(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記圧送部の上記周方向流路外側壁は、上記周方向流路外側壁の変化点の近傍において、この変化点よりも下流側領域における上記圧送部の中心から上記周方向流路外側壁までの半径の増加率が、上記変化点よりも上流側領域における上記圧送部の中心から上記周方向流路外側壁までの半径の増加率の1.2倍以上且つ20倍以下の範囲に形成されている、請求項1に記載の水洗大便器装置。
上記圧送部の上記周方向流路外側壁は、上記変化点から上記ストレート部に至るまでの領域における半径の増加率をほぼ一定とする、請求項1又は2に記載の水洗大便器装置。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、添付図面を参照して、本発明の実施形態による水洗大便器装置について説明する。最初に、
図1及び
図2により、本発明の実施形態による水洗大便器装置の全体構造を説明する。
図1は本発明の実施形態による水洗大便器装置を示す全体斜視図であり、
図2は本発明の実施形態による水洗大便器装置を示す全体構成図である。
【0015】
図1に示すように、本実施形態による水洗大便器装置1は、ベッドサイドに配置される介護用トイレとして使用可能な非据え付け型の水洗大便器装置である。水洗大便器装置1は、便器本体2と、便器本体2から排出される汚物及び洗浄水を粉砕し且つ圧送する粉砕圧送装置4と、便器本体2に洗浄水を供給するための可撓性の屋内給水管6と、粉砕圧送装置4から汚物及び洗浄水を排出するための可能性の屋内排水管8(排水管)と、を備えている。
【0016】
また、水洗大便器装置1は、非据え付け型で移動可能であるので、便器本体2の下面には、複数の脚12が取り付けられ、この脚12により、便器本体2を床10上で支持するようになっている。さらに、便器本体2には、跳ね上げ式のアームレスト14が取り付けられ、使用者の立ち座りをサポートし、さらに、座った状態のバランスを確保できるようになっている。
【0017】
図2に示すように、水洗大便器装置1は、建物16の屋内16aの床10上に配置されている。また、屋内給水管6は、屋外16bに配置された屋外給水管18に接続され、屋内排水管8は屋外16bに配置された屋外排水管20に接続されている。このようにして、本実施形態による水洗大便器装置1は、便器本体2に排出された汚物を屋外に排出できるようになっている。
【0018】
図2に示すように、水洗大便器装置1の便器本体2は、便器本体2の前方側に設けられた汚物を受けるボウル部22と、ボウル部22の後方上部に設けられボウル部22に洗浄水を供給するための給水装置24(給水手段)と、ボウル部22の底部と連通するように設けられた汚物を洗浄水と共に排出する排水トラップ管路26と、を備えている。給水装置24は、屋内給水管6の下流端に接続された給水弁28と、この給水弁28から洗浄水をボウル部22に給水するための導水路30を備えている。また、排水トラップ管路26の下流端には、粉砕圧送装置4に汚物と洗浄水を排出するための排出口32が形成されている。
【0019】
ここで、上述した本実施形態の水洗大便器装置1の便器本体2は、ボウル部22内の洗浄水の落差により汚物を排出する洗い落し式の便器である。しかしながら、便器本体2は、この形式に限定されず、サイホン式やサイホンジェット式の便器、又は、便器本体2の排出口32にフラップ弁を設けたフラップ弁方式の便器等についても適用可能である。
また、給水装置24は、貯水タンクから洗浄水を供給するタンク方式のものであってもよい。
【0020】
図2に示すように、水洗大便器装置1の粉砕圧送装置4は、汚物を粉砕する粉砕部34と、この粉砕された汚物を屋内排水管8に圧送する圧送部36を備えている。これらの粉砕部34と圧送部36には、これらを駆動させるための兼用の電動モーター38が取り付けられている。ここで、電動モーター38は、DCブラシレスモーターであり、可変速制御が可能となっている。
【0021】
また、水洗大便器装置1には、使用者が操作する操作部40と、使用者に水洗大便器装置1の状態情報を報知するための報知部42と、使用者による操作部40の操作により、給水装置24及び粉砕圧送装置4を制御すると共に報知部42に水洗大便器装置1の状態情報を報知するための制御部44が設けられている。
【0022】
