特許第6565036号(P6565036)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6565036
(24)【登録日】2019年8月9日
(45)【発行日】2019年8月28日
(54)【発明の名称】鉄線引留装置、及び鉄線引留方法
(51)【国際特許分類】
   H02G 7/02 20060101AFI20190819BHJP
   H02G 9/00 20060101ALI20190819BHJP
【FI】
   H02G7/02
   H02G9/00
【請求項の数】6
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2016-19094(P2016-19094)
(22)【出願日】2016年2月3日
(65)【公開番号】特開2017-139889(P2017-139889A)
(43)【公開日】2017年8月10日
【審査請求日】2018年7月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000213884
【氏名又は名称】住電機器システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 義浩
【審査官】 木村 励
(56)【参考文献】
【文献】 特開平2−236503(JP,A)
【文献】 実公昭47−39915(JP,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 7/02
H02G 9/00
G02B 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力ケーブル線芯と、前記電力ケーブル線芯の外周を囲む複数の鉄線からなる鉄線外装と、を有するケーブルの、前記複数の鉄線のそれぞれを引き留める鉄線引留装置であって、
前記ケーブルを外周側から剥ぎ取ることで前記鉄線外装が露出された前記ケーブルのうちの少なくとも一部が挿通されるとともに、露出された前記鉄線の少なくとも一部を係止する係止部材と、
前記係止部材にネジ締結される締付部材と、を備え、
前記係止部材は、前記鉄線外装が露出された前記ケーブルが挿通されるとともに、前記鉄線の先端が前記ケーブルの延在側を向くように前記鉄線が折り返されることで、前記鉄線が折り返された部分を係止するよう構成され、
前記係止部材の中心軸と前記締付部材の中心軸とが一致した状態で前記締付部材が前記係止部材に直接ネジ締結されることで、前記係止部材と前記締付部材とは、前記鉄線が折り返された部分から前記鉄線の先端までの少なくとも一部を挟持する鉄線引留装置。
【請求項2】
前記係止部材および前記締付部材のうち少なくともいずれか一方は、前記鉄線の少なくとも一部を挟持する挟持面に凸部を有する請求項1に記載の鉄線引留装置。
【請求項3】
前記係止部材は、
中空部を有する筒状部と、
前記筒状部の端部から径方向に広がるように設けられるフランジ部と、を有し、
前記フランジ部は、外周部に複数の溝部を有し、
前記筒状部の前記中空部内に前記ケーブルが挿通されるとともに、前記中空部の内壁から前記フランジ部の前記溝部を通して前記鉄線が折り返されることで、前記鉄線が前記係止部材に係止される請求項1又は2に記載の鉄線引留装置。
【請求項4】
前記フランジ部は、外周側面に雄ネジ部を有し、
前記締付部材は、前記フランジ部の前記雄ネジ部に螺合する雌ネジ部を有する請求項に記載の鉄線引留装置。
【請求項5】
前記筒状部は、円錐状に傾斜し、前記鉄線が折り返された部分から前記鉄線の先端までの少なくとも一部が沿うように配置される外周面を有し、
前記締付部材は、前記筒状部の前記外周面に嵌合する内周面を有し、
前記鉄線が折り返された部分から前記鉄線の先端までの少なくとも一部は、前記締付部材の前記内周面と前記筒状部の前記外周面との間に挟み込まれる請求項又はに記載の鉄線引留装置。
【請求項6】
電力ケーブル線芯と、前記電力ケーブル線芯の外周を囲む複数の鉄線からなる鉄線外装と、を有するケーブルの、前記複数の鉄線のそれぞれを引き留める鉄線引留方法であって、
前記ケーブルを外周側から剥ぎ取ることで、前記鉄線外装を露出させる工程と、
前記鉄線外装が露出された前記ケーブルのうちの少なくとも一部を係止部材に挿通させる工程と、
露出された前記鉄線の少なくとも一部を前記係止部材に係止させる工程と、
前記係止部材に締付部材をネジ締結する工程と、を備え、
前記鉄線の少なくとも一部を前記係止部材に係止させる工程では、
前記鉄線の先端が前記ケーブルの延在側を向くように前記鉄線を折り返すことで、前記鉄線が折り返された部分を前記係止部材に係止させ、
前記締付部材をネジ締結する工程では、
前記係止部材の中心軸と前記締付部材の中心軸を一致させた状態で前記締付部材を前記係止部材に直接ネジ締結することで、前記鉄線が折り返された部分から前記鉄線の先端までの少なくとも一部を前記係止部材と前記締付部材とで挟持する鉄線引留方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄線引留装置、及び鉄線引留方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水底に布設されるケーブルは、電力ケーブル線芯の外周を囲む複数の鉄線からなる鉄線外装を有している。鉄線外装を設けることにより、ケーブルの張力が電力ケーブル線芯に直接加わることを抑制するとともに、電力ケーブル線芯に外傷が生じることを抑制することが可能となる。
【0003】
洋上風力設備や石油基地などが設けられた洋上のプラットフォームに向けて水底からケーブルの端末を立ち上げて、プラットフォーム上の設備にケーブルの端末を接続する部分や、断線等が生じたケーブルを修復するために一対のケーブルを接続する部分(リペアジョイント部)等では、ケーブルの張力によってケーブルの延在側に鉄線が引っ張られる。このようなケーブルの端末には、ケーブルの張力に対して鉄線を引き留めるための鉄線引留装置が設けられる(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−73318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の鉄線引留装置では、部品点数が多く、鉄線を安定的に引き留めるためには各部品の細かい調整が必要となっていた。
【0006】
本発明の目的は、部品点数を少なくした状態で、鉄線を安定的に引き留めることができる鉄線引留装置、及び鉄線引留方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、
電力ケーブル線芯と、前記電力ケーブル線芯の外周を囲む複数の鉄線からなる鉄線外装と、を有するケーブルの、前記複数の鉄線のそれぞれを引き留める鉄線引留装置であって、
前記ケーブルを外周側から剥ぎ取ることで前記鉄線外装が露出された前記ケーブルのうちの少なくとも一部が挿通されるとともに、露出された前記鉄線の少なくとも一部を係止する係止部材と、
前記係止部材にネジ締結される締付部材と、を備え、
