(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.実施の形態(カバーにおける内層部の所定領域にマーカーを設けた治療装置の例)
2.変形例
変形例1(4個の芯材を1個のルーメンの外周方向に沿って等方的に配置した例)
変形例2,3(マーカーの他の構成例)
3.その他の変形例
【0020】
<1.実施の形態>
[概略構成]
図1は、本発明の一実施の形態に係る治療装置(治療装置4)の概略構成例を、模式的に側面図(Y−Z側面図)で表したものである。治療装置4は、例えばOSG法を利用した動脈解離等の治療の際に用いられる装置であり、この例では
図1に示したように、カテーテル1(デリバリカテーテル)、ステントグラフト2およびカバー3を備えている。なお、このステントグラフト2は、詳細は後述するが、例えば上記した治療の際に、カテーテル1を用いて、治療対象の部位(例えば動脈等の血管内)に留置されるようになっている。
【0021】
(カテーテル1)
カテーテル1は、患者における上記した治療対象の部位までステントグラフト2を運ぶ際に使用される医療機器である。このカテーテル1は、
図1に示したように、デリバリシャフト11およびハンドル12(把持部,グリップ)を備えている。なお、デリバリシャフト11は、本発明における「シャフト」の一具体例に対応している。
【0022】
デリバリシャフト11は、可撓性を有する管状構造(管状部材)からなり、自身の軸方向(長手方向)であるZ軸方向に沿って延在(延伸)する形状となっている。デリバリシャフト11は、
図1に示したように、軸方向(Z軸方向)を先端側から基端側へと向かって、先端領域A1、中間領域A2および基端領域A3(ハンドル内領域)を、この順に有している。
【0023】
このうちの先端領域A1では、上記した治療の際に、
図1に示したように、後述するステントグラフト2が縮径された状態で、後述するカバー3の内部に保持されるようになっている。また、基端領域A3は、
図1に示したように、ハンドル12内に収容された部分に対応している。中間領域A2は、
図1に示したように、先端領域A1と基端領域A3との間に位置する領域である。
【0024】
また、先端領域A1(後述する
図2中に示した、ステント配置領域A41とステント非配置領域A42との境界付近)には、
図1に示したように、拡径部114(フレア部)が設けられている。この拡径部114は、デリバリシャフト11の先端側(後述するステント配置領域A41側)に張り出した、漏斗状の形状を有している。このような拡径部114が設けられていることで、ステントグラフト2における後述するステント21(
図2参照)の基端側(中間領域A2側)を固定し、このステント21が基端側にずれて移動してしまうのを防止できるようになっている。
【0025】
このようなデリバリシャフト11の軸方向に沿った長さ(全長)は、例えば300〜900mm程度であり、好ましくは400〜800mm程度、更に好ましくは450〜600mm程度であり、好適な一例を示せば、570mmである。また、先端領域A1の長さは、搭載されるステントグラフト2の長さに応じて適宜設定されるようになっており、例えば30〜300mm程度であり、好ましくは50〜250mm程度、更に好ましくは80〜200mm程度である。中間領域A2の長さは、例えば100〜600mm程度であり、好ましくは150〜550mm程度、更に好ましくは200〜500mm程度であり、好適な一例を示せば、240mmである。
【0026】
また、先端領域A1の外径は、例えば1.0〜8.0mm程度であり、好ましくは1.5〜6.0mm程度、好適な一例を示せば、3.6mmである。中間領域A2の外径は、例えば2〜10mm程度であり、好ましくは3〜8mm程度、好適な一例を示せば、5.0mmである。上記した拡径部114の外径は、縮径状態のステントグラフト2の径に応じて適宜設定されるようになっており、例えば3〜15mm程度であり、好ましくは5〜10mm程度、好適な一例を示せば、8mmである。
【0027】
ハンドル12は、
図1に示したように、デリバリシャフト11の基端部分(基端領域A3)に装着されており、カテーテル1の使用時に操作者(医師)が掴む(握る)部分である。このハンドル12は、その軸方向(Z軸方向)に沿って延在する形状となっている。
【0028】
ハンドル12の軸方向に沿った長さは、例えば50〜200mm程度であり、好ましくは60〜180mm程度、更に好ましくは80〜150mm程度であり、好適な一例を示せば、130mmである。また、ハンドル12の外径は、例えば3〜30mm程度であり、好ましくは5〜25mm程度、好適な一例を示せば、20mmである。なお、このようなハンドル12は、例えば、ポリカーボネート、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)等の合成樹脂により構成されている。
【0029】
図2は、
図1に示したカバー3の内部の詳細構成例等を、模式的に側面図(Y−Z側面図)で表したものである。具体的には、
図2(A)は、カバー3と、その内部のステントグラフト2およびデリバリシャフト11の先端領域A1等との詳細構成例を、模式的に側面図で示している。
図2(B)は、
図2(A)中に示した構成例において、ステントグラフト2を拡張させる際の動作態様例を、模式的に側面図で表したものである。また、
図3は、
図2に示したステントグラフト2の詳細構成例を、模式的に斜視図で表したものである。
【0030】
(ステントグラフト2)
ステントグラフト2は、
図2(A),
図2(B)および
図3に示したように、その軸方向(Z軸方向)に沿って延在する筒状(円筒状)構造を有しており、ステント21およびグラフト22を含んで構成されている。また、このステントグラフト2は、縮径状態で保持されることが可能な、自己拡張型の構造を有している。なお、ステントグラフト2の軸方向に沿った長さは、例えば2〜30cm程度である。また、ステントグラフト2の拡張時の外径は、例えば6〜46mm程度である。
【0031】
ステントは、例えば
図3に示したように、1または複数の線材W(素線)を用いて構成されており、この例では筒状(円筒状)構造を有している。具体的には、例えばこの筒状構造が網目状構造により構成されていると共に、このような筒状の網目状構造が、線材Wを所定のパターンで編み組むことにより形成されている。なお、この編み組みのパターンとしては、例えば、平織り、綾織り、メリヤス編み等が挙げられる。また、線材Wをジグザグ状に折り曲げて円筒状に加工したものを1つ以上配置することで、筒状の網目状構造を形成するようにしてもよい。
【0032】
