特許第6565091号(P6565091)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6565091
(24)【登録日】2019年8月9日
(45)【発行日】2019年8月28日
(54)【発明の名称】表面被覆切削工具およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/14 20060101AFI20190819BHJP
   C23C 16/30 20060101ALI20190819BHJP
   B23C 5/16 20060101ALI20190819BHJP
   B23B 51/00 20060101ALI20190819BHJP
   B23P 15/28 20060101ALI20190819BHJP
【FI】
   B23B27/14 A
   C23C16/30
   B23C5/16
   B23B51/00 J
   B23P15/28 A
【請求項の数】5
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2019-527468(P2019-527468)
(86)(22)【出願日】2018年12月27日
(86)【国際出願番号】JP2018048018
【審査請求日】2019年5月21日
(31)【優先権主張番号】特願2018-54714(P2018-54714)
(32)【優先日】2018年3月22日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】503212652
【氏名又は名称】住友電工ハードメタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パサート アノンサック
(72)【発明者】
【氏名】城戸 保樹
(72)【発明者】
【氏名】奥野 晋
(72)【発明者】
【氏名】今村 晋也
【審査官】 中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−026381(JP,A)
【文献】 特表2003−508242(JP,A)
【文献】 特表2008−545063(JP,A)
【文献】 特表2013−510946(JP,A)
【文献】 特開2014−133267(JP,A)
【文献】 特開2014−210313(JP,A)
【文献】 特開2015−124407(JP,A)
【文献】 特開2015−208845(JP,A)
【文献】 特開2016−003368(JP,A)
【文献】 特開2016−003369(JP,A)
【文献】 特開2016−130344(JP,A)
【文献】 特開2017−056497(JP,A)
【文献】 特開2017−189847(JP,A)
【文献】 特表2017−508632(JP,A)
【文献】 特許第6120229(JP,B2)
【文献】 特表2018−504515(JP,A)
【文献】 特表2018−522748(JP,A)
【文献】 J. Keckes, 外7名,Self-organized periodic soft-hard nanolamellae in polycrystalline TiAlN thin films,Thin Solid Films,ELSEVIER,2013年 8月 9日,545,29-32
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/14
B23B 51/00
B23C 5/16
B23P 15/28
C23C 16/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と前記基材を被覆する被膜とを含む表面被覆切削工具であって、
前記被膜は、ドメイン領域とマトリックス領域とからなる硬質被膜層を含み、
前記ドメイン領域は、前記マトリックス領域中に複数の部分に分かれ、分散した状態で存在している領域であり、
前記ドメイン領域は、Alx1Ti(1−x1)N、Alx1Ti(1−x1)BN及びAlx1Ti(1−x1)CNからなる群より選ばれる少なくとも1種の第一AlTi化合物からなる第一層と、Alx2Ti(1−x2)N、Alx2Ti(1−x2)BN及びAlx2Ti(1−x2)CNからなる群より選ばれる少なくとも1種の第二AlTi化合物からなる第二層とが互いに積層された構造を有し、
前記マトリックス領域は、Alx3Ti(1−x3)N、Alx3Ti(1−x3)BN及びAlx3Ti(1−x3)CNからなる群より選ばれる少なくとも1種の第三AlTi化合物からなる第三層と、Alx4Ti(1−x4)N、Alx4Ti(1−x4)BN及びAlx4Ti(1−x4)CNからなる群より選ばれる少なくとも1種の第四AlTi化合物からなる第四層とが互いに積層された構造を有し、
前記第一AlTi化合物は立方晶型の結晶構造を有し、且つ前記第二AlTi化合物は立方晶型の結晶構造を有し、
前記第三AlTi化合物は立方晶型の結晶構造を有し、且つ前記第四AlTi化合物は立方晶型の結晶構造を有し、
前記x1は、0.75以上0.9以下であり、
前記x2は、0.48以上0.59以下であり、
前記x3は、0.73以上0.83以下であり、
前記x4は、0.5以上0.57以下である、表面被覆切削工具。
【請求項2】
前記ドメイン領域は、双晶部分を含む、請求項1に記載の表面被覆切削工具。
【請求項3】
前記第一層の厚さと前記第二層の厚さとの合計厚さは、2nm以上20nm以下である、請求項1又は請求項2に記載の表面被覆切削工具。
【請求項4】
前記第三層の厚さと前記第四層の厚さとの合計厚さは、1.5nm以上30nm以下である、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の表面被覆切削工具。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の表面被覆切削工具の製造方法であって、
前記基材を準備する工程と、
アルミニウムのハロゲン化物ガス及びチタンのハロゲン化物ガスを含む第一ガスと、アルミニウムのハロゲン化物ガス、チタンのハロゲン化物ガス及びアンモニアガスを含む第二ガスと、アンモニアガスを含む第三ガスとのそれぞれを、650℃以上900℃以下且つ0.5kPa以上5kPa以下の雰囲気において前記基材に対して噴出する工程と、を含む、表面被覆切削工具の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、表面被覆切削工具およびその製造方法に関する。本出願は、2018年3月22日に出願した日本特許出願である特願2018−054714号に基づく優先権を主張する。当該日本特許出願に記載された全ての記載内容は、参照によって本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
従来より、超硬合金からなる切削工具を用いて、鋼及び鋳物等の切削加工が行われている。このような切削工具は、切削加工時において、その刃先が高温及び高応力等の過酷な環境に曝されるため、刃先の摩耗及び欠けが招来される。
したがって、刃先の摩耗及び欠けを抑制することが切削工具の寿命を向上させる上で重要である。
