特許第6564676号(P6564676)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6564676
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】ワイヤレス受信機
(51)【国際特許分類】
   H04B 1/16 20060101AFI20190808BHJP
   H04B 1/10 20060101ALI20190808BHJP
【FI】
   H04B1/16 R
   H04B1/10 B
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-205503(P2015-205503)
(22)【出願日】2015年10月19日
(65)【公開番号】特開2017-79359(P2017-79359A)
(43)【公開日】2017年4月27日
【審査請求日】2018年7月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000128566
【氏名又は名称】株式会社オーディオテクニカ
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 真樹
【審査官】 佐藤 敬介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−019444(JP,A)
【文献】 特開2010−136297(JP,A)
【文献】 特開2003−318756(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 1/16
H04B 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信したRF信号の搬送波レベルに応じて復調信号の信号路を開閉するRFミュート回路と、復調信号中のノイズレベルに応じて復調信号の信号路を開閉するノイズミュート回路と、RF増幅回路において扱う前記RF信号のレベルを減衰させるRF信号の減衰回路とが備えられ、
前記RFミュート回路における予め定められた複数の動作レベルのうちの1つ、前記ノイズミュート回路における予め定められた複数の動作レベルのうちの1つ、および前記RF信号の減衰回路における予め定められた複数の減衰量のうちの1つを同時に選択可能にする受信モード切り換え手段を備え
所定の領域内において単一の送信機を用いる通常運用時においては、前記受信モード切り換え手段によって、前記RFミュート回路の動作レベルを所定の閾値よりも上昇させて、前記ノイズミュート回路の動作レベルを所定の閾値よりも低下させると共に、前記RF信号の減衰回路における減衰量を所定の閾値よりも小さくさせる動作を行い、
所定の領域内において多数の送信機を用いる多数波運用時においては、前記受信モード切り換え手段によって、前記RFミュート回路の動作レベルを前記所定の閾値よりも低下させて、前記ノイズミュート回路の動作レベルを前記所定の閾値よりも上昇させると共に、前記RF信号の減衰回路における減衰量を前記所定の閾値よりも大きくさせる動作を行うことを特徴とするワイヤレス受信機。
【請求項2】
前記受信モード切り換え手段は、前記RFミュート回路の動作レベル、前記ノイズミュート回路の動作レベルおよび前記RF信号の減衰回路における減衰量を、二段階以上の多段階に選択可能に構成していることを特徴とする請求項1に記載のワイヤレス受信機。
【請求項3】
前記送信機はワイヤレスマイクロホンであり、当該ワイヤレスマイクロホンからの送信信号を受信して、復調信号を生成することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のワイヤレス受信機。
【請求項4】
前記RF信号の減衰回路は、前記RF増幅回路の入力側に接続されるRF信号のアッテネータであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のワイヤレス受信機。
【請求項5】
前記RF信号の減衰回路は、前記RF増幅回路の増幅利得を調整するゲイン調整回路を含むこと特徴とする請求項1または請求項2に記載のワイヤレス受信機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えばワイヤレスマイクロホンからの電波を受けて音声信号を復調するワイヤレス受信機に関し、特に複数のワイヤレスマイクロホンを同時に用いる多数波運用において、安定した受信特性を得ることができるワイヤレス受信機に関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤレスマイクロホンとワイヤレス受信機とは、通常1:1の関係で用いられる。