なお、線材Wの材料としては、金属線材が好ましく、特に熱処理による形状記憶効果や超弾性が付与される、形状記憶合金が好ましく採用される。ただし、用途によっては、線材Wの材料として、ステンレス、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、白金(Pt)、金(Au)、タングステン(W)等を用いてもよい。上記した形状記憶合金としては、例えば、ニッケル(Ni)−Ti合金、銅(Cu)−亜鉛(Zn)−X(X=アルミニウム(Al),鉄(Fe)等)合金、Ni−Ti−X(X=Fe,Cu,バナジウム(V),コバルト(Co)等)合金などが好ましく使用される。なお、このような線材Wとして、例えば合成樹脂などを用いるようにしてもよい。また、金属線材の表面にAu,Ptなどをメッキ等の手段で被覆したもの、あるいは、Au,Ptなどの放射線不透過性の素材からなる芯材を合金で覆った複合的な線材を、線材Wとして用いるようにしてもよい。
【0033】
一方、グラフト22は、例えば
図3に示したように筒状(円筒状)の形状を有しており、ステント21の少なくとも一部分を覆う(被覆する)ように配置されている。具体的には、例えば、グラフト22がステント21(線材W)の内周側もしくは外周側を覆うように配置されていたり、あるいは、グラフト22がステント21(線材W)の外周側および内周側の双方を覆うように配置されている。また、この例では
図2(A)および
図3に示したように、ステントグラフト2ではその軸方向(Z軸方向)に沿って、ステント配置領域A41およびステント非配置領域A42が設けられている。ステント配置領域A41は、ステント21がグラフト22に配置されている(ステント21およびグラフト22の双方が存在する)領域である。一方、ステント非配置領域A42は、ステント21がグラフト22に配置されていない(グラフト22のみが存在する)領域である。
【0034】
このようなグラフト22は、例えば縫着や接着、溶着等の手段によって、ステント21に連結されている。この場合、グラフト22は、ステント21の伸縮に影響を及ぼさないように、ステント21を被覆および連結するようになっている。なお、このようなグラフト22とステント21との連結部は、例えば、ステント21の両端部や中間部などに適宜設けられている。
【0035】
このようなグラフト22としては、例えば、熱可塑性樹脂を押出し成形やブロー成形などの成形方法で筒状に形成したもの、筒状に形成した熱可塑性樹脂の繊維や極細な金属線からなる編織物、筒状に形成した熱可塑性樹脂や極細な金属からなる不織布、筒状に形成した可撓性樹脂のシートや多孔質シート、溶剤に溶解された樹脂をエレクトロスピニング法によって肉薄の筒状に形成した構造体、などを用いることができる。
【0036】
ここで、上記した編織物としては、平織、綾織などの公知の編物や織物を用いることができる。また、クリンプ加工などのヒダの付いたものを使用することもできる。なお、これらのうち、特に円筒状に形成した熱可塑性樹脂の繊維の編織物、更には筒状に形成した熱可塑性樹脂の繊維の平織りの織物が、強度や有孔度、生産性が優れるため、好ましいと言える。
【0037】
また、上記した熱可塑性樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−α−オレフィン共重合体などのポリオレフィン、ポリアミド、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレートなどのポリエステル、ポリフッ化エチレンやポリフッ化プロピレンなどのフッ素樹脂等、耐久性および組織反応の少ない樹脂などを用いることができる。なお、これらのうち、特に、化学的に安定で耐久性が大きく、かつ組織反応の少ない、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリフッ化エチレンやポリフッ化プロピレンなどのフッ素樹脂を好ましく用いることができる。
【0038】
(カバー3)
カバー3は、前述したように、デリバリシャフト11の先端領域A1において、ステントグラフト2を縮径状態で保持するための部材である。具体的には、この例では
図2(A)に示したように、前述したステント配置領域A41がデリバリシャフト11の先端側に位置すると共に前述したステント非配置領域A42がデリバリシャフト11の基端側に位置する向きで、ステントグラフト2がカバー3内に保持されるようになっている。なお、このカバー3の外径は、例えば5.0〜20.0mm程度であり、好ましくは7.5〜15.0mm程度、好適な一例を示せば、10.0mmである。
【0039】
このようなカバー3は、この例では軟質カバーにより構成されている。縮径状態のステントグラフト2を軟質カバーで覆うことにより、このステントグラフト2を確実に保持することができるようになっている。また、カバー3が軟質であることにより、硬質の筒状体(シース)などと比較して、デリバリシャフト11における先端領域A1の形状変化に、カバー3が容易に追従することが可能となっている。
【0040】
また、
図2(A),
図2(B)に示したように、この例ではカバー3は、内層部31および外層部32を有する2層構造(2重構造)を有している。つまり、カバー3は、筒状の外層部32と、この外層部32の内周側に位置する内層部31とを有している。また、このカバー3には、これらの外層部32と内層部31とをデリバリシャフト11の先端側にて繋ぐ(連結する)部分である、折り返し部33が設けられている。具体的には、このカバー3は、筒状のチューブ材料を内側に折り返すことによって形成されており、折り返された部分が内層部31に対応している。また、
図2(A)に示したように、内層部31の内周側にて縮径状態で保持されているステントグラフト2は、その先端部がカバー3の折り返し部33側に位置しており、この折り返し部33と内層部31の基端部との間に、ステントグラフト2が配置されるようになっている。
【0041】
このような構成により、例えば
図2(B)に示したようにして、ステントグラフト2を拡張させる際の動作が行われるようになっている。すなわち、まず、カテーテル1の操作者によって、外層部32における基端部が、デリバリシャフト11の基端方向(折り返し部33とは反対方向)に引っ張られる(矢印P1参照)。すると、ステントグラフト2の外周から内層部31がめくれるようにして、ステントグラフト2から取り去られる(矢印P2参照)。その結果、このステントグラフト2は、ステント21の自己拡張力により、その先端側より次第に拡張(展開)するようになっている(矢印P3参照)。なお、その際に、カバー3を引き抜く力は、内層部31の外面と外層部32の内面との間の摩擦抵抗によるものとなっており、縮径状態のステントグラフト2の拡張力の影響は受けない。したがって、ステントグラフト2の拡張力が強い場合であっても、そのステントグラフト2を確実に展開することが可能となっている。
【0042】
なお、このようなステントグラフト2を拡張させる際の動作(治療の際のステントグラフト2の留置方法)の詳細については、後述する(
