(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6564561
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】時間情報を記憶及び表示するための時計機構
(51)【国際特許分類】
G04F 7/08 20060101AFI20190808BHJP
G04B 19/02 20060101ALI20190808BHJP
【FI】
G04F7/08 Z
G04B19/02 Z
【請求項の数】21
【外国語出願】
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-110156(P2014-110156)
(22)【出願日】2014年5月28日
(65)【公開番号】特開2014-235166(P2014-235166A)
(43)【公開日】2014年12月15日
【審査請求日】2017年5月2日
(31)【優先権主張番号】13170125.2
(32)【優先日】2013年5月31日
(33)【優先権主張国】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】599091346
【氏名又は名称】ロレックス・ソシエテ・アノニム
【氏名又は名称原語表記】ROLEX SA
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】特許業務法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】グラエミジェ, ピエール−アラン
【審査官】
榮永 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】
特開平04−269689(JP,A)
【文献】
特開2005−017292(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 19/00
G04B 19/02
G04F 7/00 − 10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
時間情報を指示し記憶するための機構(3)を含む時計ムーブメント(2)であって、
前記機構は、
記憶された秒及び/又は記憶された秒の小数部分を表示するための部材(S’)と、
時を表示するための部材(H)、及び/又は分を表示するための部材(M)、と、
記憶された時を表示するための部材(H’)、及び/又は記憶された分を表示するための部材(M’)と、
秒及び/又は秒の小数部分を記憶するための第1の記憶機器(MEM1)と、
少なくとも、分及び/又は時間を記憶するための、第2の記憶機器(MEM2)と、
前記第1の記憶機器及び前記第2の記憶機器を動作させるための制御要素(C1、C2)と、
を備え、
前記第1の記憶機器は、時計ムーブメントの歯車列(11、12、13、14、15)の要素(12)又は時計ムーブメントの歯車列の要素に固定された第一の記憶要素と直接噛み合う第1の記憶要素(MC1)が設けられた第1の記憶可動部(M1)を含み、
前記制御要素が、前記第1の記憶機器を動作させるための第1のカム(C1)と、前記第2の記憶機器を動作させるための第2のカム(C2)と、を備える、
時計ムーブメント。
【請求項2】
前記歯車列の要素は、秒車である、請求項1に記載の時計ムーブメント。
【請求項3】
前記第1の記憶要素が、カム(MC10)である、請求項1又は2に記載の時計ムーブメント。
【請求項4】
前記カム(MC10)は、ハート型部品である、請求項3に記載の時計ムーブメント。
【請求項5】
前記第1の記憶機器が、第1の固定化機器(B1)を備える、請求項1から4のいずれか1項に記載の時計ムーブメント。
【請求項6】
前記第1の固定化機器(B1)は、少なくとも第1のクランプ(P1;P10)又は第1のレバーを含む、請求項5に記載の時計ムーブメント。
【請求項7】
前記第2の記憶機器が、日の裏輪列(16)と噛み合う第2の記憶要素(MC2)を備える、請求項1から6のいずれか1項に記載の時計ムーブメント。
【請求項8】
前記第2の記憶要素(MC2)がハート型部品(MC20)を含む、請求項7に記載の時計ムーブメント。
【請求項9】
前記第2の記憶機器が、第2の固定化機器(B2)を備える、請求項1から8のいずれか1項に記載の時計ムーブメント。
【請求項10】
前記第2の固定化機器(B2)は、少なくとも第2のクランプ(P2;P20)又は第2のレバーを含む、請求項9に記載の時計ムーブメント。
【請求項11】
前記第1及び第2の固定化機器(B1、B2)が、
記憶された時及び/又は記憶された分を表示するための前記部材(H’、M’)と、
記憶された秒を表示するための前記部材(S’)との
停止を同期するために構成されている、
又は
時計ムーブメントが、
