【実施例】
【0020】
次に、上記特徴を有する好ましい実施例を、図面に基づいて詳細に説明する。
図1〜
図15は、本実施例のロボットハンドHを示している。
【0021】
<基本構成>
ロボットハンドHは、主にハンドユニット10とベースユニット30で構成されている。
ハンドユニット10の掌部14は、略コの字形をしている。そして、ハンドユニット10にはナックルカバー15が備わる。また、ハンドユニット10には、指11が複数(図示例では3本)接続されている。指11は電動モータを駆動源として、ギヤ等の減速機構、ボールねじ等の直動機構、後述するロック機構、関節部のリンク機構等を介して力を伝達し、指関節を屈曲・伸展することができる。
この構成によって、例えば、ナックルカバー15を介して外部からはたらく力の大部分を、ハンドユニット10のコの字形状部で受けることができるので、指11の関節は保護される。
【0022】
<指関節を全て伸展/屈曲している状態>
図1及び
図2は、ロボットハンドHが全ての指関節を伸展した状態を示している。
3本の指11の各々には、第1関節12と第2関節13の2つの関節がある。
第1関節12と第2関節13の全てを伸展した状態で、掌部14を横から見るとき、略コの字形の空間が表れる(
図2参照)。また、このとき指11は、掌部14のコの字形状の開口部外側に向かって伸びている状態となる。
図3及び
図4は、ロボットハンドHが全ての指関節を屈曲した状態を示している。
指11の第1関節12と第2関節13を完全に伸展している状態から、第1関節12と第2関節13の全てを90°以上屈曲し、3本の指11の全てがコの字形状の掌部14の内側に収まっている。このとき3本の指11同士は接触していない。
【0023】
<指機構ユニットについて>
ハンドユニット10において、複数本が接続されている各指11は、駆動源の電動モータと、電動モータの駆動力を伝達する機構部分を含め指機構ユニットを構成している。
図5及び
図6では、ハンドユニット10から複数ある指機構ユニット20の一つを抜き出して示している。
図5は、指11の関節(12、13)を伸展した状態における指機構ユニット20を示している。この
図5において、
図5(a)は、指機構ユニット20の斜視図である。そして、
図5(b)は、指機構ユニット20の正面図であって、
図5(c)は、
図5(b)で指示しているA−Aの断面図である。
図6は、指11の関節(12、13)を屈曲した状態における指機構ユニット20を示している。この
図6において、
図6(a)は、指機構ユニット20の斜視図である。そして、
図6(b)は、指機構ユニット20の正面図であって、
図6(c)は、
図6(b)で指示しているB−Bの断面図である。
指機構ユニット20は電動モータとロック機構と減速機構とが一体となったモータユニット21、基節フレーム22に収められたボールねじ23、中節、末節、末節と中節間の第1関節12を駆動する従属リンク24、中節と基節間の第2関節13を駆動するメインリンク25等からなる。電動モータとロック機構と減速機構とが一体となったモータユニット21の構造例としては、例えば、国際公開第2013/164969号公報に開示されているものがある。
電動モータの駆動力をロック機構と減速機構を介して出力するモータユニット21は、その出力を歯車機構26を介してボールねじ23に伝え、ボールねじ23を回転させる。そして、ボールねじ23のナット27に回転可能に接続されたメインリンク25を駆動することにより各関節(12、13)を屈曲・伸展させることができる。指11の末節、中節、基節および従属リンク24は4節リンクを構成しており、第1関節12の屈曲・伸展に応じて第2関節13も従属して駆動する。
ロボットハンドHは、モータユニット21にロック機構を含む単純な構成により指関節の大きさおよび消費電流を抑えることができ、コの字形状の空間を確保しつつ複数の指機構ユニット20を配置することができる。
【0024】
<分割ユニット構造について>
図7は、ロボットハンドHを主要ユニット毎に分解した状態を示している。
ロボットハンドHは、ハンドユニット10とベースユニット30とに分解することができ、ハンドユニット10は、第1のハンドユニット10Aと第2のハンドユニット10Bとで構成されている。
第1のハンドユニット10Aには、2本の指11が接続されている。ロボットハンドHの指を屈曲したときに、第1のハンドユニット10Aの2本の指11の間に位置するように、1本の指11が第2のハンドユニット10Bに接続されている。第1のハンドユニット10Aと第2のハンドユニット10Bとは、互いに分離可能な状態で、結合ピン16により結合される。