すなわち、ステージなどで複数本のワイヤレスマイクロホンを同時に使用する多数波運用においては、それぞれのワイヤレスマイクロホンにおける送信周波数に同調する同じ数のワイヤレス受信機が用いられる。
【0003】
この場合、日本の電波法によれば、例えばB型ワイヤレスマイクロホンで使用できる周波数帯は、特定小電力無線機器用として806.125〜809.750MHz内を、0.125MHz単位で等差的に分けた30チャンネルが割り当てられている。
したがって、前記したように複数本のワイヤレスマイクロホンを同時に使用する場合には、同一チャンネル妨害、隣接チャンネル妨害、相互変調妨害の影響を受けないように、各ワイヤレスマイクロホンの発信周波数を設定すると共に、対となるワイヤレス受信機の受信周波数を、それぞれのワイヤレスマイクロホンの発信周波数に合わせる操作が必要となる。
【0004】
しかしながら前記した対策を講じても、例えばステージ上におけるワイヤレスマイクロホン同士が接近している場合や、複数本のワイヤレスマイクロホンが同時にワイヤレス受信機のアンテナに近づいている場合(強電界の場合)等においては、前記した妨害の影響を受け易い。
この結果、希望受信周波数の電波が抑圧される障害を受ける場合があり、また妨害波による影響で復調信号のノイズレベルが高くなる等の障害も発生する。
【0005】
そこで、従来のワイヤレス受信機においては、前記した障害を受けた時に生成される聴感上不快な雑音を除去するために、ミュート回路(スケルチ回路とも言う。)が備えられている。このミュート回路には、復調された音声信号中のノイズレベルに応じて信号路を開閉するノイズミュート回路や、搬送波のレベルに応じて信号路を開閉するRFミュート回路が提案されており、これらは次に示す先行技術文献に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−205169号公報
【特許文献2】特開平07−202733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この種のワイヤレス受信機においては、例えば100dBμV以上の強電界のRF変調信号(以下,RF信号と言う。)が入力されると、RF増幅回路またはミキサー回路の非直線性により相互変調歪が発生する。この相互変調歪は、後段の例えば中間周波増幅回路にも影響を与え、中間周波(IF)信号に相互変調(IM)成分の周波数が混入することになる。このIF帯域内に混入したIM成分は、フィルタなどで除去することは不可能である。
【0008】
その対策としては、必要以上のレベルのRF信号がRF増幅器に加わるのを抑制することであり、これによりIM歪の発生を抑えることができる。そのために、RF増幅器の前にアッテネータを挿入したり、RF増幅器のゲインを調整することで、RF信号のレベルを減衰させる手段が採用し得る。
【0009】
ところで、RF信号のレベルを減衰させる手段は、特に前記した多数波運用時において効果が認められる。しかしながら、所定の領域内において単一のワイヤレスマイクロホンを用いる通常運用時においては、ワイヤレス受信機の受信感度が低下するために、ワイヤレスマイクロホンの受信到達距離が実質的に短くなる、もしくは復調ノイズが増大する等の実用面において問題が生ずることになる。
【0010】
この発明は、前記した技術的な観点に基づいてなされたものであり、特にこの種のワイヤレス受信機に強電界のRF信号が入力された場合において発生する妨害波による影響を抑えることができるワイヤレス受信機を提供しようとするものである。
加えてこの発明は、前記したワイヤレスマイクロホンの多数波運用時において、音切れや混信のない安定した受信特性が得られると共に、単一のワイヤレスマイクロホンを用いる通常運用時においては、十分な受信感度を確保して、復調ノイズの増大を効果的に抑制することができるワイヤレス受信機を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記した課題を解決するためになされたこの発明に係るワイヤレス受信機は、受信したRF信号の搬送波レベルに応じて復調信号の信号路を開閉するRFミュート回路と、復調信号中のノイズレベルに応じて復調信号の信号路を開閉するノイズミュート回路と、RF増幅回路において扱う前記RF信号