前記係止部材の中心軸と前記締付部材の中心軸とが一致した状態で前記締付部材が前記係止部材に直接ネジ締結されることで、前記係止部材と前記締付部材とは、露出された前記鉄線の少なくとも一部を挟持する鉄線引留装置が提供される。
【0008】
本発明の他の態様によれば、
電力ケーブル線芯と、前記電力ケーブル線芯の外周を囲む複数の鉄線からなる鉄線外装と、を有するケーブルの、前記複数の鉄線のそれぞれを引き留める鉄線引留方法であって、
前記ケーブルを外周側から剥ぎ取ることで、前記鉄線外装を露出させる工程と、
前記鉄線外装が露出された前記ケーブルのうちの少なくとも一部を係止部材に挿通させる工程と、
露出された前記鉄線の少なくとも一部を前記係止部材に係止させる工程と、
前記係止部材に締付部材をネジ締結する工程と、を備え、
前記締付部材をネジ締結する工程では、
前記係止部材の中心軸と前記締付部材の中心軸を一致させた状態で前記締付部材を前記係止部材に直接ネジ締結することで、露出された前記鉄線の少なくとも一部を前記係止部材と前記締付部材とで挟持する鉄線引留方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、部品点数を少なくした状態で、鉄線を安定的に引き留めることができる鉄線引留装置、及び鉄線引留方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第1実施形態に係るケーブルの軸方向に直交する断面図である。
図2】(a)は、本発明の第1実施形態に係る鉄線引留装置を示す概略構成図であり、(b)は、(a)の一部を拡大した断面図である。
図3】(a)は、本発明の第1実施形態に係る係止部材を示す軸方向に沿った断面図であり、(b)は、係止部材を示す正面図であり、(c)は、(a)の一部を拡大した断面図である。
図4】(a)は、本発明の第1実施形態に係る締付部材を示す軸方向に沿った断面図であり、(b)は、締付部材を示す正面図である。
図5】(a)および(b)は、本発明の第1実施形態に係る鉄線引留方法を示す概略構成図である。
図6】(a)および(b)は、本発明の第1実施形態に係る鉄線引留方法を示す概略構成図である。
図7】(a)は、本発明の第2実施形態に係る鉄線引留装置を示す概略構成図であり、(b)は、(a)の一部を拡大した断面図である。
図8】(a)は、本発明の第2実施形態に係る係止部材を示す軸方向に沿った断面図であり、(b)は、(a)の一部を拡大した断面図である。
図9】(a)は、本発明の第2実施形態に係る締付部材を示す軸方向に沿った断面図であり、(b)は、締付部材を示す正面図である。
図10】(a)および(b)は、本発明の第2実施形態に係る鉄線引留方法を示す概略構成図である。
図11】比較例に係る鉄線引留装置を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<発明者の得た知見>
まず、図11を用い、比較例として、従来の鉄線引留装置を用いた場合について説明する。
【0012】
図11は、比較例に係る鉄線引留装置を示す概略構成図である。なお、図11の一部は、断面図となっている。また、ケーブル100には、所定数の鉄線200が設けられているが、そのうちの2本の鉄線200のみを図示している。また、図11は、ケーブル100が横方向に沿うように図示されているが、実際に洋上のプラットフォーム上の設備にケーブル100の端末を接続する際には、ケーブル100が鉛直方向に立ち上げられた状態となる。
【0013】
図11に示した比較例の鉄線引留装置90は、いわゆるコーン引留型と呼ばれるものであり、例えば、係止部材950と、固定部材930と、締付部材940と、を備えている。
【0014】
ケーブル100の端末において、ケーブル100は、外周側(外被層160)から段階的に剥がされ、鉄線外装の鉄線200が露出されている。
【0015】
係止部材950は、鉄線200を折り返した状態で係止するよう構成されている。具体的には、係止部材950は、例えば、金属製の円錐筒部材(コーン型部材)として構成され、円錐状に傾斜した外周面952を有している。係止部材950の中空部内にはケーブル100が挿通され、係止部材950の形状に沿って鉄線200が折り返される。折り返された鉄線200は、係止部材950の傾斜した外周面952に沿うように配置される。
【0016】
固定部材930は、例えば、金属製の板状部材として構成されている。固定部材930には、ケーブル100が挿通される。また、固定部材930は、係止部材950よりもケーブル100の先端側に配置される。
【0017】
締付部材940は、例えば、係止部材950の傾斜した外周面952に嵌合する内周面942を有している。締付部材940には、ケーブル100が挿通される。また、締付部材940は、係止部材950の形状に沿って鉄線200が折り返された状態で、係止部材950よりもケーブル100の延在側(ケーブル100の先端と反対側)から係止部材950に嵌められる。
【0018】
固定部材930と締付部材940とは、ボルト932およびナット934により、互いに引き付けるように締め付けられる。これにより、固定部材930と係止部材950との間には、鉄線200が折り返された部分が挟み込まれる。また、締付部材940の内周面942と係止部材950の外周面952との間には、折り返された鉄線200の一部が挟み込まれる。
【0019】
以上のような構成を有する鉄線引留装置90は、例えば、洋上のプラットフォーム上の設備に固定される。具体的には、プラットフォーム上の設備側に、ケーブル100の端末を接続するための取付金具970が設けられ、取付金具970にボルト972によって締付部材940が固定される。
【0020】
ケーブル100の張力によって鉄線200がケーブル100の延在側に引っ張られたとき、折り返された鉄線200の一部は、締付部材940の内周面942と係止部材950の外周面952とに挟持されることで係止される。鉄線200が折り返された部分は、固定部材930と係止部材950とに挟持されることで係止される。そして、締付部材940は、取付金具970に係止される。このようにして、鉄線200は、鉄線引留装置90に引き留められる。
【0021】
しかしながら、比較例の鉄線引留装置90では、ボルト932およびナット934などを含めて部品点数が多く、固定部材930と締付部材940とが均等に締め付けるためには各部品の細かい調整が必要となっていた。その結果、ケーブル100の端末に鉄線引留装置90を素早く取り付けることが困難となっていた。
【0022】
また、比較例の鉄線引留装置90では、仮に固定部材930と締付部材940とが均等に締め付けられていないと、締付部材940の内周面942と係止部材950の外周面952とに作用する挟持力に偏りが生じてしまう可能性があった。その結果、折り返された鉄線200の一部が充分に係止されず、鉄線200がすり抜けてしまう可能性があった。
【0023】
本発明は、本発明者が見出した上記知見に基づくものである。
【0024】
<本発明の第1実施形態>
(1)鉄線引留装置
