【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「新エネルギー技術研究開発 革新的太陽光発電技術研究開発(革新型太陽電池国際研究拠点整備事業)」委託研究、産業技術力強化法19条の適用を受けるもの
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、一実施形態にかかる複合太陽電池の構成を表す模式図である。複合太陽電池は、分光素子51、第一の光電変換素子10、および第二の光電変換素子20を備える。第一の光電変換素子10は、ペロブスカイト型光電変換素子である。第二の光電変換素子20は、第一の光電変換素子よりも狭バンドギャップの光電変換素子である。
【0023】
本発明の複合太陽電池において、太陽光等の光101は、分光素子51に照射された後、分光素子からの射出光が、光電変換素子10,20に入射する。
図1の形態では、分光素子51として、長波長光を透過し、短波長光を反射する波長選択反射膜が用いられている。光入射側から、入射角θ(入射角は、分光素子の膜面の法線方向と光入射方向とのなす角度である)で波長選択反射膜51に照射された光101のうち、短波長光は、波長選択反射膜51で反射される。反射光111は第一方向1へと射出される。光101のうち、長波長光は、波長選択反射膜51を透過する。透過光121は、第二方向2へと射出される。
【0024】
分光素子51の第一方向(光反射方向)には、第一の光電変換素子10が配置されている。そのため、分光素子(波長選択反射膜)51からの射出光111(反射光)は、第一の光電変換素子10へ入射する。分光素子51の第二方向(光透過方向)には、第二の光電変換素子20が配置されている。そのため、分光素子(波長選択反射膜)51からの射出光121(透過光)は、第二の光電変換素子20へ入射する。
【0025】
図1の複合太陽電池では、分光素子51を設けることにより、短波長光(高エネルギー光)は第一方向1へ優先的に射出して、第一の光電変換素子であるペロブスカイト型光電変換素子10へ入射する。長波長光(低エネルギー光)は、第二方向2へ優先的に射出し、第二の光電変換素子である狭バンドギャップ光電変換素子20へ入射する。そのため、長波長光と短波長光のそれぞれを有効に利用できる。
【0026】
ペロブスカイト型光電変換素子は、波長400nm程度の短波長光の分光感度特性が極めて高い。そのため、短波長光をペロブスカイト型光電変換素子へ優先的に入射させ、ペロブスカイト型化合物が吸収できない長波長光を狭バンドギャップ光電変換素子へ優先的に入射させる構成は、ペロブスカイト型光電変換素子を用いた複合太陽電池の高効率化に極めて有用である。
【0027】
また、第一の光電変換素子10の電流値と第二の光電変換素子の電流値とが異なる場合でも、電流が律速しないため、複数の光電変換素子を積層した場合に比べて、電気的なロスが小さく、変換効率を高めることができる。複数の光電変換素子を積層するタンデム型の太陽電池では、広バンドギャップのセルをトップセルとして光入射側に設けるため、赤外光を含む長波長光も一旦トップセルに入射される。そのため、トップセルの温度が上昇しやすい。有機金属のペロブスカイト結晶材料は、シリコン等の無機材料に比べて耐熱性が低いため、ペロブスカイト素子をトップセルとするタンデム型太陽電池は、熱による特性低下が懸念される。これに対して、本発明の複合太陽電池では、広バンドギャップである第一の光電変換素子(ペロブスカイト型光電変換素子)に、短波長光を選択的に入射させるため、ペロブスカイト型光電変換素子の温度上昇を抑制でき、熱による特性低下を抑制できる。
【0028】
さらには、本発明者らの検討により、第一の光電変換素子10の光吸収層であるペロブスカイト結晶材料の分光感度特性の長波長端λ
Eよりも短波長の光の一部を、狭バンドギャップの第二の光電変換素子20へ優先的に入射させることで、ペロブスカイト型光電変換素子の温度上昇がさらに抑制されるとともに、さらなる高効率化が可能であることが見出された。
【0029】
第一の光電変換素子10へ優先的に入射されるべき光の波長範囲、および第二の光電変換素子20へ優先的に入射されるべき光の波長範囲の最適値は、ペロブスカイト結晶材料の分光感度特性によって異なるが、分光感度特性の長波長端λ