操作部40には、操作スイッチ等が設けられ、この操作スイッチ等により、使用者が洗浄動作の開始を操作できるようになっている。また、操作部40の操作スイッチ等が操作されると、その操作指令が制御部44に送信され、制御部44が、その指令に基づいて給水装置24に給水指令を送り、給水装置24からボウル部22に所定時間給水が行われ、便器本体2が洗浄されるようになっている。さらに、制御部44は、粉砕圧送装置4に作動信号を送り、粉砕圧送装置4を作動さえるようになっている。さらに、制御部44は、水洗大便器装置1の状態情報を報知部42に送るようになっている。なお、報知部42は、LEDランプ及び/又は小型スピーカー等を備え、状態情報を使用者に視覚及び/又は音声で報知することができる。さらに、報知部42は、制御部44から指令により、LEDランプを点灯又は点滅させて、使用者に異常を知らせることができる。
【0023】
次に、
図3乃至
図7により、水洗大便器装置1の粉砕圧送装置4について説明する。
図3は本発明の実施形態による水洗大便器装置の粉砕圧送装置を示す断面図であり、
図4は粉砕圧送装置の圧送部を示す拡大断面図であり、
図5は粉砕圧送装置の圧送部の圧送室を下部カバーが取り外された状態で斜め下方から見た外観図であり、
図6は
図4の粉砕圧送装置の圧送部のポンプ室における汚物及び洗浄水の流れを概略的に示す図であり、
図7は比較例の水洗大便器装置の粉砕圧送装置における圧送部のポンプ室における汚物及び洗浄水の流れを概略的に示す図である。
【0024】
図3に示すように、粉砕圧送装置4は、上述した便器本体2の排水トラップ管路26の排出口32に接続され、汚物が洗浄水と共に流入するようになっている。
粉砕圧送装置4は、貯留槽46を備え、この貯留槽46の内部には、粉砕部34が設けられている。粉砕部34は、粉砕室48を有し、この粉砕室48は、周壁48aの内部に形成されている。粉砕室48の周壁48aは、その一方側で上述した排水トラップ管路26の排出口32と連通している。粉砕室48の下部には、粉砕室48内で汚物を撹拌するための円盤50が設けられている。この円盤50は、電動モーター38に取り付けられた回転軸52(共通の回転駆動軸)に直結され、回転可能となっている。さらに、この円盤50の上面には、多数の突起50aが形成され、これらの突起50aに汚物が引っ掛かり、撹拌され易くなっている。
【0025】
具体的には、
図3の矢印は、汚物及び洗浄水の流動状態を示しており、この矢印から明らかなように、円盤50上に下降した汚物は、円盤50の回転により、洗浄水と共に、外周側に移動し、周壁48aに衝突し、その後、周壁48aに沿って上昇し、さらに、内周側に移動しながら円盤50上に下降する。汚物は、このようにして、上下方向に旋回しながら撹拌され、粉砕される。このように、粉砕部34は、洗浄水を貯溜すると共にこの貯溜した洗浄水を攪拌することにより発生する水流により汚物を分解する水流分解式の粉砕部を構成している。なお、粉砕部34は、カッター等の刃により物理的に汚物を粉砕する粉砕部であってもよい。
【0026】
図3に示すように、周壁48aの円盤50の外周側付近には、所定の大きさの多数の通過開口48b(通過規制部)が形成されている。これらの通過開口48bにより、所定以下の大きさに粉砕された汚物のみが周壁48aを通過することができ、一方、所定の大きさより大きな汚物の通過は規制されるようになっている。
【0027】
次に、
図4乃至
図5により、粉砕圧送装置4の圧送部36について詳細に説明する。
圧送部36は高揚程が実現可能な遠心式ポンプを形成している。圧送部36は、ポンプ室56を備え、このポンプ室56の下部には、下部カバー57が取り付けられ、この下部カバー57の中央部に、汚物及び洗浄水が流入する流入口58が形成されている。ポンプ室56の外周側には汚物及び洗浄水が流出する流出口60が形成されている。
圧送部36は、さらに、このポンプ室56の周方向流路外側壁64の内側に配置され且つポンプ室56内で回転するインペラ62を備えている。このインペラ62は、円盤形状の円盤部66と、円盤部から部分的に下方に突出して設けられた突起部68と、を備えている。
【0028】
円盤部66は、回転軸52の下端に結合され、電動モーター38により、回転するようになっている。回転軸52は、少なくとも粉砕部34と圧送部36との間に延び、且つ電動モーター38(駆動源)から粉砕部34において洗浄水を攪拌する円盤50の駆動力及び圧送部36においてインペラ62の円盤部66を回転する駆動力を伝達する共通の回転駆動軸として形成されている。
【0029】
