(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6564881
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】X線陽極
(51)【国際特許分類】
H01J 35/08 20060101AFI20190808BHJP
H01J 35/10 20060101ALI20190808BHJP
【FI】
H01J35/08 C
H01J35/08 B
H01J35/10 D
H01J35/10 E
H01J35/10 F
H01J35/10 G
H01J35/10 H
【請求項の数】14
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-558464(P2017-558464)
(86)(22)【出願日】2016年5月2日
(65)【公表番号】特表2018-514925(P2018-514925A)
(43)【公表日】2018年6月7日
(86)【国際出願番号】AT2016000050
(87)【国際公開番号】WO2016179615
(87)【国際公開日】20161117
【審査請求日】2018年2月20日
(31)【優先権主張番号】GM113/2015
(32)【優先日】2015年5月8日
(33)【優先権主張国】AT
(73)【特許権者】
【識別番号】390040486
【氏名又は名称】プランゼー エスエー
(74)【代理人】
【識別番号】100075166
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 巖
(74)【代理人】
【識別番号】100133167
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 浩
(72)【発明者】
【氏名】エーベルハルト、ニコ
(72)【発明者】
【氏名】クナーブル、ヴォルフラム
(72)【発明者】
【氏名】シェーナウアー、シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】ヴヒァープフェニッヒ、アンドレアス
【審査官】
右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】
独国特許出願公開第02415578(DE,A1)
【文献】
米国特許第02863083(US,A)
【文献】
特開2011−029072(JP,A)
【文献】
特表2012−520543(JP,A)
【文献】
米国特許第06463123(US,B1)
【文献】
特開昭56−018356(JP,A)
【文献】
特開2001−319605(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 35/08
H01J 35/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線ビームを発生するためのX線陽極(10、11、12)であって、1つの支持体(13)、並びに、電子が衝突するときにX線ビームを発生する1つの第1及び少なくとも1つの第2エミッション層(14、15)を有するX線陽極において、前記支持体の片側に配置された前記複数のエミッション層が1つの中間層(16)により分離され前記X線陽極の中心方向(17)において離れて配設されており、
前記第1エミッション層(14)が外側表面に配置され、
前記第2エミッション層(15)が前記中間層(16)に保護されて内部に隠され、
前記中心方向(17)における前記少なくとも2つのエミッション層(14、15)の間隔が少なくとも0.5mmであり、
前記第1エミッション層(14)は高エネルギー電子との相互作用によりX線ビームを発生するのに使用され、
前記第2エミッション層(15)は前記中間層(16)により電子の衝突から保護されており、不活性である、ことを特徴とするX線陽極。
【請求項2】
前記第1及び第2エミッション層(14、15)が電子(50)の衝突領域において、前記中心方向(17)の視線方向で見て合同であることを特徴とする、請求項1に記載のX線陽極。
【請求項3】
前記第1及び第2エミッション層(14、15)の前記間隔が少なくとも部分的にほゞ一定であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のX線陽極。
【請求項4】
