特許第6564307号(P6564307)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6564307
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】水硬性組成物用早強剤
(51)【国際特許分類】
   C04B 22/16 20060101AFI20190808BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20190808BHJP
   C04B 24/26 20060101ALI20190808BHJP
   C04B 103/24 20060101ALN20190808BHJP
【FI】
   C04B22/16 A
   C04B28/02
   C04B24/26 E
   C04B103:24
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-217856(P2015-217856)
(22)【出願日】2015年11月5日
(65)【公開番号】特開2017-88432(P2017-88432A)
(43)【公開日】2017年5月25日
【審査請求日】2018年9月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100098408
【弁理士】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】川上 博行
(72)【発明者】
【氏名】佐川 桂一郎
【審査官】 西垣 歩美
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−227186(JP,A)
【文献】 特開平05−147994(JP,A)
【文献】 特開平11−241066(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00−32/02
C04B 103/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次亜リン酸、次亜リン酸のアルカリ金属塩、次亜リン酸のアルカリ土類金属塩、次亜リン酸のアンモニウム塩及び次亜リン酸の有機アンモニウム塩から選ばれる1種以上の次亜リン酸化合物からなる、水硬性組成物用早強剤。
【請求項2】
次亜リン酸化合物が、次亜リン酸のアルカリ金属塩及び次亜リン酸のアルカリ土類金属塩から選ばれる1種以上である、請求項1記載の水硬性組成物用早強剤。
【請求項3】
次亜リン酸化合物が、次亜リン酸ナトリウム及び次亜リン酸カルシウムから選ばれる1種以上である、請求項1又は2記載の水硬性組成物用早強剤。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項記載の水硬性組成物用早強剤と、分散剤とを含有する、水硬性組成物用添加剤組成物。
【請求項5】
水硬性粉体と、水と、請求項1〜3の何れか1項記載の水硬性組成物用早強剤とを含有する、水硬性組成物。
【請求項6】
水硬性粉体と、水と、請求項1〜3の何れか1項記載の水硬性組成物用早強剤と、分散剤とを含有する、水硬性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性組成物用早強剤、水硬性組成物用添加剤組成物、及び水硬性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートは、セメント等の水硬性粉体と水と混練後、1日程度である程度の強度を発現することが要求される場合がある。例えば、コンクリート二次製品は、セメント、骨材、水、及び分散剤等の材料を混練し、様々な型枠に打設し、養生(硬化)工程を経て製品化される。型枠は同じものを何度も使用するので、初期材齢に高い強度を発現することは、生産性、即ち型枠の回転率の向上の観点から重要である。そのために、(1)セメントとして早強セメントを使用する、(2)混和剤として各種ポリカルボン酸系化合物を使用してセメント組成物中の水量を減少させる、(3)養生方法として蒸気養生を行う、などの対策が講じられている。
【0003】
今日では、より高い生産性の要求等から、養生工程の更なる短縮が望まれる場合がある。例えば、コンクリート製品の製造において脱型するまでの時間を短縮するために、指標として、水硬性粉体と水と混練後17時間程度で高い強度を発現することが望まれる。
【0004】
また、蒸気養生等の加熱養生により養生時間の短縮化が図られているが、加熱養生に伴うエネルギーコストの削減、即ち加熱養生時間の短縮及び養生温度の低減の観点からも加熱養生を行わない方法が切望されている。
【0005】
特許文献1には、グリセリン化合物と、アルカリ金属硫酸塩及びアルカリ金属チオ硫酸塩から選ばれる1種以上の無機塩Aとからなる水硬性組成物用早強剤が記載されている。
特許文献2には、セメントと鉄の無機塩を含有するセメント組成物が記載されており、鉄の無機塩として次亜リン酸鉄塩が例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011-153068号公報
【特許文献2】特開平5-147994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、調製後、17時間程度の硬化体の強度が向上する水硬性組成物、そのような硬化体が得られる水硬性組成物の硬化体の製造方法及び水硬性組成物用早強剤を提供する。以下、17時間後の強度(17時間後の圧縮強度等を含む)を、17時間強度と記述する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、次亜リン酸、次亜リン酸のアルカリ金属塩、次亜リン酸のアルカリ土類金属塩、次亜リン酸のアンモニウム塩及び次亜リン酸の有機アンモニウム塩から選ばれる1種以上の次亜リン酸化合物からなる、水硬性組成物用早強剤に関する。
