(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記他主電動機のトルクが最大値に達した後に、力行指令に基づく必要トルクが大きくなるにつれ、前記トルク指令決定部は、前記特定主電動機のトルクを前記制限値から最大値まで上昇させる、請求項3に記載の鉄道車両用制御装置。
前記列車編成が複数の電動車を含み、前記複数の電動車のうち1以上の特定車両が騒音発生機器を搭載しており、前記特定主電動機が前記特定車両を駆動する、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の鉄道車両用制御装置。
前記出力指令決定部は、前記入力された制御指令に基づく前記内燃機関の必要出力が最大値未満であるときに、前記複数の内燃機関のうち特定内燃機関の出力を前記特定内燃機関以外の他内燃機関の出力よりも小さくするように、前記複数の内燃機関の燃料噴射量を決定する、請求項10に記載の鉄道車両用制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して実施形態について説明する。
【0019】
[第1実施形態]
(列車編成)
図1は、第1実施形態に係る列車編成1を示す。列車編成1は、複数の車両2で組成される。図の例では、各車両2が、車体3および2つの台車4を備えたボギー車である。2つの台車4は車長方向に離れて配置され、各台車4はレールR上で転動する2つの輪軸5を備える。車体3は2つの台車4に支持される。床下機器6が、車体3の床下に設置され、2つの台車4の間に配置されている。なお、
図1上部では、各車両2に対応するように、ブロックAC、CP、TM、CI、MTrまたはPanを記載しているが、この記載は、各車両2に備わる機器を模式的に示したものである。そのうち空気調和装置AC、空気圧縮機CP、主電動機TM、主変換装置CIおよび主変圧器MTrは、床下機器6を構成する。パンタグラフPanは屋根に設けられるが、床下機器6と併記する(
図6および
図8も同様)。なお、空気調和装置ACは屋根に設けられていてもよい(
図8に示す第5実施形態を参照)。列車編成1は、車長方向に隣り合う2つの車両2を連結器(図示せず)で連結することで組成される。
【0020】
この列車編成1では、車両2の一部または全部(図の例は一部)が電動車2Mであり、各電動車2Mは、1以上の主電動機21を搭載する。各主電動機21の出力軸は動力伝達機構(図示せず)を介して1以上の輪軸5と連結され、各主電動機21は対応する1以上の輪軸5を回転駆動する。以下、主電動機21と動力伝達機構を介して連結された輪軸を「動軸5a」(
図1の黒塗り丸を参照)と呼ぶことがある。
【0021】
例えば、主電動機21は、動軸5aと一対一で対応し、対応する1つの動軸5aを回転駆動する。電動車2Mの4つの輪軸5は全て動軸5aである。2つの主電動機21が電動車2Mの1つの台車4に設けられ、4つの主電動機21が1つの電動車2Mに搭載される。ただし、1つの電動車Mにおける主電動機21の個数は適宜変更可能である。電動車2Mの1つの台車4が主電動機21を1つ搭載し、その主電動機21が当該台車4の2つの輪軸5を駆動してもよい。
【0022】
各車両2は、車体3内に客室を有する旅客車である。客室は、「特別(または一等)エリア3a」、「一般(または二等)エリア3b」のように、等級分けされる。一般エリア3bには一般座席が設置される。特別エリア3aでは、一般エリア3bよりも快適な車内環境を提供するため、性状面(大きさ、硬さ、上張りの材質など)や機能面で一般座席と比べて高級な特別座席が設置される。本書の「座席」は、乗客が乗車中に身体を預ける設備をいい、腰掛でも寝台でもよい。以下、客室の全部を一般エリア3bとする旅客車を「一般車」と呼び、客室の一部または全部を特別エリア3aとする旅客車を「特別車」と呼ぶことがある。特別車のうち、客室として特別エリア3aと一般エリア3bとを有する車両については、特に「合造車」と呼ぶことがある(第2実施形態を参照)。
【0023】
この列車編成1には、2種以上の等級が存在する。例えば、1つの車両2が特別車、残余の車両2が一般車である。本実施形態では、特別車の客室の全部が特別エリア3aであり、また、その特別車が電動車2Mである。以下、電動車たる特別車を「電動特別車2Ma」と呼び、電動車たる一般車を「電動一般車2Mb」と呼ぶことがある。