前記第1又は第2エミッション層(14、15)が、タングステン、レニウム、又は、タングステン・レニウム合金のようなタングステン合金で作られていることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載のX線陽極。
【請求項5】
前記第1及び前記少なくとも1つの第2エミッション層(14、15)が同じ材料で作られていることを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載のX線陽極。
【請求項6】
前記中間層(16)が前記複数のエミッション層(14、15)の間に、前記支持体(13)と同じ材料で形成されていることを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載のX線陽極。
【請求項7】
前記複数のエミッション層の間の前記中間層(16)が、モリブデン、タングステン、銅、タングステン基合金、モリブデン基合金もしくは銅基合金、タングステン・銅複合材
料、銅複合材料、粒子分散強化銅合金、粒子分散強化アルミニウム合金、又は、グラファイトのグループの中の少なくとも1つの材料を有することを特徴とする、請求項1から6のいずれか1項に記載のX線陽極。
【請求項8】
前記支持体(13)が、モリブデン、タングステン、銅、タングステン基合金、モリブデン基合金もしくは銅基合金、タングステン・銅複合材料、銅複合材料、粒子分散強化銅合金、粒子分散強化アルミニウム合金、又は、グラファイトのグループの中の少なくとも1つの材料を有することを特徴とする、請求項1から7のいずれか1項に記載のX線陽極。
【請求項9】
前記中間層(16)が多数の中間層で構成されていることを特徴とする、請求項1から8のいずれか1項に記載のX線陽極。
【請求項10】
前記中間層(16)が少なくとも1つのバリアー層を有することを特徴とする、請求項1から9のいずれか1項に記載のX線陽極。
【請求項11】
前記中間層(16)が少なくとも1つの結合層を有することを特徴とする、請求項1から10のいずれか1項に記載のX線陽極。
【請求項12】
前記X線陽極が固定陽極(10)又は線状陽極(11)として作られていることを特徴とする、請求項1から11のいずれか1項に記載のX線陽極。
【請求項13】
前記X線陽極が回転陽極(12)として作られていることを特徴とする、請求項1から11のいずれか1項に記載のX線陽極。
【請求項14】
前記第1及び第2エミッション層(14、15)が環状に形成され、中心方向(17)において重なって配設されていることを特徴とする、請求項13に記載のX線陽極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前文によるX線陽極に関する。
【背景技術】
【0002】
X線陽極は例えば、医療診断におけるコンピュータートモグラフィー、又は、荷物用X線機器、のようなX線装置で必要とされる。X線装置の運転中に陰極で発生した電子は高電圧によりX線陽極に向けて加速されて陽極材料に侵入し、それによってX線ビームが発生する。この場合、電子ビームエネルギーの大部分はX線陽極で消費されて熱になり、これにより、X線陽極の焦点領域(Brennbereich)では大きな熱負荷が生じる。
【0003】
X線陽極は一般的には、1つの焦点箇所(Brennfleck)を有する固定陽極の形の固定部品として、又は、1つの環状の焦点軌道(Brennbahn)を有する回転陽極の形の回転部品として、作られている。その他に、X線陽極用の、1つの細長い焦点軌道を有する直線状に延びた構成が知られており、これは線状陽極(Linearanode)とも呼ばれる。線状陽極は非回転で、大抵は固定陽極として作られているが、例えば、コンピュータートモグラフィー撮像中に連続して行われるX線撮影のために移動可能である。
【0004】
通常、X線陽極は少なくとも1つの支持体及び少なくとも1つのエミッション層の結合物として構成されており、前記支持体は機械的な安定性を提供するものであり、好適には熱伝導度の高い高融点材料で形成されており、前記エミッション層は焦点層又は焦点軌道層とも呼ばれ、高エネルギー電子の衝突時にそこでX線ビームが発生される。
固定陽極の場合には、その支持体は通常、斜めに切られた、円筒類似の基本形状を有し、多くは斜めに切られた端面に1つの比較的薄い、円盤状の焦点層が配置されており、この焦点層はX線ビームを発生する材料、例えば、タングステン又はタングステン合金で作られている。
【0005】
回転陽極は通常、円盤状の支持体の表面にエミッション層として、X線ビームを発生する材料から成る1つの環状の焦点層を有する。X線回転陽極の回転運動により、この焦点層は使用中に正確に環状の軌道に沿ってスキャンされ、その結果、熱負荷を回転陽極内でより良く分散することができる。