図5,
図6)。
【0043】
ここで、
図2(A),
図2(B)に加えて
図4中に模式的に示したように、本実施の形態のカバー3では、内層部31における、ステントグラフト2のステント非配置領域A42に対向する領域に、1または複数(この例では複数)のマーカー31Mが設けられている。また、この例では
図4に示したように、これら複数のマーカー31Mがそれぞれ、軸方向(Z軸方向)に沿って互いに等間隔に配置されている。具体的には、互いに隣接するマーカー31M同士の間隔gとしては、例えば、5.0mm〜50.0mm程度であり、好ましくは、10.0mm〜20.0mm程度である。
【0044】
このようなマーカー31Mはそれぞれ、カバー3における外層部32を介して、外部から視認可能となるように構成されている。具体的には、カバー3(外層部32、内層部31および折り返し部33など)が、例えば、半透明性または透明性(光透過性)を示す材料を用いて構成されている。そのような半透明性または透明性を示す材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−α−オレフィン共重合体などのポリオレフィン、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレートなどのポリエステル、ポリフッ化エチレンやポリフッ化プロピレンなどのフッ素樹脂等、シリコーン等の樹脂の繊維からなる織物または編み物、もしくはフィルムやシート等の構造体、あるいはそれらを組み合わせたものなどが挙げられる。なお、これらにおける補強等を目的として、金属等の細線や短繊維が含まれていてもよい。ちなみに、前述したカバー3を構成する部材としては、上記の材料を用いてあらかじめ筒状として製造されたもの、または平坦状のものを筒状に加工したもの、あるいはそれらの組み合わせからなるもの等が挙げられる。
【0045】
[動作および作用・効果]
(A.基本動作)
この治療装置4は、例えば動脈解離等の治療の際に用いられる。具体的には、操作者がカテーテル1を操作することで、患者における治療対象の部位(例えば動脈等の血管内)まで縮径された状態のステントグラフト2が運ばれ、拡張された後に留置される。このようにして治療対象の部位にステントグラフト2が留置されることで、血管内壁の裂け目への血流を抑えつつ、血管管腔を拡張および保持することが可能となる。また、特にこのステントグラフト2は、例えば、胸部大動脈における動脈解離等の治療方法の1つである、OSG法を利用した治療の際に用いられる。
【0046】
ここで、
図5および
図6を参照して、このOSG法を利用した動脈解離(動脈瘤)等の治療方法の概要について説明する。
【0047】
図5は、この治療時における、治療装置4の使用方法の一例を模式図で表したものである。また、
図6(
図6(A)〜
図6(D)は、この治療時におけるステントグラフト2の留置方法の一例を、模式図で表したものである。なお、ここでは、治療対象の血管である動脈9(胸部大動脈)が、下行大動脈である場合を例に挙げて説明する。また、これらの
図5および
図6において、治療対象の動脈9における動脈瘤を、動脈瘤90として示している。
【0048】
まず、例えば
図5に示したように、このOSG法では、患者の開胸後に、
図1〜
図4に示した構成の治療装置4を使用して、動脈9の一部を切開してなる開口hから、縮径された状態のステントグラフト2を挿入させる(矢印P4参照)。具体的には、カテーテル1におけるデリバリシャフト11の先端側(カバー3側)から、ステントグラフト2が挿入される。このとき、例えば
図1および
図2に示したように、カテーテル1におけるデリバリシャフト11の先端領域A1には、ステントグラフト2が縮径された状態で、カバー3の内部に保持されている。
【0049】
ここで、治療対象の動脈9が例えば動脈解離状態である場合、その動脈9内には、本来の血流路である動脈内腔(真腔)と、血管内壁が裂けることによって生じた新たな内腔(偽腔)とが存在することになる。このような場合、カテーテル1が偽腔内に誤挿入されるおそれを回避するため、カテーテル1を所定のガイドワイヤに沿わせて挿入する。つまり、カテーテル1における細孔(例えば後述するルーメンL)内に、そのようなガイドワイヤを挿通させながら、カテーテル1を挿入する。
【0050】
具体的には、まず、患者の足の付け根(鼠蹊部)から動脈9内へガイドワイヤを挿入させ、この動脈9内を通って開口hから外部へと引き出すようにする。ここで、このガイドワイヤは末梢側から動脈9内へ挿入されることから、このガイドワイヤは誤って偽腔内に挿入されることなく、確実に真腔内へと挿入される。なお、このようなガイドワイヤの長さは、例えば約50〜450cm程度であり、その外径は、例えば約0.2〜1.0mm程度である。
【0051】
続いて、開口hを入口としてガイドワイヤに沿わせるように、カテーテル1を動脈9内に挿入させる(矢印P4参照)。前述したように、ガイドワイヤは確実に真腔内へ挿入されていることから、このガイドワイヤに沿わせるようにしてカテーテル1を動脈9内へ挿入させることで、このカテーテル1もまた、確実に真腔内へ挿入されることになる。すなわち、動脈解離状態の場合であっても、カテーテル1が偽腔に挿入されてしまうおそれが回避される。
【0052】
次いで、例えば
図6(A)に示したように、この治療装置4を使用して、動脈9における治療対象の部位(動脈瘤90の形成箇所付近)を超えた部位まで、ステントグラフト2を到達させる(矢印P4参照)。
【0053】
続いて、例えば
図6(B)および
図6(C)に示したように、ステント21の自己拡張力を利用することで、このステントグラフト2を拡径(展開)させる動作がなされる。具体的には、まず、カテーテル1の操作者によって、カバー3の外層部32における基端部が、デリバリシャフト11の基端方向に引っ張られる(矢印P1参照)。すると、ステントグラフト2の外周から内層部31がめくれるようにして、ステントグラフト2から取り去られる(前述した
図2(B)の矢印P2参照)。その結果、このステントグラフト2が、ステント21の自己拡張力により、その先端側より次第に拡張する(矢印P3参照)。
【0054】
これにより、例えば
図6(D)に示したように、ステントグラフト2が動脈9の内壁に固定される。その結果、動脈瘤90の形成箇所付近における動脈9の管腔が、拡張および保持されることになる。その後、このステントグラフト2の基端側と動脈9(患者の血管)とを縫合することで吻合する。なお、更に必要に応じて、このステントグラフト2とは別の人工血管を、この吻合部分と吻合するようにしてもよい。
【0055】
このようにして、動脈瘤90の内周がステントグラフト2によって覆われることで、血流はステントグラフト2内を通るようになり、血管内壁の裂け目への血液の流入が遮断される結果、動脈瘤90に血圧等が作用しなくなる。したがって、動脈瘤90における瘤径の拡大および血管の破裂を予防することができる。
