(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6564494
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】表面抵抗測定方法及び表面抵抗測定装置
(51)【国際特許分類】
G01R 27/02 20060101AFI20190808BHJP
G01R 35/00 20060101ALI20190808BHJP
【FI】
G01R27/02 R
G01R35/00 J
【請求項の数】11
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-88604(P2018-88604)
(22)【出願日】2018年5月2日
【審査請求日】2019年1月24日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)平成30年3月5日発行「平成30年電気学会全国大会 論文集DVD−ROM 62頁」(発行者:一般社団法人電気学会) (2)平成30年3月14日〜16日開催(会場:九州大学 伊都キャンパス)「平成30年電気学会全国大会」
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(73)【特許権者】
【識別番号】592177096
【氏名又は名称】ナプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076369
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 正治
(74)【代理人】
【識別番号】100144749
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 正英
(72)【発明者】
【氏名】沼山 和樹
(72)【発明者】
【氏名】杉本 俊之
(72)【発明者】
【氏名】田口 浩一
(72)【発明者】
【氏名】塚越 賢治
【審査官】
島▲崎▼ 純一
(56)【参考文献】
【文献】
特開平03−028776(JP,A)
【文献】
特開昭60−089764(JP,A)
【文献】
特開2005−207926(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 27/02
G01R 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定物の表面抵抗を、被測定物の表面に非接触の測定装置で測定する方法であって、
被測定物の一部の領域に所定の電位を持つ帯電領域を形成し、
前記被測定物の一部であって前記帯電領域とは別の領域に、局所的に除電領域を形成して、
前記帯電領域から前記除電領域に移動する電荷の移動速度或いは電荷の移動によって生じる電位を、被測定物と非接触の電荷検出装置により検出する、
ことを特徴とする表面抵抗測定方法。
【請求項2】
請求項1記載の表面抵抗測定方法において、
帯電領域の形成に帯電用電極を備えた帯電装置が使用され、その帯電用電極から被測定物の表面の一部に電荷を供給して帯電領域を形成し、帯電用電極から供給する電荷又は電極パラメータを変えることにより、表面抵抗の測定領域を調節する、
ことを特徴とする表面抵抗測定方法。
【請求項3】
請求項1記載の表面抵抗測定方法において、
除電領域の形成に除電用電極を備えた除電装置が使用され、その除電用電極から被測定物の表面の一部に帯電用の電荷とは逆極性の電荷を供給して除電領域を形成し、除電用電極から供給する電荷又は電極パラメータを変えることにより、表面抵抗の測定領域を調節する、
ことを特徴とする表面抵抗測定方法。
【請求項4】
請求項2記載の表面抵抗測定方法において、
帯電装置の帯電用電極がコロナ帯電電極であり、当該コロナ帯電電極からのコロナ放電により、被測定物の表面の一部に正極性又は負極性イオンを供給して帯電領域を形成し、前記コロナ帯電電極に流れるコロナ放電電流を調節することにより、表面抵抗の測定領域を調節可能とした、
ことを特徴とする表面抵抗測定方法。
【請求項5】
請求項3記載の表面抵抗測定方法において、
