(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記水素受容性官能基が、環構造を有し、N−置換ラクタム基、環状イミノエーテル基、環状イミン基、N−置換水添環状イミノエーテル基、環状エーテル基、N−置換環状イミド基およびそれらの組合せからなる群から選択される請求項1〜3いずれかに記載の低温硬化性被覆組成物。
前記非塩基性揮発性溶媒(C−2)が低分子量アルコールであり、非塩基性揮発性溶媒(C−3)が低分子量エーテルである請求項1〜6いずれかに記載の低温硬化性被覆組成物。
(D)水素原子に共有結合しているヘテロ原子を有する水素供与性官能基と水素原子が共有結合していないヘテロ原子を有する水素受容性官能基との両方を有し、水素受容性官能基が環構造を有しても有さなくてもよく、環構造を有する場合はヘテロ原子が窒素原子、酸素原子および/または硫黄原子であり、環構造を有さない場合はヘテロ原子が窒素原子のみまたは窒素原子と酸素原子の両方からなる、被膜形成性高分子、および
(C)分子内に水素原子と共有結合するヘテロ原子および水素原子と共有結合しないヘテロ原子の両方のヘテロ原子を有する非塩基性揮発性溶媒(C−1);分子内に水素原子に共有結合しているヘテロ原子を有する非塩基性揮発性溶媒(C−2)と分子内に水素原子が共有結合していないヘテロ原子を有する非塩基性揮発性溶媒(C−3)との混合物;およびその組合せから成る群から選択される非塩基性揮発性溶媒、
を含有する低温硬化性被覆組成物。
更に、(A)水素原子に共有結合しているヘテロ原子を有する水素供与性官能基を有する被膜形成性高分子、または、(B)水素原子が共有結合していないヘテロ原子を有する水素受容性官能基を有し、水素受容性官能基が環構造を有しても有さなくてもよく、環構造を有する場合はヘテロ原子が窒素原子、酸素原子および/または硫黄原子であり、環構造を有さない場合はヘテロ原子が窒素原子のみまたは窒素原子と酸素原子の両方からなる、被膜形成性高分子を含有する請求項9記載の低温硬化性被覆組成物。
前記水素受容性官能基が、環構造を有し、N−置換ラクタム基、環状イミノエーテル基、環状イミン基、N−置換水添環状イミノエーテル基、環状エーテル基、N−置換環状イミド基およびそれらの組合せからなる群から選択される請求項9〜12いずれかに記載の低温硬化性被覆組成物。
被膜形成性高分子(D)が、カルボキシ基および/またはヒドロキシ基と、N−置換ラクタム基および/または環状イミン基とを、有する高分子である請求項9または10記載の低温硬化性被覆組成物。
前記非塩基性揮発性溶媒(C−1)が、エーテル基とヒドロキシ基とを有する低分子量エーテルアルコールである、請求項9〜18いずれかに記載の低温硬化性被覆組成物。
前記非塩基性揮発性溶媒(C−2)が低分子量アルコールであり、非塩基性揮発性溶媒(C−3)が低分子量エーテルである、請求項9〜18いずれかに記載の低温硬化性被覆組成物。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者等は、低温で硬化して、耐溶剤性の高い硬化被膜を形成する被覆組成物を鋭意検討の結果、水素結合を用いて形成した塗膜が、低温硬化と高い耐溶剤性を達成することを見出し、本発明をなすに至った。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、本発明は、
(A)水素原子に共有結合しているヘテロ原子を有する水素供与性官能基を有する被膜形成性高分子、
(B)水素原子が共有結合していないヘテロ原子を有する水素受容性官能基を有し、水素受容性官能基が環構造を有しても有さなくてもよく、環構造を有する場合はヘテロ原子が窒素原子、酸素原子および/または硫黄原子であり、環構造を有さない場合はヘテロ原子が窒素原子のみまたは窒素原子と酸素原子の両方からなる、被膜形成性高分子、および
(C)分子内に水素原子と共有結合するヘテロ原子および水素原子と共有結合しないヘテロ原子の両方のヘテロ原子を有する非塩基性揮発性溶媒(C−1);分子内に水素原子に共有結合しているヘテロ原子を有する非塩基性揮発性溶媒(C−2)と分子内に水素原子が共有結合していないヘテロ原子を有する非塩基性揮発性溶媒(C−3)との混合物;およびその組合せから成る群から選択される非塩基性揮発性溶媒、
を含有する低温硬化性被覆組成物を提供する。
【0010】
本発明は、また、
(D)水素原子に共有結合しているヘテロ原子を有する水素供与性官能基と水素原子が共有結合していないヘテロ原子を有する水素受容性官能基との両方を有し、水素受容性官能基が環構造を有しても有さなくてもよく、環構造を有する場合はヘテロ原子が窒素原子、酸素原子および/または硫黄原子であり、環構造を有さない場合はヘテロ原子が窒素原子のみまたは窒素原子と酸素原子の両方からなる、被膜形成性高分子、および
(C)分子内に水素原子と共有結合するヘテロ原子および水素原子と共有結合しないヘテロ原子の両方のヘテロ原子を有する非塩基性揮発性溶媒(C−1);分子内に水素原子に共有結合しているヘテロ原子を有する非塩基性揮発性溶媒(C−2)と分子内に水素原子が共有結合していないヘテロ原子を有する非塩基性揮発性溶媒(C−3)との混合物;およびその組合せから成る群から選択される非塩基性揮発性溶媒、
を含有する低温硬化性被覆組成物を提供する。
【0011】
本発明は、上記の成分(D)および成分(C)の低温硬化性被覆組成物に、更に(A)水素原子に共有結合しているヘテロ原子を有する水素供与性官能基を有する被膜形成性高分子、または、(B)水素原子が共有結合していないヘテロ原子を有する水素受容性官能基を有し、水素受容性官能基が環構造を有しても有さなくてもよく、環構造を有する場合はヘテロ原子が窒素原子、酸素原子および/または硫黄原子であり、環構造を有さない場合はヘテロ原子が窒素原子のみまたは窒素原子と酸素原子の両方からなる、被膜形成性高分子を配合した低温硬化性被覆組成物を提供する。
【0012】
上記水素供与性官能基は、水素原子と共有結合した酸素原子を有する基であるのが好ましい。
【0013】
上記水素供与性官能基は、カルボキシ基および/またはヒドロキシ基であるのが好ましい。
【0014】
上記水素受容性官能基は、環構造を有し、N−置換ラクタム基、環状イミノエーテル基、環状イミン基、N−置換水添環状イミノエーテル基、環状エーテル基、N−置換環状イミド基およびそれらの組合せからなる群から選択されるのが好ましい。
【0015】
上記水素受容性官能基は、N−置換ラクタム基および/または環状イミン基であるのが好ましい。
【0016】
上記水素受容性官能基は、環構造を有さず、N−置換非環状イミド基または非環状3級アミド基であるのが好ましい。
