(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6564663
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】エキシマランプ装置
(51)【国際特許分類】
H01J 65/00 20060101AFI20190808BHJP
H01J 61/54 20060101ALI20190808BHJP
H01J 61/30 20060101ALI20190808BHJP
A61L 9/20 20060101ALI20190808BHJP
【FI】
H01J65/00 D
H01J61/54 N
H01J61/30 N
H01J61/30 Q
A61L9/20
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-190792(P2015-190792)
(22)【出願日】2015年9月29日
(65)【公開番号】特開2017-68944(P2017-68944A)
(43)【公開日】2017年4月6日
【審査請求日】2018年8月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000128496
【氏名又は名称】株式会社オーク製作所
(72)【発明者】
【氏名】小林 剛
(72)【発明者】
【氏名】芹澤 和泉
(72)【発明者】
【氏名】今井 正人
(72)【発明者】
【氏名】宮坂 裕騎
【審査官】
小林 直暉
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−323995(JP,A)
【文献】
特開2006−040867(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 9/00−9/01
9/015−9/04
9/12−9/22
H01J 61/30−65/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電用ガスが封入された放電容器を有するエキシマランプと、前記放電用ガスに紫外線を照射する始動補助光源とを備えたエキシマランプ装置において、
前記放電容器は有効発光領域の軸方向範囲において一様な放電距離を有し、前記始動補助光源と前記エキシマランプとが空間的に連通し酸素を含有した気体で満たされた状態で対向しており、前記気体の紫外線透過率の波長による違いを利用して、前記エキシマランプから放射される紫外線が前記気体を透過して減衰することで前記始動補助光源には実質的に照射されず、前記エキシマランプから放射される紫外線の波長よりも長い波長の紫外線が前記始動補助光源から放射されて前記気体を透過して前記エキシマランプに照射されることを特徴とするエキシマランプ装置。
【請求項2】
前記始動補助光源の紫外線放射面と前記エキシマランプの紫外線放射面との間で前記気体が満たされた空間の距離が、
前記エキシマランプから放射される紫外線が前記気体を透過して減衰することで前記始動補助光源には実質的に照射されず、前記エキシマランプから放射される紫外線の波長よりも長い波長の紫外線が前記始動補助光源から放射されて前記気体を透過して前記有効発光領域に照射される距離であることを特徴とする請求項1に記載のエキシマランプ装置。
【請求項3】
前記放電容器は、
前記エキシマランプから放射される紫外線よりも前記始動補助光源から放射される紫外線に対して高い透過性を有し、肉厚が0.8mm〜1.5mm、内径が8mm〜20mmであることを特徴とする請求項1または2に記載のエキシマランプ装置。
【請求項4】
前記エキシマランプの紫外線放射面と前記始動補助光源の紫外線放射面との距離L10[mm]は、
以下の式を満たすことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のエキシマランプ装置。
20≦L10≦50
【請求項5】
前記エキシマランプの紫外線放射面と前記始動補助光源の紫外線放射面との間には酸素を含有した気体が満たされ、前記エキシマランプの周囲の少なくとも一部には、前記エキシマランプから放射される紫外線に対して非透過性を有する遮光手段を設け、
前記エキシマランプの紫外線放射面と前記遮光手段との距離L11[mm]、前記エキシマランプの紫外線放射面と前記補助光源の紫外線放射面との距離L10[mm]としたとき、
