(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6564522
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】レイリー測定システムおよびレイリー測定方法
(51)【国際特許分類】
G01D 5/353 20060101AFI20190808BHJP
G01B 11/16 20060101ALI20190808BHJP
G01K 11/32 20060101ALI20190808BHJP
【FI】
G01D5/353 B
G01B11/16 G
G01K11/32 A
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-503957(P2018-503957)
(86)(22)【出願日】2016年3月11日
(86)【国際出願番号】JP2016057716
(87)【国際公開番号】WO2017154190
(87)【国際公開日】20170914
【審査請求日】2018年6月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】303021609
【氏名又は名称】ニューブレクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100073759
【弁理士】
【氏名又は名称】大岩 増雄
(74)【代理人】
【識別番号】100127672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 憲治
(72)【発明者】
【氏名】岸田 欣増
(72)【発明者】
【氏名】山内 良昭
【審査官】
櫻井 仁
(56)【参考文献】
【文献】
特表2001−507446(JP,A)
【文献】
特開2004−69685(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/61718(WO,A1)
【文献】
特許第4441624(JP,B2)
【文献】
特開2011−17652(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 5/353
G01B 11/16
G01K 11/32
G01L 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバに光パルスを入射して、発生するレイリー後方散乱光を基に、前記光ファイバの物理量の分布を求めるレイリー測定システムであって、
前記光ファイバの前記レイリー後方散乱光から校正の基準となる初期データを測定する初期データ測定部と、
前記光ファイバの前記レイリー後方散乱光から被校正の対象となる対象データを測定する対象データ測定部と、
前記初期データ測定部で測定した初期データを解析して前記レイリー後方散乱光の周波数特性をスペクトルとして求める初期レイリー散乱スペクトル解析部と、
前記対象データ測定部で測定した対象データを解析して前記レイリー後方散乱光の周波数特性をスペクトルとして求める対象レイリー散乱スペクトル解析部と、
前記初期レイリー散乱スペクトル解析部で求めたスペクトルと、前記対象レイリー散乱スペクトル解析部で求めたスペクトルとを比較することにより、前記対象レイリー散乱スペクトル解析部で求めたスペクトルの、測定対象位置での距離誤差を補正する比較方式距離補正部と、
前記初期レイリー散乱スペクトル解析部で求めたスペクトルのデータと、前記比較方式距離補正部で距離誤差を補正された対象レイリー散乱スペクトルのデータとの相関解析を行う相関解析部と、
この相関解析部で得たデータを基に、レイリースペクトルシフトを求めるレイリースペクトルシフト演算部と、を備え、
前記光ファイバの測定対象位置でのレイリースペクトルシフト量を求めることを特徴とするレイリー測定システム。
【請求項2】
前記比較方式距離補正部は、
予め設定された初期位置での、初期データ及び対象データのレイリー散乱スペクトルを抽出するスペクトル抽出部と、
前記初期データのレイリー散乱スペクトルと前記対象データのレイリー散乱スペクトルを解析し、前記初期位置での最大相互相関係数と周波数シフト量を求める第1の距離補正解析部と、
前記初期位置に従って、所定の上限値と下限値を予め定めるとともに、前記上限値と下限値の間で前記初期位置を変更する位置変更部と、
前記対象データを切り出す位置を前記位置変更部で定めた位置とし、この位置を前記上限値と下限値の間で変更させつつ、当該対象データを切り出す位置での初期データのレイリー散乱スペクトルと対象データのレイリー散乱スペクトルを解析し、当該対象データを切り出す位置での最大相互相関係数と周波数シフト量を求めるとともに、
前記対象データを切り出す位置を変化させたときに、前記対象データを切り出す位置での最大相互相関係数が最大となる位置を求める第2の距離補正解析部と、
前記第2の距離補正解析部で求めた最大相互相関係数が最大となる位置と前記初期位置との差から、前記初期位置における位置補正量を決定する位置補正演算部と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載のレイリー測定システム。