【0017】
上記非塩基性揮発性溶媒(C−1)は、エーテル基とヒドロキシ基とを有する低分子量エーテルアルコールであるのが好ましい。
【0018】
上記非塩基性揮発性溶媒(C−2)は、好ましくは低分子量アルコールであり、非塩基性揮発性溶媒(C−3)は好ましくは低分子量エーテルである。
【0019】
上記被膜形成性高分子(D)は、カルボキシ基および/またはヒドロキシ基と、N−置換ラクタム基およびまたは環状イミン基とを、有する高分子であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の低温硬化性被覆組成物は、水素結合を用いて硬化するので、低い硬化温度、特に15〜100℃の温度でも硬化し、それにより得られた被膜は耐溶剤性の高いものとなる。
【0021】
何故、水素結合を用いると硬化温度が低くても、高い耐溶剤性の被膜が形成されるかは、まだ十分には解明されていないが、本発明者等は次のように考えている。水素結合とは、ヘテロ原子、特に酸素原子、窒素原子、硫黄原子等の電気陰性度の高いヘテロ原子に共有結合した水素原子が、近傍の他の官能基の非共有電子対と作る結合であり、その強さは10〜40kJ/molの間であり、ファンデルワールス力(1kJ/mol程度)よりは強いが、共有結合(150〜500kJ/mol程度)より弱く、室温で可逆的な結合・解離が可能である結合を言う。従って、水素結合は共有結合に比べて非常に弱い結合であり、塗料などの被膜形成性樹脂の硬化反応には不適切で使用できないと考えられてきた。しかし、水素結合は、単独では、弱い結合であるが、それが水素結合を形成する官能基をたくさん有する高分子間で数多く形成されると、非常に強力な結合力になって、高い耐溶剤性を達成できるのではないかと考えられる。また、ギブスエネルギー(ΔG)で考えると、ΔG=ΔH−TΔS(式中、Hはエンタルピー、Tは温度、Sはエントロピーである。)であり、水素結合は可逆性を有することから、それぞれの水素供与性官能基は他の複数の水素受容性官能基と結合相手を組み替えながらも水素結合ネットワーク全体としては架橋状態を保ちうる結合状態組合せの自由度を持ち、エントロピー項のエネルギー(−TΔS)の因子が大きくなって、結合を切断するには大きなエネルギーが必要になることからも理解できる。更に、上記のいわゆる熱力学的な結合の因子に加えて、次に述べる速度論的な結合の因子による面でも実質的に強い架橋ネットワーク形成が可能となるものと考えられる。即ち、可逆性を有する水素結合による架橋ネットワークが切断されるに至るには、一つの高分子鎖に含まれる水素結合が同時に全て切断され、なおかつ、その高分子鎖が他の高分子鎖の水素結合性官能基と接近しても、水素結合を一つも形成しない状態を常に保ちながら、水素結合ネットワークから脱離させていく必要がある。しかし、水素結合性高分子を適切に選択すれば、このような現象が起こる確率を極めて小さくすることができ、実質的に強い架橋ネットワーク形成が可能となると考えられる。
【0022】
そして、水素結合を硬化反応に用いる際には、本発明の成分(C)の非塩基性揮発性溶媒の存在が重要である。塗料などの状態では、この溶媒が個々の高分子の水素結合を形成する能力のある官能基をキャップして、一時的に架橋反応を抑制しているが、この溶媒が高い蒸気圧を有するので、塗膜形成時には、低い硬化温度(例えば、60℃ぐらいの温度)であっても、この溶媒が空気中に蒸発し、溶媒の水素結合の束縛より解放された高分子の官能基が他の高分子と水素結合を形成する能力を取り戻し、高分子間の水素結合が形成され、上記のようにたくさんの水素結合による強固な被膜が形成されるものと理解している。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の第一の組成物は、(A)水素原子に共有結合しているヘテロ原子を有する水素供与性官能基を有する被膜形成性高分子、
(B)水素原子が共有結合していないヘテロ原子を有する水素受容性官能基を有し、水素受容性官能基が環構造を有しても有さなくてもよく、環構造を有する場合はヘテロ原子が窒素原子、酸素原子および/または硫黄原子であり、環構造を有さない場合はヘテロ原子が窒素原子のみまたは窒素原子と酸素原子の両方からなる、被膜形成性高分子、および
(C)分子内に水素原子と共有結合するヘテロ原子および水素原子と共有結合しないヘテロ原子の両方のヘテロ原子を有する非塩基性揮発性溶媒(C−1);分子内に水素原子に共有結合しているヘテロ原子を有する非塩基性揮発性溶媒(C−2)と分子内に水素原子が共有結合していないヘテロ原子を有する非塩基性揮発性溶媒(C−3)との混合物;およびその組合せから成る群から選択される非塩基性揮発性溶媒、
を含有する低温硬化性被覆組成物である。
【0024】
成分(A)
本発明の低温硬化性被覆組成物の成分(A)は、水素原子に共有結合しているヘテロ原子を有する水素供与性官能基を有する被膜形成性高分子である。ヘテロ原子は、上記の水素結合の説明で述べたように、酸素原子(O)、窒素原子(N)、硫黄原子(S)などの電気陰性度の高い原子であって、それに共有結合する水素原子を有する基が水素供与性官能基であり、具体的にはカルボキシ基(−COOH)、ヒドロキシ基(−OH)、アミノ基(−NHRまたは―NH
2;式中、Rはアルキル基またはアリール基である。)またはチオール基(−SH)などが挙げられる。水素供与性官能基は、好ましくは水素と共有結合した酸素を有する基であり、具体的にはカルボキシ基またはヒドロキシ基であり、より好ましくはカルボキシ基である。
【0025】
本発明の成分(A)は、上記のような水素供与性官能基を有する高分子であって、水素供与性官能基を有する不飽和モノマーの重合、または、水素供与性官能基を有する不飽和モノマーと、他の共重合性モノマーとを共重合することなどにより得られる。
【0026】
カルボキシ基を有する不飽和モノマーの例としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、2−アクリロイルオキシエチルフタル酸、2−アクリロイルオキシエチルコハク酸、ω−カルボキシ−ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、イソクロトン酸、フマル酸またはマレイン酸などが挙げられる。尚、本明細書中において、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートまたはメタクリレートを意味する。
【0027】
