特許第6564457号(P6564457)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ コンセホ スペリオール デ インヴェスティガシオネス シエンティフィカス(シーエスアイシー)の特許一覧 ▶ コンシグリオ ナジオナーレ デッレ リセルチェの特許一覧

特許6564457フッ化物でドーピングされておりクエン酸塩で被覆されている非晶質リン酸カルシウムナノ粒子を得るための製法
<>
  • 特許6564457-フッ化物でドーピングされておりクエン酸塩で被覆されている非晶質リン酸カルシウムナノ粒子を得るための製法 図000003
  • 特許6564457-フッ化物でドーピングされておりクエン酸塩で被覆されている非晶質リン酸カルシウムナノ粒子を得るための製法 図000004
  • 特許6564457-フッ化物でドーピングされておりクエン酸塩で被覆されている非晶質リン酸カルシウムナノ粒子を得るための製法 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6564457
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】フッ化物でドーピングされておりクエン酸塩で被覆されている非晶質リン酸カルシウムナノ粒子を得るための製法
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/14 20060101AFI20190808BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20190808BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20190808BHJP
   A61L 27/12 20060101ALI20190808BHJP
   A61L 27/30 20060101ALI20190808BHJP
   A61K 6/033 20060101ALI20190808BHJP
   A61K 6/06 20060101ALI20190808BHJP
   A61K 6/027 20060101ALI20190808BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20190808BHJP
【FI】
   A61K9/14
   A61K47/02
   A61K47/12
   A61L27/12
   A61L27/30
   A61K6/033
   A61K6/06 Z
   A61K6/027
   A61Q11/00
【請求項の数】10
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-524101(P2017-524101)
(86)(22)【出願日】2015年7月21日
(65)【公表番号】特表2017-522385(P2017-522385A)
(43)【公表日】2017年8月10日
(86)【国際出願番号】EP2015066651
(87)【国際公開番号】WO2016012452
(87)【国際公開日】20160128
【審査請求日】2018年7月23日
(31)【優先権主張番号】P201431091
(32)【優先日】2014年7月21日
(33)【優先権主張国】ES
(73)【特許権者】
【識別番号】508014327
【氏名又は名称】コンセホ スペリオール デ インヴェスティガシオネス シエンティフィカス(シーエスアイシー)
(73)【特許権者】
【識別番号】517023714
【氏名又は名称】コンシグリオ ナジオナーレ デッレ リセルチェ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】デルガド ロペス,ホセ,マヌエル
(72)【発明者】
【氏名】ゴメス モラーレス,ハイメ
(72)【発明者】
【氏名】フェルナンデス ペナス,ラクエル
(72)【発明者】
【氏名】イアフィスコ,ミケーレ
(72)【発明者】
【氏名】タンピエリ,アンナ
(72)【発明者】
【氏名】パンセーリ,シルビア
【審査官】 佐々木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2005/0199156(US,A1)
【文献】 特表平09−504790(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2001/0048925(US,A1)
【文献】 Acta Biomaterialia, 2012, Vol.8, pp.3491-3499
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00− 9/72
