特許第6564698号(P6564698)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6564698
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】クランプ装置
(51)【国際特許分類】
   B23B 31/28 20060101AFI20190808BHJP
   B23B 31/00 20060101ALI20190808BHJP
   B23Q 17/00 20060101ALI20190808BHJP
【FI】
   B23B31/28
   B23B31/00 D
   B23B31/00 C
   B23Q17/00 A
【請求項の数】16
【外国語出願】
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-240962(P2015-240962)
(22)【出願日】2015年12月10日
(65)【公開番号】特開2016-128203(P2016-128203A)
(43)【公開日】2016年7月14日
【審査請求日】2016年12月21日
(31)【優先権主張番号】15150064.2
(32)【優先日】2015年1月5日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】515344565
【氏名又は名称】エムテーハー ゲーベーエル マルクス ウント トーマス ヒーシュタント
(74)【代理人】
【識別番号】100091867
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 アキラ
(74)【代理人】
【識別番号】100154612
【弁理士】
【氏名又は名称】今井 秀樹
(74)【代理人】
【識別番号】100202016
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 喬
(72)【発明者】
【氏名】カール ヒーシュタント
【審査官】 久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−235436(JP,A)
【文献】 特開2013−022725(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 31/00 − 33/00
B23Q 3/12
B23Q 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工品(10)保持用の電動チャック(5)を備えた、工作機械(2)用のクランプ装置(1)であって、その電動チャック(5)のクランプジョー(6)は、作動要素としての軸方向に可動な引き出しロッド(7,7’)によって、前記クランプ装置(1)を用いて調整可能であり、さらに、前記クランプ装置(1)は、クランプ動作を起動させるための切り替え機能を有する電気駆動モータ(11)と、前記駆動モータ(11)の回転子軸(14)の調整動作を、前記クランプジョー(6)の作動に必要な前記引き出しロッド(7,7’)の軸方向の調整動作に変換するための動作変換器(31)と、クランプ力を維持するための蓄力器(41)とを有し、この蓄力器(41)は、中空軸(33)として設計される前記動作変換器(31)の調整要素(32)であって半径方向外側に突き出る突起部(34)を備えた前記動作変換器(31)の調整要素(32)の上に支持される予緊張されたスプリングパック(42、43)を含む、クランプ装置(1)において、
前記クランプ装置(1)を遊びのないように構成するため、
前記動作変換器(31)の調整要素(32)を、予緊張されるボールねじ駆動器(35)により、直接的に駆動可能な連結で、前記引き出しロッド(7,7’)に結合すること、
周囲に均等に配置される複数のコイル圧縮スプリング(44、44’)によって、前記ボールねじ駆動器(35)のボール(36)用の戻り通路(37)を備えた前記調整要素(32)の片側または両側に作用する前記蓄力器(41)のスプリングパック(43)を構成すること、および、
前記動作変換器(31)および前記蓄力器(41)を、固定位置の第1ハウジング(21)内に挿入し、この第1ハウジング(21)には、前記電動チャック(5)の反対側を向く中空軸として構成される突出要素(24)またはキャリヤ(54)が設けられ、その中空軸には、前記駆動モータ(11)に付属する伝動要素(51、52)が、装着され、かつ前記動作変換器(31)の調整要素(32)に駆動可能な連結で結合されることとし、
