【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係る油圧機械の診断システムは、
回転シャフトと、シリンダと、前記シリンダと共に作動室を形成するピストンと、前記作動室に対して設けられる高圧弁及び低圧弁と、を有し、前記回転シャフトの回転運動と前記ピストンの往復運動との間で変換を行うように構成された油圧機械の診断システムであって、
前記作動室の圧力を検出するための圧力センサと、
前記圧力センサの検出結果に基づいて、前記高圧弁の損傷を検知するための損傷検知部と、を備え、
前記高圧弁は、シートと、前記シートに対して前記油圧機械の高圧ライン側から当接するように構成されたポペットである弁体と、を含むポペット弁であり、
前記損傷検知部は、前記ピストンの往復運動のサイクル毎の前記作動室の圧力の最大値に基づいて、前記高圧弁の前記弁体の損傷を検知するように構成される。
【0008】
上述の高圧弁(ポペット弁)は、ポペットに対して高圧ライン側から作用する力(流体力や弁体を付勢する力)よりも、作動室側から作用する力が大きくなったときに開く。本発明者の鋭意検討の結果、高圧弁の開閉時に、ポペットは高圧ラインの高圧に晒されながらシートとの衝突及び離脱を繰り返すことで、該ポペットに変形や摩耗等の損傷が生じることがあることが明らかになった。また、本発明者の知見によれば、このような損傷によりポペットのうちシートに当接する当接面の面積が大きくなると、ポペットにおいて高圧ライン側の受圧面積が作動室側の受圧面積に比べて相対的に増加し、作動室圧力がより大きくならないと高圧弁が開かない事象が発生する場合がある。
この点、上記(1)の構成では、ピストンの往復運動のサイクル毎の作動室の圧力の最大値を取得する。ここで、該作動室圧力の最大値は、各サイクルにおいて高圧弁が開くのに必要とされる作動室圧力に相当する。よって、上記(1)の構成によれば、ピストンの往復運動のサイクル毎の作動室の圧力の最大値に基づいて、高圧弁の弁体の損傷(変形や摩耗など)を検知することができる。
【0009】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)の構成において、
前記損傷検知部は、Pmax_ave+a×σ(ただし、Pmax_aveは統計期間における前記作動室の圧力の前記最大値の平均であり、σは前記統計期間における前記作動室の圧力の前記最大値の標準偏差であり、aはa≧0を満たす任意の値である。)が閾値以上であるときに、前記高圧弁の前記弁体に損傷が生じたと判定するように構成される。
本発明者の知見によれば、油圧機械において、高圧弁の弁体の損傷の程度が大きいほど、ピストンの往復運動のサイクル毎の作動室圧力の最大値は大きい傾向にある。
そこで、上記(2)の構成のように、Pmax_ave+a×σの値と閾値との比較によって、高圧弁の弁体の損傷の有無を判定することができる。
【0010】
(3)幾つかの実施形態では、上記(1)又は(2)の構成において、
前記損傷検知部は、Pmax_ave+a×σ(ただし、Pmax_aveは統計期間における前記作動室の圧力の前記最大値の平均であり、σは前記統計期間における前記作動室の圧力の前記最大値の標準偏差であり、aはa≧0を満たす任意の値である。)の前記統計期間における増加速度に基づいて、前記高圧弁の前記弁体の損傷度を評価するように構成される。
本発明者の知見によれば、油圧機械において、高圧弁の弁体の損傷の程度が大きいほど、ピストンの往復運動のサイクル毎の作動室圧力の最大値は大きい傾向にある。よって、上記(3)の構成のように、Pmax_ave+a×σの値の増加速度に基づいて、高圧弁の弁体の損傷度(損傷状態の進行度合い)を把握することができる。
【0011】
(4)幾つかの実施形態では、上記(1)〜(3)の何れかの構成において、
前記損傷検知部は、前記作動室の圧力の前記最大値が閾値を超過した回数に基づいて、前記高圧弁の前記弁体の損傷を検知するように構成される。
本発明者の知見によれば、油圧機械において、高圧弁の弁体の損傷の程度が大きいほど、ピストンの往復運動のサイクル毎の作動室圧力の最大値は大きい傾向にある。よって、上記(4)の構成のように、作動室圧力の最大値が閾値を超過した回数に基づいて、高圧弁の弁体の損傷の有無を検知することができる。
【0012】
(5)幾つかの実施形態では、上記(1)〜(4)の何れかの構成において、
前記高圧弁の初期状態における前記作動室の圧力の前記最大値の統計値に基づいて、閾値を決定するように構成された閾値設定部をさらに備え、
前記損傷検知部は、前記作動室の圧力の前記最大値又は該最大値の統計値と、前記閾値設定部で設定された前記閾値との比較結果に基づいて、前記高圧弁の前記弁体の損傷を検知するように構成される。
