特許第6565198号(P6565198)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6565198医療検体保持部材及び医療検体保持部材アッセンブリ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6565198
(24)【登録日】2019年8月9日
(45)【発行日】2019年8月28日
(54)【発明の名称】医療検体保持部材及び医療検体保持部材アッセンブリ
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/04 20060101AFI20190819BHJP
   G01N 1/28 20060101ALI20190819BHJP
【FI】
   G01N1/04 J
   G01N1/28 J
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-20411(P2015-20411)
(22)【出願日】2015年2月4日
(65)【公開番号】特開2016-142686(P2016-142686A)
(43)【公開日】2016年8月8日
【審査請求日】2017年9月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】393032125
【氏名又は名称】MCCアドバンスドモールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304026696
【氏名又は名称】国立大学法人三重大学
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】白山 太一
(72)【発明者】
【氏名】水野 生雄
(72)【発明者】
【氏名】杉村 芳樹
【審査官】 島田 保
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/105095(WO,A1)
【文献】 特開2006−220545(JP,A)
【文献】 特開2001−050872(JP,A)
【文献】 特表2015−506745(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00−1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体採取針で採取した検体を移し置くための医療検体保持部材であって、凹形状の検体保持部を有する医療検体保持部材において、
該検体保持部の少なくとも一部が、算術平均粗さRaが1.5μm以上30μm以下であり、かつ保留粒子径が0.1μm以上200μm以下である多孔質シートで構成されており、
該多孔質シート以外の構成部材が耐薬品性の熱可塑性樹脂よりなり、
該多孔質シートに前記検体採取針を擦りつけて該検体採取針で採取した検体を該多孔質シートに移し置くものであり、
該医療検体保持部材は、前記多孔質シートと、該多孔質シートの一方の面に重なる板状体と、該多孔質シートを該板状体に重なる状態に支持する支持部材とを有しており、該板状体に、検体採取針の少なくとも側周部が入り込めるスリットが設けられており、該スリットの幅は1.1〜2.0mmであり、該スリットの深さは1.1〜2.0mmであり、該スリットと該スリット内に表出した前記多孔質シートとで前記検体保持部が構成されていることを特徴とする医療検体保持部材。
【請求項2】
請求項1において、前記多孔質シートが、紙、織布、不織布、及び多孔性樹脂フィルムからなる群より選ばれる少なくとも1種よりなることを特徴とする医療検体用保持部材。
【請求項3】
請求項において、前記支持部材は、前記多孔質シートの他方の面に重なる支持板であり、該支持板と前記板状体とは着脱可能又は開閉可能に連結されていることを特徴とする医療検体保持部材。
【請求項4】
請求項において、前記板状体と前記支持部材とは一体成形されており、該板状体と支持部材との間のスペースに前記多孔質シートが設けられていることを特徴とする医療検体保持部材。
【請求項5】
請求項ないしのいずれか1項において、前記板状体及び支持部材は熱可塑性樹脂を成形してなることを特徴とする医療検体保持部材。
【請求項6】
請求項ないしのいずれか1項において、前記支持部材は、通液用の開口部を有することを特徴とする医療検体保持部材。
【請求項7】
請求項1ないしのいずれか1項に記載の医療検体保持部材と、
該医療検体保持部材を収容する通液性のケースと
を備えたことを特徴とする医療検体保持部材アッセンブリ。
【請求項8】
請求項において、前記ケース内の前記医療検体保持部材を該ケースに係止するための係止手段を有することを特徴とする医療検体保持部材アッセンブリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療検体を薬品処理する際などに、検体を収容・保持するための医療検体用ケース等の医療検体保持部材に係り、特に、生体組織から採取した検体を容易に該医療検体保持部材側に移し替えることができ、薬品処理時等における検体の保持性にも優れた医療検体保持部材に関する。本発明はまた、この医療検体保持部材をケースに収容してなる医療検体保持部材アッセンブリに関する。
【背景技術】
【0002】