図1および図2を用い、本発明の第1実施形態に係る鉄線引留装置について説明する。図1は、本実施形態に係るケーブルの軸方向に直交する断面図である。図2(a)は、本実施形態に係る鉄線引留装置を示す概略構成図であり、図2(b)は、図2(a)の一部を拡大した断面図である。なお、図2(a)の一部は、断面図となっている。また、ケーブル100には、所定数の鉄線200が設けられているが、そのうちの2本の鉄線200のみを図示している。また、図2では、ケーブル100が横方向に沿うように図示されているが、実際に洋上のプラットフォーム上の設備にケーブル100の端末を接続する際には、ケーブル100が鉛直方向に立ち上げられた状態となる。
【0025】
なお、本実施形態において、ケーブル100等の「軸方向」とは、ケーブル100等の中心軸の方向のことをいい、ケーブル100等の長手方向と言い換えることができる。また、ケーブル100等の「径方向」とは、ケーブル100等の軸方向に垂直な方向のことをいい、ケーブル100等の短手方向と言い換えることができる。また、ケーブル100等の「周方向」とは、ケーブル100等の外周に沿った方向のことをいう。また、「ケーブル100の先端側」とは、ケーブル100の所定位置に対してケーブル100の先端(電力ケーブル線芯110の先端)が存在する側のことをいう。一方で、「ケーブル100の延在側」とは、ケーブル100の所定位置から軸方向にケーブル100が延在する側のことをいい、ケーブル100の先端側とは反対側と言い換えることができる。
【0026】
(ケーブル)
図1に示すように、本実施形態において鉄線引留装置10が適用されるケーブル(外装ケーブル)100は、海底などの水底に布設されるケーブルとして構成され、例えば、中心側から外側に向けて、電力ケーブル線芯110と、介在120と、押さえテープ130と、座床テープ140と、鉄線外装(鎧装)150と、外被層160と、を備えている。
【0027】
電力ケーブル線芯110は、例えば、CVケーブル(架橋ポリエチレン絶縁ビニルシースケーブル、Cross−Linked Polyethylene insulated Vinylchloride sheath cable)として構成され、例えば、ケーブル導体(符号不図示)と、内部半導電層(符号不図示)と、絶縁層(符号不図示)と、外部半導電層(符号不図示)と、座床テープ(符号不図示)と、を有している。本実施形態では、例えば、3本の電力ケーブル線芯110が撚り合わせられている。
【0028】
介在120は、3本の電力ケーブル線芯110の外接包絡線内のスペースを埋めるように設けられている。介在120は、例えばポリプロピレンヤーンからなっている。
【0029】
鉄線外装150は、電力ケーブル線芯110の外周を囲む複数の鉄線200からなっている。例えば、複数の鉄線200は、座床テープ140の外周に螺旋状に巻回されている。また、鉄線200は、例えば、亜鉛メッキ鋼線からなっている。なお、鉄線200の外周には、防錆のためにタールが塗布されていてもよい。また、鉄線200の直径は、例えば、2mm以上10mm以下であり、鉄線外装150における鉄線200の本数は、例えば、20本以上100本以下であり、好ましくは、20本以上50本以下である。
【0030】
外被層160は、鉄線外装150の外周を囲むように設けられている。外被層160は、例えば、ポリプロピレンヤーンからなっている。
【0031】
図2(a)に示すように、ケーブル100は、外周側から段階的に剥ぎ取られている。これにより、ケーブル100の先端からケーブル100の延在側に向けて、電力ケーブル線芯110、座床テープ140、鉄線外装150が、この順で露出されている。
【0032】
(鉄線引留装置)
本実施形態の鉄線引留装置10は、ケーブル100の端末において、ケーブル100の張力に対して複数の鉄線200を引き留めるよう構成されている。具体的には、鉄線引留装置10は、例えば、係止部材300と、締付部材400と、を備えている。
【0033】
(係止部材)
ここで、図2(a)〜図3(c)を用い、係止部材300について説明する。図3(a)は、本実施形態に係る係止部材を示す軸方向に沿った断面図であり、図3(b)は、係止部材を示す正面図であり、図3(c)は、図3(a)の一部を拡大した断面図である。なお、図3(a)は、図3(b)のA−A線断面図である。また、図3(b)では、図の簡略化のために、溝部350の数を減らして図示されている。後述するように、実際には、溝部350は、ケーブル100の鉄線200と同じ数だけ設けられる。
【0034】
図2(a)〜図3(c)に示すように、係止部材300は、鉄線200を折り返した状態で係止するよう構成されている。具体的には、係止部材300は、例えば、筒状部320と、フランジ部340と、を備えている。
【0035】
係止部材300の筒状部320は、例えば、円錐筒状に構成され、中空部330と、外周面322と、を有している。中空部330は、筒状部320の軸方向に貫通して設けられている。中空部330の内径は、例えば、鉄線外装150が露出されたケーブル100を中空部330内に挿通できるような内径に設定されている。また、外周面322は、鉄線200を挟持する挟持面として構成され、例えば、筒状部320の中空部330の軸方向に対して、円錐状に傾斜して設けられている。外周面322の外径は、後述するフランジ部340から離れるにつれて縮小している。また、円錐状の外周面322の中心軸は、中空部330の中心軸と一致している。
【0036】
係止部材300のフランジ部340は、筒状部320の拡径側の端部から径方向に広がるように、平面視で円形状に設けられている。例えば、フランジ部340は、筒状部320と一体として設けられている。円形のフランジ部340の中心(軸)は、中空部330の中心軸と一致している。
【0037】
フランジ部340は、外周部に複数の溝部350を有している。具体的には、溝部350は、フランジ部340の外周側から筒状部320の中心軸に向かって凹むとともに、筒状部320の軸方向に沿って設けられている。溝部350の幅は、溝部350内に鉄線200を挿通できるような幅に設定されている。また、溝部350は、ケーブル100の鉄線200と同じ数だけ設けられている。所定数の溝部350は、フランジ部340の周方向に互いに等間隔に配置されている。
【0038】
また、フランジ部340は、外周側面に雄ネジ部342を有している。雄ネジ部342は、後述する締付部材400の雌ネジ部440に螺合するようになっている。
【0039】
図2(a)に示すように、鉄線外装150が露出されたケーブル100は、フランジ部340と反対側の筒状部320の開口から筒状部320の中空部330内に挿通される。そして、露出された鉄線外装150を構成するそれぞれの鉄線200は、筒状部320の中空部330の内壁からフランジ部340の溝部350に通される。なお、1つの溝部350につき、1本の鉄線200が挿通される。フランジ部340の溝部350を通って溝部350からケーブル100の延在側に突出した鉄線200は、係止部材300の傾斜した外周面322に沿うように配置される。このように、鉄線200の先端がケーブル100の延在側を向くように、鉄線200は折り返される。その結果、鉄線200が折り返された部分(鉄線屈曲部分)は、係止部材300に係止される。
【0040】
ここで、図2(a)および図3(a)に示すように、筒状部320の中空部330は、フランジ部340側の開口に向かって徐々に大きくなっている。言い換えれば、筒状部320の軸方向に垂直な方向から見て、中空部330の内壁とフランジ部340の端面とが交わる角部は、(凸の)円弧形状(R形状)となっている。これにより、中空部330の内壁とフランジ部340の端面とが交わる角部に沿って、鉄線200を滑らかに折り曲げることができる。