Eを基準にその範囲を定めることができる。第一の光電変換素子の光吸収層であるペロブスカイト結晶材料の分光感度特性の長波長端λ
Eに対応する光エネルギーをE
1(eV)とした場合、(E
1+0.3)eV以下のエネルギーを有する光は、第二の光電変換素子20(狭バンドギャップ光電変換素子)へ優先的に入射させることが好ましい。また、(E
1+0.9)eV以上のエネルギーを有する光は、第一光電変換素子(ペロブスカイト光電変換素子)10へ優先的に入射させることが好ましい。
【0030】
分光素子51は、上記のように波長に応じて入射光の進行方向を変化させるように構成されていることが好ましい。すなわち、分光素子51は、光入射側から照射された入射光のうち、(E
1+0.9)eV以上のエネルギーを有する短波長光を第一方向1へ優先的に射出し、(E
1+0.3)eV以下のエネルギーを有する長波長光を第二方向2へ優先的に射出することが好ましい。この場合、(E
1+0.3)eVよりもエネルギーが大きく、(E
1+0.9)eVよりもエネルギーが小さい光は、第一方向および第二方向のいずれに優先的に射出されてもよく、第一方向と第二方向とに略等量射出されてもよい。
【0031】
例えば、CH
3NH
3PbI
3のペロブスカイト結晶は、光感度特性の長波長端λ
Eが約800nmであり、その光エネルギーは1.55eVである。第一の光電変換素子10の光吸収層がCH
3NH
3PbI
3のペロブスカイト結晶を含む場合、分光素子51は、500nmよりも短波長の光を第一方向1(第一の光電変換素子10側)へ優先的に射出し、670nmよりも長波長の光を第二方向2(第二の光電変換素子20側)へ優先的に射出するように構成されていることが好ましい。
【0032】
例えば、第一の光電変換素子10の光吸収層の分光感度特性の長波長端λ
Eが、750nm〜850nmの範囲である場合、分光素子51は、光入射側から照射された入射光のうち、波長500nm以下の短波長光を第一方向1へ優先的に射出し、波長650nm以上の長波長光を第二方向2へ優先的に射出するように構成されていることが好ましい。
【0033】
所定方向に優先的に射出するとは、特定の波長範囲の入射光のうち、当該方向へ射出される光量が、他の方向へ射出される光量よりも大きいことを意味する。第一方向に優先的に射出するとは、好ましくは、当該波長範囲の入射光のうち、50%より多くの光を、第一の光電変換素子に入射させることを意味する。第一の光電変換素子に入射する光量は、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上であり、特に好ましくは90%以上である。同様に、第二方向に優先的に射出するとは、当該波長範囲の入射光のうち、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上を、第二の光電変換素子20へ入射させることを意味する。
【0034】
このような分光特性は、分光素子51の構成や、分光素子51と光電変換素子10,20との相対的な配置関係、光入射方向に対する分光素子51の配置角度等により、適宜に調整できる。例えば、
図1に示す構成では、分光素子51として、分離波長λ
1よりも短波長の光(高いエネルギー光)を優先的に反射し、λ
1よりも長波長の光(低エネルギー光)を優先的に透過する波長選択反射膜が用いられている。分離波長λ
1は、(E
1+0.3)〜(E
1+0.9)eVのエネルギーに対応する波長であり、例えば、500nm〜650nmの範囲内である。波長選択反射膜としては、一般に、屈折率の異なる誘電体の多層蒸着薄膜が用いられ、各種の分離波長を有する波長選択反射膜(ダイクロイックミラー)が市販されている。
【0035】
入射光101の波長選択反射膜51への入射角θは特に限定されないが、θが小さいほど、空気との界面での反射率が低減され、第二方向への長波長光の透過率が高められるため、より多くの長波長光を第二の光電変換素子20へ入射させることができる。そのため、入射角θは、40°以下が好ましく、30°以下がより好ましく、25°以下がさらに好ましい。一方、θが小さすぎると、光入射方向と第一方向が略同一となり、波長選択反射膜51への入射光が遮られる場合がある。そのため、入射角θは5°以上が好ましく、10°以上がより好ましい。