切削工具の切削性能の改善を目的として、超硬合金等の基材の表面を被覆する被膜の開発が進められている。なかでも、アルミニウム(Al)とチタン(Ti)と窒素(N)との化合物(以下、「AlTiN」ともいう。)からなる被膜は、高い硬度を有することができるとともに、Alの含有割合を高めることによって耐酸化性を高めることができる(例えば、特表2015−509858号公報(特許文献1)、特表2017−508632号公報(特許文献2)、特開2016−130343号公報(特許文献3))。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2015−509858号公報
【特許文献2】特表2017−508632号公報
【特許文献3】特開2016−130343号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示に係る表面被覆切削工具は、
基材と前記基材を被覆する被膜とを含む表面被覆切削工具であって、
前記被膜は、ドメイン領域とマトリックス領域とからなる硬質被膜層を含み、
前記ドメイン領域は、前記マトリックス領域中に複数の部分に分かれ、分散した状態で存在している領域であり、
前記ドメイン領域は、Alx1Ti(1−x1)N、Alx1Ti(1−x1)BN及びAlx1Ti(1−x1)CNからなる群より選ばれる少なくとも1種の第一AlTi化合物からなる第一層と、Alx2Ti(1−x2)N、Alx2Ti(1−x2)BN及びAlx2Ti(1−x2)CNからなる群より選ばれる少なくとも1種の第二AlTi化合物からなる第二層とが互いに積層された構造を有し、
前記マトリックス領域は、Alx3Ti(1−x3)N、Alx3Ti(1−x3)BN及びAlx3Ti(1−x3)CNからなる群より選ばれる少なくとも1種の第三AlTi化合物からなる第三層と、Alx4Ti(1−x4)N、Alx4Ti(1−x4)BN及びAlx4Ti(1−x4)CNからなる群より選ばれる少なくとも1種の第四AlTi化合物からなる第四層とが互いに積層された構造を有し、
前記第一AlTi化合物は立方晶型の結晶構造を有し、且つ前記第二AlTi化合物は立方晶型の結晶構造を有し、
前記第三AlTi化合物は立方晶型の結晶構造を有し、且つ前記第四AlTi化合物は立方晶型の結晶構造を有し、
前記x1は、0.75以上0.9以下であり、
前記x2は、0.48以上0.59以下であり、
前記x3は、0.73以上0.83以下であり、
前記x4は、0.5以上0.57以下である。
【0005】
本開示に係る表面被覆切削工具の製造方法は、
上記表面被覆切削工具の製造方法であって、
前記基材を準備する工程と、
アルミニウムのハロゲン化物ガス及びチタンのハロゲン化物ガスを含む第一ガスと、アルミニウムのハロゲン化物ガス、チタンのハロゲン化物ガス及びアンモニアガスを含む第二ガスと、アンモニアガスを含む第三ガスとのそれぞれを、650℃以上900℃以下且つ0.5kPa以上5kPa以下の雰囲気において前記基材に対して噴出する工程と、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1A図1Aは、本実施形態に係る表面被覆切削工具の被膜を構成する硬質被膜層の模式図である。
図1B図1Bは、本実施形態に係る表面被覆切削工具の被膜を構成する硬質被膜層の透過型電子顕微鏡の写真である。
図2図2は、図1Bの領域aの拡大写真である。
図3図3は、図1Bの領域bの拡大写真である。
図4図4は、本実施形態に係る表面被覆切削工具の製造に用いられるCVD装置の模式的な断面図である。
図5図5は、本実施形態に係る表面被覆切削工具の製造に用いられるCVD装置のガス導入管の模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[本開示が解決しようとする課題]
近年はより高効率な(送り速度が大きい)切削加工が求められており、更なる耐欠損性及び耐摩耗性の向上(刃先の欠け及び摩耗の抑制)が期待されている。
【0008】
本開示は、上記事情に鑑みてなされたものであり、優れた耐欠損性及び耐摩耗性を有する表面被覆切削工具を提供することを目的とする。
【0009】
[本開示の効果]
上記によれば、優れた耐欠損性及び耐摩耗性を有する表面被覆切削工具を提供することが可能になる。
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の一態様の内容を列記して説明する。
[1]本開示に係る表面被覆切削工具は、
基材と前記基材を被覆する被膜とを含む表面被覆切削工具であって、
前記被膜は、ドメイン領域とマトリックス領域とからなる硬質被膜層を含み、
前記ドメイン領域は、前記マトリックス領域中に複数の部分に分かれ、分散した状態で存在している領域であり、
前記ドメイン領域は、Alx1Ti(1−x1)N、Alx1Ti(1−x1)BN及びAlx1Ti(1−x1)CNからなる群より選ばれる少なくとも1種の第一AlTi化合物からなる第一層と、Alx2Ti(1−x2)N、Alx2Ti(1−x2)BN及びAlx2Ti(1−x2)CNからなる群より選ばれる少なくとも1種の第二AlTi化合物からなる第二層とが互いに積層された構造を有し、
前記マトリックス領域は、Alx3Ti(1−x3)N、Alx3Ti(1−x3)BN及びAlx3Ti(1−x3)CNからなる群より選ばれる少なくとも1種の第三AlTi化合物からなる第三層と、Alx4Ti(1−x4)N、Alx4Ti(1−x4)BN及びAlx4Ti(1−x4)CNからなる群より選ばれる少なくとも1種の第四AlTi化合物からなる第四層とが互いに積層された構造を有し、
前記第一AlTi化合物は立方晶型の結晶構造を有し、且つ前記第二AlTi化合物は立方晶型の結晶構造を有し、
前記第三AlTi化合物は立方晶型の結晶構造を有し、且つ前記第四AlTi化合物は立方晶型の結晶構造を有し、
前記x1は、0.75以上0.9以下であり、
前記x2は、0.48以上0.59以下であり、
前記x3は、0.73以上0.83以下であり、
前記x4は、0.5以上0.57以下である。
【0011】
前記表面被覆切削工具は、上述のような構成を備えることによって、優れた耐欠損性及び耐摩耗性を有することが可能になる。
【0012】
[2]前記ドメイン領域は、双晶部分を含む。このように規定することで耐チッピング性に優れる表面被覆切削工具となる。
【0013】
[3]前記第一層の厚さと前記第二層の厚さとの合計厚さは、2nm以上20nm以下である。このように規定することで耐摩耗性に優れる表面被覆切削工具となる。
【0014】
[4]前記第三層の厚さと前記第四層の厚さとの合計厚さは、1.5nm以上30nm以下である。このように規定することで耐欠損性に優れる表面被覆切削工具となる。
【0015】
[5]本開示に係る表面被覆切削工具の製造方法は、上記表面被覆切削工具の製造方法であって、
前記基材を準備する工程と、
アルミニウムのハロゲン化物ガス及びチタンのハロゲン化物ガスを含む第一ガスと、アルミニウムのハロゲン化物ガス、チタンのハロゲン化物ガス及びアンモニアガスを含む第二ガスと、アンモニアガスを含む第三ガスとのそれぞれを、650℃以上900℃以下且つ0.5kPa以上5kPa以下の雰囲気において前記基材に対して噴出する工程と、を含む。
前記表面被覆切削工具の製造方法は、上述のような構成を備えることによって、優れた耐欠損性及び耐摩耗性を有する表面被覆切削工具を製造することが可能になる。
