(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6564530
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】繊維強化樹脂成形体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/04 20060101AFI20190808BHJP
B32B 3/30 20060101ALI20190808BHJP
B32B 5/28 20060101ALI20190808BHJP
【FI】
C08J5/04CEZ
B32B3/30
B32B5/28 A
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2018-515369(P2018-515369)
(86)(22)【出願日】2016年5月2日
(86)【国際出願番号】JP2016063531
(87)【国際公開番号】WO2017191668
(87)【国際公開日】20171109
【審査請求日】2018年10月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】吉田 武
【審査官】
大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2014/162873(WO,A1)
【文献】
特開2002−264233(JP,A)
【文献】
特開平10−296866(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/034906(WO,A1)
【文献】
特許第2986564(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 11/16;15/08−15/14
C08J 5/04−5/10;5/24
B32B 1/00−43/00
B29C 39/00−39/44
B29C 43/00−43/58
B29C 70/00−70/88
B29C 65/00−65/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不織布および前記不織布に含浸された含浸樹脂を含むコア層と、
繊維および前記繊維を被覆するマトリックス樹脂を含み、前記コア層の両面に結合された一対の表皮層と、備え、
前記表皮層は、前記コア層側の面に形成され、前記繊維の一部が前記マトリックス樹脂から露出する凹部を有し、
前記凹部に、前記不織布および前記含浸樹脂の一部が入り込んでいる
ことを特徴とする繊維強化樹脂成形体。
【請求項2】
前記表皮層の面内方向における前記凹部の位置は、前記一対の表皮層の一方と他方とで前記コア層に対して非対称である
ことを特徴とする請求項1に記載の繊維強化樹脂成形体。
【請求項3】
不織布および前記不織布に含浸された含浸樹脂を含むコア層と、繊維および前記繊維を被覆するマトリックス樹脂を含み、前記コア層の両面に結合された一対の表皮層と、備える繊維強化樹脂成形体を製造する方法であって、
前記表皮層の前記コア層側の面に、前記繊維の一部が前記マトリックス樹脂から露出する凹部を形成する工程と、
前記一対の表皮層の間に前記不織布を配置するとともに、前記不織布および前記含浸樹脂の一部を前記凹部に入り込ませ、その状態で前記表皮層と前記コア層とを結合する工程と、を備える
ことを特徴とする繊維強化樹脂成形体の製造方法。
【請求項4】
前記凹部をロストワックス製法により形成する
ことを特徴とする請求項3に記載の繊維強化樹脂成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化樹脂成形体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、複合材料の一種であるFRP(Fiber Reinforced Plastics)を含んで構成される繊維強化樹脂成形体が公知である(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1には、表皮層を形成する2層の炭素繊維層の間に不織布からなるコア層が挟持されて積層体をなし、この積層体に含浸用樹脂を含浸して硬化した炭素繊維複合材料成形体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4615398号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述の炭素繊維複合材料成形体では、表皮層とコア層とは樹脂によって結合されるだけであるので、表皮層とコア層との結合力が小さく、荷重が炭素繊維複合材料成形体に入力された際に、表皮層とコア層とが層間で剥離する可能性がある。
