(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、必須成分として、芳香族ポリカーボネート樹脂と、脂肪酸エステル及び脂肪酸アミドからなる群より選択される少なくとも1種を含む脂肪酸化合物とを含む。以下、各成分について詳述する。
【0008】
芳香族ポリカーボネート樹脂
芳香族ポリカーボネート樹脂としては、芳香族化合物由来の基とカーボネート結合(−O−(C=O)−O−)とを含む熱可塑性樹脂を特に制限なく用いることができる。
芳香族化合物としては、例えばビスフェノールA、ビスフェノールFやビスフェノールB等が挙げられる。
芳香族ポリカーボネート樹脂の具体例としては、ビスフェノールAとホスゲンとを反応させて得られるものが挙げられる。
芳香族ポリカーボネート樹脂は、その粘度平均分子量が、成形性の点から12000〜35000であると好ましく、15000〜25000であるとより好ましい。粘度平均分子量はJIS K7252によって、測定することができる。
本発明では、1種類の芳香族ポリカーボネート樹脂を単独で用いてもよく、複数種類の芳香族ポリカーボネート樹脂を組み合わせて用いてもよい。
芳香族ポリカーボネート樹脂は公知物質であり、市場において容易に入手することができるか、又は、調製可能である。
【0009】
脂肪酸化合物
本発明で使用する脂肪酸化合物は、不飽和脂肪酸化合物を含有することにより、芳香族ポリカーボネート樹脂の成形時の流動性を改善する流動性改良剤として作用する。更に、不飽和脂肪酸化合物中に含まれる炭素‐炭素間の二重結合が、成形時の加熱により、酸素と反応して、不飽和脂肪酸化合物間で架橋反応を起こし、成形品表面へのブリードアウト現象を抑制する。
【0010】
本発明で用いる脂肪酸化合物は、該脂肪酸化合物の総質量を基準として10〜80質量%、好ましくは20〜70質量%、より好ましくは25〜60質量%の不飽和脂肪酸化合物を含有する。
不飽和脂肪酸化合物とは、脂肪酸化合物を構成する脂肪酸エステル及び脂肪酸アミドのうち、不飽和脂肪酸から得られるもの(すなわち、不飽和脂肪酸エステル及び不飽和脂肪酸アミド)をいう。
不飽和脂肪酸化合物の含量が10質量%以上であると、成形後のブリードアウト現象を十分に抑制することができ、特に、フィルムインサート成形物の審美性を良好に維持することができる。
一方、不飽和脂肪酸化合物の含量が80質量%以下であると、芳香族ポリカーボネート樹脂と脂肪族化合物とを混練するコンパウンド工程時の加熱により、不飽和脂肪酸化合物間での架橋度が高くなりすぎることを抑制し、コンパウンド工程後に行う成形時に脂肪酸化合物による流動性の改良効果を十分に発現させることができる。
不飽和脂肪酸化合物の含量は、油脂分析で用いられている手段を特に制限なく用いて求めることができる。例えば、脂肪酸化合物を加水分解して、三フッ化ホウ素-メタノール法によるメチルエステル化、あるいは、ビロリジド化、ジメチルジスルフィド誘導体化のいずれかの処理後に、ガスクロマトグラフ質量分析することにより測定することができる。また、脂肪酸化合物の生成に用いる反応が、生成後の脂肪酸化合物中の不飽和脂肪酸含有量を予め特定できる反応である場合には、反応生成物の不飽和脂肪酸化合物の含量を測定せずに、反応前の不飽和脂肪酸の配合比から不飽和脂肪酸化合物の含量を求めてもよい。
【0011】
本発明の脂肪酸化合物を構成する脂肪酸エステルとしては、脂肪酸とヒドロキシル基含有化合物とを縮合反応させることによって得られる化合物を特に制限なく本発明に用いることができる。
脂肪酸は、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸とに分類される。
【0012】
飽和脂肪酸としては、炭素数が16〜20であるパルミチン酸、ステアリン酸や、アラキジン酸が好ましく、ステアリン酸がより好ましい。
不飽和脂肪酸としては、例えばリシノール酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ヘキサデセン酸、エイコセン酸、エルシン酸や、ドコサジエン酸等が挙げられる。不飽和脂肪酸としてはオレイン酸やリノール酸がより好ましい。
【0013】
