特許第6564595号(P6564595)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6564595薬液ピペット装置、薬液移送システムおよび薬液移送方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6564595
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】薬液ピペット装置、薬液移送システムおよび薬液移送方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/36 20060101AFI20190808BHJP
   F04F 10/00 20060101ALI20190808BHJP
【FI】
   C12M1/36
   F04F10/00
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-66428(P2015-66428)
(22)【出願日】2015年3月27日
(65)【公開番号】特開2016-185089(P2016-185089A)
(43)【公開日】2016年10月27日
【審査請求日】2017年12月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】蓮沼 仁志
【審査官】 宮岡 真衣
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−185254(JP,A)
【文献】 特開2013−013367(JP,A)
【文献】 特開平10−191961(JP,A)
【文献】 実開昭57−025597(JP,U)
【文献】 特開2004−089137(JP,A)
【文献】 特開平06−165624(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00−1/42
F04F 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1容器内に挿入される上流端、および前記第1容器よりも下方に位置する第2容器内に挿入されるまたは前記第2容器の上方に配置される下流端を有するサイフォン管、前記サイフォン管に設けられた、前記上流端から前記サイフォン管内に薬液を導入するとともに、前記サイフォン管内の薬液を前記第1容器内の薬液の液面よりも下方の位置まで到達させる初期設定機構、および前記初期設定機構よりも下流側で前記サイフォン管に設けられた、前記サイフォン管内の流路を開閉する開閉弁を含む薬液ピペット装置と、
前記初期設定機構を駆動する第1駆動機構と、
前記開閉弁を駆動する第2駆動機構と、
前記サイフォン管内の薬液が前記第1容器内の薬液の液面よりも下方の位置まで到達した初期状態を検出するための初期状態検出センサと、
前記第1駆動機構を介して前記初期設定機構を操作し、かつ、前記第2駆動機構を介して前記開閉弁を操作する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記サイフォン管の上流端が前記第1容器内の薬液に浸されてから前記初期状態検出センサで前記初期状態が検出されるまでは、前記サイフォン管内の流路を閉じるように前記開閉弁を操作しつつ前記サイフォン管内に薬液が導入されるように前記初期設定機構を操作し、前記初期状態が検出されたときに前記初期設定機構の操作を停止するとともに前記サイフォン管内の流路を開くように前記開閉弁を操作し、
前記初期状態検出センサは、前記第1容器の重量を計測する重量計である、薬液移送システム。
【請求項2】
前記第2容器の重量を計測する重量計をさらに備える、請求項1に記載の薬液移送システム。
【請求項3】
前記制御装置は、前記重量計で計測される重量の変化量が所定値となったときに前記サイフォン管内の流路を閉じるように前記開閉弁を操作する、請求項またはに記載の薬液移送システム。
【請求項4】
前記初期設定機構は、前記サイフォン管から分岐する分岐管と、前記分岐管に接続された、容積変化する操作体を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の薬液移送システム。
【請求項5】
前記操作体は、前記分岐管に対して着脱可能に構成されている、請求項4に記載の薬液移送システム。
【請求項6】
前記サイフォン管には、前記第1容器の開口形成部と係合するキャップが取り付けられている、請求項1〜5のいずれか一項に記載の薬液移送システム。
【請求項7】