病変のある臓器から組織を一部取出し、顕微鏡で観察する生検(バイオプシー)は、細胞、血管などの形態学的な組織全体として病変の判断が可能であるという利点を有し、近年、広く採用されるようになってきている。
【0003】
一般に、バイオプシーは、次のような手順で行われている。
まず、生体組織に採取針を挿入して採取針の先端側に生体組織の一部を切り取って採取する。この採取針を生体組織から抜き取り、生体組織から採取され、採取針に保持されている検体を濾紙又はスポンジの上に移し置く。その後、ピンセットで濾紙又はスポンジ上の検体を薬品処理用のケースに移し入れ、水洗、アルコール洗浄、キシレン洗浄等の薬品処理を施す。薬品処理後の検体をパラフィンに包埋し、これをスライス加工し、必要に応じて染色、その他の処理を施してサンプル(顕微鏡標本)とし、これを顕微鏡観察する。
【0004】
このようなバイオプシー法では、サンプルを作製するまでの工程数が多く、非効率であった。
【0005】
そこで、特許文献1には、医療検体を採取針から容易に直接移し替えることができるように、検体収容溝を設けた医療検体用ケースが提案されている。特許文献1の医療検体用ケースでは、検体収容溝の内部に、複数の細孔(例えば、内径が300μm〜500μm程度のもの)を設けたり、複数のトゲを突設させたりするなどして検体収容溝内の摩擦抵抗を大きくし、検体を突起に引っかけるなどして採取針から検体収容溝へ移行させる。この医療検体用ケースでは、採取針から検体を直接ケース内に収容させて、薬品処理を行うことができ、従来の濾紙又はスポンジを経る工程が省略される。
【0006】
また、特許文献2には、薬品処理工程からパラフィン包埋〜スライス工程までを行える医療検査用カセットが提案されており、この医療検査用カセットでは、薬品処理後、検体を包埋したパラフィンブロックをスライスする際に、パラフィンブロックがカセットから剥離することを防止するために、パラフィンブロック形成面が微細な凹凸面とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−128749号公報
【特許文献2】特開2006−300620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1には、医療検体用ケースに設けた検体収容溝内の摩擦抵抗を大きくすることが記載されているが、具体的にどのようにして複数の細孔を設け、どの程度摩擦抵抗を大きくする必要があるのかは明らかにされていない。また、特許文献1で想定している細孔の孔径では、実用上十分ではなく改良の余地を有している。
【0009】
一方、特許文献2において、微細な凹凸は、波形状、シボ、梨地等と記載されており、これは金型表面加工によるものであるため、既存の金型では対応し得ず、また、凹凸の程度を変更するためにはその都度金型を作製することとなり、工業的な実用化においては不利益が多い。
【0010】
本発明は、生体組織から採取した検体を容易に移し替えることができ、また、薬品処理時等における検体の保持性にも優れ、しかも、工業的生産性にも優れた医療検体保持部材と、この医療検体保持部材を用いた医療検体保持部材アッセンブリを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、医療検体保持部材の検体保持部に、特定の表面粗さと保留粒子径を有する濾紙や多孔質樹脂シート等の多孔質シートを用いることで、検体の移し替え及び保持に好適な検体保持部を形成することができることを見出した。
本発明はこのような知見に基づいて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0012】
[1] 検体採取針で採取した検体を移し置くための医療検体保持部材であって、凹形状の検体保持部を有する医療検体保持部材において、該検体保持部の少なくとも一部が、算術平均粗さRaが1.5μm以上30μm以下であり、かつ保留粒子径が0.1μm以上200μm以下である多孔質シートで構成されており、該多孔質シート以外の構成部材が耐薬品性の熱可塑性樹脂よりなり、該多孔質シートに前記検体採取針を擦りつけて該検体採取針で採取した検体を該多孔質シートに移し置くものであることを特徴とする医療検体保持部材。
【0013】
[2] [1]において、前記多孔質シートが、紙、織布、不織布、及び多孔性樹脂フィルムからなる群より選ばれる少なくとも1種よりなることを特徴とする医療検体用保持部材。
【0014】
[3] [1]又は[2]において、前記医療検体保持部材は、前記多孔質シートと、該多孔質シートの一方の面に重なる板状体と、該多孔質シートを該板状体に重なる状態に支持する支持部材とを有しており、該板状体に、検体採取針の少なくとも側周部が入り込めるスリットが設けられており、該スリットと該スリット内に表出した前記多孔質シートとで前記検体保持部が構成されていることを特徴とする医療検体保持部材。
【0015】
[4] [3]において、前記支持部材は、前記多孔質シートの他方の面に重なる支持板であり、該支持板と前記板状体とは着脱可能又は開閉可能に連結されていることを特徴とする医療検体保持部材。
【0016】
[5] [3]において、前記板状体と前記支持部材とは一体成形されており、該板状体と支持部材との間のスペースに前記多孔質シートが設けられていることを特徴とする医療検体保持部材。
【0017】
[6] [3]ないし[5]のいずれかにおいて、前記板状体及び支持部材は熱可塑性樹脂を成形してなることを特徴とする医療検体保持部材。