インペラ62の2つの突起部68、すなわち2枚の羽根部分は、同じ形状であり、平面視で、点対称に配置され、突起部68の間に形成され且つ流入口58を中心にして、インペラ62上で中央部から外周に向けて延びる2つの径方向流路74を形成している。径方向流路74は、下部に形成された流入口58に連通し且つインペラ62の外周外側に形成された後述する周方向流路76と連通するようになっている。
また、インペラ62の2つの突起部68のそれぞれの外周側壁面68bとポンプ室56の周方向流路外側壁64の間には、インペラ62の外周を周方向に延びる周方向流路76が形成される。インペラ62において径方向流路74が形成されている領域においては、この径方向流路74の出口部分と、周方向流路外側壁64との間に、周方向流路76が形成される。周方向流路76は、径方向流路74と連通し、下流端の流出口部76bがポンプ室56の流出口60と連通するようになっている。
【0030】
径方向流路74においては、インペラ62の回転によって発生する遠心力により、汚物及び洗浄水が中央部から半径方向外側に向かって比較的強力に押し出され、且つ半径方向外側に向かって比較的強い流れを形成することとなる。ここで、本実施形態においては、圧送部36の2つの突起部68により形成される2つの径方向流路74は、全体として、ほぼ直線状に延びる単一の流路を形成している。変形例として、インペラ62の径方向流路74は、異なる形状や個数の突起部により形成される異なる形状や個数の径方向流路であってもよく、例えば、3つの突起部により形成される3つの径方向流路であってもよく、又は、4つの突起部により形成される4つの径方向流路であってもよく、又は、多数の突起部により形成される多数の径方向流路であってもよい。
【0031】
なお、本実施形態においては、圧送部36のポンプ室56内で回転するインペラ62は、ポンプ室56の上方に設けられ且つ上方に延びる回転軸52に取付けられる円盤部66と、この円盤部66から下方に突出して設けられた突起部68と、を備えているが、他の実施形態における水洗大便器装置において、圧送部のポンプ室内で回転するインペラは、ポンプ室の下方に設けられ且つ下方に延びる回転軸に取付けられた円盤部と、この円盤部から上方に突出して設けられた突起部と、を備えるような構成であってもよい。
【0032】
次に、
図4乃至
図6により、粉砕圧送装置4の圧送部36の周方向流路76について詳細に説明する。
周方向流路76は、インペラ62の外周に沿って環状に流路を形成する。環状に形成される周方向流路76の各領域の角度位置を角度の表現を用いて説明しやすくするため、下述の開始部76aの位置を角度0°とし、この開始部76aからインペラ62の回転方向D1に沿って下流側に向かって徐々に角度が増加し、周方向流路76内を一周して開始部76aの外側の流出口部76bの位置の角度を360°として説明する。
【0033】
周方向流路76は、その全周のうち0°の角度位置に設けられる最も幅の狭い開始部76aと、ポンプ室56の周方向流路外側壁64の接線方向D2に沿ってほぼストレートに延び、開始部76aの外側の360°の角度位置を通るように形成されている流出口部76bと、流出口部76bと直線的な流路を形成するように、流出口部76bに接続されるストレート部76cと、周方向流路76の全周のうち0°の角度位置且つ360°の角度位置において、内側の開始部76aと、外側の流出口部76bとの間において、流路が分岐される分岐部76dと、を備えている。
【0034】
開始部76aは、周方向流路76の中において最も幅の狭い部分、すなわち最も流路断面積の小さな部分を形成している。周方向流路76内の流路の幅W1は、ポンプ室56の周方向流路外側壁64と、インペラ62の外周側壁面68bとの間の距離によって決定される。
ポンプ室56の周方向流路外側壁64は、0°の位置の開始部76aから所定角度の位置の変化点76eまで、インペラ62の回転方向D1に向かって、圧送部36の中心Cから周方向流路外側壁64までの半径R1が一定の増加率で徐々に増加している。従って、周方向流路外側壁64の半径R1が0°の位置の開始部76aから所定角度の変化点76eまで増加し、インペラの半径r1は、その半径が一定であるので、周方向流路76の幅W1は、開始部76aにおける最小の幅から、下流側に向かって、徐々に増加するように形成されている。このように、ポンプ室56の周方向流路外側壁64は、0°の位置の開始部76aから所定角度の変化点76eまで、インボリュート曲線に沿って、半径R1が一定の増加率で徐々に増加するように形成されている。
【0035】