【0041】
また、フランジ部340の溝部350は、中空部330の開口が開設される側のフランジ部340の端面に向かって徐々に深くなっている。言い換えれば、筒状部320の軸方向に垂直な方向から見て、中空部330の開口が開設される側のフランジ部340の端面と溝部350の底部とが交わる角部は、(凸の)円弧形状(R形状)となっている。これにより、フランジ部340の端面と溝部350の底部とが交わる角部に沿って、鉄線200を滑らかに折り曲げることができる。
【0042】
また、フランジ部340の溝部350の底部は、筒状部320の外周面322に段差無く接続されている。詳細には、筒状部320の外周面322側のフランジ部340の溝部350の底部は、筒状部320の拡径側の外周面322に段差無く接続されている。これにより、フランジ部340の溝部350を通って溝部350から突出した鉄線200を、係止部材300の外周面322に沿って滑らかに折り曲げることができる。
【0043】
また、筒状部320の外周面322には、複数の凸部324が設けられている。複数の凸部324のそれぞれの断面形状は、例えば、半円となっている。また、複数の凸部324のそれぞれは、例えば、外周面322の周囲を囲むように設けられている。これにより、鉄線200が引っ張られた際に鉄線200を凸部324に係止させることができる。
【0044】
外周面322からの凸部324の高さは、例えば、1mm以上3mm以下である。凸部324の高さが1mm未満であると、凸部324が低すぎて、鉄線200を係止する効果が得られ難い。これに対して、凸部324の高さが1mm以上であることにより、鉄線200を係止する効果を得ることができる。一方で、凸部324の高さが3mm超であると、凸部324が高すぎるため、鉄線引留装置10が大型化してしまう。これに対して、凸部324の高さが3mm以下であることにより、鉄線引留装置10を大型化することを抑制することができる。
【0045】
(締付部材)
次に、図2(a)〜(b)、図4(a)〜(b)を用い、締付部材400について説明する。図4(a)は、本実施形態に係る締付部材を示す軸方向に沿った断面図であり、図4(b)は、締付部材を示す正面図である。なお、図4(a)は、図4(b)のA−A線断面図である。
【0046】
図4(a)および(b)に示すように、締付部材400は、係止部材300にネジ締結されることで、鉄線200を挟み込むよう構成されている。具体的には、締付部材400は、例えば、略円筒状に構成され、中空部410と、内周面420と、雌ネジ部440と、を有している。
【0047】
締付部材400の中空部410は、締付部材400の軸方向に沿って貫通して設けられている。
【0048】
締付部材400の内周面420(中空部410の内周面420)は、鉄線200を挟持する挟持面として構成され、係止部材300の筒状部320の外周面322に嵌合するよう構成されている。具体的には、締付部材400の内周面420は、筒状部320の外周面322と同じ方向に傾斜している。
【0049】
締付部材400の雌ネジ部440は、中空部410の拡径側に設けられている。
【0050】
図2(a)に示すように、係止部材300の形状に沿って鉄線200が折り返された状態で、締付部材400は、係止部材300よりもケーブル100の延在側から係止部材300に嵌められる。そして、係止部材300の中心軸と締付部材400の中心軸とが一致した状態で、係止部材300の雄ネジ部342と締付部材400の雌ネジ部440とは螺合する。これにより、溝部350からケーブル100の延在側に突出した鉄線200は、係止部材300の外周面322と締付部材400の内周面420との間に挟み込まれることで係止される。
【0051】
このとき、係止部材300の外周面322に形成された凸部324と締付部材400の内周面420との間に鉄線200が挟み込まれる。係止部材300と締付部材400とのネジ締結による締付力は、凸部324の頂点に集中する。これにより、係止部材300の凸部324と締付部材400の内周面420との間に鉄線200が強固に係止される。
【0052】
また、係止部材300の外周面322と締付部材400の内周面420とで鉄線200を挟持して係止する効果は、例えば、中空部330の開口が開設される側のフランジ部340の端面に対する、筒状部320の外周面322の傾斜角度θ(または締付部材400の内周面420の傾斜角度、なお、鋭角側の角度とする)に依存する。本実施形態では、当該傾斜角度θは、例えば、75°以上85°以下である。傾斜角度θが75°未満であると、係止部材300の直径が所定値に定められた場合では、係止部材300および締付部材400によって鉄線200を挟持する部分の長さが短くなってしまい、鉄線200を係止する効果が充分に得られない可能性がある。これに対して、傾斜角度θが75°以上であることにより、係止部材300の直径が所定値に定められた場合であっても、係止部材300および締付部材400によって鉄線200を挟持する部分の長さを所定値以上とし、鉄線200を係止する効果を充分に得ることができる。一方で、傾斜角度θが85°超であると、折り返された鉄線200とケーブル100とが平行に近くなるため、係止部材300と締付部材400とで鉄線200を係止する効果が充分に得られない可能性がある。これに対して、傾斜角度θが85°以下であることにより、折り返された鉄線200とケーブル100とが平行に近くなることを抑制し、係止部材300と締付部材400とで鉄線200を係止する効果を充分に得ることができる。なお、中空部330の軸方向に対する、筒状部320の外周面322の傾斜角度(または締付部材400の内周面420の傾斜角度、なお、鋭角側の角度とする)は、5°以上15°以下である。
【0053】
以上のような構成を有する鉄線引留装置10の具体的な寸法としては、例えば、ケーブル100の直径が100mm以上150mm以下である場合、締付部材400の外径は、200mm以上300mm以下であり、締付部材400の軸方向の長さは、150mm以上300mm以下である。なお、これらの数値は、一例であって限定されるものではなく、適用するケーブル100等に応じて変更が可能である。
【0054】
本実施形態の鉄線引留装置10は、例えば、洋上のプラットフォーム上の設備に固定される。具体的には、プラットフォーム上の設備側に、ケーブル100の端末を接続するための取付金具700が設けられ、取付金具700に対してボルト(不図示)等によって締付部材400が固定される。
【0055】
ケーブル100の張力によって鉄線200がケーブル100の延在側に引っ張られたとき、溝部350からケーブル100の延在側に突出した鉄線200は、係止部材300の外周面322と締付部材400の内周面420とに挟持されることで係止される。鉄線200が折り返された部分(鉄線屈曲部分)は、係止部材300に係止される。係止部材300自体は、ネジ締結により締付部材400に係止される。そして、締付部材400は、取付金具700に係止される。このようにして、鉄線200は、鉄線引留装置10に引き留められる。