加工品(10)をクランプおよびクランプ解除する際の前記引き出しロッド(7,7’)の軸方向の調整動作を決定するために、力の伝達に関与する前記クランプ装置(1)の構成要素(53、54)の1つに、定置配置の電子回転エンコーダ(101、102)を付属させること、
前記複数のコイル圧縮スプリング(44、44’)は、クランプ力に関する測定パラメータとして使用され、印加されるクランプ力を決定できる長さのスプリング移動距離を有すること、および、
前記突出要素(24)上に配置される前記伝動要素(51、52)が、前記突出要素(24)上にロックできるか、または、それらの伝動要素(51、52)を収容する第2ハウジング(53)もしくはそれらを支持するキャリヤ(54)によってロック結合されること、
を特徴とするクランプ装置(1)。
【請求項2】
前記第2ハウジング(53)または前記キャリヤ(54)が、前記電子回転エンコーダ(101)と相互作用する前記クランプ装置(1)の構成要素として設けられ、
前記第2ハウジング(53)または前記キャリヤ(54)には、外側のジャケット表面上に、1つ以上のバーコード(104)または歯付き形状体が設けられ、その回転面内に前記電子回転エンコーダ(101)のセンサー(103)が配置される、
ことを特徴とする請求項1に記載のクランプ装置。
【請求項3】
前記電子回転エンコーダ(102)を、次のような態様において前記クランプ装置(1)の駆動モータ(11)に付属させる、すなわち、円筒形のディスク(105)を、その回転子軸(14)上に回転固定して配置し、1つ以上のバーコード(107)または歯付き形状体を、前記電子回転エンコーダ(102)のセンサー(106)と相互作用するその外側のジャケット表面に装着するような態様において付属させる、
ことを特徴とする請求項1または2に記載のクランプ装置。
【請求項4】
前記蓄力器(41)のコイル圧縮スプリング(44、44’)が、1つまたは2部分の圧力部材(45)であって、前記動作変換器(31)の調整要素(32)の突起部(34)が、その中に係合すると共に軸方向回転配置においてその中に支持される圧力部材(45)の中に挿入される、
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のクランプ装置。
【請求項5】
前記蓄力器(41)のコイル圧縮スプリング(44、44’)が、長方形、または正方形、楕円形または円形の断面を有し、前記調整要素(32)の突起部(34)の片側または両側において前記圧力部材(45)に設けられる孔(46)の中に挿入できる、
ことを特徴とする請求項4に記載のクランプ装置。
【請求項6】
前記ボールねじ駆動器(35)に、潤滑剤を、前記第1ハウジング(21)の内部(22)から、前記調整要素(32)の調整動作によって、その調整要素(32)に設けられる孔(39)を通して強制供給方式で供給する、
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のクランプ装置。
【請求項7】
前記蓄力器(41)の特定のクランプ力を決定するために、前記圧力部材(45)に、前記第1ハウジング(21)を貫通する信号伝送器(92)であって、移動距離センサー(91)と相互作用する信号伝送器(92)が設けられる、
ことを特徴とする請求項4または5に記載のクランプ装置。
【請求項8】
前記引き出しロッド(7,7’)に、前記工作機械(2)および前記クランプ装置(1)の第1ハウジングの間の領域内の行程リングとして構成される信号伝送器(95)が装備され、前記信号伝送器(95)は、前記引き出しロッド(7,7’)の特定の位置を決定するために、移動距離センサー(94)と相互作用する、
ことを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のクランプ装置。
【請求項9】
前記クランプ装置(1)の駆動モータ(11)に付属する伝動要素(51、52)を、前記第1ハウジング(21)に液密接続で結合される第2ハウジング(53)の中に挿入すること、または、それら伝動要素を前記キャリヤ(54)上に支持すること、
を特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載のクランプ装置。
【請求項10】
