特許第6564593号(P6564593)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6564593
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】ダイヤフラム弁
(51)【国際特許分類】
   F16K 7/16 20060101AFI20190808BHJP
【FI】
   F16K7/16 E
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-62343(P2015-62343)
(22)【出願日】2015年3月25日
(65)【公開番号】特開2016-180490(P2016-180490A)
(43)【公開日】2016年10月13日
【審査請求日】2018年2月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】390033857
【氏名又は名称】株式会社フジキン
(74)【代理人】
【識別番号】100106091
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 直都
(74)【代理人】
【識別番号】100079038
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 彰
(74)【代理人】
【識別番号】100060874
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 瑛之助
(72)【発明者】
【氏名】船越 高志
(72)【発明者】
【氏名】薬師神 忠幸
(72)【発明者】
【氏名】中田 知宏
【審査官】 谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−009765(JP,A)
【文献】 特開昭55−097568(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 7/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体通路が設けられた弁箱と、流体通路の周縁に設けられた弁座と、弁座に押圧または離間されて流体通路を開閉する球面状のダイヤフラムと、下端に球面状の押圧面を有しダイヤフラムを押圧するダイヤフラム押さえと、ダイヤフラムを上下移動させるアクチュエータとを備えているダイヤフラム弁において、
前記ダイヤフラムは、前記ダイヤフラム押さえに向かって凸形状をなし、前記ダイヤフラム押さえは、前記ダイヤフラムに向かって凸形状をなし、
ダイヤフラムの曲率半径をSRa、ダイヤフラム押さえの押圧面の曲率半径をSRbとして、SRb/SRa=0.4〜0.6とされているダイヤフラム弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ダイヤフラム弁に関し、特に、ダイレクトタッチ型と称されているダイヤフラム弁に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイヤフラム弁として、特許文献1には、流体通路が設けられた弁箱と、流体通路の周縁に設けられた環状の弁座と、弁座に押圧または離間されて流体通路を開閉する球面状の金属製ダイヤフラムと、下端に球面状の押圧面を有しダイヤフラムを押圧するダイヤフラム押さえと、ダイヤフラムを上下移動させるアクチュエータとを備えているものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平2−29361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
開閉操作を繰り返すダイレクトタッチ型のダイヤフラム弁において、ダイヤフラムの耐久性の向上が重要な課題であり、特許文献1では、ダイヤフラムの形状およびダイヤフラムの外周縁部を支持する部分の形状を適正なものとすることでダイヤフラムの耐久性の向上が図られている。
【0005】
しかしながら、ダイヤフラム押さえの押圧面の曲率半径とダイヤフラムの曲率半径との関係については、従来、考慮されることはなかった。
【0006】
この発明の目的は、ダイヤフラム押さえの押圧面の曲率半径とダイヤフラムの曲率半径との比に着目することで、ダイヤフラムの耐久性の向上が図られたダイヤフラム弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明によるダイヤフラム弁は、流体通路が設けられた弁箱と、流体通路の周縁に設けられた弁座と、弁座に押圧または離間されて流体通路を開閉する球面状のダイヤフラムと、下端に球面状の押圧面を有しダイヤフラムを押圧するダイヤフラム押さえと、ダイヤフラムを上下移動させるアクチュエータとを備えているダイヤフラム弁において、ダイヤフラムの曲率半径をSRa、ダイヤフラム押さえの押圧面の曲率半径をSRbとして、SRb/SRa=0.4〜0.6とされているものである。
【0008】
従来、ダイヤフラムおよびダイヤフラム押さえについては、まず、ダイヤフラムの曲率半径を最適化し、次いで、ダイヤフラム押さえの押圧面の曲率半径をダイヤフラムの曲率半径と同じか、それより若干小さい値に設定するという順で、それぞれの曲率半径が設定されていた。
【0009】