ヒドロキシル基含有化合物としては、グリコール類[例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール等]、糖アルコール類[例えば、トリトール(グリセリン)、テトリトール(エリスリトール)、ペンチトール(リビトール、キシリトール等)、ヘキシトール(ソルビトール、マンニトール等)、ペプチトール、オクチトール等]、単糖類[例えば、トリオース(グリセルアルデヒド)、テトロース(エリトロース、トレオース等)、ペントース(リボース、リブロース、キシロース、キシルロース、リキソース等)、ヘキソース(グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース等)、ヘプトース等]、及び、ポリグリセリン[例えば、テトラグリセリン、ヘキサグリセリン等]、スターチ、ポリビニルアルコール等が挙げられる。
ヒドロキシル基含有化合物としてはグリセリン、ソルビトール、グルコースや、ポリグリセリンが好ましく、ポリグリセリンがより好ましい。
【0014】
本発明の脂肪酸化合物を構成する脂肪酸アミドとしては、脂肪酸とポリアミン類とを縮合反応させることによって得られる化合物を特に制限なく本発明に用いることができる。
【0015】
脂肪酸に関しては、脂肪酸エステルと同様のものが使用できる。
【0016】
ポリアミン類としては、脂肪族ポリアミン[例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、1,2‐ジアミノプロパン、1,3‐ジアミノプロパン、1,4‐ジアミノブタン、1,6‐ジアミノヘキサン、3,3’‐イミノビス(プロピルアミン)、3‐(メチルアミノ)プロピルアミン、3‐(ジメチルアミノ)プロピルアミン、3‐(エチルアミノ)プロピルアミン、3‐(ブチルアミノ)プロピルアミン、N‐メチル‐3,3’‐イミノビス(プロピルアミン)、ポリエチレンイミン等]、芳香族ポリアミン[例えば、フェニレンジアミン、o‐トリジン、m‐トルイレンジアミン、m‐キシリレンジアミン、ジアニシジン、ジアミノジフェニルエーテル、1,4‐ジアミノアントラキノン、3,3’‐ジメチル‐4,4’‐ジアミノビフェニル、4,4’‐ジアミノベンズアニリド、4,4’‐ジアミノ‐3,3’‐ジエチルジフェニルメタン等]、複素環アミン[例えば、ピペラジン、2‐メチルピペラジン、1‐(2‐アミノエチル)ピペラジン、2,5‐ジメチルピペラジン、シス‐2,6‐ジメチルピペラジン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、1,3‐ジ(4‐ピペリジル)プロパン、3‐アミノ‐1,2,4‐トリアゾール、1‐アミノエチル‐2‐メチルイミダゾール等]等が挙げられる。
【0017】
本発明に使用する脂肪酸アミドに特に制限はないが、少ない添加量で、芳香族ポリカーボネート樹脂の流動性改良効果が高く、成形品への着色の度合いも少ない点では、脂肪族ポリアミン類からなる脂肪酸アミドが好ましい。
【0018】
本発明で用いる脂肪酸化合物は、上述の脂肪酸エステル又は脂肪酸アミドのいずれかを単独で含んでいてもよく、脂肪酸エステルと脂肪酸アミドとを組み合わせて含んでいてもよい。
なお、芳香族ポリカーボネート樹脂の透明性を活かし、フィルムインサート成形品の審美性を向上させる上では、脂肪酸化合物として、脂肪酸エステルを使用することがより好ましい。
【0019】
本発明で用いる脂肪酸化合物の平均分子量は800〜5000、好ましくは1000〜5000、より好ましくは1000〜4000である。
平均分子量が800〜5000であると、芳香族ポリカーボネート樹脂へ配合したときに、樹脂組成物の成形時の良好な流動性を保持しつつ、成形後のブリードアウト現象を抑制することができる。
また、平均分子量が800以上であると、芳香族ポリカーボネート樹脂と脂肪族化合物と混練するコンパウンド工程時の加熱により、脂肪酸エステル及び脂肪酸アミドが揮発することを抑制し、所望する流動性改良効果を得つつ、火災の危険性を抑制することができる。
平均分子量が5000以下であると、芳香族ポリカーボネート樹脂へ配合したときに、樹脂組成物の成形時の流動性を十分に改良することができる。
脂肪酸化合物の平均分子量はJIS K7252に準拠して測定することができる。
【0020】
本発明で用いる脂肪酸化合物のヨウ素価は60〜120が好ましく、より好ましくは70〜100である。ヨウ素価は、脂肪酸化合物に含まれる炭素‐炭素間の二重結合に付加反応するヨウ素の質量を表している。したがって、ヨウ素価が高いほど、脂肪酸化合物に含まれる炭素‐炭素間の二重結合の数が多いことを示している。