【0009】
また本発明は、本発明の水硬性組成物用早強剤と、分散剤とを含有する、水硬性組成物用添加剤組成物に関する。
【0010】
また本発明は、水硬性粉体と、水と、本発明の水硬性組成物用早強剤とを含有する、水硬性組成物に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、調製後、17時間程度で硬化体の強度が向上する水硬性組成物の硬化体が得られる、水硬性組成物用早強剤が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の効果を発現する機構は不明であるが、以下のように推定される。
本発明に用いられる次亜リン酸化合物は、コンクリート中で還元剤として作用し、セメント中の鉄を溶解度の低い三価から溶解度の高い二価に還元することが考えられる。この作用により、セメント鉱物であるC4AFの溶出反応を促進させ、水和生成物量を増加させることによって、コンクリートの強度が向上すると推定される。
【0013】
<水硬性組成物用早強剤>
本発明の水硬性組成物用早強剤は、次亜リン酸、次亜リン酸のアルカリ金属塩、次亜リン酸のアルカリ土類金属塩、次亜リン酸のアンモニウム塩及び次亜リン酸の有機アンモニウム塩から選ばれる1種以上の次亜リン酸化合物からなる。
【0014】
次亜リン酸のアルカリ金属塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。具体的には、次亜リン酸リチウム、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム等が挙げられる。
次亜リン酸のアルカリ土類金属塩としては、マグネシウム塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩等が挙げられ、2つの次亜リン酸の水酸基中の酸素原子が1つのアルカリ土類金属に結合した塩となる。具体的には、次亜リン酸マグネシウム、次亜リン酸カルシウム、次亜リン酸ストロンチウム等が挙げられる。
次亜リン酸のアンモニウム塩としては、次亜リン酸アンモニウム等が挙げられる。
次亜リン酸の有機アンモニウム塩としては、モノメチルアンモニウム塩、ジメチルアンモニウム塩、トリメチルアンモニウム塩、モノエタノールアンモニウム塩、ジエタノールアンモニウム塩、トリエタノールアンモニウム塩、N-メチルジエタノールアンモニウム塩、N-エチルジエタノールアンモニウム塩、イソプロパノールアンモニウム塩、ジイソプロパノールアンモニウム塩、トリイソプロパノールアンモニウム塩、1-[ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ]-2-プロパノール塩、2-[ビス(2-ヒドロキシプロピル)アミノ]エタノール塩、エチレンジアンモニウム塩、N,N,N,N-テトラ(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアンモニウム塩等が挙げられる。
【0015】
本発明に用いられる次亜リン酸化合物は、17時間強度の向上の観点から、次亜リン酸のアルカリ金属塩及び次亜リン酸のアルカリ土類金属塩から選ばれる1種以上が好ましく、アルカリ金属塩がより好ましい。
より具体的には、次亜リン酸ナトリウム及び次亜リン酸カルシウムから選ばれる1種以上が好ましく、次亜リン酸ナトリウムがより好ましい。
本発明で用いられる次亜リン酸化合物は、水和物であっても無水物であってもよい。
【0016】
本発明に用いられる次亜リン酸化合物、中でも、次亜リン酸のアルカリ金属塩、次亜リン酸のアルカリ土類金属塩、次亜リン酸のアンモニウム塩及び次亜リン酸の有機アンモニウム塩から選ばれる1種以上の次亜リン酸塩は、次亜リン酸と中和剤とを混合して調製することができる。
例えば、次亜リン酸と中和剤とを、セメント等の水硬性粉体と水とを混合する際の練り水に添加することができる。次亜リン酸(酸型化合物)の中和剤としては、アルカリ金属の水酸化物塩、アルカリ土類金属の水酸化物塩、アルミニウム、鉄塩、アンモニウム塩、ヒドロキシルアンモニウム塩、アルキルアンモニウム塩、アルカノールアンモニウム塩、グアニジン塩、アルカロイド塩等が挙げられ、具体的には水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化アルミニウム、アンモニア、ヒドロキシルアミン、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、イソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、1-[ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ]-2-プロパノール、2-[ビス(2-ヒドロキシプロピル)アミノ]エタノール、エチレンジアミン、N,N,N,N-テトラ(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン、グアニジン、ピリジン、ピペリジン、ピロリジン、イミダゾール、イソオキサゾール、イソキノリン等が挙げられる。
【0017】
本発明に用いられる次亜リン酸塩は、中和度が、好ましくは0以上、より好ましくは0.5以上、さらに好ましくは0.75以上、そして、好ましくは1以下である。次亜リン酸塩は、中和度が、1がより好ましい。ここで、中和度とは、次亜リン酸中の水酸基が中和された程度を示す。中和度は、次亜リン酸に対する中和剤のモル比から算出することができ、具体的には、仕込み量又は滴定における測定量等を用いて算出することができる。すべての次亜リン酸が中和剤によって中和された場合の中和度は1となる。