【0024】
本実施形態では、状況により、電動特別車2Maに搭載された4つの主電動機21のトルクが、残余の主電動機21のトルクよりも小さくなる。それにより、特別エリア3aでの静粛性が向上し、特別車の乗客に提供される車内環境の向上を図る。以下、列車編成1内の主電動機21のうち、このようにトルクを特別に小さくする場合があるものを「特定主電動機21a」と呼び、特定主電動機21a以外の主電動機を「通常主電動機21b」と呼ぶことがある。本実施形態では、電動特別車2Maに搭載された4つ全ての主電動機21が特定主電動機21aである。
【0025】
(主回路機器、制御装置)
図2は、列車編成1の主回路20および制御装置30の構成を概略的に示す。主回路20は、主電動機21を電源と接続して主電動機21を駆動する主要な電気回路である。主回路20を構成する主回路機器として、主電動機21の他、集電装置、主変圧器、主変換装置を例示できる。列車編成1は、電気方式、主電動機の形式および制御方式といった仕様に応じて、ここに例示したものおよび例示していないものから適宜取捨選択された複数の機器を主回路機器として備える。主回路機器には、車両制御装置が制御する主変換装置(以下、被制御機器29と呼ぶ)が含まれる。被制御機器29は、主電動機21で発生される動力を制御、操作または調整する。例えば、列車編成1が架空電車線方式の単相交流電化区間を走行する交流電気車であって、主電動機21が交流電動機であって、制御方式がインバータ制御である場合、当該列車編成1が、主回路機器として、集電装置としてのパンタグラフ22、主変圧器23および主変換装置24を備える。主変圧器23および主変換装置24は床下機器6を構成する。この例では、主変換装置24に備わるインバータ24aが被制御機器29に相当する。
【0026】
列車編成1は2以上の被制御機器29を備え、各被制御機器29は主回路20において電源と反対側で1以上の主電動機21と接続される。被制御機器29は、特定主電動機21aと対応する1以上の「特定被制御機器29a」と、通常主電動機21bと対応する1以上の「通常被制御機器29b」とに分かれる。
【0027】
制御装置30は、主幹制御器31および車両制御装置32を備える。車両制御装置32は、中央ユニット33および2以上の端末ユニット34を含む。主幹制御器31は、制御車2Cの運転室3c(
図1参照)内に設置された操作器35を含む。操作器35は、運転室3cに設置された1以上のレバーまたはハンドルであり、運転手は操作器35に制御指令を入力操作できる。制御指令には、力行指令および制動指令が含まれ、操作器35には、力行指令を入力する力行操作器や、制動指令を入力する制動指令器などが含まれる。なお、力行操作器は制動操作器と別々に設けられていてもよく、一体化されていてもよい。
【0028】
中央ユニット33は、制御車2Cに搭載されており、入力部36および指令決定部37を含む。入力部36は、操作器35から制御指令を入力する。なお、入力部36は、車外の自動列車運転システムから無線で制御指令を入力してもよい。指令決定部37は、入力部36に入力された制御指令に基づいて複数の主電動機21に指令すべきトルクを決定し、決定されたトルク指令を端末ユニット34に出力する。
【0029】
端末ユニット34は、床下機器6を構成し、被制御機器29と一対一で対応する(そして、当該被制御機器29と接続された主電動機21と対応する)。端末ユニット34は、中央ユニット33の指令決定部37からのトルク指令に従って、被制御機器29の動作または状態を制御し、それにより対応する主電動機21で発生される動力を制御する。被制御機器29が上記一例のとおりインバータ24aであれば、端末ユニット34は、対応するインバータ24aの動作を制御し、被制御機器29たるインバータ24aは、主電動機21の印加電圧や周波数を変化させることで、主電動機21のトルクや出力を制御する。こうして、主電動機21は、指令決定部37で決定されたトルクを出力する。
【0030】
