(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6565013
(24)【登録日】2019年8月9日
(45)【発行日】2019年8月28日
(54)【発明の名称】畜肉様加工食品、その製造方法及び畜肉様加工食品用添加剤
(51)【国際特許分類】
A23J 3/00 20060101AFI20190819BHJP
A23J 3/16 20060101ALI20190819BHJP
【FI】
A23J3/00 503
A23J3/16
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-182483(P2018-182483)
(22)【出願日】2018年9月27日
【審査請求日】2019年1月28日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000231453
【氏名又は名称】日本食品化工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086689
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100157772
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 武孝
(72)【発明者】
【氏名】小川 雄右
【審査官】
星 功介
(56)【参考文献】
【文献】
特開2016−158571(JP,A)
【文献】
特開平01−179655(JP,A)
【文献】
特開2016−073262(JP,A)
【文献】
特許第3438813(JP,B2)
【文献】
特開2005−185122(JP,A)
【文献】
特開2012−130252(JP,A)
【文献】
特開2009−268378(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23J 3/00−3/34
A23L 11/00,29/212−29/225
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂加工澱粉及び大豆蛋白質素材を含有し、畜肉素材の含量が30質量%以下であり、前記畜肉素材を除く動物由来蛋白質素材、及び前記大豆蛋白質素材を除く植物由来蛋白質素材から選ばれた1種又は二種以上を更に含有することを特徴とする畜肉様加工食品(ただし衣材にのみ油脂加工澱粉を含有する畜肉様加工食品を除く)。
【請求項2】
前記油脂加工澱粉の含量が0.5〜10質量%である、請求項1に記載の畜肉様加工食品。
【請求項3】
前記動物性蛋白質素材が、乳蛋白質素材、卵白から選ばれたものであり、前記植物由来蛋白質素材が、エンドウ豆蛋白質素材、小麦蛋白質素材から選ばれたものである、請求項1又は請求項2に記載の畜肉様加工食品。
【請求項4】
卵白を含有する、請求項1又は請求項2に記載の畜肉様加工食品。
【請求項5】
前記畜肉素材を含まない、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の畜肉様加工食品。
【請求項6】
油脂加工澱粉及び大豆蛋白質素材を含有し、かつ畜肉素材の含有量が30質量%以下であり、前記畜肉素材を除く動物由来蛋白質素材、及び前記大豆蛋白質素材を除く植物由来蛋白質素材から選ばれた1種又は二種以上を更に含有する原料を、混合し、成形し、加熱することを特徴とする畜肉様加工食品(ただし衣材にのみ油脂加工澱粉を含有する畜肉様加工食品を除く)の製造方法。
【請求項7】
前記原料中の油脂加工澱粉の含有量を0.5〜10質量%とする、請求項6に記載の畜肉様加工食品の製造方法。
【請求項8】
前記原料は、前記畜肉素材を含まない、請求項6又は請求項7に記載の畜肉様加工食品の製造方法。
【請求項9】