前記伝動要素(51)が、遊星歯車(58、59)上に異なる歯数を有する遊びのない二重遊星歯車ユニット(55)として構成されること、および、前記遊星歯車(58、59)を、前記第2ハウジング(53)内に支持されるピン(60)に回転配置で装着して太陽歯車(56、57)と係合させ、この太陽歯車の内の一方(56)は前記突出要素(24)に固結され、もう一方の太陽歯車(57)は中間要素(62)と係合する中間歯車(97)と相互作用すること、
を特徴とする請求項9に記載のクランプ装置。
【請求項11】
前記伝動要素(52)が、前記キャリヤ(54)上に設けられる歯車リム(61)によって構成される、
ことを特徴とする請求項9に記載のクランプ装置。
【請求項12】
前記伝動要素(51、52)が、前記第1ハウジング(21)の隣接する端部壁面を貫通する1つ以上の中間要素(62)によって、前記動作変換器(31)の調整要素(32)に結合される、
ことを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載のクランプ装置。
【請求項13】
前記各中間要素(62)が、前記第1および/または第2ハウジング(21または53)に支持されるピン(64)上に回転配置で装着される偏心装着二重歯車(63)であって、前記二重遊星歯車ユニット(55)の歯車セットの1つである太陽歯車(57)と駆動連結される、または、前記キャリヤ(54)もしくは前記動作変換器(31)の調整要素(32)上に設けられる歯車リム(61)と駆動連結される偏心装着二重歯車(63)として構成される、
ことを特徴とする請求項10に記載のクランプ装置。
【請求項14】
前記第2ハウジング(53)または前記キャリヤ(54)を前記突出要素(24)とロックするために、前記突出要素上を軸方向に調整される摺動スリーブ(71)であって、非回転配置で装着される摺動スリーブ(71)が設けられ、この摺動スリーブ(71)は、サーボ装置(73)および/またはスプリング(74、74’)の力によって作動できる、
ことを特徴とする請求項1〜13のいずれか一項に記載のクランプ装置。
【請求項15】
前記引き出しロッド(7、7’)が、前記第1ハウジング(21)の前記突出要素(24)内に、その端部を前記電動チャック(5)の反対側に向けて、軸方向調整動作可能な配置で装着される、
ことを特徴とする請求項1〜14のいずれか一項に記載のクランプ装置。
【請求項16】
前記第1および第2ハウジング(21、53)に、オイルまたは潤滑剤が完全にまたは部分的に充填される、
ことを特徴とする請求項1〜15のいずれか一項に記載のクランプ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に工作機械用のクランプ装置であって、例えば、加工品保持用の電動チャックを備えたクランプ装置に関する。この電動チャックのクランプジョーは、作動要素としての軸方向に可動な引き出しロッドによって、クランプ装置を用いて調整可能である。さらに、このクランプ装置は、クランプ動作を起動させるための切り替え機能を有する電気駆動モータと、駆動モータの回転子軸の調整動作を、クランプジョーの作動に必要な引き出しロッドの軸方向の調整動作に変換するための動作変換器と、クランプ力を維持するための蓄力器とを有し、この蓄力器は、中空軸として設計される動作変換器の調整要素であって半径方向外側に突き出る突起部を備えた動作変換器の調整要素の上に支持される予緊張された(予め応力を与えられた)スプリングパックを含む。
【背景技術】
【0002】
このタイプのクランプ装置が特許文献1に記載されている。この実施形態においては、動作変換器が、伝動要素としてのいくつかの遊星ローラスピンドルを有しており、この遊星ローラスピンドルは、引き出しロッドおよびそれぞれの場合の中空軸に設けられるねじのターンにおけるその傾斜位置に起因する特定量のスリップを、ねじのピッチの角度に応じて有する。これは、引き出しロッドが、中空軸の回転ごとに異なる位置を占めるので弊害になる。その結果、引き出しロッドの正確な位置、従ってクランプジョーの正確な位置を、移動距離センサーによって決定できなくなり、さらに、加工品のクランプおよびクランプ解除の間の方向の変更ごとにアイドル動作が生じ、それは、引き出しロッドの軸方向位置の決定が不可能になることをも意味する。
【0003】