流出口部76bは、周方向流路外側壁64の周方向流路76の角度位置約315°近傍の領域から、周方向流路外側壁64の接線方向D2に沿って外側に直線的に延びる流路を形成している。流出口部76bは、分岐部76dの外側において直線的に延びる流路を形成し、分岐部76dによって外側に分岐された汚物及び洗浄水の流れを流出させるようになっている。
【0036】
分岐部76dは、周方向流路76内を旋回してきた汚物及び洗浄水を、開始部76a側と、流出口部76bとに分岐させるようになっている。分岐部76dにおいては、汚物及び洗浄水は、主に、流出口部76bから圧送されるが、一部は、開始部76aに流入し、さらに周方向流路76内を周回する。
【0037】
直線的な流路を形成する流出口部76bに加えて、さらに直線的な流路を延長するようにストレート部76cが形成されている。ストレート部76cは、周方向流路外側壁64の接線方向D2に沿ってほぼ直線に延びる流路を形成している。より具体的には、ストレート部76cは、流出口部76bに入る直前の領域、例えば、周方向流路76の角度位置約300°〜315°近傍の領域において、周方向流路外側壁64が直線的に形成され、直線的な流路が形成されている。ストレート部76cは、後述するように周方向流路外側壁64の変化点76eの下流側において周方向流路外側壁64の半径R2が増大されることから、周方向流路76のコーナー部76f(流出口部76b部分に対向するような位置にある周方向流路76のコーナー部)の下流側領域の周方向流路外側壁64が、比較的小さい角度位置、例えば約300°近傍の角度位置から流出口部外側壁76gとほぼ直線上の位置関係となり、ストレート部76cを形成するように形成されている。
なお、ストレート部76cにおけるコーナー部76fの下流側領域の周方向流路外側壁64が、比較的大きな円弧に沿って形成され、且つやや湾曲して形成されていてもよい。すなわち、ストレート部76cは、周方向流路外側壁64がゆるやかに曲がり且つ内側の周方向流路76がほぼ直線状の流路を形成している場合も含んでいる。
【0038】
ポンプ室56の周方向流路外側壁64上の上記所定角度の変化点76eは、180°〜270°の範囲の角度位置、より好ましくは、200°〜260°の範囲の位置、さらに好ましくは220°〜250°の範囲の角度位置に形成されている。
図6に示すように、上記所定角度の変化点76eは、変化点76eを境にして、その下流側の周方向流路外側壁64の半径R2の増加率(変化率)を、その上流側の周方向流路外側壁64の半径R1の増加率から増加させるように変化させている。
ポンプ室56の周方向流路外側壁64は、その変化点76eの近傍において、この変化点76eよりも下流側領域における圧送部36の中心Cから周方向流路外側壁64までの半径R2の増加率が、変化点76eよりも上流側領域における同様の半径R1の増加率に対して、1.2倍以上且つ20倍以下の範囲の大きさに形成され、より好ましくは、5倍以上且つ10倍以下の範囲の大きさに形成されている。
ポンプ室56の周方向流路外側壁64は、その変化点76eの角度位置、半径R2の増加率等により周方向流路76のコーナー部76fの形状が異なる。よって、ストレート部76cの入口の形成される角度位置も、例えば270°〜315°の範囲のうちの角度位置、例えば約300°、約280°又は約270°等の角度位置であってもよい。
【0039】
所定角度の変化点76eの上流側における周方向流路外側壁64の半径のほぼ一定の増加率を、変化点76eの下流側において、上記ほぼ一定の増加率よりもさらに増加させたほぼ一定の増加率とするので、所定角度の変化点76eの下流側の周方向流路外側壁64の半径R2の増加率が増大され、所定角度の変化点76eの下流側の周方向流路の幅W2の拡がる割合が増大されている。ここで、ポンプ室56の周方向流路外側壁64は、変化点76eからコーナー部76fを通ってストレート部76cに至るまでの領域における半径の増加率をほぼ一定とする。
変化点76eの下流側の領域において、周方向流路外側壁64の半径R2が増大され、流路が外側に膨らむように形成される。周方向流路外側壁64が外側に膨らむように形成されることから、コーナー部76fの頂部の湾曲部分の大きさが比較的小さく形成され、コーナー部76fの下流側領域の周方向流路外側壁64が、概ね直線状に形成される。従って、コーナー部76fの下流側領域から、ストレート部76cが形成される。流出口部76bの直前に流出口部76bと直線的に並ぶストレート部76cが形成されることにより、ストレート部76cの入口76hから分岐部76dまでの距離L1が、このストレート部76cが形成されていない場合の流出口部76bの入口76iから分岐部76dまでの距離L2と比べて、ストレート部76cの長さの分だけ、直線状の流路の距離が長く形成されている。