【0006】
そこで、本発明は、表皮層とコア層との結合力を高めることにより、表皮層とコア層とが剥離することを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様は、不織布および不織布に含浸された含浸樹脂を含むコア層と、繊維および繊維を被覆するマトリックス樹脂を含む一対の表皮層と、備える繊維強化樹脂成形体である。表皮層は、コア層側の面に形成され、繊維の一部がマトリックス樹脂から露出する凹部を有し、凹部に、不織布および含浸樹脂の一部が入り込んでいる。
【0008】
本発明の第2の態様は、繊維強化樹脂成形体の製造方法である。この製造方法は、表皮層のコア層側の面に、繊維の一部がマトリックス樹脂から露出する凹部を形成する工程と、一対の表皮層の間に不織布を配置するとともに、不織布および含浸樹脂の一部を凹部に入り込ませ、その状態で表皮層とコア層とを結合する工程と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、表皮層とコア層との結合力を高めることにより、表皮層とコア層とが剥離することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る繊維強化樹脂成形体の分解斜視図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態に係る繊維強化樹脂成形体の断面図である。
【
図3A】
図3Aは、本発明の実施形態に係る繊維強化樹脂成形体の製造方法の説明図である。
【
図3B】
図3Bは、本発明の実施形態に係る繊維強化樹脂成形体の製造方法の説明図である。
【
図3C】
図3Cは、本発明の実施形態に係る繊維強化樹脂成形体の製造方法の説明図である。
【
図3D】
図3Dは、本発明の実施形態に係る繊維強化樹脂成形体の製造方法の説明図である。
【
図3E】
図3Eは、本発明の実施形態に係る繊維強化樹脂成形体の製造方法の説明図である。
【
図4A】
図4Aは、本発明の他の実施形態に係る繊維強化樹脂成形体の製造方法の説明図である。
【
図4B】
図4Bは、本発明の他の実施形態に係る繊維強化樹脂成形体の製造方法の説明図である。
【
図4C】
図4Cは、本発明の他の実施形態に係る繊維強化樹脂成形体の製造方法の説明図である。
【
図4D】
図4Dは、本発明の他の実施形態に係る繊維強化樹脂成形体の製造方法の説明図である。
【
図4E】
図4Eは、本発明の他の実施形態に係る繊維強化樹脂成形体の製造方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面とともに詳述する。
【0012】
本発明の実施形態に係る繊維強化樹脂成形体10を、
図1から
図3に基づいて説明する。
【0013】
繊維強化樹脂成形体10は、例えば、フード(ボンネット)、ドアパネル、バンパー、トランクリッド、リアゲート、フェンダパネル、サイドボディパネル、ルーフパネルなどの車両用構成部材に適用することができる。また、繊維強化樹脂成形体10は、車両用構成部材に限定されず、各種構成部材に適用することが可能である。
【0014】
図1および
図2に示すように、繊維強化樹脂成形体10は、コア層11と、コア層11の両面に結合された一対の表皮層12,12と、備える。
【0015】
コア層11は、不織布13と、不織布13に含浸された含浸樹脂14とを含んで構成される不織布層である。コア層11の厚さは、例えば、0.2mm〜10.0mm程度の厚さとされる。不織布13は、例えば、綿、レーヨン、ナイロン、ポリエステル、ポリプロピレン、アラミド繊維など、公知の繊維により形成される。含浸樹脂14は、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂により形成される。また、含浸樹脂14は、例えば、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂、ポリウレタン樹脂などの熱可塑性樹脂により形成されてもよい。
【0016】
表皮層12は、繊維15と、繊維15を被覆するマトリックス樹脂16とを含んで構成される繊維層である。すなわち、表皮層12は、いわゆるFRP(繊維強化樹脂)と称されるものである。表皮層12の厚さは、例えば、0.4mm〜5.0mm程度の厚さとされる。繊維15は、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維(ケブラー繊維)など、種々の繊維により形成される。マトリックス樹脂16は、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂により形成される。また、マトリックス樹脂16は、例えば、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂、ポリウレタン樹脂などの熱可塑性樹脂により形成されてもよい。