端末ユニット34は、特定被制御機器29aと対応する1以上の「特定端末ユニット34a」と、通常被制御機器29bと対応する1以上の「通常端末ユニット34b」とに分かれる。例えば、電動特別車2Maが、1つの特定被制御機器29aおよび1つの特定端末ユニット34aを搭載し、当該1つの特定被制御機器29aが、電動特別車2Maに搭載された4つの特定主電動機21aと接続され、当該1つの特定端末ユニット34aが、当該1つの特定被制御機器29aの動作の制御を通じて当該4つの特定主電動機21aのトルクおよび出力を制御してもよい。図の例では、1つの通常被制御機器29bおよび1つの通常端末ユニット34bが1つの電動一般車2Mbに搭載され、当該通常被制御機器29bが当該電動一般車2Mbの4つの通常主電動機21bと対応する。ただし、通常被制御機器29bは隣接する別の電動一般車2Mbに搭載された通常主電動機21bと接続されてもよく、1つの通常端末ユニット34bが計8つの通常主電動機21bのトルクおよび出力を一括制御してもよい。
【0031】
説明の単純化のため、まず、制御指令を力行指令に限って説明する。力行指令を入力するための力行操作器は、所定の可動域内で往復直動または往復回動可能であり、この可動域内に、所定の複数の操作位置が離散的に設定されている。以下、力行操作器の操作位置のうち可動域一端の操作位置を「切位置」と呼び、可動域他端の操作位置を「最大力行位置」と呼ぶ。
【0032】
力行操作器が切位置にあると、力行操作器が制御指令(力行指令)として「ノッチオフ指令」を出力する。力行操作器が最大力行位置にあると、力行操作器が制御指令(力行指令)として「フルノッチ指令」を出力する。
【0033】
指令決定部37は、入力部36に入力された制御指令に基づき、列車編成1が全体として必要なトルク(以下、「必要トルク」と呼ぶ)を決定する。必要トルクの決定には、制御指令のほか、荷重、走行速度、現在地勾配を参照してもよい。例えば、ノッチオフ指令が入力された場合、その指令に基づく必要トルクはゼロとされ、車両を惰行状態にする。フルノッチ指令が入力された場合、その指令に基づく必要トルクは最大となる場合があり、このときには、列車編成1が牽引性能を最大限に生かして加速または登坂する。力行操作器の操作位置が切位置から最大力行位置に向かってシフトしていくにつれ、制御指令(力行指令)が変化し、必要トルクが段階的に大きくなっていく。指令決定部37は、トルク指令マップ38を参照して指令すべきトルクを決定し、決定されたトルク指令を端末ユニット34にそれぞれ出力する。上記のとおり、端末ユニット34は、指令決定部37から出力されたトルク指令に従って被制御機器29の動作を制御し、それにより主電動機21は、決定されたトルクを出力する。
【0034】
以上の構成において、操作器35および入力部36は、制御指令が入力される制御指令入力部39を構成している。また、指令決定部37および端末ユニット34は、入力された制御指令に基づく必要トルクに応じて複数の主電動機21に対するトルク指令を決定するトルク指令決定部40を構成している。トルク指令マップ38は、例えば必要トルクに対するトルク指令の相関を定義し、車両制御装置32(例えば、中央ユニット33)に予め記憶される。
【0035】
トルク指令決定部40(指令決定部37)は、必要トルクが最大値未満であるときに、特定主電動機21aのトルクが通常主電動機21bのトルクよりも小さくなるように、主電動機21に対するトルク指令を決定する。本実施形態では、トルク指令決定部40(指令決定部37)は、トルク指令マップ38を参照し、必要トルクに従って、特定主電動機21a用のトルク指令と通常主電動機21b用のトルク指令とを導き出す。特定主電動機21a用のトルク指令は指令決定部37から特定端末ユニット34aに出力される。通常主電動機21b用のトルク指令は指令決定部37から通常端末ユニット34bに出力される。
【0036】
図3に示すように、必要トルクが最大値(100%)であれば、全主電動機21の能力ひいては列車編成1の牽引性能が最大限発揮されるように、特定主電動機21a用のトルク指令も通常主電動機21b用のトルク指令も最大値(100%)に設定される。必要トルクがゼロであれば(例えば、制御指令がノッチオフ指令であれば)、特定主電動機21a用のトルク指令は制限値に設定される。制限値は、例えばゼロであり、その場合、特定主電動機21aにトルクを発生させない。
【0037】
必要トルクがゼロから増えるにつれ、通常主電動機21b用のトルク指令も増加する。一方、特定主電動機21a用のトルク指令は制限値で維持される。必要トルクが最大値未満の所定の立上げ値T1になるまで増えると、通常主電動機21b用のトルク指令は最大値に達する。必要トルクがそこから更に増えると、通常主電動機21b用のトルク指令が最大値で維持される一方、特定主電動機21a用のトルク指令が制限値から増加する。必要トルクが最大値に達すると、特定主電動機21a用のトルク指令も最大値に達する。なお、