さらに、このクランプ装置においては、蓄力器のスプリングパックに用いられる皿型スプリングが短いスプリング距離しか有しないことが欠点である。スプリング距離が短いと、工作機械の十分な制御ができなくなる。また、皿型スプリングを用いると、電動チャックのクランプ力の変更が十分に行えなくなる。
【0004】
従って、先行技術のクランプ装置は、作業手順から生じる操作パラメータを用いて制御されるべき工作機械においては使用できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】欧州特許出願公開第2548681号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このため、本発明の目的は、動作変換器にスリップが生じないような、かつ、遊びのない調整動作であって、従って工作機械の制御に使用できる調整動作が常に提供されるような、前記のタイプのクランプ装置を創出することにある。特に、クランプ装置の一構成要素の遊びのない回転動作を、引き出しロッドの対応する調整動作用の測定パラメータとして簡単に使用できるべきである。さらに、蓄力器は、工作機械の制御にも使用可能な大きい調整範囲を有するべきであり、そのクランプ力は、可変の運転条件に困難なく容易に適合可能であるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、これは、クランプ装置を遊びおよびスリップのない機能ユニットとして構成すること、および、加工品をクランプおよびクランプ解除する際の引き出しロッドの軸方向の調整動作を決定するために、力の伝達に関与するクランプ装置の構成要素に定置配置の電子回転エンコーダを付属させることによって、前記のタイプのクランプ装置において実現される。
【0008】
クランプ装置を遊びのないように構成するためには、動作変換器の調整要素を、予緊張されるボールねじ駆動器による直接的に駆動可能な連結において、作動要素に結合することが必要である。さらに、周囲に均等に配置される複数のコイル圧縮スプリングによって、ボールねじ駆動器のボール用の戻り通路を備えた調整要素の片側または両側に作用する蓄力器のスプリングパックを構成すること、および、動作変換器および蓄力器を固定位置の第1ハウジング内で使用することが必要である。この第1ハウジングには、電動チャックの反対側を向く中空軸として構成される突出要素またはキャリヤが設けられ、その中空軸には、駆動モータに付属する伝動要素が、装着され、かつ動作変換器の調整要素に駆動可能な連結で結合される。
【0009】
この場合、突出要素上に配置される伝動要素は、その突出要素上にロックできるか、または、それらの伝動要素を収容する第2ハウジングもしくはそれらを支持するキャリヤによってロック結合されるべきである。
【0010】
前記第2ハウジングまたはキャリヤは、例えば、回転エンコーダと相互作用するクランプ装置の構成要素として設けることが可能である。その場合は、それらには、外側のジャケット表面上に、1つ以上のバーコードまたは歯付き形状体が設けられ、その回転面内に回転エンコーダのセンサーが配置される。
【0011】
異なる一実施形態に従って、回転エンコーダをクランプ装置の駆動モータに付属させることも可能である。これは、円筒形のディスクを、その回転子の軸上に回転固定して配置し、1つ以上のバーコードまたは歯付き形状体を、回転エンコーダのセンサーと相互作用するその外側のジャケット表面に装着することによって行うことができる。
【0012】
その結果、電子回転エンコーダによって、クランプ装置の構成要素の回転速度、回転方向および回転角度を簡単に記録することが可能になる。遊びおよびスリップのない伝動が提供され、その結果、引き出しロッドの特定の運転状態を、特に加工品のクランプまたはクランプ解除の間において正確に決定できる。従って、この測定パラメータによって、工作機械をきわめて正確に制御し、監視し得ることが保証される。
【0013】
この場合、さらに、蓄力器のコイル圧縮スプリングが、1つまたは2部分の圧力部材であって、動作変換器の調整要素の突起部が、その中に係合し、かつ軸方向回転配置においてその中に支持される圧力部材の中に挿入されることも有利である。この場合、蓄力器のコイル圧縮スプリングは、長方形、好ましくは正方形、楕円形または円形の断面を有し、好ましくは調整要素の突起部の片側または両側において圧力部材に設けられる孔の中に挿入できる。
【0014】