前記サイフォン管は、少なくとも一部に可撓性チューブを含み、前記開閉弁は、前記可撓性チューブをつまむように構成されている、請求項1〜6のいずれか一項に記載の薬液移送システム。
【請求項8】
前記開閉弁は、前記サイフォン管内の流路を任意の開度に設定できるように構成されている、請求項1〜7のいずれか一項に記載の薬液移送システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞を培養する際に使用される薬液ピペット装置、薬液移送システムおよび薬液移送方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞を培養する際には、第1容器から第2容器へ薬液を移送する作業が行われる。例えば、細胞の培養に用いられる薬液には、培地(栄養液)、培地と細胞の混合液である細胞懸濁液、洗浄液、剥離液、剥離液および/または培地と細胞の混合液である細胞回収液、細胞回収液中の細胞を沈殿させた上澄み液である上清などがある。
【0003】
細胞の培養は、初代培養、培地交換、継代培養などの作業に細分化される。以下、これらの作業での代表的な移送作業を説明する。初代培養では、採取した細胞を保持する保管容器へ培地容器から培地が移送されて混合された後、その保管容器から培養容器(例えば、特許文献1に記載されたフラスコ)へ細胞懸濁液が移送される(後半の移送は播種ともいう)。培地交換では、培養容器から廃棄容器へ古い培地が移送された後、培地容器から培養容器へ新しい培地が移送される。継代培養は、さらに洗浄作業、剥離作業、回収作業および播種作業に細分化される。
【0004】
洗浄作業では、まず、培養容器から廃棄容器へ古い培地が移送される。ついで、洗浄液容器から培養容器へ洗浄液が移送された後、培地容器から廃棄容器へ古い培地を含む洗浄液が移送される。剥離作業では、剥離液容器から培養容器へ剥離液が移送され、培養容器からの細胞の剥離が行われる。細胞と剥離液の混合液はそのまま細胞回収液として取り扱われてもよいし、さらにその混合液に培地が加えられたものが細胞回収液として取り扱われてもよい。あるいは、剥離液を廃棄した後に培地を供給することにより、細胞と培地の混合液が細胞回収液として取り扱われてもよい。回収作業では、培養容器から沈殿容器へ細胞回収液が移送された後、沈殿容器で細胞の沈殿が行われる。その後、沈殿容器から廃棄容器へ上清が移送される。播種作業では、培地容器から沈殿容器へ培地が移送された後、沈殿容器から新たな培養容器へ細胞懸濁液が移送される。
【0005】
上述したように、細胞の培養では、容器間での薬液の移送が多数行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014−143998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
容器間で薬液を移送する方法には、スポイト方式とデカンテーションがある。スポイト方式とは、第1容器内の薬液をスポイトで吸引し、第2容器内へスポイトから薬液を吐出する方法である。デカンテーションとは、第2容器上で第1容器を傾けて、第1容器から第2容器へ薬液を直接的に注ぐ方法である。なお、細胞の培養では、一般的に、異なる薬液に対して同じ移送用器具を使用することは汚染の観点から許されないため、小型で安価なスポイトを用いるスポイト方式と移送用器具を用いないデカンテーション以外の移送方法はあまり採用されていない。
【0008】
しかしながら、スポイト方式では、薬液の移送量が多い場合には、移送作業を何回も繰り返す必要がある。また、いったん第2容器内に挿入されたスポイトが再度第1容器内に挿入されるため、汚染のリスクもある。これに対し、デカンテーションでは、一度に多量の薬液を移送できるものの、薬液を注いだときに薬液が飛び散って周辺を汚すおそれがある。
【0009】
そこで、本発明は、周辺を汚さずに一度に多量の薬液を移送できる薬液ピペット装置および薬液移送方法を提供すること、ならびにその薬液ピペット装置を含む薬液移送システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明の薬液ピペット装置は、細胞の培養に用いられる薬液を第1容器から前記第1容器よりも下方に位置する第2容器へ移送する際に用いられるピペット装置であって、前記第1容器内に挿入される上流端、および前記第2容器内に挿入されるまたは前記第2容器の上方に配置される下流端を有するサイフォン管と、前記サイフォン管に設けられた、前記上流端から前記サイフォン管内に薬液を導入するとともに、前記サイフォン管内の薬液を前記第1容器内の薬液の液面よりも下方の位置まで到達させる初期設定機構と、を備える、ことを特徴とする。