のレベルを減衰させるRF信号の減衰回路とが備えられ、前記RFミュート回路における予め定められた複数の動作レベルのうちの1つ、前記ノイズミュート回路における予め定められた複数の動作レベルのうちの1つ、および前記RF信号の減衰回路における予め定められた複数の減衰量のうちの1つを同時に選択可能にする受信モード切り換え手段を備え、所定の領域内において単一の送信機を用いる通常運用時においては、前記受信モード切り換え手段によって、前記RFミュート回路の動作レベルを所定の閾値よりも上昇させて、前記ノイズミュート回路の動作レベルを所定の閾値よりも低下させると共に、前記RF信号の減衰回路における減衰量を所定の閾値よりも小さくさせる動作を行い、所定の領域内において多数の送信機を用いる多数波運用時においては、前記受信モード切り換え手段によって、前記RFミュート回路の動作レベルを前記所定の閾値よりも低下させて、前記ノイズミュート回路の動作レベルを前記所定の閾値よりも上昇させると共に、前記RF信号の減衰回路における減衰量を前記所定の閾値よりも大きくさせる動作を行うことを特徴とする。
【0012】
この場合、前記受信モード切り換え手段は、好ましくは前記RFミュート回路の動作レベル、前記ノイズミュート回路の動作レベルおよび前記RF信号の減衰回路における減衰量を、二段階以上の多段階に選択可能に構成される。
【0014】
この場合、前記送信機はワイヤレスマイクロホンであり、この発明に係るワイヤレス受信機は、前記ワイヤレスマイクロホンからの送信信号を受信して、復調信号を生成する機能を果たす。
【0015】
一方、この発明に係るワイヤレス受信機においては、前記RF信号の減衰回路として、前記RF増幅回路の入力側に接続されるRF信号のアッテネータを好適に利用することができる。
【0016】
また、この発明に係るワイヤレス受信機において用いられるRF信号の減衰回路として、前記RF増幅回路の増幅利得を調整するゲイン調整回路を含む構成を採用することもできる。
【発明の効果】
【0017】
前記した構成のワイヤレス受信機によると、受信モード切り換え手段によって、RFミュート回路の動作レベルと、ノイズミュート回路の動作レベルに加えて、RF信号の減衰回路における減衰量について、そのうちのいずれか2つを同時に選択可能に構成される。
したがって、所定の領域内において多数の送信機(ワイヤレスマイクロホン)を用いる多数波運用時においては、前記受信モード切り換え手段によって、RFミュート回路の動作レベルを低下させて、ノイズミュート回路の動作レベルを上昇させると共に、RF信号の減衰回路における減衰量を大きくさせる多数波運用モードを選択することができる。
【0018】
この多数波運用モードを選択することにより、複数のワイヤレスマイクロホンからのRF信号を同時に受けて生ずる相互変調(IM)歪の発生、或いは隣接チャンネルの妨害によるミュート回路の動作に与える影響を効果的に抑えることができる。
同時に、RFミュート回路の動作レベル(閾値)が低く設定されるので、妨害により希望受信周波数の電波が抑圧されること(電界強度の低下)による音切れを抑制させることができる。さらにノイズミュート回路の動作レベル(閾値)が高く設定されるので、妨害信号の影響を受けて多少のノイズが生成されても、ミュート動作が働くのを阻止することができる。この結果、ワイヤレス受信機における受信到達距離の低下を防ぎ、安定した受信状態を得ることが可能となる。
【0019】
一方、所定の領域内において単一のワイヤレスマイクロホンを用いる通常運用モードを選択した場合には、前記受信モード切り換え手段によって、前記RFミュート回路の動作レベルを上昇させて、前記ノイズミュート回路の動作レベルを低下させると共に、前記RF信号の減衰回路における減衰量を小さくさせる設定が成される。
これにより、ワイヤレス受信機の受信感度を向上させることができ、受信到達距離を大きく確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】この発明に係るワイヤレス受信機の例を示したブロック図である。
図2】ワイヤレス受信機の実使用状態における電波環境(電界強度およびノイズ)の変化と受信状態の関係について示した模式図である。
図3図2に記載されたRF信号とノイズレベルを示す各パターンの意味を説明する模式図である。
図4図1に示すワイヤレス受信機の主に電波受信範囲を説明する特性図である。
図5】従来のワイヤレス受信機の主に電波受信範囲を説明する特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