除電装置が除電用電極と接地電極を備え、除電用電極がコロナ帯電電極であり、当該コロナ帯電電極からのコロナ放電により、帯電用の電荷とは逆極性のイオンを供給して除電領域を形成し、前記コロナ帯電電極に流れるコロナ放電電流を調節することにより、表面抵抗の測定領域を調節可能とした、
ことを特徴とする表面抵抗測定方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の表面抵抗測定方法において、
予め、表面抵抗が既知である被測定物の表面電位を測定しておき、この測定とは別に、被測定物の表面電位を被測定物と非接触の電荷検出装置により測定し、測定した電位を前記既知の表面抵抗に基づいて換算して被測定物の表面抵抗を求める、
ことを特徴とする表面抵抗測定方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の表面抵抗測定方法において、
帯電領域及び除電領域を静止状態の被測定物又は移動中の被測定物に形成する、
ことを特徴とする表面抵抗測定方法。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の表面抵抗測定方法において、
被測定物の表面と電荷検出装置の間の間隔変動を検知し、検知された間隔変動に起因する測定誤差を補正する、
ことを特徴とする表面抵抗測定方法。
【請求項9】
被測定物の表面抵抗を、被測定物の表面に非接触で測定できる表面抵抗測定装置であって、
被測定物の一部の領域に所定の電位を持つ帯電領域を形成する帯電装置と、前記被測定物の一部であって前記帯電領域とは別の領域に局所的に除電領域を形成する除電装置と、被測定物の表面電位を検知可能な電荷検出装置を備え、
前記帯電装置、除電装置、電荷検出装置は被測定物と非接触で配置され、
前記電荷検出装置は、前記帯電装置により帯電された帯電領域から前記除電装置により除電された除電領域に流れ込む電荷の移動あるいはそれによって生じる電位を検出可能である、
ことを特徴とする表面抵抗測定装置。
【請求項10】
請求項9記載の表面抵抗測定装置において、
帯電装置と除電装置が双方の動作といずれか一方のみの動作に切替え可能である、
ことを特徴とする表面抵抗測定装置。
【請求項11】
請求項9又は請求項10記載の表面抵抗測定装置において、
被測定物の表面と電荷検出装置との間の距離を検知可能な距離センサと、距離センサで検知された変位量に起因する測定誤差をキャンセル可能な補正回路を備えた、
ことを特徴とする表面抵抗測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、半導体、絶縁体といった物体(被測定物)の表面抵抗を、被測定物に非接触で測定する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被測定物の表面抵抗を測定する方法の一つとして、特許文献1あるいは非特許文献1に記載の方法がある。この方法は、測定する被測定物の一部を所定の電位に帯電し、その帯電領域の外側に移動する電荷の量もしくは移動速度から表面抵抗を測定するものである。表面電位計によって測定される電位は、帯電開始からの時間経過とともに増加し、最終的には帯電領域の電位と同じになるか、それよりも低い電位のまま飽和する。帯電開始から所定の電位に到達するまでの時間は、表面抵抗が小さくなるほど短くなり、その時間を測定することで表面抵抗が推定できる。表面抵抗率にして10
10Ω(半導体)から10
15Ω(絶縁体)までの高抵抗領域の表面抵抗を非接触で測定できる方法としては唯一のものである。
【0003】
しかしながら、上記の従来方法では、電位の上昇を捉える表面電位計の応答速度によって低抵抗側の測定限界が決まるため、この応答速度よりも短い時間で表面電位が変化してしまうような、10
