ4を用いる限り、ボルスタレス式の鉄道車両でもよいし、ボルスタを用いた鉄道車両でもよい。また、上記実施の形態における車体傾斜装置5,5B,5Cが設けられる鉄道車両1,1Bないし列車編成50,51は、1つの車両に1つの台車枠3が設けられる構成であってもよいし、1つの台車枠3に対して一対の空気バネ4が複数組設けられる構成であってもよい。
【0077】
また、上記実施の形態においては、1つの車両に一対の空気バネ4が2組設けられるとともに排気タンク9が1つの車両に1つ設けられる例について説明したが、これに限られず、一対の空気バネ4(1組)ごとに排気タンク9が設けられてもよい。
【0078】
また、第1コンプレッサ11および第2コンプレッサ12のうち、第1コンプレッサ11または第2コンプレッサ12のみが設置された車両と、第1コンプレッサ11および第2コンプレッサ12の双方が設置された車両(上記実施の形態1および2のような車両)とを組み合わせて1つの車体傾斜装置が形成される列車編成としてもよい。
【0079】
また、車体傾斜制御自体の態様は特に限定されず、例えば、加速度センサまたはジャイロセンサからの検出値と速度センサからの検出値とに基づいて曲率等を演算し、それに基づいて車体傾斜制御を行うこととしてもよい。また、GPSにより自車位置や曲率等を検知することも可能である。
【0080】
なお、上記実施の形態3および4において、各車両にメインタンク6を設けているが、その容量は同一でもなくてもよい。特に、メインタンク6間を連通する空気配管(MR直通管)の径は比較的大きいため、メインタンクの容量のばらつきは許容できる。また、MR直通管の径をさらに大きくできる場合には、メインタンク6を列車編成のうち、特定の車両に纏めて配置してもよい。
【0081】
同様に、上記実施の形態3および4において、各車両に排気タンク9を設けているが、これに限られない。上記と同様の理由により、排気タンク9を連通する空気配管の径を大きくすることができる場合には、排気タンク9を列車編成のうち、特定の車両に纏めて配置してもよい。