【0011】
上記の構成によれば、サイフォンの原理により薬液を移送できるので、一度に多量の薬液を移送できる。しかも、薬液はサイフォン管の下流端から第2容器内に流出するので、薬液が飛び散って周辺を汚すことを防止できる。
【0012】
前記初期設定機構は、前記サイフォン管から分岐する分岐管と、前記分岐管に接続された、容積変化する操作体を含んでもよい。この構成によれば、サイフォン管を簡易かつコンパクトな構成としつつ、操作体の容積によってサイフォン管内への薬液の導入量を十分に確保することができる。
【0013】
前記操作体は、前記分岐管に対して着脱可能に構成されていてもよい。この構成によれば、異なる薬液に対しては、サイフォン管および分岐管を取り換える必要があるが、操作体は薬液に接していなければ継続して使用することができる。
【0014】
前記サイフォン管には、前記第1容器の開口形成部と係合するキャップが取り付けられていてもよい。この構成によれば、キャップを第1容器の開口成形部に係合させるだけで、サイフォン管3の上流端を所望の位置に位置決めおよび維持することができる。
【0015】
上記の薬液ピペット装置は、前記初期設定機構よりも下流側で前記サイフォン管に設けられた、前記サイフォン管内の流路を開閉する開閉弁をさらに備えてもよい。この構成によれば、開閉弁の操作により薬液の移送量を制御することができる。しかも、開閉弁によってサイフォン管内の流路を閉じた状態で操作体を操作すれば、サイフォン管の上流端で薬液の吸引と吐出を繰り返すことができる。従って、薬液ピペット装置を使用して、第1容器内で薬液を攪拌することができる。
【0016】
前記サイフォン管は、少なくとも一部に可撓性チューブを含み、前記開閉弁は、前記可撓性チューブをつまむように構成されていてもよい。この構成によれば、開閉弁を、薬液と非接触でかつ簡単な構成とすることができる。
【0017】
前記開閉弁は、前記サイフォン管内の流路を任意の開度に設定できるように構成されていてもよい。この構成によれば、薬液の移送量を精密に制御することができる。
【0018】
また、本発明の薬液移送システムは、前記初期設定機構および前記開閉弁を含む上記の薬液ピペット装置と、前記初期設定機構を駆動する第1駆動機構と、前記開閉弁を駆動する第2駆動機構と、前記サイフォン管内の薬液が前記第1容器内の薬液の液面よりも下方の位置まで到達した初期状態を検出するための初期状態検出センサと、前記第1駆動機構を介して前記初期設定機構を操作し、かつ、前記第2駆動機構を介して前記開閉弁を操作する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記サイフォン管の上流端が前記第1容器内の薬液に浸されてから前記初期状態検出センサで前記初期状態が検出されるまでは、前記サイフォン管内の流路を閉じるように前記開閉弁を操作しつつ前記サイフォン管内に薬液が導入されるように前記初期設定機構を操作し、前記初期状態が検出されたときに前記初期設定機構の操作を停止するとともに前記サイフォン管内の流路を開くように前記開閉弁を操作する、ことを特徴とする。
【0019】
上記の構成によれば、薬液の移送を自動化することができる。
【0020】
例えば、前記初期状態検出センサは、前記第1容器の重量を計測する重量計であってもよい。あるいは、上記の薬液移送システムは、第2容器の重量を計測する重量計をさらに備えてもよい。
【0021】
前記制御装置は、前記重量計で計測される重量の変化量が所定値となったときに前記サイフォン管内の流路を閉じるように前記開閉弁を操作してもよい。この構成によれば、薬液を定量的に移送することができる。
【0022】
また、本発明の薬液移送方法は、細胞の培養に用いられる薬液を第1容器から前記第1容器よりも下方に位置する第2容器へ移送する方法であって、サイフォン管の上流端を前記第1容器内の薬液に浸すとともに、前記サイフォン管の下流端を前記第2容器内に挿入するまたは前記第2容器の上方に配置する準備工程と、前記サイフォン管の上流端から前記サイフォン管内に薬液を導入するとともに、前記サイフォン管内の薬液を前記第1容器内の薬液の液面よりも下方の位置まで到達させる初期設定工程と、前記サイフォン管の下流端から前記第2容器内に薬液を流出させる移送工程と、を備える、ことを特徴とする。
【0023】
上記の構成によれば、サイフォンの原理により薬液を移送できるので、一度に多量の薬液を移送できる。しかも、薬液はサイフォン管の下流端から第2容器内に流出するので、薬液が飛び散って周辺を汚すことを防止できる。
【0024】