脂肪酸化合物のヨウ素価が60以上であると、芳香族ポリカーボネート樹脂へ配合したときに成形後のブリードアウト現象をより高く抑制することができる。
一方、脂肪酸化合物のヨウ素価が120以下であると、加熱時に生じる不飽和脂肪酸間の酸素架橋の度合いが高くなることを抑制し、芳香族ポリカーボネート樹脂へ配合したときに樹脂組成物の成形時の流動性改良の効果を十分に得、更には芳香族ポリカーボネート樹脂が脆くなり、芳香族ポリカーボネート樹脂が有する機械的強度が大きく損なわれることを抑制することができる。
ヨウ素価が60〜120の範囲にあれば、芳香族ポリカーボネート樹脂へ配合したときに成形時の流動性を改良し、成形後のブリードアウト現象を抑制することができる。
脂肪酸エステル及び脂肪酸アミドのヨウ素価はJIS K0070に準拠して、測定することができる。
【0021】
上記の物性を有する脂肪酸化合物は公知物質であり、市場において容易に入手することできるか、又は、調製可能である。
【0022】
本発明において、脂肪酸化合物の配合量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対して0.01〜1.0質量部、好ましくは0.01〜0.5質量部、より好ましくは0.01〜0.1質量部である。
脂肪酸化合物の配合量が0.01〜1.0質量部であると、所定の配合効果(成形時の良好な流動性の付与、成形後のブリードアウト現象の抑制、及び、透明性の高い成形品の提供)を発揮しつつ、更に成形品の色相変化(黄味化)を抑制することができる。
また、脂肪酸化合物の配合量が0.01質量部以上であると、成形時の良好な流動性を発現させることができる。一方、脂肪酸化合物の配合量が1.0質量部以下であると、加熱時に生じる不飽和脂肪酸間の酸素架橋の度合いが高くなることを抑制し、芳香族ポリカーボネート樹脂へ配合したときに樹脂組成物の成形時の流動性改良の効果を十分に得ることができ、更には芳香族ポリカーボネート樹脂との相溶する限界濃度以上になり、成形品が白く濁り、芳香族ポリカーボネート樹脂が有する透明性が損なわれることを十分に抑制し、更には、芳香族ポリカーボネート樹脂が脆くなり、芳香族ポリカーボネート樹脂が有する機械的強度が損なわれることを十分に抑制することができる。
【0023】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物(以下、本発明の樹脂組成物ともいう)には、透明性を維持しつつ、機械強度を改善するためにガラスフィラーを任意成分として配合することができる。
ガラスフィラーとしては、ポリカーボネート樹脂へ配合可能なものを特に制限なく本発明に使用することができるが、特許第4777621号明細書(特許文献1)及び特許第4777622号明細書(特許文献2)に記載のガラスフィラーは、ポリカーボネート樹脂の機械強度だけでなく、透明性も改善することができるので好ましい。
かかる好ましいガラスフィラーの具体例としては、ガラスフィラーの総質量に対して二酸化ケイ素(SiO
2)を50〜60質量%、酸化アルミニウム(Al
2O
3)を10〜15質量%、酸化カルシウム(CaO)を15〜25質量%、酸化チタン(TiO
2)を2〜10質量%、酸化ホウ素(B
2O
3)を2〜8質量%、酸化マグネシウム(MgO)を0〜5質量%、酸化亜鉛(ZnO)を0〜5質量%、酸化バリウム(BaO)を0〜5質量%、酸化ジルコニウム(ZrO
2)を0〜5質量%、酸化リチウム(Li
2O)を0〜2質量%、酸化ナトリウム(Na
2O)を0〜2質量%、及び酸化カリウム(K
2O)を0〜2質量%を含有し、かつ、該酸化リチウム(Li
2O)と該酸化ナトリウム(Na
2O)と該酸化カリウム(K
2O)との合計がガラスフィラーの総質量に対して0〜2質量%であるものが挙げられる。
【0024】
ガラスフィラーの配合量は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜設定することができるが、例えば、芳香族ポリカーボネート樹脂とガラスフィラーの総質量に対して2〜30質量%であり、成形品の使用用途に合わせ、ガラスフィラーの配合量を適宜調整することが好ましい。
【0025】
