特許第6564647号(P6564647)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大和製罐株式会社の特許一覧

特許6564647電池の劣化状態推定装置及び、その劣化状態推定方法
<>
  • 特許6564647-電池の劣化状態推定装置及び、その劣化状態推定方法 図000007
  • 特許6564647-電池の劣化状態推定装置及び、その劣化状態推定方法 図000008
  • 特許6564647-電池の劣化状態推定装置及び、その劣化状態推定方法 図000009
  • 特許6564647-電池の劣化状態推定装置及び、その劣化状態推定方法 図000010
  • 特許6564647-電池の劣化状態推定装置及び、その劣化状態推定方法 図000011
  • 特許6564647-電池の劣化状態推定装置及び、その劣化状態推定方法 図000012
  • 特許6564647-電池の劣化状態推定装置及び、その劣化状態推定方法 図000013
  • 特許6564647-電池の劣化状態推定装置及び、その劣化状態推定方法 図000014
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6564647
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】電池の劣化状態推定装置及び、その劣化状態推定方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/392 20190101AFI20190808BHJP
   G01R 31/3835 20190101ALI20190808BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20190808BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20190808BHJP
【FI】
   G01R31/392
   G01R31/3835
   H01M10/48 P
   H02J7/00 Q
【請求項の数】9
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-159800(P2015-159800)
(22)【出願日】2015年8月13日
(65)【公開番号】特開2016-145795(P2016-145795A)
(43)【公開日】2016年8月12日
【審査請求日】2018年6月21日
(31)【優先権主張番号】特願2015-17264(P2015-17264)
(32)【優先日】2015年1月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000208455
【氏名又は名称】大和製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140176
【弁理士】
【氏名又は名称】砂川 克
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100124394
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 立志
(74)【代理人】
【識別番号】100112807
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 貴志
(74)【代理人】
【識別番号】100111073
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 美保子
(72)【発明者】
【氏名】有馬 理仁
(72)【発明者】
【氏名】鬼木 直樹
(72)【発明者】
【氏名】須永 直樹
(72)【発明者】
【氏名】権藤 僚
【審査官】 永井 皓喜
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−88110(JP,A)
【文献】 特開2005−269760(JP,A)
【文献】 特開2007−178401(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0119445(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/392
G01R 31/3835
G01R 31/388
G01R 31/382
G01R 31/385
H01M 10/48
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池の充電状態を検知し、予め定めた充電上限電圧まで満充電させる充電部と、
満充電された前記二次電池に対して、負荷を電気的に接続し、前記二次電池から電力を定電力で放電させる放電部と、
放電が開始されてから、前記二次電池内で電荷移動に伴う過渡応答が消失する時間経過後から予め規定された時間範囲内で計測を開始して、放電電圧を測定する電圧測定部と、
測定値から求められた前記放電電圧と前記充電上限電圧との差電圧を用いて、残存容量、充放電効率、プラトー終点容量のうちの少なくともいずれか1つの推定値を推定する推定演算処理部と、を具備することを特徴とする電池の劣化状態推定装置。
【請求項2】
電池の劣化状態推定装置により二次電池の劣化状態を推定する方法であって、
二次電池の充電状態を検知し、予め定めた充電上限電圧Vcまで満充電させる充電処理と、
満充電された前記二次電池に対して、負荷を電気的に接続した状態で前記二次電池から電力を定電力で放電させる放電処理と、
放電が開始されてから、前記二次電池内で電荷移動に伴う過渡応答が消失する時間経過後から予め規定された時間範囲内で計測を開始して、放電電圧を測定する電圧測定処理と、
測定値から求められた前記放電電圧と前記充電上限電圧との差電圧を用いて、残存容量、充放電効率、プラトー終点容量のうちの少なくともいずれか1つの推定値を推定する推定演算処理と、を具備することを特徴とする電池の劣化状態推定方法。
【請求項3】
二次電池の前記残存容量を用いて劣化状態を推定する方法において、
前記推定演算処理は、前記二次電池の残存容量Crを計算し推定する残存容量推定処理を含み、
前記残存容量推定処理は、
前記放電処理の処理中において電荷移動に伴う過渡応答が消失後に規定された時間の範囲内で計測が開始されて取得された放電電圧Vdと前記充電上限電圧Vcとの差電圧Veが計算され、予め求められた前記差電圧Veと放電容量Cdの関係式、
Ve = Vc - Vd、
Cd = A×Ve + B (A及びBは定数)
に基づいて、前記差電圧Veから算出された放電容量Cdから、予め放電容量Cdに関連づけられた残存容量Crを推定することにより、電池の劣化状態を推定することを特徴とする蓄電システムに搭載された請求項2に記載の電池の劣化状態推定方法。
【請求項4】
前記差電圧Veと放電容量Cdの関係式、
Ve = Vc - Vd
Cd = A × Ve + B (A及びBは定数)
