(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明にかかる多孔質モノリスコーティング構造物及びその製造方法の好ましい実施形態について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。
【0009】
〔多孔質モノリスコーティング構造物〕
本発明の多孔質モノリスコーティング構造物は、基材と、前記基材上に形成され、表面に内部に連通する孔を有する多孔質モノリスコーティング膜とを含む。
基材上に多孔質モノリスコーティング膜が形成された多孔質モノリスコーティング構造物は、従来検討されていなかった多孔質モノリスの新しい形態であり、しかも、本発明の多孔質モノリスコーティング構造物は、表面に内部に連通する孔を有するので、多孔質モノリスによる基材表面の改質効果・保護効果が良好に発揮されたものとなる。
【0010】
多孔質モノリスコーティング膜は、共連続構造を有する膜状の構造体である。多孔質モノリスコーティング膜としては、特に限定されないが、例えば、樹脂の硬化物の三次元分岐網目構造を骨格として有し、かつ骨格間に空隙(マクロ孔)を有しているものが好ましい。
すなわち、多孔質モノリスコーティング膜の基礎となる構造は、例えば、0.05μm以上の骨格と空隙(マクロ孔)とがお互いに絡み合った三次元的な網目構造を有しているものが好ましい。
【0011】
多孔質モノリスコーティング膜の空隙(マクロ孔)の平均孔径は、好ましくは0.03〜100μm、より好ましくは0.05〜50μm、さらに好ましくは0.1〜30μmである。
【0012】
多孔質モノリスコーティング膜は、マクロ孔に加えて、多孔質モノリスコーティング膜の骨格内にメソポア(二次細孔)を有していてもよい。
骨格内及び表面に形成されるメソポアは、通常、マクロ孔よりも孔径の小さな細孔である。
また、骨格内のメソポア構造は、必ずしも三次元網目構造のような連続孔を形成している必要はなく、例えば、一様な貫通孔や骨格を構成している格子間の空隙と見られる構造を有しているものであってもよい。
メソポアの孔径は、好ましくは1nm〜1μmであり、より好ましくは1〜500nmであり、さらに好ましくは1〜300nmである。
【0013】
なお、空隙(マクロ孔)の平均孔径やメソポアの径は、例えば、電子顕微鏡画像で確認することが最も簡略な方法であるが、水銀圧入法や窒素吸着法で測定することも可能である。
【0014】
以上に述べたような本発明にかかる多孔質モノリスコーティング構造物は、例えば、後述する本発明にかかる多孔質モノリスコーティング構造物の製造方法によって製造することができる。
【0015】
あるいは、上記のような硬化性樹脂を用いる方法に代えて、例えば、多孔質モノリスコーティング膜を構成する材料として、多孔質モノリスコーティング膜を構成することとなるモノマー(例えば、アクリル系モノマー、ビニル系モノマー)と、該モノマーに対して相溶性を示し、かつ、該モノマーを重合して得られる重合体に対して非相溶性を示す化合物とを含有するものとを用いて、これを重合することにより重合誘起相分離を起こさせることにより、多孔質構造体を得るような方法を採用してもよい。
ただし、このようにして得られる多孔質モノリスコーティング膜は、空気の影響によりその界面に非多孔性のスキン層を形成する場合がある。このスキン層が生じた場合は表面を研磨やプラズマ処理などで少しだけ除去することで孔のある表面とすることができる。尚、このスキン層の厚みはモノリス膜の柱部分の厚み以下であるので研磨する厚みはそれを除く程度で十分である。孔の少ないスキン層があっても問題のない場合はそのまま使用できる。
【0016】
〔多孔質モノリスコーティング構造物の製造方法〕
次に、本発明にかかる多孔質モノリスコーティング構造物の製造方法について説明する。
本発明にかかる多孔質モノリスコーティング構造物の製造方法では、硬化性樹脂と硬化剤とポロゲンと増粘剤とを含む硬化性組成物を基材上に塗布し、前記塗布により形成された塗布物を硬化し、前記硬化により形成された硬化塗膜内のポロゲンを除去することにより、多孔質モノリスコーティング膜を基材の表面に保持する。
【0017】
基材としては特に限定されないが、例えば、ガラス板、プラスチック板、金属板、木材等が挙げられる。
