【実施例】
【0097】
以下、実験例により本発明を説明するが、本発明は以下の実験例に限定されるものではない。
【0098】
[実験例1:経鼻不活化全粒子インフルエンザワクチンによりヒトに誘導される抗体可変領域遺伝子の単離及びそれを利用したモノクローナルIgG1抗体の作製]
(ワクチン接種と末梢血リンパ球の回収)
高病原性トリインフルエンザウイルスA/H5N1の不活化全粒子ワクチンを健康成人へ3週間隔で2回経鼻接種(片鼻250μL、計500μL)した。ワクチンとしては、45μgのヘマグルチニン(HA)を含有する不活化全粒子ワクチンを使用した。2回目のワクチン接種から7日後に末梢血を回収し、血球分離溶液Lymphoprep(商標)(AXIS−SHIELD社)を用いて末梢血リンパ球を回収した。
【0099】
(抗体産生形質細胞の単離及びcDNA調製)
経鼻ワクチン接種により末梢血中に誘導された抗体産生形質細胞の単離は、FACS Aria (BD Bioscience社)を用いて実施した。細胞表面マーカーCD2
−、CD3
−、CD4
−、CD10
−、CD20
−、IgD
−、CD19
low、CD27
highかつCD38
highの細胞集団を抗体産生形質細胞とし、単一細胞として分離・回収した。単一抗体産生形質細胞は、各ウェルに45ngのキャリアRNAを含む滅菌水9μLを分注した96穴プレートに回収した。cDNA調製は、T. Tillerら(J Immunol Methods, 329, 112-24, 2008)の報告に則り実施した。具体的には、細胞を回収した各ウェルにSuperscript III RT(ライフテクノロジーズ社)、Randam Hexamer(ライフテクノロジーズ社)、RNaseOUT(ライフテクノロジーズ社)、dNTP mix(キアゲン社)を含む6μLの混合液を添加し、50℃50分、85℃5分の反応を行うことでcDNAを調製した。
【0100】
(抗体アイソタイプの決定)
調製したcDNAを2μL用いて、各ウェルに単離された抗体重鎖のアイソタイプをReal−time PCRにより決定した。IgG、IgAおよびIgMの各定常領域に対してTaqManプローブとプライマーを準備した。IgG、IgAおよびIgMに対するTaqManプローブは、それぞれFAM、HEXおよびCy5による標識とした。QuantiTect Multiplex PCR NoROX Master Mix(キアゲン社)を使用し、LightCycler480(ロシュ社)を用いて解析を行った。
【0101】
(抗体可変領域遺伝子の増幅及びシークエンス)
抗体可変領域遺伝子の増幅は、T. Tillerら(J Immunol Methods, 329, 112-24, 2008)の報告に則り実施した。具体的には、調製したcDNA1μLに対して11.5μLのHotStarTaq DNA polymerase(キアゲン社)、dNTP mix及び各抗体可変領域遺伝子を増幅するプライマーセットの混合液を添加し、1回目のPCR反応を行った。更にこのPCR産物1μLに含まれる各遺伝子に対して更に内側に設計したプライマーセットを用いて2回目のPCR反応を行った。いずれのPCR反応においても、95℃15分、(94℃30秒、58℃20秒、72℃60秒)×43サイクル、72℃2分の条件で増幅を行った。また、PCR産物の塩基配列解析(シークエンス)を常法により行った。
【0102】
(抗体可変領域遺伝子の発現ベクターへのクローニング)
抗体可変領域遺伝子のPCRはPrimeSTAR(登録商標)MAX DNA Polymerase(TaKaRa社)を使用して、説明書にしたがって実施した。鋳型として上述の1回目のPCR産物を使用し、プライマーとしては、上述の2回目のPCR産物のシークエンスの結果に基づいて、増幅する遺伝子座に適切なペアを選択した。PCR条件は98℃10秒、55℃5秒、72℃10秒で25サイクルとした。PCR産物の精製はMonoFas(登録商標)DNA精製キットI(ジーエルサイエンス社)を使用して、説明書にしたがって実施し、30μLのBuffer Cに溶出した。
【0103】
精製されたPCR産物は全量30μLでAgeI−HF(全ての鎖)及びSalI−HF(重鎖)、BsiWI(κ鎖)又はXhoI(λ鎖)(以上、NEB社)を用いて、適切な条件で制限酵素処理した。各鎖に応じた発現ベクターγ1 HC(重鎖)、κ LC(κ鎖)、λ LC(λ鎖)も同様の酵素の組み合わせで制限酵素処理した。制限酵素産物の精製はMonoFas(登録商標)DNA精製キットI(ジーエルサイエンス社)を使用して、説明書にしたがって実施し、20μLのBuffer Cに溶出した。
【0104】
制限酵素処理したDNAのライゲーションはDNA Ligation Kit <Mighty Mix>(TaKaRa社)を使用して、説明書にしたがって全量10μLで実施した。ライゲーション産物は、Competent Quick DH5α(TOYOBO社)へ42℃の加温により10μL形質転換した。プラスミド抽出は、PureYield(商標)Plasmid Miniprep System(プロメガ社)を使用して、説明書にしたがって実施した。
【0105】
続いて、1遺伝子につき4クローンをシークエンスした。抽出したプラスミドのシークエンス反応はBigDye(登録商標)Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(ライフテクノロジーズ社)を使用して、説明書にしたがって実施した。反応産物はBigDye XTerminator(商標)Kit(ライフテクノロジーズ社)を用いて、説明書にしたがって精製し、Applied Biosystems 3130 Genetic Analyzer(ライフテクノロジーズ社)でシークエンスした。読まれた配列と2回目のPCR産物の配列のアラインメント解析を実施し、最も共通配列を保持するサンプルを選択した。
【0106】
(遺伝子組換えモノクローナルIgG1抗体の発現)
遺伝子組換え抗体の作製にはExpi293(商標)Expression System(ライフテクノロジーズ社)を説明書にしたがって用いた。30mLの系を以下に例示する。
【0107】
継代し維持しているExpi293F細胞の密度が3.0×10
6個/mL以上であり、生存率95%以上であり、細胞が凝集していないことを確認した。37℃に保温されたExpi293 Expression mediumを用いて、細胞数を2.9×10
6個/mLに調製した。使い捨てのベントフィルターキャップ付三角フラスコに、調製した細胞懸濁液を25.5mL移し、37℃、8%CO
2に調整した細胞培養用インキュベーターに戻し、125rpmで振盪培養した。1.5mLのOpti−MEM I培地にプラスミドDNA30μg(IgG重鎖及び軽鎖各15μg)を添加した。別に用意した1.5mLのOpti−MEM I培地に80μLのExpiFectamine 293 Reagentを添加した。5分間、室温で静置した後、DNA溶液をExpiFectamine溶液へ全量加え、室温で20〜30分静置した。細胞へトランスフェクションミックスを添加した後、37℃、8%CO
2に調整した細胞培養用インキュベーターに戻し、125rpmで振盪培養した。トランスフェクションの16〜18時間後、150μLのExpiFectamine 293 Transfection Enhancer1及び1.5mLのExpiFectamine 293 Transfection Enhancer2を加えた。細胞は37℃、8%CO
2に調整した細胞培養用インキュベーターに戻し、125rpmで振盪培養した。トランスフェクション後6日で上清を回収した。
【0108】
(遺伝子組換えモノクローナルIgG1抗体の精製)
細胞のデブリを1000×g、10分間の遠心分離により取り除いた後、Millex−HV Filter Unit (ミリポア社)で上清の濾過を行った。遺伝子組換え抗体の精製はCaptureSelect(商標)human Fc affinity matrix(ライフテクノロジーズ社)を用いて、説明書にしたがって実施した。具体的には、カラムは10カラム容量のリン酸緩衝液(PBS)で平衡化し、サンプルをロードし、10カラム容量のPBSで洗浄し、5カラム容量の0.1M Glycine−HCl(pH3.0)により抗体を溶出し、1M Tris−HCl(pH9.0)で溶出液を中和した。カラムは10カラム容量のPBSで再平衡化した。抗体の濃度はNanoDrop(Thermo Scientific社)で測定した。抗体の濃縮はAmicon(登録商標)Ultra Centrifugal Filter Devices(ミリポア社)を用いて、説明書にしたがって実施した。Zeba Desalt Spin Columns(Thermo Scientific社)で、説明書にしたがってPB(pH7.4)にバッファー交換した。バッファー交換後の濃度はNanoDropで測定した。
【0109】
(遺伝子組換えモノクローナルIgG1抗体の確認)
精製した抗体の確認はNuPAGE(登録商標)Bis−Tris Gel(ライフテクノロジーズ社)を用いて、説明書にしたがってSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)を実施した。
図1はSDS−PAGEの結果を示す写真である。抗体クローンG2、H10、D11、F9、F11、H5及びC1が、IgG1型化されたことが確認された。抗体クローンG2、H10、D11、F9、F11、H5及びC1が、IgG1型化されたことが確認された。クローンによって発現量にばらつきが見られた。40mL培養系において、クローンB12は約40mg、クローンD11は約4mg、クローンF9は約1.5mg、クローンF11は約2.1mg、クローンH5は約1mgの抗体を作製することができた。
【0110】
[実験例2:性状解析されたモノクローナルIgG抗体と同一の可変領域を保持するモノクローナルIgA抗体の作製]
IgA型遺伝子組換え抗体を以下の方法により作製した。実験例1で作製したIgG1抗体に限らず、配列が既知の抗体は全て以下の方法でIgA型化することができる。
【0111】
(α1 HC発現ベクターの作製)