10Ωよりも小さい抵抗領域の測定は不可能であった。また、表面電位が急激に上昇するような低抵抗を持つ被測定物の場合、被測定物の表面と周囲の接地との間の容量結合の影響が無視できなくなり、被測定物の大きさが変わるだけで表面抵抗の測定結果も変わってしまう問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5510629号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】T. Sugimoto, K. Taguchi, ”Non-contact surface resistivity measurement for materials greater than 109Ω” Journal of Physics, Conference Series 646 (2015) 012041 doi:10.1088/1742-6596/646/1/012041
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、表面電位計あるいは電荷検出装置といった測定機器の応答速度によらず、より低抵抗側の表面抵抗率を測定することが可能な表面抵抗測定方法及びその測定装置を提供することにある。また、被測定物の大きさによって抵抗測値が変わることがない表面抵抗測定方法およびその測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の表面抵抗測定方法は、被測定物の表面の一部の領域を所定の電位に帯電させて帯電領域とし、前記被測定物の表面の一部であって前記帯電領域とは別の領域(帯電領域から離れた領域)を局所的に除電して除電領域とし、帯電領域に帯電した電荷が除電領域に移動する移動電荷を前記両領域間において電荷検出装置で検出して、被測定物の表面抵抗を測定する方法である。
【0008】
本発明の表面抵抗測定装置は、被測定物の表面の一部領域を所定の電位に帯電させる帯電装置と、被測定物の表面の一部領域であって前記帯電領域とは別の領域を局所的に除電させる除電装置と、前記帯電領域から前記除電領域に移動する電荷を検出する電荷検出装置を備えた装置である。電荷検出装置は前記両領域間に非接触で配置される。被測定物の表面と電荷検出装置との距離(間隔)を検出可能な距離センサと、検出された変動に起因する測定値誤差をキャンセルできる補正回路を設けることもできる。帯電装置と除電装置は連動して動作する連動式であっても、いずれか一方のみの動作に切替え可能な切替え式であってもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の表面抵抗測定方法は次のような効果がある。
(1)帯電領域から除電領域まで定常的な電荷の流れが形成され、それによって生じる表面電位は時間変化せずに一定値となるため、電荷検出装置の応答速度に関係なく、表面抵抗値に依存する表面電位を計測することが可能になる。
(2)電荷の流れが定常的であるため、被測定物とその周囲の接地との間の容量結合の影響を受けず、測定結果が被測定物の大きさによって変化することもない。
(3)帯電領域から除電領域に移動する電荷を両領域間で測定するので、被測定物が移動する場合であっても測定可能となり、被測定物の製造ラインや検査ラインといった各種ラインでの測定も可能となる。
(4)被測定物の表面と電荷検出装置との間隔が変動しても、変動に起因する測定値誤差を補正(キャンセル)できるので、正確な測定が可能となる。
【0010】
本発明の表面抵抗測定装置は次のような効果がある。
(1)帯電領域と除電領域を作って両領域間に定常的な電荷の流れを作ることができるので、その流れによって生じる表面電位は時間変化せずに一定値となる。このため、電荷検出装置の応答速度に関係なく、表面抵抗値に依存する表面電位を計測することが可能になる。また、定常的な電荷の流れにすることができるため、被測定物とその周囲の接地との間の容量結合の影響を受けず、測定結果が被測定物の大きさによって変化することもない。
(2)被測定物の表面と電荷検出装置との距離を検出可能な距離センサと補正回路を備えた場合は、被測定物の表面と電荷検出装置との距離変動の影響を受けない高精度の測定ができる。
(3)帯電装置と除電装置を切替え式とした場合は、両装置を併用することも、個別に使用することもでき、多用途に活用できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の表面抵抗測定装置の一例を示す概念図。
【
図3】本発明の表面抵抗測定方法の一例を示す概念図。
【