【0018】
[7] [3]ないし[6]のいずれかにおいて、前記支持部材は、通液用の開口部を有することを特徴とする医療検体保持部材。
【0019】
[8] [1]ないし[7]のいずれかに記載の医療検体保持部材と、該医療検体保持部材を収容する通液性のケースとを備えたことを特徴とする医療検体保持部材アッセンブリ。
【0020】
[9] [8]において、前記ケース内の前記医療検体保持部材を該ケースに係止するための係止手段を有することを特徴とする医療検体保持部材アッセンブリ。
【発明の効果】
【0021】
本発明の医療検体保持部材は、検体保持部の少なくとも一部を、所定の算術平均粗さRaと保留粒子径を有する多孔質シートで構成したものであり、検体採取針からの医療検体の移し替え性、及び保持性に優れる。
即ち、採取針で生体組織から検体を採取し、採取した検体を保持する採取針を本発明の医療検体保持部材の検体保持部の多孔質シートに擦り付けることにより、容易に検体をこの検体保持部に移し置くことができる。また、薬品処理等の検体の取り扱い時においても、検体をこの検体保持部の多孔質シート上に安定して保持することができる。
【0022】
本発明の医療検体保持部材は、例えば、通常の熱可塑性樹脂の射出成形品に適当なサイズにカットした濾紙等の多孔質シートを挿入したり挟み込んだりするのみで、或いはカットした多孔質シートを金型内で熱可塑性樹脂と一体化させるインサート成形を行うことで、容易に製造することができ、工業的生産性にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】実施の形態に係る医療検体保持部材の分解斜視図である。
図2図1の医療検体保持部材の板状体の構成図であり、(a)図は平面図、(b)図は右側面図、(c)図は(a)図のC−C線断面図、(d)図は(a)図のD−D線断面図、(e)図は正面図、(f)図は(a)図のF−F線断面図、(g)図は(a)図のG−G線断面図である。
図3図1の医療検体保持部材の支持部材の構成図であり、(a)図は平面図、(b)図は右側面図、(c)図は(a)図のC−C線断面図、(d)図は(a)図のD−D線断面図、(e)図は正面図、(f)図は(a)図のF−F線断面図、(g)図は(a)図のG−G線断面図である。
図4】実施の形態に係る医療検体保持部材アッセンブリの分解斜視図である。
図5】(a)図は図1の医療検体保持部材の断面図、(b)図は図4の医療検体保持部材アッセンブリの断面図である。
図6】別の実施の形態に係る医療検体保持部材の構成図であり、(a)図は、蓋部を開放した状態を示す斜視図、(b)図は蓋部を閉止した状態を示す斜視図、(c)図は(b)図のC−C線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0025】
本発明の医療検体保持部材は、凹形状の検体保持部を有する医療検体保持部材において、該検体保持部の少なくとも一部が、算術平均粗さRaが0.5μm以上50μm以下であり、かつ保留粒子径が0.1μm以上200μm以下である多孔質シートで構成されていることを特徴とするものであり、本発明の医療検体保持部材アッセンブリは、このような本発明の医療検体保持部材が通液性のケースに収容されたものである。
【0026】
[構造例]
まず、図1〜5を参照して本発明の医療検体保持部材及び医療検体保持部材アッセンブリの実施の形態の一例について説明する。
【0027】
図1の通り、医療検体保持部材1は、多孔質シート2を板状体10と支持部材20としての支持板とで挟持したものである。
【0028】
板状体10は、方形(この実施の形態では長方形)の主板部11と、該主板部11の裏面の周縁から立設された枠状部12と、該主板部11を主板部11の一辺(この実施の形態では短辺)と平行方向に横断するスリット13と、主板部11の1つの短辺の辺方向中央部から立設されたフック片14と、該フック片14の両側において、該主板部11の角縁を切り欠くようにして形成された係合口15,15と、主板部11の他方の短辺の辺方向中央部に形成された係合口16とを有する。この係合口16も主板部11の角縁を切り欠くようにして形成されている。
【0029】
スリット13は、その両端部を除いて、主板部11を厚み方向に貫通している。スリット13の長手方向の両端側は、スリット13の端部に向って次第にスリット幅が拡大するテーパ部13a形状となっている。スリット13の長手方向の中央部は、平面視形状が半円弧形の拡幅部13bとなっている。この拡幅部13bとテーパ部13a以外の箇所におけるスリット13のスリット幅は、検体採取針の外径よりも大きい。
【0030】
フック片14は、枠状部12から主板部11の板面よりも高位まで立ち上がる脚部14aと、該脚部14aの起立方向先端部から主板部11の板面と略平行方向かつ主板部11の板央と反対方向に向って突出した爪部14bとを有する。フック片14は、主板部11の板央側に若干傾いている。主板部11には、脚部14aの板央側に貫通部11aが形成されており、脚部14aが板央側へ弾性的に傾動可能となっている。
【0031】
図3の通り、支持部材20は、方形(この実施の形態では長方形)の盤状であり、厚み方向に貫通して、支持部材20の長辺と平行方向に延在する複数条の第1スリット21が設けられている。また、支持部材20の一方の短辺に沿って第2スリット22が設けられ、他方の短辺に沿って第3スリット23が設けられている。該一方の短辺の辺方向中央部には、爪部24が設けられている。他方の短辺にあっては、両端側にそれぞれ爪部25が設けられている。爪部24,25は、支持部材20の一方の板面(図3(e)〜(g)において上面)と面一状に、且つ該上面の板央と反対方向に突出している。