【0056】
(2)鉄線引留方法
次に、図2(a)、図5(a)〜図6(b)を用い、本実施形態に係る鉄線引留方法について説明する。図5(a)〜図6(b)は、本実施形態に係る鉄線引留方法を示す概略構成図である。なお、ケーブル100には、所定数の鉄線200が設けられているが、そのうちの2本の鉄線200のみを図示している。
【0057】
(端末処理工程)
まず、図5(a)に示すように、ケーブル100を、外周側から段階的に剥ぎ取る。これにより、ケーブル100の先端からケーブル100の延在側に向けて、電力ケーブル線芯110、座床テープ140、鉄線外装150を、この順で露出させる。また、鉄線外装150の鉄線200に防錆用のタールが塗布されている場合は、鉄線200が露出された部分のタールを除去し、清浄な状態とする。
【0058】
このとき、予め、締付部材400の中空部410内にケーブル100を挿通させ、ケーブル100の所定位置に締付部材400を退避させておく。
【0059】
(係止部材挿通工程)
次に、図5(b)に示すように、鉄線外装150が露出されたケーブル100を、フランジ部340と反対側の筒状部320の開口から筒状部320の中空部330内に挿通させる。このとき、ケーブル100の鉄線外装150が露出された位置に筒状部320を配置する。
【0060】
(鉄線係止工程)
次に、図6(a)に示すように、筒状部320の中空部330の内壁からフランジ部340の溝部350に鉄線200を通す。なお、1つの溝部350につき、1本の鉄線200を挿通させる。そして、フランジ部340の溝部350を通って溝部350からケーブル100の延在側に突出した鉄線200を、係止部材300の傾斜した外周面322に沿うように配置する。このようにして、鉄線200の先端がケーブル100の延在側を向くように、鉄線200を折り返す。これにより、鉄線200が折り返された部分(鉄線屈曲部分)は、係止部材300に係止される。
【0061】
(締付工程)
次に、図6(b)に示すように、予めケーブル100の所定位置に退避させておいた締付部材400をケーブル100の先端側に移動させる。
【0062】
次に、図2(a)に示すように、係止部材300の形状に沿って鉄線200が折り返された状態で、締付部材400の内周面420を係止部材300の外周面322に嵌合させる。そして、係止部材300の中心軸と締付部材400の中心軸とを一致させた状態で、係止部材300の雄ネジ部342と締付部材400の雌ネジ部440とを螺合させる。これにより、溝部350からケーブル100の延在側に突出した鉄線200を、係止部材300の外周面322と締付部材400の内周面420との間に挟み込んで係止する。以上により、鉄線引留装置10が組み立てられる。
【0063】
(取付工程)
次に、例えば、プラットフォーム上の設備側に設けられた取付金具700に対してボルト等によって締付部材400を取り付ける。これにより、プラットフォーム上の設備に鉄線引留装置10を固定する。そして、プラットフォーム上の設備に電力ケーブル線芯110を接続する。
【0064】
(3)本実施形態に係る効果
本実施形態によれば、以下に示す1つ又は複数の効果を奏する。
【0065】
(a)係止部材300は、鉄線外装150が露出されたケーブル100が挿通されるとともに、鉄線200を折り返した状態で係止している。また、係止部材300の中心軸と締付部材400の中心軸とが一致した状態で、締付部材400は、係止部材300に直接ネジ締結されている。これにより、係止部材300と締付部材400とをバランスよく締め付けることができ、係止部材300と締付部材400との間に、複数の鉄線200を一度に挟持させることができる。その結果、ケーブル100の端末に鉄線引留装置10を素早く取り付けることが可能となる。
【0066】
また、係止部材300と締付部材400とがバランスよく締め付けられることで、鉄線200が折り返された部分から鉄線200の先端までの少なくとも一部を、係止部材300と締付部材との間に均等な締付力で挟み込むことができる。これにより、係止部材300と締付部材400とに作用する挟持力に偏りが生じることを抑制することができる。その結果、鉄線200がすり抜けてしまうことを抑制することが可能となる。
【0067】
このように、本実施形態によれば、鉄線引留装置10を係止部材300および締付部材400のみで構成し、部品点数を少なくした状態で、鉄線200を安定的に引き留めることが可能となる。
【0068】
(b)本実施形態では、締付部材400以外に鉄線200を係止部材300に係止させる部材を必要としない。これにより、鉄線引留装置10が径方向に広がることを抑制することができ、鉄線引留装置10を小型化することができる。このように、鉄線引留装置10を小型化可能であることにより、ケーブル100の端末に鉄線引留装置10を取り付けた状態で、ケーブル100をドラム等に巻回させることができる。さらには、鉄線引留装置10付のケーブル100が巻回されたドラムを布設船に搭載させて洋上のプラットフォームに運搬することができる。その結果、プラットフォーム上の設備にケーブル100の端末を直ちに接続することが可能となる。
【0069】
(c)鉄線200を挟持する挟持面としての、筒状部320の外周面322には、複数の凸部324が設けられている。係止部材300の外周面322に形成された凸部324と締付部材400の内周面420との間に鉄線200が挟み込まれる。係止部材300と締付部材400とのネジ締結による締付力は、凸部324の頂点に集中する。これにより、係止部材300の凸部324と締付部材400の内周面420との間に鉄線200を強固に係止させることができる。その結果、鉄線200がすり抜けることを確実に抑制することが可能となる。
【0070】
(d)係止部材300のフランジ部340は、外周部に複数の溝部350を有している。筒状部320の中空部330内にケーブル100が挿通された状態で、鉄線200は、フランジ部340の溝部350に通される。これにより、締付部材400を周方向に回して係止部材300にネジ締結する際に、鉄線200が溝部350に係止されることで、筒状部320の外周面322の周方向に鉄線200が移動する(ずれる)ことを抑制することができる。その結果、締付部材400を係止部材300にネジ締結する際に、複数の鉄線200が重なり合うような現象が生じることを抑制することができる。
【0071】
(e)係止部材300のフランジ部340の外周側面に雄ネジ部342が設けられ、締付部材400には、雄ネジ部342に対応する位置に雌ネジ部440が設けられている。一方で、鉄線200は、上述のように、フランジ部340の溝部350内に通されている。つまり、鉄線200は、雄ネジ部342および雌ネジ部440から離されている。これにより、係止部材300と締付部材400とのネジ締結部分に鉄線200が干渉することを抑制することができる。
【0072】
(f)鉄線200を係止するための、係止部材300の外周面322と締付部材400の内周面420とが、筒状部320の中空部330の軸方向(ケーブル挿通方向)に対して傾斜して設けられている。これにより、係止部材および締付部材のそれぞれの鉄線係止面が筒状部の軸方向に垂直な方向(径方向)に沿って設けられている場合と比較して、本実施形態では、係止部材300および締付部材400のそれぞれを径方向に大きくすることなく、係止部材300および締付部材400によって鉄線200を挟持する部分の長さを長くすることができる。その結果、係止部材300と締付部材400とで鉄線200を係止する効果を向上させることが可能となる。