【0036】
なお、波長選択反射膜が多層薄膜である場合、入射角θの増大に伴って、分離波長が短波長化(ブルーシフト)する。そのため、入射角θを考慮して、分光素子の構成を決定することが望ましい。なお、
図1に示す形態では、短波長光を反射し長波長光を透過する波長選択反射膜が用いられているが、短波長光を透過し長波長光を反射する波長選択反射膜が用いられてもよい。この場合、光透過側が第一方向、光反射側が第二方向となる。
【0037】
図1に示す形態において、分光素子51は、光電変換素子10,20と空間的に隔てて配置されているが、分光素子と光電変換素子とは、近接して(あるいは接して)配置されてもよい。例えば、
図2に示す形態では、第二の光電変換素子20に接して、分光素子として波長選択反射膜51が設けられている。この形態においても、分光素子51に照射された入射光101のうち、短波長光は第一方向に反射され、反射光111が第一の光電変換素子10に入射される。分光素子51に照射された入射光101のうち、長波長光は第二方向に透過され、透過光121が第二の光電変換素子20に入射される。
【0038】
分光素子は、波長選択反射膜に限定されず、光の反射、屈折、回折、干渉、偏光等の原理を利用して、入射光の進行方向を、波長に応じて変化させる各種の光学素子を用いることができる。具体的には、レンズ、プリズム、回折格子、ミラー、偏光ビームスプリッター(例えば、ブリュースター角の全反射を利用するもの)等を、必要に応じて適宜に組み合わせることにより、短波長光を第一方向(第一の光電変換素子側)へ優先的に射出し、長波長光を第二方向(第二の光電変換素子側)へ優先的に射出する分光素子を構成できる。
【0039】
図3は、分光素子としてプリズム58を用いた複合太陽電池の構成例を模式的に示している。
図3の構成において、プリズム58に入射する光108は、プリズムへの入射時、およびプリズムからの射出時に屈折する。プリズムを構成する材料は、波長により屈折率が異なる(一般には短波長ほど屈折率が大きい)ため、プリズムから射出される光の方向は、波長により異なる。そのため、短波長光の射出方向(第一方向1)に第一の光電変換素子10を配置し、長波長光の射出方向(第二方向2)に第二の光電変換素子20を配置すれば、本発明の複合太陽電池を形成できる。また、プリズムの材料および形状や、プリズム58への光108の入射角度、プリズム58と光電変換素子10,20との位置関係を調整することにより、第一の光電変換素子10に優先的に入射される光の波長範囲、および第二の光電変換素子20に優先的に入射される光の波長範囲を、所望の範囲に調整できる。また、複数のプリズムを組み合わせて用いることにより、波長範囲の分離精度や、射出光の進行方向の精度を高めることもできる(例えば、ダイクロイックプリズム)。
【0040】
図4Aおよび
図4Bは、複合分光素子59として、プリズム58と波長選択反射膜51との組み合わせを採用した複合太陽電池の構成例を模式的に示している。
図4Aの構成では、プリズム58の面58bに接するように波長選択反射膜51が配置されている。プリズム58の面58aに照射された入射光は、界面で屈折し、面58bから射出して波長選択反射膜51に到達する。波長選択反射膜51に到達した光のうち、短波長光は第一方向に反射され、プリズム58の面58cから射出して、第一の光電変換素子10に入射する。波長選択反射膜51に到達した光のうち、長波長光は第二方向に透過され、波長選択反射膜51に接して配置された第二の光電変換素子20に入射する。
図4Bの構成は、プリズム58の面58cに接するように第一の光電変換素子10が設けられていること以外は、
図4Aの構成と同様である。
【0041】
このように、複合分光素子を構成する複数の光学素子が接するように配置することにより、光学素子間の界面での反射や屈折による光学的ロスを低減できる。また、分光素子と光電変換素子とが接するように配置することにより、光学ロスをさらに低減できる。そのため、光電変換素子に入射する光の量を増大させ、複合太陽電池の変換効率を向上できる。例えば、
図4Bの構成では、プリズム58の面58cに接するように第一の光電変換素子10が設けられているため、