【0016】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の一実施形態(以下「本実施形態」と記す。)について説明する。ただし、本実施形態はこれに限定されるものではない。なお以下の実施形態の説明に用いられる図面において、同一の参照符号は、同一部分又は相当部分を表わす。本明細書において「A〜B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。さらに、本明細書において、例えば「TiC」等のように、構成元素の組成比が限定されていない化学式によって化合物が表された場合には、その化学式は従来公知のあらゆる組成比(元素比)を含むものとする。このとき前記化学式は、化学量論組成のみならず、非化学量論組成も含むものとする。例えば「TiC」の化学式には、化学量論組成「Ti」のみならず、例えば「Ti0.8」のような非化学量論組成も含まれる。このことは、「TiC」以外の化合物の記載についても同様である。
【0017】
≪表面被覆切削工具≫
本実施形態に係る表面被覆切削工具は、
基材と前記基材を被覆する被膜とを含む表面被覆切削工具であって、
前記被膜は、ドメイン領域とマトリックス領域とからなる硬質被膜層を含み、
前記ドメイン領域は、前記マトリックス領域中に複数の部分に分かれ、分散した状態で存在している領域であり、
前記ドメイン領域は、Alx1Ti(1−x1)N、Alx1Ti(1−x1)BN及びAlx1Ti(1−x1)CNからなる群より選ばれる少なくとも1種の第一AlTi化合物からなる第一層と、Alx2Ti(1−x2)N、Alx2Ti(1−x2)BN及びAlx2Ti(1−x2)CNからなる群より選ばれる少なくとも1種の第二AlTi化合物からなる第二層とが互いに積層された構造を有し、
前記マトリックス領域は、Alx3Ti(1−x3)N、Alx3Ti(1−x3)BN及びAlx3Ti(1−x3)CNからなる群より選ばれる少なくとも1種の第三AlTi化合物からなる第三層と、Alx4Ti(1−x4)N、Alx4Ti(1−x4)BN及びAlx4Ti(1−x4)CNからなる群より選ばれる少なくとも1種の第四AlTi化合物からなる第四層とが互いに積層された構造を有し、
前記第一AlTi化合物は立方晶型の結晶構造を有し、且つ前記第二AlTi化合物は立方晶型の結晶構造を有し、
前記第三AlTi化合物は立方晶型の結晶構造を有し、且つ前記第四AlTi化合物は立方晶型の結晶構造を有し、
前記x1は、0.75以上0.9以下であり、
前記x2は、0.48以上0.59以下であり、
前記x3は、0.73以上0.83以下であり、
前記x4は、0.5以上0.57以下である。
【0018】
本実施形態の表面被覆切削工具(以下、単に「切削工具」という場合がある。)は、基材と、前記基材を被覆する被膜とを備える。前記切削工具は、例えば、ドリル、エンドミル、ドリル用刃先交換型切削チップ、エンドミル用刃先交換型切削チップ、フライス加工用刃先交換型切削チップ、旋削加工用刃先交換型切削チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップ等であり得る。
【0019】
<基材>
本実施形態の基材は、この種の基材として従来公知のものであればいずれのものも使用することができる。例えば、前記基材は、超硬合金(例えば、炭化タングステン(WC)基超硬合金、WCの他にCoを含む超硬合金、WCの他にCr、Ti、Ta、Nb等の炭窒化物を添加した超硬合金等)、サーメット(TiC、TiN、TiCN等を主成分とするもの)、高速度鋼、セラミックス(炭化チタン、炭化珪素、窒化珪素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム等)、立方晶型窒化硼素焼結体(cBN焼結体)及びダイヤモンド焼結体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、超硬合金、サーメット及びcBN焼結体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことがより好ましい。
【0020】
これらの各種基材の中でも、特にWC基超硬合金又はcBN焼結体を選択することが好ましい。その理由は、これらの基材が特に高温における硬度と強度とのバランスに優れ、上記用途の表面被覆切削工具の基材として優れた特性を有するためである。
【0021】
基材として超硬合金を使用する場合、そのような超硬合金は、組織中に遊離炭素又はη相と呼ばれる異常相を含んでいても本実施形態の効果は示される。なお、本実施形態で用いる基材は、その表面が改質されたものであっても差し支えない。例えば、超硬合金の場合はその表面に脱β層が形成されていたり、cBN焼結体の場合には表面硬化層が形成されていてもよく、このように表面が改質されていても本実施形態の効果は示される。
【0022】
表面被覆切削工具が、刃先交換型切削チップである場合、基材は、チップブレーカーを有するものも、有さないものも含まれる。刃先の稜線部分の形状は、シャープエッジ(すくい面と逃げ面とが交差する稜)、ホーニング(シャープエッジに対してアールを付与した形状)、ネガランド(面取りをした形状)、ホーニングとネガランドを組み合わせた形状の中で、いずれの形状も含まれる。
【0023】
<被膜>
本実施形態に係る被膜は、ドメイン領域とマトリックス領域とからなる硬質被膜層を含む。「被膜」は、前記基材の少なくとも一部(例えば、切削加工時に被削材と接する部分)を被覆することで、切削工具における耐欠損性、耐摩耗性等の諸特性を向上させる作用を有するものである。前記被膜は、前記基材の全面を被覆することが好ましい。しかしながら、前記基材の一部が前記被膜で被覆されていなかったり被膜の構成が部分的に異なっていたりしていたとしても本実施形態の範囲を逸脱するものではない。
【0024】
前記被膜は、その厚さが2μm以上20μm以下であることが好ましく、5μm以上15μm以下であることがより好ましい。ここで、被膜の厚さとは、被膜を構成する層それぞれの厚さの総和を意味する。「被膜を構成する層」としては、例えば、後述する硬質被膜層、下地層及び最外層等が挙げられる。前記被膜の厚さは、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、基材の表面の法線方向に平行な断面サンプルにおける任意の10点を測定し、測定された10点の厚さの平均値をとることで求めることが可能である。後述する硬質被膜層、下地層、最外層等のそれぞれの厚さを測定する場合も同様である。透過型電子顕微鏡としては、例えば、日本電子株式会社製のJEM−2100F(商品名)が挙げられる。
【0025】
(硬質被膜層)
図1Aは、本実施形態に係る表面被覆切削工具の被膜を構成する硬質被膜層の模式図である。また、図1Bは、本実施形態に係る表面被覆切削工具の被膜を構成する硬質被膜層の透過型電子顕微鏡の写真である。前記硬質被膜層は、前記ドメイン領域(図1Aの領域a、図1Bの領域a)と前記マトリックス領域(図1Aの領域b(領域a以外の領域)、図1Bの領域b)とからなる。図1A中、ドメイン領域a同士が重なって見える箇所があるが、図の奥行き方向にマトリックス領域bが介在しているものも含まれる。前記硬質被膜層は、後述する組成を有するが、本実施形態に係る表面被覆切削工具が奏する効果を損なわない範囲において、不可避不純物が含まれていてもよい。前記不可避不純物の含有割合は、硬質被膜層の全質量に対して0質量%以上10質量%以下であることが好ましい。
【0026】