記憶された時及び/又は記憶された分を表示するための部材(H’、M’)と、
記憶された秒を表示するための部材(S’)との
停止を同期する目的で前記第1及び第2の固定化機器(B1、B2)を同期するために構成されたカム(C1、C2)を含む、
請求項5か6を引用する請求項9、又は、請求項5か6を引用する請求項9を引用する請求項10に記載の時計ムーブメント。
【請求項12】
前記時計ムーブメントが、前記時計ムーブメントのフレーム(B)の面(PB)に平行であると共に前記時計ムーブメントを実質的に等しい体積の第1の部分及び第2の部分に分割する中間面(P3)を有し、前記第1の記憶機器が前記第1の部分内にあり、前記第2の記憶機器が前記第2の部分内にある、請求項1から11のいずれか1項に記載の時計ムーブメント。
【請求項13】
前記第1のカム(C1)が第1のコラム・ホイールである、請求項1から12のいずれか1項に記載の時計ムーブメント。
【請求項14】
前記第2のカム(C2)が第2のコラム・ホイールである、請求項1から13のいずれか1項に記載の時計ムーブメント。
【請求項15】
前記第1のカム又は前記第1のコラム・ホイール及び前記第2のカム又は前記第2のコラム・ホイールが軸(A)によって接続されている、請求項1から14のいずれか1項に記載の時計ムーブメント。
【請求項16】
前記第1のカム又は前記第1のコラム・ホイール及び前記第2のカム又は前記第2のコラム・ホイールが軸(A)によって互いに固定されている、請求項1から14のいずれか1項に記載の時計ムーブメント。
【請求項17】
前記中間面(P3)の両側に前記第1のカム(C1)及び前記第2のカム(C2)が位置付けられている、請求項12を引用する請求項15又は請求項12を引用する請求項16に記載の時計ムーブメント。
【請求項18】
12時間又は24時間の表示を可能とする、請求項1から17のいずれか1項に記載の時計ムーブメント。
【請求項19】
請求項1から18のいずれか1項に記載の時計ムーブメント(2)を備える、計時器(1)。
【請求項20】
請求項1から18のいずれか1項に記載の時計ムーブメント(2)を備える、小型時計。
【請求項21】
請求項1から18のいずれか1項に記載の時計ムーブメント(2)を備える、腕時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時間情報を記憶するための時計機構に関する。また、本発明は、時間情報を記憶するためのかかる機構を備えた時計ムーブメントに関する。更に、本発明は、かかるムーブメント又はかかる機構を備えた計時器、特に小型時計に関する。
【背景技術】
【0002】
時間情報、特に秒数を記憶するための機器は、従来技術から既知である。この例としてスプリットタイム・クロノグラフが知られている。
【0003】
このタイプのクロノグラフにおいては、一般にフライバック針と称される秒針が、クロノグラフの非停止針(sweeping hand)に重なっている。ストップウォッチを開始させるためのクロノグラフ・プッシュボタンが押された場合、フライバック針は非停止針に重なったままである。スプリットタイム・プッシュボタンを1度押すとフライバック針は停止するが、非停止針はその運針(sweep)を継続する。スプリットタイム・プッシュボタンをもう一度押すと、フライバック針は非停止針の位置に戻る。
【0004】
かかる機器は、例えば非特許文献1、又は特許文献1に記載されている。従来のクロノグラフ機構に加えて、特許文献1の機器は、回転可能な制御カム、特にコラム・ホイール、及び1対の固定化クランプから成るフライバック可動部を制御するように設計された制御システムを用いる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】スイス国特許第682201号
【特許文献2】欧州特許第1584997号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】B.Humbertによる「Le chronographe」(第13章)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
多数の構成要素、特にフライバック可動部を基礎ムーブメントの歯車列に選択的に接続可能である複雑なクロノグラフ係合機器を用いることの他に、従来のスプリットタイム・クロノグラフに伴う主な欠点は、1分を超える時間を記憶することができないことである。この弱点を克服するため、特許文献2は、時間間隔を秒及び分で記憶することができるスプリットタイム・クロノグラフを開示する。これにより、スプリットタイム機能の記憶能力はもはや60秒間に限定されず、クロノグラフの分カウンタによって表示される分数まで延長されている。これはこの例では30分である。この機器は分フライバック可動部を用いており、その固有の特徴(features)は、秒フライバック可動部を作動させるために用いられるものと同一のコラム・ホイールによって作動されることである。かかる解決策が適切である理由は、これらの2つのフライバック可動部が計時器のフレームの同一の側に位置付けられていることである。しかしながら、このシステムには2つの欠点がある。第1に、分フライバック可動部がクロノグラフのカウント用の歯車列に運動学的に接続されている限り、記憶機構はクロノグラフ機構に依存する。第2に、機器の記憶能力は、クロノグラフの分カウンタによって表示される分数に限定されたままである。