作動室の圧力計測により得られる圧力波形は、油圧機械にて用いられている高圧弁の個体毎に異なる。
上記(5)の構成によれば、高圧弁の初期状態における作動室圧力の最大値の統計値に基づいて閾値を決定するので、個々の高圧弁に対して、それぞれ適切な閾値を設定することができる。
【0013】
(6)幾つかの実施形態では、上記(1)〜(5)の何れかの構成において、
前記高圧弁は、
シートと、
ポペット本体、および、該ポペット本体から前記シート側に突出したリッジを有するポペットと、
を含み、
前記高圧弁は、該高圧弁の閉状態において、前記ポペットの前記リッジが前記シートに当接することで、前記高圧ラインと前記作動室とを非連通状態とするように構成される。
上記(6)で述べた構成を高圧弁が有する場合、シートとの繰り返しの衝突により、高圧弁のポペットのリッジの先端の摩耗が進行すると、ポペットにおいて高圧ライン側の受圧面積が作動室側の受圧面積に比べて相対的に増加し、作動室圧力がより大きくならないと高圧弁が開かない事象が発生しやすくなる。この点、上記(1)で述べたように、作動室圧力の最大値に着目することで、高圧弁のポペットのリッジの摩耗発生を適切に検知することができる。
【0014】
(7)本発明の少なくとも一実施形態に係る油圧機械は、
回転シャフトと、
シリンダと、
前記シリンダと共に作動室を形成するピストンと、
前記作動室に対して設けられる高圧弁及び低圧弁と、
上記(1)〜(6)の何れかに記載の診断システムと、を備える。
【0015】
上記(7)の構成では、ピストンの往復運動のサイクル毎の作動室の圧力の最大値を取得する。ここで、該作動室圧力の最大値は、各サイクルにおいて高圧弁が開くのに必要とされる作動室圧力に相当する。よって、上記(7)の構成によれば、ピストンの往復運動のサイクル毎の作動室の圧力の最大値に基づいて、高圧弁の弁体の損傷(変形や摩耗など)を検知することができる。
【0016】
(8)幾つかの実施形態では、上記(7)の構成において、
前記診断システムにより前記高圧弁の前記弁体の損傷が検知されたときに、該高圧弁に対応する前記シリンダを、押しのけ容積を生成しない休止状態とするように構成される。
上記(8)の構成によれば、高圧弁の損傷が検知されたときに、該高圧弁に対応するシリンダを休止状態とし、又は、高圧弁を交換する。これにより、高圧弁の損傷時に油圧機械に与える負荷を低減して油圧機械の寿命低減を抑制しながら、油圧機械の運転を行うことができる。
【0017】
(9)本発明の少なくとも一実施形態に係る油圧トランスミッションは、
圧油を生成するための油圧ポンプと、
前記油圧ポンプからの前記圧油によって駆動されるように構成された油圧モータと、
前記油圧ポンプの吐出口と前記油圧モータの吸込口とを接続する高圧ラインと、
前記油圧モータの吐出口と前記油圧ポンプの吸込口とを接続する低圧ラインと、
を備え、
前記油圧ポンプ又は前記油圧モータの少なくとも一方は上記(7)又は(8)に記載の油圧機械である。
【0018】
上記(9)の構成では、ピストンの往復運動のサイクル毎の作動室の圧力の最大値を取得する。ここで、該作動室圧力の最大値は、各サイクルにおいて高圧弁が開くのに必要とされる作動室圧力に相当する。よって、上記(9)の構成によれば、ピストンの往復運動のサイクル毎の作動室の圧力の最大値に基づいて、高圧弁の弁体の損傷(変形や摩耗など)を検知することができる。
【0019】
(10)本発明の少なくとも一実施形態に係る再生エネルギー型発電装置は、
再生可能エネルギーを受け取って回転するように構成されたロータと、
前記ロータによって駆動されて作動油を昇圧するように構成された油圧ポンプと、
前記油圧ポンプにより昇圧された作動油によって駆動されるように構成された油圧モータと、
前記油圧ポンプの吐出口と前記油圧モータの吸込口とを接続する高圧ラインと、
前記油圧モータの吐出口と前記油圧ポンプの吸込口とを接続する低圧ラインと、
前記油圧モータによって駆動されるように構成された発電機と、を備え、
前記油圧ポンプ又は油圧モータの少なくとも一方は、請求項(7)又は(8)に記載の油圧機械である。
【0020】
上記(10)の構成では、ピストンの往復運動のサイクル毎の作動室の圧力の最大値を取得する。ここで、該作動室圧力の最大値は、各サイクルにおいて高圧弁が開くのに必要とされる作動室圧力に相当する。よって、上記(10)の構成によれば、ピストンの往復運動のサイクル毎の作動室の圧力の最大値に基づいて、高圧弁の弁体の損傷(変形や摩耗など)を検知することができる。
【0021】
(11)本発明の少なくとも一実施形態に係る油圧機械の診断方法は、