大豆蛋白質素材を含有し、畜肉素材の含量が30質量%以下の畜肉様加工食品用の食感改良剤であって、油脂加工澱粉を含有することを特徴とする畜肉様加工食品用食感改良剤(ただし衣材にのみ油脂加工澱粉を添加する畜肉様加工食品用食感改良剤を除く)。
【請求項10】
前記畜肉様加工食品が畜肉素材を含まない食品である、請求項9記載の畜肉様加工食品用食感改良剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大豆蛋白質素材を含有し、畜肉素材の含量が30質量%以下である畜肉様加工食品、その製造方法及び畜肉様加工食品用添加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
宗教的理由あるいは個人的信条、更には健康訴求や畜肉原料の供給不安などを背景にして、畜肉原料をほとんどあるいは全く使用せず、大豆素材や穀類などの植物性原料を多く配合した畜肉様加工食品が市場から求められる傾向が強まっている。一般的に、植物性原料としては、大豆蛋白質がハンバーグやミートボール等の畜肉様加工食品の原料として広く使用されている。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、大豆蛋白濃度が一定範囲の植物蛋白水性混合物をゲル化し、更に粉砕した粉砕物を使用した肉様食品が記載されている。
【0004】
また、下記特許文献2には、特定の組織状大豆蛋白を結着原料と混合し、成形加熱することで得られる畜肉様加工食品が記載されている。
【0005】
また、下記特許文献3には、還元糖を一定範囲含む組織状大豆蛋白素材を使用した畜肉様加工食品が記載されている。
【0006】
更に、下記特許文献4には、澱粉及び大豆蛋白質素材を配合した組織状大豆蛋白質と、分離大豆蛋白質、水及び油脂を配合したエマルジョンを含有する嚥下困難者用ハンバーグ様食品が記載されている。
【0007】
しかし、加工食品中への畜肉原料の配合割合が少ない場合、咀嚼時のほぐれやジューシー感が損なわれ、ぬめりなどの食感に不自然さが生じることから、既存の畜肉加工食品と遜色ない畜肉様加工食品の製造は難しかった。
【0008】
また、特許文献4等に示されるように、畜肉様加工食品の原料として、澱粉が用いられる場合もある。澱粉は、大豆蛋白質等と比べ安価であるため、畜肉様加工食品に澱粉を一定量配合することでその製造コストを抑えることが可能となる。しかし、例えば特許文献4に記載されているように、畜肉様加工食品に澱粉を配合すると、ぬめりや糊感が生じ、好ましくないことが知られていた。
【0009】
ここで、食品に添加される澱粉として通常の澱粉に加え種々の加工処理を施して物性を改善した加工澱粉も汎用されている。加工澱粉の1つである油脂加工澱粉は、揚げ物用衣材や水産肉練り製品に加え畜肉製品にも用いられる澱粉素材である。
【0010】
しかし、当該用途においては、例えば畜肉組織にピックル液の状態でインジェクションされたり畜肉のミンチ肉に副原料として混合されたりと、主原料である畜肉素材との相互作用を意図して使用されている。
【0011】
すなわち、あくまでも畜肉素材の一部増量目的や畜肉素材の食感改良目的で使用されており、その相互作用の主体である畜肉素材自体をほとんどあるいは全く配合しない畜肉様加工食品において油脂加工澱粉を用いるという報告例はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開昭60−186252号公報
【特許文献2】国際公開第2011/043384号
【特許文献3】特開2013−34417号公報
【特許文献4】特開2016−67250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、安価でかつ澱粉由来の糊感の少ない畜肉様加工食品、その製造方法及び畜肉様加工食品用添加剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記状況を鑑みて、本発明者は鋭意検討を行ったところ、油脂加工澱粉と、大豆蛋白質素材と、更に必要に応じて他の蛋白質素材とを組合せることによって、食感等の性能に優れた畜肉様加工食品を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明の畜肉様加工食品は、油脂加工澱粉及び大豆蛋白質素材を含有し、畜肉素材の含量が30質量%以下であることを特徴とする。