前記サイフォン管には、前記第1容器の開口形成部と係合するキャップが取り付けられていてもよい。前記初期設定工程では、前記サイフォン管に設けられた初期設定機構であって、前記サイフォン管から分岐する分岐管と、前記分岐管に接続された、容積変化する操作体と、を含む初期設定機構を使用してもよい。前記操作体は、前記分岐管に対して着脱可能に構成されていてもよい。前記サイフォン管には、前記初期設定機構よりも下流側に、前記サイフォン管内の流路を開閉する開閉弁が設けられていてもよい。前記サイフォン管は、少なくとも一部に可撓性チューブを含み、前記開閉弁は、前記可撓性チューブをつまむように構成されていてもよい。前記開閉弁は、前記サイフォン管内の流路を任意の開度に設定できるように構成されていてもよい。これらの構成による効果は、上述したのと同様である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、周辺を汚さずに一度に多量の薬液を移送できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の一実施形態に係る薬液ピペット装置の概略構成図である。
図2】薬液ピペット装置の第1変形例を示す図である。
図3】薬液ピペット装置の第2変形例を示す図である。
図4】薬液ピペット装置の第3変形例を示す図である。
図5図1に示す薬液ピペット装置を含む薬液移送システムの概略構成図である。
図6】薬液移送システムの変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(薬液ピペット装置)
図1に、本発明の一実施形態に係る薬液ピペット装置2を示す。この薬液ピペット装置2は、細胞の培養に用いられる薬液10を第1容器11から第2容器12へ移送する際に用いられる。
【0028】
なお、第1容器11、第2容器12および薬液10の組合せの例示は、背景技術の欄で説明したとおりである。すなわち、第1容器11、第2容器12および薬液10の組合せは、以下の表1のいずれであってもよい。また、第1容器11および第2容器12の形状はどのような形状であってもよいし(例えば、薄いシャーレやフラスコなど)、第1容器11と第2容器12の一方または双方が薬液10が一ヶ所に集まるように傾けられてもよい。
【0029】
【表1】
【0030】
第2容器12は、第1容器11よりも下方に位置する。ただし、第1容器11と第2容器12の水平方向の位置関係は、特に制限されるものではない。第1容器11と第2容器12の鉛直方向の位置関係については、必ずしも第2容器12の全体が鉛直方向において第1容器11の底よりも下方に位置している必要はない。
【0031】
薬液ピペット装置2は、吸引口である上流端3aおよび排出口である下流端3bを有するサイフォン管3と、サイフォン管3に設けられた初期設定機構4Aを含む。さらに、サイフォン管3には、初期設定機構4Aよりも下流側に、サイフォン管3内の流路を開閉する開閉弁5が設けられている。
【0032】
サイフォン管3は、上流端3aから下流端3bに向かって上向きから下向きに反転する形状を有している。上流端3aは、第1容器11内に挿入されて、第1容器11内の薬液10に浸される。下流端3bは、第2容器12内に挿入されてもよいし、第2容器12の上方に配置されてもよい。サイフォン管3内の流路の断面積は、薬液10の種類や粘性等により決定される。
【0033】
本実施形態では、下流端3bに、硬質材料からなるノズル31が形成されており、サイフォン管3のその他の部分は、可撓性チューブ32で構成されている。ただし、サイフォン管3における後述するつまみ式の開閉弁5に対応する部分だけ可撓性チューブ32で構成され、サイフォン管3における可撓性チューブ32とノズル31の間の部分および可撓性チューブ32から上流端3aまでの部分は、硬質チューブで構成されてもよい。換言すれば、つまみ式の開閉弁5が採用される場合は、サイフォン管3は、少なくとも一部に可撓性チューブ32を含めばよい。あるいは、ノズル31が設けられずに、サイフォン管3の全体が可撓性チューブ32で構成されてもよい。さらには、つまみ式以外の開閉弁が採用される場合は、サイフォン管3の全体が硬質チューブで構成されてもよい。
【0034】
さらに、本実施形態では、サイフォン管3における上流端3aから上向きに延びる部分に、第1容器11の開口形成部と係合するキャップ21が取り付けられている。この係合には、例えば、ネジ構造や嵌合を用いることができる。キャップ21は、第1容器11の開口を完全に閉塞しないように構成されている。例えば、キャップ21には、通気孔が設けられる。このように、キャップ21がサイフォン管3に取り付けられていれば、キャップ21を第1容器11の開口成形部に係合させるだけで、サイフォン管3の上流端3aを所望の位置に位置決めおよび維持することができる。ただし、薬液10を廃棄する場合などで上流端3aの位置を操作する場合には、キャップ21は省略可能である。