【0008】
従って、1時間よりも長い時間、それどころか30分よりも長い時間を記憶する能力を有する、1秒内までの時間又はタイミングを記憶するための機構は存在しないと考えられる。
【0009】
本発明の目的は、上述の欠点を克服し、従来技術から既知の時計機構を改良することができる時計機構を提供することである。特に、本発明は、1秒内まで、更には秒の小数部分内までの記憶されたタイミングを表示することができる簡易かつ信頼性の高い時計機構及び時計ムーブメントを提案する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様によれば、時間情報を指示し記憶するための機構は、
時を表示するための部材、及び/又は
分を表示するための部材、及び/又は
秒を表示するための部材、及び
記憶された時を表示するための部材、及び/又は
記憶された分を表示するための部材、及び/又は
記憶された秒を表示するための部材
を備える。
【0011】
この機構は、秒を記憶するための第1の機器と、少なくとも、分及び/又は時を記憶するための、第2の機器と、を含むことができる。
【0012】
第1の記憶機器は、第1の記憶可動部であって、この第1の可動部に専用の歯車列と噛み合うことが意図される第1の記憶要素が設けられた第1の記憶可動部を備えることができ、及び/又は、第2の記憶機器は、第2の記憶可動部であって、この第2の可動部に専用の歯車列と噛み合うことが意図される第2の記憶要素が設けられた第2の記憶可動部を備えることができる。
【0013】
第1の記憶機器は、第1の固定化機器、特に少なくとも第1のクランプ又は第1のレバーを備えることができ、及び/又は、第2の記憶機器は、第2の固定化機器、特に少なくとも第2のクランプ又は第2のレバーを備えることができる。
【0014】
この機構は、第1の記憶機器及び第2の記憶機器を動作させるための制御要素を備えることができる。
【0015】
制御要素は、
第1の部材を動作させるための第1のカム、特に第1のコラム・ホイールと、
第2の部材を動作させるための第2のカム、特に第2のコラム・ホイールと、
を備えることができる。
【0016】
第1のカム又は第1のコラム・ホイール及び第2のカム又は第2のコラム・ホイールは軸によって接続することができ、特に、第1のカム又は第1のコラム・ホイール及び第2のカム又は第2のコラム・ホイールは軸によって共に固定することができる。
【0017】
この機構は、12時間又は24時間の表示を可能とすることができる。
【0018】
記憶された分を表示するための部材及び/又は記憶された時を表示するための部材は、30分を超える、1時間以上の、6時間以上の、12時間以上の、更には24時間の記憶容量を可能とするように構成することができる。このため、機構に対するユーザ操作によって、この容量に含まれるいかなる現在の時間情報も記憶することができる。
【0019】
本発明の第1の態様によれば、時計ムーブメントは、先に規定した機構を備える。第1の記憶機器は、時計ムーブメントの歯車列の要素と噛み合う又は時計ムーブメントの歯車列の要素に固定された第1の記憶要素を備え、及び/又は、第2の記憶機器は、日の裏輪列と噛み合う第2の記憶要素を備える。
【0020】
歯車列の要素は秒車とすることができる。
【0021】
第1の記憶要素はカム、特にハート型部品とすることができ、及び/又は第2の記憶要素はカム、特にハート型部品とすることができる。
【0022】
この機構は、ムーブメントのフレームの面に平行であると共にムーブメントを実質的に等しい体積の第1の部分及び第2の部分に分割する中間面を有することができ、第1の記憶機器は第1の部分内にあり、第2の記憶機器は第2の部分内にあることができる。
【0023】
中間面のどちらかの側にカムを位置付けることができる。
【0024】
本発明の第1の態様によれば、計時器、特に時計、具体的には腕時計が、先に規定したムーブメント又は先に規定した機構を備える。
【0025】
本発明の第1の態様を補足又は代替する本発明の第2の態様によれば、時計ムーブメントは、時間情報を指示し記憶するための機構を備える。この機構は、記憶された秒及び/又は記憶された秒の小数部分を表示するための部材と、秒及び/又は秒の小数部分を記憶するための第1の記憶機器と、を備える。記憶機器は、時計ムーブメントの歯車列の要素と直接に噛み合う第1の記憶要素又は時計ムーブメントの歯車列の要素に固定された第1の記憶要素が設けられた第1の記憶可動部を備える。