【0040】
本実施形態においては、周方向流路外側壁64が、ストレート部76cの入口76hから分岐部76dまでの距離L1にわたって、ほぼ直線状に形成される。これに対して、比較例においては、周方向流路外側壁164が、流出口部176bの入口176iから分岐部76dまでの距離L2にわたって、ほぼ直線状に形成される。
また、本実施形態における流出口部76bを通る中心軸線が、分岐部76dの近傍からコーナー部76fと交差する位置までの長さは、比較例における流出口部176bを通る中心軸線が、分岐部176dの近傍からコーナー部176fと交差する位置までの長さよりも長くされている。
【0041】
本実施形態においては、変化点76eの下流側の周方向流路外側壁64の半径R2がほぼ一定の増加率で形成されているが、変形例として、変化点76eの下流側の周方向流路外側壁64の半径R2の増加率が変化するように形成されていてもよい。特に、
図6において、変化点76eの下流側の周方向流路外側壁64を半径R3として示すように、コーナー部76f’の頂部が外側に突出するように形成してもよい。このように、コーナー部76f’の頂部を比較的小さな曲率半径を有する円弧により形成し、コーナー部76f’の下流側部分を、比較的長い直線部分として形成することにより、コーナー部76f’の内側の周方向流路76内のストレート部76c’を非常に長く形成することができる。よって、繊維状の異物Fの向きを直線的な流れに沿って整えやすくなっている。
【0042】
次に、
図6及び
図7により、本発明者らによる本発明の開発経緯について説明する。
図6においては、
図5の粉砕圧送装置の圧送部の圧送室の周方向流路外側壁に変化点を設け、所定角度の変化点の領域の下流側に設けられるストレート部を長くするように、変化点の領域の近傍における周方向流路外側壁の半径の増加率を、上記一定の増加率よりもさらに増加させ、変化点の領域の下流側の周方向流路の幅を広げるように形成し、且つこの圧送室内の周方向流路において繊維状の異物が流れる様子を概略的に示しており、
図7においては、比較例として、粉砕圧送装置の圧送部の圧送室の周方向流路外側壁をインボリュート曲線に沿って形成し、且つこの圧送室内の周方向流路において繊維状の異物が流れる様子を概略的に示している。
【0043】
本発明の発明者らは、圧送部のポンプ室内の汚物を排出するために、なるべく高い圧送性能で、ポンプ室内の汚物及び洗浄水を排出することを検討していた。
先ず、比較例の水洗大便器装置における設計思想は、
図7に示すように、圧送部の圧送室(ポンプ室)の圧送性能を重視して、ポンプ室の周方向流路外側壁の形状をインボリュート曲線に沿った形状に形成していた。遠心ポンプにおいては、周方向流路内を流れる洗浄水の流速エネルギーを、なるべく高い効率で、圧力エネルギーに変換することが重要であり、周方向流路の断面積を徐々にインボリュート曲線に沿った一定の割合で増大させることにより、流れの流速を減少させ、圧力を増大させる。従って、ポンプ室の周方向流路外側壁の形状をインボリュート曲線に沿って徐々に変化させ、高い圧送性能を実現することが、汚物及び異物の排出に貢献すると考えられてきた。このように、周方向流路外側壁の形状をインボリュート曲線に沿って徐々に変化させ、急激な変化を無くすことで、周方向流路内の流れの乱れを無くし、なるべく高い圧送性能で、ポンプ室内の汚物及び洗浄水を排出することが重要であると考えられてきた。
【0044】
しかしながら、「ボックスティッシュ」や「流せるおしり拭き」等の異物が流された場合には、これら異物は、粉砕部にて繊維状の異物Fの状態までしか粉砕されないので、圧送部136に流入することとなった。圧送部136に流入された繊維状の異物Fは、インペラ62の回転によって発生する遠心力により、径方向流路から周方向流路176に向かって流れ、
図7に示すように、周方向流路176内を周回して流出口部176bから流出されることとなる。このとき、遠心力により、径方向流路から周方向流路176に向かって流れこみ、外側に向かう様な比較的強い水流が発生している状態となる。このとき、