A61K 47/00−47/69
A61L 15/00−33/18
A61K 6/00− 6/10
A61K 8/00− 8/99
A61Q 1/00−90/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化物でドーピングされておりクエン酸塩で被覆されている非晶質リン酸カルシウムナノ粒子を得るための製法であって、
濃度が0.08M〜0.12MであるCaCl溶液、および濃度が0.35M〜0.50MであるNaを、調製する工程;
濃度が0.10M〜0.15MであるNaHPOと、0.2MのNaCOおよびフッ素化合物とによって形成されている、第2の溶液を調製する工程;
先行する段階において調製した2種類の溶液を、1:1(v/v)の比率、8.3〜8.7のpH、室温にて、2分間未満の期間、攪拌しながら混合する工程;
遠心分離、上澄みの除去、および超純水を用いた沈殿物の洗浄、による沈殿サイクルを3回連続して行う工程;および
湿った沈殿物を、凍結乾燥させる工程
を含む、製法。
【請求項2】
第1の溶液に用いられている反応剤の濃度は、CaClが0.1Mであり、かつNaが0.4Mであることを特徴とする、請求項1に記載の製法。
【請求項3】
上記第2の溶液に用いられている濃度は、NaHPOが0.12Mであり、かつNaCOが0.2Mであることを特徴とする、請求項1または2に記載の製法。
【請求項4】
上記フッ素化合物は、CaF、NaFおよびKFから選択され、かつ、濃度0.01M〜0.1Mで加えられることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製法。
【請求項5】
上記フッ素化合物は、濃度0.05Mで加えられるCaFであることを特徴とする、請求項4に記載の製法。
【請求項6】
請求項1〜5に記載の製法によって得られる、クエン酸塩で被覆されておりフッ化物でドーピングされている非晶質リン酸カルシウムナノ粒子であって、
形状が球状であり、大きさが30nm〜80nmであり、
Na、Ca、P、クエン酸塩、炭酸塩、フッ化物および水の含有率は、
Naが3.1重量%〜3.5重量%、
Caが27.0重量%〜27.4重量%、
Pが37.0重量%〜37.8重量%、
クエン酸塩が3.5重量%〜5.0重量%、
炭酸塩が5.4重量%〜7.0重量%、
水が6重量%〜10重量%、
フッ化物が2重量%〜5重量%、
であることを特徴とする、非晶質リン酸カルシウムナノ粒子
(ここで、上記Pは、リン酸を表す)
【請求項7】
生体分子用、薬物用またはその両用の担体の製造のための、請求項6に記載の、クエン酸塩で被覆されておりフッ化物でドーピングされている非晶質リン酸カルシウムナノ粒子の使用。
【請求項8】
整形外科学の用途における生体材料の製造のための、請求項6に記載の、フッ化物でドーピングされておりクエン酸塩で被覆されている非晶質リン酸カルシウムナノ粒子の使用。
【請求項9】
歯科学の用途における、根管の修復および歯の修復における、充填施術用、密封施術用またはその両方の施術用のセメントの製造のための、請求項に記載の、クエン酸塩で被覆されておりフッ化物でドーピングされている非晶質リン酸カルシウムナノ粒子の使用。
【請求項10】
歯科学の用途における、カルシウムイオン、リン酸イオンおよびフッ化物イオンの徐放を通してエナメル質の再石灰化を促進するための、歯磨き粉、チューイングガム、洗口液、フッ化物バーニッシュおよびジェルの成分の製造のための、請求項に記載の、クエン酸塩で被覆されておりフッ化物でドーピングされている非晶質リン酸カルシウムナノ粒子の使用。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔発明の分野および対象〕
生物医学(すなわち、薬物送達用ナノ担体および骨再形成)および歯科学における所定の生物材料(Biomaterials of interest)。
【0002】
本発明の対象は、クエン酸塩(骨の有機基質の一部を形成している分子)で被覆されておりフッ化物でドーピングされている非晶質リン酸カルシウムナノ粒子を得るための製法である。この物質は、細胞接着および骨形成(osteogeneration)を促進するのに加えて、優れた生物分解性および生物活性を示す。このため、上記物質は、生物医学の分野(すなわち、薬物送達用ナノ担体および骨再形成)において幅広い用途を有している。同様に、上記物質は、歯科学において多様な用途を有している。上記物質は、象牙質およびエナメル質の再石灰化剤として、歯磨き粉、洗口液、フッ化物バーニッシュ、チューイングガムおよびジェルに用いられうる。
【0003】