【0056】
また、特にこのOSG法を利用した治療方法では、患者の足の付け根(鼠蹊部)からカテーテルを挿入してステントグラフトを治療対象部位まで運ぶ治療方法(従来の治療方法)と比較して、以下の利点が得られる。すなわち、この従来の治療方法では処置が極めて困難な、重要な分枝が存在する部位(例えば弓部大動脈)の処置ができる、という利点が得られる。また、病変部位を切除して人工血管によって置換すると共にその両端を吻合する方法と比較すると、下行大動脈縫合(末梢側吻合)が、ステントグラフト2による固定によって代用されることになる。つまり、このOSG法では、ステントグラフト2の先端側と下行大動脈との間の吻合が省略されることから、吻合作業が簡略化される。したがって、手術時間(体外循環時間)を短縮化することができると共に、更に下行大動脈の縫合に必要な左開胸または大きな胸部切開が回避されるため、患者への手術侵襲が軽減される(治療の際の患者への負担が軽減される)。更に、このOSG法では、人工血管の移植範囲を広範囲に設定でき、付近の合併症の外科処置も可能となるという利点もある。加えて、OSG法に適用するステントグラフトは、上記した従来の治療方法のように鼠蹊部から導入するわけではないため、細い血管を通過させる必要がなく、縮径させた状態でもある程度なら外径が大きくても(太くても)よいことになる。
【0057】
(B.カバー3における作用・効果)
ところで、上記した手法を用いてステントグラフトの展開操作を行う際に、従来の治療装置では、ステントグラフトの挿入長(患者の体内への挿入長)を把握することが困難となるおそれがあった。したがって、この従来の治療装置を用いると、OSG法を利用した動脈解離等の治療の際に、利便性が損なわれてしまうおそれがあった。
【0058】
具体的には、例えば、縮径状態のステントグラフトを患者の体内へ挿入する際や、2重構造のカバーを基端側に引っ張って、ステントグラフトを拡張させて放出する際に、ステントグラフトの挿入長が把握できないと、ステントグラフトの挿入位置や留置位置に、ずれが生じてしまうおそれがある。そして、そのようなステントグラフトの挿入位置や留置位置のずれが生じると、OSG法を利用した動脈解離等の治療の際に、利便性が損なわれてしまうおそれがあるともに、意図する位置へのステントグラフトの挿入が果たせず、そもそもの使用目的が果たせなくなるおそれがある。
【0059】
そこで、本実施の形態の治療装置4では、例えば
図2(A),
図2(B)および
図4に示したように、カバー3が以下のように構成されている。すなわち、このカバー3では、内層部31における、ステントグラフト2のステント非配置領域A42に対向する領域に、外層部32を介して外部から視認可能なマーカー31Mが設けられている。
【0060】
これにより本実施の形態では、縮径状態のステントグラフト2が先端領域A1に保持されたカテーテル1を用いて、例えば、動脈9等における患部に対してこのステントグラフト2を留置する治療の際に、以下のようになる。すなわち、そのような治療の際に、ステントグラフト2の挿入長Liが、操作者によって把握し易くなる。なお、この挿入長Liは、例えば
図5および
図6(A)に模式的に示したように、この例では、動脈9における開口hからステントグラフト2の先端までの長さ(挿入深さの距離)を意味している。
【0061】
ここで、本実施の形態とは異なり、例えば、カバー3の内層部31において、ステント配置領域A41の対向する領域にマーカー31Mを配置した場合(比較例)、以下のようになる。すなわち、この比較例のカバーを用いた場合、まず、縮径状態のステントグラフト2を患者の体内へ挿入する際に、マーカー31Mを利用しようとしても、ステントグラフト2の挿入位置にずれが生じてしまう。なぜならば、ステント配置領域A41は動脈9内に全て収納されることから、マーカー31Mもまた動脈9内に収納されてしまい、操作者からマーカー31Mを視認できなくなる結果、ステントグラフト2の挿入長Liが把握できないためである。
【0062】
更に、この比較例では、2重構造のカバー3における外層部32を基端側に引っ張って、ステント21の自己拡張力によりステントグラフト2を拡張させて放出する際には、以下のようになる。すなわち、ステント配置領域A41の対向する領域にマーカー31Mが配置されていることから、カバー3における外層部32が基端側に引っ張られるのに従って、内層部31も基端側に引っ張られ、それにより内層部31に配置されたマーカー31Mもまた、基端側へ移動してしまう。その結果、ステント22が十分に拡張する前に、マーカー31Mの位置がずれてしまうことになる。
【0063】
このようにしてこの比較例では、2重構造のカバー3における外層部32を基端側に引っ張って、ステント21の自己拡張力によりステントグラフト2を拡張させて放出する際に、以下のようになる。すなわち、比較例では上記したように、ステントグラフト2の挿入長Liが把握できなくなったり、マーカー31Mの位置がずれてしまったりするため、OSG法を利用した動脈解離等の治療において、利便性が損なわれてしまうおそれがある。
【0064】
これに対して本実施の形態では、この比較例とは異なり、上記したように、カバー3の内層部31におけるステント非配置領域A42の対向する領域に、マーカー31Mが配置されている。したがって、比較例とは異なり、マーカー31Mは動脈9内に完全には収納されることがないため、操作者はマーカー31Mの位置を視認して、ステントグラフト2の挿入長Liを把握することができる。
【0065】
また、本実施の形態では、2重構造のカバー3における外層部32を基端側に引っ張って、ステント21の自己拡張力によりステントグラフト2を拡張させて放出する際には、以下のようになる。すなわち、まず、上記した比較例の場合と同様に、本実施の形態においても、カバー3における外層部32が基端側に引っ張られるのに従い、内層部31もめくれながら基端側に引っ張られることになる。ところが、本実施の形態のマーカー31Mが位置するステント非配置領域A42の対向領域は、上記した比較例の場合とは異なり、ステント配置領域A41の放出が完了するまではめくれないため、マーカー31Mの位置が移動することはない(
図6(A),
図6(B)参照)。
【0066】
このようにして、本実施の形態では比較例とは異なり、縮径状態のステントグラフト2を患者の体内へ挿入する際と、2重構造のカバー3における外層部32を基端側に引っ張って、ステント21の自己拡張力によりステントグラフト2を拡張させて放出する際とのそれぞれにおいて、以下のようになる。すなわち、動脈9における開口hに位置するマーカー31Mを視認することで、ステントグラフト2の挿入長Liを操作者が把握できるようになる。その結果、本実施の形態では、ステントグラフト2の挿入位置や留置位置にずれが生じてしまうおそれが、回避される。