また、中和度1にする量よりも多い量、すなわち次亜リン酸に対して過剰量の中和剤を使用してもよく、例えば、中和剤を、次亜リン酸1当量に対して、好ましくは1当量超、そして、好ましくは2当量以下、より好ましくは1.5当量以下で使用してもよい。このような、過剰量の中和剤を使用した混合物であっても、本発明の効果を損なわない限り、そのまま本発明の水硬性組成物用早強剤として使用することができる。
【0018】
本発明の水硬性組成物用早強剤は、セメント等の水硬性粉体と水とを混合する水硬性組成物の調製時に添加して用いることができる。本発明の水硬性組成物用早強剤は、水硬性粉体との混合性を向上する観点から、水硬性粉体と水とを混合する際に、予め水と混合することが好ましい。また、本発明の水硬性組成物用早強剤は、早強剤の添加等との作業性の観点から、予め水と混合して水溶液として用いることもできる。すなわち、水と本発明の水硬性組成物用早強剤とを含有する混合物を、水硬性粉体と混合することが好ましい。
【0019】
また本発明の水硬性組成物用早強剤は、セメント等の水硬性粉体と水とを混合する水硬性組成物の調製時に、次亜リン酸、次亜リン酸塩、又は次亜リン酸及び中和剤を添加する態様で用いることができる。次亜リン酸、次亜リン酸塩、又は次亜リン酸及び中和剤は、水硬性粉体との混合性を向上する観点から、水硬性粉体と水とを混合する際に、予め水と混合することが好ましい。また、次亜リン酸、次亜リン酸塩、又は次亜リン酸及び中和剤は、添加等との作業性の観点から、予め水と混合して、次亜リン酸水溶液、次亜リン酸塩を含む水溶液、又は次亜リン酸及び中和剤を含む水溶液として用いることもできる。すなわち、水と次亜リン酸、次亜リン酸塩、又は次亜リン酸及び中和剤とを含有する混合物を、水硬性粉体と混合することが好ましい。
【0020】
本発明の水硬性組成物用早強剤は、得られる硬化体の17時間強度向上の観点から、水硬性粉体、好ましくはセメント100質量部に対して、次亜リン酸化合物が、酸型化合物換算(次亜リン酸換算)で0.01質量部以上5.0質量部以下となるように添加されることが好ましい。当該添加量は、酸型化合物換算(次亜リン酸換算)で、0.02質量部以上がより好ましく、0.05質量部以上がより好ましく、0.1質量部以上が更に好ましく、0.3質量部以上が更に好ましい。また、4.0質量部以下がより好ましく、3.0質量部以下が更に好ましい。
【0021】
本発明の水硬性組成物用早強剤の形態は、固体(粉末)または液体のいずれでもよく、液体が好ましく、水溶液、水分散液等の水を含有する液体組成物が更に好ましい。
水溶液または水分散体である場合、次亜リン酸化合物が、酸型化合物換算で、0.1質量%以上で含有することが好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、また50質量%以下が好ましく、40質量%以下が更に好ましい。
【0022】
本発明の水硬性組成物用早強剤を用いて、室温(例えば10〜30℃)での気中養生で水硬性組成物の硬化体を得ることができる。本発明では、40℃以上の加熱下での養生、すなわち、いわゆる加熱養生を行わなくても17時間後の硬化体の強度を向上させることができる。
【0023】
本発明は、また、次亜リン酸化合物を含有する水硬性組成物用早強剤組成物を提供する。
本発明の水硬性組成物用早強剤組成物における次亜リン酸化合物の好ましい態様は、前記した本発明の水硬性組成物用早強剤における次亜リン酸化合物と同じである。
【0024】
本発明の水硬性組成物用早強剤組成物は、次亜リン酸化合物を、酸型化合物換算で、0.1質量%以上で含有することが好ましく、0.5質量%以上で含有することがより好ましく、2.0質量%以上で含有することがさらに好ましく、また100質量%以下で含有することが好ましい。また50質量%以下で含有することができ、40質量%以下で含有することもできる。
本発明の水硬性組成物用早強剤組成物は、得られる硬化体の17時間強度向上の観点から、次亜リン酸化合物が含有する割合が多いことが好ましい。
【0025】
<水硬性組成物用添加剤組成物>
本発明の水硬性組成物用添加剤組成物は、本発明の水硬性組成物用早強剤と、分散剤とを含有する。すなわち、水硬性組成物用添加剤組成物は、次亜リン酸化合物と、分散剤とを含有する。本発明の水硬性組成物用添加剤組成物における次亜リン酸化合物の好ましい態様は、前記した本発明の水硬性組成物用早強剤における次亜リン酸化合物と同じである。
【0026】
本発明の分散剤は、通常水硬性組成物用として用いることができる分散剤であれば、特に限定されないが、17時間強度の向上の観点から、リン酸エステル系重合体、ポリカルボン酸系共重合体、スルホン酸系共重合体、ナフタレン系重合体、メラミン系重合体、フェノール系重合体及びリグニン系重合体から選ばれる1種以上の分散剤が好ましく、ポリカルボン酸系共重合体がより好ましい。
【0027】
分散剤は、得られる硬化体の17時間強度を向上する観点から、ポリカルボン酸系共重合体が好ましい。ポリカルボン酸系共重合体としては、ポリアルキレングリコールと(メタ)アクリル酸とのモノエステルと(メタ)アクリル酸等のカルボン酸との共重合体(特開平8−12397号公報に記載の化合物等)、ポリアルキレングリコールを有する不飽和アルコールと(メタ)アクリル酸等のカルボン酸との共重合体、ポリアルキレングリコールを有する不飽和アルコールとマレイン酸等のジカルボン酸との共重合体等を用いることができる。ここで、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれるカルボン酸の意味である。
【0028】