【請求項3】
前記第1の距離補正解析部は、
前記初期位置での初期データのレイリー散乱スペクトルと対象データのレイリー散乱スペクトルの相互相関係数を解析する第1の相互相関解析部、および前記第1の相互相関解析部の解析結果を記憶する第1の解析結果記憶部、を備え、
前記第2の距離補正解析部は、
前記対象データを切り出す位置での初期データのレイリー散乱スペクトルと対象データのレイリー散乱スペクトルの相互相関係数を解析するとともに、前記対象データを切り出す位置を変更したときの最大相互相関係数を解析する第2の相互相関解析部、および前記第2の相互相関解析部の解析結果を記憶する第2の解析結果記憶部、を備えていることを特徴とする請求項2に記載のレイリー測定システム。
【請求項4】
光ファイバに光パルスを入射して、発生するレイリー後方散乱光を基に、前記光ファイバの物理量の分布を求めるレイリー測定方法であって、
前記光ファイバの前記レイリー後方散乱光の、校正の基準となる初期値である初期データを解析して得た初期レイリー散乱スペクトルのデータと、前記光ファイバの前記レイリー後方散乱光の、被校正の対象となる対象データを解析して得た対象レイリー散乱スペクトルのデータを基に、これら2種類のデータを比較することにより、前記対象レイリー散乱スペクトルのデータを距離補正し、この距離補正で得たデータと初期レイリー散乱スペクトルのデータの2つのデータの相関解析を行うことにより、前記光ファイバの測定対象位置でのレイリースペクトルシフト量を求めることを特徴とするレイリー測定方法。
【請求項5】
レイリー散乱スペクトルを、距離軸と周波数軸とで構成される面上での信号レベルとして解析し、
前記距離軸上に前記距離補正を行う特定位置を設定するとともに、当該距離補正を行う位置範囲を、前記特定位置によって定めた、距離軸上の2つの異なる位置の範囲として設定し、
前記初期データおよび前記対象データのレイリー散乱スペクトルを基に、前記特定位置でのそれぞれのレイリー散乱スペクトルを切り出し、
前記特定位置での初期データのレイリー散乱スペクトルは固定したままで、
対象データのレイリー散乱スペクトルを前記周波数軸上でシフトさせながら、前記特定位置での初期データのレイリー散乱スペクトルと、前記特定位置での対象データのレイリー散乱スペクトルとの相互相関係数である第1の相互相関係数を解析し、
この解析で求めた前記第1の相互相関係数が最大となる周波数シフト量と、当該最大となる周波数シフト量に対応する相互相関係数を記憶し、
続いて、対象データを切り出す位置を、前記2つの異なる位置の間で変更し、変更した各位置での対象データのレイリー散乱スペクトルと前記特定位置での初期データのレイリー散乱スペクトルとの相互相関係数である第2の相互相関係数を解析して、この解析で求めた第2の相互相関係数が最大となる周波数シフト量と、そのときの相互相関係数を求め、前記変更した各位置で求めた最大の第2の相互相関係数のうち、その値が最大となる位置を求め、
この求めた位置を基に、前記特定位置における位置補正量を定めることを特徴とする請求項4に記載のレイリー測定方法。
【請求項6】
前記特定位置における位置補正量は、前記最大となる第2の相互相関係数が最大となる位置と前記特定位置との差から求めることを特徴とする請求項5に記載のレイリー測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバにレーザ光を入射し、その後方散乱光であるレイリー散乱光により、数百メートル以上の距離における歪、温度などの分布を高精度に測定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光ファイバにレーザ光による光パルスを入射して、その光ファイバの長手方向の各場所で光ファイバに到達した後方散乱光であるレイリー後方散乱光(以下、レイリー散乱光と略記する)を基に、このレイリー散乱光の光ファイバの各場所における受光量の変化により歪、温度などの分布を求める場合において、光周波数を変えながら光パルスを入射し、受光したレイリー散乱光の相関ピーク周波数と、光ファイバの歪変化量・温度変化量・光周波数変化量との関係を用いて、光ファイバの長手方向の歪変化、あるいは温度変化を測定する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、周波数領域で、参照するデータと、測定対象となる対象データを両方測定し、これらの相関を求める相関解析を行うことにより、レイリースペクトルシフトを得るようにしている別の手法がある(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
さらに、レイリー散乱光を利用した計測を高度化するため、レイリー散乱光に加え、ブリルアン散乱光による計測データを併せて用いて、レイリー散乱光による計測データの位置あるいは長さ補正を行うハイブリッド計測手法もある(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4441624号公報