【0073】
<本発明の第2実施形態>
図4を用い、本発明の第2実施形態について説明する。図4は、本実施形態に係る鉄線引留装置を示す概略構成図である。
【0074】
本実施形態の鉄線引留装置12では、鉄線200を折り返さない点が第1実施形態の鉄線引留装置10と異なる。以下、第1実施形態と異なる要素についてのみ説明し、第1実施形態で説明した要素と実質的に同一の要素には、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0075】
(1)鉄線引留装置
(係止部材)
図7(a)〜図8(b)を用い、係止部材300について説明する。図7(a)は、本実施形態に係る鉄線引留装置を示す概略構成図であり、図7(b)は、(a)の一部を拡大した断面図である。なお、図7(a)の一部は、断面図となっている。また、ケーブル100には、所定数の鉄線200が設けられているが、そのうちの2本の鉄線200のみを図示している。図8(a)は、本実施形態に係る係止部材を示す軸方向に沿った断面図であり、図8(b)は、(a)の一部を拡大した断面図である。
【0076】
図7(a)〜図8(b)に示すように、係止部材302は、鉄線200を折り返さずに係止するように構成されている。具体的には、係止部材302は、例えば、筒状部326と、フランジ部344と、を備えている。
【0077】
係止部材300の筒状部326は、第1実施形態と同様に、例えば、円錐筒状に構成され、中空部332と、外周面327と、を有している。中空部332の内径は、例えば、鉄線外装150が露出されたケーブル100のうちの鉄線外装150以外の部分を中空部332内に挿通できるような内径に設定されている。また、外周面327は、第1実施形態と同様に、鉄線200を挟持する挟持面として構成され、例えば、筒状部326の中空部332の軸方向に対して、円錐状に傾斜して設けられている。
【0078】
係止部材302のフランジ部344は、筒状部326の拡径側の端部から径方向に広がるように、平面視で円形状に設けられている。本実施形態のフランジ部344は、第1実施形態と異なり、溝部を有していない。
【0079】
また、フランジ部344は、外周側面に雄ネジ部346を有している。雄ネジ部346は、後述する締付部材402の雌ネジ部442に螺合するようになっている。
【0080】
図7(a)に示すように、鉄線外装150が露出されたケーブル100のうち、鉄線外装150以外の部分(電力ケーブル線芯110から座床テープ140までの部分)は、筒状部326の中空部332内に挿通される。一方、露出された鉄線外装150を構成するそれぞれの鉄線200は、中空部332内に挿通されずに径方向に開かれる。そして、径方向に開かれた鉄線200の少なくとも一部は、係止部材302の傾斜した外周面327に沿うように配置される。これにより、径方向に開かれた鉄線200の少なくとも一部は、係止部材302に係止される。
【0081】
また、筒状部326の外周面327には、複数の凸部328が設けられている。複数の凸部328のそれぞれは、例えば、外周面327の周囲を囲むように設けられている。これにより、鉄線200が引っ張られた際に鉄線200を凸部328に係止させることができる。
【0082】
外周面327からの凸部328の高さは、第1実施形態と同様に、例えば、1mm以上3mm以下である。
【0083】
(締付部材)
次に、図7(a)〜(b)、図9(a)〜(b)を用い、締付部材402について説明する。図9(a)は、本実施形態に係る締付部材を示す軸方向に沿った断面図であり、図9(b)は、締付部材を示す正面図である。なお、図9(a)は、図9(b)のA−A線断面図である。
【0084】
図9(a)および(b)に示すように、締付部材402は、第1実施形態と同様に、例えば、略円筒状に構成され、中空部412と、内周面422と、雌ネジ部442と、を有している。
【0085】
締付部材402の内周面422は、鉄線200を挟持する挟持面として構成され、係止部材302の筒状部326の外周面327に嵌合するよう構成されている。
【0086】
締付部材402の雌ネジ部442は、中空部412の拡径側に設けられている。
【0087】
図7(a)に示すように、径方向に開かれた鉄線200の少なくとも一部が、係止部材302の傾斜した外周面327に沿うように配置された状態で、締付部材402は、係止部材302よりもケーブル100の延在側から係止部材302に嵌められる。そして、係止部材302の中心軸と締付部材402の中心軸とが一致した状態で、係止部材302の雄ネジ部346と締付部材402の雌ネジ部442とは螺合する。これにより、径方向に開かれた鉄線200の少なくとも一部は、係止部材302の外周面327と締付部材402の内周面422との間に挟み込まれることで係止される。
【0088】
このとき、係止部材302の外周面327に形成された凸部328と締付部材402の内周面422との間に鉄線200が挟み込まれる。係止部材302と締付部材402とのネジ締結による締付力は、凸部328の頂点に集中する。これにより、係止部材302の凸部328と締付部材402の内周面422との間に鉄線200が強固に係止される。
【0089】
本実施形態において、中空部332の開口が開設される側のフランジ部344の端面に対する、筒状部326の外周面327の傾斜角度θ(または締付部材402の内周面422の傾斜角度、なお、鋭角側の角度とする)は、例えば、第1実施形態と同様に、75°以上85°以下である。なお、中空部332の軸方向に対する、筒状部326の外周面327の傾斜角度(または締付部材402の内周面422の傾斜角度、なお、鋭角側の角度とする)は、5°以上15°以下である。
【0090】
(2)鉄線引留方法
次に、図7(a)、図10(a)〜図10(b)を用い、本実施形態の鉄線引留方法について説明する。図10(a)および(b)は、本実施形態に係る鉄線引留方法を示す概略構成図である。なお、ケーブル100には、所定数の鉄線200が設けられているが、そのうちの2本の鉄線200のみを図示している。
【0091】
(端末処理工程)
まず、第1実施形態と同様にして、ケーブル100を、外周側から段階的に剥ぎ取る。これにより、ケーブル100の先端からケーブル100の延在側に向けて、電力ケーブル線芯110、座床テープ140、鉄線外装150を、この順で露出させる。
【0092】
このとき、予め、締付部材400の中空部410内にケーブル100を挿通させ、ケーブル100の所定位置に締付部材400を退避させておく。
【0093】
(係止部材挿通工程)
次に、図10(a)に示すように、鉄線外装150が露出されたケーブル100のうちの鉄線外装150以外の部分を、筒状部326の中空部332内に挿通させる。このとき、露出された鉄線外装150を構成するそれぞれの鉄線200を中空部332内に挿通せずに径方向に開く。そして、径方向に開かれた鉄線200の少なくとも一部を、係止部材302の傾斜した外周面327に沿うように配置する。