ヒドロキシ基を有する不飽和モノマーの例としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、または4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、アリルアルコール、メタリルアルコール、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールモノ(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、およびこれらとε−カプロラクトンとの付加物等があげられる。
【0028】
アミノ基を有する不飽和モノマーの例としては、アミノスチレン、ビニルベンジルアミン、ビニルエチルアミンまたはビニルベンジルアミン、N−イソプロピル−2−(4−ビニルフェニル)エチルアミン等が挙げられる。
【0029】
チオール基を有する不飽和モノマーの例としては、2−スルファニルエチル(メタ)アクリレート、3−スルファニルプロピル(メタ)アクリレート、または4−スルファニルブチル(メタ)アクリレート、2−ビニルベンゼンチオール等があげられる。
【0030】
上記のような水素供与性官能基を有する不飽和モノマーと共重合するモノマーの例としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステルやスチレンなどのモノマーを用いることができる。
【0031】
この共重合反応は、水を媒体とした水溶液重合、懸濁重合、乳化重合、また有機溶媒による溶液重合や沈殿重合、また塊状重合であってもよい。また、溶液を媒体とする重合(溶液重合または沈殿重合など)または塊状重合をした後、必要であれば溶液重合の場合脱溶剤をして、必要であれば乳化剤や中和剤を用いて、水へ溶解または乳化することで行ってもよい。更に、水を媒体とする重合(水溶液重合、乳化重合、懸濁重合など)をした後、必要であれば脱水を行い、溶媒に溶解または必要であれば乳化剤を用いて溶媒に分散する方法を行ってもよい。被膜形成性高分子(A)の分子量は、通常、数平均分子量で1,000〜2,000,000であり、好ましくは2,000〜1,500,000、より好ましくは3,000〜1,000,000である。数平均分子量が1,000より小さいと、耐溶剤性の向上が十分に得られなくなり、20,000,000より大きいと、粘度が極めて大きくなって塗料の作製や塗装が困難になる。
【0032】
成分(B)
本発明の低温硬化性被覆組成物の成分(B)は、水素原子が共有結合していないヘテロ原子を有する水素受容性官能基を有し、水素受容性官能基が環構造を有しても有さなくてもよく、環構造を有する場合はヘテロ原子が窒素原子、酸素原子および/または硫黄原子であり、環構造を有さない場合はヘテロ原子が窒素原子のみまたは窒素原子と酸素原子の両方からなる、被膜形成性高分子である。前述のように、ヘテロ原子は、上記の水素結合で述べたように、酸素原子(O)、窒素原子(N)、硫黄原子(S)などの電気陰性度の高い原子であるが、水素受容性官能基としては環構造を有する時にはヘテロ原子は酸素原子、窒素原子および/または硫黄原子であってよく、水素受容性官能基が環構造を有さない時にはヘテロ原子は窒素原子のみか、窒素原子と酸素原子の両方を有する。水素受容性官能基が環構造を有すると、環を形成することにより生じる歪がどのようなヘテロ原子であっても水素受容性を高く維持することができるが、水素受容性官能基が環構造を有さない時には窒素原子のみか、窒素原子と酸素原子の両方があるときに、水素受容性が高く維持できるものと考えられる。
【0033】
成分(B)の水素受容性官能基は、環構造をとる時は、N−置換ラクタム基、環状イミノエーテル基、環状イミン基、N−置換水添環状イミノエーテル基、環状エーテル基、N−置換環状イミド基またはそれらの組合せなどが挙げられ、環構造をとらない時はN−置換非環状イミド基、非環状3級アミド基等が挙げられる。従って、環構造をとらない酸素原子である非環状エーテルあるいは非環状エステル、更には環構造をとらない硫黄原子である非環状チオールや非環状チオエステルは、成分(B)の水素受容性官能基としては好適でない。好ましくは窒素原子と酸素原子の両方を有する基であり、環構造をとる場合にはN−置換ラクタム基、環状イミノエーテル基であり、環構造をとらない場合はN−置換非環状イミド基または非環状3級アミド基である。水素受容性官能基は、さらに好ましくは環構造をとり、かつ窒素原子のα位にカルボニル基がある複素環基であり、具体的にはピロリドン基などのN−置換ラクタム基、N−置換環状イミド基または環状3級アミド基である。
【0034】
本発明の成分(B)は、上記のような水素受容性官能基を有する高分子であって、水素受容性官能基を有する不飽和モノマーの重合、または、水素受容性官能基を有する不飽和モノマーと、他の共重合性モノマーとを共重合することなどにより得られる。
【0035】
N−置換ラクタム基を有する不飽和モノマーの例としては、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニル−4−メチルピロリドン、N−ビニル−4−エチルピロリドン、N−ビニル−4−プロピルピロリドン、N−ビニル−4−ブチルピロリドン、N−ビニル−4−メチル−5−エチルピロリドン、N−ビニル−4−メチル−5−プロピルピロリドン、N−ビニル−5−メチル−5−エチルピロリドン、N−ビニル−5−プロピルピロリドン、N−ビニル−5−ブチルピロリドン、N−ビニル−4−メチルカプロラクタム、N−ビニル−6−メチルカプロラクタム、N−ビニル−6−プロピルカプロラクタム、N−ビニル−7−ブチルカプロラクタムなどが挙げられる。
【0036】
環状イミノエーテル基を有する不飽和モノマーの例としては、2−ビニル−2−オキサゾリン、5−メチル−2−ビニル−2−オキサゾリン、4,4−ジメチル−2−ビニル−2−オキサゾリン、4,4−ジメチル−2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、4−アクリロイル−オキシメチル−2,4−ジメチル−2−オキサゾリン、4−メタクリロイル−オキシメチル−2,4−ジメチル−2−オキサゾリン、4−メタクリロイル−オシメチル−2−フェニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−(4−ビニルフェニル)−4,4−ジメチル−2−オキサゾリン、4−エチル−4−カルボエトキシメチル−2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−イソプロペニル−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン等があげられる。
【0037】