図5】実施形態の式(1)に実験パラメータから推定できる値を代入して計算した表面電位と、実測した表面電位との関係図。
【
図6】
図2の等価抵抗R
cとR
bを変更したときの表面抵抗率と本発明の表面抵抗測定方法により測定した表面電位との関係図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(表面抵抗測定方法の実施形態)
本発明の表面抵抗測定方法は一つの被測定物の表面の一部の領域を所定の電位に帯電させて帯電領域とし、前記被測定物の表面の一部であって前記帯電領域とは別の領域(帯電領域から離れた領域)を局所的に除電して除電領域とし、両領域間に、帯電領域から除電領域に向かう電荷の移動経路を形成し、その移動経路を移動する電荷の移動速度又は電荷の移動によって生ずる電位を検出する方法である。
【0013】
表面抵抗測定方法では、帯電装置で帯電領域を形成し、除電装置で除電領域を形成して、両領域間に移動経路を形成する。この移動経路を移動する電荷の移動速度又は電荷の移動によって生ずる電位を電荷検出装置で測定する。この場合、前記帯電装置、除電装置、電荷検出装置の全てを被測定物から離して非接触で配置する。前記帯電装置の帯電用電極としてコロナ帯電電極を使用し、その電極に正極性の電圧を印加して、コロナ帯電電極からのコロナ放電を利用して、被測定物の表面に正極性イオンを供給して、当該表面の一部に帯電領域を形成する。前記除電装置の除電用電極にもコロナ帯電電極を使用し、その電極に負極性(帯電用と逆極性)の電圧を印加し、コロナ帯電電極からのコロナ放電を利用して前記被測定物の表面の他の一部に除電領域を形成する。このとき電荷が移動経路を移動することによって生ずる電位(被測定物の表面電位)を表面電位計で測定する。測定は任意のサンプリング周期で行い、その平均値を表面電位とすることができる。帯電用のロナ帯電電極に印加する電圧と除電用のコロナ帯電電極に印加する電圧は逆極性であればよい。
【0014】
前記被測定物は静止状態であっても移動中であってもよい。静止状態、移動中のいずれの場合も、被測定物の表面と電荷検出装置との距離(間隔)は一定に保持するのが望ましいが、間隔変動が生じた場合は、その変動を距離センサで検出し、検出された変動に起因する測定値誤差をキャンセルする(補正する)こともできる。
【0015】
本発明の表面抵抗測定方法は、以下に説明する本発明の表面抵抗測定装置を使用して測定することもできるが、他の装置を使用して測定することもできる。本発明の表面抵抗測定装置を使用する場合は、以下の実施形態で説明する実験準備、実験方法で測定することができる。
【0016】
(表面抵抗測定装置の実施形態)
本発明の表面抵抗測定装置の一例を
図1に示す。
図1の表面抵抗測定装置1は、帯電装置11、電荷検出装置12、除電装置13の順に一直線上に並べてあり、被測定物2との間に一定の距離を隔てて非接触としてある。帯電装置11は被測定物2の一部の箇所(領域)が一定電圧となるように帯電領域21を形成する装置である。除電装置13は被測定物2のうち帯電領域とは別の領域を局所的に除電して除電領域23を形成する装置である。電荷検出装置12は帯電領域21と除電領域23とを結ぶ中間領域22に流れ込む電荷の移動もしくはそれによって生じる電位を測定する装置である。電荷検出装置12は市販のものでは表面電位計に代表されるため、この実施形態では、表面電位計を例に説明する。
【0017】
[帯電装置]
帯電装置11は正極性または負極性のイオンを帯びた電荷を被測定物2の表面の一部に供給して被測定物2の表面の一部に帯電領域21を生成し、帯電領域21を一定の電位に保つように電荷を供給するものである。帯電装置11は高電圧が印加された針状の電極(帯電用電極)11a(
図3)から生成されるコロナ放電を利用して被測定物の表面に正極性イオンを供給する構成が一般的であるが、電圧が印加された電極の先端に放射性物質が埋め込まれた構成であってもよい。電圧が印加された電極から帯電領域21を一定電位に保つように電荷が供給される構成であれば、どのようなものでもよい。
【0018】
[除電装置]