本発明は、従来考慮されていなかったSRb/SRa(ダイヤフラム押さえの押圧面の曲率半径/ダイヤフラムの曲率半径)によって、ダイヤフラムに発生する応力が変動することを明らかにするとともに、SRb/SRaの最適値として、0.4〜0.6を得たものである。
【0010】
このダイヤフラム弁は、主として半導体製造設備のガス供給系等において使用されるダイレクトタッチ型のメタルダイヤフラム弁として使用するのに好適である。
【0011】
ダイヤフラムは、金属製で、上に凸の円弧状が自然状態の球殻状とされる。ダイヤフラムは、複数層からなる積層型であってもよい。ダイヤフラムの曲率半径は、内面(複数の場合は最下層(接液側)の内面)の曲率半径をいうものとする。
【0012】
弁座は、弁箱に一体に設けられてもよく、弁箱と別部材とされてもよい。
【0013】
ダイヤフラム弁は、上下移動手段が開閉ハンドルなどの手動弁であってもよく、上下移動手段が適宜なアクチュエータとされた自動弁であってもよく、自動弁の場合のアクチュエータは、流体(空気)圧によるものでもよく、電磁力によるものでもよい。
【0014】
なお、この明細書において、ダイヤフラム弁のステムの移動方向を上下方向というものとするが、この方向は、便宜的なものであり、実際の取付けでは、上下方向が鉛直方向とされるだけでなく、水平方向とされることもある。
【発明の効果】
【0015】
この発明のダイヤフラム弁によると、ダイヤフラム押さえの押圧面の曲率半径SRb/ダイヤフラムの曲率半径SRa=0.4〜0.6とされていることで、応力が均一化され、これにより、ダイヤフラムに局部的に過大な応力が作用することが防止されて、ダイヤフラムの耐久性が大幅に向上する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、この発明によるダイヤフラム弁の全体構成を示す縦断面図である。
図2図2は、この発明によるダイヤフラム弁の特徴部分を示す拡大縦断面図である。
図3図3は、SRb/SRaが0.4より小さいときの解析結果を示す図である。
図4図4は、SRb/SRaが0.6より大きいときの解析結果を示す図である。
図5図5は、SRb/SRaが0.5のときの解析結果を示す図である。
図6図6は、ダイヤフラムの径が15φの場合に、SRb/SRaを変更したときに、中央部の最大応力と縁部の最大応力とがどのように変化するかを示すグラフである。
図7図7は、ダイヤフラムの径が20φの場合に、SRb/SRaを変更したときに、中央部の最大応力と縁部の最大応力とがどのように変化するかを示すグラフである。
図8図8は、ダイヤフラムの径が26φの場合に、SRb/SRaを変更したときに、中央部の最大応力と縁部の最大応力とがどのように変化するかを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
この発明の実施の形態を、以下図面を参照して説明する。以下の説明において、上下および左右は、図1の上下および左右をいうものとする。
【0018】
図1は、この発明によるダイヤフラム弁(1)の基本形状を示しており、ダイヤフラム弁(1)は、流体流入通路(2a)、流体流出通路(2b)および上方に向かって開口した凹所(2c)を有しているブロック状の弁箱(2)と、弁箱(2)の凹所(2c)上部に下端部がねじ合わされて上方にのびる円筒状ボンネット(3)と、流体流入通路(2a)の周縁に設けられた環状の弁座(4)と、弁座(4)に押圧または離間されて流体流入通路(2a)を開閉するダイヤフラム(5)と、ダイヤフラム(5)の中央部を押さえるダイヤフラム押さえ(6)と、ボンネット(3)内に上下移動自在に挿入されてダイヤフラム押さえ(6)を介してダイヤフラム(5)を弁座(4)に押圧・離間させるステム(7)と、ボンネット(3)下端面と弁箱(2)の凹所(2c)底面との間に配置されてダイヤフラム(5)の外周縁部を弁箱(2)の凹所(2c)底面との間で保持する押さえアダプタ(8)と、頂壁(9a)を有しボンネット(3)にねじ合わされたケーシング(9)と、ステム(7)を上下移動させるアクチュエータ(10)とを備えている。
【0019】
アクチュエータ(10)は、ステム(7)に一体化されたピストン(11)と、ピストン(11)を下方に付勢する圧縮コイルばね(付勢部材)(12)と、ピストン(11)下面に設けられた操作エア導入室(13)と、ステム(7)を貫通するように設けられて操作エア導入室(13)内に操作エアを導入する操作エア導入通路(7a)とを備えている。
【0020】
図1に示す通路開の状態においては、流体流入通路(2a)から流入した流体は、弁箱(2)の凹所(2c)の底面とダイヤフラム(5)とによって囲まれた空間内に流入し、流体流出通路(2b)を経て外部へと流出する。
【0021】
ダイヤフラム(5)は、球殻状とされており、上に凸の円弧状が自然状態となっている。ダイヤフラム(5)は、例えば、ニッケル合金薄板からなるものとされ、円形に切り抜き、中央部を上方へ膨出させた球殻状に形成される。ダイヤフラム(5)は、ステンレス鋼薄板からなるものや、ステンレス鋼薄板とニッケル・コバルト合金薄板との積層体よりなるものとされることがある。
【0022】
押さえアダプタ(8)は、その下面(8a)全体が所定の傾斜角度とされたテーパ状または円弧状とされている。また、弁箱(2)の凹所(2c)の底面(14)は、円形の平坦部(14a)と、平坦部(14a)の外周に連なり平坦部(14a)に対して凹まされている環状の凹部(14b)とを有している。
【0023】