環状イミンを有する不飽和モノマーの例としては、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン等が挙げられる。
【0038】
N−置換水添環状イミノエーテル基を有する不飽和モノマーの例としては、N−ビニルモルホリン、N−(メタ)アクリロイルモルホリン等が挙げられる。
【0039】
環状エーテルを有する不飽和モノマーの例としては、アクリル酸テトラヒドロフルフリル、2−ビニル−1,4−ジオキサン、アクリル酸5−エチル−1,3−ジオキサン−5−イルメチル等が挙げられる。
【0040】
N−置換環状イミド基を有する不飽和モノマーの例としては、N−ビニルマレインイミド、N−(4−ビニルフェニル)マレインイミド、N−ビニルフタルイミド等が挙げられる。
【0041】
N−置換非環状イミド基を有する不飽和モノマーの例としては、N−ビニルジアセトアミド、N−ビニルジベンズアミド、N−ビニル−N−アセチルベンズアミド、N−アセチル−N−3−ビニルプロパノイルベンズアミド、N−アセチル−N−3−(メタ)アクリロイルプロパノイルベンズアミド、N−ビニルジ−2−フロイルアミン等が挙げられる。
【0042】
非環状3級アミド基を有する不飽和モノマーの例としては、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N,N−ジイソプロピルアクリルアミド、N−メチル−N−イソプロピルアクリルアミド等が挙げられる。
【0043】
水素受容性官能基を有するビニルポリマーの合成は、上記成分(A)の水素供与性官能基を有するビニルポリマーと同様の方法で製造することができる。被膜形成性高分子(B)の分子量は、通常、数平均分子量で1,000〜2,000,000であり、好ましくは2,000〜1,500,000、より好ましくは3,000〜1,000,000である。数平均分子量が1,000より小さいと、耐溶剤性の向上が十分に得られなくなり、2,000,000より大きいと、粘度が極めて大きくなって塗料の作製や塗装が困難になる。
【0044】
成分(C)
本発明の低温硬化性被覆組成物の成分(C)は、分子内に水素原子と共有結合するヘテロ原子および水素原子と共有結合しないヘテロ原子の両方のヘテロ原子を有する非塩基性揮発性溶媒(C−1)、分子内に水素原子に共有結合しているヘテロ原子を有する非塩基性揮発性溶媒(C−2)と分子内に水素原子が共有結合していないヘテロ原子を有する非塩基性揮発性溶媒(C−3)との混合物、およびその組合せから成る群から選択される非塩基性揮発性溶媒である。ヘテロ原子は、前述のように、酸素原子(O)、窒素原子(N)、硫黄原子(S)が通常であり、それと水素原子が結合しているものと結合していないものに分けている。但し、この非塩基性揮発性溶媒(C)は、非塩基性でなければならず、ヘテロ原子は主として酸素原子(O)または硫黄原子(S)である。成分(C)は、非塩基性揮発性溶媒であり、揮発性は酢酸n−ブチルの蒸発速度を100とした場合の20℃における相対蒸発速度で表した場合に、相対蒸発速度が0.1以上、好ましくは0.2以上、より好ましくは0.3以上である必要がある。
【0045】
本発明で用いる非塩基性揮発性溶媒(C−1)は、分子内に水素原子と共有結合するヘテロ原子および水素原子と共有結合しないヘテロ原子の両方のヘテロ原子を有するものであり、例えばヒドロキシ基とエーテル基の両方を有しているアルコキシアルコール(エチレングリコールのモノエーテル化合物の場合はセロソルブと呼ばれることもある。)、具体的にはメトキシプロパノール、エトキシプロパノール、プロポキシプロパノール、ブトキシプロパノール、メトキシエタノール、エトキシエタノール、プロポキシプロパノール、ブトキシエタノール、ソルフィット、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチルジグリコールまたはブチルジグリコール等が挙げられる。
【0046】
非塩基性揮発性溶媒(C−1)は、好ましくはメトキシプロパノール、エトキシプロパノール、プロポキシプロパノール、エトキシエタノール、プロポキシプロパノール、ブトキシエタノールまたはジプロピレングリコールモノメチルエーテルであり、より好ましくはメトキシプロパノール、プロポキシプロパノール、ブトキシエタノールである。
【0047】
非塩基性揮発性溶媒(C−2)は、分子内に水素原子に共有結合しているヘテロ原子を有するものであり、非塩基性揮発性溶媒(C−3)は分子内に水素原子が共有結合していないヘテロ原子を有するものであり、その2種類の溶媒の混合物が、本発明では成分(C)として用いられる。この場合のヘテロ原子も、やはり、酸素原子(O)または硫黄原子(S)である。非塩基性揮発性溶媒(C−2)および(C−3)における揮発性も、上述の酢酸n−ブチルの蒸発速度を100とした場合の相対値で表すことができ、塩基性揮発性溶媒(C−1)と同様、上記相対蒸発速度が0.1以上、好ましくは0.2以上、より好ましくは0.3以上である必要がある。
【0048】
本発明で用いられる非塩基性揮発性溶媒(C−2)は、酸素の場合、上記揮発性を満足するアルコールであり、具体的にはアルキルアルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、n−ブタノール、iso−ブタノール、t−ブタノール、ペンタノール、2−エチルヘキサノール)、環状アルコール(例えば、シクロヘキサノール)等が挙げられる。硫黄の場合、n−プロパンチオール、iso−プロパンチオール、n−ブタンチオール、iso−ブタンチオール、t−ブタンチオール、ヘキサンチオール、ベンジルメルカプタン等が挙げられる。
【0049】
非塩基性揮発性溶媒(C−3)は、酸素の場合、上記揮発性を満足するエーテルであり、具体的にはジアルキルエーテル(例えば、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテルまたはジブチルエーテル)、ジオールのジアルキルエーテル(例えば、ジメチルグリコール、ジメチルジグリコール、メチルエチルジグリコール、ジエチルジグリコールまたはジブチルジグリコール)、環状エーテル(例えば、テトラヒドロフランまたはジオキサン)、エーテル基とエステル基を分子内に有する化合物(例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートまたはエチル3−エトキシプロピオネート)等が挙げられる。硫黄の場合、ジアルキルスルフィド(例えば、ジメチルスルフィド、ジエチルスルフィド、ジプロピルスルフィドまたはジプロピルジスルフィド)、環状スルフィド(例えば、チオフェン、テトラヒドロチオフェン)等が使用できる。