図4Aの構成に比べて光学ロスをさらに低減できる。また、複数の素子を一体化することにより、複合太陽電池の封止を行う場合の封止必要箇所が低減するため、複合太陽電池の製造効率を向上できる。
【0042】
なお、
図4Aおよび
図4Bに示す形態では、プリズム58の面58bに接するように、短波長光を反射し長波長光を透過する波長選択反射膜51、および第一の光電変換素子10が設けられているが、長波長光を反射し短波長光を透過する波長選択反射膜が用いられてもよい。この場合は、波長選択反射膜に接して第二の光電変換素子が配置される。
【0043】
第一の光電変換素子10は、光吸収層として、ペロブスカイト型結晶構造の感光性材料(ペロブスカイト結晶材料)を含有する。ペロブスカイト結晶材料を構成する化合物は、一般式R
1NH
3M
1X
3で表される。式中、R
1はアルキル基であり、炭素数1〜5のアルキル基が好ましく、特にメチル基が好ましい。M
1は2価の金属イオンであり、PbやSnが好ましい。Xはハロゲンであり、F,Cl,Br,Iが挙げられる。なお、3個のXは、全て同一のハロゲン元素であってもよく、複数のハロゲンが混在していてもよい。ハロゲンの種類や比率を変更することにより、分光感度特性を変化させることができる。
【0044】
第一の光電変換素子(ペロブスカイト光電変換素子)の構成は、前述の特許文献1や非特許文献1〜3等に開示されている構成等、適宜のものを採用できる。例えば、受光面側から、透明基板;透明電極層;TiO
2等からなるブロッキング層;TiO
2やAl
2O
2等の金属酸化物の多孔質担体表面にペロブスカイト結晶材料が形成された光吸収層;正孔輸送層;および金属電極層をこの順に有する構成が挙げられる。
【0045】
第二の光電変換素子20は、光吸収層のバンドギャップが第一の光電変換素子の光吸収層のバンドギャップよりも狭いものであれば、その構成は特に限定されない。このような特性を満たす光吸収層の材料としては、結晶シリコン、ガリウムヒ素(GaAs)、CuInSe
2(CIS)等が挙げられる。中でも、長波長光(特に波長1000nm以上の赤外光)の利用効率が高いことから、結晶シリコンおよびCISが好ましく用いられる。結晶シリコンは、単結晶、多結晶、微結晶のいずれでもよい。特に、長波長光の利用効率が高く、かつキャリア回収効率に優れることから、光吸収層に単結晶シリコン基板を用いた光電変換素子が好ましく用いられる。
【0046】
単結晶シリコン基板を用いた光電変換素子としては、p型単結晶シリコン基板の受光面側にn型層を設け、裏面側に高ドープ領域(p+領域)を設けたものや、p型またはn型単結晶シリコン基板の両面に、非晶質シリコン層および透明導電層を設けたもの(いわゆるヘテロ接合結晶シリコン太陽電池)等が挙げられる。第二の光電変換素子に優先的に入射される長波長光を有効に利用できる限りにおいて、第二の光電変換素子の構成や材料等は、上記例示のものに限定されない。
【0047】
第一の光電変換素子10の光吸収層として用いられるペロブスカイト結晶材料は、紫外光の照射により特性が変化し、劣化することが知られている。そのため、信頼性に優れる複合太陽電池を得るためには、第一の光電変換素子10への紫外光の入射量が少ないことが好ましい。具体的には、入射光のうち、波長300nm〜320nmの範囲の紫外光の第一の光電変換素子への入射量を小さくすることが好ましい。例えば、分光素子が、入射光のうち、波長300nm〜320nmの範囲の紫外光の50%以上を第一の光電変換素子へ入射させないように構成されていればよい。また、第一の光電変換素子への紫外光の入射量を低減させることにより、ペロブスカイト型光電変換素子の光劣化を抑制できるとともに、温度上昇が抑制されるため、熱による特性低下も低減できる。
【0048】
波長300nm〜320nmの範囲の紫外光を第一の光電変換素子へ入射させないためには、例えば、分光素子として、波長選択反射膜と紫外光吸収素子との組み合わせを用いればよい。具体的には、
図1の構成において、波長選択反射膜51と第一の光電変換素子10との間に、紫外光吸収素子(不図示)を配置することにより、第一の光電変換素子への紫外光の入射量を低減できる。紫外光吸収素子としては、波長300nm〜320nmの光の透過率が50%未満のものが好ましく用いられる。
【0049】