上記製法は2種類の溶液に基づいており(一方は塩化カルシウムおよびクエン酸ナトリウムによって形成されており、他方はリン酸一水素ナトリウムおよび炭酸ナトリウムとフッ素化合物(fluoride compound)とによって形成されている)、上記2種類の溶液を室温で混合する。上記製法は、従来技術に対して以下の利点を有している。まず、上記製法は、酸性の残留物を全く残さない(合成において強酸を用いない)ため、環境効率がよく、かつ環境に優しい。また、上記製法は、1段階(上記合成における反応剤としてクエン酸ナトリウムを用いること)で合成される。さらに、クエン酸塩で被覆されており、かつフッ化物でドーピングされている非晶質リン酸カルシウムが得られるのは、初めてのことである。それ故に、上述の物質は、非晶質リン酸カルシウムよりも高い再石灰化作用を有している。
【0004】
〔本技術の現況〕
生体において、非晶質体は、無機リン酸カルシウム(CaP)のあまり一般的ではない形態である。非晶質リン酸カルシウム(ACP)は、真核細胞および原核細胞のミトコンドリアにおいて発見されており、骨の無機基質(ナノ結晶炭酸アパタイト)の形成過程における、前駆段階であると考えられている。この骨アパタイトの表面は、クエン酸塩で被覆されていることが、近年発見された。ACPはまた、様々な方法を用いた種々のCaPの調製において、中間段階となっている。この物質は、その興味深い特性(優れた生物活性、細胞接着の促進、ならびに骨誘導能および骨形成の促進など)のため、生物医学の分野において幅広い用途を有している。同様に、上記物質は、歯科学において多様な用途を有している。上記物質は、象牙質およびエナメル質の再石灰化剤として、歯磨き粉、洗口液、チューイングガム、ジェルおよびフッ化物バーニッシュに用いられうる。
【0005】
国際公開第98/40406号は、カゼイン(牛乳中に存在するリンタンパク質)で安定化されている非晶質リン酸カルシウムから構成される製品を開示している。この製品は、歯磨き粉、チューイングガムにおける研磨剤、および歯のホワイトニングの後処理における研磨剤として、昨今使用されている。しかしながら、虫歯予防および傷付いたバーニッシュの再石灰化における上記製品の効果は、示されていなかった。ACPはまた、デンタルピース(dental pieces)の作製における充填材として、高分子化合物材料において使用される。ACPは歯の修復を強く促す。これは、歯垢によって発生する酸性のpHに反応して、Caイオンおよびリン酸イオンが放出されるためである。上記イオンは、ハイドロキシアパタイトの形態で歯の構造に沈着し、エナメル質(主に結晶ハイドロキシアパタイトから構成されている)を再生する。生体材料としてのACPの主要な用途が、表1にまとめられている。
【0006】
【表1】
【0007】
ACPの調製に関しては、沈殿に適切なpHにて可溶性Ca2+前駆体および可溶性PO3−前駆体から得られることが、幾つかの形式において知られている。上記形式は、通常、可溶性の前駆体(当該前駆体のカチオンは、最終産物である組成物において後から干渉する可能性のある、他の種を生じさせない)を用いる。このような前駆体としては、Ca(OH)、HPO、リン酸塩またはリン酸水素アンモニウムがある。Ca(NOは、一般的に用いられる。
【0008】
例えば他の多価カルボン酸(酒石酸など)のみならず、Ca2+カチオンと錯体を形成する物質としてのクエン酸の機能もまた、知られている。クエン酸はまた、薬学的な観点からも許容可能である。このため、これらの酸は、ACPの非晶質組成物を安定化させるためにも用いられている。このことは、国際公開第03/059304号の請求の範囲に記載されている。同文献は、リンペプチドと結合しているACPを含有している調製物において、Ca2+カチオンとキレートを形成する他の物質の中でも、クエン酸を0.1重量%〜5重量%の割合とすることを提案している。
【0009】
JP201169121は、リン酸および水酸化カルシウムからの沈殿により既に形成されているACPを安定化剤として、クエン酸の使用を提案している。同文献によると、上記沈殿物は引き続いて、上述のクエン酸の存在下で粉砕される。
【0010】
このように、上述の文献はいずれも、本発明の対象となる製法などの方法について言及していない。上記製法は、ACPを沈殿するための反応剤としてクエン酸を加える(1段階の製法)ものであり、沈殿に引き続く段階における安定化剤としてクエン酸を加える(2段階の製法)ものではない。
【0011】