線状陽極は細長い形をしており、例えば延べ棒の形の基本形状を有し、その一例が特許文献1に記載されている。線状陽極の場合には一般的に、細長く形成された焦点層が、細長い支持体の端面ではなく側面に配置されている。
【0006】
X線陽極の寿命は、高エネルギー電子ビームとの相互作用、及び、特に回転陽極の場合に周期的に現れる大きい熱機械的な負荷により、強く制限される。X線陽極の使用が進むにつれて焦点表面層の疲労が生じ、その焦点表面層でマイクロクラックが形成され、これらのマイクロクラックはさらなる負荷によりX線陽極の基体内部へ網目状に広がる。焦点表面層での損傷はX線量収率にとって不利な結果をもたらし、X線撮影の画像品質にマイナスに作用する。X線量収率に対する臨界閾値を下回った場合には、X線陽極全体を交換するか、少なくとも損傷した焦点表面層を修復する、ないし、作り直す必要がある。使用された焦点表面層を改良するために、その使用された焦点表面層をクラックのない表面まで削り取ることが知られているが、これは、焦点軌道層の厚さが限定されているので、無制限にできるわけではない。X線陽極の寿命は、場合によってはその前に削り取られた、使用済み焦点表面層の上に新しい焦点表面層を付けることによっても延長することができる。しかし、焦点表面層に対するこの処理方法は非常に複雑であり、高コストである。すなわち、産業界には長寿命のX線陽極に対する需要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2013020151A1号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、より長い寿命を有するX線陽極を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題は、請求項1によるX線陽極により解決される。本発明の好適な実施形態は従属請求項に記載されている。
【0010】
本発明によれば、X線ビームを発生するためのX線陽極が提案されており、このX線陽極は1つの支持体、並びに、X線ビームを発生する材料から成る1つの第1エミッション層及び少なくとも1つの第2エミッション層を有し、これらのエミッション層が支持体の片側において1つの中間層で分離されて、このX線陽極の中心方向において離れて配設されている。この場合、前記第1エミッション層及び前記少なくとも1つの第2エミッション層は、X線陽極の、X線陽極を運転中にX線ビームを発生させる電子ビームに対向している側、これは以降では焦点軌道側とも呼ばれる、に配設されている。中心方向とは、一般的に、基本的に第1エミッション層の延長によって広がっている面に対して垂直な方向である。回転陽極の場合には、この中心方向は同様に回転陽極の回転軸と一致している。エミッション層が一般的にコンパクトな円盤として形成されている固定陽極の場合には、中心方向は固定陽極の軸方向を示す。線状陽極の場合には、中心方向を規定する面は線状陽極の焦点軌道側である、すなわち、X線陽極の組立て状態においてX線ビームを発生させる電子ビームに対向している細長いエミッション層を備えた、通常は平らな側面である。
【0011】
本発明の基本的な考えは、X線陽極が、その外側表面に配置されている1つの活性な第1のエミッション層の他に、少なくとももう1つの第2のエミッション層を有し、この第2のエミッション層が1つの中間層により保護されて当初は支持体の内部に隠されている、ということである。その第1エミッション層が高エネルギー電子との相互作用によりX線ビームを発生するのに使用されている間は、この第2エミッション層は相応に寸法決めされた中間層により電子の衝突から保護されており、すなわち、不活性である。それまで活性であった第1エミッション層が消費され、必要とされるX線量収率が最早得られなくなると、この第1エミッション層及び中間層を、それまで不活性であった第2エミッション層まで削り取ることができる。解放された第2エミッション層は今や活性なエミッション層となり、X線管の引き続いての運転において、この第2エミッション層に電子が衝突し、この第2エミッション層においてX線陽極材料との相互作用によりX線ビームが発生される。したがって、本発明によるX線陽極は、複数のエミッション層全部が使い尽くされた時に初めて取り換えればよい。切削加工(研磨、旋盤切削(Abdrehen))により本発明によるX線陽極の寿命を著しく伸ばすことができ、従来構成のX線陽極に比べて約2倍となる。