IgA1抗体定常領域遺伝子を含む発現ベクターα1 HCを作製した。IgA1抗体定常領域遺伝子のPCRは、PrimeSTAR(登録商標)MAX DNA Polymerase(TaKaRa社)を使用して、説明書にしたがって実施した。
【0112】
具体的には、鋳型としてpFUSE−CHIg−hA1(InvivoGen社)を用い、IgA1抗体定常領域遺伝子を増幅した。PCR条件は、98℃10秒、55℃5秒、72℃30秒で30サイクルとした。PCR産物の精製はMonoFas(登録商標)DNA精製キットI(ジーエルサイエンス社)を使用して、説明書にしたがって実施し、30μLのBuffer Cに溶出した。精製したPCR産物及びγ1 HCプラスミドを、全量30μLでXhoI及びHindIII−HF(以上、NEB社)を用いて37℃で制限酵素処理した。制限酵素処理産物の精製はMonoFas(登録商標)DNA精製キットI(ジーエルサイエンス社)を使用して、説明書にしたがって実施し、20μLのBuffer Cに溶出した。制限酵素処理したDNAのライゲーションはDNA Ligation Kit <Mighty Mix>(TaKaRa社)を使用して、説明書にしたがって全量10μLで実施した。ライゲーション産物は、Competent Quick DH5αへ42℃の加温により10μL形質転換した。
【0113】
プラスミド抽出は、PureYield(商標)Plasmid Miniprep System(プロメガ社)を使用して、説明書にしたがって実施した。抽出したプラスミドのシークエンス反応はBigDye(登録商標)Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(ライフテクノロジーズ社)を使用して、説明書にしたがって実施した。反応産物はBigDye XTerminator(商標)Kit(ライフテクノロジーズ社)を用いて、説明書にしたがって精製され、Applied Biosystems 3130 Genetic Analyzer(ライフテクノロジーズ社)でシークエンスした。
【0114】
(抗体可変領域遺伝子のα1 HC発現ベクターへのPCRクローニング)
抗体可変領域遺伝子のPCRはPrimeSTAR(登録商標)MAX DNA Polymerase(TaKaRa社)を使用して、説明書にしたがって実施した。γ1 HC発現ベクターへクローニングした抗体遺伝子を鋳型として、リバースプライマーをα1 HC発現ベクター用のものに変更し、PCR条件は98℃10秒、55℃5秒、72℃5秒で25サイクルとした。
【0115】
PCR産物の精製はMonoFas(登録商標)DNA精製キットI(ジーエルサイエンス社)を使用して、説明書にしたがって実施し、30μLのBuffer Cに溶出した。精製されたPCR産物及びα1 HC発現ベクターは全量30μLでAgeI−HF及びNheI−HF(以上、NEB社)を用いて、適切な条件で制限酵素処理した。制限酵素産物の精製はMonoFas(登録商標)DNA精製キットI(ジーエルサイエンス社)を使用して、説明書にしたがって実施し、20μLのBuffer Cに溶出した。制限酵素処理したDNAのライゲーションはDNA Ligation Kit <Mighty Mix>(TaKaRa社)を使用して、説明書にしたがって全量10μLで実施した。ライゲーション産物は、Competent Quick DH5α(TOYOBO社)へ42℃の加温により10μL形質転換した。
【0116】
プラスミド抽出は、PureYield(商標)Plasmid Miniprep System(プロメガ社)を使用して、説明書にしたがって実施した。抽出したプラスミドのシークエンス反応はBigDye(登録商標)Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(ライフテクノロジーズ社)を使用して、説明書にしたがって実施した。反応産物はBigDye XTerminator(商標)Kit(ライフテクノロジーズ社)を用いて、説明書にしたがって精製し、Applied Biosystems 3130 Genetic Analyzer(ライフテクノロジーズ社)でシークエンスした。シークエンスの結果、γ1 HC発現ベクターへクローニングした抗体遺伝子と同一であることが確かめられた。
【0117】
(遺伝子組換えモノクローナルIgA1抗体の発現)
遺伝子組換え抗体の作製にはExpi293(商標)Expression System(ライフテクノロジーズ社)を説明書にしたがって用いた。30mLの系を以下に例示する。
【0118】
継代し維持しているExpi293F細胞の密度が3.0×10
6個/mL以上であり、生存率95%以上であり、細胞が凝集していないことを確認した。37℃に保温されたExpi293 Expression mediumを用いて、細胞数を2.9×10
6個/mLに調製した。使い捨てのベントフィルターキャップ付三角フラスコに、調製した細胞懸濁液を25.5mL移し、37℃、8%CO
2に調整した細胞培養用インキュベーターに戻し、125rpmで振盪培養した。1.5mLのOpti−MEM I培地にプラスミドDNA30μg(IgA1重鎖及び軽鎖各15μg)を添加した。別に用意した1.5mLのOpti−MEM I培地に80μLのExpiFectamine 293 Reagentを添加した。5分間、室温で静置した後、DNA溶液をExpiFectamine溶液へ全量加え、室温で20〜30分静置した。細胞へトランスフェクションミックスを添加した後、37℃、8%CO
2に調整した細胞培養用インキュベーターに戻し、125rpmで振盪培養した。トランスフェクションの16〜18時間後、150μLのExpiFectamine 293 Transfection Enhancer1及び1.5mLのExpiFectamine 293 Transfection Enhancer2を加えた。細胞は37℃、8%CO
2に調整した細胞培養用インキュベーターに戻し、125rpmで振盪培養した。トランスフェクション後6日で上清を回収した。
【0119】
(遺伝子組換えモノクローナルIgA1抗体の精製)
細胞のデブリを1000×g、10分間の遠心分離により取り除いた後、Millex−HV Filter Unit (ミリポア社)で上清の濾過を行った。遺伝子組換え抗体の精製はCaptureSelect(商標)human IgA affinity matrix(ライフテクノロジーズ社)を用いて、説明書にしたがって実施した。具体的には、カラムは10カラム容量のリン酸緩衝液(PBS)で平衡化し、サンプルをロードし、10カラム容量のPBSで洗浄し、5カラム容量の0.1M Glycine−HCl(pH3.0)により抗体を溶出し、1M Tris−HCl(pH9.0)で溶出液を中和した。カラムは10カラム容量のPBSで再平衡化した。抗体の濃度はNanoDrop(Thermo Scientific社)で測定した。抗体の濃縮はAmicon(登録商標)Ultra Centrifugal Filter Devices(ミリポア社)を用いて、説明書にしたがって実施した。Zeba Desalt Spin Columns(Thermo Scientific社)で、説明書にしたがってPB(pH7.4)にバッファー交換した。バッファー交換後の濃度はNanoDropで測定した。
【0120】
(遺伝子組換えモノクローナルIgA1抗体の確認)
精製した抗体の確認はNuPAGE(登録商標)Bis−Tris Gel(ライフテクノロジーズ社)を用いて、説明書にしたがってSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)を実施した。
図2はSDS−PAGEの結果を示す写真である。抗体クローンB12、D11、F9、F11及びH5が、IgA1型化されたことが確認された。
【0121】
[実験例3:モノクローナルIgA抗体の二量体作製]
実験例2において作製したIgA1抗体発現コンストラクトを用いて、二量体IgA1型抗体を作製した。
【0122】
(抗体J鎖のクローニング)
抗体J鎖は人工遺伝子合成サービス(オペロン バイオテクノロジー)を利用して、J鎖(GenBank accession no.NM_144646)のコード領域(CDS)の5’側にXhoI切断サイト及びKozak配列を付加し、3’側にNotI切断サイトを付加した人工遺伝子(配列番号24)を合成した。J鎖遺伝子をXhoI及びNotI−HF(以上、NEB社)を用いて、適切な条件で制限酵素処理した。同一の制限酵素で処理したpCXSNベクター(CMVプロモーターとSV40 polyAから構成される哺乳類細胞発現用ベクター)にクロ−ニングし、抗体J鎖の発現プラスミドであるpCXSN−hJCを得た。
【0123】
(二量体IgA1型抗体の発現)
二量体IgA1型抗体の作製にはExpi293(商標)Expression System(ライフテクノロジーズ社)を説明書にしたがって用いた。30mLの系を以下に例示する。
【0124】
継代し維持しているExpi293F細胞の密度が3.0×10
6個/mL以上であり、生存率95%以上であり、細胞が凝集していないことを確認した。37℃に保温されたExpi293 Expression mediumを用いて、細胞数を2.9×10
6個/mLに調製した。使い捨てのベントフィルターキャップ付三角フラスコに、調製した細胞懸濁液を25.5mL移し、37℃、8%CO
2に調整した細胞培養用インキュベーターに戻し、125rpmで振盪培養した。1.5mLのOpti−MEM I培地にプラスミドDNA(J鎖発現群:IgA1重鎖及び軽鎖各12μg、J鎖6μg;J鎖非発現群:IgA1重鎖及び軽鎖各15μg)を添加した。
【0125】
別に用意した1.5mLのOpti−MEM I培地に80μLのExpiFectamine 293 Reagentを添加した。5分間、室温で静置した後、DNA溶液をExpiFectamine溶液へ全量加え、室温で20〜30分静置した。細胞へトランスフェクションミックスを添加した後、37℃、8%CO
2に調整した細胞培養用インキュベーターに戻し、125rpmで振盪培養した。トランスフェクションの16〜18時間後、150μLのExpiFectamine 293 Transfection Enhancer1及び1.5mLのExpiFectamine 293 Transfection Enhancer2を加えた。細胞は37℃、8%CO