【0018】
また、基材には、多孔質モノリスコーティング膜を形成するための硬化性樹脂との親和性を向上させるために、シランカップリング剤などの公知のカップリング剤による処理やプラズマ処理などを行ってもよい。
【0019】
前記硬化性樹脂としては、特に限定されず、多孔質構造を形成可能な樹脂であれば良く、例えば、エポキシ樹脂、(メタ)アクリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂などが挙げられる。
【0020】
前記硬化性樹脂としては、極めて微細な多孔質構造を形成することができるという点より、エポキシ樹脂が好ましく用いられる。
前記エポキシ樹脂としては、例えば、芳香環由来の炭素原子を含む芳香族エポキシ樹脂として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラキス(ヒドロキシフェニル)エタンべ−スなどのポリフェニルベースエポキシ樹脂、フルオレン含有エポキシ樹脂、2,2,2,−トリ−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアネートなどのトリグリシジルイソシアヌレート、トリアジン環含有エポキシ樹脂等、複素芳香環を含むエポキシ樹脂、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミンなどを挙げることができる。
また、芳香環由来の炭素原子を含まない非芳香族エポキシ樹脂として、脂肪族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、脂肪族グリシジルエステル型エポキシ樹脂、脂環族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、脂環族グリシジルエステル型エポキシ樹脂、1,3−ビス(N,N’−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサンなどが挙げられる。
これらのなかでも、分子内にグリシジル基が二つ以上有するエポキシ樹脂が好ましく、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、2,2,2,−トリ−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアネート、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン、1,3−ビス(N,N’−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサンがより好ましい。
【0021】
前記硬化剤としては、芳香環由来の炭素原子を含む芳香族硬化剤として、メタフェニレンジアミンやジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−メチレン−ビス(2−クロロアニリン)、ベンジルジメチルアミン、ジメチルアミノメチルベンゼンなどの芳香族アミン、無水フタル酸や無水トリメット酸、無水ピロメット酸などの芳香族酸無水物、フェノール系化合物、フェノール系樹脂、フェノールホルムアルデヒド型ノボラックやフェノールアルキル型ノボラック等のノボラック型フェノール樹脂、イソフタル酸ジヒドラジドなどの芳香族ヒドラジド類、トリアジン環などの複素芳香環を有する芳香族アミン、1,1,1’,1’−テトラメチル−4,4’−(メチレン−ジ−パラ−フェニレン)ジセミカルバジド等の芳香族ポリアミン類及び芳香族ポリアミンヒドラジド類などが挙げられる。
また、芳香環由来の炭素原子を含まない非芳香族硬化剤として、エチレンジアミンやジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、イミノビスプロピルアミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、1,3,6−トリスアミノメチルヘキサン、ポリメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、ポリエーテルジアミンなどの脂肪族アミン類、アジピン酸ジヒドラジドやセバチン酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジドなどの脂肪族ヒドラジド類、イソホロンジアミンやメンタンジアミン、N−アミノエチルピペラジン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカンアダクト、ビス(4−アミノシクロへキシル)メタンやこれらの変性品などの脂環族ポリアミン類、1,6−ヘキサメチレンビス(N,N−ジメチルセミカルバジド)などの脂肪族ポリアミンヒドラジド類、ポリアミン類とダイマー酸からなる脂肪族ポリアミドアミン類やポリアミノアミド類など、ビューレトリートリ−(ヘキサメチレン−N,N−ジメチルセミカルバジド)を主成分とするオリゴマープロピレングリコールモノメチルエーテル溶液、ビューレトリートリ−(ヘキサメチレン−N,N−ジメチルセミカルバジド)を主成分とするオリゴマーN,N−ジメチルホルムアミド溶液、スピログリコールや2−(5−エチル−5−ヒドロキシメチル−1,3−ジオキサン−2−イル)−2−メチルプロパン−1−オールなどのグリコール類、その他アミンアダクト系硬化剤などが挙げられる。
これらのなかでも、25℃における粘度が400mPa・s以上のポリアミノアミド系硬化剤を用いることが好ましい。
【0022】
硬化性組成物中における硬化性樹脂と硬化剤の配合割合は、架橋密度などを考慮して決定すればよいが、例えば、エポキシ樹脂とアミン系硬化剤の場合、エポキシ基1当量に対して、硬化剤当量(アミン当量)が0.6〜1.5の範囲になるように調整することが好ましい。硬化剤の当量比が少なすぎるとエポキシ樹脂硬化物の架橋密度が低くなり、耐熱性、耐溶剤性などが低下する場合がある。また、硬化剤の当量比が多すぎると、未反応の官能基が多くなり、未反応のまま硬化物中に残留したり、あるいは架橋密度向上を阻害したりする要因となり好ましくない。
【0023】
前記ポロゲンは、硬化後の多孔質モノリスコーティング膜中に形成されるマクロ孔やメソポアの空隙を形成するための成分である。ポロゲンとしては、上述した硬化性樹脂および硬化剤を溶解可能であり、かつ、硬化性樹脂と硬化剤とが重合した後、反応誘起相分離を生じさせることが可能な化合物を用いることができる。
【0024】
このようなポロゲンとしては、例えば、メチルセロソルブ、エチルセロソルブなどのセロソルブ類、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどエステル類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ジエチレングリコールなどのグリコール類などを挙げることができる。これらのなかでも、分子量600以下のポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ジエチレングリコールが好ましい。あるいは、分子量600以上のポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールなど、室温中において蝋質(半固形)状であっても、重合温度において硬化性樹脂や硬化剤と相溶し、かつ液状となるものであれば、ポロゲンとして使用することができる。
【0025】
硬化性組成物中におけるポロゲンの配合量は、硬化性樹脂と硬化剤の合計に対して、好ましくは、重量比で0.5〜7倍であり、特に好ましくは、2〜5倍である。ポロゲンの配合量を上記範囲とすることにより、多孔質モノリスコーティング膜のミクロ構造(マクロ孔やメソポアの孔径)をより適切なものとすることができる。
【0026】
本発明に係る多孔質モノリスコーティング構造物の製造方法においては、硬化性組成物として、増粘剤を含有させるようにしている。
本発明者の検討により、微粉シリカにより増粘した場合は非多孔性のスキン層が出来ないことが判明したからである。増粘剤を含有させない場合、空気の影響によりその界面に非多孔性のスキン層を形成する場合がある。
前記増粘剤としては微粉シリカを用いることが好ましい。微粉シリカとして、例えば、「アエロジル」(日本アエロジル株式会社)、「レオロシール」(株式会社トクヤマ)等が販売されている。