単一の第2エミッション層の他に、X線陽極に第2エミッション層をさらに複数個設けることができ、これらはそれぞれ中心方向において中間層により分離されて配設されており、順次活性化することができる、すなわち、それぞれの上部にあるエミッション層が消耗された後で順次解放されX線ビームを発生するために使用される。これらのエミッション層の数に応じて、この種のX線陽極の平均的な寿命は、1つのエミッション層しか持たない従来のX線陽極の複数倍となる。
【0012】
熱伝達を改善するために、X線陽極の複数のエミッション層、中間層、及び、支持体はそれぞれ好適に互いに材料結合的に(stoffschluessig)結合されている。当初は不活性な第2エミッション層を保護するために、この不活性な第2エミッション層のX線陽極表面からの距離は、中心方向における電子のX線陽極への平均的侵入深さよりも大きくなければならない。中間層の厚さ、すなわち、2つの隣接したエミッション層間の間隔、は有利には少なくとも0.5mm、好適には少なくとも2mmである。これにより、電子ビームと当初は不活性な第2エミッション層との相互作用、すなわち、早期の損傷、をできるだけ小さくすることが保証される。X線陽極の重量、特に回転陽極の場合には慣性モーメント、を小さく保つために、中間層の厚さは基本的に必要以上の厚さにはしないように留意すべきであり、その厚さは有利には10mmより小さく、好適には5mmより小さい。
【0013】
好適な1実施形態では、前記の第1及び第2エミッション層は、活性なエミッション層の切替え時に、それぞれの活性なエミッション層の幾何学形状及び位置が大きくは異ならないように配置されている。好適には、第1及び第2エミッション層における電子の衝突領域は、焦点軌道側を上から見て、中心方向において合同である。電子の衝突領域とは、X線陽極の運転中に電子ビームによりスイープされるX線陽極の表面を意味する。有利には、電子の衝突領域における第1及び第2エミッション層の間隔はほゞ一定である。第1及び第2エミッション層が合同に、ないし、平行に配置されているので、未使用のエミッション層が解放されて活性なエミッション層になる時に、その活性なエミッション層の幾何学形状、およびその結果としてそのX線陽極の機能、を変化せずに保持することができる。したがって、X線陽極の面倒な位置決め直し、又は、電子ビーム経路の変更、のような運転パラメータの変更は不要である。使用済エミッション層を削り取った後のX線陽極の幾分薄くなった厚さを補償すべく、X線装置内でX線陽極を中心方向において移動できるように構成することができる。
【0014】
これらのエミッション層の材料としては、X線ビーム発生用材料として公知の材料、例えば、特に、タングステン又はタングステン合金、特別にはタングステン・レニウム合金、が対象となる。エミッション層を切替える時のX線陽極の放射特性が変わらないようにするために、好適には、第1及び少なくとも1つの第2のエミッション層には同一の材料が選ばれる。通常、エミッション層の厚さは0.2から2mmの範囲にある。
【0015】
支持体に適した材料は特に、モリブデン及びモリブデン基合金(例えば、TZM,MHC)、タングステン又はタングステン基合金、並びに、銅基合金である。モリブデン基合金、タングステン基合金、又は、銅基合金とは、少なくとも50原子%のモリブデン、タングステンないし銅、特に少なくとも90原子%のモリブデン、タングステンないし銅、を含む合金を意味する。TZMは、チタン成分が0.5重量%、ジルコニウム成分が0.08重量%、炭素成分が0.01〜0.04重量%、残りの成分がモリブデン(不純物を除く)であるモリブデン合金を意味する。この関連で、MHCは、ハフニウム成分が1.0〜1.3重量%、炭素成分が0.05〜0.12重量%、酸素成分が0.06重量%未満、残りの成分がモリブデン(不純物を除く)であるモリブデン合金を意味する。この支持体は、タングステン・銅複合材料、銅複合材料、粒子分散強化銅合金、粒子分散強化アルミニウム合金、又は、グラファイトを含むこともできる。
【0016】
好適な1実施形態では、個別のエミッション層を互いに分離する中間層が支持体と同じ材料で形成されている。これにより特に製造技術的なメリットが得られる。さらに、中間層の材料の熱膨張係数が、第1ないし第2エミッション層の熱膨張係数から35%以上異なっていなければ有利であることが判った。X線陽極では、活性なエミッション層とこれに直接に接している領域とが、X線陽極において最大の熱負荷を受ける領域である。熱膨張係数の差が大きすぎると運転中に大きな熱応力を惹き起こし、これがX線陽極の寿命に影響を及ぼす。