【0032】
多孔質シート2は、この支持部材20よりも一回り小さい大きさを有している。多孔質シート2を板状体10と支持部材20とで挟持するには、多孔質シート2を板状体10の下面(枠状部12側の面)に重ねるか、又は支持部材20の上面に重ねておき、板状体10と支持部材20とを係合させる。支持部材20は枠状部12の内側スペースに挿入される。この際、爪部25,25を板状体10の係合口15,15に係合させた後、支持部材20を枠状部12内に押し込み、爪部24を係合口16に係合させる。なお、先に爪部24を係合口16に係合させ、後から爪部25,25を係合口15,15に係合させてもよい。図5(a)は、このように板状体10と支持部材20とで多孔質シート2を挟持して一体化した状態を示している。
【0033】
このように多孔質シート2を板状体10と支持部材20とで挟持した医療検体保持部材1のスリット13に対し、検体採取針を入り込ませ、検体採取針をスリット13の底部に表出する多孔質シート2に擦り付けると、多孔質シート2は、後述の通り、特定の算術平均粗さRaと保留粒子径とを有することにより、検体の移し替え性に優れるため、検体採取針に採取した検体を容易に多孔質シート2側へ移し替えることができる。
【0034】
また、このようにして検体を医療検体保持部材1の多孔質シート2上に移し替えた後の薬品処理時にあっては、多孔質シート2は、後述の通り、特定の算術平均粗さRaと保留粒子径とを有することにより、検体の保持性に優れるため、検体を多孔質シート2上に安定に保持して良好な作業性のもとに薬品処理を行うことができる。また、その際に、多孔質シート2は多孔質で薬液の通過性に優れ、また、多孔質シート2を支持する支持部材20には、通液可能な第1スリット21が設けられているため、多孔質シート2上の検体を効率的に薬品処理することができる。
【0035】
このように、検体を多孔質シート2に擦り付けた医療検体保持部材1をケースに収容してもよい。このケースの一例を図4及び図5(b)に示す。
【0036】
このケース30は、ケースアッパー40とケースロワー50とを有する。ケースアッパー40は蓋板41と、該蓋板41に設けられた多数の小開口42と、該蓋板41の長手方向の両辺縁部近傍において、蓋板41の下面から突設された凸条43と、短手方向の一方の辺縁部近傍において、蓋板41の板面から突設された爪部43と、該蓋板41の他方の辺縁部近傍に設けられた係合口44と、蓋板41の該他方の辺縁部に延設された舌片部45とを有する。
【0037】
ケースロワー50は、底面部51と、該底面部51に設けられた多数の小開口52と、該底面部51の周縁から立設された囲壁部53と、該囲壁部53の一辺から延設された傾斜板よりなるスカート部54と、該スカート部54の上縁に設けられた透孔55と、ケースアッパー40の爪部43が係合するように囲壁部53の外面に設けられた段部56とを有する。
【0038】
医療検体保持部材1のフック片14をケースアッパー40の係合口44に係合させて医療検体保持部材1を蓋板41の下面に沿わせてケースアッパー40に保持させる。その後、このケースアッパー40とケースロワー50とを係合させる。この際、ケースアッパー40の舌片部45をケースロワー50の透孔55からスカート部54の裏側に差し込み、該舌片部45と反対側の爪部43を段部56に係合させる。これにより、ケースアッパー40とケースロワー50とが係着される。
【0039】
医療検体保持部材1及びケース30よりなる本発明の医療検体保持部材アッセンブリを用いるバイオプシーは、次のようにして行われる。
【0040】
まず、前述のように、検体を採取した検体採取針を医療検体保持部材1のスリット13内に押し当てて、医療検体保持部材1の板状体10のスリット13内に表出する多孔質シート2に擦り付けて検体を移し置いて付着させる。この操作を繰り返して、必要な数の検体をスリット13内の多孔質シート2上に付着させた後、医療検体保持部材1を上記のように、ケース30のケースアッパー40に取り付ける。その後、ケースアッパー40ごと、或いは、ケースアッパー40を更に薬品処理箱等にセットし、薬品処理を行なった後、ケース30のケースロワー50に係着する。その際、必要に応じてスカート部54の表側に検体の情報を記載する。
【0041】
このように検体を保持させた医療検体保持部材1をケース30に収容した後、ケース30ごと、或いは、ケース30を更に薬品処理箱等にセットし、再度薬品処理を行う。その後、ケース30から医療検体保持部材1を取り出し、医療検体保持部材1から検体を取り出して包埋処理した後、スライスしてサンプルを切り出し、顕微鏡観察する。
【0042】
この薬品処理時において、検体は、医療検体保持部材1の多孔質シート2上に安定に保持される。また、ケース30は、ケースアッパー40の蓋板41に多数の開口42を有すると共に、ケースロワー50の底面部51にも多数の開口52を有することにより、通液性であり、このケース30内に検体を保持した医療検体保持部材1を収容した状態で、薬品処理することができ、その際、ケース30のケースアッパー40及びケースロワー50は薬液の通液性に優れるため、ケース30内の医療検体保持部材1に保持された検体を十分に薬品処理することができる。