【0017】
コア層11の含浸樹脂14と表皮層12のマトリックス樹脂16とは、同じ種類のものであってもよく、異なる種類のものであってもよい。コア層11と表皮層12との結合力を高めるという観点からは、コア層11の含浸樹脂14と表皮層12のマトリックス樹脂16とは親和性の高い樹脂であることが好ましい。
【0018】
表皮層12は、コア層11側の面17に形成され、繊維15の一部がマトリックス樹脂16から露出する複数の凹部18を有する。そして、各凹部18に不織布13および含浸樹脂14の一部が入り込んでいる状態で、表皮層12のマトリックス樹脂16とコア層11の含浸樹脂14とが結合(接着)されている。このため、繊維強化樹脂成形体10は、コア層11と表皮層12との結合部19に形成され、不織布13と繊維15とが混在する複数の混在領域20を備えている。
【0019】
凹部18および混在領域20は、
図1から分かるように、表皮層12の面内の縦方向および横方向に間隔をおいて配設されている。凹部18および混在領域20は、図示例では等間隔で配設されているが、これに限定はされず、等間隔で配設されていなくてもよい。
【0020】
また、表皮層12の面内方向(面と平行な方向)における凹部18および混在領域20の位置は、
図2から分かるように、一対の表皮層12,12の一方と他方とでコア層11に対して非対称である。すなわち、凹部18および混在領域20は、一対の表皮層12,12の一方と他方とで異なる箇所に配設されている。しかしながら、これに限定はされず、表皮層12の面内方向における凹部18および混在領域20の位置は、一対の表皮層12,12の一方と他方とでコア層11に対して対称であってもよい。
【0021】
次に、本実施形態に係る繊維強化樹脂成形体10の製造方法を説明する。
【0022】
1.ワックスの塗布
まず、
図3Aに示すように、繊維15のシートまたは束にワックス21を点在するように塗布し、塗布したワックス21を硬化させて固める。
【0023】
ワックス21としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などの熱可塑性樹脂を使用することが可能である。ポリエチレンおよびポリプロピレンは比較的融点が低いので、これらポリエチレンおよびポリプロピレンをワックス21として使用する場合、マトリックス樹脂16の注入温度はポリエチレンおよびポリプロピレンの融点以下にする必要がある。
【0024】
2.マトリックス樹脂の型内への注入
次に、
図3Bに示すように、繊維15を型内に配置し、当該型内にマトリックス樹脂16を注入して、繊維15にマトリックス樹脂16を含浸させる。そして、含浸させたマトリックス樹脂16を硬化させて固めて、表皮層12を作製する。
【0025】
3.ワックスの除去
次に、
図3Cに示すように、ワックス21を温水または溶剤によって溶かすことにより、表皮層12に凹部18を形成する。
【0026】
すなわち、本実施形態では、凹部18を表皮層12に形成する方法には、ロストワックス製法を用いている。
【0027】
4.積層
次に、
図3Dに示すように、一対の表皮層12,12の間に不織布13を積層して、積層体22を作製する。
【0028】
5.含浸樹脂の型内への注入
次に、
図3Eに示すように、積層体22を型内に配置し、当該型内に含浸樹脂14を注入して、不織布13に含浸樹脂14を含浸させる。この含浸樹脂14を型内に注入する工程において、各凹部18に不織布13および含浸樹脂14の一部を入り込ませ、ワックス21の除去により露出した繊維15に不織布13を絡ませる。そして、含浸樹脂14を硬化させて固めて、繊維強化樹脂成形体10を作製する。
【0029】
すなわち、本実施形態では、積層体22を成形する方法には、RTM成形法(Resin Transfer Molding)を用いている。
【0030】
以下に、本実施形態による作用効果を説明する。
【0031】
(1)本実施形態に係る繊維強化樹脂成形体10は、不織布13および不織布13に含浸された含浸樹脂14を含むコア層11と、繊維15および繊維15を被覆するマトリックス樹脂16を含み、コア層11の両面に結合された一対の表皮層12,12と、備える。表皮層12は、コア層11側の面17に形成され、繊維15の一部がマトリックス樹脂16から露出する凹部18を有し、凹部18に、不織布13および含浸樹脂14の一部が入り込んでいる。
【0032】