2に調整した細胞培養用インキュベーターに戻し、125rpmで振盪培養した。トランスフェクション後6日で上清を回収した。
【0126】
(発現させたIgA1抗体の精製)
細胞のデブリを1000×g、10分間の遠心分離により取り除いた後、Millex−HV Filter Unit (ミリポア社)で上清の濾過を行った。遺伝子組換え抗体の精製はCaptureSelect(商標)human IgA affinity matrix(ライフテクノロジーズ社)を用いて、説明書にしたがって実施した。具体的には、カラムは10カラム容量のリン酸緩衝液(PBS)で平衡化し、サンプルをロードし、10カラム容量のPBSで洗浄し、5カラム容量の0.1M Glycine−HCl(pH3.0)により抗体を溶出し、1M Tris−HCl(pH9.0)で溶出液を中和した。カラムは10カラム容量のPBSで再平衡化した。抗体の濃度はNanoDrop(Thermo Scientific社)で測定した。抗体の濃縮はAmicon(登録商標)Ultra Centrifugal Filter Devices(ミリポア社)を用いて、説明書にしたがって実施した。Zeba Desalt Spin Columns(Thermo Scientific社)で、説明書にしたがってPB(pH7.4)にバッファー交換した。バッファー交換後の濃度はNanoDropで測定した。
【0127】
(発現させたIgA1抗体の確認)
精製した抗体の確認は、未変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(BN−PAGE、3−13%、Invitrogen社)により行った。
図3はBN−PAGEの結果を示す写真である。J鎖非発現群(−J)では、単量体IgA型遺伝子組換え抗体のバンドが確認されたのに対し、J鎖発現群(+J)では、単量体のバンドに加えて、二量体IgA型遺伝子組換え抗体のバンドが確認された。
【0128】
[実験例4:モノクローナルIgA抗体の多量体作製]
実験例2において作製したIgA1抗体発現コンストラクトを用いて、多量体IgA1型抗体を作製した。
【0129】
(分泌成分(Secretory component、SC)のクローニング)
GeneArt(登録商標)Strings(商標)DNA Fragments(ライフテクノロジーズ社)を利用して、polymeric immunoglobulin receptor(GenBank accession no. NM_002644)の185〜2005残基の5’側にXhoI切断サイト及びKozak配列を付加し、3’側にHindIII切断サイト、thrombin切断サイト、ヒスチジンタグ及びNotI切断サイトを付加した人工DNAフラグメントを、中央付近で重複するように5’側フラグメントと3’側フラグメントの2本合成した。合成した2本のDNAフラグメントを鋳型に用いてPrimeSTAR(登録商標)MAX DNA Polymerase(TaKaRa社)を使用したoverlap PCRを行い、分泌成分(SC)をコードする遺伝子断片を増幅し(配列番号25)、XhoI及びNotIで制限酵素処理し、pCXSNベクターにクローニングし、分泌成分の発現プラスミドであるpCXSN−hSC−HisTagを得た。また、pCXSN−hSC−HisTagを鋳型としてインバースPCRを行い、3’側に付与したHindIII切断サイト、thrombin切断サイト、ヒスチジンタグを除去した分泌成分のみを発現するpCXSN−hSCを作製した。分泌成分としてどちらのプラスミドを用いても多量体抗体を作製することができた。
【0130】
(多量体IgA1型抗体の発現)
多量体IgA1型抗体の作製にはExpi293(商標)Expression System(ライフテクノロジーズ社)を説明書にしたがって用いた。30mLの系を以下に例示する。
【0131】
継代し維持しているExpi293F細胞の密度が3.0×10
6個/mL以上であり、生存率95%以上であり、細胞が凝集していないことを確認した。37℃に保温されたExpi293 Expression mediumを用いて、細胞数を2.9×10
6個/mLに調製した。使い捨てのベントフィルターキャップ付三角フラスコに、調製した細胞懸濁液を25.5mL移し、37℃、8%CO
2に調整した細胞培養用インキュベーターに戻し、125rpmで振盪培養した。1.5mLのOpti−MEM I培地にプラスミドDNA(IgA1重鎖及び軽鎖各12μg、J鎖及び分泌成分各6μg)を添加した。
【0132】
別に用意した1.5mLのOpti−MEM I培地に80μLのExpiFectamine 293 Reagentを添加した。5分間、室温で静置した後、DNA溶液をExpiFectamine溶液へ全量加え、室温で20〜30分静置した。細胞へトランスフェクションミックスを添加した後、37℃、8%CO
2に調整した細胞培養用インキュベーターに戻し、125rpmで振盪培養した。トランスフェクションの16〜18時間後、150μLのExpiFectamine 293 Transfection Enhancer1及び1.5mLのExpiFectamine 293 Transfection Enhancer2を加えた。細胞は37℃、8%CO
2に調整した細胞培養用インキュベーターに戻し、125rpmで振盪培養した。トランスフェクション後6日で上清を回収した。
【0133】
(発現させたIgA1抗体の精製)
細胞のデブリを1000×g、10分間の遠心分離により取り除いた後、Millex−HV Filter Unit (ミリポア社)で上清の濾過を行った。遺伝子組換え抗体の精製はCaptureSelect(商標)human IgA affinity matrix(ライフテクノロジーズ社)を用いて、説明書にしたがって実施した。具体的には、カラムは10カラム容量のリン酸緩衝液(PBS)で平衡化し、サンプルをロードし、10カラム容量のPBSで洗浄し、5カラム容量の0.1M Glycine−HCl(pH3.0)により抗体を溶出し、1M Tris−HCl(pH9.0)で溶出液を中和した。カラムは10カラム容量のPBSで再平衡化した。抗体の濃度はNanoDrop(Thermo Scientific社)で測定した。抗体の濃縮はAmicon(登録商標)Ultra Centrifugal Filter Devices(ミリポア社)を用いて、説明書にしたがって実施した。Zeba Desalt Spin Columns(Thermo Scientific社)で、説明書にしたがってPB(pH7.4)にバッファー交換した。バッファー交換後の濃度はNanoDropで測定した。
【0134】
(多量体IgA1型抗体のサイズ分画)
濃縮した多量体IgA1型抗体を、AKTA explorer10(GEヘルスケア社)を用いて、ゲル濾過クロマトグラフィーにより分画した。カラムには、Superose6 10/300 GL (GEヘルスケア社)を用いた。DPBS(Dulbecco’s Phosphate Buffered Saline)を以下のプロトコールで流した。流速0.5mL/分、カラム平衡化1.5カラム容量、溶出0.5mL(計1.5カラム容量)。
【0135】
溶出したサンプルをフラクションごとに回収し、IgAを含むフラクションをAmicon(登録商標)Ultra Centrifugal Filter Devices(ミリポア社)を用いて濃縮した。Zeba Desalt Spin Columns(Thermo Scientific社)で、説明書にしたがってPB(pH7.4)にバッファー交換した。バッファー交換後の濃度はNanoDropで測定した。
【0136】
続いて、各フラクションに含まれる抗体を、非還元条件下のBlue native PAGE(BN−PAGE)により確認した。
図4は、ゲル濾過クロマトグラフィーのチャート及びフラクション19〜32に含まれる抗体のBN−PAGEの結果を示す写真である。発現させたIgA1型抗体には、四量体、二量体、単量体が含まれることが示された。この結果は、四量体IgA型遺伝子組換え抗体を作製した初めての結果である。
【0137】
[実験例5:インフルエンザウイルス中和活性の検討]
実験例1において、インフルエンザウイルスに対するヒトIgG1抗体を作製し、実験例2において、当該IgG1抗体と同一の可変領域を有するIgA1抗体を作製した。また、実験例3及び4において多量体IgA1型抗体を作製した。これらの抗体を用いて、インフルエンザウイルス中和活性を検討した。
【0138】
調製した各抗体の中和活性は、マイクロ中和試験による最小中和濃度測定により定量した。サンプルの2倍段階希釈系列を準備し、100 TCID
50(50%組織培養感染量の100倍量)のウイルス液と混合後、30分間37℃にてインキュベーションした。その後、この混合液をMDCK細胞(イヌ腎臓由来株化細胞)に添加して4日間培養を行い、顕微鏡下でインフルエンザウイルスによる細胞変性効果が確認できないサンプル最大希釈倍率でサンプルの濃度を割った値を最少中和濃度とした。最少中和濃度が低いほどウイルス中和活性が高いことを示す。
【0139】
(単量体遺伝子組換え抗体のインフルエンザウイルス中和活性)
抗体クローンG2、H10、D11、F9、F11、H5、B12及びC1の単量体IgG1型抗体及び単量体IgA1型抗体を用いて、インフルエンザウイルス中和活性を測定した。ウイルスにはA/H5N1株(clade 2.1)及びA/H1N1株を使用した。
【0140】
表1に結果を示す。最少中和濃度が低いほどウイルス中和活性が高いことを示す。クローンF11及びH5の抗体は、H5N1株及びH1N1株の双方に対して良好な中和活性を示すことが明らかとなった。
【0141】
【表1】
【0142】
(二量体IgA1型遺伝子組換え抗体のインフルエンザウイルス中和活性)
抗体クローンD11、F9、F11、H5及びB12の単量体IgA1型抗体及び二量体IgA1型抗体を用いて、上記と同様にしてインフルエンザウイルス中和活性を測定した。ウイルスにはA/H5N1株(clade 2.1)及びA/H1N1株を使用した。
【0143】