紫外光吸収素子を用いる代わりに、波長300nm〜320nmの範囲の紫外光が、第二の光電変換素子へ優先的に入射されるように、分光素子を構成してもよい。例えば、分光素子として、波長λ
2〜λ
1(ただし、λ
2<λ
1)の範囲の光を波長選択的に反射し、λ
2よりも短波長の光およびλ
1よりも長波長の光を波長選択的に透過する波長選択反射膜を用いることができる。
【0050】
図5は、波長λ
2〜λ
1の光を波長選択的に反射する波長選択反射膜52を備える複合太陽電池の構成例を表す模式図である。波長選択反射膜52に照射された入射光のうち、波長λ
2〜λ
1の範囲の光は、優先的に第一方向1へ反射され、反射光112は、第一の光電変換素子10へ入射する。一方、λ
1よりも長波長の光、およびλ
2よりも短波長の光(紫外光)は、波長選択反射膜52を透過し、優先的に第二方向2へ射出される。透過長波長光122および透過紫外光132は、第二の光電変換素子20へ入射する。
【0051】
このように、分光素子として、複数の分離波長を有する波長選択反射膜52を用いれば、第一の光電変換素子へ入射される紫外光の量を低減して、光劣化を抑制できるとともに、第一の光電変換素子へ入射されない紫外光を第二の光電変換素子で利用できる。そのため、変換効率が高く、かつ信頼性に優れる複合太陽電池が得られる。
【0052】
波長選択反射膜の長波長側の分離波長λ
1の範囲は、
図1に示す形態において説明したのと同様である。短波長側の分離波長λ
2は、320nm以上であればよい。ただし、λ
2が長波長化すると、第一の光電変換素子で利用できる短波長光の量が小さく、変換効率が低下する場合がある。そのため、λ
2は、400nm以下が好ましく、370nm以下がより好ましく、350nm以下がさらに好ましい。
【0053】
図6に示す複合太陽電池は、分光素子50の第三方向に、第三の光電変換素子30を備える。この構成では、分光素子50に照射される入射光のうち、波長300nm〜320nmの範囲の紫外光が第三方向へ優先的に射出し、第三の光電変換素子へ入射される。第三の光電変換素子30として、第二の光電変換素子よりも紫外光の利用効率が高いものを用いれば、さらに変換効率を高めることができる。第三の光電変換素子30の光吸収層としては、非晶質シリコンや、CdTe等のワイドバンドギャップ材料が好ましく用いられる。
【0054】
図6の形態において、分光素子50は、分離波長の異なる複数の波長選択反射膜により構成される。例えば、波長選択反射膜53で波長λ
2よりも短波長の光を波長選択的に反射することにより、反射光133を第三の光電変換素子30へ入射させる。波長選択反射膜53を透過した光は、波長選択反射膜54に入射する。ここでは、波長λ
1よりも長波長の光が第二方向へ透過して、透過光123が第二の光電変換素子に入射する。波長λ
1よりも短波長の光は、波長選択反射膜54で第一方向1に反射され、反射光113が第一の光電変換素子に入射する。この形態において、波長λ
2よりも短波長の紫外光は、波長選択反射膜53により第三方向に反射されるため、第一の光電変換素子10には、波長λ
2よりも短波長の紫外光がほとんど入射しない。そのため、短波長光の利用効率を高めて複合太陽電池の変換効率を向上できるとともに、第一の光電変換素子10の光劣化を抑制できる。
【0055】
図6の形態では、光入射側から、第三の光電変換素子30、第一の光電変換素子10、および第二の光電変換素子が順に配置されている。各光電変換素子の配置順は、この形態に限定されないが、バンドギャップが大きい光電変換層を光入射側に配置する方が、波長選択反射膜の光吸収によるロスが少ないため、変換効率が高められる傾向がある。
【0056】
図5および
図6では、分光素子として、波長選択反射膜を用いる例を図示したが、他の光学素子(プリズムやミラー等)を用いて、第一の光電変換素子へ入射する紫外光の量を低減することもできる。波長選択反射膜以外の光学素子を用いて、紫外光が第二の光電変換素子や第三の光電変換素子に入射するように、分光素子を構成することもできる。また、波長選択反射膜を用いる場合でも、波長選択反射膜の配置や、光電変換素子の配置は、図示した形態に限定されない。分光素子の波長選択性や光の入射角等に応じて、種々の構成を採用することができる。
【0057】