における定数AおよびBが、二次電池の充放電サイクル試験で差電圧Veと放電容量Cdの特性線上に発生する変曲点となる充放電サイクル以降の複数の充放電サイクルから得られた充放電結果に基づき、最小2乗法による線形近似によって求められることを特徴とする請求項3に記載の電池の劣化状態推定方法。
【請求項5】
前記差電圧Veと放電容量Cdの関係式、
Ve = Vc - Vd
Cd= A × Ve + B (A及びBは定数)
における定数AおよびBが、充放電サイクル初期の負極表面皮膜形成とそれに伴うイオン脱挿入の安定化によって起こる電池容量増加効果が発現しなくなったサイクル以降の複数サイクルの充放電結果に基づき、最小2乗法による線形近似によって求められることを特徴とする請求項3に記載の電池の劣化状態推定方法。
【請求項6】
二次電池の前記充放電効率を用いて劣化状態を推定する方法において、
前記推定演算処理は、前記二次電池の充放電効率Edを計算し推定する充放電効率推定処理を含み、
前記充放電効率推定処理は、
前記放電処理の処理中において電荷移動に伴う過渡応答が消失後に規定された時間の範囲内で計測が開始されて取得された放電電圧Vdと前記充電上限電圧Vcとの差電圧Veが計算され、予め求められた前記差電圧Veと充放電効率Edの関係式、
Ve = Vc - Vd、
Ed = A1×Ve + B1 (A1及びB1は定数)
に基づいて、前記差電圧Veから算出された充放電効率Edに相関係数を持たせた推定充放電効率Erを推定し、該推定充放電効率Erの変化量に基づき、電池の劣化状態を推定することを特徴とする蓄電システムに搭載された請求項2に記載の電池の劣化状態推定方法。
【請求項7】
前記差電圧Veと充放電効率Edの関係式、
Ve =Vc - Vd
Ed = A1×Ve + B1 (A1及びB1は定数)
の定数A1及びB1が直線的な下降に変わる変曲点となる充放電サイクルを起点とした予め設定した充放電サイクルまでの充放電結果から最小二乗法で線形近似求められることを特徴とする請求項6に記載の電池の劣化状態推定方法。
【請求項8】
二次電池の前記プラトー終点容量を用いて劣化状態を推定する方法において、
前記推定演算処理は、前記二次電池のプラトー終点容量Pdを計算し推定するプラトー終点容量推定処理を含み、
前記プラトー終点容量推定処理は、
前記放電処理の処理中において電荷移動に伴う過渡応答が消失後に規定された時間の範囲内で計測が開始されて取得された放電電圧Vdと前記充電上限電圧Vcとの差電圧Veが計算され、前記差電圧Veとプラトー終点容量Pdの関係式、
Ve = Vc - Vd、
Pd = A2×Ve + B2 (A2及びB2は定数)
に基づいて、前記差電圧Veから算出されたプラトー終点容量Pdに相関係数を持たせた推定プラトー終点容量Prを推定し、該推定プラトー終点容量Prの変化に基づき、電池の劣化状態を推定することを特徴とする蓄電システムに搭載された請求項2に記載の電池の劣化状態推定方法。
【請求項9】
前記差電圧Veと前記プラトー終点容量Pdの関係式、
Ve =Vc - Vd
Pd = A2×Ve + B2 (A2及びB2は定数)
の定数A2及びB2が直線的な下降に変わる変曲点となる充放電サイクルを起点とした予め設定した充放電サイクルまでの充放電結果から最小二乗法で線形近似求められることを特徴とする請求項8に記載の電池の劣化状態推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池の劣化状態を推定する電池の劣化状態推定装置及び、その劣化状態推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、充電により再利用可能で高性能な二次電池として、リチウムイオン電池が多種多様な機器の電源として利用されている。このリチウムイオン電池は、携帯可能な小型電子機器からビルディング等の大型建造物内に設置される蓄電装置等の大容量機器まで用いられている。例えば、大型建造物内に設置される蓄電装置に搭載されているリチウムイオン電池は、電力需要を低減するピークカットや、夜間電力を蓄電して昼間に使用するピークシフトを目的として、または災害対策用の非常用電源として利用されている。
【0003】
この大容量蓄電装置の多くは、交流の送配電系統と、直流出力のリチウムイオン電池との間を双方向インバータで中継して系統連系され、双方向インバータにとって変換効率の高い電力値で出入力するよう設計される。搭載されたリチウムイオン電池は単体、ユニット毎、全体のいずれかまたは全てを単位として、出力電圧又は残存容量が計測され、過充電や過放電が発生しないように、設定された上限又は下限の電圧に達した時に、双方向インバータとの出入力が遮断される。また同様に、リチウムイオン電池の温度が常時、計測され、過熱又は過冷却された状態で稼働されないように制御されている。
【0004】
このような大容量の蓄電装置は、ピークカットやピークシフトによる電気料金削減から得られる経済効果をできる限り多く享受するため、または将来の災害に備えるために長期間使用することが想定される。リチウムイオン電池は、メモリ効果を有していないが、使用開始からの時間経過(充電回数)に従い、電極等が劣化し、徐々に残存容量が低下する特性、所謂、電池の容量劣化を有している。このようなリチウムイオン電池を用いた大容量の蓄電装置における使用者や管理者にとっては、リチウムイオン電池の劣化状態の管理が重要な関心事となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−044149号公報
【特許文献2】特開2002−131402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
通常、現在のリチウムイオン電池の劣化状態の管理方法の1つの手法である残存容量を知るためには、定められた条件で電池を満充電した後、放電した時の電池の電圧値を測定している。この測定方法では、充放電に時間を要するという課題があり、これに対して例えば、特許文献1には、放電容量を測定せずに、複数周波数でのインピーダンスと放電容量の関係を利用した残存容量推定方法が提案されている。この推定方法は、家庭用等の小容量の蓄電装置に対して簡易に適用できる反面、大容量の蓄電装置の場合、インピーダンス測定ユニットと、これを制御し演算する制御ユニットを別途、搭載しなければならず、装置全体が複雑化し、製造及び運用のコストが増大することとなる。また、既存の大容量の蓄電装置に対しては、後付けによる対応ができない場合もある。
【0007】
また例えば、特許文献2においては、満充電したリチウムイオン電池を放電し、放電開始から所定時間の経過後に、2時点で計測した放電電圧の差を用いて、電池の残存容量を推定する測定方法が提案されている。この測定方法においては、有効なデータを得るために、リチウムイオン電池から所定時間の放電が必須である。大容量蓄電システムに適用する場合、充電回数に限りがあるため、放電時間をより少なくしなければ、残存容量推定を行うために無駄に多くの電力量を消費し、電池寿命を早めてしまう。
【0008】