表2に結果を示す。最少中和濃度が低いほどウイルス中和活性が高いことを示す。抗体の可変領域の構造は同じであるにもかかわらず、単量体抗体よりも二量体抗体の方が、ウイルス中和活性が高い傾向が示された。
【0144】
【表2】
【0145】
(四量体IgA1型遺伝子組換え抗体のインフルエンザウイルス中和活性)
抗体クローンF9、F11及びH5の単量体IgA1型抗体、二量体IgA1型抗体及び四量体IgA1型抗体を用いて、上記と同様にしてインフルエンザウイルス中和活性を測定した。ウイルスにはA/H5N1株(clade 2.1)を使用した。表3に結果を示す。最少中和濃度が低いほどウイルス中和活性が高いことを示す。
【0146】
抗体の可変領域の構造は同じであるにもかかわらず、単量体抗体よりも二量体抗体の方がウイルス中和活性が高く、二量体抗体よりも四量体抗体の方がウイルス中和活性が高い傾向が示された。
【0147】
【表3】
【0148】
(多量体化によるインフルエンザウイルス中和活性の増加)
抗体クローンF11及びH5について、単量体IgG1型抗体、単量体IgA1型抗体、二量体IgA1型抗体及び四量体IgA1型抗体の中和能の活性比較のため、
図5A及び
図5Bに単量体IgG1型抗体のウイルス中和活性を1とした場合における、単量体IgA1型抗体、二量体IgA1型抗体及び四量体IgA1型抗体の中和活性比を示した。ウイルスにはA/H5N1株(clade 2.1)を使用した。
【0149】
図5Aは、単量体IgG1型抗体のウイルス中和活性を1とした場合における、単量体IgA1型抗体、二量体IgA1型抗体及び四量体IgA1型抗体の単位タンパク質量当たりの中和活性比を示すグラフである。
【0150】
図5Bは、単量体IgG1型抗体のウイルス中和活性を1とした場合における、単量体IgA1型抗体、二量体IgA1型抗体及び四量体IgA1型抗体の単位分子数当たりの中和活性比を示すグラフである。
【0151】
クローンF11及びH5共に、IgG1型からIgA1型に変換することによりウイルス中和活性の増加が認められ、更に、二量体化、四量体化することにより更なる中和活性の増加が認められた。また、抗体1モルあたりのウイルス中和活性は、四量体化することにより、単量体の100倍以上の上昇が認められた。
【0152】
[実験例6:抗体の塩基配列及びアミノ酸配列の解析]
抗体クローンF11及びH5について、重鎖及び軽鎖の塩基配列及びアミノ酸配列をIGBLAST(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/igblast/)にて解析した。また、相補性決定領域(complementarity determining region、CDR)をAndrew C.R. Martin博士らの方法(http://www.bioinf.org.uk/abs/)により決定した。配列表の配列番号と、各塩基配列及びアミノ酸配列との対応を表4に示す。クローンF11の軽鎖はκ鎖であった。また、クローンH5の軽鎖はλ鎖であった。
【0153】
【表4】
【0154】
[実験例7:抗原結合活性の検討]
遺伝子組換えウイルス糖タンパク質発現ベクターの作製、遺伝子組換えウイルス糖タンパク質の発現と精製は後述する実験例9と同様の方法により行った。抗体クローンB12及びF11について、単量体IgA1型抗体、二量体IgA1型抗体及び四量体IgA1型抗体を用いて、インフルエンザウイルスHAタンパク質に対する抗原結合活性を検討した。
【0155】
96ウェルハーフプレートに50μLの遺伝子組換えHAタンパク質(A/H5N1株由来、1μg/mL)を添加し、4℃で一晩放置した後、ブロッキングを行った。
【0156】
続いて、各抗体サンプルの2倍段階希釈系列を4℃で一晩反応させた。PBSTでの洗浄後、Goat anti−Human IgA Antibody Alkaline Phosphatase Conjugated(BETHYL LABORATORIES社)を2500倍希釈したものを、室温で1時間反応させた。続いて、Phosphatase Substrate(SIGMA社)を用いて発色反応を行い、690nmを基準波長として405nmの波長における吸光度を測定した。測定された吸光度に基づいて、各抗体のHAタンパク質に対する最少結合濃度を求めた。
【0157】
結果を表5及び表6に示す。抗体クローンF11では、ワクチンと同クレード(clade 2.1)のウイルス(A/H5N1(clade 2.1)由来HAに対しては、二量体及び四量体で、単量体よりも結合活性の上昇が見られた。また、ワクチンと別クレードのウイルス(A/H5N1(clade 1)由来のHAに対しては、四量体で最も強い抗原結合活性が見られた。また、単量体の抗体で抗原結合活性を有するクローンは、多量体化することにより、抗原結合活性が向上することが示された。
【0158】
【表5】
【0159】
【表6】
【0160】
[実験例8:CHO YA7細胞とcis−エレメント使用による多量体抗体の発現増強効果]
上述した抗体J鎖タンパク質の発現プラスミドであるpCXSN−hJCのプロモーターの下流かつJ鎖タンパク質の開始コドンの上流に、配列番号22に示すcis−エレメント#1を導入し、pCXSN−cis#1−hJCを得た。遺伝子配列解析によりcis−エレメントの向きが正しい挿入方向であることを確認した。
【0161】
また、上述した分泌成分の発現プラスミドであるpCXSN−hSCのプロモーターの下流かつ分泌成分タンパク質の開始コドンの上流に、配列番号23に示すcis−エレメント#2を導入し、pCXSN−cis#2−hSCを得た。遺伝子配列解析によりcis−エレメントの向きが正しい挿入方向であることを確認した。
【0162】
p180タンパク質とSF3b4タンパク質を共発現する細胞株である、CHO YA7細胞及び対照のCHO細胞それぞれ1×10
5個に対して、実験例2で構築したIgA1抗体重鎖発現プラスミド、軽鎖全長の発現プラスミド、pCXSN−cis#1−hJC及びpCXSN−cis#2−hSCの4種類の発現プラスミド各0.5μgずつを、リポフェクション法にてトランスフェクションした。
【0163】
5%ウシ胎児血清0.5mLを含むDMEM培地中で24時間培養した後、培養上清各10μLを実験例3と同様にしてBN−PAGEにより分離し、PVDF膜へ転写後にぺルオキシダーゼ標識抗ヒトIgA抗体(Bethyl社)を使用して検出し、多量体IgA型抗体産生能を評価した。
【0164】
図6は、BN−PAGEの結果を示す写真である。レーン1及び2は、CHO細胞で多量体IgA型抗体を発現させた結果であり、レーン3及び4は、CHO YA7細胞で多量体IgA型抗体を発現させた結果である。また、レーン1及び3は、対照として、cis−エレメントを有しない抗体J鎖タンパク質の発現プラスミド及びcis−エレメントを有しない分泌成分の発現プラスミドを使用した結果であり、レーン2及び4は、cis−エレメントを有する抗体J鎖タンパク質の発現プラスミド及びcis−エレメントを有する分泌成分の発現プラスミドを使用した結果である。矢印は四量体IgA型抗体のバンドを示す。
【0165】
その結果、cis−エレメントを有しない発現プラスミドを用いた場合において、CHO YA7細胞の多量体IgA型抗体の分泌量がCHO細胞の約2倍に増加したことが示された。更に、cis−エレメントを有する発現プラスミドの使用により、CHO YA7細胞の多量体IgA型抗体の分泌量がCHO細胞の3.2倍に増加したことが示された。
【0166】
以上の結果は、p180タンパク質及びSF3b4タンパク質を共発現することや、cis−エレメントを有する発現プラスミドを使用することにより、多量体IgA型抗体の高効率な発現及び分泌が可能であることを示す。
【0167】
[実験例9:抗RSウイルスFタンパク質抗体の結合活性に対する多量体化の影響の検討]
(抗RSウイルスFタンパク質抗体の作製)
公共データベースであるRCSB PDBに登録されている抗RSウイルスFタンパク質抗体のアミノ酸配列(PDB ID:2HWZ)の重鎖及び軽鎖可変領域のアミノ酸配列をヒト用にコドン最適化したアミノ酸配列をコードするDNA断片をそれぞれ人工合成した。合成した重鎖可変領域をコードするDNA断片を上述したα1 HCに、軽鎖 可変領域をコードするDNA断片を上述したκ LCにクローニングした。続いて、実験例4と同様にして抗RSウイルスFタンパク質抗体の多量体の発現及び精製を行った。
【0168】
(ウイルス糖タンパク質発現ベクターの作製)
インフルエンザウイルスのHAタンパク質及びRSウイルスのFタンパク質ΔFP(アミノ酸配列137−146番の欠失変異体、McLellan J. S., et al., Structure of respiratory syncytial virus fusion glycoprotein in the postfusion conformation reveals preservation of neutralizing epitopes., J. Virol. 85(15), 7788-7796, 2011 を参照)の細胞外領域をコードするアミノ酸配列のC末端側に三量体形成配列及び精製用タグのコード配列(バクテリオファージT4フィブリチン三量体形成フォールドン配列、トロンビン切断部位(RSRSLVPRGSPGSGYIPEAPRDGQAYVRKDGEWVLLSTFL、配列番号26)、タンパク質精製用のStrep−tag(登録商標)II配列(WSHPQFEK、配列番号27)及び6×His tag配列(Stevens J. et al., Structure of the uncleaved human H1 hemagglutinin from the extinct 1918 influenza virus., Science 303, 1866-1870, 2004 を参照))を融合したアミノ酸配列をコードするDNA断片を合成し、哺乳類細胞発現用のベクターpCXSNにクローニングした。
【0169】
(ウイルス糖タンパク質の発現)
遺伝子組換えウイルス糖タンパク質の作製にはExpi293(商標)Expression System(ライフテクノロジーズ社)を説明書にしたがって用いた。30mL系を以下に例示する。
【0170】
継代し維持しているExpi293F細胞の密度が3.0×10