第1のハンドユニット10Aと第2のハンドユニット10Bは、ベースユニットに対してボルト49で固定される。
ロボットハンドHは、この様な分割ユニット構造としていることによって、洗浄やメンテナンスが容易である。また、特許文献2のロボットハンドのように、駆動源へのエネルギー供給が無くても指の位置を維持できる機構を各指11に備えている場合に、何らかの不具合で作業対象物を把持している状態のままとなった場合にも、ボルト49を外して把持している物を取り出すことができる。
【0025】
<掌回転構造について>
ハンドユニット10は、ベースユニット30の主要部に対して可動域を有する。
図8は、この可動域の一例を示したロボットハンドHの正面図あり、
図9(a)は、この
図8の状態に対応する背面図である。また、
図9(b)は、可動域の範囲内でハンドユニット10を動作させるための動力部を主に、
図9(a)の背面図側斜め後方から抜き出して視た分解斜視図である。
ベースユニット30は、アンダープレート31、サイドプレート32A,32B、センターフレーム33、バックプレート34などで構成されている(
図7参照)。
センターフレーム33には、回転軸シャフト35が軸受36を介して回転可能に支持されている。また、回転軸シャフト35の一端はバックプレート34に固定されており、動力部40にある電動モータを駆動源として一体に動作する。
回転軸シャフト35の他端(バックプレート34の反対側)は、ハンドユニット10を支持している。また、ハンドユニット10は、ボルト49によってバックプレート34に固定されている。
掌回転構造の動力部40はバックプレート34の下方、センターフレーム33の後方に位置し、アンダープレート31に固定されている。
この動力部40は電動モータとロック機構と減速機構とが一体となったモータユニット41、歯車機構46、フレーム42に収められたボールねじ43、ボールねじナット47に回転可能に接続されたスリーブ44等からなる。
バックプレート34の下方にはレバー部品37が固定されている。一方、スリーブ44には、丸穴44hが形成されており、この丸穴44hにレバー部品37の円筒形状部37cの少なくとも一部が摺動可能な状態で挿入される。
歯車機構46は、モータユニット41の回転出力軸に固定されているピニオン歯車46aと、大歯車部と小歯車部のある有段歯車46bと、ボールねじに固定されている歯車46cとで構成されている。モータユニット41は、その出力をピニオン歯車46aから有段歯車46bの大歯車に伝達し、更に有段歯車46bの小歯車から歯車46cに伝達して、ボールねじ43を回転させる。ボールねじ43が回転するとき、ボールねじ43のナット47に回転可能に接続されたスリーブ44とレバー部品37を介して力を伝達して、ハンドユニット10をベースユニット30に対して回動される。より具体的には、スリーブ44とレバー部品37は、レバー部品37の円筒形状部37cの軸方向に摺動可能に結合されているため、ナット47の移動によるハンドユニット10の回動中心とナット47間の距離の変化に合わせて軸方向に摺動しながら、スリーブ44からハンドユニット10を回動するために必要なトルクを伝達することができる。これにより、例えば、モータユニット41の回転出力の方向を一定の時間で繰り返し変えることで、ハンドユニット10がベースユニット30に対して、繰り返し揺動する動作をさせることができる。
この構成によって、ハンドユニット10又はバックプレート34が、アンダープレート31、サイドプレート32A,32B、センターフレーム33などベースユニット30の主要部に対して干渉しない範囲で、ハンドユニット10は、ベースユニット30に対して回動できる。
図8は、ロボットハンドHを正面からみたときに、ハンドユニット10を、回転軸シャフト35を中心として左側にα度回動した状態を示している。この構成によりロボットハンドHは、ハンドユニット10を±α度の範囲で左右に揺動させるような動作を行うことができる。
この様な掌回転構造を備えることで、ロボットハンドHは、個々の指の根本で内外転できる機構を備えなくとも手首の面に対して傾いた物体に対しても容易にアクセスすることが可能となっている。例えば、斜めの手すりにアプローチしたり、ドアノブを捻るといった動作を容易に行える。
【0026】
<ロック機構について>
モータユニット21には、特許文献2などに開示されている逆入力防止のロック機構が組み込まれている。このロック機構の基本的な構成と、特徴的な作用効果について