図3は、通常主電動機21b用のトルク指令および特定主電動機21a用のトルク指令が線形で増減していること、および特定主電動機21a用のトルク指令の制限値が0であることを示すが、これは単なる一例である。必要トルクの変化に対するトルク指令の変化(すなわち、グラフ傾き)は非線形や階段状でもよく、制限値は後述のとおりゼロ以外の値に設定されてもよい。
【0038】
図4Aおよび
図4Bは、力行操作器が切位置と最大力行位置との中間の操作位置にあり、必要トルクが最大値の30%とされる場合の主電動機21の発生トルクを示す。なお、立上げ値T1(
図3参照)は必要トルク最大値の30%よりも大きい値である。
図4Bの比較例では、全主電動機21に対してトルク指令が同じ値とされ、各主電動機21が必要トルクを均等に分担する。このため、各主電動機21が、自身が発生できるトルクの最大値に対して30%のトルクを発生する。
図4Aの実施例では、特定主電動機21a用のトルク指令は制限値に抑えられている。通常主制御機21bは、特定主電動機21a用のトルク指令が制限値に抑えられることで不足したトルクを補償する。このとき例えば、通常主電動機21aは、補償すべきトルクを均等に分担する。図の例では、必要トルクが最大値の30%であり、通常主電動機21bが特定主電動機21aの5倍存在し、制限値がゼロであるので、各通常主電動機21bは、比較例と比べて6%分多くトルクを発生する。これにより、必要トルクが通常主電動機21bによって賄われる。
【0039】
図4Bの比較例では、いずれの電動車2Mにおいても、主電動機21からの騒音レベルが同じとなる。
図4Aの実施例では、必要トルクが最大値未満のときに、特定主電動機21aのトルクが通常主電動機21bのトルクよりも小さい。したがって、必要トルクが最大値未満であれば、特定主電動機21aが搭載された個所周辺における騒音が、通常主電動機21bが搭載された個所周辺における騒音よりも小さくなる。
【0040】
本実施形態では、電動特別車2Maの主電動機21が全て特定主電動機21aである。このため、特別車の車内の静粛性が改善され、特別車の座席を確保した乗客に相応の車内環境を提供できる。特別車が電動車2Mとなる要因の一つには、鉄道車両の高速化への要請に応えるために電動車比率が高くなってきていることを挙げられる。この点から、本実施形態によれば、鉄道車両の高速化を充たすことと、特別車の車内環境を向上することとを両立できる。
【0041】
必要トルクが最大値であれば、特定主電動機21aも通常主電動機21bも最大トルクを発生する。これにより、列車編成1の牽引性能を最大限発揮して、加速または登坂できる。
【0042】
必要トルクが増えるにつれて通常主制御機21b用のトルク指令は制限値から上昇する一方、特定主電動機21a用のトルク指令は制限値で維持される。このため、制御指令(力行指令)に応じて列車編成1の速度を調整できるとともに、特定主電動機21aから発生される騒音を抑え続けることができる。この制限値の維持は通常主制御機21b用のトルク指令が最大値に達するまで行われる。このため、特定主電動機21aから発生される騒音を抑え続ける制御領域が広範になる。
【0043】
上記実施例では、この制限値をゼロとしたが、制限値はゼロを超える値でもよい。特定主電動機21aの駆動力を動軸5aに伝達する動力伝達機構が歯車形軸継手を備える場合には、主電動機21のトルクがゼロであると、軸継手が歯当たり音を発生することがある。制限値が歯面間ギャップを詰めて歯面同士を密着させる状態を維持できるような値に設定されることで、歯当たり音が抑制され、特定主電動機21aの搭載個所周辺における車内騒音が更に小さくなる。そのため、制限値は、例えば、特定主電動機21aが発生できるトルク最大値の1%以上10%以下の範囲内の値としてもよい。
【0044】