この発明に係るワイヤレス受信機について、図に示す実施の形態に基づいて説明する。
なお以下に示す例は、送信機としてのワイヤレスマイクロホンからのFMRF信号を受信して、音声信号を復調するワイヤレス受信機であり、図1はこのワイヤレス受信機の全体構成をブロック図で示している。
【0022】
図1における符号1はRF増幅回路を示し、このRF増幅回路1には図示せぬ受信アンテナからのRF信号が供給される。
前記RF増幅回路1には、その入力側にRF信号の減衰回路としてのアッテネータ(図示せず)が備えられ、このアッテネータ(ATT)によって前記受信アンテナからRF増幅回路1に加わるRF信号の減衰量が選択可能に構成されている。前記アッテネータによるRF信号の減衰量は、後述する受信モード切り換え回路によって選択される。
なお、RF信号の減衰回路は、前記アッテネータ(ATT)に代えて、RF増幅回路1の増幅利得を調整するゲイン調整回路、例えばAGCの帰還量を制御することで、実質的に減衰量を調整することもできる。
【0023】
前記RF増幅回路1からのRF信号は、第1の周波数変換回路2に供給される。この第1の周波数変換回路2には、例えばPLLシンセサイザーによる第1ローカル信号発振器(図示せず)からの信号が供給されて、前記RF信号と第1ローカル信号とにより第1の中間周波信号(第1IF信号)が生成される。すなわち、PLLシンセサイザーによる第1ローカル信号の選択により特定の受信周波数に対応した第1中間周波信号が生成されて、中間周波増幅回路3に供給される。そして、中間周波増幅回路3を介した第1IF信号は、第2の周波数変換回路4に供給される。
【0024】
第2の周波数変換回路4には、第2ローカル信号発振器(図示せず)からの固定のローカル信号が供給されて、前記第1の中間周波信号(第1IF信号)と、第2ローカル信号とにより第2の中間周波信号(第2IF信号)が生成される。すなわちこのワイヤレス受信機は、ダブルスーパヘテロダイン方式を採用している。
【0025】
前記第2の中間周波信号(第2IF信号)は、リミッタアンプを備えた復調回路5によって、音声信号に復調され、音声処理回路6を介してミュート回路7に供給される。このミュート回路7は、後述する第1と第2の比較回路11、17からの制御信号を受けて、復調信号(音声信号)の信号路を開閉する機能を備えている。そしてミュート回路7を介した復調信号は、音声出力端子8に出力される。
【0026】
一方、前記復調回路5からはFMIF信号をレベル検波した出力(RSSI Received Signal Strength Indication:信号受信強度))が引き出される。このRSSIは受信したRF信号の強度(電界強度)に対応した情報であり、このFMIF信号のレベル検波出力はRFミュート制御回路を構成する第1比較回路11に供給される。そしてこの比較回路11には、選択スイッチ12によって選択された基準レベル設定値1(13)からの第1設定値出力、もしくは基準レベル設定値2(14)からの第2設定値出力が選択的に供給されるように構成されている。
【0027】
すなわち前記比較回路11は、選択スイッチ12によって選択された第1設定値出力もしくは第2設定値出力を閾値として、FMIF信号のレベル検波出力とレベル比較するものである。そして選択された閾値に対してFMIF信号のレベル検波出力が大きい場合において、前記ミュート回路7の信号路を開けて、復調信号を音声出力端子8に出力させる指令をミュート回路7に与える。
【0028】
また、前記復調回路5からの復調信号出力(音声出力)は、ノイズ検出回路16に供給される。このノイズ検出回路16は、例えばハイパスフィルタとレベル検波回路より構成され、復調出力中のノイズレベル(復調ノイズ)に対応した出力がもたらされる。そしてノイズ検出回路16からの復調ノイズ出力は、ノイズミュート制御回路を構成する第2比較回路17に供給される。
この比較回路17には、選択スイッチ18によって選択された基準レベル設定値3(19)からの第3設定値出力、もしくは基準レベル設定値4(20)からの第4設定値出力が選択的に供給されるように構成されている。
【0029】
すなわち前記比較回路17は、選択スイッチ18によって選択された第3設定値出力もしくは第4設定値出力を閾値として、前記復調ノイズ出力とレベル比較するものである。
そして選択された閾値に対して前記復調ノイズ出力が小さい場合において、前記ミュート回路7の信号路を開けて、復調信号を音声出力端子8に出力させる指令をミュート回路7に与える。