本発明の複合太陽電池は、実用に際してモジュール化されることが好ましい。モジュール化は、適宜の方法により行われる。例えば、各光電変換素子の電極に引出し線を接続した後、光電変換素子を封止することにより、モジュール化が行われ、太陽電池モジュールが得られる。本発明の複合太陽電池は、分光素子による光の反射や屈折を利用するため、全ての光学素子を平面的に配置することが困難である。そのため、
図7に示すように、光電変換素子10,20および分光素子50を、適宜の筐体60内に封かんすることが好ましい。
【0058】
光電変換素子および分光素子を筐体内に封かんする場合、筐体の内部に雨水等が侵入しないように筐体の封止を行えば、必ずしも全ての光電変換素子を個別に封止する必要はない。しかしながら、ペロブスカイト結晶材料は、水分等による劣化が生じ易いため、第一の光電変換素子として用いられるペロブスカイト型光電変換素子は、第二の光電変換素子等に比べて、より厳重に封止が行われることが好ましい。すなわち、光電変換素子および分光素子が筐体内に封かんされるか否かに関わらず、少なくとも第一の光電変換素子は、封止剤により封止されていることが好ましい。第一の光電変換素子の封止方法は特に限定されないが、一般的な有機EL素子の封止と同様、水分の侵入が可及的に抑制された封止方法が好ましく採用される。第一の光電変換素子の封止に用いられる封止剤としては、第二の光電変換素子の封止や、筐体の封止に用いられる封止剤よりも、水分透過率の小さいものが好ましく用いられる。
【0059】
本発明の複合太陽電池を、集光素子と組み合わせることにより、集光太陽電池が得られる。
図7は、集光太陽電池の構成例を示す模式図である。集光素子70は、各光電変換素子よりも大面積であり、太陽光150は、集光素子70により集光され、複合太陽電池の分光素子に入射される。この構成では、光電変換素子の面積が小さい場合でも、多くの太陽光を光電変換に利用することができる。集光素子70としては、レンズ、ミラー、あるいはレンズとミラーの組み合わせ等、一般的な集光太陽電池に用いられる集光素子を利用できる。
【0060】
集光太陽電池では、小面積の光電変換素子に、大量の太陽光が照射されるため、素子の温度が上昇しやすくなる。本発明においては、分光素子を用いることにより、第一の光電変換素子(ペロブスカイト型光電変換素子)に優先的に入射される光の波長範囲が限定されている。そのため、集光太陽電池においても、ペロブスカイト型光電変換素子の温度上昇が抑制され、信頼性が高められる。
【0061】
本発明の集光太陽電池は、集光素子70と分光素子50との間に、光平行化素子90を有することが好ましい。光平行化素子は、集光素子70から入射した光155を、平行光として分光素子50側へ射出するものであれば特に限定されず、各種のレンズやミラー、あるいはその組み合わせ等を用いることができる。具体例としては、コリメータレンズが挙げられる。なお、光平行化素子による平行化は、精密光学機器や画像表示装置で必要とされるような、厳密なものでなくともよい。
【0062】
太陽光150は平行光であるが、集光素子70により集光された光155は非平行光となっている。本発明の複合太陽電池は、分光素子50を用いて、波長選択的に光の進行方向を変化させ、各光電変換素子に優先的に入射される光の波長範囲を制御している。分光素子50に照射される光が、一定方向の平行光であれば、分光素子から射出される光の進行方向の制御が容易となる。そのため、設計通りの波長範囲の光を、所定の光電変換素子に優先的に入射させることができ、高変換特性を維持できる。
【0063】
本発明の複合太陽電池は、適宜の制御システムを組み合わせることにより、太陽の追尾を可能とすることもできる。太陽を追尾できる太陽光発電システムは、太陽光の照射方向に応じて、光の利用効率が最大となるように、構成される。例えば、複合太陽電池の分光素子の位置や配置角度等を可変とすれば、太陽光の照射方向の変化(季節や時刻の変化)に応じて、入射角θを変化させ、より多くの短波長光を第一の光電変換素子に入射させ、より多くの長波長光を第二の光電変換素子に入射させることができる。また、集光太陽電池では、集光素子70の位置や配置角度を可変として、より多くの太陽光が複合太陽電池へ入射するようにシステムを構成できる。また、太陽光の照射方向に応じて、光平行化素子の向きを変化させ、分光素子への光の入射角θが一定となるようにシステムを構成してもよい。また、システム全体が太陽を追尾するようにすれば、複合太陽電池への太陽光の入射角度や強度を最適化することが可能となる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0065】