【0067】
また、本実施の形態の治療装置4では、例えば
図4に示したように、上記したようなマーカー31Mが複数設けられていると共に、これら複数のマーカー31Mがそれぞれ、軸方向(Z軸方向)に沿って互いに等間隔(間隔g)に配置されている。このような構成により、例えば、患者の体内に挿入されている箇所に位置するマーカー31Mの個数をカウントすることで、ステントグラフト2の体内への挿入長Liが、操作者によって容易に把握できるようになる。なお、例えば
図5中に模式的に示したように、このときのステントグラフト2の挿入長Liは、例えば、以下の(1)式のようにして規定することができる。すなわち、ステントグラフト2におけるステント配置領域A41の長さをステント長L1(
図2(A)参照)、互いに隣接するマーカー31M同士の間隔を間隔g(
図4参照)、患者の体内に挿入されている箇所に位置するマーカー31Mの個数をn(正の整数)とすると、ステントグラフト2の挿入長Liは、以下の(1)式のようになる。
挿入長Li=(ステント長L1+n×間隔g) ……(1)
【0068】
更に、この治療装置4では、例えば
図4に示したように、カバー3が半透明性または透明性(光透過性)を示す材料を用いて構成されている。これにより、カバー3の内層部31に配置されているマーカー31Mが、カバー3の外層部32を介して、操作者に視認し易くなる。その結果、ステントグラフト2の体内への挿入長Liが、操作者によって更に把握し易くなる。
【0069】
以上のように本実施の形態では、カバー3の内層部31におけるステント非配置領域A42に対向する領域に、外層部32を介して外部から視認可能なマーカー31Mを設けるようにしたので、以下のようになる。すなわち、ステントグラフト2を動脈9等の患部に留置する治療の際に、ステントグラフト2の体内への挿入長Liを、操作者によって把握し易くすることができる。よって、そのようなカバー3を備えた治療装置4を用いて治療を行うことで、治療の際の利便性を向上させることが可能となる。
【0070】
<2.変形例>
続いて、上記実施の形態の変形例(変形例1〜3)について説明する。なお、実施の形態における構成要素と同一のものには同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0071】
<変形例1>
[構成]
図7は、変形例1に係る治療装置(治療装置4A)の概略構成例を、模式的に側面図(Y−Z側面図)で表したものである。本変形例の治療装置4Aもまた、実施の形態で説明した治療装置4と同様に、例えばOSG法を利用した動脈解離等の治療の際に用いられる装置である。
【0072】
治療装置4Aは、
図7に示したように、カテーテル1A(デリバリカテーテル)、ステントグラフト2およびカバー3を備えている。すなわち、この治療装置4Aは、実施の形態の治療装置4において、カテーテル1の代わりにカテーテル1Aを設けたものに対応しており、他の構成は同様となっている。また、カテーテル1Aは、
図7に示したように、デリバリシャフト11Aおよびハンドル12を備えている。すなわち、このカテーテル1Aは、実施の形態のカテーテル1において、デリバリシャフト11の代わりに、以下説明するデリバリシャフト11Aを設けたものに対応しており、他の構成は同様となっている。
【0073】
ここで、
図8〜
図10を参照して、このような本変形例のカテーテル1Aにおけるデリバリシャフト11Aの詳細構成例について説明する。
【0074】
図8は、デリバリシャフト11Aの詳細構成例を、模式的に断面図(Y−Z断面図)で表したものである。なお、
図8(B)は、
図8(A)中の符号Gで示した部分(先端領域A1付近)を拡大して示したものである。また、
図9は、デリバリシャフト11Aにおける
図8(B)中のII−II線で示した部分の矢視断面構成例(X−Y断面構成例)を、模式的に表したものである。
図10は、
図8に示した補強層(後述する補強層113)の詳細構成例を、模式的に斜視図で表したものである。
【0075】
まず、
図8および
図9に示したように、デリバリシャフト11Aは、チューブ状部材110、被覆層111、複数の芯材112(この例では4個の芯材112a,12b,12c,12d)、補強層113、および、前述した拡径部114を備えている。
【0076】
(チューブ状部材110)
チューブ状部材110は、その軸方向(Z軸方向)に沿って形成された1個のルーメンL(シングルルーメン構造)を有している。このルーメンLは、前述したように、ガイドワイヤの挿通路として機能するものである。このような挿通路が確保されていることで、ステントグラフト2の挿入・留置の前後において、このルーメンLにガイドワイヤを挿通することが可能となっている。なお、このようなルーメンLの径は、例えば0.9〜2.5mm程度であり、好適な一例を示せば、1.12mmである。
【0077】
このようなチューブ状部材110は、例えば、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエーテルポリアミド、ポリウレタン、ナイロン、ポリエーテルブロックアミド等の合成樹脂により構成されている。
【0078】
(被覆層111)
被覆層111は、
図9に示したように、ルーメンLの全周を覆う層であり、例えば0.03〜0.08mm程度の厚みを有している。この被覆層111は、前述したガイドワイヤ等のルーメンLへの挿通時における、滑り材としても機能するようになっている。
【0079】
このような被覆層111は、例えば樹脂材料(PFA,PTFEなどのフッ素系樹脂等)により構成されている。
【0080】
(芯材112)
芯材112は、塑性変形性を有する部材であり、
図8および
図9に示したように、少なくともデリバリシャフト11Aの先端領域A1において、チューブ状部材110内の軸方向(Z軸方向)に沿って延在するようになっている。このような芯材112は、
図9に示したように、チューブ状部材110内に並行して複数(この例では、芯材112a,112b,112c,112dの4個)設けられている。また、この例では芯材112(112a〜112d)は、
図9に示したように円柱状の部材となっていると共に、デリバリシャフト11Aの略全長にわたって(先端領域A1、中間領域A2および基端領域A3の各領域に)設けられている。これにより、デリバリシャフト11Aにおける剛性が十分に確保され、カテーテル1Aの操作性が向上するようになっている。
【0081】
なお、ここで言う「塑性変形性」とは、デリバリシャフト11Aの先端領域A1を手や指などの力で変形させたときに、変形後の形状を維持することができる性質を意味している。また、この先端領域A1とともに変形するステントグラフト2の復元力(直線状に戻ろうとする弾性力)に対しても、変形後の形状を維持することが要求されるようになっている。