【0035】
開閉弁5は、可撓性チューブ32をつまむ(pinch)ように構成されている。具体的に、開閉弁5は、可撓性チューブ32に沿う固定板51と、可撓性チューブ32を挟んで固定板51と反対側に配置されたつまみ部材52を含む。つまみ部材52は、図略のヒンジにより固定板51と連結されており、図略のバネにより固定板51に近づく方向又は固定板51から遠ざかる方向に付勢されている。
【0036】
より詳しくは、つまみ部材52は、可撓性チューブ32を押し潰さない開位置と、固定板51上で可撓性チューブ32を完全に押し潰す閉位置との間で移動する。さらに、つまみ部材52は、開位置と閉位置の間の任意の位置で停止することができる。換言すれば、開閉弁5は、サイフォン管3内の流路を任意の開度に設定できるように構成されている。ただし、開閉弁5は、開位置と閉位置との間でのみ移動してもよい。
【0037】
初期設定機構4Aは、サイフォン管3の上流端3aからサイフォン管3内に薬液10を導入するとともに、サイフォン管3内の薬液10を第1容器11内の薬液10の液面よりも下方の位置まで到達させるためのものである。具体的に、初期設定機構4Aは、サイフォン管3から分岐する分岐管41と、分岐管41に接続された操作体42を含む。
【0038】
操作体42は、容積変化するものである。本実施形態では、操作体42として、卵形のゴムポンプであって圧縮されても自身の復元力で元の形状に戻るゴムポンプが採用されている。ただし、容積変化する操作体42は、例えばシリンジであってもよい。
【0039】
操作体42は、分岐管41に対して着脱可能に構成されていることが望ましい。異なる薬液10に対しては、サイフォン管3および分岐管41を取り換える必要があるが、操作体42は薬液10に接していなければ継続して使用することができるからである。例えば、着脱可能な構造は、ネジ構造であってもよいし、圧入構造であってもよい。
【0040】
次に、薬液ピペット装置2を使用する方法を説明する。なお、操作体42およびつまみ部材52の操作は、手動で行われてもよいし、電動アクチュエータなどを用いて行われてもよい。
【0041】
まず、サイフォン管3の上流端3aを第1容器11内の薬液10に浸すとともに、サイフォン管3の下流端3bを第2容器12内に挿入するまたは第2容器12の上方に配置する(準備工程)。ついで、サイフォン管3内の流路を閉じるように開閉弁5のつまみ部材52を操作する。なお、このつまみ部材52の操作は、準備工程の前に行ってもよい。
【0042】
その後、初期設定機構4Aを使用して、サイフォン管3の上流端3aからサイフォン管3内に薬液10を導入するとともに、サイフォン管3内の薬液10を第1容器11内の薬液10の液面よりも下方の位置まで到達させる(初期設定工程)。具体的には、まず、操作体42の容積を減少させて、吸引可能な状態を形成する。なお、この吸引可能な状態の形成は、準備工程の前に行ってもよい。ついで、操作体42の容積を徐々に元に戻す。これにより、サイフォン管3の上流端3aからサイフォン管3内に薬液10が導入される。
【0043】
操作体42の容積を徐々に元に戻す間または元に戻した後に、サイフォン管3内の薬液10が第1容器11内の薬液10の液面よりも下方の位置まで到達すれば、サイフォン管3内の流路を開くように開閉弁5のつまみ部材52を操作する。これにより、サイフォン管3の下流端3bから第2容器12内に薬液10が流出する(移送工程)。
【0044】
なお、初期設定工程における操作体42の容積の減少(吸引可能な状態の形成)は、サイフォン管3内の上流端3aから分岐管41の分岐点までの体積よりも僅かに少ない分だけ行われてもよい。このようにすれば、操作体42の容積を元に戻すだけで、サイフォン管3内の薬液10が第1容器11内の薬液10の液面よりも下方の位置まで到達した初期状態を実現することができる。
【0045】
以上説明したように、本実施形態の薬液ピペット装置2では、サイフォンの原理により薬液10を移送できるので、一度に多量の薬液10を移送できる。しかも、薬液10はサイフォン管3の下流端3bから第2容器12内に流出するので、薬液10が飛び散って周辺を汚すことを防止できる。
【0046】