【0016】
本発明の畜肉様加工食品においては、前記油脂加工澱粉の含量が0.5〜10質量%であることが好ましい。
【0017】
また、前記畜肉素材を除く動物由来蛋白質素材、及び前記大豆蛋白質素材を除く植物由来蛋白質素材から選ばれた1種又は二種以上を更に含有することが好ましい。
【0018】
また、前記動物性蛋白質素材が、乳蛋白質素材、卵白から選ばれたものであり、前記植物由来蛋白質素材が、エンドウ豆蛋白質素材、小麦蛋白質素材から選ばれたものであることが好ましい。
【0019】
更に、卵白を含有することが好ましい。
【0020】
更に、前記畜肉素材を含まないことが好ましい。
【0021】
また、本発明の畜肉様加工食品の製造方法は、油脂加工澱粉及び大豆蛋白質素材を含有し、かつ畜肉素材の含有量が30質量%以下である原料を、混合し、成形し、加熱することを特徴とする。
【0022】
本発明の畜肉様加工食品の製造方法においては、前記原料中の油脂加工澱粉の含有量を0.5〜10質量%とすることが好ましい。
【0023】
また、前記原料は、前記畜肉素材を除く動物由来蛋白質素材、及び前記大豆蛋白質素材を除く植物由来蛋白質素材から選ばれた1種又は二種以上を更に含有することが好ましい。
【0024】
更に、前記原料は、前記畜肉素材を含まないことが好ましい。
【0025】
また、本発明の畜肉様加工食品用添加剤は、畜肉素材の含量が30質量%以下の畜肉様加工食品用の添加剤であって、油脂加工澱粉を有効成分として含有することを特徴とする。
【0026】
本発明の畜肉様加工食品用添加剤においては、前記畜肉様加工食品が畜肉素材を含まない食品であることが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、安価でかつ澱粉由来の糊感の少ない畜肉様加工食品を得ることができる。更には、硬さ、ほぐれ感及びジューシー感などの性能に優れた畜肉加工食品に近い食感の畜肉様加工食品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、油脂加工澱粉及び大豆蛋白質素材を含有し、畜肉素材の含量が30質量%以下である畜肉様加工食品に関するものである。
【0029】
油脂加工澱粉及び大豆蛋白質素材を配合することにより、安価でかつ糊感を抑え、更に畜肉加工食品に近い食感を有する優れた畜肉様加工食品を得ることができる。油脂加工澱粉は、畜肉素材中の蛋白質に限らず、種々の動物性及び植物性蛋白質に対して疎水的相互作用によって結着して蛋白質と一体化した澱粉−蛋白質ゲルを形成することができ、これが食感や物性面で非油脂加工澱粉に対する優位性のメカニズムであると推察される。なお、本発明は上記推察に拘束されるものではない。
【0030】
本発明における「糊感」とは、澱粉に由来する特徴的な食感であり、澱粉糊化物特有のヌメリ感、ベタつき、ゲル感の総称である。畜肉様加工食品において、糊感は喫食者に違和感を与える食感であり好ましくない。
【0031】
また、本発明における「硬さ」とは、畜肉様加工食品を歯で噛んでゲルを変形させるのに必要な力の大きさの程度である。畜肉様加工食品において、硬さの評価が低い(柔らかい)ほど畜肉加工食品とは異なる食感となり、好ましくない。
【0032】
本発明における「ほぐれ感」とは、畜肉様加工食品を歯で噛んだ時にゲルが畜肉様に不均質に崩れる程度である。畜肉様加工食品において、ほぐれ感の評価が低いほど畜肉加工食品とは異なる食感となり、好ましくない。
【0033】
本発明における「ジューシー感」とは、畜肉様加工食品を喫食した際に感じる汁の量の程度である。畜肉様加工食品において、ジューシー感の評価が低いほど畜肉加工食品において好まれない食味となり、好ましくない。