本実施形態に係る繊維強化樹脂成形体10では、各凹部18に不織布13および含浸樹脂14の一部が入り込んでいる状態で、表皮層12のマトリックス樹脂16とコア層11の含浸樹脂14とが結合されている。すなわち、コア層11と表皮層12との結合部19に、不織布13と繊維15とが混在する混在領域20が形成されている。このため、表皮層12とコア層11との結合力を高めることができ、荷重が繊維強化樹脂成形体10に入力されても、表皮層12とコア層11とが層間で剥離する可能性を低減することができる。
【0033】
したがって、本実施形態に係る繊維強化樹脂成形体10によれば、表皮層12とコア層11との結合力を高めることにより、表皮層12とコア層11とが剥離することを抑制することが可能である。
【0034】
(2)表皮層12の面内方向における凹部18の位置は、一対の表皮層12,12の一方と他方とでコア層11に対して非対称である。
【0035】
これにより、不織布13と繊維15とが混在する混在領域20の表皮層12の面内方向における位置を一対の表皮層12,12の一方と他方とでずらすことができ、不織布13の密度の低い箇所がコア層11に生じることを抑制することが可能である。
【0036】
(3)本実施形態に係る繊維強化樹脂成形体10の製造方法は、表皮層12のコア層11側の面17に、繊維15の一部がマトリックス樹脂16から露出する凹部18を形成する工程(第1工程)と、一対の表皮層12,12の間に不織布13を配置するとともに、不織布13および含浸樹脂14の一部を凹部18に入り込ませ、その状態で表皮層12とコア層11とを結合する工程(第2工程)と、を備える。
【0037】
これにより、各凹部18に不織布13および含浸樹脂14の一部が入り込んでいる状態で、表皮層12のマトリックス樹脂16とコア層11の含浸樹脂14とが結合される。すなわち、コア層11と表皮層12との結合部19に、不織布13と繊維15とが混在する混在領域20が形成される。このため、表皮層12とコア層11との結合力を高めることができ、荷重が繊維強化樹脂成形体10に入力されても、表皮層12とコア層11とが層間で剥離する可能性を低減することができる。
【0038】
したがって、本実施形態に係る繊維強化樹脂成形体10の製造方法によれば、表皮層12とコア層11との結合力を高めることにより、表皮層12とコア層11とが剥離することを抑制することが可能である。
【0039】
(4)凹部18をロストワックス製法により形成する。
【0040】
これにより、凹部18を表皮層12に精度よく形成することが可能である。
【0041】
[他の実施形態]
次に、他の実施形態に係る繊維強化樹脂成形体10の製造方法を
図4に基づいて説明する。
【0042】
1.ワックスの塗布
まず、
図4Aに示すように、繊維15のシートまたは束にワックス21を点在するように塗布し、塗布したワックス21を硬化させて固める。
【0043】
2.マトリックス樹脂の型内への注入
次に、
図4Bに示すように、繊維15を型内に配置し、当該型内にマトリックス樹脂16を注入して、繊維15にマトリックス樹脂16を含浸させる。そして、含浸させたマトリックス樹脂16を硬化させて固めて、表皮層12を作製する。
【0044】
3.ワックスの除去
次に、
図4Cに示すように、ワックス21を温水または溶剤によって溶かすことにより、表皮層12に凹部18を形成する。
【0045】
4.積層
次に、
図4Dに示すように、一対の表皮層12,12の間に、不織布入り接着剤(含浸樹脂14が予め含浸された不織布13)を積層して、積層体23を作製する。
【0046】
5.繊維強化樹脂成形体の成形
次に、
図4Eに示すように、積層体23を型内に配置し、当該型内で繊維強化樹脂成形体10を成形する。この繊維強化樹脂成形体10を型内で成形する工程において、各凹部18に不織布13および含浸樹脂14の一部を入り込ませ、ワックス21の除去により露出した繊維15に不織布13を絡ませる。そして、含浸樹脂14を硬化させて固めて、繊維強化樹脂成形体10を作製する。
【0047】
この実施形態では、繊維強化樹脂成形体10を成形する方法には、ホットプレス成形法やオートクレーブ成形法を用いることが可能である。
【0048】
このような繊維強化樹脂成形体10の製造方法によっても、表皮層12とコア層11との結合力を高めることにより、表皮層12とコア層11とが剥離することを抑制することが可能である。
【0049】
以上、実施例に沿って本発明の内容を説明したが、本発明はこれらの記載に限定されるものではなく、種々の変形及び改良が可能であることは、当業者には自明である。
【符号の説明】
【0050】
10 繊維強化樹脂成形体
11 コア層
12 表皮層
13 不織布
14 含浸樹脂
15 繊維
16 マトリックス樹脂
17 コア層側の面
18 凹部
19 結合部
20 混在領域