図16と
図17を用いて説明する。
図16は、ロック機構Lの構造を示す図である。ロック機構Lは、入力回転体70と出力回転体60が、同じ中心軸を有しており、
図16(a)は、この中心軸を通る縦断面図である。また、
図16(b)は、
図16(a)で指示しているC−Cの横断面図である。
図17は、ロック機構Lの動作説明図である。
ロック機構Lは、円柱状空間を有する収納室91と、この収納室91に同軸状に収納された出力回転体60と、出力回転体60に対し同軸状に設けられた入力回転体70と、収納室91の内周面91aと出力回転体60の外周面との間に設けられた係合子81,82と、この係合子81,82を周方向の一方側へ付勢する付勢部材85とを備える。そして、出力回転体60の外周面に、一方側へ向かって収納室91の内周面91aとの間を徐々に狭めるカム面61,63が形成されている。
出力回転体60及び入力回転体70の何れにも回転力が加わっていない状態〔
図16(b)参照〕では、係合子81,82が、それぞれ、付勢部材85に押圧されて、カム面61,63と収納室91の内周面91aとの間の楔状部分に押し付けられる。
したがって、出力回転体60は、一方向〔
図16(b)によれば時計方向〕と他方向〔
図16(b)によれば反時計方向〕の何れにも回転しないように、静止した状態に維持される。この状態から、出力回転体60に、外部から、例えば一方向〔
図16(b)によれば時計方向〕の回転力が加わった場合には、一方向へ回転しようとする出力回転体60のカム面63と収納室内周面91aとの間に、係合子82が食い込むようにして強く押し付けられるため、出力回転体60の一方向への回転が阻まれる。
同様にして、出力回転体60に、外部から、例えば他方向〔
図16(b)によれば反時計方向〕の回転力が加わった場合には、他方向へ回転しようとする出力回転体60のカム面61と収納室内周面91aとの間に、係合子81が食い込むようにして強く押し付けられるため、出力回転体60の他方向への回転が阻まれる。
また、例えば、
図17に示すように、入力回転体70に、上記一方向の回転力が加わった場合〔
図17(a)〕には、入力回転体70の押圧伝達部71の当接面71bが、先ず係合子82に当接する〔
図17(b)〕ことで、該係合子82とカム面63との摩擦、および該係合子82と収納室内周面91aとの摩擦が小さくなり、その後で、押圧伝達部71の当接面71bが凹部62内の被押圧面62bに当接して出力回転体60を押動する〔
図17(c)〕ため、出力回転体60が一方向へスムーズに回転する。
また、入力回転体70に上記他方向の回転力が加わった場合には、図示を省略するが、入力回転体70の押圧伝達部71の当接面71aが、先ず係合子81に当接することで、該係合子81とカム面61との摩擦、および該係合子81と収納室内周面91aとの摩擦が小さくなり、その後で、当接面71aが凹部62内の被押圧面62aに当接して出力回転体60を押動するため、出力回転体60が他方向へスムーズに回転する。
このロック機構Lによって、入力側からの回転力を伝達する一方で、出力側外部からの負荷は入力側に伝達されるのを防ぐことができる。尚、ロック機構Lに対しては、入力回転体70と一体の入力軸73に固定配置した歯車等(図示しない)を介して、回転力を入力できる。また、出力回転体60と一体の出力軸64に固定配置した歯車等(図示しない)を介して、回転力を出力させることができる。
このようなロック機構が組み込まれていることにより、指11が作業対象物を把持している状態で、駆動源の電動モータが停止した場合にも、作業対象物を把持している状態のまま指11の位置を維持できる。例えば、
図13に示すように、3本(図示上は2本)の指11で作業対象物である板材54を把持している状態で、駆動源の電動モータに電流を供給できなくなったとしても、板材54を把持している状態を維持することができる。また、特許文献2などに開示される逆入力防止のロック機構は、外径数mm程度のサイズでも構成できるので、比較的小型のロボットハンドでも容易に適用することができる。
このようなロック機構は、上述の掌回転のための機構に組み込むこともできる。この場合、ハンドユニット10を回動した状態で、駆動源の電動モータへの電流供給を停止しても、その状態を維持できる。
他にも無通電での逆入力防止のロック機構としては、すべりネジによる送りネジ機構等の不可逆動作機構や、無励磁動作型の電磁ブレーキ等の使用が考えられる。このような無通電ロック機構を備えるロボットハンドは、駆動源への通電を切っても指の位置などの状態を維持できるので、消費電力と温度上昇を抑制できる。