【特許文献2】米国特許7440087号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Kinzo KISHIDA, Yoshiaki YAMAUCHI, and Artur GUZIK, “Study of Optical Fibers Strain-Temperature Sensitivities Using Hybrid Brillouin-Rayleigh System”, Photonic Sensors, DOI: 10.1007/s13320-013-0136-1(2013)
【非特許文献2】“LUNA OPTICAL DISTRIBUTED SENSOR INTERROGATOR(Models ODiSI A10 and A50)”、[online]、[平成28年1月6日検索]、インターネット<URL:http://lunainc.com/wp-content/uploads/2012/11/LT_DS_ODiSI-A_Data-Sheet_Rev-07.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、レイリー散乱光の周波数領域で参照する初期データと、測定対象である対象データの相関を求める場合において、測定に使用される光ファイバの長さが数百メートル以上の長距離となる場合には、光ファイバの変形、あるいは温度の影響で、距離ずれの問題が発生することが判明した。すなわち、被測定物を計測する際、変形の前後で計測される位置がずれてしまうが、被測定物の歪変化、あるいは温度変化が大きい場合においては、レイリー散乱光を計測する光ファイバのファイバ長が長いと、上述の計測位置のずれの影響を無視できなくなる。 このため、レイリー散乱光の周波数領域での上述の初期データと対象データの相関を求める方法を採用している現状の計測装置においては、測定可能な距離は最大50mである(例えば、非特許文献2参照)。しかし、実際には、石油井などの温度分布を計測するような場合においては、測定対象となる距離(長さ)が数百メートル以上の長距離となる場合が大部分であり、特許文献1、あるいは特許文献2に記載されている方法は事実上、使用できない。
そこで、このような長距離を測定対象とする場合には、上述の計測位置のずれを何らかの手段で補正する必要がある。
【0008】
そこで、この計測位置のずれを補正する1つの方法として、レイリー散乱光に加えて、ブリルアン散乱光を併せて用いるハイブリッド計測手法が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。このハイブリッド計測手法を用いた場合には、測定対象の距離が数百メートル以上でも、対象データに含まれる位置誤差をブリルアン散乱光の計測で得たデータで補正することにより、実際上、測定距離の制約がないようにできる。しかし、レイリー散乱光だけでなく、ブリルアン散乱光も併せて用いる必要がある。このように、現状では、測定対象の距離が数百メートル以上の場合には、レイリー散乱光だけを用いて計測データの高精度化を図ることは困難である。
また、ハイブリッド計測手法を用いた場合においては、実際上、測定距離の制約がないようにはできたが、位置補正における課題、すなわち位置補正を求める場合に使用する相関測定における課題があることが、最近、本発明の提案者によって明らかにされた。
【0009】
そこで、まず、現行のハイブリッド計測手法(レイリー散乱光に加えブリルアン散乱光も併せて用いる計測手法)を用いた場合の相関測定における課題、すなわち、周波数領域で参照される初期データと測定対象となる対象データを求め、これらの相関を利用して位置補正をする計測手法において明らかになった課題について、以下、図を用いて説明する。
【0010】
図1に示すように、この計測手法においては、まず、初期データ測定部11で初期データを、また、対象データ測定部12で、この初期データとの相関を求めるための対象データを、測定する。次に、初期レイリー散乱スペクトル解析部13、および対象レイリー散乱スペクトル解析部14で、測定した初期データ及び対象データから、それぞれのレイリー散乱スペクトル(Rayleigh Scattering Spectrum。以下RSSと略記)を解析して求める。次に、別途、ブリルアン計測による距離情報記憶部15に記憶した距離情報(ブリルアン計測から求めた距離情報)を用いて、距離補正部16で、先に求めた対象RSSの距離補正を行う。そして、相関解析部17で、この距離補正を行った対象RSSと初期RSSとの相関を求め、レイリースペクトルシフト演算部
18で、この相関解析部17での相関結果を反映させて、レイリースペクトルシフトを求めている。
【0011】
この手法においては、ブリルアン計測から得られた距離情報では、正しく位置補正が行えない場合があることが判明した。
図2に示した計測例では、広域で位置合わせをした場合の補正量は、相関の計算に使用する領域の大きさ(
図2中に凡例として示したスケールである50m、100m、200mに相当する。以下、この大きさを相関領域長さと呼ぶ)により結果が異なったり、位置すなわち距離により補正量が変動したり、また、補正量が単調に変化しないなどの課題があり、レイリー計測データの位置補正に利用することができない。