【0034】
すなわち、畜肉様加工食品において、「硬さ」、「ほぐれ感」及び「ジューシー感」を高めることにより、その品質を通常の畜肉加工食品に近づけることができる。
本発明において、畜肉様加工食品とは、挽き肉などの畜肉素材の含量を一定以下として通常の畜肉加工食品と同等又は類似の食味・食感を再現した食品、すなわち畜肉素材の含量が一定以下の畜肉様加工食品である。本発明の畜肉様加工食品は、畜肉素材の含量が30質量%以下である。宗教的理由、個人的信条など種々の理由で畜肉を口にしない人でも食べることができるという点を考慮すると、本発明の畜肉様加工食品は、全く畜肉を含まないもの(ミートレス加工食品)であることが望ましい。
【0035】
畜肉加工食品は、挽き肉などの適当な大きさにカットした畜肉素材と、野菜・卵・香辛料・食塩などの他の原料とを混合撹拌し、成形した後、加熱処理することで得られる食品であり、例えば、ソーセージ、ハンバーグ、肉団子、プレスハム、チョップドハム、サラミ、ナゲット、メンチカツ、ロールキャベツ、ミートローフ、テリーヌ、つくね、肉まん、餃子、シュウマイ、成形肉などが挙げられる。
【0036】
本発明の畜肉様加工食品は、油脂加工澱粉及び大豆蛋白質素材を含有し、畜肉素材の含有量が30質量%以下であることを除けば、上記従来の畜肉加工食品と同様な形態で製品化することができ、その製造方法も同様な方法を採用することができる。
【0037】
本発明の畜肉様加工食品は、種々の理由で畜肉を口にしない人でも食べることができるというメリットを得る上では、畜肉素材を一切含まないものが好ましいが、畜肉加工食品が有する、畜肉素材のコストや供給安定性・品質安定性などのデメリットを低減できるという意味においては、一定以下であれば畜肉素材を含んでいてもよい。畜肉様加工食品の原料として用いられる可能性のある畜肉素材は、通常の畜肉加工食品に用いることのできる鳥獣の食肉であれば特に制限はなく、家畜(豚、牛、羊、山羊、馬など)や、家禽(鶏、うずら、アヒル、鴨、合鴨、ガチョウ、七面鳥など)や、鹿、猪などの肉を用いることができる。なお、上記畜肉素材は、いわゆる肉(筋肉)だけでなく皮、脂肪、スジ、軟骨、内臓、血液などの一般的に畜肉加工食品に用いられる組織も含む。
【0038】
また、本発明の畜肉様加工食品に用いられる他の原料も、特に制限はなく、通常の畜肉加工食品と同様に、求められる風味・食感・物性・外観などに応じて、例えば、野菜、卵、乳製品、調味料、穀粉類、澱粉類、食物繊維、増粘多糖類、油脂、糖類、塩類、香辛料、着色料、保存料などを用いることができる。
【0039】
本発明の畜肉様加工食品に用いられる油脂加工澱粉は、澱粉に油脂を添加混合し、常温以上の温度で一定期間熟成することにより得られる澱粉であり、澱粉粒の表面に油脂が付着・結合することでその性質が改質されたものである。原料となる澱粉は、食品用に利用可能な澱粉であれば特に制限はないが、例えばコーンスターチ、タピオカ、米澱粉、小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、緑豆澱粉、片栗澱粉、葛澱粉、蕨澱粉、サゴ澱粉、緑豆澱粉、エンドウ豆澱粉等が挙げられる。このなかでも特にタピオカ、コーンスターチ、米澱粉、馬鈴薯澱粉が安価で大量に入手しやすいので好ましい。また、いずれの澱粉においても通常の澱粉に加え、ウルチ種、ワキシー種、ハイアミロース種のように、育種学的手法もしくは遺伝子工学的手法において改良されたものを用いてもよい。
【0040】
更に、本発明においては、各種加工澱粉を油脂加工澱粉の原料として使用することも可能である。すなわち、原料澱粉に、酸化処理、エステル化処理、エーテル化処理、架橋処理といった化学修飾処理や、α化処理、造粒処理、湿熱処理、ボールミル処理、微粉砕処理、加熱処理、温水処理、漂白処理、殺菌処理、酸処理、アルカリ処理、酵素処理といった加工処理、あるいはそれらの2種以上の加工処理を施した澱粉を使用してもよい。原料澱粉として、架橋処理が施された澱粉を用いるのが好ましい。