蓄力器のこの実施形態によって、圧力部材にコイル圧縮スプリングを完全に装備した場合には、そのクランプ力を電動チャックの最大クランプ力用として構成でき、そして、個別のコイル圧縮スプリングを取り外すことによって、または、低いスプリング力のスプリングを使用することによって、蓄力器の対応するクランプ力を、特定の運転条件に適合させることができる。
【0015】
さらに、ボールねじ駆動器に、潤滑剤を、第1ハウジングの内部から、動作変換器の調整要素の調整動作によって、例えばその調整要素に設けられる孔を通して強制供給方式で供給することが有利である。
【0016】
また、蓄力器の特定のクランプ力を決定するために、圧力部材に、第1ハウジングを貫通する信号伝送器であって、移動距離センサーと相互作用する信号伝送器を設けることが適切である。さらに、引き出しロッドに、工作機械およびクランプ装置の第1ハウジングの間の領域内の行程リングとして構成される信号伝送器を装備でき、その場合、この信号伝送器は、加工手順の間の引き出しロッドの特定の位置を決定するために、さらに別の移動距離センサーと相互作用する。従って、これらの信号伝送器によって、工作機械の確実な制御を可能にする測定パラメータを取得できる。
【0017】
さらに、クランプ装置の駆動モータに付属する伝動要素を、第1ハウジングに液密接続で結合される第2ハウジングの中に挿入すること、または、それらをキャリヤ上に支持することが有利である。
【0018】
伝動要素は、遊びのない二重遊星歯車ユニットであって、減速比または増速比を生成するために、遊星歯車上に異なる歯数を有する二重遊星歯車ユニットとして構成されるべきである。この場合、遊星歯車は、第2ハウジング内に支持されるピンに回転配置で装着して太陽歯車と係合させなければならないが、この太陽歯車の内の一方は突出要素に固結され、もう一方の太陽歯車は中間要素と係合する中間歯車と相互作用する。
【0019】
伝動要素は、キャリヤ上に設けられる歯車リムによっても構成できる。
【0020】
この場合の伝動要素は、第1ハウジングの隣接する端部壁面を貫通する1つ以上の中間要素によって、動作変換器の調整要素に結合できるべきである。
【0021】
各中間要素は、第1および/または第2ハウジングに支持されるピン上に回転配置で装着される偏心装着二重歯車であって、遊星歯車ユニットの歯車セットの1つである太陽歯車、または、キャリヤもしくは動作変換器の調整要素上に設けられる歯車リムと駆動連結される偏心装着二重歯車として構成可能である。
【0022】
第2ハウジングまたはキャリヤを突出要素とロックするために、突出要素の上を軸方向に調整動作する摺動スリーブであって、非回転配置で装着される摺動スリーブを設けることができる。この摺動スリーブは、サーボ装置および/またはスプリングの力によって作動させることができる。
【0023】
さらに、第1ハウジングの突起要素内に、引き出しロッドが、その端部を電動チャックの反対側に向けて、軸方向調整動作可能な配置で装着されるべきであり、第1および第2ハウジングには、オイルまたは潤滑剤が完全にまたは部分的に充填されるべきである。
【0024】
クランプ装置が、本発明に従って構成され、部分的には既知でもある複数の設計の特徴を有していれば、本質的に剛性を備え、かつ遊びもスリップもないクランプ装置を構成でき、結果的に、引き出しロッドの軸方向の調整動作と、従って、電動チャックのクランプジョーの特定の運転位置との両者を制限なしに使用できる。その結果、工作機械を、この方法によって確認された測定パラメータを用いて問題なく制御でき、かつ不正確さを容認する必要なしに高い精度でもって制御できる。特に、この場合、クランプ装置の回転構成要素の間にスリップまたは遊びが全く存在しないことが有利である。その結果、引き出しロッドの位置を、クランプ装置の外側の回転エンコーダによって困難なく測定でき、それによって、運転中の監視および制御を保証できる。
【0025】
従って、構成が簡素で設計の複雑さが低いにも拘わらず実現される蓄力器関与の構成要素間の剛性結合によって、クランプ装置の特定の運転データの正しい相関関係と、その結果工作機械の正確な位置決めとが保証される。この場合、スリップおよび遊びのいずれも生じないので、示差測定法を実行する必要が全くない。さらに、特定の測定値はクランプ装置の外側で困難なく確認でき、その結果、長い運転期間にわたってトラブルのない運転が保証される。
【0026】