図7において矢印A1に示すように、遠心力の力を受けて、水流の流れは外側に向かうようなベクトルを有しながら流れる。繊維状の異物Fは、繊維状であるがゆえに若干の長さを有し、遠心力の力を受けて、矢印A1に示す向きに合わせて、周方向流路176内を、横向き姿勢で流れる。横向き姿勢とは、例えば、繊維状の異物Fの前端がやや外側に位置し、且つその後端がやや内側に位置するような位置関係を有するような姿勢をいい、又、例えば、繊維状の異物Fの全部又は一部が周方向流路76内の流線に対して横向き又は斜め向きとなる姿勢をいう。
【0045】
矢印A1に示すように、横向き姿勢を有した状態で流れている繊維状の異物Fが、分岐部176dに到達した際に、繊維状の異物Fが、横向き姿勢を有しているため、分岐部176dに引っ掛りやすく、一旦、繊維状の異物Fが、分岐部176dに引っ掛ると、この引っ掛かった繊維状の異物Fが次々と新たな繊維状の異物Fが絡まり合って大きく成長し、圧送部内の狭い流路を塞ぐという、課題が生じた。
【0046】
この課題に対して、本発明者らは、
図6に示すように、圧送部を大型化することなく、且つ繊維状の異物Fが、分岐部76dに引っ掛らないように、新たにストレート部76cを形成し、分岐部76dまでの直線状の流路をさらに長く形成して、繊維状の異物Fの姿勢を直線状の流線に沿った向きに整えることとした。
具体的には、
図6に示すように、流出口部76bと直線的な流路を形成するような、流出口部76bに接続されるストレート部76cを比較的長く形成するように、周方向流路外側壁64上に変化点76eを設け、この変化点76eの下流側において周方向流路外側壁64の半径R2が増大させ、且つ周方向流路76の幅を広げるように形成した。
【0047】
この結果、周方向流路76内において、矢印A2に示すような、遠心力の力を受けて、外側に向かうようなベクトルを有しながら流れ、且つ横向き姿勢で流れていた繊維状の異物Fが、ストレート部76c及び流出口部76bにおいて、矢印A3に示すような直線状の流れの中で、流れの流線に沿った縦向きの姿勢に変化する。矢印A3に示すような直線状の流れにおいては、水流の流れは、主に、流出口部76bに向かって直進するようなベクトルを有している。このように、繊維状の異物Fは、矢印A3に示すように、流れの流線に沿った縦向きの姿勢に整えられることから、分岐部76dに到達する繊維状の異物Fは、分岐部76dに引っ掛りにくくなり、分岐部76d及び/又は開始部76aにおいて、繊維状の異物Fが絡まり合って大きく成長し、圧送部内の狭い流路を塞ぐことを確実に防止することができるようになった。
【0048】
なお、変化点76eにおいて、その変化点76eの上流側における周方向流路外側壁64の半径の増加率と、変化点76eの下流側における周方向流路外側壁64の半径の増加率とが、変化されるように形成されることにより、変化点76eにおいて若干の水流の乱れを生じさせる可能性があり、本発明による水洗大便器装置は、従来の便器装置に比べて圧送性能(ポンプ性能)が低下するが、本発明者らは、分岐部76d及び/又は開始部76aにおいて、繊維状の異物Fが絡まり合って大きく成長し、圧送部36内の狭い流路を塞ぐことをより確実に防止することができるようになった。
【0049】
図8においては、角度に対する周方向流路76の幅の変化を、本実施形態の水洗大便器装置における圧送部のものと、比較例の水洗大便器装置における圧送部のものとでそれぞれ計測して比べた結果を示している。縦軸は周方向流路76の半径方向の流路の幅の大きさ[mm]を示し、横軸は角度[°]を示している。
本実施形態においては、周方向流路76の幅W1は、0°の角度位置の開始部76aにおける最小の幅から、所定角度(本実施形態においては約240°の角度)の角度位置の変化点76eまでほぼ一定の増加率(変化率)で徐々に増加するように形成されている。所定角度の変化点76eは、変化点76eを境にして、その下流側の周方向流路外側壁64の半径R2の増加率(変化率)を、その上流側の周方向流路外側壁64の半径R1の増加率から増加させるように変化させている。周方向流路外側壁64の半径R2の増加率もほぼ一定の増加率となっている。変化点76eを境にして、その下流側の周方向流路76の幅W2の増加率(変化率)は、その上流側の周方向流路76の幅W1の増加率からさらに増加していることが分かる。本実施形態においては、変化点76eは、約240°の角度位置に設けられ、ストレート部76cの開始位置は、約300°の角度位置に位置している。