以下の式を満たすことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のエキシマランプ装置。
L11≦L10
【請求項6】
前記エキシマランプの周囲を流れる気体は酸素を含有した気体であり、前記気体の流れの下流側において、前記気体に含有するオゾンを除去するオゾン除去手段を設け、前記エキシマランプの周囲の少なくとも一部には、前記エキシマランプから放射される紫外線に対して非透過性を有する遮光手段を設け、
前記エキシマランプの紫外線放射面と前記始動補助光源の紫外線放射面との距離L10[mm]、前記エキシマランプの紫外線放射面と前記遮光手段との距離L11[mm]、前記エキシマランプの紫外線放射面と前記オゾン除去手段との距離L13[mm]としたとき、
以下の式を満たすことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のエキシマランプ装置。
L11<L10≦L13
【請求項7】
前記エキシマランプに対向して、前記エキシマランプにより紫外線照射される被照射物を配設し、前記エキシマランプの周囲の少なくとも一部には、前記エキシマランプから放射される紫外線に対して非透過性を有する遮光手段を設け、
前記エキシマランプの紫外線放射面と前記始動補助光源の紫外線放射面との距離L10[mm]、前記エキシマランプの紫外線放射面と前記遮光手段までの距離L11[mm]、前記エキシマランプの紫外線放射面と前記被照射物との距離L14[mm]としたとき、
以下の式を満たすことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のエキシマランプ装置。
L14≦L11<L10
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エキシマランプ装置に関し、特に、細径のエキシマランプの点灯始動性を改善した小型のエキシマランプ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エキシマランプは、誘電体バリア放電、あるいは容量結合型高周波放電によって放電発光することにより紫外線を放射する(特許文献1)。
【0003】
このようなエキシマランプにおいては、低温状態や暗黒状態や長時間の休止状態後に、点灯始動するときには高い電圧が必要とされるので、点灯用電源が大型化して、エキシマランプ装置を小型にすることが困難であった。そこで、放電容器に封入された放電用ガスに始動補助光源により紫外光を照射した状態で、エキシマランプに電圧を印加することにより、エキシマランプの点灯性を改善する方法がある(特許文献2)。
【0004】
しかしながら、小型のエキシマランプ装置を提供するという目的からは、このような大掛かりな構造を採用することができない。更に、放電容器の内径が20mm以下であるような細径エキシマランプに対しては、始動補助光源による点灯性改善の効果が十分に得ることができないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−038658号公報
【特許文献2】特開2012−157412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明により解決しようとする課題は、簡素な構成によりエキシマランプの点灯始動性が改善した小型のエキシマランプ装置を提供することである。更に、放電容器の内径が20mm以下であるような細径のエキシマランプの点灯始動性を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のエキシマランプ装置は、放電用ガスが封入された放電容器を有するエキシマランプと、放電用ガスに紫外線を照射する始動補助光源とを備え、始動補助光源とエキシマランプとが空間的に連通した状態で対向しており、エキシマランプから放射される紫外線が始動補助光源には実質的に照射されず、始動補助光源から放射される紫外線がエキシマランプに照射されることにより、始動補助光源がエキシマランプから放射される紫外線により急速に劣化することを防いだエキシマランプ装置を提供することができる。
【0008】
更に、始動補助光源の紫外線放射面とエキシマランプの紫外線放射面との間の距離が、エキシマランプから放射される紫外線は始動補助光源には実質的に照射されず、始動補助光源から放射される紫外線はエキシマランプに照射される距離であることにより、始動補助光源がエキシマランプから放射される紫外線により急速に劣化することを防げる距離に配置されたエキシマランプ装置を提供することができる。