前記硬質被膜層は、本実施形態に係る表面被覆切削工具が奏する効果を損なわない範囲において、前記基材の直上に設けられていてもよいし、下地層等の他の層を介して前記基材の上に設けられていてもよい。前記硬質被膜層は、その上に最外層等の他の層が設けられていてもよい。また、前記硬質被膜層は、前記被膜の最外層(最表面層)であってもよい。
【0027】
前記硬質被膜層は、その厚さが0.5μm以上15μm以下であることが好ましく、3μm以上13μm以下であることがより好ましい。
【0028】
(ドメイン領域)
本実施形態において「ドメイン領域」とは、後述するマトリックス領域中に複数の部分に分かれ、分散した状態で存在している領域(例えば、図1Aにおける領域a、図1Bの領域a)を意味する。また、前記ドメイン領域は、前記硬質被膜層において複数の領域に分かれて配置される領域と把握することもできる。なお、上述の「分散した状態」は、ドメイン領域が互いに接触しているものを排除するものではない。前記ドメイン領域は、Alx1Ti(1−x1)N、Alx1Ti(1−x1)BN及びAlx1Ti(1−x1)CNからなる群より選ばれる少なくとも1種の第一AlTi化合物からなる第一層と、Alx2Ti(1−x2)N、Alx2Ti(1−x2)BN及びAlx2Ti(1−x2)CNからなる群より選ばれる少なくとも1種の第二AlTi化合物からなる第二層とが互いに積層された構造を有する。ここで、x1及びx2は、それぞれ第一層におけるAlの原子比及び第二層におけるAlの原子比を意味する。前記第一AlTi化合物は、Alx1Ti(1−x1)Nであることが好ましい。また、前記第二AlTi化合物は、Alx2Ti(1−x2)Nであることが好ましい。
【0029】
図2は、図1Bの領域aの拡大写真である。前記第一層(図2の暗い層)及び前記第二層(図2の明るい層)は、それぞれが交互に1層以上積層された多層構造を形成していてもよい。本実施形態において、ドメイン領域は、その一部が当該多層構造を含んでいてもよい。また、ドメイン領域は、当該多層構造からなっていてもよい。
【0030】
前記ドメイン領域は、TEMによる観察及び制限視野電子線回折像を分析することによって、後述するマトリックス領域と明確に区別できる。
【0031】
前記ドメイン領域の体積比率は、特に制限はないが、前記ドメイン領域及び前記マトリックス領域の全体積を基準として、10体積%以上90体積%以下であってもよいし、20体積%以上80体積%以下であってもよいし、50体積%以上80体積%以下であってもよい。前記ドメイン領域の体積比率は、X線回折測定(XRD測定)を行い、リートベルト解析することで求められる。例えば、表面被覆切削工具が刃先交換型切削チップである場合、後述する表10に記載の条件を用いてXRD測定を行う。このとき、測定する領域は、前記刃先交換型切削チップの稜線から2mm以内の領域であって且つ平坦な領域とすることが好ましい。前記測定する領域を2か所選定し、それぞれの領域について少なくとも2回以上測定することが好ましい。その後、得られたデータをリートベルト解析することで、前記ドメイン領域の体積比率を求める。
【0032】
前記第一層の厚さは、2nm以上20nm以下であることが好ましく、4nm以上14nm以下であることがより好ましい。前記第二層の厚さは、0.5nm以上5nm以下であることが好ましく、1nm以上4nm以下であることがより好ましい。また、前記ドメイン領域が前記多層構造を含む場合、前記第一層の厚さは、前記多層構造を構成している任意の10か所の第一層それぞれの厚さの平均値を意味する。前記第二層の厚さについても同様である。
【0033】
前記第一層の厚さと前記第二層の厚さとの合計厚さ(両層の1層ずつの和)は、2nm以上25nm以下であることが好ましく、2.5nm以上25nm以下であることがより好ましく、5nm以上20nm以下であることが更に好ましい。
【0034】
前記第一AlTi化合物におけるx1は、0.75以上0.9以下であり、0.77以上0.88以下であることが好ましい。前記x1は、上述の断面サンプルにあらわれた第一層における結晶粒に対して走査型電子顕微鏡(SEM)又はTEMに付帯のエネルギー分散型X線分析(EDX:Energy Dispersive X−ray spectroscopy)装置を用いて分析することにより、求めることが可能である。具体的には、前記断面サンプルのドメイン領域中の第一層における任意の10点それぞれを測定して前記x1の値を求め、求められた10点の値の平均値を前記第一層におけるx1とする。ここで当該「任意の10点」は、前記第一層中の互いに異なる結晶粒から選択するものとする。また、前記ドメイン領域が前記多層構造を含む場合、前記x1は、前記多層構造を構成している任意の10か所の第一層それぞれのx1の平均値を意味する。後述するx2、x3及びx4の場合も同様である。前記EDX装置としては、例えば、日本電子株式会社製のJED−2300(商品名)が挙げられる。
【0035】
前記第二AlTi化合物におけるx2は、0.48以上0.59以下であり、0.5以上0.57以下であることが好ましい。前記x2は、上述の断面サンプルにあらわれた第二層における結晶粒に対してSEM又はTEMに付帯のEDX装置を用いて分析することにより、求めることが可能である。具体的には、前記x1を求める方法と同様の方法によってx2も求められる。
【0036】
前記第一層を構成する第一AlTi化合物は、立方晶型の結晶構造を含む。前記第一AlTi化合物が立方晶型の結晶構造を含むことは、上述の断面サンプルの第一層に対して制限視野による電子線回折測定(SAED:Selected Area Electron Diffraction)を行い得られた電子線回折像のパターンを解析することで確認できる。具体的には、前記第一層における前記第一AlTi化合物の結晶粒について電子線回折測定を行う。このとき、測定する結晶粒の数は、少なくとも10点以上とし、20点以上とすることがより好ましい。また、前記ドメイン領域が前記多層構造を含む場合、電子線回折測定は、上述の方法を任意の10か所の前記第一層について行うことが好ましい。後述する第二層、第三層及び第四層についても同様である。前記電子線回折像のパターン解析を行うに当たり必要な物質の結晶構造パラメータは、例えば、International Centre for Diffraction Data(ICDD)から入手し、前記結晶構造パラメータと電子線回折図形シミュレーションソフト(例えば:ReciPro)とを用いて解析が可能である。前記電子線回折測定に用いる装置としては、例えば、日本電子株式会社製の「JEM−2100F」(商品名)が挙げられる。
【0037】
前記第二層を構成する第二AlTi化合物は、立方晶型の結晶構造を含む。前記第二AlTi化合物が立方晶型の結晶構造を含むことは、上述の断面サンプルの第二層に対して電子線回折測定(SAED測定)を行い、電子線回折像のパターン解析をすることで確認できる。電子線回折測定及び電子線回折像のパターン解析をする際の具体的な条件等は、上記と同様である。
【0038】
本実施形態において、前記第一AlTi化合物は立方晶型の結晶構造を含み、且つ前記第二AlTi化合物は立方晶型の結晶構造を含む。前記第一AlTi化合物は立方晶型の結晶構造からなり、且つ前記第二AlTi化合物は立方晶型の結晶構造からなることが好ましい。
【0039】