【0012】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたもので、測定対象の距離が数百メートル以上の長距離である場合でも、相関領域長さなどの影響を受けることなく、レイリー散乱光だけを用いて、被測定物の歪分布や温度分布などを高精度に測定できるシステム、あるいは方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明に係るレイリー測定システムは、
光ファイバに光パルスを入射して、発生するレイリー後方散乱光を基に、前記光ファイバの物理量の分布を求めるレイリー測定システムであって、
前記光ファイバの前記レイリー後方散乱光から校正の基準となる初期データを測定する初期データ測定部と、
前記光ファイバの前記レイリー後方散乱光から被校正の対象となる対象データを測定する対象データ測定部と、
前記初期データ測定部で測定した初期データを解析して前記レイリー後方散乱光の周波数特性をスペクトルとして求める初期レイリー散乱スペクトル解析部と、
前記対象データ測定部で測定した対象データを解析して前記レイリー後方散乱光の周波数特性をスペクトルとして求める対象レイリー散乱スペクトル解析部と、
前記初期レイリー散乱スペクトル解析部で求めたスペクトルと、前記対象レイリー散乱スペクトル解析部で求めたスペクトルとを比較することにより、前記対象レイリー散乱スペクトル解析部で求めたスペクトルの、測定対象位置での距離誤差を補正する比較方式距離補正部と、
前記初期レイリー散乱スペクトル解析部で求めたスペクトルのデータと、前記比較方式距離補正部で距離誤差を補正された対象レイリー散乱スペクトルのデータとの相関解析を行う相関解析部と、
この相関解析部で得たデータを基に、レイリースペクトルシフトを求めるレイリースペクトルシフト演算部と、を備え、
前記光ファイバの測定対象位置でのレイリースペクトルシフト量を求めることを特徴とするものである。
【0014】
この発明に係るレイリー測定方法は、
光ファイバに光パルスを入射して、発生するレイリー後方散乱光を基に、前記光ファイバの物理量の分布を求めるレイリー測定方法であって、
前記光ファイバの前記レイリー後方散乱光の、校正の基準となる初期データを解析して得た初期レイリー散乱スペクトルのデータと、前記光ファイバの前記レイリー後方散乱光の、被校正の対象となる対象データを解析して得た対象レイリー散乱スペクトルのデータを基に、これら2種類のデータを比較することにより、前記対象レイリー散乱スペクトルのデータを距離補正し、この距離補正で得たデータと初期レイリー散乱スペクトルのデータの2つのデータの相関解析を行うことにより、前記光ファイバの測定対象位置でのレイリースペクトルシフト量を求めることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、測定対象の距離が数百メートル以上の長距離である場合でも、レイリー散乱光だけを用いて、被測定物の歪分布や温度分布などを高精度に測定可能であるという顕著な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】レイリー散乱光を用いて対象データの位置補正をする場合に用いられる、現行の距離(位置)補正方法を示すブロック図である。
【
図2】レイリー散乱光を用いて対象データの位置補正をする場合に用いられる現行の距離(位置)補正方法の課題を説明するための図である。
【
図3】本発明の実施の形態1に係るレイリー測定システムの一例を示す図である。
【
図4】本発明の実施の形態1に係るレイリー測定システムにより計測した、信号レベルと空間及び周波数との関係を示す実測例を示す図である。
【
図5】本発明の実施の形態1に係るレイリー測定システムにおける、距離補正のための位置合わせの方法を説明するための一部詳細図である。
【
図6】本発明の実施の形態1に係るレイリー測定システムにおける、距離補正のための位置合わせの方法を説明するための一部詳細図である。
【
図7】本発明の実施の形態1に係るレイリー測定システムにおける、距離補正のための位置合わせの方法を説明するための一部詳細図である。
【
図8】本発明の実施の形態1に係るレイリー測定システムにおける、距離補正のための位置合わせの方法を説明するための一部詳細図である。
【
図9】本発明の実施の形態1に係るレイリー測定システムにおける、距離補正のための位置合わせの方法を説明するための一部詳細図である。
【
図10】
図3の比較方式距離補正部の詳細構成を示す図である。
【
図11】本発明の実施の形態1に係るレイリー測定システムを用いて計測した、位置補正前と位置補正後のデータを比較した一例を示す図である。
【
図12】本発明の実施の形態1に係るレイリー測定システムを用いて計測した、位置補正前と位置補正後のデータを比較した別の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
実施の形態1.