なお、重合組成物の粘度を上げる方法としては、硬化性組成物を構成する基本的な材料である硬化性樹脂と硬化剤とポロゲンのどれかをより粘度が高いものに変更することも考えられるが、この場合は生成するモノリスの構造(主として孔径)が変化するので好ましくない。また、スピノーダル分解にならないこともある。それに対して、微粉シリカを使用した場合は使用しない場合と比べて増粘した場合でも元の構造に与える変化が少ないといえる。
【0027】
また、多孔質モノリスコーティング膜を形成するための硬化性組成物としては、硬化性樹脂、硬化剤、およびポロゲンに加えて、ポロゲンと同等の効果をもたらす有機高分子や、金属アルコキシドからなるゾルをさらに配合してもよい。
ポロゲンと同等の効果をもたらす有機高分子としては、重合系に均一かつ溶解することが出来れば特に分子量などは限定されないが、例えば、ポリエチレングルコール、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリメチルメタクリレート、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、およびエチレンオキシド−プロピレンオキシド共重合体に代表されるこれらの共重合体等が挙げられる。これらのなかでも、ポリエチレンオキシド、エチレンオキシド−プロピレンオキシド共重合体などが好ましい。これら有機高分子の配合割合は、得ようとする骨格部のメソポア径に応じて適宜調節することができる。
【0028】
また、金属アルコキシドからなるゾルを配合すれば、後に溶解させることで、金属アルコキシドからなるゾルが物理的に存在した孔を骨格内のメソポアとして形成することができる。金属アルコキシドからなるゾルとしては、シリカアルコキシドとして、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、1,2−ビストリメトキシシリルエタン、Si原子に1〜4つのアルコキシ基が結合したシリカアルコキシド、グリシジル基を導入したシリカアルコキシド等、チタンアルコキシドとして、チタニウムn−プロポキシド、チタニウムイソプロポキシド、チタニウムn−ブトキシド、チタニウムt−ブトキシド等、ジルコニウムアルコキシドとして、ジルコニウムプロポキシド、ジルコニウムイソプロポキシド、ジルコニウムn−ブトキシド、ジルコニウムt−ブトキシド等、ハフニウムアルコキシドとして、ハフニウムプロポキシド、ハフニウムイソプロポキシド、ハフニウムn−ブトキシド、ハフニウムt−ブトキシド等が挙げられる。
これらのなかでも、Si原子に1〜4つのアルコキシ基が結合したシリカアルコキシド、グリシジル基を導入したシリカアルコキシドからなるゾルが好ましく、グリシジル基を導入したシリカアルコキシドからなるゾルが特に好ましい。
【0029】
さらに、硬化性組成物の塗布性や外観を向上する目的で、レベリング剤、消泡剤、着色剤等の各種添加剤を添加することができる。なお、モノリス構造を生じるためのスピノーダル分解を阻害しないものを選択するように留意するべきである。
本発明の多孔質モノリスコーティング構造物の製造方法では、硬化性組成物に増粘剤を含有させるが、粘性が大きすぎる場合は塗布時のレベリングや消泡性が低下してきれいな表面が得られないので、消泡剤やレベリング剤等を使用しつつ適切な範囲に設定することが望ましい。
【0030】
硬化性組成物を基材上に塗布する方法としては、特に限定されず、所望の厚みで、硬化性組成物が塗布可能な方法であればよく、例えば、浸漬法、スプレー、スピンコーター、バーコーター、アプリケーター、ロールコーター、カーテンコーター、スクリーン印刷等が挙げられる。
【0031】
硬化性組成物を基材上に塗布する際の硬化性組成物の粘度は、200mPa・s以上が好ましく、できれば400mPa・s以上がより好ましい。
【0032】
次に、上記に詳述した塗布により基材上に形成された上記硬化性組成物を硬化させる。すなわち、硬化性樹脂および硬化剤を反応させて硬化させる処理を行う。
硬化性組成物を硬化させる方法としては特に限定されず、使用する硬化剤の種類に応じて、適宜選択すればよいが、例えば、加熱による方法や、紫外線や電子線等の電磁波を照射する方法などが挙げられる。加熱により硬化させる方法における加熱温度は、通常、25〜200℃、好ましくは30〜180℃、より好ましくは40〜160℃である。200℃以上の高温を長く保持することは硬化塗膜の熱劣化につながるので好ましくない。