本実施形態の一態様において、前記ドメイン領域は、双晶部分を含むことが好ましい。ここで「双晶部分」とは、前記ドメイン領域を構成する2つの単結晶が集まって、一定の方位に従って接合した部分を一部に含む構造を意味する。例えば、図1Bの領域aを含む部分が当該双晶部分に該当する。前記双晶部分を含むか否かは、透過型電子顕微鏡を用いて前記ドメイン領域を観察することで判断できる。
【0040】
(マトリックス領域)
本実施形態において「マトリックス領域」とは前記被膜の母体となる領域(例えば、図1Aにおける領域b、図1Bにおける領域b)であり、ドメイン領域以外の領域を意味する。言い換えると、前記マトリックス領域の大部分は、前記ドメイン領域を構成する複数の領域のそれぞれを取り囲むように配置されている領域と把握することもできる。また、前記マトリックス領域の大部分は、前記ドメイン領域を構成する複数の領域の間に配置されていると把握することもできる。前記マトリックス領域は、Alx3Ti(1−x3N、Alx3Ti(1−x3)BN及びAlx3Ti(1−x3)CNからなる群より選ばれる少なくとも1種の第三AlTi化合物からなる第三層と、Alx4Ti(1−x4)N、Alx4Ti(1−x4)BN及びAlx4Ti(1−x4)CNからなる群より選ばれる少なくとも1種の第四AlTi化合物からなる第四層とが互いに積層された構造を有する。ここで、x3及びx4は、それぞれ第三層におけるAlの原子比及び第四層におけるAlの原子比を意味する。前記第三AlTi化合物は、Alx3Ti(1−x3Nであることが好ましい。また、前記第四AlTi化合物は、Alx4Ti(1−x4Nであることが好ましい。
【0041】
図3は、図1Bの領域bの拡大写真である。前記第三層(図3の暗い層)及び前記第四層(図3の明るい層)は、それぞれが交互に1層以上積層された多層構造を形成していてもよい。本実施形態において、マトリックス領域は、その一部が当該多層構造を含んでいてもよい。また、マトリックス領域は、当該多層構造からなっていてもよい。
【0042】
前記マトリックス領域は、TEMによる観察及び制限視野電子線回折像を分析することによって、前記ドメイン領域と明確に区別できる。
【0043】
前記マトリックス領域の体積比率は、特に制限はないが、前記ドメイン領域及び前記マトリックス領域の全体積を基準として、10体積%以上90体積%以下であってもよいし、20体積%以上80体積%以下であってもよいし、50体積%以上80体積%以下であってもよい。前記マトリックス領域の体積比率は、X線回折測定(XRD測定)を行い、リートベルト解析することで求められる。具体的には、上述したドメイン領域の体積比率の求め方と同様の方法で求めることができる。
【0044】
前記第三層の厚さは、1nm以上20nm以下であることが好ましく、2.5nm以上9.5nm以下であることがより好ましい。前記第四層の厚さは、0.5nm以上10nm以下であることが好ましく、1.5nm以上5nm以下であることがより好ましい。また、前記マトリックス領域が前記多層構造を含む場合、前記第三層の厚さは、前記多層構造を構成している任意の10か所の第三層それぞれの厚さの平均値を意味する。前記第四層の厚さについても同様である。
【0045】
前記第三層の厚さと前記第四層の厚さとの合計厚さ(両層の1層ずつの和)は、1.5nm以上30nm以下であることが好ましく、4nm以上20nm以下であることがより好ましい。
【0046】
前記第三AlTi化合物におけるx3は、0.73以上0.83以下であり、0.75以上0.8以下であることが好ましい。前記x3は、上述の断面サンプルにあらわれた第三層における結晶粒に対してSEM又はTEMに付帯のEDX装置を用いて分析することにより、求めることが可能である。具体的には、前記x1を求める方法と同様の方法によってx3も求められる。
【0047】
前記第四AlTi化合物におけるx4は、0.5以上0.57以下であり、0.52以上0.55以下であることが好ましい。前記x4は、上述の断面サンプルにあらわれた第四層における結晶粒に対してSEM又はTEMに付帯のEDX装置を用いて分析することにより、求めることが可能である。具体的には、前記x1を求める方法と同様の方法によってx4も求められる。
【0048】
前記第三層を構成する第三AlTi化合物は、立方晶型の結晶構造を含む。前記第三AlTi化合物が立方晶型の結晶構造を含むことは、上述の断面サンプルの第三層に対して電子線回折測定(SAED測定)を行い、電子線回折像のパターン解析をすることで確認できる。SAED測定及び電子線回折のパターン解析をする際の具体的な条件等は、上記と同様である。
【0049】
前記第四層を構成する第四AlTi化合物は、立方晶型の結晶構造を含む。前記第四AlTi化合物が立方晶型の結晶構造を含むことは、上述の断面サンプルの第四層に対して電子線回折測定(SAED測定)を行い、電子線回折のパターン解析をすることで確認できる。SAED測定及び電子線回折のパターン解析をする際の具体的な条件等は、上記と同様である。
【0050】
本実施形態において、前記第三AlTi化合物は立方晶型の結晶構造を含み、且つ前記第四AlTi化合物は立方晶型の結晶構造を含む。好ましくは、前記第三AlTi化合物は立方晶型の結晶構造からなり、且つ前記第四AlTi化合物は立方晶型の結晶構造からなる。
【0051】
(他の層)
本実施形態の効果を損なわない範囲において、前記被膜は、他の層を更に含んでいてもよい。前記他の層は、前記硬質被膜層とは組成が異なっていてもよいし、同じであってもよい。他の層としては、例えば、TiN層、TiCN層、TiBN層、Al層等を挙げることができる。なお、その積層の順も特に限定されない。例えば、前記他の層としては、前記基材と前記硬質被膜層との間に設けられている下地層、前記硬質被膜層の上に設けられている最外層等が挙げられる。前記他の層の厚さは、本実施形態の効果を損なわない範囲において、特に制限はないが例えば、0.1μm以上2μm以下が挙げられる。
【0052】
≪表面被覆切削工具の製造方法≫
本実施形態に係る表面被覆切削工具の製造方法は、
基材と前記基材を被覆する被膜とを含む表面被覆切削工具の製造方法であって、
前記基材を準備する工程と、
アルミニウムのハロゲン化物ガス及びチタンのハロゲン化物ガスを含む第一ガスと、アルミニウムのハロゲン化物ガス、チタンのハロゲン化物ガス及びアンモニアガスを含む第二ガスと、アンモニアガスを含む第三ガスとのそれぞれを、650℃以上900℃以下且つ0.5kPa以上5kPa以下の雰囲気において前記基材に対して噴出する工程と、を含む。
【0053】
<基材を準備する工程>
本工程では、前記基材を準備する。前記基材としては、上述したようにこの種の基材として従来公知のものであればいずれのものも使用することができる。例えば、前記基材が超硬合金からなる場合、所定の配合組成(質量%)からなる原料粉末を市販のアトライターを用いて均一に混合して、続いてこの混合粉末を所定の形状(例えば、SEET13T3AGSN、CNMG120408等)に加圧成形した後に、所定の焼結炉において1300℃〜1500℃で、1〜2時間焼結することにより、超硬合金からなる前記基材を得ることができる。また、基材は、市販品をそのまま用いてもよい。市販品としては、例えば、住友電工ハードメタル株式会社製のEH520(商品名)が挙げられる。
【0054】
<第一ガスと第二ガスと第三ガスとのそれぞれを基材に噴出する工程>