6個/mL以上であり、生存率95%以上であり、細胞が凝集していないことを確認した。37℃に保温されたExpi293 Expression mediumを用いて、細胞数を2.9×10
6個/mLに調製した。使い捨てのベントフィルターキャップ付三角フラスコに、調製した細胞懸濁液を25.5mL移し、37℃、8%CO
2に調整した細胞培養用インキュベーターに戻し、125rpmで振盪培養した。1.5mLのOpti−MEM I培地にプラスミドDNA30μgを添加した。別に用意した1.5mLのOpti−MEM I培地に80μLのExpiFectamine 293 Reagentを添加した。5分間、室温で静置した後、DNA溶液をExpiFectamine溶液へ全量加え、室温で20〜30分静置した。細胞へトランスフェクションミックスを添加した後、37℃、8%CO
2に調整した細胞培養用インキュベーターに戻し、125rpmで振盪培養した。トランスフェクションの16〜18時間後、150μLのExpiFectamine 293 Transfection Enhancer1及び1.5mLのExpiFectamine 293 Transfection Enhancer2を加えた。細胞は37℃、8%CO
2に調整した細胞培養用インキュベーターに戻し、125rpmで振盪培養した。トランスフェクション後4〜6日で上清を回収した。
【0171】
(ウイルス糖タンパク質の精製)
まず、回収した上清中の細胞のデブリを1000×g、10分間の遠心分離により取り除いた。続いて、Millex−HV Filter Unit(ミリポア社)を使用して上清をろ過した。続いて、AKTA explorer10(GEヘルスケア社)を用いたアフィニティー精製によりウイルス糖タンパク質を精製した。カラムにはHisTrap excel(GEヘルスケア社)を用いた。より具体的には、平衡化溶液として20mMリン酸ナトリウム、0.5M NaCl、pH7.4を使用した。また、洗浄液として20mMリン酸ナトリウム、0.5M NaCl、10mMイミダゾール、pH7.4を使用した。また、溶出液として、20mMリン酸ナトリウム、0.5M NaCl、500mMイミダゾール、pH7.4を使用した。精製条件は、流速1mL/分、カラム平衡化10CV、カラム洗浄40CV、溶出1mL/フラクション(計50CV)、カラム再平衡化5CVとした。6xHis tagによる精製サンプルを、更に精製する場合にはStrep−tag(登録商標)/Strep−Tactin(登録商標)システムを使用した。Strep−Tactin(登録商標)Superflow(登録商標)(iba社)を用いて、説明書にしたがって精製した。より具体的には、まず、試薬として、Buffer W(100mM Tris−HCl、150mM NaCl、1mM EDTA、pH8.0)、Buffer E(100mM Tris−HCl、150mM NaCl、1mM EDTA、2.5mM desthiobiotin、pH8.0)、Buffer R(100mM Tris−HCl、150mM NaCl、1mM EDTA、1mM HABA、pH8.0)を準備した。続いて、カラムを2CVのBuffer Wで平衡化し、サンプルをロードし、1CVのBuffer Wで5回洗浄し、3CVのBuffer Eでウイルス糖タンパクを溶出した。そして、カラムを5CVのBuffer Rで3回再生洗浄し、4CVのBuffer Wで2回平衡化した。タンパク質を濃縮する場合には、Amicon(登録商標)Ultra Centrifugal Filter Devicesを用いて、説明書にしたがって濃縮した。精製されたタンパク質の濃度はNanoDrop(Thermo SCIENTIFIC社)を用いた吸光測定により測定した。
【0172】
(RSウイルスFタンパク質に対するELISA)
抗RSウイルスFタンパク質抗体の多量体のRSウイルスFタンパク質に対する反応性をELISAにより検討した。まず、96ウェルハーフプレートに50μLの遺伝子組換えFタンパク質(1μg/mL)を4℃で一晩固相化した後、ブロッキングを行った。続いて、抗RSウイルスFタンパク質抗体サンプルの2倍段階希釈系列を室温で2時間反応させた。続いて、PBSTを用いた洗浄後、HRP標識ヤギ抗ヒトIgA抗体(30000倍)(BETHYL LABORATORIES社)を室温で1時間反応させた。続いて、1−Step(商標)Ultra TMB−ELISA(Thermo SCIENTIFIC社)を用いて発色反応を行い、1M硫酸を加えて反応停止後、吸光度を測定した。抗RSウイルスFタンパク質抗体サンプル濃度1μg/mLにおけるOD 450nmの値(平均値±標準偏差)を
図7に示した。その結果、抗RSウイルスFタンパク質抗体の抗原結合活性は、抗体が、二量体、四量体化すると有意に上昇することが確認された。
【0173】
[実験例10:IgA1及び各IgA2アロタイプの多量体化の検討]
(α2m1 HC、α2m2 HC、α2(n) HC発現ベクターの作製)
IgA2のアロタイプの重鎖定常領域の遺伝子をクローニングした。具体的には、IgA2m1の重鎖定常領域をコードする遺伝子(α2m1 HC、アクセッション番号:J00221)、IgA2m2の重鎖定常領域をコードする遺伝子(α2m2 HC、アクセッション番号:M60192及びAJ012264)、IgA2(n)の重鎖定常領域をコードする遺伝子(α2(n) HC、アクセッション番号:S71043)の各塩基配列を、公共データベースであるIMGT/LIGM−DBに登録されている配列に基づいて入手し、ヒト用にコドン最適化を行い、人工遺伝子合成した。可変領域の最後のアミノ酸アラニンと定常領域の最初のアミノ酸セリンのコドンを改変してNheI切断サイトを作製した。NheI及びHindIIIで処理した合成配列を、上述のα1 HCをNheI及びHindIIIで処理したベクターにクローニングした。
【0174】
(抗体可変領域遺伝子の各IgA2発現ベクターへのクローニング)
PrimeSTAR(登録商標)MAX DNA Polymeraseを使用して、上述した抗インフルエンザウイルス抗体クローンB12の抗体可変領域遺伝子のPCRを行った。γ1 HC発現ベクターにクローニングした抗体遺伝子を鋳型とする場合には、α1 HC発現ベクターへの抗体遺伝子のクローニングと同様の方法を用いた。α1 HC発現ベクターにクローニングした抗体遺伝子を利用する場合には、AgeI及びNheIを用いた通常の制限酵素を用いたサブクローニング法を用いた。
【0175】
続いて、実験例4と同様にして、IgA1型及び各IgA2アロタイプ型の抗インフルエンザ抗体クローンB12の多量体の発現及び精製を行った。
【0176】
(サイズ排除クロマトグラフィーによる多量体の解析)
コスモスピンフィルターH(ナカライテスク社)を用いてサンプルを前処理し、サイズ排除クロマトグラフィーにより分子サイズに基づいて分離し、抗体の構造を解析した。HPLCシステムとして、Agilent 1260 Infinity(Agilent Technologies社)を用いた。また、カラムにはAgilent Bio SEC−5 500Å (Agilent Technologies社)を用いた。溶離液にはPBS(pH7.4)を用い、流速は1mL/分の条件で行った。1回の解析あたり抗体サンプルを1μg以上使用した。クロマトグラムはOpenLAB CDS ChemStation Edition(Agilent Technologies社)を用いて解析し、三量体/四量体、二量体、単量体各々に相当するピーク面積を算出し、面積比として比較した。
図8Aに、サイズ排除クロマトグラフィーにより得られるクロマトグラムのIgA1、IgA2m1、IgA2m2、IgA2(n)型抗体の代表的な結果を示す。
図8Bは、
図8Aに基づいて、三量体/四量体、二量体、単量体抗体各々のピーク面積比を算出した結果を示すグラフである。
図8Aのクロマトグラムのピーク間の谷又はピークの分離が不明瞭な場合はピークの変曲点を推測し、ベースラインへ垂直の線を引き、各々のフラクションに区分けを行い、クロマトグラムとベースラインに囲まれる面積を算出した。
【0177】
その結果、現在報告されているIgAアイソタイプ、アロタイプ(IgA1、IgA2m1、IgA2m2、IgA2(n))は全て多量体を形成可能であることが明らかになった。また、IgA1及び各IgA2アロタイプの多量体化の傾向は異なることが明らかになった。特に、IgA2m2型抗体は、多量体形成能が高いことが示された。
【0178】
[実験例11:IgA1型抗体及びIgA2m2型抗体のキメラ抗体の多量体化の検討]
IgA2m2型抗体の多量体化促進活性について解析するため、以下の解析を行った。
【0179】
(α1α2m2 HCキメラ発現ベクターの作製)
PrimeSTAR(登録商標)MAX DNA Polymeraseを使用して、上述したα1 HC発現ベクターを鋳型として、IgA1 HCのCH1からCH2までの配列(α1セグメント:定常領域のN末端からG342まで)をPCR増幅した。また、α2m2 HC発現ベクターを鋳型として、IgA2m2 HCのCH3以降C末までの配列(α2m2セグメント:N343から定常領域のC末端まで)をPCR増幅した。
【0180】
続いて、KOD−Plus−Neo(TOYOBO社)を使用して、上記のα1セグメントとα2m2セグメントを鋳型に用いたOverlap PCRを行った。続いて、得られたDNA断片を、NheI及びHindIIIを用いたサブクローニング法により、α1 HCの定常領域の配列と交換し、IgA1A2m2キメラ発現ベクターを得た。
【0181】
続いて、実験例10と同様にしてIgA1A2m2キメラ発現ベクターに抗インフルエンザウイルス抗体クローンB12の抗体可変領域をクローニングした。また、実験例4と同様にして、多量体抗体の発現及び精製を行った。また、実験例10と同様にして、サイズ排除クロマトグラフィーにより、単量体、二量体、三量体/四量体の各構造の抗体の存在比を解析した。
【0182】
図9は結果を示すグラフである。その結果、IgA1抗体重鎖のCH3以降C末端までの配列をIgA2m2由来配列に置換すると、多量体形成が促進されることが明らかになった。
【0183】
[実施例12:IgA2m2の多量体化促進活性に関わる領域の解析]