【0033】
本発明においては、多孔質モノリスコーティング膜を構成する材料として、上述したエポキシ樹脂組成物のような硬化性組成物を用いることで、硬化性樹脂の重合に伴い、ポリマー成分が増大し、スピノーダル分解が起こり、共連続構造を発現させることができる。
【0034】
次に、上記に詳述した硬化により形成された硬化塗膜内のポロゲンを除去する。
具体的には、硬化塗膜中に含まれるポロゲンを抽出する処理を行う。ポロゲンとして、上記にて例示した成分を用いた場合には、これらは水溶性であるため、硬化反応を行った構造体を、水やアルコール、アセトン等のポロゲンより揮発性の高い溶媒中に入れることにより、ポロゲンを抽出する処理を行うことができる。この後、置換された溶媒を揮発することにより多孔質モノリスの乾燥コーティング膜が得られる。
【0035】
ポロゲンを抽出する方法としては、前述の溶媒による抽出とそれに続く熱乾燥法ではなく、ポロゲンを直接加熱除去することも可能である。またこの場合、沸点が高いポロゲンについては減圧下に加熱することでより低温でポロゲンを揮発除去することもできる。
多孔質モノリスコーティング膜をあまり高温で処理すると熱劣化が生じる場合があるため、ポロゲンを大気下で加熱除去する場合の温度は200℃以下、できれば150℃以下が好ましい。減圧下で行うことでより温度を下げることができる。更に常圧では沸点が200℃以上の溶媒も減圧することにより加熱温度を低く、また加熱時間を短くすることが可能である。
このようにして、多孔質モノリスコーティング膜が基材の表面に保持された多孔質モノリスコーティング構造物を得ることができる。
【0036】
〔多孔質モノリスコーティング構造物の用途〕
多孔質モノリスコーティング膜を表面にもつ本発明の多孔質モノリスコーティング構造物は、その多孔質モノリスコーティング膜の性質を生かした各種の使い方が考えられる。
特に、スピノーダル分解により生じる多孔質モノリスコーティング膜の孔径分布はかなり均一なものであるため、従来のコーティング剤とは異なる外観や機能を作ることが可能になる。
【0037】
例えば、孔径が0.05〜0.3μm程度のものであれば、構造色が生じる特殊着色剤、多孔質モノリスに潤滑剤成分を含湿させて潤滑層として利用する、さらに、ポロゲンの直接乾燥法を用いた場合は二次電池の電極にモノリス膜を直接塗布してセパレータ膜を作る、などといった用途を挙げることができる。
【0038】
用途によっては、薄い多孔質モノリスコーティング膜が求められることも想定される。
しかし、機械的な方法によりスキン層を除去する場合には、薄い多孔質モノリスコーティング膜の提供は困難である。
これに対し、本発明の多孔質モノリスコーティング構造物の製造方法では、表面に非多孔性のスキン層が形成されていない多孔質モノリスコーティング膜を、研磨等の工程を経ることなく、基材上に成膜することができるので、薄型化の要請にも応え得るものである。
多孔質モノリスコーティング膜の厚みが薄すぎると多孔質膜の性質が小さくなり、厚すぎるとポロゲン除去の操作性が低下したりするので、本発明の多孔質モノリスコーティング構造物における多孔質モノリスコーティング膜の厚みは、好ましくは1〜1000μm、より好ましく3〜500μm、さらに好ましくは5〜300μmである。
本発明は、表面に内部に連通する孔を有し、かつ、上記の如く膜薄の多孔質モノリスコーティング膜を基材表面に備えた多孔質モノリスコーティング構造物を初めて提供するものであるということもできる。
【実施例】
【0039】
以下に、実施例を挙げて、本発明についてより具体的に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0040】
〔実施例1〕
<硬化性組成物の調製>
硬化性樹脂として、エポキシ当量が95〜110(平均102)である下記式(1)で表されるエポキシ化合物(商品名「テトラッドーC」、三菱ガス化学工業株式会社)1重量部、硬化剤として、アミン価が520〜550である下記式(2)で表されるビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン(東京化成工業株式会社製)0.575重量部、ポロゲンとして、平均分子量が200である下記式(3)で表されるポリエチレングリコール200(和光純薬工業株式会社製)4重量部を用い、さらに、増粘剤としてアエロジル130(日本アエロジル株式会社製)を、ポリエチレングリコール200に対して5重量%となる割合で用い、これらを、自転・公転ミキサーの「あわとり練太郎」で混合することで、エポキシ樹脂組成物を得た。粘度は25℃で840mPa・Sであった(粘度計は振動式粘度計「VM−10−AM、株式会社セコニック製」を使用)。