【0094】
(締付工程)
次に、図10(b)に示すように、予めケーブル100の所定位置に退避させておいた締付部材402をケーブル100の先端側に移動させる。
【0095】
次に、図7(a)に示すように、径方向に開かれた鉄線200の少なくとも一部が、係止部材302の傾斜した外周面327に沿うように配置された状態で、締付部材402の内周面422を係止部材302の外周面327に嵌合させる。そして、係止部材302の中心軸と締付部材402の中心軸とを一致させた状態で、係止部材302の雄ネジ部346と締付部材402の雌ネジ部442とを螺合させる。これにより、径方向に開かれた鉄線200の少なくとも一部を、係止部材302の外周面327と締付部材402の内周面422との間に挟み込んで係止する。以上により、鉄線引留装置10が組み立てられる。
【0096】
(3)本実施形態に係る効果
本実施形態によれば、以下に示す1つ又は複数の効果を奏する。
【0097】
(a)係止部材302は、鉄線外装150が露出されたケーブル100のうちの鉄線外装150以外の部分が挿通されるとともに、径方向に開かれた鉄線200の少なくとも一部を外周面327に係止している。また、係止部材302の中心軸と締付部材402の中心軸とが一致した状態で、締付部材402は、係止部材302に直接ネジ締結されている。これにより、係止部材302と締付部材402とをバランスよく締め付けることができ、径方向に開かれた鉄線200の少なくとも一部を、係止部材302と締付部材402との間に一度に挟持させることができる。その結果、部品点数を少なくした状態で、鉄線200を安定的に引き留めることが可能となる。
【0098】
(b)鉄線200を挟持する挟持面としての、筒状部326の外周面327には、複数の凸部328が設けられている。これにより、係止部材302の凸部328と締付部材402の内周面422との間に鉄線200を強固に係止させることができる。その結果、鉄線200がすり抜けることを確実に抑制することが可能となる。
【0099】
本実施形態では、第1実施形態のように鉄線200を折り返した構成よりも鉄線200を引き留める効果はやや弱くなると考えられる。しかしながら、係止部材302の凸部328と締付部材402の内周面422との間に鉄線200を挟持することにより、鉄線200を確実に引き留めることができる。
【0100】
(c)本実施形態では、第1実施形態と比較して、係止部材302のフランジ部344に溝部が設けられていない。これにより、鉄線引留装置12の製造コスト(加工費用)を低減することができる。
【0101】
また、本実施形態では、第1実施形態と比較して、鉄線係止工程において鉄線200を折り返す必要がない。これにより、鉄線引留工程全体の施工時間を短縮化することができる。
【0102】
<本発明の他の実施形態>
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0103】
上述の実施形態では、ケーブル100が電力ケーブル線芯110を備える場合について説明したが、ケーブルは光ファイバ複合電力ケーブルとして構成されていてもよく、3本の電力ケーブル線芯の外接包絡線内に、光ファイバを含む光ケーブルが設けられていてもよい。
【0104】
上述の第1実施形態では、溝部350からケーブル100の延在側に突出した鉄線200(折り返し部分から先端まで)が係止部材300と締付部材400とによって挟持される場合について説明したが、鉄線が折り返された部分から鉄線の先端までの少なくとも一部が係止部材と締付部材とによって挟持されていればよい。鉄線が折り返された部分から鉄線の先端までの他の一部が挟持部分から外れていてもよく、例えば、鉄線の先端の一部が締付部材から突出していてもよい。ただし、締付部材から突出した鉄線の先端によって、ケーブルが損傷する可能性があるため、鉄線の先端は、係止部材および締付部材によって挟持される領域内に配置されていることが好ましい
【0105】
上述の実施形態では、係止部材300の外周面322と締付部材400の内周面420とが、筒状部320の中空部330の軸方向(ケーブル挿通方向)に対して傾斜して設けられている場合について説明したが、係止部材および締付部材のそれぞれの係止面は、筒状部の中空部の軸方向に垂直な方向(径方向)に沿って設けられていてもよい。ただし、上述のように、係止部材300および締付部材400によって鉄線200を挟持する部分の長さを長くするためには、係止部材300の外周面322と締付部材400の内周面420とが、筒状部320の中空部330の軸方向に対して傾斜して設けられていることが好ましい。
【0106】
上述の実施形態では、鉄線200が折り返される側で、係止部材300の雄ネジ部342と締付部材400の雌ネジ部440とがネジ締結されている場合について説明したが、鉄線が折り返される側と反対側で、係止部材と締付部材とがネジ締結されていてもよい。
【0107】
上述の実施形態では、係止部材300の筒状部320の外周面322に凸部324が設けられている場合について説明したが、締付部材の内周面に凸部が設けられていてもよい。または、係止部材の外周面および締付部材の内周面にそれぞれ凸部が設けられていてもよい。後者の場合、係止部材の外周面に設けられた凸部と、締付部材の内周面に設けられた凸部とは、互いに重なることがないよう、係止部材の軸方向に対して交互に設けられていることが好ましい。これにより、鉄線をS字状に屈曲させて係止することができ、鉄線を係止する効果をさらに向上させることが可能となる。
【0108】
上述の実施形態では、凸部324の断面形状が半円となっている場合について説明したが、凸部の断面形状はこれに限られない。例えば、凸部の断面形状は、三角形等であってもよい。
【0109】
上述の実施形態では、予め、締付部材400にケーブル100を挿通させ、ケーブル100の所定位置に締付部材400を退避させておく場合について説明したが、締付部材が(軸方向に沿った面で)分解可能に構成されている場合は、鉄線係止工程後の締付工程において、分解された締付部材を結合させてもよい。
【0110】
上述の実施形態では、プラットフォーム上の設備側に設けられた取付金具700に締付部材400を取り付ける場合について説明したが、リペアジョイント部を形成する場合には、双方のケーブルの端末にそれぞれ鉄線引留装置を取り付け、双方の鉄線引留装置にそれぞれ取付金具に取り付け、双方の取付金具をボルトによって接続すればよい。
【0111】
<本発明の好ましい態様>
以下、本発明の好ましい態様について付記する。
【0112】
(付記1)
本発明の一態様によれば、
電力ケーブル線芯と、前記電力ケーブル線芯の外周を囲む複数の鉄線からなる鉄線外装と、を有するケーブルの、前記複数の鉄線のそれぞれを引き留める鉄線引留装置であって、
前記ケーブルを外周側から剥ぎ取ることで前記鉄線外装が露出された前記ケーブルのうちの少なくとも一部が挿通されるとともに、露出された前記鉄線の少なくとも一部を係止する係止部材と、
前記係止部材にネジ締結される締付部材と、を備え、
前記係止部材の中心軸と前記締付部材の中心軸とが一致した状態で前記締付部材が前記係止部材に直接ネジ締結されることで、前記係止部材と前記締付部材とは、露出された前記鉄線の少なくとも一部を挟持する鉄線引留装置が提供される。