さらに、蓄力器の予荷重を、高いクランプ力を有することができる複数のコイル圧縮スプリングによって、特定の要求に困難なく適合させることができる点が利点である。そして、コイル圧縮スプリングは、クランプ力に関する測定パラメータとして使用できる相対的に長いスプリング移動距離を有するので、印加される特定のクランプ力を確実に決定できる。
【0027】
従って、本提案に従って構成されるクランプ装置においては、いつでも、正確なクランプ力と引き出しロッドの位置とを確認でき、その結果、この運転データによって、工作機械を、いかなる不正確な測定値にもよることなく制御できる。さらに、機能ユニットの内部は、密封してオイルまたは潤滑剤を充填でき、その結果、高度の運転の確実性を備えたトラブルのない運転を長期にわたって保証できる。また、このクランプ装置の運転はエネルギーをほとんど要しない。それは、運転の間、力の伝達に関与する構成要素が相互にクランプされ、その結果、駆動モータがいかなるエネルギーをも吸収する必要がないからである。従って、このクランプ装置は、広範囲の用途に経済的に使用できる。
【0028】
図面は、本発明に従って構成されたクランプ装置の2つのサンプルとしての実施形態を示しており、以下その詳細を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】クランプ位置、従って作業手順中のクランプ装置の軸方向断面図を示す。
図2図1のクランプ装置の変形態様であって、同様にロックされた運転状態のクランプ装置を示す。
図3図1のクランプ装置の断面図であって、駆動モータが取り外され、かつ、異なる種類のロック機構を有するクランプ装置の拡大図を示す。
図4】クランプ装置の蓄力器を拡大斜視図で示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1〜3に表現され、符号1によって特定されるクランプ装置は、工作機械2の上に配置される電動チャック5を作動させるために用いられ、工作機械2の半径方向に調整可能なクランプジョー6によって、機械加工されるべき加工品10を電動チャック5においてクランプすることができる。この場合、電動チャック5のクランプジョー6は、中継レバー8を介して、電気駆動モータ11と駆動連結される軸方向に調整可能な2部分構成の引き出しロッド7、7’によって作動させることができる。電気駆動モータ11は、動作変換器31による切り替え機能を有する。駆動モータ11の回転調整動作は、動作変換器31によって、引き出しロッド7、7’の軸方向の調整動作に変換される。
【0031】
駆動モータ11は、クランプ装置1の縦軸Aに平行に定置位置に配置される固定子12と、回転子13とから構成され、回転子13は、その回転軸14に回転固定して取り付けられる歯車15を有する。この歯車15によって、クランプ装置1に装着される歯付き駆動ホイール17と相互作用する歯付きベルト16がガイドされる。しかし、駆動モータ11は、クランプ装置の縦軸Aに直角に配置することも可能であり、その場合は、傘歯車を介して駆動ホイール17と駆動連結される。
【0032】
クランプ装置1は、動作変換器31および蓄力器41が収納されるハウジング21を有する。ハウジング21の工作機械2の方に向く側に、突起ウェブ27が設けられ、その突起ウェブ27に、フランジ28がねじ29によって取り付けられる。フランジ28は、付加的な別のネジ30によって、機械のスピンドル3上に形成される別のフランジ9に取り付けられる。電気モータ4が機械スピンドル3に作用し、そのモータ4によって工作機械2を駆動できる。
【0033】
図1に示す実施形態においては、電動チャック5とは反対に向く側において、ハウジング21に突出要素24が装着され、突出要素24が第2ハウジング53を担持する。この第2ハウジング53は、伝動要素51としての二重遊星歯車ユニット55を収容するが、この二重遊星歯車ユニット55は、両方の太陽歯車56および57と、その太陽歯車56および57と係合する複数個の遊星歯車58および59とを含む。この場合、図3に詳細に示すように、各遊星歯車58および59は、ハウジング53内に支持されるピン60上の符号70の転がり軸受上に装着される。遊星歯車58は、突出要素24に固結される太陽歯車56と係合する。一方、遊星歯車59は、中間要素62と駆動連結される中間歯車97と係合する。従って、二重遊星歯車ユニット55は、伝動要素51を形成し、その伝動要素51によって、駆動モータ11から取り出される駆動エネルギーを、中間要素62を介して動作変換器31に供給することができ、その結果、遊星歯車58および59の歯数が異なるので、入力回転数に対して逓減比が適用されることになる。