除電装置13は被測定物(前記帯電領域を形成する被測定物)2の表面であって帯電領域21とは重ならない一部の箇所に除電領域23を形成するものであり、帯電領域21に与えられる電荷とは逆極性の電荷を被測定物2の表面の一部に与えて除電領域23の電位がゼロ(ほぼゼロを含む。)になるようにするものである。帯電装置21と同様、コロナ放電を利用するものが一般的であり、例えば、針状の電極(除電用電極)13a(
図3)と接地電極(グリッド電極)13b(
図3)からなるものである。本発明における除電装置には可能であれば他の方式、例えば、放射線を用いてもよい。
【0019】
[表面電位計]
表面電位計12は帯電領域21と除電領域23の中間領域22における電位(電荷)を測定するものである。測定される電位は以下の理由で被測定物2の表面抵抗に依存する値となる。したがって、予め、表面抵抗が既知である被測定物2の表面電位を測定しておき、この測定とは別に、測定対象となる被測定物2の表面電位を測定し、測定した電位を前記既知の表面抵抗に基づいて換算することが可能となる。
【0020】
[測定原理]
図1の表面抵抗測定装置1と被測定物2との間に形成される等価回路を
図2に示す。
図2において、V
+は帯電装置11(
図1)の電荷供給源となる帯電用電極11a(
図3)に印加されている電圧であり、R
cはその帯電用電極11aと被測定物2の帯電領域21(
図1)との間の空間の等価抵抗である。R
1は帯電領域21(
図1)から中間領域22(
図1)の測定点までの等価抵抗であり、R
2はその測定点から除電領域23(
図1)までの等価抵抗である。R
bは被測定物2の除電領域23と接地電極13bとの間の空間の等価抵抗である。等価回路はこれら等価抵抗がすべて直列接続であるため、表面電位計12(
図1)で測定される中間領域における表面電位v(
図2)は次式で与えられる。
【0022】
表面電位v(
図2)はR
cやR
bを調節することによって、被測定物2の表面抵抗R
1やR
2に依存した値となり、表面電位を測定することで表面抵抗に換算することが可能となることを示している。
【0023】
[実験]
上記の測定原理を実証するため、
図3に示すような試作機を製作し、それを
図4のように配置して実験準備をした。帯電装置11として、電圧を変えることのできる直流正極性高圧電源に接続した帯電用電極(先端曲率半径約20μmのもめん針)11aを用いた。帯電用電極11aと帯電領域21とのギャップは5.0mmに設定した。帯電領域21と除電領域23の距離は一例として50mm程度とした。除電電極13として、帯電用電極11aの針と同じ針状の除電用電極13a四本と、目開き2.0mmの接地したグリッド状の接地電極13bを使用した。除電用電極13aと接地電極13bとのギャップは3.0mm、接地電極13bと除電領域23とのギャップは1.0mmとした。電荷検出装置12として表面電位計(SMC社製IZD10−110)を使用した。
【0024】
図4の実験準備完了後に帯電用電極11aに正極性の電圧+3.7kVを印加し、帯電用電極11aから生成されるコロナ放電を利用して、被測定物2の表面に正極性イオンを供給することにより帯電領域21(
図4)を形成した。同時に、除電用電極13aに負極性の電圧−4.3kVを印加し、除電用電極13aから生成されるコロナ放電を利用して、前記被測定物2の表面の他の一部に帯電領域21に与えられる電荷とは逆極性の電荷(負電荷)を与えて、電位がゼロの除電領域23を形成した。このときの表面電位を前記表面電位計で0.1秒のサンプリング周期で測定し、その平均値を出力した。また、表面抵抗が低すぎる場合と高すぎる場合には、帯電・除電の操作を行っても表面電位の変化が見られないため、測定不可としてエラーを表示するように設定した。
【0025】
[被測定物]
被測定物2として、表1に示すサンプル#1〜#7を用いた。表面抵抗率が10
5〜10
12Ωのものを揃えた。
【0027】
[実験結果]
式(1)に実験パラメータから推定できる値を代入して計算した表面電位と、実測した表面電位を
図5に示す。
図5の点線が式(1)の計算結果であり、横軸は表面抵抗率で表現している。四角形のプロットが測定結果である。表1のサンプル#5と#7を計測した際には、表面抵抗が大きすぎるため、装置は測定不可としてエラーを表示した。表1のサンプル中、前記サンプル#5と#7以外のサンプルでは測定範囲内となり、表面抵抗率が小さくなるほど、表面電位は小さくなった。実測された表面電位の値は、計算結果とほぼ一致した。したがって、本発明の表面抵抗測定方法により、10