さらに、遠隔して建造された複数の大型建造物のそれぞれに大容量の蓄電装置を設置し、集中管理を行う蓄電システムを構築した場合には、各蓄電装置の稼働状態に関する情報(例えば、電池の出力電力値や残存容量等)を一括的に集中させて取得する必要がある。これらの情報は、専用のネットワーク回線又は、一般のネットワーク通信網(例えば、インターネット)を通じて、送受信される。このため、それぞれ蓄電装置から発信される情報量が大きい程、通信時間を要することとなり、通信回数(蓄電装置数)によっては、ネットワークの占有時間が膨大となり、インターネットを利用した場合には、他の機器に対して通信障害となり得る。従って、通信される情報は、必要最小限の情報量とすることが望まれている。
【0009】
そこで本発明は、容量の蓄電装置に搭載される電池の残存容量推定、充放電効率推定およびプラトー終点容量推定に好適し、放電電圧と前記充電上限電圧との差電圧を用いて、残存容量、充放電効率、プラトー終点容量のうち、少なくともいずれか1つの推定値から電池の劣化状態を推定することにより、装置構成の複雑化及びコスト増大を抑制し、且つネットワーク通信に好適する情報量となる電池の劣化状態情報を生成する電池の劣化状態推定装置及び、その劣化状態推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に従う実施形態は、二次電池の充電状態を検知し、予め定めた充電上限電圧まで満充電させる充電部と、満充電された前記二次電池に対して、負荷を電気的に接続し、前記二次電池から電力を定電力で放電させる放電部と、放電が開始されてから、前記二次電池内で電荷移動に伴う過渡応答が消失する時間経過後から予め規定された時間範囲内で計測を開始して、放電電圧を測定する電圧測定部と、測定値から求められた前記放電電圧と前記充電上限電圧との差電圧を用いて、残存容量、充放電効率、プラトー終点容量のうちの少なくともいずれか1つの推定値を推定する推定演算処理部と、を備える電池の残存容量推定装置を提供する。
【0011】
さらに、本発明に従う実施形態は、電池の劣化状態推定装置により二次電池の劣化状態を推定する方法であって、二次電池の充電状態を検知し、予め定めた充電上限電圧Vcまで満充電させる充電処理と、満充電された前記二次電池に対して、負荷を電気的に接続した状態で前記二次電池から電力を定電力で放電させる放電処理と、放電が開始されてから、前記二次電池内で電荷移動に伴う過渡応答が消失する時間経過後から予め規定された時間範囲内で計測を開始して、放電電圧を測定する電圧測定処理と、測定値から求められた前記放電電圧と前記充電上限電圧との差電圧を用いて、残存容量、充放電効率、プラトー終点容量のうちの少なくともいずれか1つの推定値を推定する推定演算処理と、を具備することを特徴とする電池の劣化状態推定方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、大容量の蓄電装置に搭載される電池の残存容量推定、充放電効率推定およびプラトー終点容量推定に好適し、放電電圧と前記充電上限電圧との差電圧を用いて、残存容量、充放電効率、プラトー終点容量のうち、少なくともいずれか1つの推定値から電池の劣化状態を推定することにより、装置構成の複雑化及びコスト増大を抑制し、且つネットワーク通信に好適する情報量となる電池の劣化状態情報を生成する電池の劣化状態推定装置及び、その劣化状態推定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、第1の実施形態に係る電池の劣化状態推定装置を搭載する蓄電システムの構成を示すブロック図である。
図2図2は、複数の蓄電装置がネットワーク通信を行う蓄電システムの構成例を示す図である。
図3図3は、電池の電池の劣化状態推定装置の構成例を示すブロック図である。
図4図4は、劣化状態推定装置による残存容量推定方法について説明するためのフローチャートである。
図5図5は、差電圧と放電容量の関係を示す図である。
図6図6は、変曲点を有する差電圧と放電容量の関係を示す図である。
図7図7は、第2の実施形態に係る蓄電装置における充放電効率の推定について説明するための図である。
図8図8は、第3の実施形態に係る蓄電装置におけるプラトー終点容量推定について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1は、第1の実施形態に係る電池の劣化状態推定装置を搭載する蓄電装置の構成を示している。図2は、複数の蓄電装置がネットワーク通信を行う蓄電システムの構成例を示す図である。図3は、電池の劣化状態推定装置の構成例を示す図である。
【0015】
この蓄電装置1は、主として、パワーコンディショナ(Power conditioning system)2と、電池モジュール3と、バッテリー管理部(バッテリーマネジメントユニットBMU:Battery Management Unit)4と、エネルギー管理部(エネルギーマネジメントユニットEMU:Energy Management Unit 又はEMS:Energy Management system)5と、劣化状態推定装置6と、電池温度測定部7と、で構成される。尚、図示していないが、通常の蓄電装置が備えている構成部位は、本実施形態の蓄電装置も備えているものとし、詳細な説明は省略する。
【0016】
本実施形態は、電池に対して、満充電状態の充電上限電圧Vcから規定時間後に放電電圧Vdischarge(以下、Vdとする)を測定して、その測定結果から残存容量を推定し、その残存容量から電池の劣化状態の推定を行う例である。
【0017】
パワーコンディショナ2は、外部の電力会社等の電力系統9から供給された電力や太陽光発電システムから供給された電力又は、電池モジュール3から供給された電力を、特定負荷8を含む電気駆動機器に利用できるように変換する所謂、変換器として作用する。さらに、電池を充電する充電器の機能を有していてもよい。例えば、特定負荷8が交流電力で駆動する電気機器であれば、電池モジュール3から供給された直流電力を交流電力の電力形態に変換する。また、特定負荷8の電気機器によっては、電力の電圧値を昇圧させてもよい。さらに、パワーコンディショナ2は、特定負荷8への電力供給だけではなく、電力系統9から供給された電力の消費が最大となる際に、電池モジュール3に蓄電されたエネルギーを放出させて、電力系統9から供給される電力の消費を低減させることもできる。この場合、放電後の電池モジュール3に対して、深夜等の電力需要が低下した際に、パワーコンディショナ2を通じて、満充電まで充電させることができる。
【0018】
蓄電装置1の電力供給先である特定負荷8は、電力系統9から電力の供給が停止した際(例えば、停電時)に、電力を供給すべき機器を想定しており、例えば、コンピュータ等の電子機器や通信機器等があり、電源バックアップのための電力供給が行われる。
【0019】
電池モジュール3は、直流電流電圧を出力する二次電池(蓄電池)11と、セル監視部(セルモニタユニットCMU:Cell Monitor Unit)12と、保護部13と、を備えている。電池モジュール3は、特定負荷等の電力供給量における設計に従い、その数量が適宜設定され、大容量の二次電池を形成する場合には、複数の電池モジュール3を電気的に接続して、1台の電池パックとして構成することがある。また、本実施形態では、残存容量推定の対象となる二次電池11として、リチウムイオン電池を一例に説明するが、これに限定されるものではなく、リチウムイオン電池と同様に、メモリ効果が小さく、且つ自己放電特性が良好な電池であれば、異なる構造の電池にも容易に適用でき、例えば、リチウムイオン電池から改良されたナノワイヤーバッテリー等に適用することも可能である。