【0082】
ここで本変形例では、例えば
図9に示したように、チューブ状部材110内におけるルーメンLの外周方向R1に沿って、複数の芯材112(112a〜112d)が略等方的(望ましくは等方的)に配置されている。具体的には、この例では
図9に示したように、4個の芯材112a〜112dが、外周方向R1に沿って互いに90°間隔で配置されている。詳細には、芯材112aはルーメンLの上側(+Y軸側)に配置され、芯材112bはルーメンLの右側(+X軸側)に配置され、芯材112cはルーメンLの下側(−Y軸側)に配置され、芯材112dはルーメンLの左側(−X軸側)に配置されている。なお、上記した「略等方的」とは、「等方的」な配置を基準として、例えば±10%程度以内の位置ずれを含んでいることを意味している。
【0083】
また、本変形例では、例えば
図9に示したように、複数の芯材112(112a〜112d)のうちの少なくとも1つ(この例では全ての芯材112a〜112d)と、被覆層111(ルーメンL)とが、互いに接するようになっている。
【0084】
更に、本変形例では、例えば
図9に示したように、複数の芯材112(112a〜112d)における径(外径)r2が、ルーメンLの径r(L)と同程度以上となっている。つまり、径r2が径r(L)と略等しい(r2≒r(L))か、あるいは、径r2が径r(L)よりも大きくなっている(r2>r(L))。また、径r2が径r(L)と等しくなっていてもよい(r2=r(L))。なお、上記した「同程度以上」とは、「等しい」値を基準として、例えば10%程度以内の誤差を含んでいる(径r2が径r(L)に対して90%以上の値である)ことを意味している。また、芯材112の径r2は、例えば0.5〜3mm程度であり、好ましくは1〜2mm程度、好適な一例を示せば、1.15mmである。
【0085】
このような芯材112は、前述した塑性変形性を有する金属材料により構成されている。この金属材料としては、例えば、ステンレス鋼(SUS)、チタン、チタン合金、コバルトクロム合金、ニッケルクロム合金、クロムモリブデン合金、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム合金、タンタル合金、ジルコニウム合金、金、白金、銅、金銀パラジウム合金などの金属および合金が挙げられる。
【0086】
(補強層113)
補強層113は、デリバリシャフト11Aにおける基端側の領域(この例では中間領域A2および基端領域A3)での剛性を確保する(剛性を補強する)ための部材である。この補強層113は、例えば
図8(B)に示したように、デリバリシャフト11Aにおける先端領域A1よりも基端側の領域(この例では中間領域A2および基端領域A3)において、チューブ状部材110の外周面上を覆うように配置されている。
【0087】
また、例えば
図10に示したように、この補強層113ではその周方向R2に沿って、1または複数(この例では複数)のスリットSが形成されている。
【0088】
このような補強層113の厚みは、例えば0.1〜0.3mm程度である。また、補強層113は、例えば、ステンレス鋼(SUS)等の材料により構成されており、一例としてはSUSパイプからなる。なお、このようなSUSパイプからなる補強層113の外周面上を、更に、例えばポリエーテルブロックアミドなどの樹脂チューブで覆うようにしてもよい。
【0089】
[デリバリシャフト11Aにおける作用・効果]
ところで、一般的な治療装置(縮径状態のステントグラフトが保持されたカテーテル)を用いて、例えば前述の
図5および
図6に示した動脈9(下行大動脈)のように、大きく湾曲した形状の動脈における患部に対してステントグラフトを留置する治療の際に、例えば以下の問題点が生じ得る。すなわち、大きく湾曲した形状の動脈内において、血流を遮断して萎んでいる患部の適切な位置に対し、治療装置を用いてステントグラフトを留置させるには、技術的に困難を伴う。
【0090】
具体的には、カテーテルのデリバリシャフトにおける先端領域の形状は一般的に直線状であるため、その先端領域に保持される縮径状態のステントグラフトもまた、直線状となる。また、デリバリシャフトは、一般的に樹脂などの弾性材料により構成されていることから、例えば、デリバリシャフトの先端領域に保持されているステントグラフトに対して曲げ荷重を負荷しても、先端領域およびステントグラフトの弾性により、直ちに直線状に復元されてしまうことになる。したがって、大きく湾曲した形状の動脈内にステントグラフトを挿入する場合、デリバリシャフトの先端領域に保持されたステントグラフトを、この動脈の湾曲形状に沿った形状に保持することができず、このステントグラフトは直線状を維持したままで、送達、展開(拡張)および留置されてしまう。
【0091】
その結果、展開した後のステントグラフトを、大きく湾曲した形状の動脈の内壁に対して十分に密着させることができず、以下のようになってしまう。すなわち、まず、この内壁とステントグラフトとの間隙に血液が流れてしまう、いわゆる「エンドリーク」を生じるため、動脈の管腔を維持すること(ステントグラフト内への血流を確保して、血管内壁の裂け目への血液の流入を遮断しつつ、血管管腔を拡張および保持すること)が困難となる。また、直線状のステントグラフト(特に端部)を、大きく湾曲した形状の目的部位に対して正確に位置させることが困難となる。その結果、動脈の管腔を維持することができなかったり、動脈瘤への血流を遮断できなかったり、ステントグラフトの留置位置の近傍から分岐する有用な血管を閉塞したりするおそれがある。更に、直線状のステントグラフトが、大きく湾曲した形状の動脈内でキンクしてしまい、血流を確保することができなくなるおそれもある。
【0092】
そこで、本変形例の治療装置4Aでは、例えば
図5および
図6に示した動脈9(下行大動脈)のように、大きく湾曲した形状の動脈における患部に対してステントグラフト2を留置する治療の際に、操作者によって以下のような操作が行われるようになっている。すなわち、カテーテル1Aのデリバリシャフト11A(チューブ状部材110)に内蔵されている、塑性変形性を有する芯材112を、そのような動脈の湾曲形状に応じて、予め癖付け(シェイピング)しておくようにする。つまり、ステントグラフト2が保持されているデリバリシャフト11Aの先端領域A1を、動脈の湾曲形状に沿った形状にシェイピングしておく。
【0093】
これにより本変形例では、例えば
図6(A)〜
図6(D)に示したように、患部に送達されたステントグラフト2が、動脈9の湾曲形状に沿った形状(シェイピングによって付与した形状)を維持できるようになる。これは、塑性変形性を有する芯材112は剛性を有することから、その形状が維持されることによる。その結果、本変形例では、大きく湾曲した形状の動脈における湾曲形状に沿った状態で縮径状態のステントグラフト2を展開し、その動脈9の湾曲形状に沿った形状でステントグラフト2を留置することができる。このようにして展開(拡張)した後のステントグラフト2は、例えば