なお、ガラスフィラーを配合した場合、樹脂組成物から得られる成形品の最表面にガラスフィラーの一部が存在することで成形品の表面粗さが大きくなり、成形品表面での乱反射が多くなり、結果として成形品の透明性が低下する場合がある。かかる透明性の低下には、成形品の最表面にポリカーボネート樹脂の存在比率が高い層(スキン層)を形成し、成形品の表面粗さを小さくすることで対処できる。例えば、射出成形法を用いる場合には、金型温度を一般的な条件よりも高く設定して、金型に接する樹脂が流動し易くすることにより、スキン層を形成することができる。また、プレス成形法を用いる場合には、成形時の圧力を一般的な条件よりも高く設定することにより、成形品の最表面の表面粗さを小さくすることができる。これらの方法を用いて成形品の表面粗さを小さくすると、成形品表面での乱反射が少なくなり、ヘイズが小さくなり、結果として成形品の透明性を改善することができる。
【0026】
更に、本発明の樹脂組成物には、本発明の所定の効果や屈折率等の特性を損なわない範囲で、上述のガラスフィラー以外の周知の添加剤を任意成分として配合することができる。例えば、酸化防止剤と配合すると、樹脂組成物の製造時や成形時の芳香族ポリカーボネート樹脂の分解を抑制することができる。
【0027】
本発明の樹脂組成物は、メルトフローレート(MFR)で表される流動性が、ガラスフィラーを含有しない場合は、好ましくは30g/10分間〜60g/10分間、より好ましくは40g/10分間〜50g/10分間である。また、ガラスフィラーを含有する場合、例えば、樹脂組成物中にガラスフィラーを10質量%含有する場合は、好ましくは15g/10分間〜40g/10分間、より好ましくは20g/10分間〜40g/10分間である。上記のMFR範囲であると、優れた成形性を得ることができる。MFRは、JIS K7210で規定される測定法で測定することができる。
【0028】
本発明の樹脂組成物の製造は、ポリカーボネート樹脂組成物の製法として従来公知の方法を特に制限なく用いて実施することができる。好ましい製造方法としては、例えば、芳香族ポリカーボネート樹脂と流動性改良剤(脂肪酸エステル及び脂肪酸アミドからなる群より選択される少なくとも1種を含む脂肪酸化合物)と、任意成分とを混合機等で混合し、押出し機で溶融混練してペレット化する方法が挙げられる。
製造条件は適宜設定可能であり特に制限されないが、溶融混練時の加熱温度が220℃〜300℃の範囲であると、芳香族ポリカーボネート樹脂の分解を抑制できるので好ましい。
【0029】
本発明の樹脂組成物には、ポリカーボネート成形品の成形法として従来公知の方法を特に制限なく適用することで成形品とすることができる。成形法としては、例えば、射出成形法、押出成形法、圧縮成形法や、カレンダー成形法等が挙げられる。
なかでも、射出成形法、特にフィルムインサート射出成形法に対して、本発明の樹脂組成物を好適に用いることができる。
フィルムインサート射出成形法とは、加飾フィルムやハードコートフィルム等のフィルムを射出成形金型へ挿入し、当該金型へ、加熱により流動化させた成形樹脂材料(本発明の樹脂組成物)を加圧して流し込み、冷却固化させることによりフィルムとポリカーボネート樹脂成形品とが一体化した物品を製造する方法である。
本発明の樹脂組成物を用いると、成形後の成形品表面で流動性改良剤が粉化する現象(ブリードアウト現象)が抑制できるので、フィルムと成形品との接着性に優れた物品を製造することができる。
フィルムとしては、フィルムインサート射出成形に適用可能な公知のフィルムを特に制限なく用いることができる。具体例としては、成形品へ意匠性を付与するための加飾フィルム(例えば文字等を印刷したフィルムや色相フィルム)、成形品を保護するための保護フィルム(例えば、ハードコートフィルム)や、その他の機能性フィルム(例えば、防曇フィルム、帯電防止フィルムや、反射防止フィルム)等が挙げられる。
なかでも、耐候性が良好で、経時的な成形品表面の摩耗を防ぐことができるハードコートフィルムを好適に用いることができる。ハードコートフィルムの材質は特に限定されず、アクリレート系ハードコート剤、シリコーン系ハードコート剤や、無機系ハードコート剤等の公知の材料を用いることができる。ハードコートフィルムの基材フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルムが挙げられる。
フィルムインサート射出成形法に用いるフィルムは1枚であってもよく、2枚以上を積層させた複合フィルムであってもよい。
【0030】