【0050】
成分(C)の2種類目は、上記のように、非塩基性揮発性溶媒(C−2)と(C−3)の混合物であり、非塩基性揮発性溶媒(C−2)としてはエタノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、iso−ブタノール、t−ブタノール、2−エチルヘキサノールが特に好ましく、揮発性の非塩基性低分子量溶媒(C−3)としてはジオキサン、テトラヒドロフラン、ジメチルグリコール、ジメチルジグリコールが特に好ましい。
【0051】
成分(A)〜(C)の配合量
上記被膜形成性高分子(A)と被膜形成性高分子(B)との配合量は、成分(A):成分(B)の重量比で、1:100〜100;1、好ましくは1:50〜50:1、より好ましくは1:30〜30:1である。成分(A)が100:1より多いときは、成分(A)と概ね同程度の耐溶剤性しか得られないという欠点を有し、1:100より少ないときは、成分(B)と概ね同程度の耐溶剤性しか得られないという欠点を有する。
【0052】
成分(A)および(B)の比は、官能基のモル比でも表すことができ、水素供与性官能基:水素受容性官能基のモル比は通常1:100〜100;1、好ましくは1:50〜50:1、より好ましくは1:30〜30:1である。水素供与性官能基のモル量が100:1より多いときは、成分(A)と概ね同程度の耐溶剤性しか得られないという欠点を有し、1:100より少ないときは、成分(B)と概ね同程度の耐溶剤性しか得られないという欠点を有する。
【0053】
成分(C)は、基本的に溶剤と水素供与性官能基のキャップ剤の両方の働きを有しているが、成分(A)と成分(B)が溶解する量であれば特に限定的ではないが、通常は成分(A)〜(C)の合計量の10〜99重量%、好ましくは20〜95重量%、より好ましくは25〜90重量%である。成分(C)が、99重量%より多くてもよいが、揮散に時間がかかり無駄になる。逆に、10重量%より少ないと、溶解性および水素供与性官能基のキャップ化機能が十分でなくなり、水素供与性官能基と水素受容性官能基の不必要な反応が生じて、固化や粘度上昇が生じる。
【0054】
成分(D)
本発明の低温硬化性被覆組成物は、上記被膜形成性高分子(A)および(B)の代わりに、両方の機能を持つ水素原子に共有結合しているヘテロ原子を有する水素供与性官能基と水素原子が共有結合していないヘテロ原子を有する水素受容性官能基との両方を有し、水素受容性官能基が環構造を有しても有さなくてもよく、環構造を有する場合はヘテロ原子が窒素原子、酸素原子および/または硫黄原子であり、環構造を有さない場合はヘテロ原子が窒素原子のみまたは窒素原子と酸素原子の両方からなる、被膜形成性高分子(D)を含んでもよい。また、被膜形成性高分子(D)は、被膜形成性高分子(A)または(B)のいずれか一方若しくは両方と共存してもよい。
【0055】
被膜形成性高分子(D)における水素原子に共有結合しているヘテロ原子を有する水素供与性官能基は前述の成分(A)と同じものを用いることができ、水素原子が共有結合していないヘテロ原子を有する水素受容性官能基は前述の成分(B)と同じものを用いることができる。但し、水素受容性官能基は、環構造を有しても有さなくてもよく、環構造を有する場合はヘテロ原子が窒素原子、酸素原子および/または硫黄原子であり、環構造を有さない場合はヘテロ原子が窒素原子のみまたは窒素原子と酸素原子の両方からなる官能基である。
【0056】
従って、上記の水素供与性官能基を有する不飽和モノマーと、水素受容性官能基と有する不飽和モノマーと、必要に応じて他の共重合性モノマーとを共重合することにより得てもよい。また、水素供与性官能基を有する(共)重合体と水素供与性官能基を有する(共)重合体の高分子反応、水素供与性官能基を有する(共)重合体セグメントと水素供与性官能基を有する(共)重合体セグメントの逐次ラジカル重合等によって製造することができる。いずれの場合においても、水素受容性官能基と水素供与性官能基とが反応を起こさないような条件または反応を起こさないような処理をして、反応を行わせることができる。もちろん、被膜形成性高分子(D)の製造方法は、これらに限定されない。
【0057】
被膜形成性高分子(D)の分子量は、通常、数平均分子量で1,000〜3,000,000であり、好ましくは2,000〜2,000,000、より好ましくは3,000〜1,500,000である。数平均分子量が1,000より小さいと、耐溶剤性の向上が十分に得られなくなり、3,000,000より大きいと、粘度が極めて大きくなって塗料の作製や塗装が困難になるという欠点を有する。
【0058】
被膜形成性高分子(D)中の水素供与性官能基:水素受容性官能基のモル比は通常1:100〜100:1、好ましくは1:50〜50:1、より好ましくは1:30〜30:1である。水素供与性官能基のモル量が100:1より多いときは、水素受容性官能基を用いなかった場合と概ね同程度の耐溶剤性しか得られず、1:100より少ないときは、水素供与性官能基を用いなかった場合と概ね同程度の耐溶剤性しか得られないという欠点を有する。
【0059】
前述のように、成分(D)の被膜形成性高分子はさらに、成分(A)や成分(B)と組み合わせて使用することもできる。成分(D)と、成分(A)および成分(B)と組み合わせて使用する場合の水素供与性官能基:水素受容性官能基のモル比は通常1:100〜100;1、好ましくは1:50〜50:1、より好ましくは1:30〜30:1である。水素供与性官能基のモル量が100:1より多いときは、水素受容性官能基を有する被膜形成成分を用いなかった場合と概ね同程度の耐溶剤性しか得られないという欠点を有し、1:100より少ないときは、水素供与性官能基を有する被膜形成成分を用いなかった場合と概ね同程度の耐溶剤性しか得られないという欠点を有する。
【0060】
成分(D)を用いる場合でも、成分(C)は、基本的に溶剤と水素供与性官能基のキャップ剤の両方の働きを有する。成分(C)の量は、成分(D)が溶解する量であれば特に限定的ではないが、通常成分(C)は成分(D)と成分(C)の合計量の10〜99重量%、好ましくは20〜95重量%、より好ましくは25〜90重量%である。成分(C)が、99重量%より多くてもよいが、揮散に時間がかかり無駄になる。逆に、10重量%より少ないと、溶解性および水素供与性官能基のキャップ化機能が十分でなくなり、水素供与性官能基と水素受容性官能基の不必要な反応が生じて、固化や粘度上昇が生じる。成分(D)と成分(A)若しくは成分(B)とを組合せる場合も、組成物全体の量の10〜99重量、好ましくは20〜95重量%、より好ましくは25〜90重量%である。