Dorozhkin S. V.による修正[Nanosized and nanocrystalline calcium orthophsphates, Acta Biomaterialia (2010), No. 6 (3), 715-734];Combes C.およびRey C.による修正[Amorphous calcium phosphates: synthesis, properties and uses in biomaterials, Acta Biomaterialia (2010), No.6 (9), 3362-3378];ならびにDorozhkin S. V.による他の修正[Amorphous calcium phosphates, Acta Biomaterialia (2010), No.6 (12), 4457-4475]は、何種類かの湿式の製法を開示している。しかし、本発明の対象と同じ条件、製法の段階および製法の反応剤は、用いられていない。実のところ、このような調製においては、クエン酸は多くの場合に分散剤であると考えられており、ときには炭酸アニオン(機能が類似している)であると考えられていた。
【0012】
[J.M. Delgado-Lopez et al. Crystallization of bioinspired citrate-functionalized nanoapatite with tailored carbonate content (Acta Biomaterialia (2012) No. 8, page 3491)]の刊行により、アパタイトおよびクエン酸で被覆されているナノ結晶炭酸アパタイトの沈殿製法が打ち立てられた。本技術の現況と、本発明および本明細書の対象である製法との間における、実質的な差異は以下の通りである。
(1)沈殿温度。
(2)クエン酸塩で被覆されておりフッ化物でドーピングされているACPナノ粒子を、安定相として沈殿させること。
(3)沈殿物の成長過程が存在しない。
(4)リン酸カルシウムのアパタイト相または他の結晶相が、沈殿物中において形成されていない。
【0013】
〔発明の簡単な説明〕
本発明の第1の対象は、フッ化物でドーピングされておりクエン酸塩で被覆されている非晶質リン酸カルシウム(FACP)を得るための製法であって、
濃度が0.08M〜0.12MであるCaCl溶液、および濃度が0.35M〜0.50MであるNa(クエン酸ナトリウム)を調製する工程;
濃度が0.10M〜0.15MであるNaHPOと、0.2MのNaCOおよびフッ素化合物とによって形成されている、第2の溶液を調製する工程;
先行する段階において調製した2種類の溶液を、1:1(v/v)の比率、8.3〜8.7のpH(例えばHClによって調整されている)、室温にて、2分間未満の期間、攪拌しながら混合する工程;
遠心分離、上澄みの除去、および超純水を用いた沈殿物の洗浄、による沈殿サイクルを3回連続して行う工程;および
湿った沈殿物を、凍結乾燥させる工程
を含む製法である。
【0014】
本発明の好ましい実施形態において、第1の溶液に用いられている反応剤の濃度は、CaClが0.1Mであり、かつNaが0.4Mである。上記実施形態において、上記第2の溶液に用いられている濃度は、NaHPOが0.12Mであり、かつNaCOが0.2Mである。
【0015】
上記フッ素化合物は、CaF、NaFまたはKFから選択され、かつ、濃度0.01M〜0.1Mで加えられる。好ましい実施形態において、上記フッ素化合物はCaFであり、濃度0.05Mで加えられる。
【0016】
本発明の他の対象は、上述の製法によって得られる、フッ化物でドーピングされている非晶質リン酸カルシウムナノ粒子によって構成されており、
上記フッ化物でドーピングされている非晶質リン酸カルシウムナノ粒子は、形状が球状であり、大きさが30nm〜80nmであり、
さらに、Na、Ca、P、クエン酸塩、炭酸塩、フッ化物および構造水は下記の含有率にて含まれ、
Naが3.1重量%〜3.5重量%、
Caが27.0重量%〜27.4重量%、
Pが37.0重量%〜37.8重量%、
クエン酸塩が3.5重量%〜5.0重量%、
炭酸塩が5.4重量%〜7.0重量%、
水が6重量%〜10重量%、
フッ化物が2重量%〜5重量%、
である。
【0017】
本発明の本態様において、用語「水」は、吸着水および構造水の両方を指す。
【0018】
第3の態様において、本発明の他の対象は、
生体分子および/または薬物の送達、
整形外科学の用途における生体材料、
歯科学における、好ましくは、根管の修復および歯の修復における、充填用および/または密封用のセメントを調製するための材料として;または、カルシウムイオン、リン酸イオンおよびフッ化物イオンの徐放を通してエナメル質の再石灰化を促進するための、歯磨き粉、チューイングガム、洗口液、フッ化物バーニッシュおよびジェルの成分としての材料として、
などの用途におけるナノ粒子の使用である。
【0019】
〔図面の簡単な説明〕