本工程では、アルミニウムのハロゲン化物ガス及びチタンのハロゲン化物ガスを含む第一ガスと、アルミニウムのハロゲン化物ガス、チタンのハロゲン化物ガス及びアンモニアガスを含む第二ガスと、アンモニアガスを含む第三ガスとのそれぞれを、650℃以上900℃以下且つ0.5kPa以上5kPa以下の雰囲気において前記基材に噴出する。この工程は、例えば以下に説明するCVD装置を用いて行うことができる。
【0055】
(CVD装置)
図4に、実施の形態の切削工具の製造に用いられるCVD装置の一例の模式的な断面図を示す。図4に示すように、CVD装置10は、基材11を設置するための基材セット治具12の複数と、基材セット治具12を被覆する耐熱合金鋼製の反応容器13とを備えている。また、反応容器13の周囲には、反応容器13内の温度を制御するための調温装置14が設けられている。
【0056】
反応容器13には、隣接して接合された第1ガス導入管15と第2ガス導入管16と第3ガス導入管17とを有するガス導入管18が反応容器13の内部の空間を鉛直方向に延在し、当該鉛直方向を軸に回転可能に設けられている。ガス導入管18においては、第1ガス導入管15に導入された第一ガスと、第2ガス導入管16に導入された第二ガスと第3ガス導入管17に導入された第三ガスとがガス導入管18の内部で混合しない構成とされている。また、第1ガス導入管15、第2ガス導入管16及び第3ガス導入管17のそれぞれの一部には、第1ガス導入管15、第2ガス導入管16及び第3ガス導入管17のそれぞれの内部を流れるガスを基材セット治具12に設置された基材11上に噴出させるための複数の貫通孔が設けられている。
【0057】
さらに、反応容器13には、反応容器13の内部のガスを外部に排気するためのガス排気管19が設けられており、反応容器13の内部のガスは、ガス排気管19を通過して、ガス排気口20から反応容器13の外部に排出される。
【0058】
より具体的には、上述した第一ガス、第二ガス及び第三ガスを、それぞれ第1ガス導入管15、第2ガス導入管16及び第3ガス導入管17に導入する。このとき、各ガス導入管内における第一ガス、第二ガス及び第三ガスそれぞれの温度は、液化しない温度であれば特に制限はない。次に、650℃以上900℃以下(好ましくは730℃以上750℃以下)且つ0.5kPa以上5kPa以下(好ましくは2kPa以上2.5kPa以下)の雰囲気とした反応容器13内へ第一ガス、第二ガス、第三ガスをこの順で繰り返して噴出する。ガス導入管18には複数の貫通孔が開いているため、導入された第一ガス、第二ガス及び第三ガスは、それぞれ異なる貫通孔から反応容器13内に噴出される。このときガス導入管18は、図4中の回転矢印が示すようにその軸を中心として、例えば、2〜6rpmの回転速度で回転している。これによって、第一ガス、第二ガス、第三ガスをこの順で繰り返して基材11に対して噴出することができる。
【0059】
(第一ガス)
前記第一ガスは、アルミニウムのハロゲン化物ガス及びチタンのハロゲン化物ガスを含む。
【0060】
アルミニウムのハロゲン化物ガスとしては、例えば、塩化アルミニウムガス(AlClガス、AlClガス)等が挙げられる。好ましくは、AlClガスが用いられる。アルミニウムのハロゲン化物ガスの濃度(体積%)は、第一ガスの全体積を基準として、0.3体積%以上1.5体積%以下であることが好ましく、0.6体積%以上0.8体積%以下であることがより好ましい。
【0061】
チタンのハロゲン化物ガスとしては、例えば、塩化チタン(IV)ガス(TiClガス)、塩化チタン(III)ガス(TiClガス)等が挙げられる。好ましくは、塩化チタン(IV)ガスが用いられる。チタンのハロゲン化物ガスの濃度(体積%)は、第一ガスの全体積を基準として、0.1体積%以上1体積%以下であることが好ましく、0.2体積%以上0.4体積%以下であることがより好ましい。
【0062】
前記第一ガスにおけるアルミニウムのハロゲン化物ガスのモル比は、アルミニウムのハロゲン化物ガス及びチタンのハロゲン化物ガスの全モル数を基準として、0.5以上0.85以下であることが好ましく、0.6以上0.8以下であることがより好ましい。当該モル比を上記範囲内にすると、スピノーダル分解によって前記第三層及び前記第四層が形成されると本発明者らは考えている。
【0063】
前記第一ガスは、水素ガスを含んでもよいし、アルゴンガス等の不活性ガスを含んでもよい。不活性ガスの濃度(体積%)は、第一ガスの全体積を基準として、5体積%以上50体積%以下であることが好ましく、20体積%以上40体積%以下であることがより好ましい。水素ガスは、通常前記第一ガスの残部を占める。
【0064】
前記基材に噴出するときの前記第一ガスの流量は、20〜30L/minであることが好ましい。
【0065】
(第二ガス)
前記第二ガスは、アルミニウムのハロゲン化物ガス、チタンのハロゲン化物ガス及びアンモニアガスを含む。アルミニウムのハロゲン化物ガス及びチタンのハロゲン化物ガスは、前記(第一ガス)の欄において例示されたガスを用いることができる。このとき、前記第一ガスに用いられたアルミニウムのハロゲン化物ガス及びチタンのハロゲン化物ガスそれぞれと、第二ガスに用いられたアルミニウムのハロゲン化物ガス及びチタンのハロゲン化物ガスそれぞれとは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0066】
アルミニウムのハロゲン化物ガスの濃度(体積%)は、第二ガスの全体積を基準として、1体積%以上5体積%以下であることが好ましく、2.4体積%以上3.2体積%以下であることがより好ましい。
【0067】
チタンのハロゲン化物ガスの濃度(体積%)は、第二ガスの全体積を基準として、0.5体積%以上2.5体積%以下であることが好ましく、0.8体積%以上1.6体積%以下であることがより好ましい。
【0068】
第二ガスにおけるアルミニウムのハロゲン化物ガスのモル比は、アルミニウムのハロゲン化物ガス及びチタンのハロゲン化物ガスの全モル数を基準として、0.55以上0.85以下であることが好ましく、0.6以上0.8以下であることがより好ましい。当該モル比を上記範囲内にすると、スピノーダル分解によって前記第一層及び前記第二層が形成されると本発明者らは考えている。
【0069】
アンモニアガスの濃度(体積%)は、第二ガスの全体積を基準として、3体積%以上30体積%以下であることが好ましく、10体積%以上20体積%以下であることがより好ましい。
【0070】
前記第二ガスは、水素ガスを含んでもよいし、アルゴンガス等の不活性ガスを含んでもよい。不活性ガスの濃度(体積%)は、第二ガスの全体積を基準として、5体積%以上50体積%以下であることが好ましく、15体積%以上20体積%以下であることがより好ましい。水素ガスは、通常前記第二ガスの残部を占める。
【0071】
前記基材に噴出するときの前記第二ガスの流量は、30〜40L/minであることが好ましい。
【0072】
(第三ガス)
前記第三ガスは、アンモニアガスを含む。また前記第三ガスは、水素ガスを含んでもよいし、アルゴンガス等の不活性ガスを含んでもよい。前記第三ガスを前記基材に噴出することで、マトリックス領域の形成が促進される。
【0073】
アンモニアガスの濃度(体積%)は、第三ガスの全体積を基準として、2体積%以上30体積%以下であることが好ましく、2体積%以上10体積%以下であることがより好ましい。水素ガスは、通常前記第三ガスの残部を占める。
【0074】
前記基材に噴出するときの前記第三ガスの流量は、10〜20L/minであることが好ましい。