【0034】
この場合、中間要素62は、ピン64上に回転するように転がり軸受69上に装着される二重歯歯車63から構成される。中間要素62は、第1ハウジング21の端部壁体23と、突出要素24のフランジ25とを貫通しており、それによって、二重歯歯車63が、動作変換器31の調整要素32上に設けられるギヤ68と係合し得るという効果がもたらされる。その結果、ギヤ68を、電動チャック5を作動させるために、駆動モータ11と駆動連結することができる。
【0035】
動作変換器31は、半径方向外側に突き出る突起部34が設けられる中空軸33として構成される調整要素32と、その中に作出される予緊張されたボールねじ駆動器35とを有する。引き出しロッド7’に作出されるねじ38と相互作用するボール36を戻すために、通路37が設けられる。転がり軸受50が、調整要素32を、突出要素24の上に回転配置において支持する。
【0036】
蓄力器41は、圧力部材45の中に挿入された複数のスプリングパック42および43を有する。さらに、特に図4に見られるように、複数の孔46が、圧力部材45の中に作出されて周囲に均等に配置される。これらの孔46は、その中に挿入されるコイル圧縮スプリング44または44’であって、正方形または円形の断面を有し、かつピン47上にガイドされるスプリング44または44’を有する。転がり軸受48および49が、圧力部材45を、動作変換器31の調整要素32の上に、軸方向および半径方向において支持する。
【0037】
この構成によって、圧力部材45の中に多数のコイル圧縮スプリング44または44’を配置できるようになり、これらのスプリングは、その断面形状によって高いスプリング力を有する。また、このコイル圧縮スプリング44または44’は、短時間で容易に交換または部分的に取り外すことができ、それによって、蓄力器41の力を、電動チャック5の特定の必要なクランプ力に困難なく適合させることができる。さらに、このことは、個々のコイル圧縮スプリング44または44’が何らかの理由で損傷を受けて早急に交換する必要性が生じた場合にも、蓄力器41のクランプ力が有意に(著しく)損なわれることはないことを意味している。
【0038】
さらに、コイル圧縮スプリング44または44’は、大きなスプリング移動距離をも有するので、工作機械2の正確な制御に利用できる。これを可能にするため、信号伝送器92を圧力部材45に取り付けて、第1ハウジング21に設けられる開口93を貫通させ、固定位置の移動距離センサー91と相互作用させる。この方法によって、蓄力器41に存在する力を容易に決定できる。
【0039】
さらに、電動チャック5のクランプジョー6の特定の位置も、同様の方法で加工手順中に決定できる。このため、行程リング95を、信号伝送器として、第1ハウジング21および工作機械2の間の範囲内において引き出しロッド7に取り付け、同様に移動距離センサー94と相互作用させる。この場合、行程リング95は、開口96が設けられるウェブ27を貫通しており、この構造によって、第1ハウジング21が、機械スピンドル3に形成されるフランジ9に取り付けられるフランジ28に固定される。
【0040】
図1および2に示す運転位置においては、電動チャック5内にクランプされる加工品10が機械加工される加工位置に対応して、突出要素24が第1ハウジング21とロックされる。これは、突出要素24の方を向くその端面上に符号72のギヤを備えた摺動スリーブ71を用いて行われる。このギヤ72は、フランジ18に装着されるギヤ19と係合するが、そのフランジ18は、それ自体第2ハウジング53に、この運転状態においては回転固定配置して結合される。従って、第2ハウジング53は突出要素24に連結され、その突出要素24上に、摺動スリーブ71が、回転固定配置において、しかし軸方向には可動に支持される。これは、力の伝達に関与するすべての構成要素の間に剛性結合が確立されることを意味する。
【0041】
摺動スリーブ71は、摺動スリーブ71と、突出要素24に取り付けられるフランジ76とに当接するスプリング74の力によって自動的に操作できる。しかし、摺動スリーブ71を係合解除するためのサーボ装置73が設けられ、それが、摺動スリーブ71に対するスプリング74の力に対抗して作動する。摺動スリーブ71は、移動距離センサー91および94も接続される制御ユニット81によって制御可能である。その結果、加工品10をクランプまたはクランプ解除するために、ギヤ19および72のロックを解放することが可能である。一方、その間、駆動モータ11は、第2ハウジング53と、遊星歯車ユニット55と、中間要素62とを介して、駆動変換器31にエネルギーを供給でき、それによって、駆動変換器31の調整要素32を介して、引き出しロッド7、7’に、従って電動チャック5のクランプジョー6に、対応する方式で作用することができる。