分散剤のポリカルボン酸系共重合体は、下記一般式(A1)で表される単量体(A1)と下記一般式(A2)で表される単量体(A2)とを含む単量体を重合して得られる共重合体〔以下、共重合体(A)という〕が好ましい。
【0029】
【化1】
【0030】
〔式中、
、R:それぞれ独立に、水素原子又はメチル基
m1:0以上2以下の整数
AO:炭素数2又は3のアルキレンオキシ基
n1:AOの平均付加モル数であって、4以上300以下の数
X:水素原子又は炭素数1以上3以下のアルキル基
を示す。〕
【0031】
【化2】
【0032】
〔式中、
、R、R:それぞれ独立に、水素原子、メチル基、又は(CHm2COOM
、M:それぞれ独立に、対イオンを示し、水素イオン、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン(1/2イオン)、有機アンモニウムイオン、又はアンモニウムイオン、
m2:0以上2以下の整数
を示す。〕
【0033】
共重合体(A)は、前記一般式(A1)で表される単量体(A1)と前記一般式(A2)で表される単量体(A2)とを含む単量体を重合して得られる共重合体である。
【0034】
一般式(A1)中、R、Rは、それぞれ、水素原子又はメチル基である。Rは水素原子が好ましい。Rは17時間強度の向上の観点から、メチル基が好ましい。m1は、17時間強度の向上の観点から、0以上2以下の整数であり、0が好ましい。
AOは、17時間強度の向上の観点から、炭素数2のアルキレンオキシ基及び炭素数3のアルキレンオキシ基から選ばれるアルキレンオキシ基であり、炭素数2のアルキレンオキシ基が好ましい。
nは、AOの平均付加モル数であり、4以上300以下の数である。nは、凝結遅延を抑制する観点と17時間強度の向上の観点から、100以上が好ましく、105以上がより好ましく、110以上が更に好ましく、共重合の容易性の観点と17時間強度の向上の観点から、200以下が好ましく、150以下がより好ましい。nは、水硬性組成物の粘性を低減する観点と17時間強度の向上の観点から、4以上が好ましく、8以上がより好ましく、そして、50以下が好ましく、30以下がより好ましい。
Xは、水素原子又は炭素数1以上3以下のアルキル基であり、水硬性組成物の流動保持性の観点と17時間強度の向上の観点から、水素原子又はメチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0035】
単量体(A1)としては、(1)メトキシポリエチレングリコール、メトキシポリプロピレングリコール、メトキシポリブチレングリコール、メトキシポリスチレングリコール、エトキシポリエチレンポリプロピレングリコール等の片末端アルキル封鎖ポリアルキレングリコールと、アクリル酸、メタクリル酸、及びマレイン酸から選ばれるカルボン酸とのエステル化物、(2)アクリル酸、メタクリル酸、及びマレイン酸から選ばれるカルボン酸へのエチレンオキサイド(以下、EOと表記する場合もある)及び/又はプロピレンオキサイド(以下、POと表記する場合もある)付加物が挙げられる。単量体(A1)は、17時間強度の向上の観点から、メトキシポリエチレングリコールとアクリル酸又はメタリル酸とのエステル化物が好ましく、メトキシポリエチレングリコールとメタクリル酸とのエステル化物がより好ましい。
【0036】
一般式(A2)中、R、R、Rは、それぞれ独立に、水素原子、メチル基、又は(CHm2COOMである。R、Rは、それぞれ、17時間強度の向上の観点から、水素原子が好ましい。Rは、17時間強度の向上の観点から、メチル基が好ましい。M、Mは、それぞれ、対イオンを示し、水素イオン、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン(1/2イオン)、アンモニウムイオン、有機アンモニウムイオンであり、17時間強度の向上の観点から、ナトリウムイオンが好ましい。
【0037】
単量体(A2)としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等のモノカルボン酸系単量体、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等のジカルボン酸系単量体、及びこれらの無水物もしくは塩、例えばアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、水酸基が置換されていてもよいモノ、ジ、トリアルキル(炭素数2以上8以下)アンモニウム塩が挙げられる。17時間強度の向上の観点から、好ましくはアクリル酸、メタアクリル酸、マレイン酸、及びこれらのアルカリ金属塩、並びに無水マレイン酸から選ばれる単量体であり、より好ましくはアクリル酸、メタクリル酸、及びこれらのアルカリ金属塩から選ばれる単量体である。メタクリル酸及びメタクリル酸のアルカリ金属塩から選ばれる単量体が更に好ましい。
【0038】
共重合体(A)は、単量体(A1)と単量体(A2)のモル比(A1)/(A2)は、水硬性組成物の流動保持性の観点と17時間強度の向上の観点から、5/95以上が好ましく、10/90以上がより好ましく、そして、50/50以下が好ましく、40/60以下がより好ましく、35/65以下が更に好ましい。
【0039】
共重合体(A)の全構成単量体中、単量体(A1)と単量体(A2)の合計量は、17時間強度の向上の観点から、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、98質量%以上が更に好ましく、100質量%以下が好ましく、実質100質量%がより更に好ましく、100質量%がより更に好ましい。
【0040】