【0017】
中間層は簡単な代案では均質に構成することができるが、様々な機能を有する複数の中間層で構成することもできる。
この中間層は例えば、少なくとも1つのバリアー層を有することができる。このようなバリアー層は、拡散、例えば、炭素のエミッション層への望ましくない拡散、を抑えるために拡散・バリアー層として形成することができ、この目的のために、レニウム、モリブデン、タンタル、ニオブ、ジルコニウム、チタン、又は、これらの金属の化合物もしくは合金、又は、これらの金属の組合せで作ることができる。
このバリアー層は、X線陽極の運転に際して高エネルギー電子ビームとの相互作用により活性なエミッション層に生じるクラックが広がるのを防ぐためのバリアーとして計画することができる。特に、この種のバリアー層は、未だ未使用の第2エミッション層へのこれらのクラックの伝播、ないし、クラックメッシュの形成を防ぐのに役立つ。クラック抑制のために計画されたバリアー層は例えば、タンタル、ニオブ、又は、レニウムで構成することができる。一般的に、中間層材料の選択、ないし、エミッション層に直接接している、中間層の個別の層の材料の選択に際しては、第1又は第2エミッション層への中間層自身の材料の有害な拡散が生じないように留意すべきである。
【0018】
この中間層は、エミッション層への結合をより良くする少なくとも1つの結合層を有することができる。この種の結合層に好適に、エミッション層の構成成分、例えば、タングステンもしくはレニウム、又は、これらの化合物を、添加することができる。
【0019】
当初は不活性で順次活性化可能な複数のエミッション層をX線陽極に付加的に設ける、というアイディアは、非常に異なる構成の複数のX線陽極に応用することができる。特に、本発明によるX線陽極は固定陽極として、又は、線状陽極として作ることができる。
特に好適には、このX線陽極を回転陽極として作ることができる。この場合、有利には、第1及び第2エミッション層は環状に形成されており、中心方向において重ねて配設されている。回転陽極の基準価格は相対的に高く、したがって、特に回転陽極では、使用し尽した時に、回転陽極全体を取り換えるのではなく、エミッション層を修復すると経済的に引き合う。本発明による回転陽極は、修復された回転陽極に対して、第2エミッション層がついに使用される時にこの第2エミッション層が未だ手付かずである、というメリットを有する。
【0020】
本発明によるX線陽極を作るために、従来技術で実証されたX線陽極製造方法に準じることができる。複数のエミッション層及び中間層は、粉末冶金法を用いて、相応に層として形成された粉末ないし混合粉末の加圧、焼結及び鍛造により層結合体として作ることができる。高融点の支持体用金属材料、例えばTZM又はMHC、の場合には、複数のエミッション層及び中間層は、好適には、支持体と一緒に作られる。このために、第1ステップで、支持体用の粉末ないし混合粉末が型に入れられ加圧されることにより、相応に層として形成された粉末ないし混合粉末の加圧物が形成され、次に、第2エミッション層用の粉末ないし混合粉末が被着され加圧され、その次のステップで、中間層用の粉末ないし混合粉末が被着され加圧され、最後に、第1エミッション層用の粉末ないし混合粉末が被着され加圧される。次に、このようにして得られた加圧物が公知の方法で焼結され、鍛造され、さらに、機械的に仕上加工される。例えば銅のような比較的低融点の支持体用金属材料の場合には、複数のエミッション層および中間層で構成され粉末冶金的に作られた層結合体を、この支持体材料から成る溶融物で融着することができる。支持体用材料としてグラファイトが使用される場合には、独自に粉末冶金的に作られた層結合体を有する支持体と、複数のエミッション層との確実な結合は困難である。特にこの場合には、これらエミッション層及び中間層を公知の成膜方法、例えば、化学気相成長法、物理気相成長法、ないし、特にプラズマ溶射のような熱的成膜法、により支持体に被着することができる。
【0021】
本発明を、添付図面を参照して3つの実施例についての下記記載により詳細に説明する。図で表された寸法は実際とは異なる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図5】
図4の回転陽極のII−II断面に沿った断面図
【