【0020】
本実施形態の二次電池11は、電池内部材料(電極材料等)やセル構造に限定されず、外装材の形態においても、円筒缶型、角形缶型及び、ラミネート型等がある。電池モジュール3を構成する二次電池11の接続形態は、単電池、直列組電池又は、並列組電池等の公知な接続形態が適用できる。
【0021】
電池温度測定部7は、各二次電池11に接するように配置された図示しない温度センサにより温度を測定する。装置内におけるリチウムイオン電池の使用可能な周囲温度は、略5〜40℃の範囲であるが、設置環境(寒冷地や熱帯地)に応じて、必要であれば、装置内に電池用温調機構を搭載することも可能である。この電池用温調機構は、電池温度測定部7により測定された温度に基づいて、予め設定された温度範囲の上限又は下限を超えた場合に、電池性能が低下しないように、前述した二次電池11の使用可能な範囲内(5〜40℃程度)に温度調整を行うためのファンやヒータにより構成される。勿論、以後の電池改良により、二次電池11の使用可能な温度範囲が広がった場合には、それらすべての温度範囲に対応することができる。
【0022】
セル監視部12は、単電池(又は単セル)の二次電池11毎の出力電圧、電流及び温度を継続的に計測し、測定結果をバッテリー管理部4に送信する。特に、後述する演算制御部14の制御に従い、残存容量推定のための放電処理中において、電荷移動に伴う過渡応答が消失する放電時間の中から規定された一定時間内に放電電圧Vdを計測する。
【0023】
さらに、セル監視部12は、二次電池11から取得した出力電圧、電流及び温度をモニタ情報としてバッテリー管理部4に送信する。バッテリー管理部4は、受信したモニタ情報に基づき、過充電、過放電及び温度上昇等の異常発生を判断し、保護部13を制御して、二次電池11に対する充電又は出力(放電)を停止させて、過充電及び過放電を防止する。尚、保護部13は、二次電池11の故障等による緊急な異常が発生した場合、電気的な遮断により二次電池11に対する充電又は出力(放電)を停止させる。さらに、バッテリー管理部4へ異常を通知することで、危険を回避する機能を持たせてもよい。尚、異常発生の判断は必須であるが、その判断機能は、電池モジュール3側のセル監視部12又は、蓄電装置1側のバッテリー管理部4のいずれかに搭載すればよいが、それぞれに搭載して二重の判断で安全性を高めてもよい。二重の判断では、判断の順番を予め決めて、例えば、セル監視部12が最初に異常発生の判断を行い、後にバッテリへ管理部4が2度目の異常発生の判断を行う。この時の判断処置としては、通常、2つの判断部のうち、いずれか一方が異常と判断した場合には、保護部13による保護動作を実行する。尚、設計思想にもよるが、両方が異常と判断した場合のみに、保護部13による保護動作を実行し、一方のみの場合には、警告を発生する構成も可能である。
【0024】
さらに、バッテリー管理部4は、それぞれの電池モジュール3のセル監視部12から送信されたモニタ情報を一元的に集約して、上位のエネルギー管理部5へ送信する。このエネルギー管理部5は、これらのモニタ情報に基づき、パワーコンディショナ2に対して、電池モジュール3の充電及び放電を指示する。パワーコンディショナ2は、指示に従い、電池モジュール3の充電及び放電を制御する。
【0025】
エネルギー管理部5は、演算制御部14と、表示部15と、サーバー16と、インターフェース部17とで構成される。
演算制御部14は、コンピュータの演算処理部等と同等の機能を有し、バッテリー管理部4への電池モジュール3に対する充電及び放電の指示や、パワーコンディショナ2への電池モジュール3の充電及び放電への指示を行う。また、電池モジュール3毎に充電上限電圧値や放電下限電圧値が予め設定されており、エネルギー管理部5から送信されたモニタ情報に基づき、充電停止や放電停止の指示を行う。
【0026】
表示部15は、例えば、液晶表示ユニットにより構成され、演算制御部14の制御により、蓄電装置1の稼働状況や電池モジュール3(二次電池11)の残存容量等、及び警告事項を表示する。また、表示部15は、タッチパネル等を採用して、入力デバイスとして用いてもよい。
【0027】
サーバー16は、エネルギー管理部5に送信された蓄電装置1の稼働状況や電池モジュール3等に関するモニタ情報や電池残存容量に関する情報等における最新情報を随時、蓄積するように格納する。インターフェース部17は、図2に示すように、インターネット等のネットワーク通信網18を通じて、外部に設置された集中管理システム19に対して、通信を行う。
本実施形態では、エネルギー管理部5内にインターフェース部17及びサーバー16が含まれる構成を例としているが、別途、インターフェース部及びサーバー16をエネルギー管理部5外に配置する構成でもよい。複数の蓄電装置1は、ネットワーク通信網18を介在させることで、集中管理システムの設置位置から離れた遠隔地にそれぞれに設置される構成も考えられる。
【0028】
複数の蓄電装置1のサーバー16に格納されている情報をネットワーク通信網18を介して、順次、集中管理システム19に送信することで、一元的に管理することができる蓄電管理システムを構築することができる。この場合、後述するように、ネットワーク上を通信される情報のデータ量によって、通信時間が掛かることとなり、少ない情報量の通信が好ましい。
【0029】
図3は、電池の劣化状態推定装置6の構成例を示している。
この劣化状態推定装置6は、充電用電源部22と、放電部23と、放電用負荷部24と、電圧測定部25と、時間計測部26と、推定演算処理部27とで構成される。
劣化状態推定装置6は、電池モジュール3内の二次電池11における電池残存容量を推定する。推定された各二次電池11の残存容量は、サーバー16に格納される。
【0030】
充電用電源部22は、二次電池11の定格にあった直流電流電圧を二次電池11へ出力し、満充電する。この充電用電源部22は、二次電池11の残存容量を推定するための専用の電源として設けているが、通常、蓄電装置内又はパワーコンディショナ2内に設けられている電池充電用電源部を用いてもよい。本実施形態では、電圧測定部25と充電用電源部22とで充電部を構成する。
【0031】
放電部23は、放電用負荷部24を備えて、図示しないスイッチ操作により、二次電池11と電気的に放電用負荷部24に接続して、二次電池11から所定の電力量(ここでは、定電流又は定電圧を想定する)を放電させる。この放電用負荷部24は、抵抗体又は電子負荷であってもよいが、これらの専用負荷を設けずに、負荷を模擬して電力系統に回生させてもよい。
【0032】
電圧測定部25は、電池モジュール3(二次電池11)が出力する直流電圧を測定する。その測定タイミングは、後述するが、放電によって電荷移動に伴う過渡応答が消失する時間を経過した後の規定された時間内で電池モジュール3から出力された直流電圧を測定する。尚、電圧測定の実施については、実際に電圧測定しなくとも、バッテリー管理部4から送信され、エネルギー管理部5のサーバー16に格納されたモニタ情報に含まれる電圧値を流用することも可能である。時間計測部26は、電池モジュール3から電力が放電されている時間を計時するためのタイマである。