単量体(A1)と単量体(A2)の合計質量に対する単量体(A2)の質量の割合は、17時間強度の向上の観点から、4質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、そして、25質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましい。
【0041】
共重合体(A)の重量平均分子量は、水硬性組成物の流動保持性の観点と17時間強度の向上の観点から、20000以上が好ましく、30000以上がより好ましく、40000以上が更に好ましく、そして、150000以下が好ましく、100000以下がより好ましい。なお、共重合体(A)の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(ポリエチレングリコール換算)によるものであり、具体的な条件は下記の通りである。
*ゲルパーミエーションクロマトグラフィー条件
装置:GPC(HLC−8320GPC)東ソー株式会社製
カラム:G4000PWXL+G2500PWXL(東ソー株式会社製)
溶離液:0.2Mリン酸バッファー/CHCN=9/1
流量:1.0mL/min
カラム温度:40℃
検出:RI
サンプルサイズ:0.2mg/mL
標準物質:ポリエチレングリコール換算(分子量87500、250000、145000、46000、24000)
【0042】
共重合体(A)は、例えば反応容器に水を仕込み昇温し、その中で単量体(A1)と単量体(A2)とを連鎖移動剤等の存在下、所定のモル比(A1)/(A2)で反応させ、熟成後、中和することにより製造することができる。
【0043】
本発明の水硬性組成物用添加剤組成物は、次亜リン酸化合物を、17時間強度の向上の観点から、酸型化合物換算(次亜リン酸換算)で、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは2.0質量%以上、また、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下含有する。
本発明の水硬性組成物用添加剤組成物は、分散剤を、17時間強度の向上の観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、また、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下含有する。
【0044】
また、本発明の水硬性組成物用添加剤組成物中、次亜リン酸化合物と分散剤の質量比は、次亜リン酸化合物においては酸型化合物換算(次亜リン酸換算)で、次亜リン酸化合物/分散剤で、得られる硬化体の17時間強度向上の観点から、0.001以上が好ましく、0.02以上がより好ましく、0.1以上がより更に好ましい。また、50.0以下が好ましく、30.0以下がより好ましく、10.0以下が更に好ましい。
なお、本発明の水硬性組成物用添加剤組成物は、次亜リン酸化合物と分散剤とからなる水硬性組成物用添加剤組成物であってよい。この場合の次亜リン酸化合物/分散剤の質量比は前記範囲が好ましい。
【0045】
本発明の水硬性組成物用添加剤組成物は、本発明の水硬性組成物用早強剤、すなわち次亜リン酸化合物及び分散剤以外の成分として、水を含有することができる。また、本発明の硬性組成物用添加剤組成物は、更にその他の成分を含有することもできる。例えば、AE剤、遅延剤、起泡剤、増粘剤、発泡剤、防水剤、流動化剤、消泡剤等が挙げられる。
【0046】
本発明の水硬性組成物用添加剤組成物中、次亜リン酸化合物と分散剤の合計量は、17時間強度の向上の観点から、次亜リン酸化合物においては酸型化合物換算(次亜リン酸換算)で、0.2質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、60質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましい。
【0047】
本発明の水硬性組成物用添加剤組成物は、セメント等の水硬性粉体と水とを混合する水硬性組成物の調製時に添加して用いることができる。本発明の水硬性組成物用添加剤組成物は、水硬性粉体との混合性を向上する観点から、水硬性粉体と水とを混合する際に、予め水と混合して用いることが好ましい。また、本発明の水硬性組成物用添加剤組成物は、添加剤組成物の添加等との作業性の観点から、予め水と混合して水溶液として用いることもできる。すなわち、水と本発明の水硬性組成物用添加剤組成物とを含有する混合物を、水硬性粉体と混合することが好ましい。また、次亜リン酸化合物の中でも、次亜リン酸塩を用いる場合、水と次亜リン酸と中和剤とを含有する混合物を、水硬性粉体と混合することもできる。また、分散剤は、あらかじめ次亜リン酸化合物と混合して用いることが好ましい。すなわち、水と次亜リン酸化合物とを含有する混合物に、さらに分散剤を添加して混合し、水硬性粉体と混合することが好ましい。
【0048】
本発明の水硬性組成物用添加剤組成物は、水硬性組成物の流動性の向上と硬化遅延を抑制する観点と17時間強度の向上の観点から、水硬性粉体、好ましくはセメント100質量部に対して、次亜リン酸化合物が0.01質量部以上5.0質量部以下となるように添加されることが好ましい。当該添加量は、酸型化合物換算(次亜リン酸換算)で0.01質量部以上が好ましく、0.02質量部以上がより好ましく、0.05質量部以上がより好ましく、0.1質量部以上が更に好ましく、0.3質量部以上が更に好ましい。また、5.0質量部以下が好ましく、4.0質量部以下がより好ましく、3.0質量部以下が更に好ましい。
【0049】
本発明の水硬性組成物用添加剤組成物は、水硬性組成物の流動性の向上と硬化遅延を抑制する観点と17時間強度の向上の観点から、水硬性粉体、好ましくはセメント100質量部に対して、分散剤が0.01質量部以上10.0質量部以下となるように添加されることが好ましい。当該添加量は、0.02質量部以上がより好ましく、0.05質量部以上が更に好ましい。また、10.0質量部以下がより好ましく、5質量部以下が更に好ましい。