図6(D)に示したように、動脈9の内壁に対する密着性が良好で、かつ、目的部位に対して正確に留置されるため、目的とする治療効果(前述したような動脈の管腔の維持や、動脈瘤90の破裂の防止等)が確実に得られるようになる。
【0094】
ところが、上記したように、塑性変形性を有する芯材112を動脈9の湾曲形状に応じて予め癖付けしておく手法では、チューブ状部材110内における芯材112の構成(個数や配置位置)によっては、以下の問題点が生じ得る。すなわち、芯材112の構成によっては、チューブ状部材110がキンクしてしまい、芯材112の内側に位置するルーメンLの形状が変形してしまう(ルーメンLが潰れてしまう)おそれが生じる。
【0095】
具体的には、例えば
図11に示した、他の構成例に係るデリバリシャフト11B(先端領域A1)では、
図9に示した本変形例のデリバリシャフト11A(先端領域A1)とは異なり、チューブ状部材110内での芯材112の構成が、以下のようになっている。すなわち、このデリバリシャフト100におけるチューブ状部材110では、1個の芯材112が、ルーメンLの外周方向R1に沿って、非等方的に配置されている(芯材112が偏った配置となっている)。
【0096】
したがって、上記した他の構成例では、例えば
図11中の矢印P101で示した方向に芯材112を癖付けしておく操作を繰り返した場合等に、以下説明する本変形例とは異なり、以下のようになる。すなわち、上記したように、チューブ状部材110がキンクしてしまい、芯材112の内側に位置するルーメンLの形状が変形してしまう(ルーメンLが潰れてしまう)結果、例えばこのルーメンL内に前述したガイドワイヤを挿通させることができなくなってしまうおそれが生じる。このため、上記した他の構成例のデリバリシャフト11Bを有するカテーテルを用いて、例えばOSG法を利用した動脈解離(動脈瘤)等の治療を行う場合、十分な治療効果が得られないおそれがある。つまり、この他の構成例では、例えばOSG法を利用した動脈解離等の治療の際に、利便性が低下しまうことになる。
【0097】
(本変形例)
これに対して本変形例では、上記した他の構成例とは異なり、治療装置4Aにおけるカテーテル1Aが、以下のようになっている。
【0098】
すなわち、まず、例えば
図9に示したデリバリシャフト11Aのように、その少なくとも先端領域A1において、チューブ状部材110内におけるルーメンLの外周方向R1に沿って、複数の芯材112(112a〜112d)が略等方的に配置されている。これにより、上記したように、縮径状態のステントグラフト2が先端領域A1に保持されたカテーテル1Aを用いて、例えば、大きく湾曲した形状の動脈(
図5中の動脈9等)における患部に対してこのステントグラフト2を留置する治療の際に、以下のようになる。
【0099】
すなわち、上記したように、塑性変形性を有する複数の芯材112を、その動脈9等の湾曲形状に応じて予め癖付けしておいたとしても、上記した他の構成例とは異なり、チューブ状部材110がキンクしにくくなる。その結果、芯材112の内側に位置するルーメンLの形状が変形しにくくなる(ルーメンLが潰れにくくなる)ことから、例えばこのルーメンL内に、前述したガイドワイヤを挿通させることが可能となる。
【0100】
また、本変形例では、例えば
図9に示したように、複数の芯材112(112a〜112d)のうちの少なくとも1つ(この例では全ての芯材112a〜112d)と、被覆層111(ルーメンL)とが、互いに接するようになっている。これにより、上記したように複数の芯材112を予め癖付けしておいたとしても、チューブ状部材110が更にキンクしにくくなって、ルーメンLの形状が更に変形しにくくなる結果、治療の際の利便性が更に向上することになる。
【0101】
更に、本変形例では、例えば
図9に示したように、複数の芯材112(112a〜112d)における径r2が、ルーメンLの径r(L)と同程度以上となっている。これにより、上記したように複数の芯材112を予め癖付けしておいたとしても、以下のようになる。すなわち、この観点においても、チューブ状部材110が更にキンクしにくくなって、ルーメンLの形状が更に変形しにくくなる結果、治療の際の利便性が更に向上することになる。
【0102】
加えて、本変形例では、例えば
図8(B)に示したように、デリバリシャフト11Aにおける先端領域A1よりも基端側の領域(この例では中間領域A2および基端領域A3)において、チューブ状部材110の外周面上に補強層113が設けられている。そして、例えば
図10に示したように、この補強層113ではその周方向R2に沿って、1または複数(この例では複数)のスリットSが形成されている。このようにして補強層113の周方向R2に沿ってスリットSが形成されていることから、デリバリシャフト11Aが湾曲し易くなる一方、デリバリシャフト11Aの軸方向(Z軸方向)に沿った引張り力に対する耐性が強化される。その結果、治療の際の利便性の更なる向上が図られる。
【0103】
具体的には、この補強層113に圧縮力(軸方向の力)を作用させた場合、スリットSの端面同士が面接触することから位置ずれが生じにくく、補強層113の形状が維持される。これにより、このステントグラフト2を拡径させるために、カバー3の外層部32における基端部をデリバリシャフト11Aの基端方向に引っ張る操作を行った場合でも、デリバリシャフト11Aにおける先端領域A1よりも基端側の領域が湾曲してしまうことを防止することができる。なお、このような先端領域A1よりも基端側の領域が湾曲してしまった場合、例えば、前述したような「エンドリーク」に起因した問題等が生じ得る。また、この補強層113は、軸方向以外の力によって容易に曲げることができるため、デリバリシャフト11Aにおける先端領域A1よりも基端側の領域についても、必要に応じて形状の癖付けをすることが可能である。
【0104】
以上のように本変形例では、カテーテル1Aにおけるデリバリシャフト11Aの少なくとも先端領域A1において、チューブ状部材110内におけるルーメンLの外周方向R1に沿って、塑性変形性を有する複数の芯材112を略等方的に配置するようにしたので、以下のようになる。すなわち、ステントグラフト2を動脈9等の患部に留置する治療の際に、例えばその動脈9等の湾曲形状に応じて芯材112を予め癖付けしておいたとしても、この芯材112の内側に位置するルーメンLの形状を、変形しにくくすることができる。よって、そのようなカテーテル1Aを用いて治療を行うことで、治療の際の利便性を更に向上させることが可能となる。
【0105】
<変形例2>
図12は、変形例2に係るマーカーの構成例を、模式的に斜視図で表したものである。この変形例2に係るカバー(カバー3B)は、