【0061】
本発明における低温硬化性被覆組成物は、上記成分(A)〜(D)に加えて、例えばヘプタン、トルエン、キシレン等の、成分(C)以外の溶剤を含んでもよい。
【0062】
低温硬化性被覆組成物のその他の成分
本発明における低温硬化性被覆組成物は、上記成分(A)〜(D)に加えて、必要に応じた他の成分を含んでもよい。他の成分として、例えば、顔料、意匠材料(砂、硅砂、カラーサンド、ビーズ、カラーチップ、鉱物チップ、ガラスチップ、木質チップおよびカラービーズなど)、造膜助剤、表面調整剤、防腐剤、防かび剤、消泡剤、光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、pH調整剤などが挙げられる。
【0063】
顔料としては、特に限定されず、例えば、アゾキレート系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、モノアゾ系顔料、ジスアゾ系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ系顔料、チオインジゴ系顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、ナフトール系顔料、ピラゾロン系顔料、アントラキノン系顔料、アンソラピリミジン系顔料、金属錯体顔料などの有機系着色顔料;黄鉛、黄色酸化鉄、酸化クロム、モリブデートオレンジ、ベンガラ、チタンイエロー、亜鉛華、カーボンブラック、二酸化チタン、コバルトグリーン、フタロシアニングリーン、群青、コバルトブルー、フタロシアニンブルー、コバルトバイオレットなどの無機系着色顔料;マイカ顔料(二酸化チタン被覆マイカ、着色マイカ、金属メッキマイカ)、グラファイト顔料、アルミナフレーク顔料、金属チタンフレーク、ステンレスフレーク、板状酸化鉄、フタロシアニンフレーク、金属メッキガラスフレーク、その他の着色、有色偏平顔料;酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、炭酸バリウム、珪酸マグネシウム、クレー、タルク、シリカ、焼成カオリンの体質顔料などを挙げることができる。
【0064】
本発明の低温硬化性被覆組成物が顔料を含む場合は、塗料組成物の固形分に対する顔料質量濃度(PWC)が5〜70質量%の範囲内であることが好ましい。上記PWCが5質量%未満であると、下地隠蔽性が劣り、上記PWCが70質量%を超えると、耐侯性が低下するおそれがある。顔料質量濃度(PWC)は20〜45質量%であることがより好ましい。
【0065】
本発明の低温硬化性被覆組成物の調製法としては特に限定されず、上述した各成分を、攪拌機などにより攪拌することによって調製することができる。低温硬化性被覆組成物中に顔料または意匠材料が含まれる場合は、分散性のよいものは攪拌機により混合することができ、他の方法として、顔料分散樹脂にサンドグラインドミルなどを用いて予め分散させたものを加えることもできる。
【0066】
塗装方法等
本発明の低温硬化性被覆組成物は、金属表面等の被塗装物表面上に塗装した後、所定温度に加熱することによって、耐溶剤性の高い被膜とすることができる。このような低温硬化性被覆組成物の塗装は、浸漬、ハケ塗り、スプレー、ロールコーターなど通常の方法によって行うことができる。また塗装後の加熱の条件は、非塩基性揮発性溶媒(C)が揮発し、水素結合が形成される加熱条件であればよく、通常は、50〜100℃で数十分間ないし15℃で数日程度である。もちろん、これらの塗装条件に限定されない。
【実施例】
【0067】
本発明を実施例により更に詳細に説明する。実施例中特に断らない限り、部及び%は重量部及び重量%を示す。
【0068】
水素供与性官能基を有する被膜形成性高分子A−Iの合成
攪拌機、温度調整器、冷却管を備えた2リットルの反応容器にメトキシプロパノール500部を仕込み、これにアクリル酸150部、スチレン180部、n−ブチルアクリレート80部、n−ブチルメタアクリレート180部からなるモノマー溶液およびメトキシプロパノール60部とt−アミルパーオキシオクトエート12部からなる開始剤溶液を115℃で3時間滴下し、1時間さらに攪拌を継続した。次いで、メトキシプロパノール10部とt−アミルパーオキシオクトエート2部からなる開始剤溶液を115℃で30分間滴下し、30分間さらに撹拌を継続することにより、ガードナー気泡粘度X、固形分酸価200mgKOH/gおよび固形分50重量%のアクリルワニスを得た。このアクリル樹脂の数平均分子量を、GPC装置として「HLC8220GPC」(商品名、東ソー(株)製)、カラムとして「Shodex KF−606M」、「Shodex KF−603」(いずれも昭和電工(株)製、商品名)の2本を用いて、移動相:テトラヒドロフラン、測定温度:40℃、流速:0.6cc/分、検出器:RIの条件で測定した結果、数平均分子量が14,000であった。
【0069】
水素供与性官能基を有する被膜形成性高分子A−IIの合成
モノマー溶液としてアクリル酸75部、スチレン175部、n−ブチルアクリレート40部、n−ブチルメタクリレート300部を用いた以外は被膜形成高分子A−Iと同様にして、ガードナー気泡粘度U、固形分酸価100mgKOH/gのアクリルワニスを得た。数平均分子量は、14,000であった。
【0070】
水素供与性官能基を有する被膜形成性高分子A−IIIの合成
モノマー溶液としてアクリル酸15部、スチレン180部、n−ブチルアクリレート10部、n−ブチルメタクリレート390部を用いた以外は被膜形成高分子A−Iと同様にして、ガードナー気泡粘度S、固形分酸価20mgKOH/gのアクリルワニスを得た。数平均分子量は、14,000であった。
【0071】
水素供与性官能基を有する被膜形成性高分子A−IV
積水化学工業株式会社から市販のエスレックBL−1(ブチラール樹脂)を使用する。エスレックBL−1は計算分子量が約19,000、ブチラール化度が約63のブチラール樹脂である。
【0072】
水素供与性官能基を有する被膜形成性高分子A−V
サンノプコ株式会社から市販のSNシックナーN−1(ポリカルボン酸)を使用する。SNシックナーN−1はpHが約1.8、粘度が約15,000mPa・s、樹脂固形分が約25%のポリカルボン酸樹脂水溶液である。
【0073】
水素供与性官能基を有する被膜形成性高分子A−VIの合成
合成に用いる有機溶媒をメトキシプロパノールからメチルイソブチルケトンに変更した以外は、被膜形成高分子A−Iと同様にして、ガードナー気泡粘度X、数平均分子量15,000のアクリルワニスを得た。
【0074】
水素受容性官能基を有する被膜形成性高分子B−I