【0043】
図1〜5は、本発明の医療検体保持部材及び医療検体保持部材アッセンブリの一例を示すものであって、何ら本発明は図示のものに限定されるものではない。
例えば、医療検体保持部材は板状体と支持部材とに分割可能なものに限定されず、後掲の図6に示すように、一端側で開閉(回動)可能に連結されたものであってもよい。また、板状体と支持部材とは両者の間に多孔質シートを出し入れ可能な開口部を設けて一体化されたものであってもよい。医療検体保持部材を収容するケースについても同様に、ケースアッパーとケースロワーとが別体に設けられたものに限らず、一端側でこれらが開閉(回動)可能に連結されたものであってもよく、また、これらの間に医療検体保持部材を出し入れ可能な開口部を設けて一体化されたものであってもよい。更に、医療検体保持部材は、ケースのケースアッパーではなく、ケースロワー側に係止されてもよい。
【0044】
板状体10に形成するスリット13の幅及び深さ(この深さは、板状体10の厚みに相当する。)は、検体採取針の少なくとも側周部がスリット13に入り込むことで、検体採取針に採取された検体を多孔質シート2に擦り付けることができるような大きさであることが必要とされ、通常、スリット13の幅は、検体採取針の外径よりも0.1〜1.0mm程度大きく、例えば1.1〜2.0mm程度に形成され、スリットの深さ、即ち板状体10の厚みは、スリット13の幅にもよるが、検体採取針の外径に対して0.1〜1.0mm程度大きく、例えば1.1〜2.0mm程度に形成される。また、スリット13の長さについては、多孔質シート2の表出長さが10〜25mm程度となるように設けられることが好ましい。
【0045】
支持部材20は、透液性であればよく、図1,3に示すように板面にスリットを貫通させて設けたものの他、多数の開口を設けたものであってもよい。また、多孔質シート2にある程度の自立性があれば、枠部材であってもよい。
【0046】
同様に、ケース30のケースアッパー40の蓋板41及びケースロワー50の底面部51についても通液性を確保できれば、小開口に限らず、スリットを設けてもよく、また、メッシュ素材で全体を構成してもよい。
支持部材やケースに設ける通液のための開口の大きさやスリットの幅については、薬液が円滑に透過するように適宜設計される。ただし、ケースアッパー40については、薬品処理時に多孔質シート2からの検体の浮き上がりが発生した場合であっても、検体がケース30外に脱落することを防止するために、検体の大きさよりも小さい径の小開口又は検体の大きさよりも小さい幅のスリットとすることが好ましい。
【0047】
図1〜5に示す医療検体保持部材の板状体10及び支持部材20や、ケース30のケースアッパー40及びケースロワー50は、後述の熱可塑性樹脂を用いて、射出成形等により容易に製造することができる。多孔質シートは、図1〜5に示すように、成形された板状体10と支持部材20との間に挟み込んだり挿入したりして固定することもできるし、板状体又は支持部材の成形時に金型に予め多孔質シートを設けておくインサート成形により一体成形することもできる。
【0048】
次に、図6を参照して本発明の医療検体保持部材の別の実施の形態について説明する。
【0049】
図6の医療検体保持部材60は、本体部70と、基端側が該本体部70にヒンジ部90によって回動可能に連結された蓋部80とを備えている。
【0050】
本体部70は、略長方形状の平盤状の板状部(板状体に相当する)71と、この板状部71に多孔質シート2の挿入スペースを設けて一体成形された支持部(支持部材に相当する)73とを有し、板状部71には短手方向に互いに平行に延在するように複数のスリット72が設けられている。このスリット72の寸法については、図1〜5に示す医療検体保持部材1の板状体10のスリット13と同等に設計される。
【0051】
支持部73は、多孔質シート2を支持する枠状のものである。
【0052】
この支持部73と板状部71とを有する本体部70は、後述の熱可塑性樹脂の射出成形等により一体成形にて製造することができる。多孔質シート2はこの成形時にインサート成形して設けてもよいし、板状部71と支持部73の間に多孔質シートの出し入れ用の開口部を設けて本体部を成形した後、この開口から多孔質シートを挿入するようにしてもよい。
【0053】
蓋部80は、本体部70に被さった図6(b)の閉止状態と、それから180°回転した図6(a)の開放状態とをとりうるようにヒンジ部90によって本体部70に回動自在に連結されている。蓋部80は、略長方形状の主板部81と、該主板部81の1対の長側辺から起立する側壁部82と、主板部81の先端側(ヒンジ部90と反対側)に連なる平板状の端板部83とを有している。端板部83は、主板部81と面一状となっており、閉止状態では主板部81が本体部70の板状部71に密着状に重なるように構成されている。なお、本体部70の長手方向の側面部には、蓋部80を閉止したときに側壁部82と当接する段部70aが設けられている。
【0054】
主板部81には、該主板部81を厚さ方向に貫通する複数の孔部80aが設けられている。孔部80aの孔径は、検体の大きさよりも小さい。端板部83からは、閉止状態(図6(b))にある蓋部80を開放方向に回動させる際に指を掛けるための操作片84が突設されている。また、端板部83には、閉止状態において本体部70側へ起立する爪部85が突設されており、本体部70にはこの爪部85が差し込まれる小開口70bが設けられている。爪部85が小開口70bに係合することにより、蓋部80の開き出しが阻止される。爪部85の小開口70bへの係合を解消し、操作片84を引き上げることにより、蓋部80が開放方向に回動する。