これに対し、比較例の水洗大便器装置における圧送部においては、周方向流路外側壁164はインボリュート曲線に沿った形状に形成され、開始部176aから、流出口部176bまで周方向流路176の幅W3がほぼ一定の増加率で徐々に増加するように形成されている。比較例においては、変化点76eは設けられておらず、直線的な流路を形成する流出口部176bの入口位置は、約315°の角度位置に位置している。
【0050】
次に、
図2、
図3及び
図6により、上述した本発明の実施形態による水洗大便器装置の動作(作用)を説明する。
図2、
図3及び
図6において、各矢印は、汚物及び洗浄水の流動状態を示している。
【0051】
先ず、使用者が便器本体2を洗浄水により洗浄するために操作部40の操作スイッチ等を操作することにより、洗浄動作が開始される。操作部40の操作スイッチ等が操作されると、その操作指令が制御部44に送信され、制御部44が、その指令に基づいて給水装置24に給水指令を送り、給水装置24からボウル部22に所定時間給水が行われ、便器本体2が洗浄される。また、制御部44から電動モーター38に動作指令が送られ、電動モーター38の回転動作が開始される。
【0052】
汚物及び洗浄水は、洗浄水の落差により、排水トラップ管路26から排出され、排出口32を通って、粉砕圧送装置4の粉砕室48内に流入し、円盤50上に下降する。粉砕室48では、既に円盤50が回転しており、円盤50上に下降した汚物は、洗浄水と共に、円盤50の回転により、外周側に移動し、周壁48aに衝突し、その後、周壁48aに沿って上昇し、さらに、内周側に移動しながら下降し、このようにして、上下方向に旋回しながら撹拌され、粉砕される(
図3参照)。
【0053】
次に、
図3及び
図4に示すように、周壁48aの円盤50の外周側付近には、所定の大きさの多数の通過開口48bが形成されているので、粉砕室48で粉砕された汚物のうち、通過開口48bの大きさよりも小さなものは、通過開口48bから、下流側の流路54に排出される。なお、この通過開口48bの大きさよりも大きな汚物は、引き続き、所定の大きさ以下になるまで、粉砕室48内で上下方向に撹拌され粉砕される。
【0054】
粉砕された汚物は、洗浄水と共に、流路54から、圧送部36のポンプ室56の下面の中央部に形成された流入口58から、ポンプ室56内に流入する。ポンプ室56内に流入した汚物及び洗浄水は、突起部68の間に形成された径方向流路74に流入し、ポンプ室56の中央部から、インペラ62の回転によって発生する遠心力により、径方向流路74から周方向流路76に向かって流れる。また、遠心力により径方向流路74から周方向流路76の外周側に押し出された汚物と洗浄水は、その流れの勢い及び方向を維持した状態で周方向流路76に流入する。よって、周方向流路76に流入した汚物及び洗浄水は、矢印A2に示すように、インペラ62の遠心力により、周方向流路76の中心軸線よりも外側に向かうような大きさ及び向きを有するベクトルを有する流れを形成する。
【0055】
汚物及び洗浄水は、遠心力を受けて、周方向流路76内を開始部76aから、流出口部76bに向かって周回するように流れる。このとき、周方向流路76は、流路断面積が開始部76aから徐々に大きくなるように形成されており、洗浄水の流速エネルギーが徐々に圧力エネルギーに変換され、洗浄水が流出口部76bから圧送される。
【0056】
より詳細な流れを説明する。汚物及び洗浄水の流れは、0°の位置の開始部76aから所定角度の位置の変化点76eの近傍領域まで、周方向流路外側壁64に沿って下流側(周回方向)に向かう流れと、遠心力により外側に向かう流れとが相俟って、矢印A2に示すような外側に向かうベクトルを有する流れを形成する。このとき、繊維状の異物Fは、糸くず状、繊維状であるがゆえに若干の長さを有し、遠心力の力を受けて、矢印A2に示すような水流の向きと同様の横向きの姿勢を有しながら、周方向流路76内を流れることとなる。例えば、繊維状の異物Fが矢印A2に示すような水流の向きに沿って流れる場合には、繊維状の異物Fの前端が周方向流路外側壁64近傍(周方向流路76の外側近傍)に位置し、その後端がインペラ62の外周側壁面68b近傍(周方向流路76の内側近傍)に位置するような横向きの姿勢を繊維状の異物Fが形成しながら流れる。繊維状の異物Fは、遠心力の力を受けるので、横向きの姿勢を取りやすくなっている。
【0057】