【0050】
本発明の水硬性組成物用添加剤組成物の形態は、固体(粉末)または液体のいずれでもよく、液体が好ましく、水溶液、水分散体等の水を含有する液体組成物が更に好ましい。
水溶液または水分散体である場合、本発明の水硬性組成物用添加剤中の次亜リン酸化合物が、酸型化合物換算で、0.1質量%以上で含有することが好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、2.0質量%以上がさらに好ましく、また50質量%以下が好ましく、40質量%以下が更に好ましい。
【0051】
本発明の水硬性組成物用添加剤組成物を用いて、室温(例えば10〜30℃)での気中養生で水硬性組成物の硬化体を得ることができる。本発明では、40℃以上の加熱下での養生、すなわち、いわゆる加熱養生を行わなくても17時間後の硬化体の強度を向上させることができる。
【0052】
<水硬性組成物>
本発明の水硬性組成物は、水硬性粉体と、水と、本発明の水硬性組成物用早強剤とを含有する。すなわち、本発明の水硬性組成物は、水硬性粉体と、水と、次亜リン酸化合物とを含有する。
また本発明の水硬性組成物は、水硬性粉体と、水と、本発明の水硬性組成物用早強剤と、分散剤とを含有する。すなわち、本発明の水硬性組成物は、水硬性粉体と、水と、次亜リン酸化合物と、分散剤とを含有する。
【0053】
水硬性粉体は、セメントが挙げられる。セメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント、エコセメント(例えばJISR5214等)が挙げられる。これらの中でも、得られる硬化体の17時間向上の観点から、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメントから選ばれるセメントが好ましく、普通ポルトランドセメントがより好ましい。
【0054】
また、セメントには、高炉スラグ、フライアッシュ、シリカヒューム等が含まれてよく、また、非水硬性の石灰石微粉末等が含まれていてよい。セメントと混合されたシリカヒュームセメントや高炉セメントを用いてもよい。
【0055】
本発明の水硬性組成物における水硬性組成物用早強剤の好ましい態様は、前記した本発明の水硬性組成物用早強剤と同じである。
また、本発明の水硬性組成物における次亜リン酸化合物の好ましい態様は、前記した本発明の水硬性組成物用早強剤と同じである。
【0056】
本発明の水硬性組成物は、流動性を向上させる観点から、分散剤を含有することができる。分散剤としては、リン酸エステル系重合体、ポリカルボン酸系共重合体、スルホン酸系共重合体、ナフタレン系重合体、メラミン系重合体、フェノール系重合体、リグニン系重合体等の分散剤が挙げられる。分散剤は他の成分を配合した混和剤であっても良い。この水硬性組成物における分散剤の好ましい態様は、前記した本発明の水硬性組成物用添加剤組成物と同じである。
【0057】
本発明の水硬性組成物は、次亜リン酸化合物を、17時間強度の向上の観点から、水硬性粉体、好ましくはセメント100質量部に対して、0.01質量部以上5.0質量部以下となるように含有することが好ましい。
当該含有量は、酸型化合物換算(次亜リン酸換算)で0.01質量部以上5.0質量部以下となるように添加されることが好ましい。当該添加量は、酸型化合物換算(次亜リン酸換算)で、0.02質量部以上がより好ましく、0.05質量部以上がより好ましく、0.1質量部以上が更に好ましく、0.3質量部以上が更に好ましい。また、4.0質量部以下がより好ましく、3.0質量部以下が更に好ましい。
【0058】
本発明の水硬性組成物は、分散剤を、水硬性組成物の流動性の向上と硬化遅延を抑制する観点と17時間強度の向上の観点から、水硬性粉体、好ましくはセメント100質量部に対して、0.01質量部以上10質量部以下となるように含有することが好ましい。当該含有量は、0.02質量部以上がより好ましく、0.05質量部以上が更に好ましい。また、10.0質量部以下がより好ましく、5質量部以下が更に好ましい。
【0059】
水硬性組成物は、セメント等の水硬性粉体と、水と、本発明の水硬性組成物用早強剤、すなわち次亜リン酸化合物と、を混合して得ることができる。水硬性組成物用早強剤は、水硬性粉体との混合性を向上する観点から、水硬性粉体と水とを混合する際に、予め水と混合して用いることが好ましい。また、本発明の水硬性組成物用早強剤は、早強剤の添加等との作業性の観点から、予め水と混合して水溶液として用いることもできる。すなわち、水と本発明の水硬性組成物用早強剤とを含有する混合物を、水硬性粉体と混合することが好ましい。
【0060】
また水硬性組成物は、セメント等の水硬性粉体と、水と、水硬性組成物用早強剤、すなわち次亜リン酸化合物と、分散剤と、を混合して得ることができる。水硬性組成物用早強剤は、水硬性粉体との混合性を向上する観点から、水硬性粉体と水とを混合する際に、予め水と混合することが好ましい。
分散剤は、あらかじめ次亜リン酸化合物と混合して用いることが好ましい。
また、水硬性組成物用早強剤は、早強剤の添加等との作業性の観点から、予め水と混合して水溶液として用いることもできる。すなわち、水と水硬性組成物用早強剤と分散剤とを含有する混合物を、水硬性粉体と混合することが好ましい。
【0061】
水硬性組成物は、得られる硬化体の17時間強度を向上する観点から、水/水硬性粉体比〔スラリー中の水と水硬性粉体の質量比(水の質量/水硬性粉体の質量×100)、通常W/Pと略記されるが、水硬性粉体がセメントの場合、W/Cと略記される。〕は65%以下が好ましく、60%以下がより好ましく、55%以下であることが更に好ましい。また、水硬性組成物の混練のしやすさ、打設時の型枠への充填性の向上等の作業性を向上する観点と17時間強度の向上の観点から、20%以上が好ましく、30%以上がより好ましい。