本実施例では、第一の光電変換素子として、透明基板上に、TiO
2コンパクト層、メソポーラスTiO
2上にペロブスカイト型結晶CH
3NH
3PbI
3が形成された光吸収層、正孔輸送層、およびAu電極がこの順に積層されたペロブスカイト光電変換素子(以下「ペロブスカイトセル」と記載する)を用いた。このペロブスカイトセルの分光感度特性の長波長端は、800nmであった。
【0066】
第二の光電変換素子として、テクスチャ構造を有するn型単結晶シリコン基板の光入射面にi型非晶質シリコン薄膜、p型非晶質シリコン薄膜、およびITO透明電極層をこの順に備え、n型単結晶シリコン基板の裏面側に、i型非晶質シリコン薄膜、n型非晶質シリコン薄膜、およびITO透明電極層をこの順に有する、ヘテロ接合型の結晶シリコン系光電変換素子(以下「結晶シリコンセル」と記載する)を用いた。
【0067】
ソーラーシミュレータを用いて、これらの各光電変換素子に1sun(AM1.5G、100mW/cm
2)の光を照射して、変換特性を測定した結果を、表1に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
[実験例1]
第一の光電変換素子10として、上記のペロブスカイトセルを用い、第二の光電変換素子20として上記の結晶シリコンセルを用い、
図1に示す構成の複合太陽電池を作製した。波長選択反射膜51として、長波長側の分離波長λ
1が700nm(実験例1−1)、640nm(実験例1−2)、600nm(実験例1−3)、550nm(実験例1−4)のものを用いた。波長選択反射膜としては、ガラス基板上に高屈折率材料と低屈折率材料とを交互に積層した多層蒸着膜を用いた。
【0070】
なお、本実験例では、第一の光電変換素子の受光面と第二の光電変換素子の受光面のなす角を90°とし、これらの光電変換素子の受光面と、波長選択反射膜52の膜面とのなす角が45°となるように設定した。変換特性の測定に際しては、波長選択反射膜52への光の入射角θを45°とした。ペロブスカイトセルおよび結晶シリコンセルのそれぞれの変換特性、および両者の変換効率(Eff)の合計を、表2に示す。なお、波長選択反射膜の分離波長λ
1およびλ
2は、入射角θ=45°の入射光の、反射率と透過率の大小関係が入れ替わる波長であり、波長λ
2〜λ
1の範囲では、透過率よりも反射率の方が大きく(すなわち、ペロブスカイトセル側へ光が反射され)、波長λ
2よりも短波長領域、および波長λ
1よりも長波長領域では、反射率よりも透過率の方が大きい(すなわち、結晶シリコンセル側へ光が透過される)。
【0071】
【表2】
【0072】
実験例1−1では、分離波長λ
1がペロブスカイトセルの分光感度特性の長波長端よりも100nm短波長(0.22eV高エネルギー)に設定されたが、ペロブスカイトセルの変換効率と結晶シリコンセルの変換効率の合計は、結晶シリコンセル単独の場合と略同等であった。これに対して、分離波長λ
1が、ペロブスカイトセルの分光感度特性の長波長端よりも0.3eV以上高エネルギーである波長選択反射膜が用いられた実験例1−2〜1−4では、変換効率の合計が、結晶シリコンセル単独の場合に比べて大幅に向上していた。これらの結果から、分光手段による分離波長(ペロブスカイトセル(第一の光電変換素子)に優先的に入射させる光の波長範囲)を調整することにより、高効率の複合太陽電池が得られることが示された。
【0073】
[参考例1:ペロブスカイトセルの熱量の試算]
以下では、波長選択反射膜等を用いてペロブスカイトセルに入射する光の波長範囲を限定した場合に、ペロブスカイトセルで生じる熱量を試算した。
図9は、AM1.5Gの太陽光スペクトルと、ペロブスカイトセルの反射率スペクトルである。反射率は、ペロブスカイトセルの光入射面側から測定光を入射させて、分光光度計により測定した。
【0074】