【0009】
エキシマランプの放電容器は、有効発光領域のランプ軸方向範囲において一様な放電距離を有し、エキシマランプから放射される紫外線の波長よりも始動補助光源から放射される紫外線の波長に対して高い透過性を有し、エキシマランプの放電容器の肉厚が0.8mm〜1.5mm、内径が8mm〜20mmであることにより、細径のエキシマランプに対しても、その放電容器の形状を変更することなく、点灯始動性が改善されたエキシマランプ装置を提供することができる。
【0010】
エキシマランプの紫外線放射面と始動補助光源の紫外線放射面との距離L10[mm]は、20≦L10≦50 を満たすことにより、始動補助光源の急速な劣化や、始動補助光源用を点灯させるための電源が大型になることを防ぎ、装置の構成が簡素な小型のエキシマランプ装置を提供することができる。
【0011】
更に、エキシマランプの紫外線放射面と始動補助光源の紫外線放射面との間には酸素を含有した気体が満たされ、エキシマランプの周囲の少なくとも一部には、エキシマランプから放射される紫外線に対して非透過性を有する遮光手段を設け、エキシマランプの紫外線放射面と遮光手段との距離L11[mm]、エキシマランプの紫外線放射面と始動補助光源の紫外線放射面との距離L10[mm]としたとき、 L11≦L10 を満たすことで、オゾン生成機能、空気脱臭・殺菌機能を高め、簡素な構成によりエキシマランプの点灯始動性を改善した小型のエキシマランプ装置を提供することができる。
【0012】
また、エキシマランプの周囲を流れる気体は酸素を含有した気体であり、この気体の流れの下流側において、気体に含有するオゾンを除去するオゾン除去手段を設け、エキシマランプの周囲の少なくとも一部には、エキシマランプから放射される紫外線に対して非透過性を有する遮光手段を設け、エキシマランプの紫外線放射面と始動補助光源の紫外線放射面との距離L10[mm]、エキシマランプの紫外線放射面と遮光手段との距離L11[mm]、エキシマランプの紫外線放射面とオゾン除去手段との距離L13[mm]としたとき、L11<L10≦L13としたことにより、簡素な構成により細径のエキシマランプの点灯始動性を改善した小型の殺菌・脱臭装置を提供することができる。
【0013】
また、エキシマランプに対向して、エキシマランプにより紫外線照射される被照射物を配設し、エキシマランプの周囲の少なくとも一部には、エキシマランプから放射される紫外線に対して非透過性を有する遮光手段を設け、エキシマランプの紫外線放射面と始動補助光源の紫外線放射面との距離L10、エキシマランプの紫外線放射面と遮光手段までの距離L11、エキシマランプの紫外線放射面と被照射物との距離L14としたとき、L14≦L11<L10としたことにより、簡素な構成により細径のエキシマランプの点灯始動性を改善した小型の紫外線照射装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によるエキシマランプ装置は、簡素な構成によりエキシマランプの点灯始動性が改善した小型のエキシマランプ装置を提供することができる。更に、放電容器の内径が20mm以下であるような細径のエキシマランプに対しても、その放電容器の形状を変更することなく点灯始動性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明による実施形態のエキシマランプ装置の概略構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明による実施形態は、始動補助光源によりエキシマランプの点灯始動性を改善したエキシマランプ装置である。
図1は、本発明による実施形態のエキシマランプ装置の構成を示す断面図である。
【0017】
図1のエキシマランプ装置1は、装置の筐体6により周囲が覆われたランプ室6Lと電源室6Pからなる。エキシマランプ2が放射する紫外線を装置の筐体6により遮光して、エキシマランプ装置1の外部へ紫外線が放出することを防止する。
【0018】
ランプ室6Lには、略中央にエキシマランプ2が配設され、装置の筐体6に吸気口8Aと排気口8Bを設けることで、エキシマランプ装置1の外部と空間的に接続している。吸気口8Aには、酸素を含有した気体をエキシマランプ装置1の外部から内部へ吸い込む吸気ファン9が配設される。エキシマランプ2より吸気口側には吸気側遮光板7Aを設け、エキシマランプ2より排気口側には排気側遮光板7Bを設け、エキシマランプ2が放射する紫外線がエキシマランプ装置1の外部へ放出することを防止する。