ここまで、制御指令が力行指令であるとしたが、制御指令としての制動指令に応じて主電動機21を用いて回生ブレーキを行うときも同様である。制動指令に基づき必要とされる回生ブレーキ量がゼロから所定の回生立上げ値までの間は、必要回生ブレーキ量の増加に伴って通常主電動機21bで回生ブレーキ量を増加させるべく通常主電動機21aのブレーキトルク指令を増加させる一方、特定主電動機21aの回生ブレーキ量は所定の回生制限値(例えば、ゼロ)で維持する。必要回生ブレーキ量が回生立上げ値と最大値との間は、必要回生ブレーキ量の増加に伴って特定主電動機21aの回生ブレーキ量を増加させる。これにより、制動時でも、必要制動トルクが最大値未満であるときに、特定主電動機21a用のブレーキトルク指令が通常主電動機21b用のブレーキトルク指令よりも小さくなる。よって、特定主電動機21aが搭載された個所周辺における騒音が、通常主電動機21bが搭載された個所周辺における騒音よりも小さくなる。
【0045】
列車編成1内の特別車の両数を1としたが、複数の特別車が列車編成に含まれていてもよい。その場合、各特別車に搭載された主電動機が特定主電動機であってもよい。
【0046】
[第2実施形態]
図5に示すように、第2実施形態に係る列車編成101においては、特定主電動機21aが、客室の半分を特別エリア3aとし、残り半分を一般エリア3bとした合造車に搭載される。以下、合造車たる電動車を「電動合造車2Mc」と呼び、第1実施形態との相違を中心に説明する。
【0047】
電動合造車2Mcでは、客室の車長方向一方側が特別エリア3aであり、車長方向他方側が一般エリア3bである。電動合造車2Mcは、車長方向に離れた2つの台車4a,4bを有し、各台車4a,4bが2つの動軸5aを有する。合計4つの輪軸は全て動軸5aであり、各台車4a,4bが2つの主電動機21を搭載する。車長方向一方側の第1台車4aは、特別エリア3aの下方に位置付けられ、車長方向他方側の第2台車4bは、一般エリア3bの下方に位置付けられる。第1台車4aに設けた主電動機21が特定主電動機21aであり、第2台車4bに設けた主電動機21が通常主電動機21bである。
【0048】
これにより、特別エリア3aに的を絞って静粛性を向上させることができる。これに伴い、合造車においても、必要トルクが立上げ値未満であってもトルクを発生できる。なお、複数の電動合造車が列車編成に含まれていてもよい。
【0049】
[第3実施形態]
図6に示すように、第3実施形態に係る列車編成201では、電動車2Mが全て一般車であり、電動車2Mの客室等級は全て同じに揃えられている。しかし、鉄道車両の騒音源は、主電動機21に限られず、空気圧縮機CP、パンタグラフ22、主変圧器23(
図2参照)、主変換装置24(
図2参照)も騒音を発生する。このような騒音発生機器は全車両に搭載されているわけではない。すると、騒音発生機器を搭載した特定車両においては、騒音発生機器を搭載していない車両と比べて、騒音が大きくなる。
【0050】
図の例では、2つの電動車2Mがパンタグラフ22を搭載した特定車両2Mdであり、その他の電動車2Mはパンタグラフを搭載していない。そこで、特定車両2Mdの主電動機21を特定主電動機21aとし、パンタグラフ22を搭載していない電動車2Mの主電動機21を通常主電動機21bとする。
【0051】
これにより、騒音源が集中している特定車両2Mdにおいて、主電動機21からの騒音を抑えることができ、特定車両2Mdからの騒音が過大となるのを抑制できる。特定車両2Mdは、パンタグラフ22に代えてまたはこれに加えて、空気圧縮機CP、主変換装置24(
図2参照)の少なくとも1つを搭載した電動車であればよい。
【0052】
車内には、客室から独立した部屋またはスペースが車長方向の端部に形成されることがある。例えば、便所w、車掌室ca、車内販売準備室kを例示できる。このようなスペースが、パンタグラフ22や主変圧器23(
図2参照)のような騒音発生機器を搭載した車両に設けられた場合、このようなスペースの下方に配置された台車4の主電動機21を通常主電動機21bとし、残りの台車4の主電動機21を特定主電動機21aとして制御を実行してもよい。
【0053】
[第4実施形態]
図7に示すように、第4実施形態では、列車編成301が1つの特別電動車2Maを備え、一般電動車のなかに主電動機21以外の騒音源としてパンタグラフ22を搭載した特定車両2Mdが存在する。このような場合、特別電動車2Maに搭載された主電動機21も特定車両2Mdに搭載された主電動機21も、特定主電動機21aとされてもよい。この場合、特定主電動機21aは同じトルク指令を与えられてもよい。