また、本実施形態では開閉弁5が設けられているので、開閉弁5の操作により薬液10の移送量を制御することができる。しかも、開閉弁5によってサイフォン管3内の流路を閉じた状態で操作体42を操作すれば、サイフォン管3の上流端で薬液10の吸引と吐出を繰り返すことができる。従って、薬液ピペット装置2を使用して、第1容器11内で薬液10を攪拌することができる。このような撹拌は、例えば保管容器内での細胞と培地の混合に有用である。
【0047】
さらに、開閉弁5が可撓性チューブ32をつまむように構成されているので、開閉弁5を、薬液10と非接触でかつ簡単な構成とすることができる。また、開閉弁5はサイフォン管3内の流路を任意の開度に設定できるので、薬液10の移送量を精密に制御することができる。
【0048】
<変形例>
薬液ピペット装置2の構成は、前記実施形態で説明したとおりである必要はなく、種々の変形が可能である。
【0049】
例えば、薬液10の移送量をそれほど厳密に制御する必要がない場合には、図2に示すように、開閉弁5の代わりに、揺動式の弁体61を含む逆止弁6が用いられてもよい。この構成であれば、操作体42の操作のみで薬液10の移送を開始することができる。薬液10の移送は、サイフォン管3の上流端3aを第1容器11内の薬液10中から取り出すことにより停止することができる。
【0050】
また、サイフォン管3の脇に配置される初期設定機構4Aに代えて、図3に示すように、サイフォン管3に組み込まれた初期設定機構4Bを用いてもよい。この初期設定機構4Bは、一対の逆止弁6と、これらの逆止弁6の間に設けられた操作体42を含む。つまり、操作体42は、サイフォン管3の一部を構成する。
【0051】
さらに、本発明の初期設定機構は、必ずしも容積変化する操作体42を含む必要はなく、図4に示すような初期設定機構4Cであってもよい。この初期設定機構4Cは、サイフォン管3の一部を構成する真空管44と、真空管44内の真空度を保つための一対の開閉弁43を含む。この構成でも、上流側の開閉弁43を開けば、第1容器11内の薬液10を上流端3aからサイフォン管3内に導入することができるとともに、サイフォン管3内の薬液10を第1容器11内の薬液10の液面よりも下方の位置まで到達させることができる。その後、下流側の開閉弁43を開けば、サイフォン管3の下流端3bから薬液10が流出する。なお、一対の開閉弁43のどちらか一方は、薬液10の移送量を制御する開閉弁として使用することができる。
【0052】
ただし、図3および図4に示す初期設定機構4B,4Cを採用するよりも、図1および図2に示す分岐管41および操作体42を含む初期設定機構4Aを採用すれば、サイフォン管3を簡易かつコンパクトな構成としつつ、操作体42の容積によってサイフォン管3内への薬液10の導入量を十分に確保することができる。しかも、操作体42の容積に余裕があり、初期状態が達成されたときに操作体42の操作が途中であれば、サイフォン管3の上流端3aが薬液10から抜け出したときに、直ちに薬液10の吸引を開始して移送を継続することができる。
【0053】
また、サイフォン管3および開閉弁5のセットを複数用いれば、それらの開閉弁5の開閉だけで、移送される薬液10の流量を制御することができる。
【0054】
(薬液移送システム)
次に、図5を参照して、図1に示す薬液ピペット装置2を含む薬液移送システム7を説明する。この薬液移送システム7によれば、薬液10の移送を自動化することができる。
【0055】
具体的に、薬液移送システム7は、サイフォン管3を支持するフレーム73と、フレーム73に固定された第1駆動機構71および第2駆動機構72と、第1駆動機構71および第2駆動機構72を制御する制御装置8を含む。また、薬液移送システム7は、第1容器11が載置される第1テーブル75と、第2容器12が載置される第2テーブル76を含む。本実施形態では、第2テーブル76上に、第2容器12の重量を計測する重量計91が配置されている。
【0056】
第1駆動機構71は、初期設定機構4Aの操作体42を駆動し、第2駆動機構72は、開閉弁5のつまみ部材52を駆動する。制御装置8は、第1駆動機構71を介して初期設定機構4Aの操作体42を操作し、第2駆動機構72を介して開閉弁5のつまみ部材52を操作する。
【0057】