成形条件は適宜設定可能であり特に限定されないが、成形時の樹脂温度が220℃〜300℃の範囲であると、芳香族ポリカーボネート樹脂の分解を抑制できるので好ましい。
【0031】
本発明の樹脂組成物を成形してなる成形品(以下、本発明の成形品ともいう)の厚さに特に制限はなく、成形品の使用目的に応じて適宜設定することができるが、前述の特許文献1及び2に記載のガラスフィラーを配合する場合には、好ましくは0.3〜20mm、より好ましくは0.5mm〜5mmである。成形品の厚さが0.3〜20mmであると、反りが生じにくく、機械強度に優れ、かつ、透明性に優れた成形品を得ることができる。
【0032】
本発明の成形品は、JIS−K7105のプラスチックの光学的特性試験方法に規定する60度鏡面光沢度で表される表面粗さが130以上であることが好ましい。60度鏡面光沢度が130以上であると、成形品の最表面での乱反射を抑え、成形品の透明性をより高くすることができる。
【0033】
本発明の成形品は、可視光に対する全光線透過率が86%以上であることが好ましく、88%以上であることがより好ましい。可視光に対する全光線透過率が86%以上であると、高い透明性を要求される用途へ好適に使用することができる。可視光に対する全光線透過率はJIS−K7361に準じて測定することができる。
【0034】
本発明の成形品は、ヘイズが10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましい。ヘイズが10%以下であると、高い透明性を要求される用途へ好適に使用することができる。ヘイズはJIS−K7105に準じて測定することができる。
【0035】
本発明の成形品は、従来公知のポリカーボネート樹脂成形品と同様の用途に特に制限なく用いることができる。好適には、適用される物品の内部を識別する必要がある部位、例えば外板、ハウジングや、開口部材等に適用することができる。具体例としては、下記(1)〜(6)に記載のものが挙げられる。
(1)テレビ、ラジオカセット、ビデオカメラ、ビデオテープレコーダ、オーディオプレーヤ、DVDプレーヤー、電話器、ディスプレイ、コンピュータ、レジスター、複写機、プリンター、ファクシミリ等の各種部品や、外板及びハウジング等の電気機器用部品
(2)携帯電話、PDA、カメラ、スライドプロジェクター、時計、電卓、計測器、表示器機等の精密機械等のケース及びカバー類等の精密機器用部品
(3)サンルーフ、ドアバイザー、リアウィンドや、サイドウィンド等の自動車用部品
(4)建築用ガラス、防音壁、カーポート、サンルームやグレーチング類等の建築用部品
(5)ビニールハウスや温室等の農業用部品
(6)照明カバーやブラインド、インテリア器具類等の家具用部品等
【実施例】
【0036】
次に、実施例により本発明の効果を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0037】
なお、実施例及び比較例で使用した各成分の物性は、下記の測定方法に従い測定したものである。
【0038】
(実施例1)
平均分子量が19000のビスフェノールAポリカーボネート樹脂100質量部に、ステアリン酸とオレイン酸とリノール酸との質量比が2:1:1の脂肪酸混合物とテトラグリセリンを反応させて得られた、不飽和脂肪酸エステル(不飽和脂肪酸化合物)の含有量が50質量%、平均分子量が3600、ヨウ素価が62.8である脂肪酸化合物0.1質量部を混合して、280℃で溶融混練してポリカーボネート樹脂組成物1を得た。
【0039】
(実施例2)
実施例1のポリカーボネート樹脂100質量部に、ヒマシ油脂肪酸(飽和脂肪酸量8質量%(詳しくは、ミリスチン酸2質量%、ステアリン酸4質量%、アラキジン酸2質量%)、不飽和脂肪酸量92質量%(詳しくは、オレイン酸88質量%、リノール酸3質量%、リノレン酸1質量%)とパーム油脂肪酸(飽和脂肪酸量45質量%(詳しくは、ミリスチン酸2質量%、パルミチン酸38質量%、ステアリン酸5質量%)、不飽和脂肪酸量55質量%(詳しくは、オレイン酸45質量%、リノール酸10質量%)とが質量比で1:1の脂肪酸混合物とヘキサグリセリンとを反応させて得られた、不飽和脂肪酸エステル(不飽和脂肪酸化合物)の含有量が73.5質量%、平均分子量が4000、ヨウ素価が70の脂肪酸化合物0.02質量部を混合して、実施例1と同じ方法にて、ポリカーボネート樹脂組成物2を得た。
【0040】
(実施例3)