IgA2m2の多量体化促進活性について解析するため、各種発現ベクターを以下の通りに構築した。
【0184】
(IgA重鎖定常領域を改変した発現ベクターの構築)
IgA重鎖定常領域の変異体発現ベクターを構築するため、定常領域にアミノ酸置換を伴わないよう制限酵素部位を付加した定常領域フラグメントIgA1H−NRE(配列番号28)、IgA2m2−NRE(配列番号29)を人工遺伝子合成(Genscript社)により合成した。続いて、IgA1H−NRE、IgA2m2−NREを制限酵素NheI及びHindIIIで処理し、ライゲーション用フラグメントを調製した。
【0185】
続いて、上述した抗インフルエンザウイルス抗体クローンB12のIgA1型重鎖の発現プラスミド(pIgA1H)、及び抗インフルエンザウイルス抗体クローンB12のIgA2m2型重鎖の発現プラスミド(pIgA2m2H)を制限酵素NheI及びHindIIIで処理し、同様にライゲーション用フラグメントを調製した。各フラグメントを連結し、プラスミドpIgA1H−NRE、pIgA2m2H−NREを作製した。
【0186】
(IgA1/IgA2m2キメラ重鎖発現ベクターの構築)
IgA1/IgA2m2キメラ重鎖発現ベクターの構築を以下の通りに行った。すなわち、pIgA2m2H−NREをMfeI及びHindIIIで処理し得られたフラグメントとMfeI及びHindIII処理したpIgA1H−NREとを連結し、IgA1重鎖のアミノ酸342〜472番目の領域をIgA2m2型に置換した変異体pIgA1H/pIgA2m2−chimeraを構築した。
図10Aは各変異体の構造を示す模式図である。
【0187】
(J/SC安定発現株の構築とIgA多量体産生能の検証)
J鎖、SCの共発現ベクター構築のため、実施例5のpCXSN−cis#1−hJC及びpCXSN−cis#2−hSCより、cis#1−hJC ORF、cis#2−hSC ORFを切り出した。cis#1−hJC ORF、cis#2−hSC ORFをそれぞれヒトEF1プロモーターとBGH polyAから構成される発現ユニット内のプロモーターとpolyAの間に連結し、発現ベクターpEF−cis−hJC/Zeo及びpEF/cis−hSC/Zeoをそれぞれ構築した。
【0188】
また、J鎖、SC各タンパク質について、N結合型糖鎖が結合するアスパラギン(N)をグルタミン(Q)に置換した変異体(以下、それぞれ「J
NQ」及び「SC
NQ」という。)を発現するベクターを構築するため、J
NQ及びSC
NQをコードするフラグメントを人工遺伝子合成(Genscript社)により作製した(配列番号30、31)。J鎖はN59をQに置換した。また、SCはN83、N90、N135、N186、N421、N469及びN499を全てQに置換した。続いて、各合成フラグメントをXhoI及びNotIで処理後、同じくXhoI及びNotIで処理したpCXSN−cis#1−hJC又はpCXSN−cis#2−hSCとそれぞれ連結し、pCXSN−cis#1−hJC
NQ及びpCXSN−cis#2−hSC
NQを構築した。
【0189】
また、国際公開第2014/157429号に記載の方法にしたがって、CHO−K1細胞にp180及びSF3b4の発現ベクターを導入後、ハイグロマイシンによる薬剤選択を行いp180とSF3b4を安定に発現するCHO−K1細胞株1E26を作製した。なお、本明細書において、発現増強2因子(p180及びSF3b4)の発現ベクターを細胞に導入することにより、遺伝子の発現を増強する技術を「spERt技術」という。
【0190】
CHO−K1(1E26)細胞に、上述したpEF−cis−hJC/Zeo及びpEF/cis−hSC/Zeoを導入し、Zeocin(400μg/mL)で薬剤選択を行い、hJC及びhSCを安定に発現するCHO−K1株C23を樹立した。同様に、CHO−K1(1E26)細胞に、pCXSN−cis#1−hJC
NQ及びpCXSN−cis#2−hSC
NQを導入し、Zeocin(400μg/mL)で薬剤選択を行い、hJC
NQ及びhSC
NQを安定に発現するCHO−K1株C452を樹立した。
【0191】
続いて、C23細胞に、上述した抗インフルエンザウイルス抗体クローンB12の軽鎖発現ベクター(pIgA−LC)と、抗インフルエンザウイルス抗体クローンB12のIgA重鎖発現ベクターをリポフェクション法にてトランスフェクションした。IgA重鎖発現ベクターとしては、上述した3種の発現ベクター(pIgA1H、pIgA2m2、pIgA1H/pIgA2m2−chimera)を使用した。
【0192】
続いて、各細胞を5%ウシ胎児血清を含むDMEM中で72時間培養した後、培養上清各10μLを、実験例3と同様の方法により未変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(BN−PAGE、3−12%、Invitrogen社)により分離し、PVDF膜へ転写後にペルオキシダーゼ標識抗ヒトIgA抗体(Bethyl社)を使用して検出した。
【0193】
その結果、
図10Bに示すように、C23細胞の培養上清中にIgA1多量体、IgA2m2多量体がそれぞれ検出され(
図10B、レーン2及び3)、C23細胞にIgA抗体重鎖及び軽鎖の遺伝子導入を行うことにより、効率良くIgA多量体抗体を作製できることが確認された。
【0194】
また、
図16Cのレーン11及び12に示すように、上述した抗インフルエンザウイルス抗体クローンF11及びC452細胞を用いて行った同様の実験においても、培養上清中にIgA1多量体及びIgA2m2多量体がそれぞれ検出された。
【0195】
図10Bのレーン2及び3の比較から、IgA2m2はIgA1よりも多量体化が促進されることが明らかとなった。また、pIgA1H/pIgA2m2キメラ体はIgA1野生型よりも高分子側にシフトしたバンドが増え(
図10B、矢印)、IgA2m2野生型に近い多量体化がみられた(
図10B、レーン1)。したがって、IgA1重鎖の多量体形成には342残基以降のC末側ドメインが重要であり、この部分をIgA2m2由来配列に置換すると、CHO細胞において多量体形成が促進されることが明らかとなった。
【0196】
[実験例13:IgA2m2抗体のシングルアミノ酸置換変異体の多量体化の検討]
IgA1重鎖のCH3以降C末端までのアミノ酸配列と、これに対応するIgA2m2重鎖のアミノ酸配列とで異なるアミノ酸残基は、第411残基、第428残基、第451残基、第458残基、第467残基の5残基であるため、以下の解析を行った。
【0197】
(Fc領域のアミノ酸置換変異体の作製)
重鎖定常領域(Fc領域)のアミノ酸置換変異体を作製した。より具体的には、α2m2 HC発現ベクターを鋳型として、5種のアミノ酸置換(Y411F、E428D、M451L、I458V、A467V)が起こるように配列を改編したプライマーを用いて、PrimeSTAR(登録商標)MAX DNA Polymeraseを使用して、インバースPCRを行った。
【0198】
続いて、増幅したPCR産物の5’末端をT4ポリヌクレオチドキナーゼを用いてリン酸化し、T4DNAリガーゼにより環状に連結させた。反応産物で大腸菌を形質転換し、プラスミドを抽出し、シークエンスによりアミノ酸置換を起こす変異が導入されたことを確認した。
【0199】
以下、作製した変異体を「IgA2m2 Y411F」のように表記する。この場合、IgA2m2の定常領域の第411残基に相当するアミノ酸チロシン(Y)がフェニルアラニン(F)に置換されている。他の変異体についても同様である。
【0200】
続いて、実験例11と同様にして、各変異体の多量体化への影響を解析した。
図11は検討結果を示すグラフである。その結果、IgA2m2抗体の458番目のIをVに置換すると、多量体が減少し単量体の比率が増加することが明らかとなった。
【0201】
[実験例14:IgA1抗体のシングルアミノ酸置換変異体の多量体化の検討]
実験例13と同様にして、Fc領域のアミノ酸置換変異体の作製及び解析を行った。以下、作製した変異体を「IgA1 F411Y」のように表記する。この場合、IgA1の定常領域の第411残基に相当するアミノ酸フェニルアラニン(F)がチロシン(Y)に置換されている。他の変異体についても同様である。
【0202】
続いて、実験例11と同様にして、各変異体の多量体化への影響を解析した。
図12は検討結果を示すグラフである。その結果、IgA1抗体の458番目のVをIに置換すると、多量体化が顕著に促進されることが明らかとなった。
【0203】
[実施例15:IgA多量体化促進活性に対するIgA1重鎖内V458の解析]
IgAの多量体化促進活性におけるIgA1重鎖内V458の役割について解析するため、V458の変異体発現ベクターを以下の通りに構築した。
【0204】
(V458変異体ベクターの構築)
IgA1重鎖458番目のVをアミノ酸各種に置換した変異体を構築するため、pIgA1H−NREを制限酵素MfeI及びHindIIIで処理しライゲーション用フラグメントを調製した。また、インサートリンカーを調製するため、V458I(配列番号32及び33)、V458A(配列番号34及び35)、V458W(配列番号36及び37)、V458C(配列番号38及び39)、V458D(配列番号40及び41)、V458E(配列番号42及び43)、V458F(配列番号44及び45)、V458G(配列番号46及び47)、V458H(配列番号48及び49)、V458K(配列番号50及び51)、V458L(配列番号52及び53)、V458M(配列番号54及び55)、V458N(配列番号56及び57)、V458P(配列番号58及び59)、V458Q(配列番号60及び61)、V458R(配列番号62及び63)、V458S(配列番号64及び65)、V458T(配列番号66及び67)、V458Y(配列番号68及び69)の組み合わせで各DNA断片を95℃で10分熱処理後に段階的に25℃まで下げてアニーリングさせた。
【0205】