制御装置8は、上述した重量計91と接続されているとともに、初期状態検出センサ92および操作パネル81と接続されている。初期状態検出センサ92は、サイフォン管3内の薬液10が第1容器11内の薬液10の液面よりも下方の位置まで到達した初期状態を検出するためのものであり、サイフォン管3における下流端3bに向かって下方に延びる部分の中間に位置するようにフレーム73に取り付けられている。初期状態検出センサ92は、サイフォン管3における分岐管41の分岐点よりも上流側に位置することが望ましい。分岐管41内にまで薬液が導入されることを防止するためである。操作パネル81は、使用者からの薬液10の移送の開始の入力を受け付ける。なお、制御装置8は、フレーム73に取り付けられて、制御装置8と外部通信機器(図示せず)との間で無線通信により各種の信号が伝達されてもよい。例えば、外部通信機器に操作パネル81が含まれ、移送開始信号が外部通信機器から制御装置8に送信されてもよい。
【0058】
次に、制御装置8による初期設定機構4Aの操作体42および開閉弁5のつまみ部材52の操作を説明する。これらの操作が行われる前には、サイフォン管3の上流端3aが第1容器11内の薬液10に浸されるとともに、サイフォン管3の下流端3bが第2容器12内に挿入されるまたは第2容器12の上方に配置される。この準備作業は、フレーム73を鉛直方向に駆動する駆動機構を用いて自動的に行ってもよいし、手動で行ってもよい。
【0059】
操作パネル81を通じて薬液10の移送の開始が入力されると、制御装置8は、サイフォン管3の上流端3aが第1容器11内の薬液10に浸されてから初期状態検出センサ92で初期状態が検出されるまでは、サイフォン管3内の流路を閉じるようにつまみ部材52を操作しつつ、サイフォン管3内に薬液10が導入されるように操作体42を操作する。操作体42の操作については、薬液ピペット装置2の使用方法で説明したとおりである。そして、初期状態検出センサ92により初期設態が検出されたときには、制御装置8は、操作体42の操作を停止するとともに、サイフォン管3内の流路を開くようにつまみ部材52を操作する。このように操作体42の操作を停止することによって、操作体42内に薬液10が吸引されることを防止できる。さらに、制御装置8は、重量計91で計測される重量の変化量が所定値となったときにサイフォン管3内の流路を閉じるようにつまみ部材52を操作する。これにより、薬液10を定量的に移送することができる。また、複数の第2容器12へ薬液10を定量ずつ供給することもできる。
【0060】
つまみ式の開閉弁5は、第2駆動機構72に組み込まれていてもよい。このような構成であれば、サイフォン管3(図1では、可撓性チューブ32およびノズル31)および初期設定機構4Aのみを消耗品とすることができる。
【0061】
<変形例>
重量計91は、第1テーブル75上に配置され、第1容器11の重量を計測してもよい。この構成でも、重量計91で計測される重量の変化量が所定値となったときに、サイフォン管3内の流路を閉じるようにつまみ部材52が操作される。
【0062】
また、第1容器11の重量を計測する重量計91は、サイフォン管3内に導入された薬液10の量を検出することも可能であるので、サイフォン管3内の薬液10が第1容器11内の薬液10の液面よりも下方の位置まで到達した初期状態を検出する初期状態検出センサとして使用することができる。この場合、図5に示すようなサイフォン管3の途中に設けられる初期状態検出センサ92は不要となる。
【0063】
さらに、重量計91に代えて、図6に示すような第1容器11内の薬液10の液面を検出するレベル計93が用いられてもよい。このようなレベル計93を用いれば、液面の変化量によってサイフォン管3内に導入された薬液10の量を把握することができるため、図5に示すようなサイフォン管3の途中に設けられる初期状態検出センサ92は不要となる。換言すれば、レベル計93は、サイフォン管3内の薬液10が第1容器11内の薬液10の液面よりも下方の位置まで到達した初期状態を検出する初期状態検出センサとしても機能する。
【0064】
さらには、第2駆動機構72を省略すれば、図1に示す薬液ピペット装置2の代わりに、図2または図3に示す薬液ピペット装置2を用いることができる。あるいは、第1駆動機構71を省略して、第2駆動機構72を2つ設ければ、図1に示す薬液ピペット装置2の代わりに、図4に示す薬液ピペット装置2を用いることができる。
【0065】
(その他の実施形態)
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0066】
10 薬液
11 第1容器
12 第2容器
2 薬液ピペット装置
21 キャップ
3 サイフォン管
3a 上流端
3b 下流端
32 可撓性チューブ
4A〜4C 初期設定機構
41 分岐管
42 操作体
5 開閉弁
6 逆止弁
61 弁体
7 薬液移送システム
71 第1駆動機構
72 第2駆動機構
8 制御装置
91 重量計
92 初期状態検出センサ
93 レベル計(初期状態検出センサ)
図1
図2
図3
図4
図5
図6