【0019】
電源室6Pには、エキシマランプ2、吸気ファン9、始動補助光源4などに電力を供給する電源3や、それらを制御する制御部(図示せず)が配設されている。
【0020】
ランプ室6Lと電源室6Pとは、電源側遮光板7Cにより一部が遮られ、吸気口側と排気口側で空間的に接続している。電源側遮光板7Cは、エキシマランプ2から放射される紫外線が電源3などに照射されることを防ぎ、紫外線を照射することにより生成したガス(オゾンガスなど)が電源室6Pに流入することを防ぐ。電源側遮光板7Cには、始動補助光源4が始動補助光源保持構造4Aを介して保持されている。始動補助光源4は、エキシマランプ2の中心軸の軸方向中央に向けて配設され、波長400nm以下の紫外線を放射する。本実施形態においては、波長390nmの紫外線を放射するUV−LEDを用いた。
【0021】
吸気ファン9により、エキシマランプ装置1の外部(大気中)から吸気口8Aを通ってエキシマランプ装置1の内部に流入した空気は、主にランプ室6Lに流入し、一部が電源室6Pに流入する。ランプ室6Lを通って電源室6Pへ空気を分流させるときは、エキシマランプ2から放射された紫外線が空気を透過することにより十分に減衰している位置で分流させる。なお、ランプ室6Lを介さず、エキシマランプ装置1の外部の空気を直接流入するようにしても良い。
【0022】
電源室6P内に流入した空気は、電源3などを冷却する。ランプ室6Lに流入した空気は、吸気側遮光板7Aを迂回して、エキシマランプ2の周囲を流れ、排気側遮光板7Bを迂回した後に、電源室6Pから放出される空気と合流して、排出口8Bからエキシマランプ装置1の外部(大気中)へ放出される。電源室6P内を流れた空気を、ランプ室6L内を流れた空気と合流させるときは、エキシマランプ2により生成されたオゾンが電源室6P内へ逆流することを防ぐのに十分な流量で、ランプ室6Lへ流入させると良い。なお、ランプ室6Lを介さず、エキシマランプ装置1の外部(大気中)へ直接流出するようにしても良い。
【0023】
エキシマランプ2は、石英ガラスなどの誘電材料から成り、断面が円形である管の両端部を溶融封止して成形した放電容器を備える。放電容器の肉厚は、紫外線による放電容器の劣化を防ぐ厚さを有し、その一方、放電開始電圧や点灯維持電圧を上げる厚さ以下に定めるのが良い。例えば、放電容器の肉厚は、0.8mm〜1.5mmの範囲に定められる。放電容器の内径は、放電距離が短くなって照度不足が起きず、一方で放電距離が長くなって放電不安定とならないようにするのが望ましく、例えば、8mm〜20mmの範囲内に定められる。放電容器の軸方向長さは、30mm〜100mmに定められている。
【0024】
放電容器の内部には、ランプ軸方向に沿って延びる帯状の内側電極が配置されている。内側電極の材質は、導電性の高い金属あるいは合金によって成形する。内側電極の厚さは、電流容量や膨張係数を考慮して定めるのが望ましく、例えば、20μm〜50μmのいずれかの範囲に定められる。また、内側電極の幅は、電流容量を考慮して定めるのが望ましく、例えば、1.2mm〜10mmの範囲内に定める。
【0025】
内側電極は、断面が略円形状である柱状誘電体によって被覆されており、放電空間に露出せずに誘電体内に埋設されている。柱状誘電体は、使用温度での電極熱膨張率と近似している絶縁材料によって構成する。また、誘電体の厚さは、絶縁性を維持する一方で放電開始電圧が高くなるのを防ぐことを考慮し、0.1mm〜2mmの範囲である。
【0026】
放電容器の外面には、導電線からなる外側電極が放電容器の外表面(紫外線放射面)を露出するように、所定間隔を空けて螺旋状に巻き付けられている。
【0027】
内側電極と外側電極の極性は、それぞれ陽極と陰極に定められている。放電容器内の陰極と陽極とが対向しているランプ軸方向範囲(有効発光領域)において放電する。陰極と陽極との間の放電距離は、放電用ガスの種類や印加電圧などによって定められる。放電距離が狭くなって照度不足になるのを防ぐ一方、放電距離が長くなって放電不安定になるのを防ぐため、放電距離を3mm〜10mmの範囲に定める。更に、放電距離は、有効発光領域のランプ軸方向範囲において均一距離(一様)にすることにより、ランプ軸方向に一様な放電を得ることができる。ここで、放電距離が均一であるとは、放電距離が厳密に一定である必要はなく、エキシマランプの使用目的により許容されるランプ軸方向に対する放電の一様性を満たす程度に、放電距離の誤差は許容できる。