【0075】
<その他の工程>
本実施形態に係る製造方法では、上述した工程の他にも、他の層を形成する工程、及び表面処理する工程等を適宜行ってもよい。上述の他の層を形成する場合、従来の方法によって他の層を形成してもよい。
【実施例】
【0076】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0077】
≪切削工具の作製≫
<基材の準備>
まず、被膜を形成させる対象となる基材として、以下の表1に示す基材K及び基材Lを準備した(基材を準備する工程)。具体的には、まず、表1に記載の配合組成(質量%)からなる原料粉末を均一に混合した。表1中の「残り」とは、WCが配合組成(質量%)の残部を占めることを示している。
【0078】
【表1】
【0079】
次に、この混合粉末を所定の形状に加圧成形した後に、1300〜1500℃で1〜2時間焼結することにより、超硬合金からなる基材K(基材形状(JIS規格):CNMG120408−EX)及び超硬合金からなる基材L(基材形状(JIS規格):SEET13T3AGSN−L)を得た。
【0080】
なお、CNMG120408−EXは旋削用の刃先交換型切削チップの形状であり、SEET13T3AGSN−Lは転削(フライス)用の刃先交換型切削チップの形状である。
【0081】
<被膜の作製>
基材K又は基材Lの表面上に、表11に示される下地層、硬質被膜層及び最外層を形成することによって、基材K又は基材Lの表面上に被膜を作製した。以下、被膜を構成する各層の作製方法について説明する。
【0082】
(硬質被膜層の作製)
表2に記載の成膜条件のもとで、表3〜5に記載の組成をそれぞれ有する第一ガス、第二ガス及び第三ガスをこの順で繰り返して基材K又は基材Lの表面上に噴出して硬質被膜層を作製した(第一ガスと第二ガスと第三ガスとのそれぞれを基材に噴出する工程)。なお、基材の表面に下地層を設けた場合は、当該下地層の表面上に硬質被膜を作製した。
例えば、表6の識別記号[1]で示される硬質被膜層は、温度730℃、圧力2.5kPa、ガス導入管の回転速度2rpmの成膜条件で(表2の識別記号A)、表3の識別記号1−bで示される第一ガス(0.7体積%のAlCl、0.3体積%のTiCl、20体積%のAr、残部はH、ガス流量20L/min)、表4の識別記号2−bで示される第二ガス(2.8体積%のAlCl、1.2体積%のTiCl、10体積%のNH、15体積%のAr、残部はH、ガス流量40L/min)及び表5の識別記号3−aで示される第三ガス(10体積%のNH、残部はH、ガス流量10L/min)をこの順で繰り返して基材の表面上に噴出して硬質被膜層を作製した。作製した硬質被膜層の組成等を表6に示す。表6中、「無し」で示している箇所は、該当するガスの噴出を行わなかったため、ドメイン領域又はマトリックス領域が形成されていないことを示している。
【0083】
【表2】
【0084】
【表3】
【0085】
【表4】
【0086】
【表5】
【0087】
【表6】
【0088】
(下地層の作製、最外層の作製)
表7に記載の成膜条件のもとで、表7に記載の組成を有する反応ガスを、下地層の場合は基材の表面上に、最外層の場合は硬質被膜層の表面上に噴出して下地層及び最外層を作製した。
【0089】
【表7】
【0090】
≪切削工具の特性評価≫
上述のようにして作製した試料(実施例1〜20及び比較例1〜6)の切削工具を用いて、以下のように、切削工具の各特性を評価した。
【0091】
<被膜等の厚さの測定>
被膜、及び当該被膜を構成する下地層、硬質被膜層(第一層、第二層、第三層、第四層)及び最外層の厚さは、透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子株式会社製、商品名:JEM−2100F)を用いて、基材の表面の法線方向に平行な断面サンプルにおける任意の10点を測定し、測定された10点の厚さの平均値をとることで求めた。結果を表6及び表11に示す。ここで、表6中の第一層の「厚さ」は、多層構造を構成している複数の第一層それぞれについて上述の方法によって求められた厚さの平均値を意味する。第二層、第三層、及び第四層の厚さについても同様である。表11中、「下地層」及び「最外層」の欄における「同上」との表記は、上に記載の実施例における下地層又は最外層と同じ組成及び厚さであることを示す。また、「最外層」の欄における「無し」との表記は、当該最外層が被膜中に存在しないことを示す。また、「硬質被膜層」の欄における「[1](5.0)」等の表記は、硬質被膜層が表6の識別記号[1]で示される構成を有し、厚さが5.0μmであることを示す。表11中、「TiN(1.0)」等の表記は、該当する層が厚さ1.0μmのTiNの層であることを示す。また、1つの欄内に2つの化合物が記載されている場合(例えば、「TiN(1.0)−TiCN(1.5)」等の場合)は、左側の化合物(TiN(1.0))が基材の表面に近い側に位置する層であることを意味し、右側の化合物(TiCN(1.5))が基材の表面から遠い側に位置する層であることを意味している。さらに「[Al(0.3)−TiN(0.1)]x3」等の表記は、「Al(0.3)−TiN(0.1)」で示される層が3回繰り返して積層されていることを意味している。なお、「Al(0.3)−TiN(0.1)」における、Alの層とTiNの層の積層の順序は、上述した説明と同様である。
【0092】
また、硬質被膜層をTEMで観察したところ、ドメイン領域は、第一層及び第二層のそれぞれが交互に積層された多層構造を形成していることが分かった(図1Bの領域a図2)。また、ドメイン領域において双晶部分が観察された。さらに、制限視野の電子線回折像から、ドメイン領域を構成する第一層及び第二層は立方晶型の結晶構造を有し、<100>方位において第一層中のAl組成と第二層中のAl組成とが変化することが分かった(図2、右上の写真)。一方マトリックス領域は、第三層及び第四層のそれぞれが交互に積層された多層構造を形成していることが分かった(図1Bの領域b図3)。
【0093】
<膜硬度及び膜ヤング率の測定>
硬質被膜層の膜硬度及び膜ヤング率は、ナノインデンター(Elionix社製、商品名:ENT1100a)を用いて、以下の条件で測定した。このとき、前記硬質被膜層が最表面にない試料を測定する場合は、機械研磨等で前記硬質被膜層を露出させてから測定を行った。また、前記硬質被膜層における任意の10点それぞれを測定して前記膜硬度を求め、求められた10点の膜硬度の平均値を前記硬質被膜層における膜硬度及び膜ヤング率とした。なお、硬質被膜層の膜硬度及び膜ヤング率は、荷重と変位との曲線からオリバーとパーの理論に基づき算出した。結果を表6に示す。
【0094】
ナノインデンターの測定条件
圧子材質:ダイヤモンド
圧子形状:バーコビッチ圧子
試験荷重:30mN
ステップインターバル:20msec
保持時間:1000msec
測定点数:10点
【0095】
<ドメイン領域及びマトリックス領域の結晶構造>
ドメイン領域(第一層、第二層)及びマトリックス領域(第三層、第四層)におけるAlTiNの結晶構造は、透過電子顕微鏡及び制限視野電子線回折測定(TEM−SAED測定)用装置(日本電子株式会社製、商品名:JEM−2100F)を用いて、以下の表8に示す条件で測定した。このとき、測定する結晶粒の数は、1か所の層について少なくとも10個以上とし、任意の10か所の各層について測定した。その結果、ドメイン領域を構成する第一層及び第二層、並びに、マトリックス領域を構成する第三層及び第四層は立方晶型の結晶構造を有していることが分かった。なお、表6の「ドメイン領域」及び「マトリックス領域」の欄において、「c−AlTiN」等の表記における「c」は当該化合物が立方晶型の結晶構造を有していることを示している。