【0041】
油脂についても食用油脂であれば特に制限は無く、例えば、アマニ油、エゴマ油、シソ油、くるみ油、サフラワー油、ぶどう油、大豆油、ひまわり油、とうもろこし油、綿実油、ごま油、なたね油、落花生油、オリーブ油、パーム油、やし油、牛脂、豚脂、鶏脂、羊脂、鯨油、魚油、またこれらの分別油、エステル交換油等の加工油脂等が挙げられる。好ましくはアマニ油、エゴマ油、シソ油、サフラワー油、大豆油、ぶどう油が挙げられる。また、油脂そのものに替えて油脂を含む大豆粉などを用いることもできる。更に、油脂に加え乳化剤を用いることもできる。
【0042】
油脂加工澱粉は、澱粉に少量の油脂を混合した後に熟成処理を施こすことで製造される。本発明において熟成処理とは、澱粉と油脂の混合物を常温(例えば15℃)以上の温度で一定時間保存することである。熟成処理は、生産性を考慮すると、例えば、澱粉混合物を反応機、エクストルーダー、ドライヤー、タンク、容器、包材等に入れた状態で、例えば30℃〜150℃で処理することによって実施することが好ましい。熟成処理の日数は、特に限定されないが、温度が高いほど短時間でよく、例えば30分〜2ヶ月が好ましく、1時間〜1ヶ月がより好ましい。
【0043】
大豆蛋白質素材は、大豆より分離精製された蛋白質であり、その製造方法は、特に制限はなく、例えば大豆油を抽出した残渣である脱脂大豆を原料にして製造することができる。その性状も特に制限はなく、粒状、粉末状、ペースト状、繊維状などが挙げられ、製造する畜肉様加工食品に求められる性質・食感により適宜選択することができる。
【0044】
畜肉様加工食品における油脂加工澱粉の含量は、特に制限はないが、その効果の点から0.5〜10質量%とすることができ、1〜7質量%とするのが好ましい。
【0045】
本発明の畜肉様加工食品は、油脂加工澱粉及び大豆蛋白質素材に加えて、他の蛋白質素材、すなわち、畜肉素材を除く動物由来蛋白質素材、及び大豆蛋白質素材を除く植物由来蛋白質素材から選ばれた1種又は二種以上を更に含有するのが好ましい。
【0046】
動物性蛋白質素材としては、畜肉素材以外であれば特に制限はなく、例えば、乳蛋白質素材や卵白を用いることができる。乳蛋白質素材は、牛乳などの乳から分離精製された蛋白質であり、ホエイ(乳清)蛋白質やカゼイン等を用いることができる。卵白は、鶏卵などの卵から分離精製されたタンパク質であり、液状卵白や粉末卵白等を用いることができる。
【0047】
植物性蛋白質素材としては、前述の大豆蛋白質素材以外であれば特に制限はなく、例えば、エンドウ豆蛋白質素材や小麦蛋白質素材を用いることができる。エンドウ豆蛋白質素材は、エンドウ豆から分離精製された蛋白質であり、小麦蛋白質素材は小麦から分離精製された蛋白質でありグルテン等を用いることができる。
【0048】
上記蛋白質素材の性状についても大豆蛋白質素材と同様に特に制限はなく、粒状、粉末状、ペースト状、繊維状などが挙げられ、製造する畜肉様加工食品に求められる性質・食感により適宜選択することができる。また、上記蛋白質素材を単独で用いてもよく、複数を組合せて用いてもよい。
【0049】
後述の実施例の通り、油脂加工澱粉及び大豆蛋白質素材に加えて卵白を畜肉様加工食品に用いると、糊感やその他の食感の点で特に顕著な効果が発揮される。これは、卵白中の蛋白質と油脂加工澱粉がより効果的に相互作用し、優れたゲルネットワークが形成されるためと考えられる。よって、本発明の畜肉様加工食品は、油脂加工澱粉及び大豆蛋白質素材に加えて卵白を含有するものであることが好ましい。
【0050】
畜肉様加工食品における、畜肉素材を除く動物由来蛋白質素材、及び大豆蛋白質素材を除く植物由来蛋白質素材から選ばれた1種又は二種以上の含量は、特に制限はないが、その効果の点から、乾燥物換算で0.5〜10質量%とするのが好ましく、0.5〜3質量%とすることが特に好ましい。
【0051】