図7】回転陽極の粉末冶金製造法のためのフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は固定陽極10の模式的な断面図であり、その基本的な構成は公知である。ほゞ円筒形の支持体13の斜めに切られた端面、これは運転中に電子ビームに対向している、に公知のように、第1エミッション層14が配設されており、運転中にこれに向けて高エネルギー電子ビームが加速され、このエミッション層材料との相互作用でX線ビームが発生される。本発明による固定陽極は第2エミッション層15により従来技術とは異なっており、この第2エミッション層は固定陽極の内部にあり、第1エミッション層から中心方向17において離れて配設されている。中心方向17は固定陽極10の軸方向と一致している。中間層16が両方のエミッション層14と15とを分離し、当初は不活性な第2エミッション層15を、第1エミッション層14に衝突する電子から保護する。第1エミッション層14がそれ以降の運転に最早適さなくなると、第2エミッション層15が解放されてX線ビームを発生すべく使用に供される。したがって、本発明による固定陽極は、第1エミッション層が使い尽くされた後にもう一度使用可能であり、両方のエミッション層が使用不能となってから初めて修復すればよい、ないし、作り直せばよい。すなわち、本発明による固定陽極10は、従来技術の固定陽極の約2倍の寿命を有する。第2エミッション層15の幾何学形状および位置は好適に第1エミッション層14の幾何学形状および位置に適合されているので、エミッション層の切替え時には、中心方向での移動を除けば固定陽極を複雑に再調整する必要はない。第1及び第2エミッション層は互いに平行であり、中心方向17に沿った視線方向において合同である。
【0024】
図2及び
図3は本発明によるアイディアの線状陽極11への応用を示している。従来技術による線状陽極の例は特許文献1に記載されている。線状陽極は延伸方向に沿って細長く伸びており、この実施例では延べ棒状の基本形を有している。この場合、陽極の主たる延伸方向は必ずしも直線に沿っている必要はなく、湾曲した線に沿っていてもよい。すなわち、その形状の少なくとも一部にわたって湾曲している直方体も本発明においては線状陽極とみなされる。第1及び第2エミッション層は直方体形状の支持体の側面に配設されており、この側面が運転中に電子ビームに対向している。第1エミッション層14は細長く作られており、中心方向17に対して垂直な面に広がっている。第1及び第2エミッション層14、15は中間層16により分離されて、中心方向17において離れて配設されている。両方のエミッション層14と15の間隔はそのエミッション層の面状の広がりにわたって一定である。好適には、これらの第1及び第2エミッション層は中心方向17に沿った視線方向において合同である。前記固定陽極と同様に、第2エミッション層は、第1エミッション層では必要なX線量収率が最早得られなくなり、その線状陽極を引き続き使用すべく第1エミッション層14及び中間層16が削り取られた時に初めて使用される。
【0025】
図4から
図6に本発明による、皿状で回転対称の支持体13を備えた回転陽極12が模式的に示されている。従来技術で知られている回転陽極のように、第1エミッション層14が、運転中に電子ビームに対向している側に、支持体の斜めに切られた肩部の環状領域に配設されている。この領域は、回転陽極運転中の電子の衝突領域50である。前述した実施形態と同様に、本発明によるこの回転陽極12は第1エミッション層14の他に第2エミッション層15を有し、この第2エミッション層は中間層16により分離されて、中心方向17において離れて配設されている。この中心方向17は回転陽極の回転軸の方向により与えられる。第2エミッション層は、この実施例では、電子の衝突領域50を越えて内側領域まで延びている。このことには後述するように粉末冶金的な製造での製造技術的な理由があるが、これが必ずしも必要ではないことは明らかである。第1エミッション層14がさらなる使用に最早適さなくなると、この第1エミッション層及び中間層16が除去される。好適には、回転陽極の研磨ないし旋盤切削時に、内側領域、すなわち、第1エミッション層が広がっている領域以外、に在る第2エミッション層15の部分も削り取られる。こうして、第2エミッション層15は活性なエミッション層として第1エミッション層14と同じ広がりを有する。第1及び第2エミッション層14、15は互いに平行に配設されており、この回転陽極では電子の衝突領域50において両方のエミッション層14、15は中心方向17に沿った視線方向において合同である。すなわち、両エミッション層14、15の幾何学形状は互いに一致しており、これにより、活性なエミッション層の切替え時に、中心方向での移動を除けば、回転陽極のさらなる適合化は不要である。好適には、第1及び第2エミッション層14、15の材料も互いに同じであり、その同一材料が両エミッション層14、15に使用され、その結果、活性なエミッション層の切替え時にこのX線陽極の発生ビームスペクトルも変化しない。