本発明の実施の形態1について、以下、図を用いて説明する。
まず、
図2に示したような、位置すなわち距離により補正量が変動する問題を解決することが必要である。このための方法について図を用いて、以下説明する。
【0018】
図1に示したシステムでは、対象RSSの距離補正のため、ブリルアン計測から求めた距離情報を必要としたが、本実施の形態1によるシステム(
図3参照)では、ブリルアン計測を用いることなく、レイリー散乱によって得たデータのみを用いて、対象RSSの距離補正を行い、この距離補正後の対象RSSと初期RSSとを用いて、レイリースペクトルシフトを求める。
すなわち、
図3において、校正の基準となる初期データを初期データ測定部1で測定し、この初期データと比較するための、被校正の対象となるデータである対象データを対象データ測定部2で測定する。次に、初期データ測定部1で得た初期データを初期RSS解析部3で周波数解析して初期RSSデータを得るとともに、対象データ測定部2で得た対象データを対象RSS解析部4で周波数解析して対象RSSデータを得る。
次に、先に得た対象RSSデータに含まれている距離誤差を補正するため、比較方式距離補正部9に、初期RSSデータと、先に得た対象RSSデータを入力し、これらを比較するため、相関解析することにより、距離補正量を求め、新たな対象RSSデータを得る。そして、距離補正した対象RSSデータと初期RSSデータとの相関解析を相関解析部7で行い、この情報をもとに、レイリースペクトルシフト演算部8で演算して、測定対象位置でのレイリースペクトルシフト量を求めるシステムである。
すなわち、本実施の形態1によるシステムは、
図1で示したシステムに比較して、距離補正において、ブリルアン計測方式など他方式で得た距離補正のための情報を用いることなく、レイリー計測方式で得た距離補正のための情報だけを用いてレイリースペクトルシフト量を求めるシステムとなっている。目標としては20cm程度の距離で補正ができれば、適切な周波数シフト量を求められることが判明した。以下、この距離補正方法について、図を用いてさらに詳しく説明する。
【0019】
図4は、レイリー散乱により計測した信号レベルと空間(基準点からの距離)及び周波数との関係を3次元で示した実測例である。図中、x軸は、ns(ナノ秒)単位で示した時間を示す軸であり、規定位置からの距離に相当する軸である。具体的には、1nsの時間が10cmの距離に相当する。また、y軸はGHz単位で示した周波数を示す軸である。さらに、z軸は任意スケールで表した信号レベルを示す軸である。なお、信号レベルは相対値で示しているため、マイナスの値をとる場合がある。
また、この図において、x
ll、x
ulは、それぞれ、補正すべき位置x
0に対する補正対象となる下限位置及び上限位置を示す。この場合において補正すべき位置x
0が設定されると、下限位置x
ll、上限位置x
ulは、例えば、それぞれx
0−a、x
0+bに設定される。ここで、a、bは経験的に決まる定数で、具体的には、光ファイバ長が1kmの場合1m程度である。なお、光ファイバの伸縮が事前に判明している場合には、下限位置x
ll、上限位置x
ulは、必ずしも位置x
0を挟む必要はない。
【0020】
次に、距離補正のための位置合わせの方法に関し、説明のために用いた図の内容をまず説明する(
図5〜
図9参照)。
【0021】
図5は、周波軸上での初期データ及び対象データのスペクトルを示した図であり、位置(距離)x
0でのy軸上、すなわち周波軸上での初期データ及び対象データのスペクトル(RSS)を示している。横軸はGHz単位で示した周波数軸、縦軸は任意単位で示した信号レベル軸であり、図中の曲線が測定されたスペクトルを示す。これらの曲線のうち、実線で示した曲線S
ref(x
0、ν)は、初期データのスペクトル、点線で示した曲線S(x
0、ν)は、測定対象となる位置でのデータである対象データのスペクトルを示す。
【0022】
図6は、横軸を周波数シフトの軸(単位GHz)としたときの、初期データのスペクトルと対象データのスペクトルとの相互相関係数を表す図であり、縦軸を
図3の相関解析部7で求めた相互相関係数として、周波数シフトの値と相互相関係数との関係を表している。図中、CC(x
0)は、得られた最大相互相関係数、Δν(x
0)は、相互相関係数が最大となるときの周波数シフトの値を示している。
【0023】
図7は、位置xを変えたときの、初期データと対象データのスペクトルデータを示す図である。初期データのスペクトルを
図5と同じものにして、
図5と同じ座標軸を用いた場合において、対象データを位置x
0とは異なる位置xで切り出した(サンプリングした)ときのスペクトルデータを示している。図中、実線で示した曲線S
ref(x
0、ν)が初期データのスペクトル、点線で示した曲線S(x、ν)が対象データのスペクトルを示す。
【0024】
図8は、位置xを変えたときの、初期データと対象データの相互相関係数と周波数シフトとの関係を示す図である。横軸を周波数シフトの軸(単位GHz)とし、縦軸を
図3の相関解析部7で求めた相互相関係数とした場合に、位置xで対象データを切り出したときの、周波数シフトの値と相互相関係数との関係を表している。図中、CC(x)は、得られた最大の相互相関係数で、Δν(x)は相互相関係数が最大となるときの周波数シフト量を示している。
【0025】
図9は、横軸を位置(距離)とし、縦軸を最大相互相関係数とした場合の、最大相互相関係数と距離との関係を求めた図であり、
図8で求めたCC(x)について、距離xとの関係を表したものである。図中、位置x
maxは、CC(x)の値が最大となる距離(距離)xであり、このx
maxとx
0との差Δxが、位置x
0における位置補正量となる。
【0026】
実際には、
図4における任意の位置(距離)x
0での位置合わせ(位置補正量Δxの導出)は、
図3の比較方式距離補正部9の拡大図である
図10に示す装置を用いて、以下の番号順に行う。以下では、
図10も参照しながら、その詳細について説明する。
【0027】
(1)RSSのx軸である時間軸上、即ち距離軸上に、位置x
0と、下限位置及び上限位置であるx
ll、x
ulを、それぞれ設定する(
図4参照)。
(2)初期データ及び対象データのRSSについて、位置x
0での各々のデータのスペクトルS
ref(x
0、ν)とS(x
0、ν)を切り出し、両者をスペクトル抽出部91で比較する(
図10参照)。
(3)そして、
図5に示すように、初期データのスペクトルS
ref(x
0、ν)は固定したままで、対象データのスペクトルS(x
0、ν)をy軸上、すなわち周波数軸上にシフトさせながら、両者の相互相関係数を第1の距離補正解析部92の第1の相互相関解析部93で計算する(
図10参照)。
(4)上記第1の相互相関解析部93で、上記(3)の計算で求めた相互相関係数の値を周波数シフト量に対してプロットする(
図6、
図10参照)。そして、第1の距離補正解析部92の第1の解析結果記憶部94に、この相互相関係数が最大となる周波数シフト量Δν(x
0)と、そのときの相互相関係数の値であるCC(x
0)を記憶する(
図10参照)。
(5)次に、初期データのスペクトルS
ref(x
0、ν)はそのままで、位置変更部95を用いて、対象データを切り出す位置をx(x
ll≦x≦x
ul)に移動させて、対象データのスペクトルS(x、ν)をy軸上、すなわち周波数軸上にシフトさせながら、同様の計算を、第2の距離補正解析部96の第2の相互相関解析部97で行う(
図7、
図10参照)。そして、相互相関係数が最大となる周波数シフト量Δν(x)とそのときの相互相関係数の値CC(x)を上記第2の相互相関解析部97で求める(
図8、
図10参照)。
(6)位置xに対して、CC(x)をプロットし、その値が最大となる位置x
maxを上記第2の相互相関解析部97で求める。そして、第2の距離補正解析部96の第2の解析結果記憶部98に、この相互相関係数が最大となる位置x
maxと、そのときの相互相関係数の値であるCC(x
max)を記憶する(
図10参照)。
(7)次に、上記x
maxと初期データ測定部で入力されたx
0が位置補正量演算部99に入力され、位置補正量演算部99で、これら2つの値の差であるΔx=x