【0027】
<耐荷重構造について>
ロボットハンドHにおける略コの字形をしている掌部14と反対側(略コの字形の外側)であって、ナックルカバー15が配置されている部位をナックル側、バックプレート34が配置されている部位側を甲側とする。ハンドユニット10は、甲側からバックプレート34に複数(図示例では4本)のボルト49を挿入してハンドユニット10とバックプレート34とを締結している。締結されたボルト49の中心軸と、ハンドユニット10における第1のハンドユニット10Aと第2のハンドユニット10Bとの結合ピン16の中心軸は平行である。そして、バックプレート34には、結合ピン16とボルト49の中心軸と平行な面を持つ段付き部34aが形成されている。(主に
図7参照)
ハンドユニット10の一部は、段付き部34aに接触部c(
図2、
図4、
図7参照)で面接触している。
これにより、ハンドユニット10とベースユニット30との間で可動域を備えるとともに、比較的容易に分離可能な機能を備えつつ、耐荷重性に優れる構造となっている。
複数のボルト49を甲側に集中して配置していることにより、比較的大きい径のボルトを適用して締結及び解除の作業を行いやすい。また、作業対象物を把持している最中でもハンドユニット10とベースユニット30とを容易に分離することができる。
平行に配置されたボルト49、結合ピン16、回転軸シャフト35とこれを支持する軸受36及び、バックプレート34の段付き部34aによって、ロボットハンドHが外部から受ける荷重の大部分に耐えることができる。また、ベースユニット30は、ハンドユニット10の一部を面接触で受けるので、より強度を上げることができる。
具体的には、
図2に示すように、ハンドユニット10で掌部14のコの字形状上側に向かう力Fを受けたとき、ロボットハンドHには、力Fと同じ向きに働く力である荷重Paと、力Fと反対の向きに働く力である荷重Pbが、主に発生する。このとき荷重Paを、結合ピン16、回転軸シャフト35とこれを支持する軸受36等で受けるとともに、荷重Pbを段付き部34aの面で受ける。ボルト49、結合ピン16、回転軸シャフト35とこれを支持する軸受36とが、向きを統一して配置していることと、段付き部34aに形成していることによって、耐荷重性を上げている。
【0028】
<指先形状と様々な把持形態について>
ロボットハンドHの指先17は、第1関節12が屈曲及び伸展する方向の厚みが、指先に向かって小さくなっている形状をしている。指11が90°以上の角度範囲で屈曲・伸展ができる複数の関節を持つこと、掌部14がコの字形状をしていることに加え、この指先17の形状により、様々な形態の作業対象物を確実に扱うことができる。
例えば、
図10に示すように、指先17が掌部14のコの字形状内側に位置するように、指11を屈曲して、指先17と掌部14との間に細い棒材51を確実に保持することができる。
また、
図11に示すように、第1関節12を大きく屈曲した状態で指先17が掌部14のコの字形状の少し外側に位置するようにして、指先17と掌部14との間に太い棒材52を確実に保持することができる。
また、
図12に示すように、壁Wの壁際に沿って位置する細いケーブル53を複数の指11の指先17の先端部分で把持することができる。
また、
図13に示すように、指先17が掌部14から離れた位置で、厚みの小さい板材54を複数の指先17の先端部分で把持することができる。
また、
図14に示すように、第2関節13を完全に伸展し、第1関節12をわずかに屈曲させて、厚みのあるブロック材55の端を掌部14で受けながら、複数の指11の指先17の先端部分で安定して把持することができる。
また、
図15に示すように、第1関節12と第2関節13を伸展して、指先17からドアレバー56にアプローチすることができる。
図10〜12で示したように、第1関節12が屈曲及び伸展する方向の厚みが、指先に向かって小さくなっている形状をしている指先17の先端部分又は、厚みが大きい部分から小さくなっていく部分の面を、作業対象物に応じて巧みに使うことで、様々な形態の作業対象物を確実に保持することなどができる。
【0029】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施例に限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲で適宜変更が可能である。