蓋部80も、後述の熱可塑性樹脂の射出成形等により製造される。
【0055】
この医療検体保持部材60を用いる場合は、蓋部80を開放状態としておき、検体を採取した検体採取針を本体部70のスリット72内に押し当てて、スリット72内に表出する多孔質シート2に擦り付けて検体を移し置いて付着させる。この操作を繰り返して、必要な数の検体を本体部70のスリット72内の多孔質シート2上に付着させた後、蓋部80を閉止し、爪部85を小開口70bに係合させる。
こうして、全ての検体を医療検体保持部材60に収容した後に、医療検体保持部材60ごと検体を薬品処理し、その後、検体をケースから取り出して包埋処理した後、スライスしてサンプルを切り出し、顕微鏡観察する。
【0056】
図6の医療検体保持部材60であっても、図1〜5に示す医療検体保持部材1と同様に、検体採取針で採取した検体を容易に多孔質シート2上に移し置き、その後の薬品処理時には、検体を多孔質シート2上に安定に保持することができる。また、薬品処理時には、多孔質シート2が通液性に優れると共に、蓋部80に孔部80aが設けられていることにより、薬液を円滑に通液して、医療検体保持部材60内の検体を効率的に薬品処理することができる。
【0057】
[多孔質シート]
本発明で用いる多孔質シート2について、以下に説明する。
本発明に用いられる多孔質シートとしては、アルコール、キシレン、ホルマリン、パラフィン等に対する耐薬品性を有するものであれば特に制限されず、以下のようなものが挙げられるが、アルコール、キシレン等の薬液や液状パラフィンを透過させ、また、検体採取針から該多孔質シート上に検体を安定的に移し替えて保持させるために、所定の算術平均粗さRaと保留粒子径を有することが重要となる。
【0058】
多孔質シートとしては、濾紙等の紙、織布、不織布、多孔性樹脂フィルムが挙げられ、必要に応じ、これらの積層体(ラミネート)でも良い。
また、多孔性樹脂フィルムは、例えば、機械的に多数の細孔を開けて多孔化したものや、無孔性樹脂フィルムを延伸によって多孔化したもの、無孔性樹脂フィルムに可塑剤等を分散させ、これを溶媒抽出して多孔化したもの、無孔性樹脂フィルムを発泡によって多孔化したもの、などを、適宜用いることができる。
また、多孔質シートにはプラズマ処理等の親水化処理を施しても良い。このような親水化処理を施すことで、多孔質シートの薬液透過性を向上させることができる。
これらの中でも、本発明においては、製品コスト低減および薬液透過性の観点から紙を用いることが特に好ましく、とりわけ濾紙が好ましい。
【0059】
多孔質シートとして、織布、不織布、又は多孔性樹脂フィルムを用いる場合、これらに使用する樹脂は特に制限されず、天然樹脂、合成樹脂、半合成樹脂が用いられ、また生分解性樹脂も使用可能である。
これらの中でも、耐薬品性の観点からポリエチレン、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、共重合ポリオレフィンなどのポリオレフィン樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂;ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド12などのポリアミド樹脂;ポリオキシメチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルイミド、液晶性ポリエステル、ポリフェニレンエーテル、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性ポリイミド、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体などの熱可塑性フッ素樹脂が挙げられる。
【0060】
本発明で用いる多孔質シートの算術平均粗さRaは、0.5μm以上50μm以下である。多孔質シートの算術平均粗さRaの下限は、好ましくは1.0μm以上、より好ましくは1.5μm以上である。一方、多孔質シートの算術平均粗さRaの上限は、好ましくは40μm以下、より好ましくは30μm以下である。
【0061】
多孔質シートの算術平均粗さRaが0.5μm未満では、検体採取針からの検体の移し替えが困難になるだけでなく、薬品処理時の検体の保持性能が不十分となり好ましくない。また、多孔質シートの算術平均粗さRaが50μmより大きいと、検体の移し替え時に凹凸が障害となって作業が困難になるおそれがあり好ましくない。
【0062】
多孔質シートの算術平均粗さRaは、後述する多孔質シートの保留粒子径のみならず、例えば多孔質シートが紙や不織布、織布等であれば表面の繊維の材質や寸法(繊維径、アスペクト比等)、繊維の状態などが影響する。多孔質シートが多孔性樹脂フィルムや発泡樹脂フィルムの場合には、樹脂の結晶状態や分子の絡み合いの状態、孔の分布、延伸前の原反の表面粗さ等、様々な要因が複雑に影響するものであり、一概に保留粒子径の大小のみで決定されるものではなく、保留粒子径とは別異の物性である。
多孔質シートの算術平均粗さRaは、具体的には後述の実施例の項に示される方法で、JIS B0601(2013年)に従って測定される。