【0026】
好ましくは、第1の記憶要素は時計ムーブメントの歯車列の要素と永続的な接続状態にある。
【0027】
第1の歯車列の要素は秒車とすることができる。
【0028】
記憶要素はカム、特にハート型部品とすることができる。
【0029】
第1の記憶機器は、第1の固定化機器、特に少なくとも第1のクランプ又は第1のレバーを備えることができる。
【0030】
この機構は、
時を表示するための部材、及び/又は分を表示するための部材、及び
記憶された時を表示するための部材、及び/又は記憶された分を表示するための部材、及び
分及び/又は時間を記憶するための少なくとも第2の機器、
を備える。
【0031】
第2の記憶機器には、日の裏輪列と噛み合う第2の記憶要素を設けることができる。
【0032】
第2の記憶要素はハート型部品を備えることができる。
【0033】
第2の記憶機器は、第2の固定化機器、特に少なくとも第2のクランプ又は第2のレバーを備えることができる。
【0034】
第1及び第2の固定化機器は、
記憶された時及び/又は記憶された分を表示するための部材(H’、M’)、及び
記憶された秒を表示するための部材(S’)
の停止を同期させるために配置することができる。
【0035】
ムーブメントは、第1及び第2の固定化機器を同期させるために配置されたカムを備えることができ、その目的は、
記憶された時及び/又は記憶された分を表示するための部材、及び
記憶された秒を表示するための部材
の停止を同期させることである。
【0036】
ムーブメントは、ムーブメントのフレームの面に平行であると共にムーブメントを実質的に等しい体積の第1の部分及び第2の部分に分割する中間面を有することができ、第1の記憶機器は第1の部分内にあり、第2の記憶機器は第2の部分内にあることができる。
【0037】
ムーブメントは、第1の記憶機器及び第2の記憶機器を動作させるための制御要素を備えることができる。
【0038】
制御要素は、
第1の部材を動作させるための第1のカム、特に第1のコラム・ホイールと、
第2の部材を動作させるための第2のカム、特に第2のコラム・ホイールと、
を備えることができる。
【0039】
第1のカム又は第1のコラム・ホイール及び第2のカム又は第2のコラム・ホイールは軸によって接続することができ、特に、第1のカム又は第1のコラム・ホイール及び第2のカム又は第2のコラム・ホイールは軸によって共に固定することができる。
【0040】
中間面のどちらかの側にカムを位置付けることができる。
【0041】
ムーブメントは、12時間又は24時間の表示を可能とすることができる。
【0042】
記憶された分を表示するための部材及び/又は記憶された時を表示するための部材は、30分を超える、1時間以上の、6時間以上の、12時間以上の、更には24時間の記憶容量を可能とするように構成することができる。このため、機構に対するユーザ操作によって、この容量に含まれるいかなる現在の時間情報も記憶することができる。
【0043】
本発明の第2の態様によれば、計時器、特に小型時計、具体的には腕時計が、先に規定したムーブメントを備える。
【0044】
添付図面は、本発明による時計機構の一実施形態を一例として図示する。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【
図1】本発明による計時器の一実施形態の第1の動作構成における概略図である。
【
図2】本発明による計時器の実施形態の第2の動作構成における概略図である。
【
図3】本発明による計時器の実施形態の第3の動作構成における概略図である。
【
図4】本発明による時計ムーブメントの一実施形態の一部の図である。
【
図5】本発明による時計機構の一実施形態の部分断面図である。
【
図6】本発明による時計機構の実施形態を示す
図5の詳細図である。
【
図7】本発明による時計機構の実施形態の第1の表示部の部分平面図である。
【
図8】本発明による時計機構の実施形態の第1の記憶部の上面図であり、機構は、記憶された秒を示すための針によって時間を測定する第1の構成にある。
【
図9】本発明による時計機構の実施形態の第1の記憶部の上面図であり、機構は、記憶された秒を示すための針によって時間を記憶する第2の構成にある。
【
図10】本発明による時計機構の実施形態の第2の表示部の部分平面図である。
【
図11】本発明による時計機構の実施形態の
図10のXI−XIでの断面図である。
【
図12】本発明による時計機構の実施形態の
図10のXII−XIIでの断面図である。
【
図13】本発明による時計機構の実施形態の第2の記憶部の平面図であり、機構は、記憶された時及び分を示すための針によって時間を測定する第1の構成にある。
【
図14】本発明による時計機構の実施形態の第1及び第2の記憶部間の機械的接続を示す断面図である。