【0042】
動作変換器31のボールねじ駆動器35に常時十分に潤滑剤を供給するために、潤滑剤が充満されるハウジング21の内部22を、シール65および66によって外部に対して封止する。
【0043】
さらに、第1ハウジング21に対してシール67によって封止される第2ハウジング53を担持する軸受69は、流体密封シールを含むように構成される。そして、動作変換器31の調整要素32にいくつかの半径方向の孔39が形成されるので、調整要素32と、調整要素32に駆動連結している圧力部材45との右側に向かう各調整手順によって、潤滑剤が、シール40によって片側が封止される伝動要素51に供給され、その結果、ボールねじ駆動器35が常に十分に潤滑されることになる。
【0044】
図3に示す実施形態においては、駆動モータ11がクランプ装置1から取り外されている。この場合、摺動スリーブ71に装着されるギヤ72は、軸受98によって突出要素24上に支持される駆動歯車17のギヤ19とは係合していない。サーボ装置73によって作動させることができる摺動スリーブ71は、ピン77によって、第1ハウジング21の端部壁体23上に支持されるが、その場合、このハウジング21に設けられるギヤ79および80は相互に係合している。ねじ78が、ピン77を摺動スリーブ71に取り付け、従って、それらは第2ハウジング53内をガイドされる。
【0045】
図2に示す実施形態においては、駆動歯車17、およびさらに歯車リム61の形態に構成される伝動要素52も、T字形キャリヤ54に取り付けられる。従って、電動チャック5のクランプジョー6の動作の調整を遂行するための駆動エネルギーは、キャリヤ54を介して、次に中間要素62によって動作変換器31に供給され、さらに、動作変換器31のボールねじ駆動器35を経由して引き出しロッド7、7’に供給され、このロッド7、7’から電動チャック5のクランプジョー6に供給される。この場合、キャリヤ54に取り付けられる歯車リム61は伝動要素52として設けられる。
【0046】
動作変換器31と、蓄力器41と、力の伝達に関与するクランプ装置1の他の構成要素との遊びおよびスリップのない構成によって、工作機械2の正確な制御および監視のために、回転部品の調整動作を用いることが可能になる。これを可能にするため、図1および2に示す実施形態に、それぞれ電子回転エンコーダ101が設けられる。このエンコーダ101は、センサー103と、第2ハウジング53またはキャリヤ54の外側のジャケット表面に装着される1パートまたはマルチパートのバーコード104とから構成される。バーコード104の代わりに、対応して設計されたギヤを設けることもできる。
【0047】
回転エンコーダ101によって、第2ハウジング53またはキャリヤ54の回転速度および特定の回転方向の決定が可能になるだけでなく、これらの構成要素の回転角度における僅かな変化も決定できる。同様に制御ユニット81に送信できるこれらの測定パラメータは、引き出しロッド7、7’または電動チャック5の変化に正確に対応している。それは、クランプ装置1の設計の具現化形態が、スリップまたは遊びを全く受け入れる必要はないことを前提としており、その結果として、工作機械2を非常に高い精度でもって制御し得るからである。
【0048】
同じ目的のため、駆動モータ11にも電子回転エンコーダ102を装備できる。このためには、モータの回転子の軸14上にディスク105を装着する必要があるだけであり、そのディスクには、その外側のジャケット表面上に対応するバーコード107を装着しなければならない。測定結果は、続いてセンサー106から制御ユニットに送信できる。
【符号の説明】
【0049】
1 クランプ装置
2 工作機械
5 電動チャック
6 クランプジョー
7、7’ 引き出しロッド
10 加工品
11 電気駆動モータ
14 回転子軸
31 動作変換器
32 調整要素
33 中空軸
34 突起部
42、43 スプリングパック
41 蓄力器
53、54 構成要素
101、102 電子回転エンコーダ
図1
図2
図3
図4