【0033】
推定演算処理部27は、後述する線形関係式を用いた演算アルゴリズムを格納し、測定された二次電池11の電圧値に基づき、電池残存容量を推定する演算処理部(CPU等)である。この推定演算処理部27は、電池の劣化状態推定装置6内に専用に設けなくとも、エネルギー管理部5の演算制御部14に処理機能を代用させることも可能である。
【0034】
次に、図4に示すフローチャートを参照して、本実施形態の劣化状態推定装置による残存容量推定方法について説明する。
まず、蓄電装置1に搭載されている電池モジュール3の二次電池11における充電状態を電圧測定部25が測定した電圧が予め設定された満充電状態である充電上限電圧Vcharge−max(以下、Vcとする)か否かを判断する(ステップS1)。この判断で、満充電状態ではない場合には(NO)、充電用電源部22により、二次電池11が充電上限電圧Vcに到達するまで充電を行う(ステップS2)。
【0035】
この満充電処理を行う際に、二次電池11が充電上限電圧Vcを超えた充電が行われないように監視して制御する。充電方式としては、定電流、定電流定電圧、定電力または定電力定電圧のいずれかを採用することができる。定電流または定電力の方式を採用した場合は、充電しながら二次電池11の電圧を測定し、充電上限電圧Vcに達した時に充電を停止する。また、定電流定電圧または定電力定電圧の方式を採用した場合は、電池の電圧が充電上限電圧Vcに達した時から電池電圧を充電上限電圧Vcに維持しながら充電電流を絞ってゆき、充電上限電圧Vcへの到達から、予め定められた一定時間を時間測定装置が計測した時、または充電電流が予め定められた一定値まで絞られた時に充電を停止する。これらの充電作業は、条件設定による自動制御であってもよいし、測定担当者による手動制御であってもよい。
【0036】
この充電処理完了の後に、電池温度測定部7により二次電池11の温度を測定し、充電によって上昇した電池温度が周囲温度になじむまで放置する安定化処理を行う(ステップS3)。尚、安定化処理において、周囲温度になるまでの必要時間は、一元的なものではなく、二次電池11の種別により異なっている。一方、ステップS1の判断で、二次電池11が略充電上限電圧Vc(満充電状態)であった場合には(YES)、電池の残存容量推定を行う。
【0037】
まず、放電部23により二次電池11を放電用負荷部24に電気的に接続して放電を開始すると共に、時間計測部26において、時間の計測を開始する(ステップS4)。この放電方式としては、定電流または定電力のいずれかを選択することができる。
放電開始後、後述する電荷移動に伴う過渡応答が消失する時間により定められた規定時間の範囲内に入ったか否かを判断する(ステップS5)。この判断で、規定時間内に達したならば(YES)、電圧測定部25で二次電池11の放電電圧Vdischarge(以下、Vdとする)を測定する(ステップS6)。
【0038】
次に、放電電圧Vdの測定が終了した又は、放電開始後、時間計測部26に計測された時間が規定時間の範囲を超えたか否かを判断する(ステップS7)。この判断で、電圧測定が終了又は時間計測部26で計測された時間が規定時間の範囲を超えた場合には(YES)、放電部23により二次電池11の放電が停止される(ステップS8)。一方、計測された時間が規定時間の範囲を超えた際に(NO)、放電を停止する。但し、規定時間の範囲に放電電圧Vdの測定が開始されていたならば、測定終了まで放電を継続させる。尚、この規定時間の範囲内で放電電圧Vdが測定できなかった場合には、エラーとして測定者又は管理者に告知する。尚、この計測のための放電は、実際に利用する時の放電開始時を利用してもよく、放電の開始から計測の規定時間を超えた場合でも、その状況により、放電を継続させる場合がある。勿論、計測の規定時間後に放電を停止してもよい。
【0039】
続いて、後述する残存容量推定処理を行い(ステップS9)、取得した放電電圧Vdに基づき、後述する線形関係式を用いて推定残存容量Cremain(以下、Crとする)を求める。求められた推定残存容量Crは、エネルギー管理部5のサーバー16に格納される(ステップS10)。格納された推定残存容量Crは、要求によりサーバー16から読み出されてインターフェース部17を通じて、ネットワーク通信網18に流れ、外部の集中管理システム19に送信される。尚、残存容量推定処理において、充電上限電圧Vcに充電処理又は電池温度安定化、又は放電処理の際に行う電圧測定は、単電池に対して実施されてもよく、また、単電池が、組電池ユニットの中に並列又は直列で複数接続された単電池であってもよい。さらに、充電処理又は電池温度安定化又は放電処理の際の電圧測定が、単電池を並列又は直列に接続した組電池ユニットに対して実施されてもよく、組電池ユニットが、蓄電システムの電池部として並列又は直列に複数接続された組電池ユニットであってもよい。
【0040】
ここで、前記ステップS5における放電電圧Vdを測定する規定時間について説明する。
放電部23により、電池モジュール3を放電用負荷部24へ電気的に接続することで放電が開始される。本実施形態では、放電開始直後から放電電圧Vdの測定を開始するのではなく、電荷移動に伴う過渡応答が消失する時間に至るまで待機する。ここでいう電荷移動は、電子が電池(リチウムイオン電池)11内部の正負極活物質および集電体を通って、リチウムイオンに出入りする現象であり、これによって特定の時定数を持った電荷移動抵抗と呼ばれる成分が発現し、過渡応答となって現れる。リチウムイオン電池の電荷移動抵抗は、交流インピーダンス測定によって計測され、その応答は、一般的に1Hz以上の周波数領域に出現すると考えられている。従って、電荷移動に伴う過渡応答は、1秒程度の放電時間において消失すると考えられる。
【0041】
本実施形態では、予め測定した測定結果により作成した表3に示す測定例および比較例における検討より、規定時間の範囲を設定している。ここでは、放電開始から放電電圧Vdの測定を行う規定時間範囲を2秒から20秒に規定している。つまり、放電開始から電圧測定の開始までの待機時間は、2秒となる。この待機時間が2秒より短いと、電荷移動に伴う過渡応答の消失が影響して、推定残存容量Crの推定精度が低下する虞がある。また、20秒の規定は、20秒あれば、電圧測定を開始するのに十分な時間であり、20秒より長くても、推定残存容量Crの推定精度の顕著な向上が期待できない上、長時間の放電によって、二次電池11に蓄えられた電力量を多く消費することになる。
【0042】
本実施形態では、規定時間範囲を2秒から20秒までの間と設定して、この規定時間の範囲内で二次電池11の放電電圧Vdの測定を開始する。電圧測定が終了した場合には、規定時間の範囲内、即ち、20秒以内であっても二次電池11の放電を停止する。また、放電開始後に経過した時間が規定時間の範囲を超えても電圧計測が開始されていない場合には、放電を停止し、測定エラーとして扱う。