ペロブスカイトセルに1sunの全光(波長範囲:280nm〜2500nm)を入射した場合(参考例1−1:上記表1のペロブスカイトセルの測定と同じ)、および波長カットフィルタを用いて、長波長側の光を遮蔽した場合(参考例1−2〜6)のそれぞれについて、ペロブスカイトセルの変換効率を測定した。
【0075】
照射エネルギーは、照射波長範囲における照射光エネルギーであり、AM1.5Gの太陽光スペクトルに基づいて算出した。ペロブスカイトセルによる発電量は、変換効率と、全光の照射エネルギー(99.26mW/cm
2)の積から算出した。実効変換効率は、発電量と照射エネルギーの比から算出した。反射光のエネルギーは、各波長におけるAM1.5Gの太陽光の強度(光エネルギー)と反射率の積から算出した。
【0076】
ペロブスカイトセルに照射された波長範囲の光の全エネルギーから、ペロブスカイトセルにより電気に変換されたエネルギー(発電量)と、反射によって散逸されたエネルギー(反射光エネルギー)を除いたものが、熱エネルギーとしてペロブスカイトセルに蓄積されると仮定して、以下の式により、ペロブスカイトセルに蓄積される熱エネルギーを算出した。
(熱エネルギー)=(照射エネルギー)−(発電量)−(反射光エネルギー)
算出結果を表3に示す。
【0077】
【表3】
【0078】
表3に示すように、1sunの全光をペロブスカイトセルに照射した場合、照射光エネルギーの約71%が、熱エネルギーとしてペロブスカイトセルに蓄積されることがわかる(参考例1−1)。これに対して、800nmよりも長波長の光をペロブスカイトセルに入射させないようにすれば、蓄積される熱エネルギーは44%程度まで低減され(参考例1−6)、550nmよりも長波長の光を入射させないようにすれば、熱エネルギーは20%未満に低減される(参考例1−2)。また、ペロブスカイトセルに入射する光の波長範囲を制限することにより、実効変換効率(実際に照射された光エネルギーに対する発電量の比)が高められることが分かる。
【0079】
上記の結果から、ペロブスカイトセルに入射させる光の波長範囲を制限することにより、光の利用効率が高められるとともに、ペロブスカイトセルに蓄積される熱量が低減し、セルの温度上昇による劣化(熱劣化)を抑制できることが分かる。ペロブスカイトセルの分光感度の長波長端(800nm)よりも短波長である550nm程度までの光を入射させるように構成された実験例1−4(表1)の複合太陽電池は、変換効率が高いことに加えて、全光を入射させる場合の1/4程度に熱量が低減されるため、ペロブスカイトセルの熱劣化が抑制され、長期の信頼性を確保できると考えられる。
【0080】
[参考例2:ペロブスカイトセルへの紫外光の影響]
ペロブスカイトセルの表面に、波長λ
2よりも短波長の光を吸収するUVカットフィルタを配置し、ソーラーシミュレータを用いて、1sunの光を1時間照射した。照射前後での変換特性の変化を表4に示す。表4の数値は、光照射前の数値を1とする相対値で表されている。参考例2−4は、UVカットフィルタを用いずに、同様の試験を行った結果を示している。
【0081】
【表4】
【0082】
表4の結果から、光照射により、ペロブスカイトセルの変換特性(特にJsc)が低下することが確認され、特に、波長320nm以下の紫外光による特性低下が大きいことが分かる。これは、紫外光による化合物の光劣化や、光電変換に寄与しない熱による影響等に起因すると考えられる。
【0083】
[実験例2]
実験例2では、長波長側の分離波長λ
1が550nmであり、短波長側の分離波長λ
2が異なる2種類の波長選択反射膜を用いて、実験例1と同様に複合太陽電池を作製した。作製した複合太陽電池の変換特性を、ソーラーシミュレータで測定後、上記参考例2と同様に、1sunの光を1時間照射し、照射後の変換特性を測定した。結果を表5に示す。なお、光照射後の変換特性の下段は、光照射前の数値を1とする相対値である。
【0084】
【表5】
【0085】
実験例2−1では、波長300nm〜320nmの光の大半が結晶シリコンセルに入射されるため、実験例2−2に比べて光照射前後での特性低下が小さい。また、初期変換効率および光照射後の変換効率のいずれにおいても、実験例2−1の方が高い値を示した。この結果から、波長300〜320nmの光を、結晶シリコンセルに優先的に入射させることにより、初期変換特性に優れ、かつ光照射後の変換特性(信頼性)にも優れる複合太陽電池が得られることが分かる。