BASFジャパン株式会社から市販のソカラン(Sokalan)K30Pを使用する。ソカランK30Pは、分子量45,000のポリビニルピロリドンである。
【0075】
水素受容性官能基を有する被膜形成性高分子B−II
BASFジャパン株式会社から市販のソカラン(Sokalan)VA64Pを使用する。ソカランVA64Pは、ビニルピロリドンと酢酸ビニルの60/40共重合体である。
【0076】
水素受容性官能基を有する被膜形成性高分子B−IIIの合成
モノマー溶液として2−ビニルピリジン220部、スチレン180部、n−ブチルアクリレート150部、n−ブチルメタクリレート20部を用いた以外は被膜形成高分子A−Iと同様にして重合溶液を得たのち、60℃で加熱しながらエバポレーターで減圧乾燥して得た高分子固形分をメトキシプロパノールで希釈することにより、固形分25%、固形分ピリジン価200mgKOH/gのビニルピリジン共重合ワニスを得た。カラムとして「Shodex KF−806M」(昭和電工(株)製、商品名)を用い、移動相として10mMのLiBrを添加したジメチルホルムアミド(DMF)を用いてGPC装置で測定した数平均分子量は、8,000であった。
【0077】
水素受容性官能基を有する被膜形成性高分子B−IV
株式会社日本触媒から市販のエポクロスWS−500を使用する。エポクロスWS−500は、数平均分子量20,000のオキサゾリン基含有ポリマーである。
【0078】
水素供与性官能基および受容性官能基を有する被膜形成性高分子D−Iの合成
モノマー溶液としてN−ビニルピロリドン235部、アクリル酸105部、n−ブチルアクリレート75部、n−ブチルメタクリレート175部を用いた以外は被膜形成高分子A−Iと同様にして、ガードナー気泡粘度Z2、固形分酸価135mgKOH/gのアクリルワニスを得た。カラムとして「Shodex KF−806M」(昭和電工(株)製、商品名)を用い、移動相として10mMのLiBrを添加したDMFを用いてGPC装置で測定した数平均分子量は、16,000であった。
【0079】
水素供与性官能基および受容性官能基を有する被膜形成性高分子D−IIの合成
モノマー溶液としてN−ビニルピロリドン235部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート190部、n−ブチルアクリレート75部、n−ブチルメタクリレート90部を用いた以外は被膜形成高分子A−Iと同様にして、ガードナー気泡粘度Z1、固形分水酸基価140mgKOH/gのアクリルワニスを得た。カラムとして「Shodex KF−806M」(昭和電工(株)製、商品名)を用い、移動相として10mMのLiBrを添加したDMFを用いてGPC装置で測定した数平均分子量は、23,000であった。
【0080】
非環状エーテル基を有する被膜形成性高分子X−I(比較例用)
三洋化成工業株式会社から市販のニューポールLB−1715を使用する。ニューポールLBー1715は、数平均分子量2,390のポリオキシプロピレンアルキルエーテルである。
【0081】
非環状エステル基を有する被膜形成性高分子X−IIの合成(比較例用)
モノマー溶液としてスチレン190部、n−ブチルアクリレート10部、n−ブチルメタクリレート390部を用いた以外は被膜形成高分子A−Iと同様にして、ガードナー気泡粘度R、固形分酸価0mgKOH/gのアクリルワニスを得た。数平均分子量は、14,000であった。
【0082】
実施例1
上記被膜形成性高分子(A−I)30重量部をメトキシプロパノール(MP)70重量部に混合して被膜形成性高分子(A−I)ワニスを作成した。次に、被膜形成性高分子(B−I)であるソカランK30P(固形分100%)15重量部とメトキシプロパノール(MP)85重量部とを混合して被膜形成性高分子(B−I)ワニスを作成した。両者を混合して複合ワニスを作成した。
【0083】
混合性
得られた複合ワニスの混合性を表1に示す。表1には、複合ワニスの配合、複合ワニスの非揮発分(NV)濃度(重量%)および被膜形成性高分子(A−I)と被膜形成性高分子(B−I)の重量比も記載した。混合性は以下の基準で評価した。
評価
×…混合するとゲル塊などの沈殿を形成する。
○…混合しても沈殿を形成しない。
【0084】
水滴スポット白化性
塗膜中に残存した場合、塗膜の耐水性能を著しく低下させる懸念がある成分を検出するため、下記要領にて得られた塗膜の水滴スポット白化性試験を実施した。
【0085】
水滴スポット白化性試験
前述の複合ワニスを、それぞれ150mm×150mmの大きさのブリキ板の上に、バーコーターで塗装し、60℃で30分乾燥させた。得られた塗膜に脱イオン水を2mlポリスポイドで1液乗せ、5秒間静置したのち、塗膜を摩擦せずにウエスで水滴を吸い取って、塗膜に白化が見られるか評価した。結果を表1に示す。
【0086】
評価
○…明らかな白化はなかった。
×…塗膜が著しく白化した。
【0087】
耐溶剤性
次に、上記手順で得られた塗膜について、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルエチルケトン(MEK)、メトキシプロパノール(MP)、イソプロパノール(IPA)、エタノール(EtOH)および脱イオン水(DIW)に対する耐溶剤性を以下の方法で試験した。結果を表1に示す。
【0088】
また、上記ワニス(A−I)またはワニス(B−1)を、複合ワニスと同様に、ブリキ板の上にバーコーターで塗装し、60℃で30分乾燥させた。この単独ワニスの塗膜についても、上記本発明の複合ワニスと同様に耐溶剤性試験を行った。この単独ワニスは、実施例の複合ワニスの優位性を示すための比較のために行ったものである。結果を表1に示す。
【0089】
耐溶剤性試験
塗膜にそれぞれの薬品を2mlポリスポイドで1液乗せ、ラテックス手袋をつけた指先で20往復こすり、ウエスで拭き取るプロセスを1サイクルとして、塗膜が溶解するまでのサイクル数を評価として記載した。
【0090】
評価
1…1サイクルで塗膜が完全に溶解した。
2…2サイクルで塗膜が完全に溶解した。
3…3サイクル目でも塗膜が残存した。
【0091】
耐溶剤性試験の結果、複合試料が単独試料の評価よりも優れているかどうかついても以下のように分類した。結果を表1に示す。
【0092】
◎…複合試料の耐溶剤性の評価が、両方の単独試料よりも高い場合。
○…複合試料の耐溶剤性の評価が、いずれか一方よりも高い場合。
−…複合試料の耐溶剤性の評価が、両方の単独試料と同点である場合。
×…複合試料の耐溶剤性の評価が、いずれか一方よりも劣っている場合。
【0093】
総合判定
耐溶剤性試験の結果、複合試料が単独試料に対して総合的に優れているかどうかについて以下のように分類した。結果を表1に示す。