【0043】
次に、前記ステップS9における本実施形態の残存容量推定処理について説明する。
まず、予め設定された充電上限電圧Vcと規定時間内で測定された放電電圧Vdとの差を差電圧Vdifference(以下、Veとする)とする。推定残存容量Crは、差電圧Veと放電容量Cdischarge(以下、Cdとする)とから求められる。
【0044】
差電圧Veと放電容量Cdは、図5に示すように、長期的充放電サイクルにおいて、サイクル数が増加するに従い、直線的に下降する線形関係になっている。これは、二次電池においては、初期のサイクルで電池内部の負極表面皮膜形成によるリチウムイオン脱挿入安定化が起こり、電池容量の増加が起こる。その後、充放電サイクルを継続すると、この電池容量の増加傾向は徐々に収まり、その後、電池容量は充放電サイクル数と共に低下し、一方、差電圧Veは増加していく。この段階に至ると、差電圧Veの増加に伴い放電容量Cdの減少が直線的に下降する線形関係となる。
【0045】
この差電圧Veと放電容量Cdの関係を示す特性が、放電容量Cdの上昇から下降に代わる変曲点となる充放電サイクルを起点とした50サイクルまでの充放電結果から最小二乗法で線形近似して、
Ve =Vc - Vd
Cd = A× Ve + B (A及びBは定数)
の定数A1及びB1を求めた。また、推定残存容量Crと、実際に計測された放電容量Cdとの相関係数が推定残存容量Crの精度の指標として求められる。
【0046】
以降、差電圧Veを実測することで、同等の仕様の二次電池11における推定残存容量Crを求めることができる。一例として、規定時間が20秒に設定され、予め充放電試験によって、放電容量Cd =−88.858×Ve+44.796の式が得られているものとする。上限電圧4.12Vの充放電条件における満充電後の放電開始20秒後の測定電圧が4.0064Vであるとすると、差電圧Ve=4.12−4.0064=0.1136Vであるから、放電容量Cdは、34.702Ahと推定される。実際の残存容量は、35.163Ahであるから約0.0133の誤差率で推定することができる。
【0047】
表1に示す種々のリチウムイオン電池を用い、表2の条件1〜5の条件で充放電試験を実施して放電容量Cdを計測し、その際の充電上限電圧Vc及び放電開始後一定時間経過後の放電電圧Vdとの差電圧Veの関係を計算した。さらに表3を参照して、放電容量Cdに対する、放電容量Cdと推定残存容量Crの差の割合を誤差率とし、そのサイクル平均値を平均誤差率としてバラつきの指標として求める。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
【表3】
【0051】
市販されているリチウムイオン電池を充放電サイクルさせた場合、初期のサイクルにおいて一般的に図6に示すような変曲点が現れるので、前述した方法で、定数AおよびBを求めることができるが、仮に、この変曲点が現れなかった場合でも、第1サイクルを起点とした50サイクルの充放電結果から最小二乗法による線形近似によって同様に定数AおよびBを求めることができる。
前述したように、算出された推定残存容量Crのデータは、サーバー16に格納しておくことで、計測により取得された充電上限電圧Vc及び放電電圧Vdに基づき選択された推定残存容量Crが適宜読み出されて、表示部15やネットワーク通信網18を経て集中管理システム18に送信される。その表示方法としては、現在の値のみの場合もあり、また過去のトレンドグラフとすることも可能である。
【0052】
本実施形態の電池の残存容量推定方法は、電池本来の電圧である開放端電圧と、充電電圧または放電電圧の差分である過電圧を利用しているが、特に充電放電両方の過電圧を利用するため、測定分解能を変えることなく測定値が大きくなり、精度良く放電容量計算ができる点で有利である。
【0053】
また本実施形態は、単電池だけでなく、単電池の容量または電圧が整数倍になった組電池ユニットに対しても当然有効である。近年の定置型蓄電システムに共通する定期的または常時の満充電処理、及び双方向インバータの高効率出力領域における定電力放電といった通常稼働中に必要な計測を実施することができる。
本実施形態では、高価な装置または複雑なアルゴリズムを追加付与する必要が無いため、蓄電システムが複雑化または演算負荷増大またはコスト増大することなく、推定された残存容量から電池の劣化状態を推定できるため有用である。
【0054】
さらに、電池の推定残存容量の情報量としては、例えば、放電出力が1時間率で行われた際に、計測サンプリングレートを1秒として仮定すると、従来の充放電曲線解析法を用いた場合には、3600点のデータを必要とするが、本実施形態における残存容量推定方法では、放電時の規定時間内に計測する1点と充電上限電圧の1点による2点の情報量となり、従来の情報量からみれば、極少ない量となり得る。本実施形態における残存容量は、数十バイトの情報量が想定される。このため、多数の蓄電装置に対して、ネットワーク通信による一括的な集中管理システムに適用しても、データ通信に係る負荷が少なく、また、短時間で通信処理を完了させることができる。
【0055】
以上のように本実施形態によれば、リチウムイオン電池の残存容量を利用して電池の劣化状態を推定することができる。さらに、推定により得られた推定残存容量は、精度が高く、システムの複雑化及び演算負荷増大及びコスト増大を伴わない電池の劣化状態の推定が可能となる。
【0056】
次に、第2の実施形態に係る電池の劣化状態推定装置について説明する。
図7は、第2の実施形態に係る蓄電装置における差電圧と充放電効率の関係を示す図である。前述した第1の実施形態では、電池の推定残存容量を利用して劣化状態を推定したが、本実施形態は、推定充放電効率を利用して劣化状態を推定する。本実施形態の電池の推定充放電効率は、第1の実施形態における劣化状態推定装置を利用でき、推定演算処理部27による演算処理を以下に説明する演算式に変えることにより、同じ装置構成を利用することが可能である。
【0057】
本実施形態における充放電効率は、電池の放電で得られた電気量と充電に要した電気量との比であり、電池の特性や充電及び放電の仕方によっても異なるが、本実施形態においては、同一充放電サイクルにおいて、定電流充電で充電上限電圧に達するまでの入力電力量に対する、定電流放電で放電下限電圧に達するまでの出力電力量の割合としている。以下に説明する放電電圧Vd及び充電上限電圧Vcは、前述した残存容量推定装置6により測定され、差電圧Veが後述する演算式を用いて算出される。
【0058】
本実施形態における差電圧Veと充放電効率Edは、図7に示すように、長期的充放電サイクルにおいて、サイクル数の増加に従い、直線的に下降する線形関係を有している。これは、二次電池では、初期のサイクルで電池内部の負極表面皮膜形成によるリチウムイオン脱挿入安定化が起こり、電池容量の増加が生じ、一時期、充放電効率Edが高い値で推移する。引き続き、充放電サイクルを重ねて行くと、このような電池容量の増加傾向は徐々に収まり、その後、充放電効率Edは、増加する充放電サイクル数と共に低下し、反面、差電圧Veは増加していく。この段階に至ると、差電圧Veの増加に伴い充放電効率Edの減少が直線的に下降する線形関係となる。