続いて、各リンカーとベクターとを連結し、pIgA1H−NRE−V458I、pIgA1H−NRE−V458A、pIgA1H−NRE−V458W、pIgA1H−NRE−V458C、pIgA1H−NRE−V458D、pIgA1H−NRE−V458E、pIgA1H−NRE−V458F、pIgA1H−NRE−V458G、pIgA1H−NRE−V458H、pIgA1H−NRE−V458K、pIgA1H−NRE−V458L、pIgA1H−NRE−V458M、pIgA1H−NRE−V458N、pIgA1H−NRE−V458P、pIgA1H−NRE−V458Q、pIgA1H−NRE−V458R、pIgA1H−NRE−V458S、pIgA1H−NRE−V458T、pIgA1H−NRE−V458Yを構築した。
【0206】
(各種変異体発現ベクターの遺伝子導入と発現解析)
続いて、リポフェクション法により、作製したV458の各種変異体発現ベクターと上述した抗インフルエンザウイルス抗体クローンB12の軽鎖発現ベクター(pIgA−LC)とをC23細胞にそれぞれトランスフェクションした。
【0207】
続いて、5%ウシ胎児血清を含むDMEM中で72時間培養した後、多量体抗体産生能の評価のため培養上清各10μLを実験例3と同様にして、BN−PAGE、ウエスタンブロッティング解析に供した。
【0208】
図13は、ウエスタンブロッティングの結果を示す写真である。その結果、第458残基をI、L、M、W、G、Yに置換した場合に多量体が検出され、特にIに置換した場合に、より高分子側へシフトしていた。上記以外のアミノ酸に置換した場合には、ほとんど多量体の形成は認められなかった。この結果から、多量体形成には第458残基のアミノ酸が重要な役割を担い、第458残基が疎水性アミノ酸である場合に有意に抗体の多量体化が促進されることが明らかとなった。また、特に第458残基がイソロイシンである場合に、強い多量体形成促進活性が認められた。
【0209】
[実験例16:Expi293F細胞におけるIgA1抗体の第458残基のアミノ酸置換変異体の多量体化の検討]
(Fc領域のアミノ酸置換変異体の作製)
C23細胞の代わりにExpi293F細胞を用いて実験例15と同様の検討を行った。具体的には、実験例15で作製した、pIgA1H−NRE−V458I、pIgA1H−NRE−V458A、pIgA1H−NRE−V458W、pIgA1H−NRE−V458E、pIgA1H−NRE−V458G、pIgA1H−NRE−V458K、pIgA1H−NRE−V458Lの発現プラスミドを使用し、実験例13と同様の実験を行った。
【0210】
図14は、検討結果を示すグラフである。その結果、IgA1抗体の458番目のVをIに置換すると多量体化が顕著に促進されることが明らかとなった。
【0211】
[実験例17:IgA1及び各IgA2アロタイプの多量体化におけるV458の役割の検討]
(Fc領域のアミノ酸置換変異体の作製)
IgA1、IgA2m1、IgA2m2、IgA2(n)について、第458残基の変異体を作製し、多量体化における役割を検討した。α2m1 HCのアミノ酸置換変異体を作製する場合、α2m1 HC発現ベクターを鋳型として、目的のアミノ酸置換(V458I)が起こるように配列を改編したプライマーを用いて、PrimeSTAR(登録商標)MAX DNA Polymeraseを使用したインバースPCRを行った。続いて、増幅したPCR産物の5’末端をT4ポリヌクレオチドキナーゼを用いてリン酸化し、T4DNAリガーゼにより環状に連結させた。続いて、反応産物で大腸菌を形質転換し、プラスミドを抽出し、シークエンスにより目的のアミノ酸置換を起こす変異が導入されたことを確認した。α2(n) HCについても同様にして第458残基のアミノ酸変異を有する変異体を作製した。α1 HCについては実験例14、α2m2 HCは実験例13で作製した変異体を用いた。
【0212】
続いて、実験例13と同様にして、作製した各変異体の多量体化への影響を解析した。
図15は検討結果を示すグラフである。その結果、第458番目のアミノ酸残基がIの場合に、IgA1及び全てのIgA2アロタイプで顕著な多量体形成促進活性が確認された。
【0213】
[実験例18:IgA四量体安定発現株の樹立及びプロダクトの機能解析]
上述したspERt技術を用いて四量体IgA抗体を製造し、以下の方法で解析した。
【0214】
(spERt技術を用いたIgA四量体安定発現株の樹立)
J/SC安定発現CHO株C23に抗インフルエンザウイルス抗体クローンF11の軽鎖発現ベクターpIgA−LCと、IgA1重鎖発現ベクターpIgA1−HC又はIgA2m2重鎖発現ベクターpIgA2m2−HCとをリポフェクション法にてトランスフェクションした。ピューロマイシン(10μg/ml)による薬剤選択を経て、IgA1重鎖及び軽鎖を安定に発現するCHO株C78、並びにIgA2m2重鎖及び軽鎖を安定に発現するCHO株C179を樹立した。
【0215】
CHO−K1(1E26)細胞に上述したpCXSN−cis#1−hJC
NQ及びpCXSN−cis#2−hSC
NQ並びに抗インフルエンザウイルス抗体クローンF11の軽鎖発現ベクターpIgA−LCと、IgA1重鎖発現ベクターpIgA1−HC又はIgA2m2重鎖発現ベクターpIgA2m2−HCとをリポフェクション法にて導入しZeocin(400μg/mL)及びピューロマイシン(10μg/mL)で薬剤選択を行い、IgA1重鎖、軽鎖、hJC
NQ、hSC
NQを安定に発現するCHO−K1株C104、及び、IgA2m2重鎖、軽鎖、hJC
NQ、hSC
NQを安定に発現するCHO−K1株C117を樹立した。各細胞の培養上清をBN−PAGEとウエスタンブロッティングにより解析した。
図16Aは結果を示す写真である。これらの細胞株は全てIgA多量体を効率的に分泌することが確認された。
【0216】
(IgA多量体抗体のウイルス中和活性解析)
上述した細胞株C78、C179、C104及びC117を、それぞれ5%ウシ胎児血清含有DMEMにて7日間培養し、培養液を低速遠心とポアサイズ0.45μmのフィルターを用いたろ過により清澄化後、IgA抗体をCaptureSelect human Fc affinity matrix(ライフテクノロジーズ社製)を用いて実験例1〜4と同様にして精製した。
【0217】
得られたIgA粗精製画分に対しVivaspin20(GE社製)を用いてPBS(−)に溶媒置換し、IgA1及びIgA2m2多量体抗体溶液を調製した。
【0218】
抗体の収量は、細胞懸濁液80mLあたり、C78は約0.404mg、C179は0.712mg、C104は約0.298mg、C117は約0.179mgであった。なお、抗体の収量は、各細胞を無血清馴化後に浮遊培養を行うことや、培養条件、培地を検討すること等により、1〜2桁上昇させることが可能である。
【0219】
調製した各抗体の中和活性は、マイクロ中和試験による最小中和濃度測定により定量した。抗体サンプルの2倍段階希釈系列を準備し、100TCID
50(50%組織培養感染量の100倍量)のウイルス液と混合後、30分間37℃にてインキュベーションした。その後、この混合液をMDCK細胞に添加し5日間培養を行い、顕微鏡下でインフルエンザウイルスによる細胞変性効果が確認できないサンプル最大希釈倍率でサンプルの濃度を割った値を最少中和濃度とした。
【0220】
ウイルスとしては、ワクチン製造株A/X−179A(H1N1pdm09)(以下、「X−179A」という場合がある。)及び実験室株A/Puerto Rico/8/34(H1N1)(以下、「PR8」という場合がある。)を用いた。
【0221】
結果を表7に示す。その結果、CHO細胞から調製したIgA1、IgA2m2抗体のX−179Aに対する最少中和濃度は、それぞれ0.44、0.22、0.63、0.22μg/mLであり、Expi293細胞で調製したIgA1、IgA2m2抗体の最少中和濃度とほぼ同程度であった。またA/Puerto Rico/8/34に対するIgA1抗体の最少中和濃度はそれぞれ4.42μg/mlであり、Expi293細胞で調製したIgA1抗体の最少中和濃度とほぼ同程度であった。
【0222】
以上のことから、spERt技術を用いて作製したIgA1、IgA2m2抗体は、実験例7で測定した結果と同等の中和活性を有することが示された。
【0223】
【表7】
【0224】
[実験例19:spERt技術によるIgA抗体の作製]
spERt技術によるIgA抗体の生産性増強効果について検討した。
【0225】
(単量体IgA抗体の生産性増強効果)
実験例12に記載の方法と同様にして、p180及びSF3b4を安定に発現するCHO−K1細胞株1C17を樹立した。
【0226】
細胞株C23、CHO−K1及び1C17を無血清浮遊の培養条件に段階的に馴化し、細胞株C23S、CHO−K1S、1C17Sを樹立した。また、国際公開第2014/157429号に記載のcis#2を抗インフルエンザウイルス抗体クローンB12及びクローンF11のpIgA1−HC又はpIgA2m2−HCに挿入した発現ベクターpIgA1−cis−HC、pIgA2m2−cis−HCと、cis#1を抗インフルエンザウイルス抗体クローンB12及びクローンF11のpIgA−LCに挿入した発現ベクターpIgA−cis−LCを構築した。
【0227】
CHO−K1S細胞に、pIgA−LCと、pIgA1−HC又はpIgA2m2−HCとをトランスフェクションした。また、1C17S細胞に、pIgA−cis−LCと、pIgA1−cis−HC又はpIgA2m2−cis−HCをトランスフェクションした。48時間後の培養上清をSDS−PAGE及びウエスタンブロッティングにより解析した。
図16Bは結果を示す写真である。
図16B中、「293posi」は実施例4と同様に293expi細胞で作製した多量体IgA分画の陽性コントロールを表し、「IgAposi」はIgAのスタンダードを表す。
【0228】
その結果、1C17S細胞は、CHO−K1S細胞と比較して、IgAの発現が飛躍的に増加したことが確認された。
【0229】
(多量体IgA抗体の生産性増強効果)
各クローンの多量体を作製するため、CHO−K1S細胞に、上述したpIgA−LCと、pEF−cis−hJC/Zeoと、pEF/cis−hSC/Zeoと、pIgA1−HC又はpIgA2m2−HCとをリポフェクション法によりトランスフェクションした。
【0230】
同様に、1C17S細胞に、上述したpIgA−cis−LCと、pEF−cis−hJC/Zeoと、pEF/cis−hSC/Zeoと、pIgA1−cis−HC又はpIgA2m2−cis−HCとをトランスフェクションした。