【0094】
◎…複合試料の耐溶剤性の評価が、「◎」、「○」または「−」のいずれかであり、「◎」を含む場合。
○…複合試料の耐溶剤性の評価が、「○」または「−」のいずれかであり、「○」を含む場合。
×…複合試料の耐溶剤性の評価が、いずれか一つでも「×」を含む場合。
【0095】
実施例2〜16
表1〜6に記載している被膜形成性高分子Aとその溶媒の組合せをAワニス(具体的には、A−Iワニス〜A−Vワニス)、被膜形成性高分子Bとその溶媒の組合せをBワニス(具体的には、B−Iワニス〜B−IVワニス)として、その両者を混合したものを複合ワニスとし、その複合ワニスの不揮発分含量%(NV%)およびA/Bの重量部比を同様に表に記載した。それぞれのワニスについて実施例1と同様に、混合性、水滴スポット白化性、耐溶剤性試験および総合判定を行った。結果を表1〜6の各実施例に記載する。実施例8〜13では、被膜形成性高分子AおよびBの水素供与性官能基および水素受容性官能基のモル比も表に記載した。また、実施例14〜16では、被膜形成性高分子として、水素供与性官能基と水素受容性官能基との両方を有する被膜形成性高分子D(具体的には、被膜形成性高分子D−IおよびD−II)を用いた場合の例を示すものであり、実施例14は、被膜形成性高分子D−I単独の処方であり、実施例15および16は、被膜形成性高分子D−IまたはD−IIと被膜形成性高分子A−Iとの組合せの例である。表6の耐溶剤性における比較として用いたAワニスとBワニスは、実施例14では実施例8のA−IワニスおよびB−IIワニスであり、実施例15および16も実施例14と同じく実施例8のA−IワニスおよびB−IIワニスである。
【0096】
実施例17
この実施例は、低温(例えば、室温)での硬化性を調べる実施例である。被膜形成性高分子(A−I)30重量部をメトキシプロパノール(MP)70重量部に混合して被膜形成性高分子(A−I)ワニスを作成した。次に、被膜形成性高分子(B−II)であるソカランVA64P(固形分100%)15重量部とメトキシプロパノール(MP)85重量部とを混合して被膜形成性高分子(B−II)ワニスを作成した。両者を混合して複合ワニスを作成した。
【0097】
それぞれの被膜形成性高分子AまたはBの単独の15重量%の溶液を塗料として、同様にブリキ板の上にバーコーターで塗装し、室温で5日間乾燥させた。乾燥期間中は空調機を用いず、最高室温は15℃であった。この単独ワニスの塗膜についても、上記本発明の複合ワニスと同様に耐溶剤性試験を行った。この単独ワニスは、実施例の複合ワニスの優位性を示すための参考のために行ったものである。結果を表7に示す。
【0098】
実施例18〜22
実施例18および19は、使用する成分Cの溶媒を変更した例であり、実施例20および21は、使用する成分Cの溶媒を変更すると同時にその他の溶媒(トルエンまたはトルエンとメチルエチルケトン(MEK))を添加した例である。実施例21は、被膜形成性高分子AとしてA−VIを用いた。実施例22は、実施例18のワニスそれぞれにその他の溶剤としてヘプタンを添加したものである。実施例1と同様に混合性、水滴スポット白化性、耐溶剤性および総合評価を行った。結果を表8および表9に示す。表8および表9では、テトラヒドロフランをTHF、ジメチルジグリコールをDMDG、n−ブタノールをnBuOHと表した。
【0099】
比較例1および2
実施例で用いている被膜形成性高分子A−VI(メチルイソブチルケトン(MIBK)溶液)およびB−IIを、成分Cの溶媒ではない溶媒、具体的にはメチルエチルケトン(MEK)およびアセチルアセトンを用いてそれぞれを混合してA−VIワニスおよびB−IIワニスを作成したのち、両者を1:1の重量比で混合し、混合性を確認した。結果を表10に示す。比較例1および2は、混合性が悪く、被膜を形成する水滴スポット白化性試験、耐溶剤性試験は行わなかった。
【0100】
比較例3
実施例で用いている被膜形成性高分子A−VI(メチルイソブチルケトン溶液)を成分Cの溶媒ではない溶媒、具体的にはN,N−ジメチルエタノールアミン(DMEA)と脱イオン水の混合溶液を用いて混合してA−VIワニスを作成した。次に、実施例で用いている被膜形成高分子B−Iを、成分Cの溶媒ではない溶媒、具体的には脱イオン水を用いて混合してB−Iワニスを作成した。両者を1:1の重量比で混合し、実施例1と同様に、混合性試験および水滴スポット白化性試験を行い、同様の判定を行った。結果を表11に示す。比較例3は水滴スポット白化性が悪く、耐溶剤性試験は行わなかった。
【0101】
比較例4および5
実施例で用いている被膜形成高分子A−Iを、成分Cの溶媒、具体的にはメトキシプロパノールで混合してA−Iワニスを作成した。次に、成分Bの高分子ではない高分子、具体的には被膜形成高分子X−Iおよび被膜形成高分子X−IIを、成分Cの溶媒、具体的にはメトキシプロパノールでそれぞれ混合してX−IワニスおよびX−IIワニスを作成した。A−Iワニスを、X−IワニスおよびX−IIワニスとそれぞれ1:1の重量比で混合し、実施例1と同様に、それぞれのワニスの混合性試験、塗膜の水滴スポット白化性試験および耐溶剤性試験を行い、同様の判定を行った。結果を表12の各比較例に記載する。
【0102】
【表1】
【0103】
【表2】
【0104】
【表3】
【0105】
【表4】
【0106】
【表5】
【0107】
【表6】
【0108】
【表7】
【0109】
【表8】
【0110】
【表9】
【0111】
【表10】
【0112】
【表11】
【0113】
【表12】
【0114】
上記実施例および比較例から明らかなように、実施例ではすべての例で単独ワニスよりも複合ワニスにおいて耐溶剤性が高くなっており、低温硬化でも高い耐溶剤性の塗膜が形成される。特に、実施例17では、温度を15℃以下の温度で硬化した例を示しているが、やはり高い耐溶剤性被膜が得られている。比較例1および2では、溶剤が本発明の成分Cでは無い溶剤を用いて実験を行っているが、被膜形成性高分子Aおよび被膜形成性高分子Bの混合自体を行うことができなかった。比較例3は、先行技術文献の特開平6−322292号公報に使用されている溶媒、N,N−ジメチルエタノールアミンを用いた例であるが、混合性は良好であるが、水滴を塗膜表面にスポット添加すると、塗膜が白化を生じた。比較例4および5では、被膜形成性高分子Bとして、水素受容性官能基として直鎖の酸素含有高分子(具体的には、非環状エーテルおよび非環状エステル)を用いた例であり、これらの比較例4および5では混合性や水滴スポット白化性は実施例と遜色ないが、耐溶剤性が非常に悪く、使用できないことが解る。