【0028】
放電容器内には、放電用ガスが封入されている。放電用ガスの封入圧は、例えば5kPa〜150kPaに定められる。本実施形態においては、放電用ガスとしてXeガスを封入した。
【0029】
エキシマランプに数kVの電圧が印加されると、誘電体バリア放電が生じ、所定スペクトルのエキシマ光が放射される。例えば、放電用ガスがXeガスでは172nm、Arガスでは126nm、Krガスでは146nm、ArBrガスでは165nm、ArFガスでは193nm、KrClガスでは222nm、XeIガスでは253nm、XeClガスでは308nm、XeBrガスでは283nm、KrBrガスでは207nmの波長を含む紫外線が放射される。
【0030】
ランプ室6Lにおいて始動補助光源4とエキシマランプ2の間は、気体(空気、紫外線照射により生成されたガスなど)で満たされており、紫外光透過窓のような空間を遮る物は無く、始動補助光源4の紫外線放射面とエキシマランプ2の紫外線放射面との間は空間的に連通した状態で対向している。即ち、始動補助光源4はエキシマランプ2から放射される紫外線に曝された状態である。
【0031】
始動補助光源4からは、波長400nm以下の紫外線をエキシマランプ2の放電容器内に封入されたXeガスに向けて放射されるので、エキシマランプ2の始動に要する印加電圧を低減することができる。始動補助光源4は、エキシマランプ2に電圧を印加する前から、印加開始後1分程度の時間は照射する。
【0032】
始動補助光源4は、エキシマランプ2から放射される紫外線が実質的に照射されない距離L10に配設されることにより、紫外線により急速に劣化することを防ぐ。
【0033】
本発明による「紫外線が実質的に照射されない」とは、エキシマランプ2から放射される紫外線に感度を有する照度計を用いて、エキシマランプ2の放電容器の外表面(紫外線放射面)付近の照度を100%としたとき、放電容器の外表面(紫外線放射面)から空気中で一定距離以上離れたときの照度が10%未満となる状態をいう。具体的には、波長172nm付近にピーク感度を有する照度計を用いて、放電容器にXeガスが封入されたエキシマランプ2の放電容器の外表面付近の照度が10〜17[mW/cm
2]であったとき、エキシマランプ2の放電容器の外表面から空気中で30mm離れると、空気を透過することにより減衰して1[mW/cm
2]程度と成る。このように、エキシマランプ2から始動補助光源4に照射される紫外線の照度が微小である状態をいう。
【0034】
このような状態が「紫外線が実質的に照射されない」という状態であり、このような状態となる始動補助光源の紫外線放射面とエキシマランプの紫外線放射面との間の距離L10を「エキシマランプから放射される紫外線が始動補助光源には実質的に照射されない距離」という。このような距離L10となる位置に始動補助光源4を配設することにより、エキシマランプから放射される紫外線が実質的に照射されないので、エキシマランプ2の標準使用期間中(数百〜数千時間)においては、始動補助光源4が急速に劣化することを防ぐことができる。本実施形態においては、空気中にエキシマランプ2と始動補助光源4を配設したときには、上記距離L10は20mm以上とすると良い。更に好ましくは、30mm以上とすると良い。
【0035】
本実施形態で用いた小型のエキシマランプ2の放電容器は、内径が8mm〜20mm、肉厚が0.8mm〜1.5mmであるので、内径が小さく、内径に対する肉厚の割合が大きい。そのため、始動補助光源4からエキシマランプ2へ照射される紫外線が、放電容器の曲率が大きいことや、肉厚が厚いことによる影響を受けやすく、点灯始動性を改善する効果が得られ難い。そこで、始動補助光源4から放射された紫外線がエキシマランプ2の放電容器の外表面(紫外線放射面)へ垂直に入射するように、始動補助光源4を配設すると良い。好ましくは、エキシマランプ2の中心軸の軸方向中央に向けて、始動補助光源4の紫外線放射面が対向するように配設すると良い。
【0036】
なお、本発明による点灯始動性とは、エキシマランプに電圧を印加して、放電容器内の放電から所望な放射スペクトルが得られる安定点灯状態に至る確実さ(確率[%])により把握することができる。エキシマランプは、低温状態や暗黒状態や長時間の休止状態後であっても、点灯始動性の確実さは100%である信頼性が必要である。本実施形態においては、大型の点灯用電源を用いることなく、確実に(ほぼ100%の確率で)安定点灯状態に至らせることができた。