繊維状の異物Fがコーナー部76fの下流側領域のストレート部76cに流入すると、ストレート部76c及び流出口部76bの直線的な流路に沿って流れる。ほぼ直線状の流路が、流出口部76bを延長するようにさらにストレート部76cを加えた流路によって比較的長い距離にわたって形成されるので、繊維状の異物Fがストレート部76c及び流出口部76bの直線的な流路内を流れる際に、横向きの姿勢から直線的な流路の流線に沿った縦向きの姿勢(矢印A3に示すような流れの流線に平行な向きの姿勢)に整えられる。直線状の流路が、ストレート部76cを加えた分比較的長く形成できるため、繊維状の異物Fの向きを直線的な流れに沿って修正しやすくなっている。
また、ストレート部76c及び流出口部76bの直線的な流路においては、周方向流路外側壁64が、ほぼ直線状の連続した壁面を形成しているので、汚物及び洗浄水の流れは、周方向流路外側壁64に沿って直線的に整った流れを形成しやすく、乱れにくくなっている。従って、この流れに含まれる繊維状の異物Fの向きを直線的な流れに沿って整えやすくなっている。
【0058】
繊維状の異物Fが分岐部76d近傍に至るとき、汚物及び洗浄水の大部分は、分岐部76dの外側の流路の流出口部76bから直線的に流出され、圧送部36から圧送される。また、汚物及び洗浄水の一部分は、分岐部76dの内側の流路に流れ、開始部76aに流入する。このとき、汚物及び洗浄水の流れに含まれる繊維状の異物Fの向きが、矢印A3に示すような、縦向きの姿勢に整えられているので、汚物及び洗浄水の流れが分岐部76dにおいて分岐される際に、繊維状の異物Fが分岐部76dに横向きの姿勢で引っ掛ることが抑制又は防止される。従って、引っ掛かった繊維状の異物Fに次々と新たな繊維状の異物Fが絡まり合って大きく成長し、周方向流路76を詰まらせることを防止できる。
【0059】
この後、ポンプ室56内の汚物及び洗浄水は、流出口60から排出される。圧送部36により排出された汚物及び洗浄水は、屋内排水管8を通り、屋外排水管20に排出され、汚物の排出動作が完了する。
【0060】
次に、上述した本実施形態による水洗大便器装置1による作用効果を説明する。
このように構成された本発明においては、便器本体2に例えば「ボックスティッシュ」や「流せるおしり拭き」のような異物が流されると、粉砕部34で粉砕されて繊維状となり圧送部36に流入する。流入口58から圧送部36内に流入する繊維状の異物F及び洗浄水は、インペラ62の回転によって発生する遠心力によって径方向流路74から外側の周方向流路76に流れる。周方向流路76内の異物及び洗浄水は、周方向流路76を周回し、流出口部76bから流出する。しかしながら、この際に、繊維状の異物Fが開始部と、流出口部76bとの間において流路が分岐される分岐部76dに引っ掛かり、引っ掛かった繊維状の異物Fに次々と新たな繊維状の異物が絡まり合って大きく成長し、周方向流路76を詰まらせるという新しい問題が発生する。
しかしながら、本実施形態による水洗大便器装置1によれば、圧送部36の周方向流路外側壁64は、変化点76eの下流側に設けられるほぼ直線状の流路を長くするように、変化点76eの下流側における周方向流路外側壁64の半径R2の増加率を、変化点76eの上流側における半径R1の一定の増加率よりも増加させ、変化点76eの下流側の周方向流路76の幅W2を広げるように形成されている。
従って、流出口部76bに至るほぼ直線状の流路が比較的長くなるため、繊維状の異物Fが流出口部76bに向かう際の繊維状の異物Fの姿勢を直線的な流れに沿う向きに向かせることができ、繊維状の異物Fが分岐部76dに引っ掛かることを防止し、これにより、引っ掛かった繊維状の異物Fに次々と新たな繊維状の異物Fが絡まり合って大きく成長し、周方向流路76を詰まらせることを防止できる。
【0061】
また、本実施形態による水洗大便器装置1によれば、圧送部36の周方向流路外側壁64は、変化点76eの下流側に設けられるほぼ直線状の流路を長くするように、変化点76eの下流側における周方向流路外側壁64の半径R2の増加率を、変化点76eの上流側における半径R1の一定の増加率よりも所定の範囲で増加させ、変化点76eの下流側の周方向流路76の幅を広げるように形成されている。
従って、より確実に流出口部76bに接続されるほぼ直線状の流路が長くなるため、繊維状の異物Fが流出口部76bに向かう際の繊維状の異物の姿勢を直線的な流れに沿う向きに向かせることができ、繊維状の異物Fが分岐部76eに引っ掛かることをより確実に防止することができる。
【0062】
さらに、本実施形態による水洗大便器装置1によれば、変化点76eからストレート部76cに至るまでの領域において、汚物及び洗浄水が乱れることを抑制することができる。従って、流出口部76bから流出する汚物及び洗浄水が乱れることを抑制することができる。