【0063】
本発明で用いる多孔質シートの保留粒子径は、0.1μm以上200μm以下である。多孔質シートの保留粒子径とは、該多孔質シートを用いて比較的一定の粒子径分布である粒子を混合した液の濾過を行った時に、濾過効率が90%以上となる粒子径の最小値を言う。より具体的には、JIS Z8901(2006年)に記載の「試験用粉体1の7種」として規定された粒子径分布を有する粉体を水100質量部に対して2質量部分散させた分散液50mLについて、該多孔質シートを用いて大気圧で濾過を行った時に、濾過効率が90%以上となる粒子径の最小値を、本発明の多孔質シートの保留粒子径と定める。
多孔質シートの保留粒子径の下限は、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1.0μm以上である。一方、多孔質シートの保留粒子径の上限は、好ましくは150μm以下、より好ましくは100μm以下である。
【0064】
多孔質シートの保留粒子径が0.1μm未満では、表面の凹凸が小さく検体採取針からの検体の移し替えが困難になるだけでなく、薬液の透過性が低くなり検体の薬品処理が不十分となる。一方、多孔質シートの保留粒子径が200μmより大きいと処理中に検体の一部が孔から脱落するおそれがあるだけでなく、検体採取針からの検体の移し替えの際、検体採取針の先端が孔に引っかかり検体を損傷するおそれがあるため好ましくない。
【0065】
多孔質シートの厚みは、0.1mm以上3.0mm以下が好ましい。多孔質シートの厚みの下限は、より好ましくは0.15mm以上、更に好ましくは0.2mm以上である。また、多孔質シートの厚みの上限は、より好ましくは2.5mm以下、さらに好ましくは2.0mm以下である。
【0066】
多孔質シートの厚みが0.1mm以上であれば、多孔質シートが機械強度に優れ、容易に変形するおそれがないため、本発明の医療検体保持部材の作製時のハンドリング性や、検体の移し替え時の作業性が良好となる。一方、多孔質シートの厚みが3.0mm以下であれば、本発明の医療検体保持部材の作製時に多孔質シートを加工することが容易となり、また薬品処理時に薬液の透過性が良好となる。
【0067】
[熱可塑性樹脂]
以下に、前述の医療検体保持部材の板状体、支持部材及びケースや、医療検体保持部材の本体部及び蓋部の構成材料として好適な熱可塑性樹脂について説明する。
【0068】
本発明で用いる熱可塑性樹脂は限定されないが、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、共重合ポリオレフィンなどのポリオレフィン樹脂;ポリスチレン、ABS樹脂、AS樹脂等のスチレン樹脂;ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂;ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド12などのポリアミド樹脂;ポリオキシメチレン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルイミド、液晶性ポリエステル、ポリフェニレンエーテル、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性ポリイミド、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体などの熱可塑性フッ素樹脂、EPRなどのオレフィン系エラストマー、SEBSなどのスチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタンエラストマー、ポリアミドエラストマー、シリコーンエラストマー、アクリルエラストマー等の熱可塑性エラストマーなどを使用することができる。前記の熱可塑性樹脂は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0069】
なお、医療検体は保持部材上にて、様々な処理薬品で処理されることが多いため、本発明で用いる熱可塑性樹脂は、耐薬品性に優れていることが好ましい。
従って、上記の熱可塑性樹脂の中でも、ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、共重合ポリオレフィンなどのポリオレフィン樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂;ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド12などのポリアミド樹脂;ポリオキシメチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルイミド、液晶性ポリエステル、ポリフェニレンエーテル、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性ポリイミド、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体などの熱可塑性フッ素樹脂が、耐薬品性に優れる点で好ましい。
これらの中でも、ポリオキシメチレンがコストの点でとりわけ好ましい。
【0070】
本発明で用いる熱可塑性樹脂には、発明の効果を損なわない範囲で付加成分を添加することができる。