【0054】
特定主電動機21aは、第1特定主電動機121と第2特定主電動機221とに分かれていてもよい。通常主電動機21b用のトルク指令が最大値に達した後、必要トルクの増大に伴って第2特定主電動機221用のトルク指令を制限値から増加させる一方、第1特定主電動機121用のトルク指令を制限値で維持してもよい。第2特定主電動機221用のトルク指令が最大値に達した後、必要トルクの増大に伴って第1特定主電動機121用のトルク指令を制限値から増加させてもよい。図の例では、電動特別車2Maの主電動機21が第1特定主電動機121であるが、特定車両2Mdの主電動機21が第1特定主電動機121であってもよい。
【0055】
[第5実施形態]
図8に示すように、第5実施形態の列車編成501では、車両502の一部または全部が気動車502Eである。図の例では、列車編成501を組成する4両全てが気動車502Eであり、そのうち1両が合造車、残り3両が一般車である。以下、気動車たる合造車を「気動合造車502Ec」と呼び、気動車たる一般車を「気動一般車502Eb」と呼ぶ。気動合造車502Ecでは、客室の車長方向一方側が特別エリア3aとされ、客室の車長方向他方側が一般エリア3bとされる。気動合造車502Ecは、車長方向一側に配置され特別エリア3aの下方に位置付けられた第1台車504aと、車長方向他側に配置され一般エリア3bの下方に位置付けられた第2台車504bとを有する。
【0056】
気動車502Eは、床下機器の一部として、輪軸505を回転駆動するエンジンユニット521を備える。以降、エンジンユニット521によって駆動される台車を「動力台車」と呼ぶ。輪軸505のうち、エンジンユニット521から動力が伝達されるものを「動軸505a」(
図8の黒塗り丸参照)と呼び、エンジンユニット521から動力が伝達されないものを「従軸505b」(
図8の白抜き丸参照)と呼ぶ。
【0057】
エンジンユニット521は、内燃機関522および動力伝達装置523を備える。この気動車502Eは、液体式ディーゼル動車である。すなわち、内燃機関522がディーゼル機関であり、動力伝達装置523が、流体トルクコンバータ(図示せず)を有した変速機524を備える。
【0058】
内燃機関522の出力は、内燃機関522に備わる燃料噴射装置525の燃料噴射量により制御される。内燃機関522の出力軸は変速機524の入力軸に接続され、内燃機関522で発生された動力が変速機524に入力される。変速機524は、速度段に応じた速比で回転動力を変速して出力軸に伝達する。変速機524の速度段には、「変速段」、「直結段」および「中立段」が含まれる。変速機525は、速度段を切り換えるクラッチ526を備え、クラッチを操作することで速度段を切り換えることができる。説明を単純化するため、ここでは変速段も直結段も1段ずつとするが、変速段数および直結段数は複数でもよい。
【0059】
概して、変速段は低車速域で利用される低速段(1速)であり、直結段は高車速域で利用される高速段(2速)である。変速段の選択時、入力された動力は、流体トルクコンバータを介して変速機524の出力軸に伝達される。直結段の選択時、入力された動力は、流体トルクコンバータを介さず、機械的に変速機524の出力軸に伝達される。中立段の選択時、内燃機関522は動軸505aから切り離された無負荷状態となり、変速機525の入出力軸間で動力は伝達されない。
【0060】
本実施形態では、エンジンユニット521が、動力台車504と一対一で対応し、動力台車504に備わる2つの輪軸のうち1つを回転駆動する。変速機525の出力軸は、推進軸や最終減速機などの動力伝達機構を介し、動力台車504の1つの輪軸と接続される。
【0061】
第1および第2実施形態と同様に、第1台車504aに対応するエンジンユニット521の内燃機関522の出力ひいては回転数は、残余の内燃機関522の出力ひいては回転数よりも小さくなる。それにより、特別エリア3aでの静粛性を向上させる。
【0062】
以下、列車編成501内の内燃機関522のうち、このように出力ひいては回転数を特別に小さくする場合があるものを「特定内燃機関522a」と呼び、特定内燃機関522a以外の内燃機関を「通常内燃機関522b」と呼ぶ。また、特定内燃機関522aを含むエンジンユニット521を「特定エンジンユニット521a」と呼び、通常内燃機関522bを含むエンジンユニット521を「通常エンジンユニット521b」と呼ぶ。
