特許第6564300号(P6564300)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6564300
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】鉄道車両用台車枠
(51)【国際特許分類】
   B61F 5/52 20060101AFI20190808BHJP
   B61F 5/00 20060101ALI20190808BHJP
【FI】
   B61F5/52
   B61F5/00 D
【請求項の数】1
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-210034(P2015-210034)
(22)【出願日】2015年10月26日
(65)【公開番号】特開2017-81308(P2017-81308A)
(43)【公開日】2017年5月18日
【審査請求日】2018年7月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004617
【氏名又は名称】日本車輌製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】特許業務法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】國井 利樹
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 英晃
(72)【発明者】
【氏名】玉川 佑介
【審査官】 長谷井 雅昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−133023(JP,A)
【文献】 特開2010−149808(JP,A)
【文献】 特開2013−241081(JP,A)
【文献】 特開平11−227602(JP,A)
【文献】 特開2014−037186(JP,A)
【文献】 特開昭60−067259(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61F 5/52
B61F 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
横梁と側梁を有し、鉄道車両の動力として備えられるモータを支持するモータ取付板と、前記鉄道車両の車軸に接続される歯車箱を支持する歯車箱取付板と、前記鉄道車両に制動をかけるブレーキを支持するブレーキ取付板の、いずれか2つを備える鉄道車両用台車枠において、
前記モータ取付板、前記歯車箱取付板、前記ブレーキ取付板、の少なくともいずれか2つが、一体化した共通の基部を持つ複合取付板を備え、
該複合取付板が、前記横梁または前記側梁に溶接されていることにより、応力集中が生じる部分を溶接部ではなく前記複合取付板の母材部分とすること、
を特徴とする鉄道車両用台車枠。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両用台車枠の構造に関し、具体的には鉄道車両用台車枠を製造する際に用いる部品や溶接部分等を工夫することで、応力集中による影響を緩和する鉄道車両用台車枠に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両に用いられる台車枠は、軌道と平行に設けられた側梁と、それと交わるように配置される横梁が接合されて構成されており、その側梁又は横梁には台車枠に配置される駆動装置や制動装置などが取り付けられる。しかしながら駆動装置や制動装置などを取り付ける為のブラケットを溶接によって取り付けることは、応力集中などを緩和する為の作業を要するので、多大な工数を必要とする。
【0003】
特許文献1には、鉄道車両用台車枠及び製造方法、並びにその台車枠を備えた台車に関する技術が開示されている。液圧プレス工法などを用いて横梁パイプ鋼管に平坦張出し部及びコーナー張出し部を含む張出し部を形成し、この張出し部にブラケットの端部を接合することによって、直線溶接の溶接ビード幅を小さくすると共にブラケット端部の裾をビードにて形成することを廃止でき、溶接量の削減が可能となる。これにより、必要となる仕上げ範囲も狭くでき、溶接歪みの発生も抑制できるため、溶接、仕上げ、歪みとりの各作業ステップの工数低減を図ることが出来る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013―133023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、横梁パイプ鋼管に平坦張出し部を設けるために液圧プレスなどを用いる必要がある。そして、張出し部を設けることで、従来よりも仕上げ範囲を狭くできるものの、張出し部の形成にそれなりの幅を要する為、更に仕上げ範囲を狭くすることを要求されるケースでは、対応が難しい。例えば、側梁の位置を車輪よりも内側に設ける様な必要性が出てくると、側梁間が狭くなり、ブラケット取り付けスペースが狭くなってしまう。そうなると、任意の場所に駆動装置や制動装置などを取り付けることが困難になることが予想される。
【0006】
そこで、本発明はこの様な課題を解決する為に、狭い範囲で駆動装置や制動装置を取り付けるためのブラケットを台車枠に設けるにあたって応力集中が緩和可能な構造の鉄道車両用台車枠を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明の一態様による鉄道車両用台車枠は、以下のような特徴を有する。
【0008】