【0041】
【化1】
【0042】
【化2】
【0043】
【化3】
【0044】
<多孔質モノリスコーティング膜の形成>
基材として市販のガラス板(7.5cm角)の上面周囲に厚さ60μmで幅1cmとした耐熱性粘着テープを貼ってスペーサーとした後、この枠内に上記にて調製したエポキシ樹脂組成物を適量入れガラス棒でならして過剰分を除き均一な厚みとすることで、ガラス板上にエポキシ樹脂組成物を塗布した。
次に得られた塗布物を110℃で1時間加熱することにより、エポキシ樹脂組成物層中のエポキシ化合物を硬化させた。
次いで、加熱後の硬化塗膜を、温度50〜60℃に調整した温水中に投入し、温水を適宜撹拌しつつ5時間放置することにより、硬化塗膜内のポリエチレングリコール200を抽出する工程を3回繰り返した。その後、133Paの減圧下60℃で1晩乾燥させた。
以上により、多孔質モノリスコーティング膜がガラス板の表面に保持された多孔質モノリスコーティング構造物を得た。
【0045】
得られた多孔質モノリスコーティング構造物における多孔質モノリスコーティング膜は、厚みが60μmであり、走査型電子顕微鏡観察により測定した多孔質モノリスコーティング膜のマクロ孔の平均孔径が、0.3〜0.6μmであった。表面には0.2〜0.5μmの孔が多く確認された(
図1参照)。
【0046】
〔実施例2〕
実施例1において、アエロジル130を、ポリエチレングリコール200に対して3重量%となる割合で用いた他は実施例1と同じように行い、多孔質モノリスコーティング膜がガラス板の表面に保持された多孔質モノリスコーティング構造物を得た。
なお、多孔質モノリスコーティング膜を形成するためのエポキシ樹脂組成物の粘度は、25℃で340mPa・Sであった。
得られた多孔質モノリスコーティング構造物における多孔質モノリスコーティング膜は、厚みが60μmであり、走査型電子顕微鏡観察により測定した多孔質モノリスコーティング膜のマクロ孔の平均孔径が、0.3〜0.6μmであった。表面には実施例1より少なめの0.1〜0.5μmの孔が確認された。
【0047】
〔実施例3〕
実施例1において、アエロジル130を、ポリエチレングリコール200に対して1重量%となる割合で用いた他は実施例1と同じように行い、多孔質モノリスコーティング膜がガラス板の表面に保持された多孔質モノリスコーティング構造物を得た。
なお、多孔質モノリスコーティング膜を形成するためのエポキシ樹脂組成物の粘度は、25℃で170mPa・Sであった。
得られた多孔質モノリスコーティング構造物における多孔質モノリスコーティング膜は、厚みが60μmであり、走査型電子顕微鏡観察により測定した多孔質モノリスコーティング膜のマクロ孔の平均孔径が、0.3〜0.6μmであった。表面には0.1〜0.5μmの孔が少し確認された。
【0048】
〔実施例4〕
実施例1において、スペーサーの厚みを500μmとした以外は実施例1と同じように行い、多孔質モノリスコーティング膜がガラス板の表面に保持された多孔質モノリスコーティング構造物を得た。
得られた多孔質モノリスコーティング構造物における多孔質モノリスコーティング膜は、厚みが480μmであり、走査型電子顕微鏡観察により測定した多孔質モノリスコーティング膜のマクロ孔の平均孔径が、0.3〜0.6μmであった。表面には0.2〜0.5μmの孔が多く確認された
【0049】
〔比較例〕
アエロジル130を添加しない以外は実施例1と同じように行い、多孔質モノリスコーティング膜を表面にもつガラス板を得た。
なお、多孔質モノリスコーティング膜を形成するためのエポキシ樹脂組成物の粘度は、25℃で130mPa・Sであった。
ガラス板上の多孔質モノリスコーティング膜は、厚みが60μmであり、走査型電子顕微鏡観察により測定した多孔質モノリスコーティング膜のマクロ孔の平均孔径が、0.3〜0.6μmであった。表面には孔が確認できなかった(
図2参照)。