回転シャフトと、シリンダと、前記シリンダと共に作動室を形成するピストンと、前記作動室に対して設けられる高圧弁及び低圧弁と、を有し、前記回転シャフトの回転運動と前記ピストンの往復運動との間で変換を行うように構成された油圧機械の診断方法であって、
前記作動室の圧力を検出する圧力検出ステップと、
前記圧力検出ステップでの検出結果に基づいて、前記高圧弁の損傷を検知する損傷検知ステップと、を備え、
前記高圧弁は、シートと、前記シートに対して前記油圧機械の高圧ライン側から当接するように構成されたポペットと、を含むポペット弁であり、
前記損傷検知ステップでは、前記ピストンの往復運動のサイクル毎の前記作動室の圧力の最大値に基づいて、前記高圧弁の前記弁体の損傷を検知する。
【0022】
上述の高圧弁(ポペット弁)は、ポペットに対して高圧ライン側から作用する力(流体力や弁体を付勢する力)よりも、作動室側から作用する力が大きくなったときに開く。本発明者の鋭意検討の結果、高圧弁の開閉時に、ポペットは高圧ラインの高圧に晒されながらシートとの衝突及び離脱を繰り返すことで、該ポペットに変形や摩耗等の損傷が生じることがあることが明らかになった。また、本発明者の知見によれば、このような損傷によりポペットのうちシートに当接する当接面の面積が大きくなると、ポペットにおいて高圧ライン側の受圧面積が作動室側の受圧面積に比べて相対的に増加し、作動室圧力がより大きくならないと高圧弁が開かない事象が発生する場合がある。
この点、上記(11)の方法では、ピストンの往復運動のサイクル毎の作動室の圧力の最大値を取得する。ここで、該作動室圧力の最大値は、各サイクルにおいて高圧弁が開くのに必要とされる作動室圧力に相当する。よって、上記(11)の方法によれば、ピストンの往復運動のサイクル毎の作動室の圧力の最大値に基づいて、高圧弁の弁体の損傷(変形や摩耗など)を検知することができる。
【0023】
(12)幾つかの実施形態では、上記(11)の方法において、
前記損傷検知ステップでは、Pmax_ave+a×σ(ただし、Pmax_aveは統計期間における前記作動室の圧力の前記最大値の平均であり、σは前記統計期間における前記作動室の圧力の前記最大値の標準偏差であり、aはa≧0を満たす任意の値である。)が閾値以上であるときに、前記高圧弁の前記弁体に損傷が生じたと判定する。
本発明者の知見によれば、油圧機械において、高圧弁の弁体の損傷の程度が大きいほど、ピストンの往復運動のサイクル毎の作動室圧力の最大値は大きい傾向にある。
そこで、上記(12)の方法のように、Pmax_ave+a×σの値と閾値との比較によって、高圧弁の弁体の損傷の有無を判定することができる。
【0024】
(13)幾つかの実施形態では、上記(11)又は(12)の方法において、
前記損傷検知ステップでは、Pmax_ave+a×σ(ただし、Pmax_aveは統計期間における前記作動室の圧力の前記最大値の平均であり、σは前記統計期間における前記作動室の圧力の前記最大値の標準偏差であり、aはa≧0を満たす任意の値である。)の前記統計期間における増加速度に基づいて、前記高圧弁の前記弁体の損傷度を評価する。
本発明者の知見によれば、油圧機械において、高圧弁の弁体の損傷の程度が大きいほど、ピストンの往復運動のサイクル毎の作動室圧力の最大値は大きい傾向にある。よって、上記(13)の方法のように、Pmax_ave+a×σの値の増加速度に基づいて、高圧弁の弁体の損傷度(損傷状態の進行度合い)を把握することができる。
【0025】
(14)幾つかの実施形態では、上記(11)〜(13)の何れかの方法において、
前記高圧弁の初期状態における前記作動室の圧力の前記最大値の統計値に基づいて、閾値を決定する閾値設定ステップをさらに備え、
前記損傷検知ステップでは、前記作動室の圧力の前記最大値又は該最大値の統計値と、前記閾値設定ステップで設定された前記閾値との比較結果に基づいて、前記高圧弁の前記弁体の損傷を検知する。
作動室の圧力計測により得られる圧力波形は、油圧機械にて用いられている高圧弁の個体毎に異なる。
上記(14)の方法によれば、高圧弁の初期状態における作動室圧力の最大値の統計値に基づいて閾値を決定するので、個々の高圧弁に対して、それぞれ適切な閾値を設定することができる。
【0026】
(15)幾つかの実施形態では、上記(11)〜(14)の何れかの方法において、
前記損傷検知ステップで前記高圧弁の前記弁体の損傷が検知されたときに、該高圧弁に対応する前記シリンダを、押しのけ容積を生成しない休止状態とする、又は該高圧弁を交換するステップをさらに備える。
上記(15)の方法によれば、高圧弁の損傷が検知されたときに、該高圧弁に対応するシリンダを休止状態とし、又は、該高圧弁を交換する。これにより、高圧弁の損傷時に油圧機械に与える負荷を低減して油圧機械の寿命低減を抑制しながら、油圧機械の運転を行うことができる。