実施例1のポリカーボネート樹脂100質量部に、分子量870のトリリノレン酸グリセリルと、分子量880のトリステアリン酸グリセリルとを質量比1:1で混合して得られた、不飽和脂肪酸エステル(不飽和脂肪酸化合物)の含有量が50質量%、平均分子量が875、ヨウ素価が110の脂肪酸化合物0.8質量部を混合して、実施例1と同じ方法にて、ポリカーボネート樹脂組成物3を得た。
【0041】
(実施例4)
実施例2において、二酸化ケイ素(SiO
2)を55質量%、酸化アルミニウム(Al
2O
3)を14質量%、酸化カルシウム(CaO)を23質量%、酸化チタン(TiO
2)を2質量%、酸化ホウ素(B
2O
3)を6質量%、酸化マグネシウム(MgO)を0.3質量%、酸化ナトリウム(Na
2O)を0.6質量%、及び酸化カリウム(K
2O)を0.1質量%を含有する、繊維長0.3mmのガラスフィラーを、樹脂組成物の全質量に対して、10質量%になるように配合した以外は、実施例2と同じ方法にて、ガラスフィラー含有ポリカーボネート樹脂組成物4を得た。
【0042】
(比較例1)
平均分子量19000のビスフェノールAポリカーボネート樹脂(実施例1のポリカーボネート樹脂)をそのまま使用した。
【0043】
(比較例2)
実施例1のポリカーボネート樹脂100質量部に、分子量880のトリステアリン酸グリセリルからなる脂肪酸化合物(不飽和脂肪酸化合物を含有しない)0.1質量部を混合して、実施例1と同じ方法にて、ポリカーボネート樹脂組成物5を得た。
【0044】
(比較例3)
実施例1のポリカーボネート樹脂100質量部に、分子量870のトリリノール酸グリセリルからなる、不飽和脂肪酸エステル(不飽和脂肪酸化合物)の含有量が100質量%、ヨウ素価が160の脂肪酸化合物0.1質量部を混合して、実施例1と同じ方法にて、ポリカーボネート樹脂組成物6を得た。
【0045】
(比較例4)
実施例2において、脂肪酸化合物を1.2質量部に変更した以外は、実施例2と同じ方法にて、ポリカーボネート樹脂組成物7を得た。
【0046】
(比較例5)
実施例1で使用したポリカーボネート樹脂に、実施例4で使用したガラスフィラーを組成物の全質量に対して、10質量%になるように配合して、280℃で溶融混練してガラスフィラー含有ポリカーボネート樹脂組成物8を得た。
【0047】
(比較例6)
比較例2において、実施例4で使用したガラスフィラーを、組成物の全質量に対して、10質量%になるように配合した以外は、比較例2と同じ方法にて、ガラスフィラー含有ポリカーボネート樹脂組成物9を得た。
【0048】
(評価例1)
実施例1〜4及び比較例1〜6の芳香族ポリカーボネート樹脂及びポリカーボネート樹脂組成物を用いて、JIS K7210に従い、温度280℃、荷重2.16kgfでのMFRを測定した。
【0049】
(評価例2)
実施例1〜4及び比較例1〜6の芳香族ポリカーボネート樹脂及びポリカーボネート樹脂組成物を、溶融温度280℃、金型温度120℃で射出成型を行い、厚さ1mmの90mm×45mmの試験片を作成し、JIS K7361に従い、全光線透過率を測定した。
【0050】
(評価例3)
実施例1〜4及び比較例1〜6の芳香族ポリカーボネート樹脂及びポリカーボネート樹脂組成物を、溶融温度280℃、金型温度120℃にて、25μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを用いて、フィルムインサート射出成形を行い、厚さ3mmの90mm×45mmの試験片を作成した。
この試験片のフィルム側より、市販のカッターにて、幅2mmの、100個のマス目状の切り込みを入れ、セロテープ剥離試験を行い、フィルムの接着強さを評価した。この時、100個のマス目にうち、フィルムが剥離したマス目の数を数え、数が少ないほど接着力が高いと判断した。
【0051】
評価結果を以下の表1(ガラスフィラー配合なし)及び表2(ガラスフィラー配合)に示す。
(表1)
(表2)
【0052】
評価例1のMFRは、ポリカーボネート樹脂組成物の成形時の流動性の指標である。
評価例3のセロテープ剥離性は、ブリードアウト現象が影響する成形品とフィルムとの間の接着性の指標である。
評価例2の全光線透過率は、成形品の透明性の指標である。
表1及び表2は、実施例のポリカーボネート樹脂組成物が、成形時に良好な流動性を保持しつつ、成形後のブリードアウト現象を抑制し、更に透明性の高い成形品を製造できることを示している。