本発明はまた、油脂加工澱粉及び大豆蛋白質素材を含有し、かつ畜肉素材の含有量が30質量%以下である原料を、混合し、成形し、加熱することを特徴とする畜肉様加工食品の製造方法を提供するものである。
【0052】
本発明の製造方法においては、油脂加工澱粉の配合量は特に制限はないが、その効果の点から0.5〜10質量%とすることができ、1〜7質量%とするのが好ましい。
【0053】
本発明の製造方法においては、油脂加工澱粉及び大豆蛋白質素材に加えて、前述した他の蛋白質素材、すなわち、畜肉素材を除く動物由来蛋白質素材、及び大豆蛋白質素材を除く植物由来蛋白質素材から選ばれた1種又は二種以上を配合するのが好ましい。畜肉素材を除く動物由来蛋白質素材、及び大豆蛋白質素材を除く植物由来蛋白質素材から選ばれた1種又は二種以上の配合量は、特に制限はないが、その効果の点から乾燥物換算で0.5〜10質量%とするのが好ましく、0.5〜3質量%とすることが特に好ましい。
【0054】
本発明の製造方法において、油脂加工澱粉、大豆蛋白質素材及び他の蛋白質素材は、前述したものを使用することができる。また、その他の原料についても、前述したように、製造する畜肉様加工食品の種類に応じて、通常用いる原料を適宜選択すればよい。各原料を配合するタイミングも特に制限はなく、同時に添加してもよく、順次添加してもよい。その他の製造工程についても常法に従って実施すればよい。
【0055】
本発明は、更に、畜肉素材の含量が30質量%以下の畜肉様加工食品用の、油脂加工澱粉を含む添加剤を提供するものである。
【0056】
本発明の添加剤を、畜肉素材の含量が30質量%以下の畜肉様加工食品に添加することにより、例えば畜肉様加工食品の硬さやほぐれ感といった食感を向上することができる。すなわち、本発明の添加剤は、例えば、畜肉素材の含量が30質量%以下の畜肉様加工食品の食感向上剤として使用することができる。
【0057】
本発明の添加剤が適用される畜肉様加工食品は、大豆蛋白質素材を含有するものが好ましく、更に、大豆蛋白質素材に加えて、前述した他の蛋白質素材、すなわち、畜肉素材を除く動物由来蛋白質素材、及び大豆蛋白質素材を除く植物由来蛋白質素材から選ばれた1種又は二種以上を更に含有する畜肉様加工食品に添加するのがより好ましく、卵白を含有する畜肉加工食品に添加するのが特に好ましい。
【0058】
添加剤の有効成分である油脂加工澱粉の添加量や、畜肉様加工食品中の他の成分の含量等は、前述した記載に順ずればよい。
【実施例】
【0059】
以下の例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0060】
試験例1(澱粉と動物性蛋白質素材の組合せ)
各原料の配合量を表1の通りとし、以下の手法でミートレスハンバーグを調製した。粉末状大豆蛋白と水を混合した後、菜種油を添加して均一に混合することでエマルジョンカードを得た。これに水戻しした粒状大豆蛋白を加え、調味料、蛋白質素材、架橋澱粉又は油脂加工澱粉(油脂加工架橋澱粉)、氷水、玉ねぎ、パン粉の順に添加し、ミキサーで混合して生地を調製した。これを50gずつ丸型に成型し、焼成(230℃・片面50秒×2)、蒸煮(85℃・15分)の順で行い、冷却してミートレスハンバーグを得た。なお、架橋澱粉又は油脂加工澱粉(油脂加工架橋澱粉)としては、タピオカ澱粉を原料とするものを用いた。
【0061】
【表1】
【0062】
得られたミートレスハンバーグを下記基準に基づき6名のパネラーで官能評価し、パネラー間で評価結果を協議して最終的な評価を決定した。なお、いずれの評価項目においても、ハンバーグとして許容できる性能に達していないものを「×」、通常のハンバーグと比べ遜色ないレベルの性能を有しているものを「◎」として4段階で評価した。
【0063】
硬さ:歯で噛んでゲルを変形させるのに必要な力の大きさの程度が大きいほど高評点として、×(不可)、△(可)、○(良)、◎(優)の4段階評価
ほぐれ感:歯で噛んだ時にゲルが畜肉様に不均質に崩れる程度が大きいほど高評点として、×(不可)、△(可)、○(良)、◎(優)の4段階評価