【
図15】本発明による時計機構の実施形態の全体的な平面図であり、機構は、記憶された時、分、及び秒を示すための針によって時間を測定する第1の構成にある。
【
図16】本発明による時計機構の実施形態の第2の記憶部の平面図であり、機構は、記憶された時及び分を示すための針によって時間を測定する第1の構成にある。
【
図17】本発明による時計機構の実施形態の全体的な平面図であり、機構は、記憶された時及び分を示すための針によって時間を記憶する第2の構成にある。
【発明を実施するための形態】
【0046】
これより、
図1から
図3を参照して、本発明による計時器1の一実施形態について説明する。この計時器の実施形態においては、記憶された時、記憶された分、及び記憶された秒を指示又は表示することができる記憶部材H’、M’、S’、特に追加の針が、従来の指示又は表示部材H、M、S、特に従来の針H、M、Sに追加されている。このため計時器は、1秒内までのタイミングを記憶することができると同時に現在の時刻を指示する。特に、数時間、特に12時間又は24時間を超える時間範囲において、1秒内までのタイミングを表示することができる。
【0047】
計時器は、例えば小型時計、特に腕時計である。計時器は時計ムーブメント2を備える。時計ムーブメント2は、後に詳述する時計機構3を備える。この時計機構3は、例えば、現在の時、分、秒、又は秒の小数部分を指示又は表示し、記憶された時、分、秒、又は秒の小数部分を指示又は表示することができる表示部材H、M、S、H’、M’、S’を備える。この機構は例えば、現在の時刻を秒の小数部分単位で指示するための部材及び/又は記憶された秒の小数部分を指示するための部材を備えることができる。これらの指示部材は、例えば秒機構をジャンプさせることによって動作させることができる。これ以降は簡略化のため、秒の小数部分を表示する部材でなく、時、分、及び秒を表示する部材のみを考察対象とする。
【0048】
通常動作においては、
図1に示すように、現在の時、分、及び秒を表示する部材H、M、S、並びに記憶された時、分、及び秒を表示する部材H’、M’、S’は、現在の時刻を指示する。
【0049】
ボタンを押す等、制御部材4に第1の操作を行うと、記憶された時、分、及び秒を表示する部材H’、M’、S’は固定化されるが、現在の時、分、及び秒を表示する部材H、M、Sは何も影響を受けず、これらは
図2に示すように動き続ける。このように、この構成において部材H’、M’、S’は記憶された時間情報を指示する。
【0050】
例えばボタンを押す等、制御部材4に第2の操作を行うと、記憶された時、分、及び秒を表示する部材H’、M’、S’は位置を変える。すなわち
図3に示すように、現在の時、分、及び秒を表示する部材H、M、Sと再同期する。このように、記憶された時間、分、及び秒を表示する部材H’、M’、S’、並びに現在の時、分、及び秒を表示する部材H、M、Sは、再び同期される。従って、記憶された時間、分、及び秒を表示する部材H’、M’、S’、並びに現在の時、分、及び秒を表示する部材H、M、Sは、同一の情報を表示する。
【0051】
ここで、時間情報を指示し記憶するための時計機構3の一実施形態について、
図4から
図17を参照して更に詳細に説明する。
【0052】
本発明の第1の態様によれば、時間情報を指示し記憶するための機構3は、
時を表示するための部材H及び/又は分を表示するための部材M及び/又は秒を表示するための部材S又は秒の小数部分を表示するための部材、
記憶された時を表示するための部材H’及び/又は記憶された分を表示するための部材M’及び/又は記憶された秒を表示するための部材S’又は記憶された秒の小数部分を表示するための部材、を備える。
【0053】
本発明の第1の態様に従って、この機構は、秒を記憶するため又は秒の小数部分を記憶するための第1の機器MEM1と、分及び/又は時を記憶するための少なくとも第2の機器MEM2と、を備えると好都合である。
【0054】
本発明の第2の態様によれば、時計ムーブメント2は時間情報を指示し記憶するための機構3を備え、この機構は、
記憶された秒及び/又は記憶された秒の小数部分を表示するための部材S’と、
秒及び/又は秒の小数部分を記憶するための第1の機器MEM1と、
を含む。
【0055】
第1の記憶機器MEM1は、時計ムーブメントの歯車列11、12、13、14、15の要素12と直接に噛み合う第1の記憶要素MC1、又は時計ムーブメントの歯車列の要素に固定された第1の記憶要素が設けられた第1の記憶可動部M1を更に備える。
【0056】
好ましくは、第1の記憶要素は時計ムーブメントの歯車列の要素12と永続的な接続状態にある。
【0057】
また、この機構は、秒及び/又は秒の小数部分を表示するための部材Sを備えることができる。
【0058】
第1の記憶機器MEM1は、歯車列と記憶された秒を表示するための部材S’との間、特に秒車12と記憶された秒を表示するための部材S’との間のインタフェースを提供する。