max−x
0が演算されることにより、位置x
0における位置補正量が求められる(
図9、
図10参照)。なお、このとき、Δν(x
max)が、この位置でのレイリー周波数シフト量となる。
【0028】
以上のように、実施の形態1におけるレイリー測定システムでは、初期データのRSSの一部を取り出して(位置x
0での初期RSSデータを求め)、対象データの位置xを移動させつつ、初期データのRSSと対象データのRSSとの相互相関を求め、各距離(各位置に同じ。以下同様)xにおいて、Δxと相関値との関係を得る。そして、この相関値が最大となる場合のΔxを最適値Δx
optとする。その後、各距離での最適値Δx
optにおける周波数シフトΔνを集めるという方法により位置補正を行う。
【0029】
次に、本実施の形態1に示した装置及び方法を用いて求めた計測例について、図を用いて以下説明する。
【0030】
図11は、距離(m単位)を横軸に、レイリー周波数シフト(GHz単位)を縦軸として、油井の現場で計測した位置補正前のデータ(縦軸であるレイリー周波数シフトがおよそ400GHzを振幅中心として、上下に振動している波形で示した上側のデータ)と、位置補正後のデータ(縦軸であるレイリー周波数シフトがおよそ0GHzを振幅中心として、上下に振動している波形で示した下側のデータ)とを、比較して表示したものである。位置補正前のデータにおいて、距離1700mより大きい位置で波形が大きく振動しているのは、距離ずれにより相関解析が正しくできていないからである。
【0031】
この図より、一部にレイリー周波数シフトが変動している点(距離800m〜1100mでの値)が含まれるものの、総じて、上側の位置補正前のデータに比較して、下側の位置補正後のデータでは、多くの点(特に距離が1100mより大きい位置)で、レイリー周波数シフトの値が変動せず、ほぼ一定の値となり、従前の場合に比べて大幅に改善されており、望ましい結果が得られていることが判る。
【0032】
また、本実施の形態1に示した装置及び方法を用いて、別の光ファイバで計測した例について、図を用いて以下説明する。
【0033】
図12は、
図11と同様の横軸、縦軸をとって、
図11で用いた光ファイバとは別の光ファイバを用いて計測した位置補正前のデータ(縦軸であるレイリー周波数シフトがおよそ200GHzを振幅中心として、上下に振動している波形で示した上側のデータ)と、位置補正後のデータ(縦軸であるレイリー周波数シフトがおよそ0GHzを振幅中心として、上下に振動している波形で示した下側のデータ)を比較して表示したものである。位置補正前のデータにおいて、距離が1000mより大きくなるにつれて、距離ずれの影響が著しくなり、相関解析が正しくできていない点が増大している。
【0034】
この図で示す場合、位置補正前のデータに比べて位置補正後のデータにおいては、特に、距離が1000mより大きく1900mより小さい位置でのレイリー周波数シフトの値が変動せずほぼ一定の値となり、従前の場合に比べて大幅に改善されており、望ましい結果が得られていることが判る。
【0035】
以上説明したように、実施の形態1のレイリー測定システムは、従来の位置補正機能を持たないレイリー後方散乱光のみを用いた測定システムに比較して、数百m以上の長距離での測定においても、レイリー周波数シフトの値が変動のない一定値として測定できること、すなわち、被測定物の歪等の物理量が高精度で計測可能であるという特長をもつことがわかる。なお、本発明は、その発明の範囲内において、実施の形態を適宜、変形、省略することが可能である。
【符号の説明】
【0036】
1 初期データ測定部、2 対象データ測定部、3 初期RSS解析部、4 対象RSS解析部、7 相関解析部、8 レイリースペクトルシフト演算部、9 比較方式距離補正部、91 スペクトル抽出部、92 第1の距離補正解析部、93 第1の相互相関解析部、94 第1の解析結果記憶部、95 位置変更部、96 第2の距離補正解析部、97 第2の相互相関解析部、98 第2の解析結果記憶部、99 位置補正量演算部。