【0059】
これらの差電圧Veと充放電効率Edの関係を示す特性が、直線的な下降に変わる変曲点となる充放電サイクルを起点として、50サイクルまでの充放電結果から最小二乗法で線形近似して、
Ve =Vc - Vd
Er = A1×Ve + B1 (A1及びB1は定数)
の定数A1及びB1が直線的な下降に変わる変曲点となる充放電サイクルを起点とした予め設定した充放電サイクルまでの充放電結果から最小二乗法で線形近似求められる。また、推定充放電効率Erと、計測により取得された充放電効率Edとの相関係数が推定充放電効率Erの精度の指標として求められる。以降、実測された放電電圧Vdから差電圧Veを算出する。この差電圧Veから算出された充放電効率Edに表4に示す相関係数を持たせた推定充放電効率Erを推定し、この推定充放電効率Erの変化量に基づき、電池の劣化状態を推定する。
【0060】
詳細には、表1に示す種々のリチウムイオン電池を用い、表2の条件1〜5の条件で充放電試験を実施、その計測に基づき充放電効率Edを算出し、その際の充電上限電圧Vc及び放電開始後一定時間経過後の放電電圧Vdとの差電圧Veの関係を算出した。さらに表4を参照して、充放電効率Edに対する、充放電効率Edと推定充放電効率Erの差の割合を誤差率とし、そのサイクル平均値を平均誤差率としてバラつきの指標として求める。
【0061】
【表4】
【0062】
また、充放電サイクル初期の負極表面皮膜形成とそれに伴うイオン脱挿入の安定化によって起こる電池容量増加効果が発現しなくなったサイクルが特定できる場合には、そのサイクル以降の複数サイクルの充放電結果に基づき、最小2乗法による線形近似によって求めることができる。
【0063】
以上のように本実施形態によれば、充放電効率を放電電圧と充電上限電圧との差電圧を用いて推定し、その変化量に基づいて電池の劣化状態を推定することができる。さらに、推定により得られた推定充放電効率は、精度が高く、システムの複雑化及び演算負荷増大及びコスト増大を伴わない電池の劣化状態の推定が可能となる。
【0064】
次に、第3の実施形態に係る電池の劣化状態推定装置について説明する。
図8は、プラトー領域を含む電池の放電曲線を示す図である。前述した第1の実施形態では、充放電効率を利用して劣化状態を推定したが、本実施形態は、プラトー領域を利用して劣化状態を推定する。本実施形態の電池の劣化状態推定装置を搭載する蓄電装置の構成は、前述した第1の実施形態と同等であり、その詳細な説明は省略する。
【0065】
まず、本実施形態が利用するプラトー領域及びプラトー終点容量について説明する。
図8に示す放電曲線A,Bにおいて、二次電池の充電上限電圧の充電状態から放電した際に、過渡応答が消失する時間の経過後で、セル電圧が緩やかに下降変化している平坦な領域をプラトー領域と称している。ここでは、二次電池は、リチウムイオン電池を一例として用いて、放電曲線Aが151回程度の充放電を繰り返し行った後の放電曲線を示し、放電曲線Bが400回程度の充放電を繰り返し行った後の放電曲線を示している。これらの放電曲線A,Bにおいては、使用した放電容量が90%程度を超えた付近から、セル電圧の急峻な降下が発生する。放電時におけるプラトー領域の終点、即ち、プラトー終点は、このセル電圧の急峻な降下が開始する変位点であり、この時の放電容量をプラトー終点容量としている。蓄電装置の安定的運用のために、放電終始点をプラトー終点とする場合があり、従って、プラトー終点容量は、電池の残存容量と同意である。
【0066】
図8に示すように、プラトー終点時の放電容量、即ち、プラトー終点容量は、充放電回数の増加に伴う電池の劣化の進行と共に減少する。ここでは、プラトー終点容量Pd400は、プラトー終点容量Pd151に比べて、充電容量が減少する劣化が生じている。従って、電池の放電曲線(又は、充放電曲線)が既知であり、計測された放電電圧Vd(セル電圧値)からプラトー領域の終点を判定することで、推定プラトー終点容量が取得でき、電池の劣化状態をも推定することができる。
【0067】
本実施形態におけるプラトー終点であるか否かの第1の判定方法は、判定基準を略1mV/secに設定し、計測された計測値が単位時間内に判定基準を超える電圧降下が発生した際に、その変位点をプラトー終点として設定する。勿論、この判定基準は、限定されるものではなく、電池の性能や設計によって種々の基準値に適宜、設定されるものである。
【0068】
さらに、プラトー終点の第2の判定方法について説明する。図8には、微分放電曲線(dV/dQ:放電電流量Ahの電圧微分)C,Dを示している。微分放電曲線Cが150回程度の充放電を繰り返し行った放電曲線であり、微分放電曲線Dが400回程度の充放電を繰り返し行った放電曲線である。これらは、電池容量Q0を積算することで数値が一般化され、容量の異なる電池においても比較が可能になる。図8に示すQ0dV/dQにdQ/Q0dt(定義上、1/3600である)を掛算すると、dV/dt(電圧変化の時間微分)が得られる。従って、前述したプラトー終点容量の判定基準は、dV/dt =1mVとしたが同等な判断基準として、Q0dV/dQに換算すると、3.6の判定基準が得られる。勿論、この判断基準は、電池の特性や設置状況等により、適宜、好適する値が設定されるものであり、前述した判定基準値に限定されるものではない。
【0069】
次に、図8を参照して、本実施形態におけるプラトー終点容量の推定について詳細に説明する。前述した放電電圧Vd、充電上限電圧Vc及び差電圧Veは、前述した劣化状態推定装置6により、測定及び算出を行う。プラトー終点容量Pdは、以下に説明する演算式を用いて、推定演算処理部27により求められ、前述した図4に示すフローチャートのステップS9における残存容量推定工程に該当する。
【0070】
表1に示す種々のリチウムイオン電池を用い、表2の条件1〜5の条件で充放電試験を実施してプラトー終点容量Pdを計測し、その際の充電上限電圧Vc及び放電開始後一定時間経過後の放電電圧Vdとの差電圧Veの関係を算出する。
【0071】
まず、差電圧Veは、満充電状態から所定時間を放電された後に、計測された放電電圧Vdと充電上限電圧Vcの差電圧である。この差電圧Veとプラトー終点容量(充電容量Ah)Pdは、前述した図7と同様な変曲点を含む特性曲線を有している。この特性曲線は、長期的充放電サイクルにおいて、サイクル数の増加に従い、一旦平行又は上昇に推移するが、変曲点から直線的に下降する線形関係になっている。これは、二次電池においては、初期のサイクルで電池内部の負極表面皮膜形成によるリチウムイオン脱挿入安定化が起こり、電池容量の増加が起こり、その後、充放電サイクルが継続すると、この電池容量の増加傾向は徐々に収まり、その後、プラトー終点容量Pdは充放電サイクル数と共に低下し、一方、差電圧Veは増加していく。この段階に至ると、差電圧Veの増加に伴いプラトー終点容量Pdの減少が直線的に下降する線形関係となる。
【0072】
この差電圧Veとプラトー終点容量Pdの関係を示す特性が、前述した変曲点を充放電サイクルを起点とした50サイクルまでの充放電結果から最小二乗法で線形近似して、
Ve =Vc - Vd