図4に示すように、歯車列は、香箱15、例えば中央車14、例えば第3車13、秒車12、及びガンギ車11を備えることができる。歯車列は、香箱から発振器まで全体的に従来通りの構造を有することができる。あるいは、歯車列は、いくつかの香箱及び4つ以上の可動部を備え、単一の香箱又は複数の香箱とガンギ車との間の運動学的接続を与えるようにすることも可能である。
【0059】
これより、
図5から
図9を参照して第1の記憶機器MEM1について説明する。第1の記憶機器は、
第1の記憶可動部M1であって、この可動部に専用の歯車列11、12、13、14、15と噛み合うことが意図される第1の記憶要素MC1が設けられた第1の記憶可動部M1を備える。
【0060】
更に具体的には、第1の記憶機器は、第1の可動部M1に加えて、
秒車12に固着され(従って秒表示部材Sに固着され)、第1の記憶可動部M1と噛み合う、特に噛み合っているピニオン1aと、
記憶された秒の表示部材S’に固着され、第1の記憶可動部M1と噛み合う、特に噛み合っているピニオン1a’と、
を備える。
【0061】
更に具体的には、記憶可動部M1はピニオンM1aを備え、この上に、例えばカムMC10、特にハート型部品を備える第1の記憶要素MC1が搭載又は固定されている。このピニオンM1aは、秒可動部12のピニオン1aと連続的に噛みあうことができる。記憶可動部M1は、可動部12’の歯車1a’と噛み合う車M1a’を備える。可動部12’には、記憶された秒を示す部材S’が搭載されるか、又は前記部材がその一部を形成し、特にその上に記憶針S’が組み込まれている。また、この車M1a’は、弾性戻しレバーML1が枢支されたプレートMP1に固着されている。車M1a’及びプレートMP1は相互に固定すると好都合である。
図5に示すように、車1a’及び記憶秒表示部材S’は、計時器1のムーブメント2のフレームBをまっすぐに通る軸によって接続されている。
【0062】
正常な又は通常の動作において、すなわち
図1及び
図7におけるように秒表示部材S及び記憶秒表示部材S’が同期されている場合、戻しレバーML1の先端部はカム輪郭MC10に形成された突出部又はくぼみ部又は平坦部を押す。この構成において、制御カムC1、特にコラム・ホイールは、プレートMP1を固定化するための固定化機器B1を非作動とするように位置付けられている。この構成において、固定化機器はプレートMP1に対し、従って記憶可動部M1に対し、てこの作用を加えない。このため、カムMC10に対する戻しレバーML1の作用により、プレートMP1及びカムMC10は同期して回転し、従って秒部材及び記憶された秒の部材は同一の表示を行う。機構3が、第1の記憶機器を動作させるための制御カムC1を備える。
【0063】
固定化機器B1は、少なくとも1つのレバー又はクランプ、好ましくは2つのレバー又はクランプP1及びP10及びばねR1を備える。これらの要素の配置は、ばねがクランプをプレートMP1から離れる方向に戻すように、従って(
図8に示すように)プレートMP1を固定化しないようになっている。(
図9に示すように)従動子LP1がコラム・ホイールのコラムを押している場合、コラム・ホイールのコラム及び従動子LP1は、クランプP1及びP10をプレートMP1と接触させるように設計されている。表示及び記憶機構は固定化機器B1を備える。
【0064】
制御カムC1は、ばねRによって角度が示されるコラム・ホイールの形態をとると好都合である。このホイールには、例えばコラム及びくぼみ部から成る二部分の輪郭C1aが設けられている。
図8の構成では、クランプP1の従動子LP1は輪郭C1aのくぼみ部の1つに対向するので、ばねR1によってクランプP1及びP10は、カムMC10と共働するように設計された弾性戻しレバーML1が枢支されたプレートMP1の範囲外に位置付けられる。
【0065】
また、制御カムC1には、制御部材
4の作用のもとでレバーLにより1つの角度刻みだけ作動され駆動されるように設計されたラチェット歯セットC1bを設けることができる。レバーLに対する圧力によって制御カムC1は回転するので、輪郭C1aのコラムの1つがクランプP1、P10をばねR1の作用に対抗させ、これによってクランプP1、P10は可動部M1のプレートMP1の回転を固定化させることができる。このため、(
図9に示す)この構成において、レバーML1はプレートMP1の明確な角度位置に固定化され、一方でカムMC10は回り続ける。この状況の結果、記憶秒表示部材S’は固定化され、一方で秒表示部材Sは進み続ける。制御部材
4に更に別の操作が加わると、制御カムC1は
図9のものと類似の構成に位置付けられる。すなわち、レバーML1の先端部は、その弾性戻し要素の作用のもとで、カムMC10の突出部、又はくぼみ部、又は平坦部に対して位置を変える。このため、秒表示部材S及び記憶秒表示部材S’は再び同期される。機構3は制御部材