【0037】
このように、始動補助光源4から放射された紫外線の一部のみが放電用ガスに照射することができるので、距離L10は、50mm以下とすると良い。更に好適には、40mm以下とすると良い。このような距離となる位置に始動補助光源4を配設することにより、始動補助光源4から放射された紫外線を有効活用することができるので、始動補助光源4は最小限の電力で点灯させることができ、始動補助光源4の寿命を延ばし、小さい電源を用いた小型のエキシマランプ装置を提供することができる。
【0038】
更に、エキシマランプ2から放射される紫外線の波長よりも、長い波長の紫外線を放射する始動補助光源を用いることで、空気中の紫外線透過率の波長による違いを利用して、放電用ガスに効率よく照射しても良い。更に、エキシマランプ2の放電容器は、エキシマランプ2から放射される紫外線の波長よりも、始動補助光源4から放射される紫外線の波長に対して高い透過性(紫外線の波長に対する透過率)を有すると良い。また、エキシマランプよりも指向性が高い配光特性の始動補助光源を用いることにより、小電力の始動補助光源であっても、放電空間の放電用ガスに向けて効率よく照射することができるため、大型の電源を用いる必要が無く、小型のエキシマランプ装置を提供することができる。
【0039】
以上より、始動補助光源4の紫外線放射面とエキシマランプ2の紫外線放射面との間の距離は、エキシマランプ2から放射される紫外線(波長172nm)が実質的に届かない(紫外線が照射されない)距離であって、始動補助光源4から放射される紫外線(波長395nm)が届く(紫外線が照射される)距離に配置する。本実施形態においては、始動補助光源4の紫外線放射面とエキシマランプ2の紫外線放射面との距離L10[mm]は、20≦L10≦50 を満たすと良い。更に、好ましくは、30≦L10≦40 を満たすと良い。
【0040】
このような距離となる範囲に始動補助光源4を配設することにより、始動補助光源4はエキシマランプ2が放射する紫外線に曝された状態であっても、始動補助光源の急速な劣化を防ぐことができる。そのため、波長が200nm以下の紫外光が紫外光透過窓から外部へ透過することを阻止するために、高価な紫外光透過窓を設置する必要が無いので、装置の構成が簡素と成り、小型のエキシマランプ装置を提供することができる。更に、始動補助光源と対向する部分の放電容器の形状を変更する必要が無いので、細径のエキシマランプに対しても適用することができる。
【0041】
上記の本実施形態の構成により、始動補助光源4の急速な劣化を防ぐことができるが、始動補助光源4には照度計の測定限界以下の紫外線がエキシマランプの寿命期間中(数百〜数千時間)にわたって照射されるので、複数本のエキシマランプの寿命期間にわたって使用すると、所望な放射を維持できないおそれがある。そこで、エキシマランプ2の交換と共に、始動補助光源4も始動補助光源保持構造4Aにより容易に交換できる構成とすることで、エキシマランプの点灯始動性が常に良好な状態に維持されたエキシマランプ装置を提供することができる。
【0042】
エキシマランプ2から波長200nm以下の紫外線が、ランプ室6L内の酸素を含有する空気に照射されることにより、オゾンが生成される。生成されたオゾンは、吸気ファン9により排気口8Bからエキシマランプ装置1の外部へ放出される。更に、生成したオゾンに波長255nm近傍の紫外線を照射して活性酸素と酸素に分解しても良い。このような機能を発揮させるために、オゾンの分解手段としての第2のエキシマランプを別途配置しても良い。
【0043】
エキシマランプ2から放射された紫外線に対して非透過性を有する排気側遮光板7Bにより、エキシマランプ2から放射された紫外線が排気口8Bから放出されることを防ぐ。また、吸気側遮光板7Aにより、吸気ファン9に照射されたり吸気口8Aから放出されたりすることを防ぐ。また、電源側遮光板7Cにより電源3に照射されることを防ぐ。なお、遮光手段の非透過性は、エキシマランプ2から放射された紫外線を完全に遮断するだけでなく、少なくとも人や装置の損傷を防ぐことができる程度まで減衰させれば良い。例えば、可視光を透過する遮光手段を用いて、点灯(オゾン生成)を認知できるようにしても良い。
【0044】