加えて前記したミュート回路7は、第1比較回路11からの信号路を開ける指令と、第2比較回路17からの信号路を開ける指令が整った状態(各指令のOR条件が成立した状態)で、復調信号(音声出力)を出力端子8に出力するように機能する。換言すると、前記2つの指令が共に発生したり、いずれか一つでも発生した状態では、復調信号はミュートされる。
【0030】
前記した選択スイッチ12および18は、符号21で示す受信モード切り換え回路(受信モード切り換え手段)からの指令により、同時に切り換え選択がなされるように構成している。なお、図1に示す実施の形態は2段階の切り換えの例を示す。
また受信モード切り換え回路21からの指令は、前記したRF増幅回路1にも供給され、RF増幅回路1の入力側に配置された前記したアッテネータの減衰量も同時に選択されるように構成されている。
【0031】
そして、図1に示したワイヤレス受信機における前記した受信モード切り換え回路21は、所定の領域内において多数のワイヤレスマイクロホンを用いる場合に利用される多数波運用モード、および所定の領域内において単一のワイヤレスマイクロホンを用いる場合に利用される通常運用モードの動作設定を行うように機能する。
【0032】
図2は、ワイヤレス受信機の実使用状態における電波環境(電界強度およびノイズ)の変化と受信状態の関係について示した模式図である。
また図3は、図2の模式図において用いられるRF信号レベルおよびノイズレベルの模式パターンの意味について説明するものである。したがって図3に基づいてRF信号およびノイズレベルを示す各模式パターンの意味について先に説明する。
【0033】
図3に示す台形パターンの上辺と底辺との間の上下方向のサイズ(高さ)が、前記したノイズ検出回路16から、第2比較回路17に供給される復調ノイズ出力のレベルを示している。
また、台形パターンの中央上部に樹立された針状パターンの先端部(上端部)と前記台形パターンの底辺との間の上下方向のサイズ(高さ)が、前記した復調回路5から第1比較回路11に供給される受信したRF信号の強度(電界強度)、すなわち前記したRSSIの値を示している。
【0034】
そしてRF信号の強度(RSSIの値)が、破線の矢印で示したように低下して、実線の矢印で示すRFミュート基準値(閾値)を下回った時に、前記ミュート回路7が動作して音声信号の出力を遮断する。また前記した復調ノイズ出力のレベルが、破線の矢印で示したように上昇して、実線の矢印で示すノイズミュート基準値(閾値)を上回った時に、前記ミュート回路7が動作して音声信号の出力を遮断するように動作する。
【0035】
図2における(A)〜(D)には、それぞれ横軸方向に沿ってRF信号(電界強度)とノイズレベルの組み合わせが異なった5種類のパターンが示されており、(A)は前記した通常運用モードの設定を行った場合の動作例を示している。また(B)は(A)に対してノイズミュート閾値(破線で示す。)を上昇させた例を示しており、(C)は(A)に対してRFミュート閾値(破線で示す。)を低下させた例を示している。
さらに(D)は前記(B)に示すノイズミュート閾値と、(C)に示すRFミュート閾値を共に採用した例を示しており、これは前記した多数波運用モードの設定を行った場合の動作例を示している。
【0036】
図2(A)に示す通常運用モードに比較して(D)に示す多数波運用モードを選択した場合には、RFミュート閾値を低く、ノイズミュート閾値を高く設定することで、電界強度およびノイズレベルの変化によるミュート動作を抑えるように働く。このために、○印で示したようにミュート回路による音切れの少ない安定した受信状態を実現させることができる。
【0037】
なお、図2の受信状態において、○印はミュート回路7が動作しないで復調信号は出力端子8に出力される。また、「RFミュート」は第1比較回路11よりミュート信号が出力されてミュート回路7が動作することを示し、「×ノイズミュート」は第2比較回路17よりミュート信号が出力されてミュート回路7が動作することを示している。
【0038】
また、「RF抑圧障害中」とあるのは、妨害波によりRF信号が抑圧を受けてRF信号レベルが低下している状態を示し、「ノイズ障害中」とあるのは妨害波によりノイズレベルが増大している状態を示している。
この様な障害でミュート動作により音切れが発生する場合でも運用上、まだ使用できるレベルであることがあり、この発明によると、この使用できる範囲を拡大させるものである。
【0039】