【0231】
また、C23細胞に、pIgA−cis−LCと、pIgA1−cis−HC又はpIgA2m2−cis−HCとをトランスフェクションした。
【0232】
続いて、48時間後の培養上清を、実験例15と同様にしてBN−PAGE及びウエスタンブロッティングにより解析した。結果を
図16Cに示す。その結果、1C17S細胞、C23細胞におけるクローンB12およびF11ともに720kDa以上の領域にヒトアルファ鎖に対する抗体の陽性バンドが強く検出され、多量体IgA1抗体産生量が26倍から35倍以上に増加した(
図16C、レーン1〜3、7〜9)。
【0233】
また、多量体IgA2m2産生量も1C17S細胞、C23細胞において顕著に増加していた。しかしながら、これらの細胞の親株であるCHO−K1S細胞では多量体IgA2m2の発現がではほとんど検出できなかった(
図16C、レーン4〜6)。
【0234】
また、
図16Dに示すように、抗SC抗体、抗J鎖抗体によるウエスタンブロッティングを行った結果、これらの多量体バンドは、SCおよびJ鎖陽性であることが明らかとなった。
【0235】
以上の結果より、spERt技術によりIgA多量体抗体の生産性を著しく向上させることができることが示され、IgA多量体製造におけるspERt技術の高い有用性が確認された。
【0236】
[実験例20:IgA多量体の質量分析]
実験例4と同様に調製したIgA1、IgA2m2の多量体(四量体)分画成分の分子量を、質量分析計を用いて測定した。ここで、IgA1にはpCXSN−hSCを用いてタグの無いSCを作製した。また、IgA2m2にはpCXSN−hSC−HisTagを用いてタグ付きSCを発現させて各多量体を作製した。
【0237】
まずIgA1、IgA2m2多量体画分の溶媒を、脱塩カラム(Thermo Fisher Scientific社製、「Zeba Spin Desalting Columns」、7K MWCO、0.5mL)を用いて12.5mM酢酸アンモニウムに置換した。この試料を50mM又は100mM酢酸アンモニウムで5倍または10倍に希釈し、ナノイオン源(Advion 社製「TriVersa NanoMate」)を用いて四重極−飛行時間型質量分析装置maXis II(Bruker Daltonics社製)に導入して、以下の条件で測定を行った。イオン化:ESIポジティブ(High Massオプション)、イオンスプレー電圧:1.4〜1.8kV、イオンソース温度:80℃。
【0238】
図17A〜
図17Dに、High Massオプションを使用したマイルドなイオン導入条件下で測定された四量体、及び通常に近いイオン導入条件下で測定された単量体相当のイオンピークの例を示す。
【0239】
図17Aに示すように、マイルドなイオン導入により、IgA1の多量体画分では、四量体に相当する平均質量745.63kDaのピーク等が検出された。
【0240】
図17Cに示すように、マイルドなイオン導入により、IgA2m2の多量体画分では、四量体に相当する745.18kDaのピーク等が検出された。
【0241】
これらの試料に、通常に近い条件下でイオン導入することにより、複合体を解離させると、
図17Bに示すように、IgA1の単量体に相当する162.18kDaのピーク等が検出された。
【0242】
また、
図17Dに示すように、通常に近い条件下でイオン導入することにより、IgA2m2の単量体に相当する154.87kDaのピーク等が検出された。
【0243】
その他、IgA1多量体画分の分析から49.00kDa、49.21kDaのイオンピークが検出された。また、IgA2m2多量体画分では57.28kDa、23.03kDa、354.49kDaのイオンピークが検出された。表8に各試料から得られた平均質量を示す。
【0244】
【表8】
【0245】
続いて、実験例4と同様にして調製したIgA2m2の多量体(四量体)画分について、HM3 interaction module(CovalX社製)を装着したMALDI−TOF型質量分析計TOF/TOF 5800システム(ABSciex社製)で高分子領域の分子量測定を行った。まず、試料をそのまま分析したところ、
図18Aに示すように、単量体に相当する162.63kDaのピークと四量体に相当する734.93kDaのピークが検出された。更に、
図18Bに示すように、576.82kDaのピークも検出された。576.82kDaのピークは、四量体に相当する734.93kDaのピークとの差が約158kDaであることから、三量体型であると考えられた。
【0246】
また、
図18Cに示すように、クロスリンク剤(Bich C., et al., Reactivity and applications of new amine reactive cross-linkers for mass spectrometric detection of protein-protein complexes., Anal. Chem. 82, 172-179, 2010 を参照。)により複合体を安定化させると、四量体の増加とそれに伴う単量体の減少が確認された。
【0247】
[実施例21:質量分析による新規定量方法]
多量体画分中の各サブユニットの構成比を高精度に定量するため、安定同位体標識ペプチドを内部標準とした質量分析による新規定量方法を確立した。
【0248】
ヒトIgAの各重鎖(α1、α2m1、α2m2、α2n)及び軽鎖(λ型、κ型)の定常領域部分のアミノ酸配列よりトリプシンによる生成される予想ペプチドを比較し、IgA1重鎖(α1)特異的配列、IgA2重鎖(α2m1、α2m2、α2n)特異的配列、IgA1/IgA2共通配列、軽鎖のλ型とκ型の各特異配列の候補を選定した。
【0249】
ここで、軽鎖については、個体間で異なる定常領域遺伝子及びアレルによる配列の違いで生じる影響を除外するため、公共データベースであるIMGTに登録されているアミノ酸配列情報から、ほとんどのサブタイプを網羅する共通配列部分を選択した。
【0250】
続いて、実験例2と同様にして調製したIgA1、IgA2m2の単量体を以下の手順でトリプシン消化後、高速液体クロマトグラフ−質量分析計(LC−MS)に供して、上記候補配列の中からイオン強度が良好な配列を選定し、各ペプチドのC末端に位置するリジンまたはアルギニンを安定同位体(
13C
615N
4−Lysまたは
13C
615N
4−Arg)で標識した安定同位体標識ペプチドを外注により合成した(Anygen社)。選定した各アミノ酸配列を表9に示す。
【0251】
J鎖及びSCに関しても同様にして候補を選び、実験例4と同様にして調製したIgA1及びIgA2m2の多量体画分のトリプシン消化物の分析結果から、イオン強度が良好な配列を選定し、安定同位体標識ペプチドを外注により合成した(Anygen社)。選定した各アミノ酸配列を表9に示す。
【0252】
ヒト鼻腔粘膜由来IgA二量体画分及び組換えIgA1多量体画分について、LC−MSによる解析を行った。ヒト鼻腔粘膜由来IgA二量体画分は、Suzuki T., et al., Relationship of the quaternary structure of human secretory IgA to neutralization of influenza virus, PNAS 112 (25), 7809-7817, 2015 に記載された方法と同様にして調製した。また、組換えIgA1多量体画分は、実験例4と同様にして調製した。これらのサンプルについて、IgA多量体画分のサブユニット比を、トリプシン消化後、LC−MSを用いて以下のように評価した。
【0253】
まず、IgAサンプル10μgに100mMとなるようにTris−HCl(pH7.6)を、1mMとなるようにCaCl
2を、そして各サブユニットの安定同位体標識ペプチドを内部標準として0.05nmol添加した。この溶液に5mMとなるようにDTT(Wako社製)を添加してから、56℃で30分間加熱して還元処理を行った。その後、25mMとなるようにヨードアセトアミド(Wako社製)を添加し、遮光しながら室温で30分間、遊離SH基のアルキル化反応を行った。続いて、0.2μgのトリプシン(Promega社製、「Sequencing Grade Modified Trypsin,Frozen」)を加え、37℃、16時間分解反応を行った。得られた分解液にギ酸を1%となるように添加し、これを測定試料とした。
【0254】
LC−MS(LC部:島津製作所社製Prominence、MS部:Bruker Daltonics社製maXis II)により、作製したペプチド溶液の分析を行った。Ascentis Express C18カラム(Supleco社製、粒子径5μm、直径2.1mm、長さ150mm)を用い、カラム温度25℃、流速0.5mL/分で以下のグラジエント条件により分離を行った。
0〜2分:A液(0.1%ギ酸)98%、B液(100%アセトニトリル)2%;
2.1〜6分:A液98〜50%、B液2〜50%;
6.1〜8分:A液10%、B液90%;
8.1〜10分:A液98%、B液2%。
【0255】
分離したペプチド成分を、次の条件により質量分析部で検出した。イオン化:ESIポジティブ、イオンスプレー電圧:4.5kV、イオンソース温度:200℃。
【0256】
表9に示す各サブユニット由来のペプチドのピーク面積及びそれに対応する安定同位体標識ペプチドのピーク面積を定量し、そのピーク面積比の2ペプチドの平均から、重鎖(共通)を1として各サブユニットの比率を算出した。
【0257】
図19Aにヒト由来IgA二量体画分の結果を示す。その結果、重鎖のIgA1とIgA2m2の比は約5対1であり、軽鎖のλ型とκ型の比は約1対2であり、混在が認められた。また、全体としての重鎖と軽鎖の比は約1対1と算出された。一方、J鎖及びSC鎖の存在量は明らかに低く、重鎖及び軽鎖に対する比は、どちらも約1対4と算出された。
【0258】
図19Bに、組換えIgA1多量体画分の結果を示す。その結果、軽鎖λ型がIgA1重鎖に対し1:1に近い比で検出された。一方、J鎖及びSCは、IgA1重鎖に対する比がそれぞれ約1対7及び約1対8であった。
【0259】
【表9】