押さえアダプタ(8)は、ボンネット(3)が弁箱(2)にねじ合わされることで、ダイヤフラム(5)の外周縁部に上面から当接した状態で固定される。この際、押さえアダプタ(8)の下面(8a)全体がテーパ状とされていることにより、ダイヤフラム(5)は、球殻状(上に凸の円弧状)からほとんど変形することなく、その外周縁部の上面が押さえアダプタ(8)のテーパ状下面(8a)と面接触(広い範囲で接触)した状態で、押さえアダプタ(8)と弁箱(2)の凹所(2c)の底面(14)との間に保持される。また、弁箱(2)の凹所(2c)の底面(14)の外周縁部に凹部(14b)が設けられていることにより、ダイヤフラム(5)の外周縁部は、凹部(14b)内に収容される。したがって、ダイヤフラム(5)の外周縁部は、弁箱(2)の凹所(2c)の底面(14)に沿うような変形を受けることはなく、その下面が凹所(2c)の底面(14)の平坦部(14a)の外周(ダイヤフラム支持部)(14c)と線接触する。
【0024】
従来、ダイヤフラム(5)およびダイヤフラム押さえ(6)については、まず、ダイヤフラム(5)の曲率半径を最適化し、次いで、ダイヤフラム押さえ(6)の押圧面の曲率半径をダイヤフラム(5)の曲率半径と同じか、それより若干小さい値に設定するという順で、それぞれの曲率半径が設定されていた。
【0025】
本発明では、ダイヤフラム(5)の曲率半径をSRa、ダイヤフラム押さえ(6)の押圧面の曲率半径をSRbとして、SRb/SRaとダイヤフラム(5)に発生する応力との関係を有限要素法を用いて解析することで、ダイヤフラム(5)およびダイヤフラム押さえ(6)それぞれの曲率半径が設定されている。
【0026】
ダイヤフラム弁(1)の閉状態において、ダイヤフラム押さえ(6)によって押さえられた際のダイヤフラム(5)の変形の様子を図3から図5までに示す。図3は、SRb/SRaが0.4より小さいときのものを、図4は、SRb/SRaが0.6より大きいときのものを、図5は、SRb/SRaが0.5のときのものをそれぞれ示している。なお、各図の応力分布については、応力値が大きい部分を丸で囲むことで簡略化して示している。
【0027】
図3に示す解析結果によると、同図にAで示すダイヤフラム(5)の中央部において応力が最大となり、その値が1400MPa程度となっている。
【0028】
図4に示す解析結果によると、同図にBで示すダイヤフラム(5)の縁部において応力が最大となり、その値が1100MPa程度となっている。
【0029】
図5に示す解析結果によると、ダイヤフラム(5)の中央部および縁部において応力が均一化されており、応力の最大値が1000MPa程度となっている。
【0030】
図6から図8までに、ダイヤフラム(5)が受ける応力を有限要素法を用いて計算した結果について、SRb/SRaを変更したときに、ダイヤフラム(5)の中央部の最大応力および縁部の最大応力がどのように変化するかを示している。
【0031】
図6は、ダイヤフラム(5)の径が15φの場合、図7は、ダイヤフラム(5)の径が20φの場合、図8は、ダイヤフラム(5)の径が26φの場合をそれぞれ示している。
【0032】
図6から図8までのいずれにおいても、中央部の最大応力は、SRb/SRaの増加につれて減少する傾向にあり、また、縁部の最大応力は、SRb/SRaの増加につれて増加する傾向にある。そして、SRb/SRaが0.4より小さいと、中央部の最大応力が1000MPaを超え、SRb/SRaが0.6より大きいと、縁部の最大応力が1000MPaを超え、SRb/SRa=0.4〜0.6では、縁部および中央部の最大応力がいずれもせいぜい1000MPa程度以下となっている。
【0033】
実際の耐久性試験によると、SRb/SRaが0.7〜1程度のもの(従来から使用されているもの)では、ダイヤフラム(5)の縁部周辺から破断が発生した。そして、SRb/SRaが0.5程度のものでは、従来、数十万回の開閉操作でダイヤフラム(5)が破断していたものが、開閉操作を100万回以上行ってもダイヤフラム(5)が破断することはなかった。また、SRb/SRaを0.4未満とすると、ダイヤフラム(5)の中央部から早期に破断する現象が見られた。
【0034】
上記の解析結果および耐久試験結果から、ダイヤフラム(5)の径によらずに、SRb/SRa=0.4〜0.6とすることで、ダイヤフラム(5)の応力が均一化されて、過大な応力が軽減でき、耐久性が大幅に向上することが分かる。
【0035】
なお、上記のダイヤフラム弁において、ピストン(11)、圧縮コイルばね(付勢部材)(12)、操作エア導入室(13)、操作エア導入通路(7a)などは、ダイヤフラム押さえ(6)を上下移動させるステム(7)を上下移動させるアクチュエータ(10)を構成しているが、アクチュエータの構成は、図1に示したものに限定されるものではない。
【0036】
SRb/SRa=0.4〜0.6とすることでダイヤフラム(5)の応力が均一化される上記の技術思想は、ダイヤフラム弁(1)の個々の形状によらずに適用でき、特に、ダイレクトタッチ型のメタルダイヤフラム弁に適用することで、半導体製造設備のガス供給系等における信頼性向上に寄与できる。
【符号の説明】
【0037】
(1) ダイヤフラム弁
(2) 弁箱
(2a)流体流入通路
(2b)流体流出通路
(4) 弁座
(5) ダイヤフラム
(6) ダイヤフラム押さえ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8