(1)横梁と側梁を有し、鉄道車両の動力として備えられるモータを支持するモータ取付板と、前記鉄道車両の車軸に接続される歯車箱を支持する歯車箱取付板と、前記鉄道車両に制動をかけるブレーキを支持するブレーキ取付板の、いずれか2つを備える鉄道車両用台車枠において、前記モータ取付板、前記歯車箱取付板、前記ブレーキ取付板、の少なくともいずれか2つが、一体化した共通の基部を持つ複合取付板を備え、該複合取付板が、前記横梁または前記側梁に溶接されていることにより、応力集中が生じる部分を溶接部ではなく前記複合取付板の母材部分とすること、を特徴とする。
【0009】
上記(1)に記載の態様によれば、前記モータ取付板、前記歯車箱取付板、前記ブレーキ取付板、の少なくともいずれか2つを一体化した部品とすることで、応力集中を低減させることができる。これは、複数の部品を一体化することで、例えばモータ取付板と歯車箱取付板との距離が近いようなケースでも、溶接箇所のビード同士が干渉するなどの問題を引き起こすことが無くなるからである。取付板同士が近いと溶接作業を行うことが困難であるため、溶接箇所の処理が適切で無いと応力集中を引き起こす結果になり易い。しかし、一体型取付板を用いることでこの様な問題を解消できる。また、応力集中が生じる部分を溶接部分から母材部分とすることが出来るため、台車の信頼性を高めることに貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態の、横梁ユニットの平面図である。
図2】本実施形態の、横梁ユニットの側面図である。
図3】本実施形態の、横梁ユニットの断面図である。
図4】本実施形態の、横梁ユニットの裏側からの平面図である。
図5】本実施形態の、台車枠の平面図である。
図6】本実施形態の、台車枠の部分斜視図である。
図7】本実施形態の、横梁ユニットに歯車箱と、モータを取り付けた様子を示す断面図である。
図8】比較のために用意した、従来技術における横梁の平面図である。
図9】比較のために用意した、従来技術における横梁の断面図である。
図10】比較のために用意した、従来技術における横梁の別の断面図である。
図11】本実施形態の、横梁の応力解析結果を示す模式図である。
図12】比較のために用意した、横梁の応力解析結果を示す模式図である。
図13】(a)従来技術による台車の平面概略図である。(b)本実施形態による台車の平面概略図である。
図14】本実施形態の、別の形態の複合ブラケットの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
まず、本発明の実施形態について図面を用いて説明を行う。図1に、本実施形態の、横梁ユニット115の平面図を示す。横梁ユニット115は、後述するレール方向と平行する左右一対の側梁110間に設けられる横梁120によって構成される。横梁120は2本が平行に配置され、連結材116が溶接されることで横梁ユニット115を形成する。図2に、横梁ユニット115の側面図を示す。図1の矢視Aに相当する。図3に、横梁ユニット115の断面図を示す。図1のBB断面に相当する。図4に、横梁ユニット115の裏側からの平面図を示す。図2の矢視Cに相当し、中心線より右側は省略して示されている。横梁120には、複合ブラケット150が溶接されている。
【0012】
図5に、台車枠100の平面図を示す。台車枠100は、側梁110と横梁ユニット115を接合して形成される。図6に、台車枠100の部分斜視図を示す。複合ブラケット150は、基部155を共通にした、モータ吊ブラケット151と歯車箱吊ブラケット156を有している。つまり、複合ブラケット150は基部155とモータ吊ブラケット151と歯車箱吊ブラケット156よりなる。
【0013】
モータ吊ブラケット151と歯車箱吊ブラケット156は、図2に示されるように異なる高さとなるように設計されており、図1図4に示すように横梁120からそれぞれの端部までの距離も異なっている。この複合ブラケット150は1枚の板材をプレス加工などによって必要な形状に成形され、キー152やリブ等が別途溶接される事で形成されている。また、機械加工などによる穴開けや、切削加工が必要に応じて行われている。
【0014】
図7に、横梁ユニット115に歯車箱200と、モータ210を取り付けた様子を断面図に示す。図5のDD断面に相当する。歯車箱200は、車軸201に設けられた大径ギア202と小径ギア203とを納めるケースであり、車軸201に貫通されている。また、歯車箱200はロッド205によって歯車箱吊ブラケット156に吊られて支持されている。モータ210は、歯車箱200に接続されて駆動力を車軸201に伝達している。モータ210にはアーム211が取り付けられキー152とかみ合って位置決めされる。一方でモータ210は、支持材212によってモータ吊ブラケット151に保持される。
【0015】
本実施形態の鉄道車両用の台車枠100は上記構成であるので、以下に示す作用及び効果を奏する。本実施形態の台車枠100は、横梁120と側梁110を有し、鉄道車両の動力として備えられるモータ210を支持するモータ取付板に相当するモータ吊ブラケット151と、鉄道車両の車軸201に接続される歯車箱200を支持する歯車箱取付板に相当する歯車箱吊ブラケット156とを備える鉄道車両用の台車枠100において、モータ吊ブラケット151と歯車箱吊ブラケット156が、一体化した共通の基部155を持つ複合取付板に相当する複合ブラケット150を備え、複合ブラケット150が、横梁120に溶接されたものである。この結果、台車枠100に生ずる応力集中の緩和が可能となる。これは、次に説明するような理由による。
【0016】