図1は、(a)クエン酸で被覆されているACPナノ粒子、および(b)FACPナノ粒子の透過電子顕微鏡(TEM)像を示している。さらに、それぞれのナノ粒子から得られた制限視野電子回折パターン(SAED)を、挿入図として示している。Aにおける左側の挿入図は、1つのナノ粒子のTEM像を示している。パネルc、dは、それぞれ、ACPおよびFACPのX線エネルギー分散(EDS)スペクトルを表している。
【0020】
図2は、ナノ粒子の(a)X線ディフラクトグラム、および(b)ラマンスペクトルを示している。
【0021】
図3は、ヒト骨芽細胞に対して行われたMTT細胞増殖アッセイを示している。上記アッセイでは、ACPナノ粒子(100μg/mL、500μg/mL、1,000μg/mL)と共に、1日間、3日間および7日間インキュベートされている。*は、p≦0:05であり;***は、p≦0:001であり;n=3である。
【0022】
〔本発明の実施形態〕
ACPナノ粒子は、
(i)0.1M CaCl+0.4M Na;および
(ii)0.12M NaHPO+0.2M NaCO
を含有している2種類の溶液を、1:1(v/v)の比率で、合計を200mLとして、HClを用いてpHを8.5に調整して、室温にて混合することにより、沈殿法によって得た。
【0023】
混合物が乳状の外見を呈したとき(混合から約30秒間後)、遠心分離、上澄みの除去、および超純水(MilliQ(著作権)、Millipore)を用いた沈殿物の洗浄による沈殿サイクルを3回連続、粒子に施した。続いて、湿った状態の上記沈殿物を凍結乾燥させ、その後、上記粒子の特徴を分析した。
【0024】
これらのフッ化物でドーピングされた粒子を得るために、0.05M CaFを溶液(ii)に加えた。
【0025】
[特徴を分析する手法]
走査型透過電子顕微鏡(STEM)(Philips CM 20)を用いて、上記ナノ粒子を分析した(操作出力80kV)。上述の装置からはまた、制限視野電子回折(SAED)パターンおよびX線エネルギー分散(EDS)スペクトルを得た。上記分析のために、凍結乾燥させたサンプルを、超純水中に分散させた。その後、分散液を数滴、通常用いられる銅製の格子上に沈着させた。
【0026】
Liberty 200(Varian, Australia)分光計を用いた発光分析(ICP−OES)によって、CaおよびPの量を定量した。このために、凍結乾燥させたサンプルを、超高純度の濃硝酸に溶解させた(1% v/v)。
【0027】
SDT Q 600 system(TA Instruments, New Castle, DE, USA)を用いて熱重量分析(TGA)を行った。上記分析は、窒素を定量で流し(100mL.min−1)、温度を1,200℃まで上昇(10℃.min−1の間隔)させる条件下で行った。
【0028】
PIXcel検出器を装備したX-Pert PRO回折計(PANalytical)(操作出力45kV、40mA)を用いて、CuのKα放射線(λ=1,5418Å)を入射させ、X線回析パターンを得た。波長10mmの可変スペクトル帯域幅(Variable spectral bandwidths)(非散乱)を用いた。2θを0.039ずつ増分させ、2θの範囲を5°〜70°で変化させた。
【0029】
LabRAMHR分光計(Jobin-Yvon, Horiba, Japan)を用いて、ラマンスペクトルを得た。この装置は、励起源としてのダイオードレーザ(λ=532nm)、およびペルティエ冷却されるCCD検出器(1026×256ピクセル)を装備している。スペクトル分解能が3cm−1の、スペクトルが得られた。
【0030】
PHILIPS Magix Pro(PW-2440)分光計を用いたX線蛍光分光分析(XRF)によって、上記サンプル中のフッ化物の量を定量した。さらに、塩化ジルコニウムおよびエリオクロムシアニンRと錯体を形成させた上で、分光測光法によってもまた、フッ化物の含有量を決定した。分光測光法では、上記錯体の570mmにおける吸光度を測定した。
【0031】
[インビトロ培養細胞の分析]
ヒト骨芽細胞株(MG-63, Lonza, Italy)を用いて、上記ナノ粒子の生体反応を評価した。10%ウシ胎仔血清(FBS)およびストレプトマイシン−ペニシリン(100U/mL−100μg/mL)を含有しているDMEM/F12培地(PAA, Austria)中で、37℃、CO雰囲気(5%)にて、上記細胞を培養した。続いて、トリプシン処理により上記細胞を培地から分離した後、遠心分離し、再懸濁した。トリパンブルー排除試験を用いて、生細胞数を計数した(細胞生死判別試験)。上記細胞を、ウェルあたり3.0×10の密度で、96ウェルプレートに注入した。24時間後、濃度の異なる3種類(100μg/mL、500μg/mL、1,000μg/mL)の、クエン酸塩で被覆されているACPナノ粒子を培養細胞に加えた。上記ナノ粒子は、25kGyのγ線によって事前に殺菌した。上記細胞を、定常条件(37℃、5% CO)の下、1日間、3日間および7日間インキュベートした。上記培地は、3日間ごとに取り換えた。本アッセイは全て、ラミナーフローキャビネット内で行われた。