このような付加成分としては、例えば、ヒンダードフェノールやリン酸エステル等の熱安定剤、酸化防止剤、離型剤、パラフィンオイル等の可塑剤、ハロゲン系、リン系等の難燃剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、滑剤、シランカップリング相溶化剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤、分散剤、酸化チタン等の着色剤、防菌剤、蛍光増白剤、結晶核剤等といった各種添加剤を挙げることができる。
また、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、ガラスビーズ等のフィラーを添加してもよい。
【実施例】
【0071】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0072】
以下の実施例及び比較例において、多孔質シートとして用いた濾紙の算術平均粗さRa及び保留粒子径は以下の方法で測定した。
【0073】
<算術平均粗さRa>
多孔質シートの表面を、ミツトヨ社製表面粗さ計「サーフテストSJ−400」を使用し、JIS B0601(2013年)の条件(評価長さ:4mm、測定速度:0.5mm/s)にて、算術表面粗さRaを測定した。
【0074】
<保留粒子径>
JIS Z8901(2006年)に記載の「試験用粉体1の7種」として規定された粒子径分布を有する粉体を水100質量部に対して2質量部分散させた分散液50mLについて、実施例及び比較例で使用したシートを用いて大気圧で濾過を行った。得られた濾液中の粒子と残渣中の粒子について、それぞれの粒子径分布をレーザー回折/散乱式粒度分布計で測定し、濾過効率が90%以上となる粒子径の最小値を、シートの保留粒子径とした。
【0075】
[実施例1〜3、比較例1、2]
多孔質シート2として、以下及び表1に示す算術平均粗さRa、保留粒子径及び厚みの多孔質シートを用い、図1に示す医療検体保持部材1を作製した。
板状体10及び支持部材20は、光硬化性樹脂(Stratasys社製「FullCure RGD720」)を用いて、3Dプリンター(Stratasys社製「EDEN260V」)にて作製した(なお、実施例では、3Dプリンターを用いて成形を行ったが、実際の工業的な医療検体保持部材の生産においては射出成形が好ましい。)。
【0076】
スリット13の寸法は以下の通りである。
幅:1.5mm
深さ:1.5mm(板状体10の厚み)
多孔質シート2の表出長さ:16mm
【0077】
作製された各医療検体保持部材を用い、以下の検体移し替え試験を行い、結果を表1に示した。
【0078】
<実施例1>
光硬化性樹脂を用いて、3Dプリンターにて板状体10、支持部材20、ケースアッパー40を成形し、板状体10と支持部材20で多孔質シート2として濾紙(安積濾紙製No.LS100、保留粒子径:0.5μm)を挟持することで医療検体保持部材を作製した。
【0079】
<検体移し替え試験>
医療検体用採取針(メディコン社製「バードモノプティ」、外径1.0mm)を用いて、鳥の生肉より組織検体を採取した後、医療検体保持部材1の検体保持部であるスリット13内の多孔質シート2に、検体を保持した採取針を擦りつけて、検体の移し替えを行い、このときの移し替え性及び検体保持性を下記基準で評価した。
○:検体をスムーズに検体保持部に移し替えることができ、さらに振動等で容易に落下することなく良好な検体保持性が得られた。
△:検体をスムーズに検体保持部に移し替えることができたが、振動等により検体が保持部より脱落した。
×:検体を検体保持部へ移し替えることができなかった。
【0080】
<実施例2>
実施例1で使用した濾紙を安積濾紙製No.1(保留粒子径:6μm)に変更した他は実施例1と同様にして医療検体保持部材を製作し、検体移し替え試験を実施した。
【0081】
<実施例3>
実施例1で使用した濾紙を安積濾紙製No.500(保留粒子径:14μm)に変更した他は実施例1と同様にして医療検体保持部材を製作し、検体移し替え試験を実施した。
【0082】
<比較例1>
実施例1で使用した濾紙をポリエチレンメッシュ(保留粒子径:250μm)に変更した他は実施例1と同様にして医療検体保持部材を製作し、検体移し替え試験を実施した。
【0083】
<比較例2>
実施例1で使用した濾紙をポリエチレンフィルム(貫通孔無し)に変更した他は実施例1と同様にして医療検体保持部材を製作し、検体移し替え試験を実施した。
【0084】
【表1】
【0085】
表1より明らかなように、算術平均粗さRaが50μmより大きく、保留粒子径が200μmより大きいポリエチレンメッシュを用いた比較例1および、算術平均粗さRaが0.5μm未満であり、かつ細孔を有さないポリエチレンフィルムを用いた比較例2では、検体移し替え性が悪いが、算術平均粗さRa及び保留粒子径が本発明の規定範囲内の濾紙を用いた実施例1〜3では、いずれも良好な検体移し替え性及び保持性が得られた。
【符号の説明】
【0086】
1 医療検体保持部材
2 多孔質シート
10 板状体
13 スリット
14 フック片
20 支持部材
21 第1スリット
22 第2スリット
23 第3スリット
30 ケース
40 ケースアッパー
50 ケースロワー
60 医療検体保持部材
70 本体部
71 板状部
72 スリット
73 支持部
80 蓋部
80a 孔部
90 ヒンジ部
図1
図2
図3
図4
図5
図6