4を備える。この制御部材によって制御カムC1、C2に対する操作が可能となる。
【0066】
第2の記憶機器MEM2は、時及び分を表示する部材H、Mと、記憶された時及び分を表示する部材H’、M’との間のインタフェースを提供する。
【0067】
これより、
図10から
図17を参照して第2の記憶機器MEM2について説明する。第2の記憶機器は、
第2の記憶可動部M2であって、この可動部に専用の歯車列と噛み合うことが意図される第2の記憶要素MC2が設けられた第2の記憶可動部M2を備える。
【0068】
更に具体的には、第2の記憶機器は、第2の可動部M2に加えて、記憶された時を表示するための部材H’及び記憶された分を表示するための部材M’を、第2の記憶可動部M2と、特に噛み合って接続する補助的な日の裏輪列を備える。
【0069】
更に具体的には、第2の記憶可動部M2は車M2aを備え、この上に、例えばカムMC20、特にハート型部品を備える第2の記憶要素が搭載又は固定されている。この車M2aは、時間を表示する部材Hを支持する時間車162と連続的に噛み合わせることができる。記憶可動部M2は、記憶時表示部材H’を支持する車162’に固定された車162a’と噛み合う車M2a’を備える。また、この車M2a’は、弾性戻しレバーML2が枢支されたプレートMP2に固定されている。車M2a’及びプレートMP2は相互に固定すると好都合である。
【0070】
第2の記憶機器は第1の記憶機器と同様である。このため、時及び分を表示する部材H及びMは、第2の記憶可動部M2を介在して、記憶された時及び分を表示する部材H’及びM’に接続されている。
【0071】
図5、
図11、
図12に示すように、第2の記憶可動部M2は、第1の記憶可動部M1が位置している側とは逆のムーブメント・フレームの側に位置付けられていると好都合である。
【0072】
第2の記憶可動部M2の構造は可動部M1のものと類似している。第2の可動部M2は、カムMC20、特にハート型部品が搭載された車M2aを備える。この車M2aは、時間表示部材Hが搭載された、特に時間針Hが組み込まれた時間車162と、特に連続的に噛み合わせることができる。また、第2の可動部M2は、搭載された車プラットフォーム162a’を介して記憶時車162’を駆動する車M2a’も備える。記憶時表示部材が搭載された、特に針H’が組み込まれた記憶時車162’と、記憶分表示部材M’に固着された筒かな164’との間の運動学的接続は、日の裏輪列16と同一の構造を有する補助的な日の裏輪列16’の介在によって達成される。
【0073】
固定化機器B2は記憶可動部M2に専用のものである。固定化機器B2は固定化機器B1と同様である。固定化機器B1と同じように、固定化機器B2は少なくとも1つのレバー又はクランプ、好ましくは2つのレバー又はクランプP2及びP20及びばねR2を備える。この固定化機器も、例えばコラム・ホイールのような制御カムC2によって動作される。表示及び記憶機構が固定化機器B2を備える。機構3が、第2の記憶機器を動作させる制御カムC2を備える。
【0074】
記憶時及び分の表示部材H’及びM’並びに記憶秒表示部材S’の制御を同期させるため、制御カムC2は固有の回転特徴を有し、これは、制御カムC1が計時器1のムーブメント2のフレームBをまっすぐ通る軸の作用により得たものと同様である。これを
図14に示す。好ましくは、軸Aの幾何学的特徴GAは、制御カムC2の相補的な又は実質的に相補的な幾何学的特徴GC2と共働するように設計されて、制御カムC1に対する制御カムC2の角度指示を容易にする。このように、第1の制御カムC1及び第2の制御カムC2は軸Aによって接続されている。
【0075】
図13の構成において、制御カムC2は、固定化機器B2が記憶可動部M2にてこの作用を与えないように位置付けられている。更に具体的には、クランプP2のアームLP1の一端は輪郭C2aのくぼみ部の1つに対向しているので、ばねR2によってクランプP2及びP20はプレートMP2の範囲外に位置付けられる。このため、戻しレバーML2の先端部は、カムMC20の輪郭に形成された突出部又はくぼみ部又は平坦部を連続的に支持し、これは、記憶された時間及び分を表示するための部材H’及びM’の組と時及び分を表示するための部材H及びMの組とが同期されていることを意味する。
【0076】
図13及び
図15に示す構成は
図8に示したものと一致している。換言すると、クランプP2が制御カムC2の輪郭C2aのくぼみ部の1つに対向している場合、クランプP1も制御カムC1の輪郭C1aのくぼみ部の1つに対向して位置している。このため固定化機器B1及びB2は同期され、これは、記憶された時、分、及び秒を表示する部材の固定化が同期されていることを意味する。
【0077】
制御カムC1と同様に、制御部材
4に対する作用により制御カムC2は回転するので、輪郭C2aのコラムの1つがクランプP2及びP20をばねR2の作用に対抗させ、これによってクランプP2及びP20は可動部M2のプレートMP2の回転を固定化させることができる。このため、