【0032】
[MTT細胞毒性および細胞の生死]
MTT(3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミド)法を用いて、上記ナノ粒子が毒性の影響を及ぼす可能性を決定した。本アッセイは、3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)が、ミトコンドリア酵素のコハク酸デヒドロゲナーゼによる代謝によって還元され、青色の化合物(ホルマザン)が生じることに基づく。ホルマザンの濃度は、比色分析により決定されうるので、処置した細胞のミトコンドリアの機能性を決定することができる。
【0033】
上記ナノ粒子に1日間、3日間および7日間接触させた後の上記細胞を、1:10の割合でMTTを溶解させた(5mg mL−1)PBS中、37℃にて2時間インキュベートした。次に、上記細胞を、200μLのジメチルスルホキシド(Sigma)を用いて15分間インキュベートし、ホルマザン結晶を溶解させた。Multiskan FC Microplate分光計(Thermo Scientific)を用いて、570nmの吸光度を測定した。この吸光度は、代謝活性を有する細胞数と直接に比例している。調査したそれぞれの期間(1日間、3日間および7日間)につき、3つのサンプルを分析した。
【0034】
[結果]
TEM像(図1)によると、(A)ACP(ドーピングされていないサンプル)および(B)FCAP(ドーピングされているサンプル)のいずれもが、大きさ30nm〜80nmで球状のナノ粒子であることが示された。また、SAEDパターンにおいて回折点が存在しないことから、上記粒子は非晶質性を有していることが明らかになった。同様に、EDSスペクトルによると、上記粒子はCaおよびPのみを含んでいることが確認された。ドーピングされている粒子のスペクトルにおけるFのピークは、0.68KeV近傍に現れるはずだが、観測されなかった。これはおそらく、Fのピークより遥かに大きい酸素のピーク(0.2KeV)と、重なってしまったためであろう。X線回折パターンにおけるピークが存在しないことから、これらの物質の非晶質性が確認された(図2A)。ラマンスペクトルもまた、典型的な非晶質リン酸カルシウムのものである。すなわち、952cm−1に現れるメインピークは、結晶ハイドロキシアパタイトのメインピーク(961cm−1)に対して、僅かにシフトしたものである。TGA、ICPおよびX線蛍光によって得られるACP物質およびFACP物質の化学組成は、先に説明した。
【0035】
上記ナノ粒子の生体反応を、骨芽細胞(MG-63)を用いて調査した。異なる3つの濃度(100μg/mL、500μg/mLおよび1,000μg/mL)のナノ粒子を培地に加え、特定のインキュベート期間(1日間、3日間および7日間)を経た後、MTTアッセイにより代謝活性を有する細胞の数を定量化した(図3)。全ての場合において(最も高い濃度についてさえも)、1日間〜7日間のインキュベーション後に、細胞増殖の増進が観察された。また、調査した中では最も低い濃度については、細胞成長は、ナノ粒子なしの細胞(コントロール)によって観察されたものと同程度であった。しかし、濃度を上昇させるにつれて、細胞成長はコントロールに対してより顕著ではなくなった。これはおそらく、過剰に高いナノ粒子濃度のためであろう。この事実にもかかわらず、細胞の生存アッセイおよび形態アッセイ(図なし)によると、調査した全ての濃度について、非常に類似した結果が得られた。これらの結果から、上記ナノ粒子は、上記ヒト骨芽細胞株との接触において、完全に生体適合性を有していることが明らかに示された。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1図1は、(a)クエン酸で被覆されているACPナノ粒子、および(b)FACPナノ粒子の透過電子顕微鏡(TEM)像を示している。また、それぞれのナノ粒子から得られた制限視野電子回折(SAED)を、挿入図として示している。Aの左側の挿入図は、1つのナノ粒子のTEM像を示している。パネルc、dは、それぞれ、ACPおよびFACPのX線エネルギー分散(EDS)スペクトルを表している。
図2図2は、ナノ粒子の(a)X線ディフラクトグラム、および(b)ラマンスペクトルを示している。
図3図3は、ヒト骨芽細胞に対して行われたMTT細胞増殖アッセイを示している。ACPナノ粒子(100μg/mL、500μg/mL、1,000μg/mL)と共に1日間、3日間および7日間インキュベートされている。*は、p≦0:05であり;***は、p≦0:001であり;n=3である。
図1
図2
図3