【0062】
本発明の水硬性組成物は、さらに骨材を含有することができる。骨材として細骨材や粗骨材等が挙げられ、細骨材は山砂、陸砂、川砂、砕砂が好ましく、粗骨材は山砂利、陸砂利、川砂利、砕石が好ましい。用途によっては、軽量骨材を使用してもよい。なお、骨材の用語は、「コンクリート総覧」(1998年6月10日、技術書院発行)による。
【0063】
骨材は、コンクリートやモルタルなどの調製に用いられる通常の範囲で用いることができる。水硬性組成物がコンクリートの場合、粗骨材の使用量は、水硬性組成物の強度の発現とセメント等の水硬性粉体の使用量を低減し、型枠等への充填性を向上する観点から、嵩容積50%以上が好ましく、55%以上がより好ましく、60%以上が更に好ましく、そして、100%以下が好ましく、90%以下がより好ましく、80%以下が更に好ましい。
【0064】
また、水硬性組成物がコンクリートの場合、細骨材の使用量は、型枠等への充填性を向上する観点から、500kg/m以上が好ましく、600kg/m以上がより好ましく、700kg/m以上が更に好ましく、そして、1000kg/m以下が好ましく、900kg/m以下がより好ましい。
また、水硬性組成物がモルタルの場合、細骨材の使用量は、800kg/m以上が好ましく、900kg/m以上がより好ましく、1000kg/m以上が更に好ましく、そして、2000kg/m以下が好ましく、1800kg/m以下がより好ましく、1700kg/m以下が更に好ましい。
【0065】
本発明の水硬性組成物は、更にその他の成分を含有することもできる。例えば、AE剤、遅延剤、起泡剤、増粘剤、発泡剤、防水剤、流動化剤、消泡剤等が挙げられる。
【0066】
本発明の水硬性組成物は、コンクリート、モルタルであってよい。本発明の水硬性組成物は、セルフレベリング用、耐火物用、プラスター用、軽量又は質量コンクリート用、AE用、補修用、プレパックド用、トレーミー用、地盤改良用、グラウト用、寒中用等の何れの分野においても有用である。水硬性組成物調製後17時間程度で強度を発現し、早期に型枠から脱型が可能になる観点から、コンクリート振動製品や遠心成形品等のコンクリート製品に用いることが好ましい。
【0067】
本発明の水硬性組成物は、室温(例えば10〜30℃)での気中養生で硬化させることができる。本発明の水硬性組成物は、40℃以上の加熱下での養生、すなわち、いわゆる加熱養生を行わなくても17時間後の硬化体の強度が向上したものを得ることができる。
【0068】
<硬化体の製造方法>
本発明の硬化体の製造方法は、本発明の水硬性組成物を型枠に充填し養生し硬化させる工程と、硬化した前記水硬性組成物を脱型する工程、とを有する。
より具体的には、次の工程1〜工程5を含む水硬性組成物の硬化体の製造方法が挙げられる。
(工程1)水と、次亜リン酸化合物からなる水硬性組成物用早強剤とを混合する工程。
(工程2)工程1で得られた混合物と水硬性粉体と骨材とを混練して水硬性組成物を得る工程であって、前記混合物中の次亜リン酸化合物が水硬性粉体100質量部に対し0.01質量部以上5.0質量部以下となるように前記混合物を用いる、工程。
(工程3)工程2で得られた水硬性組成物を型枠に充填する工程。
(工程4)工程3で得られた型枠に充填された水硬性組成物を、50℃以上に保持される時間が1時間以下の条件で蒸気養生し、硬化させる工程。
(工程5)工程4で得られた硬化体を型枠から脱型する工程。
【0069】
本発明の硬化体の製造方法で用いる水硬性組成物用早強剤、骨材は、それぞれ、本発明の水硬性組成物用早強剤、水硬性組成物用添加剤組成物及び水硬性組成物で挙げたものと同じであり、好ましい態様も同じである。また、水硬性組成物における含有量を配合量に置き換えて適用することができる。
【0070】
工程1では、水と、水硬性組成物用早強剤、すなわち次亜リン酸化合物とを混合する。また分散剤を使用してもよい。その混合割合は、最終的に得られる水硬性組成物の組成に応じて調製する。分散剤は、あらかじめ次亜リン酸化合物と混合して用いることが好ましい。
【0071】
工程2では、工程1で得られた混合物と水硬性粉体と骨材とを混練して水硬性組成物を得る。前記混合物は、該混合物中の次亜リン酸化合物が、水硬性粉体、好ましくはセメント100質量部に対して、0.01質量部以上5.0質量部以下となるように用いられる。当該添加量は、酸型化合物換算(次亜リン酸換算)で、0.01質量部以上が好ましく、0.02質量部以上がより好ましく、0.05質量部以上がより好ましく、0.1質量部以上が更に好ましく、0.3質量部以上が更に好ましい。また、5.0質量部以下が好ましく、4.0質量部以下がより好ましく、3.0質量部以下が更に好ましい。
【0072】
工程1で得られた混合物と水硬性粉体との混合は、モルタルミキサー、強制二軸ミキサー等のミキサーを用いて行うことができる。また、17時間強度の向上の観点から、好ましくは1分間以上、より好ましくは2分間以上、そして、好ましくは5分間以下、より好ましくは3分間以下、混合する。
【0073】
工程2の水硬性組成物の好ましい態様は、前記した本発明の水硬性組成物と同じである。
【0074】
工程3では、工程2で得られた水硬性組成物を型枠に充填する。型枠として、建築物の型枠、コンクリート製品用の型枠等が挙げられる。型枠への充填方法として、ミキサーから直接投入する方法、水硬性組成物をポンプで圧送して型枠に導入する方法等が挙げられる。
【0075】