【0113】
(付記2)
好ましくは、付記1に記載の鉄線引留装置であって、
前記係止部材および前記締付部材のうち少なくともいずれか一方は、前記鉄線の少なくとも一部を挟持する挟持面に凸部を有する。
【0114】
(付記3)
好ましくは、付記1又は2に記載の鉄線引留装置であって、
前記係止部材は、前記鉄線外装が露出された前記ケーブルが挿通されるとともに、前記鉄線の先端が前記ケーブルの延在側を向くように前記鉄線が折り返されることで、前記鉄線が折り返された部分を係止するよう構成され、
前記係止部材の中心軸と前記締付部材の中心軸とが一致した状態で前記締付部材が前記係止部材に直接ネジ締結されることで、前記係止部材と前記締付部材とは、前記鉄線が折り返された部分から前記鉄線の先端までの少なくとも一部を挟持する。
【0115】
(付記4)
好ましくは、付記3に記載の鉄線引留装置であって、
前記係止部材は、
中空部を有する筒状部と、
前記筒状部の端部から径方向に広がるように設けられるフランジ部と、を有し、
前記フランジ部は、外周部に複数の溝部を有し、
前記筒状部の前記中空部内に前記ケーブルが挿通されるとともに、前記中空部の内壁から前記フランジ部の前記溝部を通して前記鉄線が折り返されることで、前記鉄線が前記係止部材に係止される。
【0116】
(付記5)
好ましくは、付記4に記載の鉄線引留装置であって、
前記フランジ部は、外周側面に雄ネジ部を有し、
前記締付部材は、前記フランジ部の前記雄ネジ部に螺合する雌ネジ部を有する。
【0117】
(付記6)
好ましくは、付記4又は5に記載の鉄線引留装置であって、
前記筒状部は、円錐状に傾斜し、前記鉄線が折り返された部分から前記鉄線の先端までの少なくとも一部が沿うように配置される外周面を有し、
前記締付部材は、前記筒状部の前記外周面に嵌合する内周面を有し、
前記鉄線が折り返された部分から前記鉄線の先端までの少なくとも一部は、前記締付部材の前記内周面と前記筒状部の前記外周面との間に挟み込まれる。
【0118】
(付記7)
好ましくは、付記4〜6のいずれかに記載の鉄線引留装置であって、
前記筒状部の前記中空部は、前記フランジ部側の開口に向かって徐々に大きくなっている。
【0119】
(付記8)
好ましくは、付記7に記載の鉄線引留装置であって、
前記筒状部の軸方向に垂直な方向から見て、前記中空部の内壁と前記フランジ部の端面とが交わる角部は、円弧形状となっている。
【0120】
(付記9)
好ましくは、付記4〜8のいずれかに記載の鉄線引留装置であって、
前記フランジ部の前記溝部は、前記中空部の開口が開設される前記フランジ部の端面に向かって徐々に深くなっている。
【0121】
(付記10)
好ましくは、付記9に記載の鉄線引留装置であって、
前記筒状部の軸方向に垂直な方向から見て、前記中空部の開口が開設される前記フランジ部の端面と前記溝部の底部とが交わる角部は、円弧形状となっている。
【0122】
(付記11)
好ましくは、付記1又は2に記載の鉄線引留装置であって、
前記係止部材は、前記鉄線外装が露出された前記ケーブルのうちの前記鉄線外装以外の部分が挿通されるとともに、露出された前記鉄線の少なくとも一部が挿通されずに径方向に開かれることで、径方向に開かれた前記鉄線の少なくとも一部を係止するよう構成され、
前記係止部材の中心軸と前記締付部材の中心軸とが一致した状態で前記締付部材が前記係止部材に直接ネジ締結されることで、前記係止部材と前記締付部材とは、径方向に開かれた前記鉄線の少なくとも一部を挟持する。
【0123】
(付記12)
好ましくは、付記11に記載の鉄線引留装置であって、
前記係止部材は、
前記ケーブルのうちの前記鉄線外装以外の部分が前記筒状部の前記中空部内に挿通される中空部と、
円錐状に傾斜し、径方向に開かれた前記鉄線の少なくとも一部が沿うように配置される外周面と、を有し、
前記締付部材は、前記係止部材の前記外周面に嵌合する内周面を有し、
径方向に開かれた前記鉄線の少なくとも一部は、前記締付部材の前記内周面と前記係止部材の前記外周面との間に挟み込まれる。
【0124】
(付記13)
好ましくは、付記12に記載の鉄線引留装置であって、
前記係止部材は、
前記中空部および前記外周面を有する筒状部と、
前記筒状部の端部から径方向に広がるように設けられるフランジ部と、を有し、
前記フランジ部は、外周側面に雄ネジ部を有し、
前記締付部材は、前記フランジ部の前記雄ネジ部に螺合する雌ネジ部を有する。
【0125】
(付記14)
本発明の他の態様によれば、
電力ケーブル線芯と、前記電力ケーブル線芯の外周を囲む複数の鉄線からなる鉄線外装と、を有するケーブルの、前記複数の鉄線のそれぞれを引き留める鉄線引留方法であって、
前記ケーブルを外周側から剥ぎ取ることで、前記鉄線外装を露出させる工程と、
前記鉄線外装が露出された前記ケーブルのうちの少なくとも一部を係止部材に挿通させる工程と、
露出された前記鉄線の少なくとも一部を前記係止部材に係止させる工程と、
前記係止部材に締付部材をネジ締結する工程と、を備え、
前記締付部材をネジ締結する工程では、
前記係止部材の中心軸と前記締付部材の中心軸を一致させた状態で前記締付部材を前記係止部材に直接ネジ締結することで、露出された前記鉄線の少なくとも一部を前記係止部材と前記締付部材とで挟持する鉄線引留方法が提供される。
【0126】
(付記15)
好ましくは、付記14に記載の鉄線引留方法であって、
前記鉄線の少なくとも一部を前記係止部材に係止させる工程では、
前記鉄線の先端が前記ケーブルの延在側を向くように前記鉄線を折り返すことで、前記鉄線が折り返された部分を前記係止部材に係止させ、
前記締付部材をネジ締結する工程では、
前記係止部材の中心軸と前記締付部材の中心軸を一致させた状態で前記締付部材を前記係止部材に直接ネジ締結することで、前記鉄線が折り返された部分から前記鉄線の先端までの少なくとも一部を前記係止部材と前記締付部材とで挟持する。
【0127】
(付記16)
好ましくは、付記14に記載の鉄線引留方法であって、
前記鉄線の少なくとも一部を前記係止部材に係止させる工程では、
露出された前記鉄線の少なくとも一部を前記係止部材に挿通せずに径方向に開くことで、径方向に開かれた前記鉄線の少なくとも一部を前記係止部材に係止させ、
前記締付部材をネジ締結する工程では、
前記係止部材の中心軸と前記締付部材の中心軸を一致させた状態で前記締付部材を前記係止部材に直接ネジ締結することで、径方向に開かれた前記鉄線の少なくとも一部を前記係止部材と前記締付部材とで挟持する。
【符号の説明】
【0128】
10,12 鉄線引留装置
100 ケーブル
110 電力ケーブル線芯
120 介在
130 押さえテープ
140 座床テープ
150 鉄線外装
160 外被層
200 鉄線
300,302 係止部材
320,326 筒状部
322,327 外周面
324,328 凸部
330,332 中空部
340,344 フランジ部
342,346 雄ネジ部
350 溝部
400,402 締付部材
410,412 中空部
420,422 内周面
440,442 雌ネジ部
700 取付金具
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図8
図9
図10
図11