Pd = A2×Ve + B2 (A2及びB2は定数)
の定数A2及びB2が直線的な下降に変わる変曲点となる充放電サイクルを起点とした予め設定した充放電サイクルまでの充放電結果から最小二乗法で線形近似求められる。
【0073】
また、以下に示す表5に示すように、推定プラトー終点容量Prと、実際に計測されたプラトー終点容量Pdとの相関係数が推定プラトー終点容量Prの精度の指標として求められる。即ち、放電電圧Vdから算出された差電圧Veを用いて、プラトー終点容量Pdを算出し、プラトー終点容量Pdに相関係数を持たせた推定プラトー終点容量Prを推定する。この推定プラトー終点容量Prの変化量に基づき、電池の劣化状態を推定する。
。勿論、同等の設計による二次電池11に対しても同じ相関係数を有していることから、推定プラトー終点容量Prを求めることができる。以降、放電電圧Vdの計測情報を取得するだけで、他の同一設計の電池に対しても推定プラトー終点容量Prを求めることができる。
【0074】
【表5】
【0075】
本実施形態では、サイクル数151,400の電池に対して、放電電圧Vdを計測するだけで、それぞれに差電圧Veを求めて、プラトー終点容量Pd(この例では、Pd151,Pd400となる)を算出することで、精度の高い推定プラトー終点容量Prを推定することができる。これらの推定プラトー終点容量Prは、前述した電池の推定残存容量Crと同様に、電池の劣化状態を推定することができる。
【0076】
尚、前述した他の実施形態と同様に、充放電サイクル初期の負極表面皮膜形成とそれに伴うイオン脱挿入の安定化によって起こる電池容量増加効果が発現しなくなったサイクルが特定できる場合には、そのサイクル以降の複数サイクルの充放電結果に基づき、最小2乗法による線形近似によって求めることができる。
【0077】
以上のように本実施形態によれば、計測された放電電圧と、算出された充電上限電圧との差電圧を用いて推定プラトー終点容量を推定し、その変化量に基づいて電池の劣化状態を推定することができる。さらに、推定により得られた推定プラトー終点容量は、精度が高く、システムの複雑化及び演算負荷増大及びコスト増大を伴わない電池の劣化状態の推定が可能となる。
【0078】
以上説明した実施形態は以下の発明を含んでいる。
(1)二次電池と、
外部の電力系統から供給される電力と前記二次電池の電力を必要な電力形態に変換して駆動機器に電力供給するパワーコンディショナと、
前記二次電池における出力電圧、電流及び温度を継続的に取得するバッテリー管理部と、
前記二次電池の充電状態を検知し、予め定めた充電上限電圧まで満充電させる充電部と、満充電された前記二次電池に対して、負荷を電気的に接続し、前記二次電池から電力を放電させる 放電部と、放電の開始後で前記二次電池内で電荷移動に伴う過渡応答が消失する時間経過後から予め規定された時間範囲内で放電電圧の計測を開始する電圧測定部と、前記放電電圧と前記充電上限電圧との差電圧を用いて、予め求められた差電圧と前記二次電池の放電容量との特性から、前記二次電池の残存容量を推定する推定演算処理部とで構成される残存容量推定部と、
前記残存容量推定部から送信された前記二次電池の残存容量と、前記バッテリー管理部から送信された出力電圧、電流及び温度を随時、取得して、前記パワーコンディショナを駆動制御し、前記電力供給を制御するエネルギー管理部と、
を具備することを特徴とする蓄電装置。
【0079】
(2)前記エネルギー管理部は、前記二次電池から取得した前記残存容量、前記出力電圧、前記電流及び前記温度を更新可能に格納するサーバーと、
外部のネットワーク通信網に通信可能なインターフェース部を有することを特徴とする前記(1)に記載の蓄電装置。
(3)ネットワーク通信網に前記インターフェース部を通じてアクセス可能に接続する複数の前記蓄電装置と、
前記ネットワーク通信網を通じて、前記サーバーに格納される前記二次電池から取得した前記残存容量、前記出力電圧、前記電流及び前記温度を前記蓄電装置毎に収集する集中管理システムと、
で構成されることを特徴とする前記(2)に記載の蓄電システム。
【0080】
(4)二次電池と、
外部の電力系統から供給される電力と前記二次電池の電力を必要な電力形態に変換して駆動機器に電力供給するパワーコンディショナと、
前記二次電池における出力電圧、電流及び温度を継続的に取得するバッテリー管理部と、
前記二次電池の充電状態を検知し、予め定めた充電上限電圧まで満充電させる充電部と、満充電された前記二次電池に対して、負荷を電気的に接続し、前記二次電池から電力を放電させる 放電部と、放電の開始後で前記二次電池内で電荷移動に伴う過渡応答が消失する時間経過後から予め規定された時間範囲内で放電電圧の計測を開始する電圧測定部と、前記放電電圧と前記充電上限電圧との差電圧を用いて、充放電効率を算出し、該充放電効率に相関係数を持たせた推定充放電効率を推定し、該推定充放電効率の変化量に基づき、電池の劣化状態を推定する推定演算処理部とで構成される劣化状態推定部と、
前記劣化状態推定部から送信された前記二次電池の推定充放電効率と、前記バッテリー管理部から送信された出力電圧、電流及び温度を随時、取得して、前記パワーコンディショナを駆動制御し、前記電力供給を制御するエネルギー管理部と、
を具備することを特徴とする蓄電装置。
【0081】
(5)二次電池と、
外部の電力系統から供給される電力と前記二次電池の電力を必要な電力形態に変換して駆動機器に電力供給するパワーコンディショナと、
前記二次電池における出力電圧、電流及び温度を継続的に取得するバッテリー管理部と、
前記二次電池の充電状態を検知し、予め定めた充電上限電圧まで満充電させる充電部と、満充電された前記二次電池に対して、負荷を電気的に接続し、前記二次電池から電力を放電させる 放電部と、放電の開始後で前記二次電池内で電荷移動に伴う過渡応答が消失する時間経過後から予め規定された時間範囲内で放電電圧の計測を開始する電圧測定部と、前記放電電圧と前記充電上限電圧との差電圧を用いて、該差電圧からプラトー終点容量を算出し、該プラトー終点容量に相関係数を持たせた推定プラトー終点容量を推定し、該推定プラトー終点容量の変化量に基づき、電池の劣化状態を推定する劣化状態推定部と、
前記劣化状態推定部から送信された前記二次電池の推定充放電効率と、前記バッテリー管理部から送信された出力電圧、電流及び温度を随時、取得して、前記パワーコンディショナを駆動制御し、前記電力供給を制御するエネルギー管理部と、
を具備することを特徴とする蓄電装置。
【符号の説明】
【0082】
1…蓄電装置、2…パワーコンディショナ、3…電池モジュール、4…バッテリー管理部、5…エネルギー管理部、6…電池残存容量推定装置、7…電池温度測定部、8…特定負荷、9…電力系統、11…電池(二次電池)、12…セル監視部、13…保護部、14…演算制御部、15…表示部、16…サーバ、17…インターフェース部、18…ネットワーク通信網、19…集中管理システム、6…残存容量推定装置、22…充電用電源部、23…放電部、24…放電用負荷部、25…電圧測定部、26…時間計測部、27…推定演算処理部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8