図8に、比較のために用意した、従来技術における横梁320の平面図を示す。図9に、従来技術における横梁320の断面図を示す。図10に、従来技術における横梁320の断面図を示す。図9図8のEE断面であり、図10図8のFF断面である。従来技術における横梁320は円筒形のパイプ材を用いて形成され、ブレーキテコ受台365、歯車箱吊受356、モータ受351、及び制輪子吊受台361がそれぞれ溶接して設けられている。モータ受351にはキー352が備えられている。そして、図8に示されるように、歯車箱吊受356と制輪子吊受台361との距離は非常に近くなっている。また、歯車箱吊受356とブレーキテコ受台365との距離も非常に近くなっている。この様な構成の場合、溶接ビード同士が非常に近くなってしまい、溶接作業そのものの作業性が悪化する。
【0017】
また、それ以上に溶接ビード同士が近接することで、歯車箱吊受356、及び制輪子吊受台361などの横梁320に溶接するブラケットの溶接部分付近に応力集中を引き起こし易くなる。この応力集中を下げようとする場合、ブラケットに設けた繋ぎRを小さくするか、Rを排したブラケットを取り付け、溶接ビードの形状で処理する必要がある。
【0018】
図11に、本実施形態の、横梁120の応力解析結果を模式的に示す。図12に、比較のために用意した、横梁120aの応力解析結果を模式的に示す。図12の横梁120aは、図8の構成とは若干異なるが、本実施形態の横梁120の応力解析結果と比較するために、同様の構成を選んでいる。示される応力の高さは、色の濃さによって示されている。色が濃い方が応力は高く、薄く示されている方が応力は低い。
【0019】
前述したように、横梁120に設けられるモータ吊ブラケット151と歯車箱吊ブラケット156は基部155が共通して形成され、複合ブラケット150として横梁120に溶接されている。一方で、横梁120aには、モータ吊ブラケット151aと歯車箱吊ブラケット156aとが単体で形成されて横梁120aに溶接されている。この2つの横梁120と横梁120aに同じ条件で応力解析を行った結果が、図11図12である。
【0020】
この結果、図11図12とを比較して分かるように、図12の溶接方法では応力集中部Gと応力集中部Hができる一方で、図11に示す本実施形態の横梁120では、図12程の応力集中は見られず、該当部分は薄い色で示されている。また、図12の応力集中部G及び応力集中部Hは溶接部分に形成されているが、図11に示す応力集中部Jはモータ吊ブラケット151と歯車箱吊ブラケット156との接続部分に相当する基部155に現れている。溶接作業者の技量に左右され易い溶接部分に比べて、品質が保証される母材部分に応力集中部Jが出ているので、図12に示すような従来のブラケットよりも、複合ブラケット150を用いることで応力の集中を緩和し、台車枠100の信頼性を高くすることに貢献できる。
【0021】
図13に、台車の平面模式図を示す。図13(a)は従来技術による台車であり、図13(b)は本実施形態による台車である。説明の都合上、車輪207の幅は(a)と(b)で揃えてある。二点鎖線で示すのは図示しない車体を支える空気バネ140と空気バネ340である。従来技術で、本実施形態に示すような複合ブラケット150が用いられなかった理由は、より台車の輪重抜けがシビアな条件での使用が求められていなかったことが一因であると考えられる。このため、走行時の揺れなどを緩和する目的で、側梁310同士の幅x1が比較的広く採れるように、側梁310の内側に車輪207が配置される構成とされていることが多い。
【0022】
しかしながら、鉄道車両の海外展開が求められる様になったために、より輪重抜けなどに対応し易いよう、図13(b)に示すように側梁110の間の幅x2をより狭くする事が求められている。つまり、側梁110の外側に車輪207が配置されるように構成される。この結果、横梁120に溶接するブラケット同士の間隔が狭くなる傾向にあり、機器の配置場所によっては、図8に示すような形でブラケット同士の間隔が狭く、溶接作業などに影響が出る程となってしまう事もある。
【0023】
本実施形態では、そうした事情を鑑みて、図6に示すような、モータ吊ブラケット151と歯車箱吊ブラケット156を一体化させた複合ブラケット150を横梁120に溶接する構成としている。この結果、溶接に関する作業性を向上することが可能となり、前述したような応力集中の緩和に寄与することが可能となった。なお、複合ブラケット150は、モータ吊ブラケット151と歯車箱吊ブラケット156の一体化に限定されるものではない。図14に、複合ブラケット150Bを示す。図14では、歯車箱吊ブラケット156とブレーキテコ受台165を一体化した複合ブラケット150Bを示している。このような複合ブラケット150Bも複合ブラケット150と同様の効果が得られる。
【0024】
以上、本発明に係る鉄道車両用台車枠の実施形態を説明したが、本発明はこれに限定されるわけではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。例えば、複合ブラケット150の組み合わせを変える事を妨げない。モータ吊ブラケット151と歯車箱吊ブラケット156を組み合わせたり、モータ吊ブラケット151とブレーキテコ受台165を組み合わせたり、その他の組み合わせを採用することを妨げない。また、本実施形態では横梁120にパイプ状の部材を用いているが、例えばプレス形成した部材を用いてモナカ状やハット状に形成した横梁120にしても良い。また、それらを組み合わせた横梁120を用いることを妨げない。
【符号の説明】
【0025】
100 台車枠
110 側梁
120 横梁
150 複合ブラケット
151 モータ吊ブラケット
155 基部
156 歯車箱吊ブラケット
165 ブレーキテコ受台
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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