6〜10
10Ωの抵抗率の測定が可能であることが明らかになった。また、帯電領域21、中間領域22、除電領域23を合わせた面積よりも大きな被測定物を対象とすれば、その大きさによらず測定結果は同じになることも確認された。
【0028】
図5に示した計算結果では、実験を行ったパラメータでの等価抵抗R
cとR
bを代入して計算している。R
cとR
bは、印加電圧や電極パラメータを変更することによって調整することが可能である。そこで、R
cとR
bを調節した場合、測定可能な領域がどのように変化するのかを式(1)を用いて調べ、
図6に示した。R
cとR
bを小さく設定するほど、測定可能な範囲(表面電位の変化が大きい表面抵抗の範囲)が低抵抗側にシフトしていることが分かる。したがって、所定のR
cやR
bで一旦表面電位を測定した後、その測定結果をフィードバックしてR
cやR
bを調整し、再度測定を行えば、測定感度を高くすることができ、より正確に表面抵抗率を測定することが可能となる。R
cやR
bの調整は、コロナ放電電極の本数や電極間距離あるいは印加電圧等で調整できる。放射性物質を使う場合は、それらに加えて放射線量でも調整できる。等価的な抵抗を調整できる方法であれば、どのような方法でも良い。
【0029】
前記実験は被測定物2が静止状態の場合であるが、本発明の表面抵抗測定方法における被測定物2は移動中のものであってもよい。静止状態、移動中のいずれの場合も、被測定物2の表面と電荷検出装置12との距離(間隔)は一定に保持するのが望ましいが、変動する場合は、その距離変動を距離センサで検出し、検出された変動に起因する測定誤差を補正回路でキャンセルする(補正する)こともできる。補正回路は前記補正ができればどのような補正回路であってもよい。被測定物2が移動する場合は、その移動速度は帯電領域に所定の電荷が帯電されるまでの時間、例えば、30cm/sec内であればよい。帯電領域から除電領域に移動する電荷の移動速度の測定には、例えば、本件発明者が先に開発した特許発明(特許文献1)の電荷移動速度測定装置及び電荷移動速度測定方法で測定することができる。
【0030】
前記実験の表面抵抗測定装置は、帯電装置と除電装置が別々であるが、本発明の表面抵抗測定装置は、帯電装置と除電装置を同時に動作させることも、別々に動作するように切り替え操作できる切り替え式であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0031】
前記した表面抵抗測定方法、表面抵抗測定装置の実施形態はあくまでも一例である。本発明の測定方法も測定装置も、前記課題を解決可能な範囲で変更可能である。
【符号の説明】
【0032】
1 (非接触型)表面抵抗測定装置
2 被測定物
11 帯電装置
11a 帯電用電極
12 電荷検出装置(表面電位計)
13 除電装置
13a 除電用電極
13b 接地電極(グリッド電極)
21 (被測定物における)帯電領域
22 (被測定物における)中間領域
23 (被測定物における)除電領域
【要約】
【課題】 電荷検出装置(表面電位計)の応答速度によらず、より低抵抗側の表面抵抗の測定を可能とする。被測定物の大きさによって抵抗測値が変わることがないようにする。
【解決手段】 表面抵抗測定方法は、被測定物の一部の領域に帯電領域を形成し、当該被測定物の一部であって前記帯電領域とは別の領域に局所的に除電領域を形成し、前記帯電領域から前記除電領域に流れる電荷の移動若しくはそれによって生じる電位を、被測定物と非接触の電荷検出装置により検出する方法である。表面抵抗測定装置は、被測定物の一部の領域に帯電領域を形成する帯電装置と当該被測定物の一部であって前記帯電領域とは別の領域に局所的に除電領域を形成する除電装置と被測定物の表面電位を検出可能な電荷検出装置を備え、これら装置は被測定物と非接触で配置され、電荷検出装置は帯電領域から除電領域に流れ込む電荷の移動あるいはそれによって生じる電位を検出可能な装置である。
【選択図】
図1