工程4では、工程3で得られた型枠に充填された水硬性組成物を、50℃以上に保持される時間が1時間以下の条件で硬化させる。本発明の水硬性組成物の硬化体の製造方法では、水硬性組成物の養生の際、硬化を促進するために蒸気加熱等の追加的なエネルギーを必要とせず、加熱養生をしないでコンクリート製品等の水硬性組成物の硬化体を製造することも可能となる。工程4では、養生条件として水硬性組成物が養生温度50℃以上に保持される時間を好ましくは1時間以下、より好ましくは0.5時間以下、更に好ましくは0時間以上とする。蒸気養生をしないでコンクリート製品を製造する場合の水硬性組成物の調製でセメントに水を接触させてから脱型するまでの時間は、脱型に必要な強度を得る観点と製造サイクルを向上する観点から、4時間以上48時間以下が好ましい。この場合、温度は0℃以上が好ましく、10℃以上がより好ましく、そして、40℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましい。
なお、型枠に充填された水硬性組成物を50℃以上に保持して養生を行う場合、オートクレーブ養生、蒸気等の加熱養生を行うことができる。
【0076】
本発明の水硬性組成物の硬化体の製造方法は、加熱養生を行わなくても17時間後の硬化体強度を向上させることができるので、コンクリート製品の製造に好適に用いることができる。コンクリート製品の製造等、本発明の水硬性組成物の硬化体の製造方法では、本発明の水硬性組成物用早強剤、すなわち次亜リン酸化合物や本発明の水硬性組成物用添加剤組成物を添加した水硬性組成物を型枠に充填して養生して硬化させる工程と、硬化した水硬性組成物を型枠から脱型する工程を有することができる。本発明の水硬性組成物の硬化体の製造方法は、水硬性組成物の硬化が促進されるため、水硬性組成物の調製から脱型するまでの時間を短縮することが可能である。本発明の水硬性組成物の硬化体の製造方法は、セメント等の水硬性組成物に水を接触させて前記水硬性組成物を調製する工程2を有する。本発明では、水硬性組成物の調製を開始してから脱型するまでの時間、すなわち、セメントに水を接触させてから脱型を開始するまでの時間は、脱型に必要な強度を得る観点と製造サイクルを向上する観点とから、4時間以上が好ましく、6時間以上がより好ましく、そして、48時間以下が好ましく、30時間以下がより好ましい。
【0077】
本発明の水硬性組成物の硬化体の製造方法は、加熱養生を行なわなくてもコンクリート製品等の水硬性組成物の硬化体の生産性を向上できることから、環境に対する負荷軽減の点でも優れたものである。コンクリート製品である型枠を用いる水硬性組成物の硬化体としては、土木用製品では、護岸用の各種ブロック製品、ボックスカルバート製品、トンネル工事等に使用されるセグメント製品、橋脚の桁製品等が挙げられ、建築用製品では、カーテンウォール製品、柱、梁、床板に使用される建築部材製品等が挙げられる。
【実施例】
【0078】
モルタル配合を表1に、また、使用した早強剤と評価結果を表2に示した。表2中の化合物は以下のものである。
・次亜リン酸ナトリウム:次亜リン酸ナトリウム、関東化学(株)製
・次亜リン酸カルシウム:和光純薬工業(株)製
(比較化合物)
・リン酸三ナトリウム:和光純薬工業(株)製
・亜リン酸二ナトリウム:和光純薬工業(株)製
・トリ次亜リン酸鉄:次亜リン酸(和光純薬工業(株)製、30%水溶液)100gを300mlガラスビーカーに添加し、そこに鉄粉(和光純薬工業(株)製)10.0gを添加し、発泡が収まるまでガラス棒で撹拌した。その後0.8μmのセルロースメンブレンフィルターを用いて上澄みを濾過し、トリ次亜リン酸鉄水溶液を得た。水溶液の固形分は、105℃減量法で、12.2%であった。
【0079】
【表1】
【0080】
表1中で用いた成分は以下のものである。
・W:練り水(セメント分散剤と早強剤とを含む水道水)
・C:普通ポルトランドセメント、太平洋セメント株式会社製、密度3.16g/cm
・S:細骨材、城陽産、山砂、FM=2.67、密度2.56g/cm
【0081】
<モルタルの調製及び評価>
(1)モルタル調製工程
表2の早強剤と水とを混合した練り水(W)を調製した。前記早強剤は、表2の添加量となるように添加した。練り水中の早強剤の量は相対的に微量であるため、早強剤と水の合計を表1の練り水(W)の量にした。なお、表2では、次亜リン酸化合物と、比較化合物とを早強剤とした。
【0082】
表1に示す配合条件で、モルタルミキサー((株)ダルトン製 万能混合撹拌機 型式:5DM-03-γ)を用いて、セメント(C)、細骨材(S)を投入し空練りを10秒行い、表2の早強剤を含む練り水(W)を加えた。この際、空気連行量が2%以下になるよう消泡剤を添加した。そして、モルタルミキサーの低速回転(63rpm)にて60秒間、更に高速回転(128rpm)にて120秒間本混練りしてモルタルを調製した。
【0083】
(2)型枠充填、養生工程
JIS A 1132に基づき、円柱型プラモールド(底面の直径:5cm、高さ10cm)の型枠3個に、それぞれ二層詰め方式によりモルタルを充填し、20℃の室内にて気中(20℃)養生を行い硬化させた。モルタル調製から17時間後に硬化した供試体を型枠から脱型し供試体を得た。これらの内3個の供試体を17時間後の圧縮強度の測定に用いた。
【0084】
(3)硬化強度の評価
供試体の17時間強度をJIS A1108に基づいて測定し、供試体3個の平均値を求めた。結果を表2に示した。
【0085】
【表2】
【0086】
表2中、「質量部」は、早強剤化合物の酸型化合物換算での、セメント100質量部に対する質量部である。また、表2中、17時間強度の「比」は、セメントに早強剤を添加しない比較例1の強度を100とした比率である。
【0087】
表2から、次亜リン酸化合物を早強剤として水硬性組成物に添加することにより、17時間強度の向上効果が得られることが分かる。