図4に示した実施の形態のカバー3において、複数のマーカーのうちの一部を、他のマーカーとは異なる外観態様にて設けるようにしたものに対応している。具体的には、本変形例のカバー3Bでは、
図12に示したように、軸方向(Z軸方向)に沿って規則的に配置された(この例では1つおきに配置された)マーカー31M’が、他のマーカー31Mとは、太さ(幅)および色がそれぞれ異なっている。より具体的には、この例では、マーカー31M’の幅がマーカー31Mの幅よりも大きくなっていると共に、マーカー31M’の色がマーカー31Mの色よりも濃くなっている。なお、
図12に示した例では、マーカー31M’とマーカー31Mとで、太さ(幅)および色の双方が異なっているが、この例には限られず、例えば、マーカー31M’とマーカー31Mとで、太さ(幅)および色のうちの一方のみが異なっているようにしてもよい。
【0106】
このようなマーカー31M,31M’が設けられている本変形例では、マーカー31M,31M’における外観態様の相違を利用して、例えばマーカー31M,31M’の個数がカウントし易くなったりするなど、操作者にとってマーカー31M,31M’が視認し易くなる。よって本変形例では、治療の際の利便性を更に向上させることが可能となる。
【0107】
<変形例3>
図13は、変形例3に係るマーカーの構成例を、模式的に斜視図で表したものである。この変形例3に係るカバー(カバー3C)もまた、
図4に示した実施の形態のカバー3において、複数のマーカーのうちの一部を、他のマーカーとは異なる外観態様にて設けるようにしたものに対応している。具体的には、本変形例のカバー3Cでは、ステント配置領域A41とステント非配置領域A42との境界付近に位置するマーカー31M’が、他のマーカー31Mとは、太さ(幅)および色がそれぞれ異なっている。より具体的には、この例では、マーカー31M’の幅がマーカー31Mの幅よりも大きくなっていると共に、マーカー31M’の色がマーカー31Mの色よりも濃くなっている。なお、
図13に示した例においても、マーカー31M’とマーカー31Mとで、太さ(幅)および色の双方が異なっているが、この例には限られず、例えば、マーカー31M’とマーカー31Mとで、太さ(幅)および色のうちの一方のみが異なっているようにしてもよい。
【0108】
このようなマーカー31M,31M’が設けられている本変形例では、マーカー31M,31M’における外観態様の相違を利用して、ステント配置領域A41とステント非配置領域A42との境界が、操作者にとって把握し易くなる。よって本変形例においても、治療の際の利便性を更に向上させることが可能となる。
【0109】
<3.その他の変形例>
以上、実施の形態および変形例を挙げて本発明を説明したが、本発明はこれらの実施の形態等に限定されず、種々の変形が可能である。
【0110】
例えば、上記実施の形態等において説明した各部材の形状や配置位置、サイズ、個数、材料等は限定されるものではなく、他の形状や配置位置、サイズ、個数、材料等としてもよい。具体的には、例えば、複数のルーメン(マルチルーメン構造)を有するチューブ状部材を用いるようにしてもよい。また、芯材が、先端領域を含む一部の領域だけに設けられているようにしてもよい。更に、芯材の個数が、4個以外の複数個(例えば、2個,3個,または5個以上)であってもよい。加えて、複数の芯材の略等方的な配置構成としても、上記変形例で説明したものには限られず、他の配置構成例であってもよい。また、上記変形例では、補強層113の周方向R2に沿って1または複数のスリットSが形成されている場合の例について説明したが、この例には限られない。すなわち、例えば、この補強層113上に、1または複数の螺旋状のスリット(補強層113上を斜め方向に周回するスリット)が形成されているようにしてもよい。
【0111】
また、場合によっては、デリバリシャフトにおいて補強層や被覆層が設けられていないようにしてもよい。更に、場合によっては、芯材と被覆層(ルーメン)とが互いに接しておらず、所定の間隙を介して配置されているようにしてもよい。加えて、場合によっては、芯材における径が、ルーメンの径未満であってもよい。また、場合によっては、デリバリシャフトにおけるステント配置領域とステント非配置領域との境界付近に、拡径部を設けないようにしてもよい。更に、場合によっては、実施の形態で説明した治療装置4において、前述した他の構成例に係るデリバリシャフト11Bを用いるようにしてもよい。加えて、上記実施の形態等では、カバー3における内層部31と外層部32とが、折り返し部33を介して互いに一体化されている場合について説明したが、この場合には限られない。すなわち、例えば、カバーにおける内層部と外層部とが互いに別体になっていると共に、別体である折り返し部(連結部)によって内層部と外層部とが繋がれている(連結されている)ようにしてもよい。
【0112】
また、マーカー31Mの構成(形状や配置位置、サイズ、個数など)についても、上記実施の形態において説明した形状や配置位置、サイズ、個数などには限られず、他の構成としてもよい。
【0113】
更に、上記実施の形態等では、ステントグラフトにおいて、カバー内で先端側に配置されるステント配置領域と、カバー内で基端側に配置されるステント非配置領域とが、それぞれ1つずつ設けられていると共に、カバーにおける上記ステント非配置領域に対向する領域にマーカーが配置されている場合の例について説明したが、この例には限られない。すなわち、例えば、ステントグラフトにおける上記ステント配置領域の先端側に、他のステント非配置領域が更に設けられているようにしてもよい。換言すると、ステントグラフトにおいて、上記ステント非配置領域と上記他のステント非配置領域との間に、上記ステント配置領域が挟まれて配置されているようにしてもよい。ただし、この場合の例では、カバーにおいて、先端側に位置する上記他のステント非配置領域に対向する領域には、マーカーを設ける必要がなく、基端側に位置する上記ステント非配置領域に対向する領域にのみ、マーカーを設けるようにすればよい。
【0114】
加えて、上記実施の形態等では、カテーテルとステントグラフトとカバーとによって治療装置を構成する場合を例に挙げて説明したが、これには限られない。すなわち、例えば、カテーテルのみで治療装置を構成したり、カテーテルとステントグラフトとによって治療装置を構成したり、カテーテルとカバーとによって治療装置を構成したりするようにしてもよい。
【0115】
また、上記実施の形態等では、主に、下行大動脈についての治療に適用される治療装置(カテーテルおよびステントグラフト等)を例に挙げて説明したが、これには限られない。すなわち、本発明の治療装置は、下行大動脈以外の他の動脈(例えば、上行大動脈や弓部大動脈、胸腹部大動脈、腹部大動脈、腸骨動脈、大腿動脈など)等の血管についての治療にも適用することが可能である。