図4および図5は、この発明に係るワイヤレス受信機の主に電波受信範囲を説明する特性図および従来のワイヤレス受信機による同様の特性図を示している。なお図4および図5において、左縦軸はRF信号の強度(RSSI)および右縦軸はノイズレベルを示しており、横軸は電界強度を示している。
図4および図5に示すように、電界強度が弱くなれば、それと共にノイズの検出量(破線で示すノイズ)が増える。また電界強度が弱くなれば、当然ながらRF検出量(実線で示すRF)が減ることになる。
【0040】
ところで、図5に示す従来の例においては、受信機のアンテナから例えばワイヤレスマイクロホンが遠ざかった場合には、電界強度は強(横軸右側)から弱(横軸左側)に遷移するから、その受信範囲は電波受信範囲Aおよび電波受信範囲Bのうち、RFミュートが先に動作するために電波受信範囲Bが、電界強度に対する受信範囲となる。
一方、図4に示すこの発明に係るワイヤレス受信機によると、多数波運用モードにおいてはノイズミュート基準値およびRFミュート基準値が、それぞれ白抜きの矢印で示すように変更されるので、受信範囲はそれぞれ電波受信範囲Cと電波受信範囲Dとなる。
【0041】
そして、受信機のアンテナから例えばワイヤレスマイクロホンが遠ざかった場合には、図4に示す例においては、RFミュートが僅かに先に動作するために電波受信範囲Dが電界強度に対する受信範囲となる。
ここで、従来の受信範囲Bと、この発明に係るワイヤレス受信機の受信範囲Dを比較すると、この発明に係るワイヤレス受信機の受信範囲は広がっていることは明らかである。
なお、多数波運用モードを選択した場合には、受信モード切り換え回路21からの指令により、RF増幅回路1の入力側に配置されたアッテネータの減衰量を通常運用モードに比較して大きく(またはRF増幅回路1の増幅利得を小さく)設定する。これによりIM歪を減衰させることができる。
【0042】
以上説明したこの発明に係るワイヤレス受信機によると、多数波運用時においては、入力RF信号を減衰させることでIM成分の発生を抑えると共に、RFミュートおよびノイズミュートの基準電圧が適切な値に選定される。
したがって、妨害信号の影響によるミュート回路の動作感度は落とされ、これにより受信到達距離の低下を防ぐことができるので、安定した受信状態を実現するワイヤレス受信機を提供することができる。
【0043】
なお、前記した実施の形態においては、受信モード切り換え回路21によって、RFミュート回路の動作レベル、ノイズミュート回路の動作レベルおよびRF信号の減衰回路における減衰量を、それぞれ二段階に選択できるように構成しているが、これは三段階以上の多段階に選択できるように構成することで、ノイズと受信距離の関係をより細かに設定することが可能となる。
【0044】
さらに図1に示す受信モード切り換え回路21によるミュート基準値等の選択は、アナログスイッチを用いたディスクリート回路の構成で表現しているが、これらはルックアップテーブル等を含むマイクロコンピュータのソフトウエア処理により実現できることは当然である。
【0045】
また、前記した実施の形態においては、受信モード切り換え回路21によって、RFミュート回路の動作レベル、ノイズミュート回路の動作レベルおよびRF信号の減衰回路における減衰量を、同時に選択可能となるように構成しているが、そのうちのいずれか2つを同時に選択可能となるように構成しても同様の作用効果を得ることができる。
すなわち、受信モード切り換え手段は、受信したRF信号の搬送波レベル、または復調信号のノイズレベルに応じて切り換えてもよい。たとえば前記RF信号のレベルが高い状態で、かつノイズレベルが高い場合は多数波運用モードに切り換えるようにしてもよい。
【0046】
さらに、前記した実施の形態においては、ワイヤレスマイクロホンからのRF信号を受信復調するワイヤレス受信機に基づいて説明したが、この発明に係るワイヤレス受信機は、RF信号の送信源が前記した特定なものに限られることなく、RF信号を受信復調する他のワイヤレス受信機に採用しても、同様の作用効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0047】
1 RF増幅回路
2 第1周波数変換回路
3 中間周波増幅回路
4 第2周波数変換回路
5 復調回路
6 音声処理回路
7 ミュート回路
8 音声出力端子
11 第1比較回路
12 選択スイッチ
13 基準レベル設定値1
14 基準レベル設定値2
16 ノイズ検出回路
17 第2比較回路
18 選択スイッチ
19 基準レベル設定値3
20 基準レベル設定値4
21 受信モード切り換え回路
図1
図2
図3
図4
図5