【0063】
本実施形態では、気動合造車502Ecの第1台車504aに対応する内燃機関522が、特定内燃機関522aであり、気動合造車502Ecの第2台車504bに対応する内燃機関522および気動一般車502Ebに搭載された内燃機関522が、通常内燃機関522bである。
【0064】
図9は、列車編成501のエンジンユニット521および制御装置530の構成を概念的に示す。
図9に示すように、制御装置530は、第1実施形態と同様、主幹制御器31を備える。制御装置530は車両制御装置532を備える。車両制御装置532は、制御車2Cに搭載された中央ユニット533、およびエンジンユニット521と一対一で対応して床下機器を構成する2以上の端末ユニット534を備える。端末ユニット534は、特定エンジンユニット521aと対応する「特定端末ユニット534a」と、通常エンジンユニット521bと対応する「通常端末ユニット534b」とに分けられる。
【0065】
中央ユニット533は、主幹制御器31から制御指令を入力する入力部536、入力部536に入力された制御指令に基づき各内燃機関522に対する出力指令を決定する指令決定部537を含む。
【0066】
指令決定部537は、入力された制御指令に基づき、列車編成1が全体として必要な出力(以下、「必要出力」と呼ぶ)を決定する。必要出力の決定には、制御指令のほか、荷重、走行速度、現在地勾配を参照してもよい。主幹制御器31の力行操作器の操作位置が切位置から最大力行位置に向かってシフトしていくにつれ、制御指令は変化し、必要出力は段階的に大きくなっていく。指令決定部537は、出力指令マップ538を参照して指令すべき出力(換言すれば、燃料噴射量または燃料噴射圧)を決定し、決定された出力指令を端末ユニット534に出力する。更に、指令決定部537は、速度段指令マップ539を参照して車速に応じて指令すべき速度段(換言すれば、クラッチの状態)を決定し、決定された速度段を端末ユニット534に出力する。マップ538,539は、車両制御装置532(特に、中央ユニット533)に予め記憶されている。
【0067】
端末ユニット534は、機関制御装置540と変速機制御装置541を含む。機関制御装置540は、中央ユニット533からの出力指令に従って燃料噴射装置525を操作し、それにより内燃機関522の出力を制御する。変速機制御装置541は、中央ユニット533からの速度段指令に従ってクラッチ526を操作し、それにより変速機524で設立される速度段を自動的に切り換える。
【0068】
以上の構成において、操作器35および入力部536は制御指令が入力される制御指令入力部542を構成している。また、指令決定部537および端末ユニット534(特に機関制御装置540)は、入力された制御指令に基づく必要出力に応じて複数の内燃機関522に対する出力指令を決定する出力指令決定部543を構成している。
【0069】
図10Aは、出力指令マップ538を表す。
図10Aに示すとおり、必要出力が最大値(100%)である(例えば、入力される制御指令がフルノッチ指令である)ときには、特定内燃機関522aも通常内燃機関522bも、自身が発生できる出力の最大値を出力するように制御される。必要出力が最低値である(例えば、入力される制御指令がノッチオフ指令である)ときには、特定内燃機関522aも通常内燃機関522bもアイドリング運転するように制御される。なお、入力される力行指令がノッチオフ指令であって制動指令が入力されていないときには、速度段指令が中立段を設立すべき指令となり、クラッチ526が切れる。これにより、列車編成501が惰行状態となる。
【0070】
必要出力が最低値から上昇していくにつれ(例えば、力行操作器の操作位置が切位置から最大力行位置側へシフトしていくにつれ)、通常内燃機関522b用の出力指令は大きくなっていく。一方で、特定内燃機関522a用の出力指令は最低値で制限され続ける(最低値が制限値)。必要出力が所定の立上げ値に達したとき、通常内燃機関522b用の出力指令は、通常内燃機関522bで発生できる出力の最大値相当となる。立上げ値は最大値(100%)未満の値であり、特定内燃機関522a用の出力指令が最大値よりも小さい値で維持される。必要出力がそこから上昇すると、通常内燃機関522b用の出力指令は最大値で維持される。必要出力がそこから上昇すると、通常内燃機関522b用の出力指令は最大値で維持される一方、特定内燃機関522a用の出力指令は上昇する。編成の合計発生出力は上昇する。必要出力が最大値で達したところで、特定内燃機関522a用の出力指令が最大値(100%)に達する。