筐体6と吸気側遮光板7Aと排気側遮光板7Bは、紫外線照射やオゾン生成に影響のない位置に配設される。遮光板7A,7Bは、波長172nmの紫外線が空気を透過することで減衰して実質的に照射されない距離よりも、エキシマランプ2に近い位置に配設すると良い。そのため、エキシマランプ2の紫外線放射面と吸気側遮光板7A(吸気口8A)との距離L11[mm]と、エキシマランプ2の紫外線放射面と排気側遮光板7Bとの距離L12[mm]は、エキシマランプ2の紫外線照射面と始動補助光源4の紫外線照射面(電源側遮光板7C)までの距離L10[mm]よりも短くて良い。即ち、L11≦L12<L10 を満たすと良い。なお、エキシマランプ2の紫外線放射面と筐体6内面との距離(図示せず)は、始動補助光源4(電源側遮光板7C)までの距離L10と同程度とすると良い。このような位置と成るように筐体6や遮光板7A,7B,7C(これらを「遮光手段」と称す)をエキシマランプの周囲の少なくとも一部に設けることで、紫外線照射やオゾン生成の性能を低下させずに、小型のエキシマランプ装置を提供することができる。
【0045】
エキシマランプ2から波長260nm付近の紫外線を照射することにより、室内から取り込んだ空気を殺菌することができる。また、エキシマランプ2が放射する紫外線により生成した活性酸素を、室内から取り込んだ空気と反応させることにより、空気の脱臭・殺菌を行うことができる。
【0046】
室内から取り込んだ空気の脱臭・殺菌の効果を高め、小型のエキシマランプ装置1を提供するためには、エキシマランプ2の紫外線放射面と始動補助光源4の紫外線放射面との距離L10[mm]、エキシマランプ2の紫外線放射面と吸気口8A(吸気側遮光板7A)との距離L11[mm]、エキシマランプ2の紫外線放射面と排気口7B(オゾン除去手段)との距離L13[mm]としたとき、 L11≦L12<L10≦L13 を満たすと良い。
【0047】
その他にも、エキシマランプ2から放射される紫外線が照射されることで空気脱臭・殺菌が行われる光触媒(図示せず)を配置しても良い。
【0048】
エキシマランプ装置1の外部にオゾンを放出させないときは、排気口8Bにオゾン除去手段(図示せず)を配設することで、ランプ室6L内で生成されたオゾンを除去した後にエキシマランプ装置1の外部へ放出する。排気側遮光板7Bは不要ならば除去しても良い。
【0049】
本発明における、「オゾン除去」とは、オゾンを完全に除去するだけでなく、空気に含まれるオゾンの量が少なくとも環境基準値以下とすることをいう。オゾン除去手段としては、活性炭,マンガン,コバルト,ニッケル,鉄,銀などの金属酸化物や水酸化物を用いることができる。
【0050】
その他の応用例として、ランプ室6L内に被照射物5を配設して、被照射物5に塗布されたコーティングを硬化したり、被照射物5に対して脱臭・殺菌したり、表面改質等のUVオゾン処理を行うことができる。
【0051】
表面改質に用いるUVオゾン処理とは、被照射物5に被着した汚染物質(炭素化合物)の化学結合を切断するのに要するエネルギーを紫外線にて与え、更に、オゾンの生成時に生じる活性酸素の強力な酸化力を効率よく組み合わせることにより、高分子化合物を酸化分解して低分子化合物とし、更にH
2O、CO
2、NO
Xなどの気体にまで酸化して揮発させる。UVオゾン洗浄による表面改質の効果を確認するには、表面清浄度と表面張力(接触角)との密接な関係を利用して、表面汚染度の判定を表面張力測定で求めることができる。
【0052】
被照射物5へのUVオゾン処理の効果を高め、小型のエキシマランプ装置を提供するためには、エキシマランプ2の紫外線放射面と始動補助光源4の紫外線放射面との距離L10[mm]、エキシマランプ2の紫外線放射面と被照射物5との距離L14[mm]、エキシマランプ2の紫外線放射面と筐体6内壁(遮光板)までの距離L12[mm]としたとき、 L14≦L12<L10 を満たすと良い。
【産業上の利用可能性】
【0053】
オゾン生成機能、空気脱臭・殺菌機能、被照射物の表面改質機能を備えたエキシマランプ装置において、簡素な構成によりエキシマランプの点灯始動性を改善できる小型のエキシマランプ装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0054】
1 エキシマランプ装置
2 エキシマランプ
3 電源
4 始動補助光源(UV−LED)
4A 始動補助光源保持構造
5 被照射物
6 筐体
6L ランプ室
6P 電源室
7A 吸気側遮光板
7B 排気側遮光板
7C 電源側遮光板
8A 吸気口
8B 排気口
9 吸気ファン