ジューシー感:肉汁の量が多いほど高評点として、×(不可)、△(可)、○(良)、◎(優)の4段階評価
糊感のなさ:糊感が少ないほど高評点として、×(不可)、△(可)、○(良)、◎(優)の4段階評価。
【0064】
また、生地の加熱前後の重量差より算出した加熱歩留まり(N=13)、及びレオメーターによる破断荷重(N=12)を測定した。なお、ミートレスハンバーグの破断荷重はそれぞれ中心部を直径40mmにくり抜いたサンプルを20℃に保温後、レオメーター(株式会社山電社製 RE2-33005B)を用いて測定した。測定は直径12mmの円柱型プランジャーを1mm/秒でミートレスハンバーグに対して垂直に荷重をかけて行った。その結果を表2に記載した。
【0065】
【表2】
【0066】
架橋澱粉を配合した比較例1〜4は、澱粉由来の糊感が強く最終的に「×(不可)」と評価されたのに対し、油脂加工澱粉を配合した実施例1〜4はいずれも糊感が低減されており好ましい食感であった。また、油脂加工澱粉を配合した実施例1〜4は、架橋澱粉を配合した比較例1〜4と比べて、加熱歩留まりが向上し、更にほぐれ感が向上し、畜肉に近い食感であった。特に、油脂加工澱粉に加え卵白を配合した実施例2では、糊感、破断荷重、硬さやほぐれ感等の食感が顕著に向上していた。乳清蛋白を加えた実施例3及びカゼインナトリウムを配合した実施例4も、実施例2ほどではないが破断荷重の向上が認められた。
【0067】
試験例2(澱粉と植物性蛋白質素材の組み合わせ)
各種の植物性蛋白質素材と澱粉の配合量を表3の通りとし、その他の製法は試験例1と同様の手法でミートレスハンバーグを調製した。
【0068】
【表3】
【0069】
得られたミートレスハンバーグを実施例1と同様の手法で評価・分析した。その結果を表4に記載した。
【0070】
【表4】
【0071】
架橋澱粉を配合した比較例5〜7は、澱粉由来の糊感が強く、最終的に「×(不可)」と評価されたのに対し、油脂加工澱粉を配合した実施例5〜7は、いずれも糊感が低減されており好ましい食感であった。また、油脂加工澱粉を配合した実施例5〜7は、架橋澱粉を配合した比較例5〜7と比べて、加熱歩留まりが向上し、更にほぐれ感が向上し、畜肉に近い食感であった。油脂加工澱粉に加え、エンドウ蛋白を配合した実施例6では、破断荷重、硬さや糊感のなさが向上していた。小麦蛋白を配合した実施例7では、加熱歩留まり、ほぐれ感や糊感のなさが向上していた。
【0072】
試験例3(畜肉素材を配合した畜肉様加工食品)
牛肉、豚肉および豚脂肪をそれぞれφ6mm、φ6mm及びφ3mmにチョッピングした畜肉素材を配合し、各種原料の配合量を表5の通りとし、その他の製法は実施例1と同様の手法でハンバーグを調製した。なお、畜肉素材は、調味料添加の前のタイミングで添加した。
【0073】
【表5】
【0074】
得られたハンバーグを実施例1と同様の手法で評価・分析した。その結果を表6に記載した。
【0075】
【表6】
【0076】
畜肉素材を22質量%程度配合したハンバーグにおいても、試験例1・試験例2のミートレスハンバーグと同様に油脂加工澱粉を配合することの改良効果、特に油脂加工澱粉に卵白を組み合わせて配合することの大幅な改良効果が認められた。
【要約】
【課題】本発明は、安価でかつ澱粉由来の糊感の少ない畜肉様加工食品、その製造方法及び畜肉様加工食品用添加剤を提供する。
【解決手段】大豆蛋白質素材を含有し、畜肉素材の含量が30質量%以下である畜肉様加工食品の原料として、油脂加工澱粉を含有させる。油脂加工澱粉の含量は0.5〜10質量%であることが好ましい。更に、畜肉素材を除く動物由来蛋白質素材、及び大豆蛋白質素材を除く植物由来蛋白質素材から選ばれた1種又は二種以上を更に含有することが好ましく、前記動物性蛋白質素材が、乳蛋白質素材、卵白から選ばれたものであり、前記植物由来蛋白質素材が、エンドウ豆蛋白質素材、小麦蛋白質素材から選ばれたものであることが好ましく、卵白を含有することが最も好ましい。
【選択図】なし