【0071】
図10Bは、速度段指令マップ539を表す。
図10Bに示すように、特定エンジンユニット521aも通常エンジンユニット521bも、車速がゼロのときには、速度段指令が中立段を設立すべき指令となる。通常エンジンユニット521bについては、車速が出始めた直後から所定の変直切換速度の間の区間で、変速段を設立すべき指令となり、車速が変直切換速度を超えると、直結段を設立すべき指令となる。特定エンジンユニット521aについては、車速がゼロから所定の中直切換速度の間の区間で、中立段を設立すべき指令で維持され、車速が中直切換速度を超えると直結段を設立すべき指令となる。このように、通常エンジンユニットと、特定エンジンユニットとで、速度に関する速度段の切換点が異なり、特定エンジンユニットでは、変速段が利用されない。中直切換速度は、変直切換速度よりも低速に設定される。
【0072】
これらマップ538,539を参照して指令を決定して制御を実行する場合について発車からの時間経過に沿って説明すると、まず、停車時は力行操作器が切位置にあるので、全エンジンユニット521でクラッチ526が切られて中立段が設立される。また、必要出力が最低値であるので、全内燃機関522がアイドリング運転する。内燃機関の回転数は使用域内で最低レベルとなり、車内のどのエリアも静粛である。力行操作器が切位置から最大力行位置へ操作されると、通常内燃機関522bの出力および回転数が次第に大きくなっていき、また、速度段が中立段から変速段に切り換わる。流体トルクコンバータにより増幅されたトルクが、通常エンジンユニット521bに対応する動軸505aに伝達され、車速が上昇していく。この発進時、特定エンジンユニット521aでは、特定内燃機関は、アイドリング運転を継続した状態で無負荷状態となる。このため、特定エリア3aでの静粛性を停車時同様に保てる。力行過程で、速度は変直切換速度に達するよりも前に、まず、中直切換速度に達する。速度が中直切換速度に達すると、特定エンジンユニットにおいて速度段が直結段となる。一方で、力行操作器が所定の中間位置に位置付けられると、通常内燃機関522bの出力が最大値に達し、特定内燃機関522がアイドリング運転を脱し、出力を最大値未満ではあるが発生する。その出力は直結段選択中の動力伝達装置523を介し、第1台車504aの動軸505aに伝達される。
【0073】
以上のとおり、動力分散方式を採用した列車編成内で特定車両の騒音を低減させる技術は、第1〜第4実施形態で示したような電気車のみならず、気動車にも応用できる。本実施形態においても、第1〜第4実施形態と同様にして特定の車両(特に、気動合造車502Ecの特定エリア3a)における騒音を低減できる。
【0074】
なお、上記の例では、特定エンジンユニット521aにおいて、流体トルクコンバータを介した動力の伝達が行われない。そこで、特定エンジンユニット521aからは流体トルクコンバータを省略してもよい。流体トルクコンバータは設けたままとした場合は、例えば、中立段から直結段へと切り換える際、短期間変速段を経由してもよい。
【0075】
気動車が搭載するエンジンユニット(動力伝達装置、変速機)は、液体式に限定されず、機械式、電気式でもよい。また、気動車が搭載する機関はディーゼル機関に限定されない。
【0076】
上記の例では、気動合造車を含む場合、すなわち、第1〜第4実施形態のうち第2実施形態と対応する形態を説明したが、第1実施形態または第3実施形態と対応する形態を気動車でも実現可能である。客室全部を特別エリアとする特別車の内燃機関を特定内燃機関として制御を実行してもよく、騒音発生機器を搭載した気動車の内燃機関を特定内燃機関として制御を実行してもよい。
【0077】
[他の実施形態]
これまで実施形態について説明したが、上記構成は一例であり適宜変更、削除、追加可能である。前記各実施形態は互いに任意に組み合わせてもよく、例えば1つの実施形態中の一部の構成又は方法を他の実施形態に適用してもよい。また、実施形態中の一部の構成は、その実施形態中の他の構成から分離して任意に抽出可能である。