【0096】
【表8】
【0097】
<ドメイン領域及びマトリックス領域の組成>
硬質被膜層における第一層、第二層、第三層及び第四層の組成は、EDX測定用装置(日本電子株式会社製、商品名:JED−2300)を用いて、以下の表9の条件で測定した。例えば、前記断面サンプルのドメイン領域中の第一層における任意の10点それぞれを測定して前記x1の値を求め、求められた10点の値の平均値を前記第一層におけるx1とした。ここで当該「任意の10点」は、前記第一層中の互いに異なる結晶粒から選択した。また、前記ドメイン領域が前記多層構造を含む場合、前記x1は、前記多層構造を構成している任意の10か所の第一層それぞれのx1の平均値とした。第二層、第三層及び第四層の場合も同様の方法で求めた。結果を表6に示す。
【0098】
EDX測定条件
【表9】
【0099】
<ドメイン領域及びマトリックス領域の体積比率>
ドメイン領域(第一層、第二層)及びマトリックス領域(第三層、第四層)の全体積を基準とした、前記ドメイン領域、前記マトリックス領域それぞれの体積比率は、X線回折測定(XRD測定)用装置(株式会社リガク製、商品名:SmartLab)を用いて、以下の表10に示す条件で測定した。このとき、前記硬質被膜層が最表面にない試料を測定する場合は、機械研磨等で前記硬質被膜層を露出させてから測定を行った。また、測定する領域は、工具刃先の稜線から2mm以内の領域であって且つ平坦な領域とした。前記測定する領域を2か所選定し、それぞれの領域について少なくとも2回以上測定した。その結果、ドメイン領域を構成する第一層及び第二層、並びに、マトリックス領域を構成する第三層及び第四層は立方晶型の結晶構造を有していることが分かった。また、ドメイン領域とマトリックス領域の体積比率をリートベルト解析(株式会社リガク社製、解析ソフト名:PDXL)より定量的に推定することが可能であった。具体的には、表6における識別記号[1]〜[9]の硬質被膜層は、ドメイン領域及びマトリックス領域それぞれの体積比率が、80体積%及び20体積%であった。また、表6における識別記号[10]の硬質被膜層は、ドメイン領域及びマトリックス領域それぞれの体積比率が、90体積%及び10体積%であった。
【0100】
【表10】
【0101】
【表11】
【0102】
≪切削試験≫
<試験1:旋削加工試験>
上述のようにして作製した試料(実施例1〜10、比較例1、2及び5)の切削工具を用いて、以下の切削条件により逃げ面摩耗量(Vb)が0.2mmとなるまで又は欠損(チッピング)が起きるまでの切削時間を測定するとともに刃先の最終損傷形態を観察した。その結果を表12に示す。切削時間が長いほど耐摩耗性に優れる切削工具として評価することができる。
切削条件
被削材 :インコネル718
周速 :120m/min
切込み量(ap):0.5mm
【0103】
【表12】
【0104】
<試験2:フライス加工試験>
上述のようにして作製した試料(実施例11〜20、比較例3、4及び6)の切削工具を用いて、以下の切削条件により逃げ面摩耗量(Vb)が0.2mmとなるまで又は欠損(チッピング)が起きるまでの切削時間を測定するとともに刃先の最終損傷形態を観察した。その結果を表13に示す。切削時間が長いほど耐摩耗性に優れる切削工具として評価することができる。
切削条件
被削材 :Ti合金(Ti6Al4V)
周速 :100m/min
切込み量(ap):1.0mm
切込み幅(ae):30mm
【0105】
【表13】
【0106】
表12の結果から実施例1〜10の切削工具は、切削時間が13分以上の良好な結果が得られた。また、実施例1〜10の切削工具は、最終的な損傷形態が正常摩耗であった。一方比較例1、2及び5の切削工具は、切削時間がそれぞれ6分、11分、12分であった。また、比較例1の切削工具は欠損が観察された。比較例2及び5の切削工具はチッピングが観察された。実施例1〜10の切削工具は、耐欠損性及び耐摩耗性に優れることが分かった。また、試験1の被削材は、高硬度で知られているインコネル718を用いていることから、実施例1〜10の切削工具は、比較例1、2及び5の切削工具に比べて、インコネル718等の硬い被削材の高速連続加工に適していることが分かった。
【0107】
表13の結果から、実施例11〜20の切削工具は、切削時間が6分以上の良好な結果が得られた。また、実施例11〜20の切削工具は、最終的な損傷形態が正常摩耗であった。一方比較例3、4及び6の切削工具は、切削時間がそれぞれ3分、2分、4分であった。また、比較例3の切削工具はチッピングが観察された。比較例4の切削工具は欠損が観察された。試験2の結果から実施例11〜20の切削工具は、比較例3、4及び6の切削工具に比べて、耐欠損性及び耐摩耗性に優れており、工具寿命も長いことが分かった。また、試験2の被削材は、高硬度で知られているTi合金(Ti6Al4V)を用いていることから、実施例11〜20の切削工具は、比較例3、4及び6の切削工具に比べて、Ti合金(Ti6Al4V)等の硬い被削材の加工に適していることが分かった。
【0108】
以上のように本発明の実施形態及び実施例について説明を行なったが、上述の各実施形態及び各実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0109】
今回開示された実施の形態及び実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態及び実施例ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0110】
10 CVD装置、 11 基材、 12 基材セット治具、 13 反応容器、 14 調温装置、 15 第1ガス導入管、 16 第2ガス導入管、 17 第3ガス導入管、 18 ガス導入管、 19 ガス排気管、 20 ガス排気口、 a 領域a、ドメイン領域、 b 領域b、マトリックス領域。
【要約】
基材と前記基材を被覆する被膜とを含む表面被覆切削工具であって、前記被膜は、ドメイン領域とマトリックス領域とからなる硬質被膜層を含み、前記ドメイン領域は、前記マトリックス領域中に複数の部分に分かれ、分散した状態で存在している領域であり、前記ドメイン領域は、第一Alx1Ti(1−x1)化合物からなる第一層と第二Alx2Ti(1−x2)化合物からなる第二層とが互いに積層された構造を有し、前記マトリックス領域は、第三Alx3Ti(1−x3)化合物からなる第三層と第四Alx4Ti(1−x4)化合物からなる第四層とが互いに積層された構造を有し、前記第一AlTi化合物は立方晶型の結晶構造を有し、且つ前記第二AlTi化合物は立方晶型の結晶構造を有し、前記第三AlTi化合物は立方晶型の結晶構造を有し、且つ前記第四AlTi化合物は立方晶型の結晶構造を有し、前記x1は、0.75以上0.9以下であり、前記x2は、0.48以上0.59以下であり、前記x3は、0.73以上0.83以下であり、前記x4は、0.5以上0.57以下である、表面被覆切削工具。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5