中間層16は、回転陽極の運転中に、当初は不活性な第2エミッション層15を衝突する電子から保護する。そして、中間層16は、衝突する電子との相互作用による予定より早い損傷が生じないように、十分な厚さを有するような寸法にすべきである。両エミッション層14、15間の(中心方向における)間隔が2から5mmであると有利であることが判った。というのは、これによって、一方では、通常発生する負荷時に十分な保護が保証され、他方、回転陽極の慣性モーメントが追加質量によって特に大きくはならないからである。良好な熱伝達を保証すべく、第1エミッション層は中間層と材料結合的に結合され、第2エミッション層は中間層及び支持体と材料結合的に結合されている。さらに、中間層が、活性なエミッション層で生じるクラックがさらに広がるのを防ぐバリアー機能を有していると有利であることが判った。このために中間層16は、有害物質がエミッション層内に拡散する(例えば、通常使用されている支持体材料TZMまたはMHCからの炭素の拡散)のを防ぐバリアーを形成することができる。さらに、中間層16がエミッション層の支持体への結合を改善すると有利である。これらの目的のために中間層16を、異なる機能を有する多数の様々な層で、特にバリアー層、及び/又は、結合層で、構成することができる。
【0026】
図7の左側は、本発明によるX線陽極、特に回転陽極の粉末冶金的な製造方法のフローチャートを示す。本発明によるこの製造方法は主に、1つの高融点金属から成る、ないし、1つの高融点金属をベースにした1つの合金、例えばTZMまたはMHC、から成る金属支持体の製造に適しており、少なくとも下記のステップを有する:
・成形型(Passform)に支持体用の粉末ないし混合粉末を充填する
・前記粉末ないし混合粉末を加圧し、成形物(Formkoerper)を作る
・前項ステップで得られた成形物に、第2エミッション層用の粉末ないし混合粉末を被着する
・前項ステップで得られた部品を加圧して、成形物を作る
・前項ステップで得られた成形物に、中間層材料用の粉末ないし混合粉末を被着する
・前項ステップで得られた部品を加圧して、成形物を作る
・前項ステップで得られた成形物に、第1エミッション層用の粉末ないし混合粉末を被着する
・前項ステップで得られた部品を加圧して、成形物を作る
・前記成形物を2000℃より高い温度で焼結する
・前記焼結された成形物を1300℃より高い温度で鍛造する
・オプション的に機械的な仕上加工を行い、X線陽極、特に回転陽極を作る
【0027】
図7の右側に、各製造ステップで得られた中間製品ないし最終製品が、回転陽極を例として模式的に掲載されている。ここで、加圧成形物は符号18、18‘、18‘‘、18‘‘‘で、焼結された成形物は19で、鍛造物は20で、完成された回転陽極は12で示されている。
【0028】
図8a、
図8b、
図9a及び
図9bは具体的な実施例に基づきこれらの中間製品の一部を示し、この実施例では原粉末として、支持体にはTZM粉末、両エミッション層にはW95Re5粉末が使用される。これらの粉末が前述した方法ステップに応じて層として形成され、プレスで最大で50kN/cm
2で加圧され、次いで、約2000℃から2400℃の温度で焼結された。こうして得られた焼結部品19が
図8aでは側面図で、
図8bでは側面断面図で示されている。
続いてこの焼結部品は衝撃スピンドルプレス(Schlagspindelpresse)で1300℃より高い温度で鍛造され、肩の垂れた部品が作られる。この鍛造物20が、
図9aでは上から見た上面図で、
図9bでは断面図で図示されている。これらのプロトタイプではエミッション層14、15は、製造技術的な理由から、この部品の広がり全体にわたって広がっているが、大量生産に対しては当然ながら、エミッション層用の粉末を最終的に必要とされる範囲でのみ、垂れた肩に被着することができる。次にこの鍛造物は機械的に仕上加工され、特に、第1エミッション層は必要とされない内側領域では削り取られる。熱放散性を高めるために、回転陽極の焦点軌道側の反対側に(公知の方法で)熱放散体を設置することができる。
【符号の説明】
【0029】
10 固定陽極
11 線状陽極
12 回転陽極
13 支持体
14 第1エミッション層
15 第2エミッション層
16 中間層
17 中心方向
18、18‘、18‘‘、18、‘‘‘18 加圧成形物
19 焼結物
20 鍛造物