図16及び
図17の構成において、レバーML2はプレートMP2の明確な角度位置に固定化され、一方でカムMC20は回り続ける。この状況の結果、記憶された時及び分を表示する部材H’及びM’は固定化され、一方で時及び分を表示する部材H及びMは進み続ける。
【0078】
図16及び
図17に示すこの構成は
図9に示したものと一致している。換言すると、クランプP2が制御カムC2の輪郭C2aのコラムの1つに対向して位置している場合、クランプP1も同様にカムC1の輪郭C1aのコラムの1つに対向して位置している。このため固定化機器B1及びB2は同期され、従って、記憶された時、分、及び秒を表示する部材H’、M’、S’の停止が同期されていることを意味する。
【0079】
むろん、固定化機器B1、B2が別個の動作モードを有する場合には、各カムC1、C2の輪郭C1a、C2aは異なるように構成することができる。全ての場合において、カムC1及びC2は、記憶された時、分、及び秒を表示する部材H’、M’、及びS’の停止を同期するように固定化機器B1、B2を同期させるように規定される。
【0080】
本発明により、第1の記憶可動部M1は歯車列の秒可動部と直接に噛み合っている。この記憶可動部は第1の固定化機器B1によって制御される。
【0081】
第2の記憶可動部M2によって時及び/又は分の記憶が可能となる。第2の記憶可動部M2は、基礎ムーブメントの日の裏輪列と直接に噛み合っている。この記憶可動部は少なくとも1つの第2の固定化機器B2によって制御される。
【0082】
制御カムC1、C2は、固定化機器B1、B2の各々を動作させるように設計されている。制御カムC1、C2は、ユーザが行った操作を表示及び記憶機構3、ムーブメント2、又は計時器1に伝達する制御部材
4によって作動される。
【0083】
制御カムC1、C2は回転することができる。制御カムC1、C2はは、少なくとも2つの固定化機器B1、B2を動作させるように、計時器1のフレームBのどちらかの側に位置付けられるように構成されている。
【0084】
図11に示すように、秒可動部12は例えばムーブメントのフレームBの第1の側に位置付けられ、日の裏輪列は従来のようにムーブメントのフレームの他の側に位置付けられている。
【0085】
図11に示すように、機構3はムーブメントのフレームBの面PBに平行な中間面P3を有する。中間面P3は、軸A及び可動部12’に実質的に垂直であり、空間を同一体積の2つの部分に分割する。これらの部分に機構3全体が含まれる。フレームの面PBは、ムーブメントのプレートを実質的に等しい体積の第1の部分及び第2の部分に分割する。第1の記憶機器MEM1、特に記憶可動部M1及び/又は第1の記憶要素MC1及び/又はプレートMP1は、第1の部分内にある。第2の記憶機器MEM2、特に記憶可動部M2及び/又は第1の記憶要素MC2及び/又はプレートMP2は、第2の部分内にある。
【0086】
表示及び記憶機構は、好ましくは12時間又は24時間の範囲内の、時間を表示するため及び瞬間を記憶するための部材を備える。好ましくは、時間を表示するための部材及び記憶部材は、同一の速度かつ同一の範囲で動く。あるいは、時間を表示する針及び記憶に用いられる針は、2つの別個の時間範囲で情報を示す。
【0087】
従って、本発明によれば、時間又はタイミング、時及び/又は分及び/又は秒情報の項目の各々について、機構は、単一の制御部材の作用のもとで、同一の表示部材を用いて、記憶された情報又は現在の情報を選択的に指示する固有の特徴を有する。かかる機構は、例えばイベントの開始時の時刻を示し、その終了時刻を1秒未満で示すことに有用であることがわかっている。
【0088】
表示部材を1つ以上のランダムな位置又は1つ以上の一度規定した位置に、すなわちユーザ規定可能でなくユーザ変更可能でない1つ以上の位置に位置付けることは、要求があった場合に時間情報を表示するための機構において行われるが、本発明の意味内の記憶装置として考慮することはできない。
【0089】
この文書全体を通して、「直接に噛み合う」とは、クラッチ機器なしのいずれかの運動学的接続を意味することが意図される。好ましくは、この接続は永続的である。適宜、秒車と記憶可動部との間に1つ以上の中間要素を配置することも可能である。
【符号の説明】
【0090】
3 機構
H 時を表示するための部材
M 分を表示するための部材
S 秒を表示するための部材
H’ 記憶された時を表示するための部材
M’ 記憶された分を表示するための部材
S’ 記憶された秒を表示するための部材
MEM1 第1の機器
MEM2 第2の機器
M1 第1の記憶可動部
M2 第2の記憶可動部
11、12、13、14、15、16 歯車列
MC1 第1の記憶要素
MC2 第2の記憶要素
B1 第1の固定化機器
B2 第2の固定化機器