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特許6565269電源制御装置、電源制御プログラム及び電源制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6565269
(24)【登録日】2019年8月9日
(45)【発行日】2019年8月28日
(54)【発明の名称】電源制御装置、電源制御プログラム及び電源制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02J 7/02 20160101AFI20190819BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20190819BHJP
【FI】
   H02J7/02 G
   H02J7/00 302C
   H02J7/00 A
   H02J7/00 X
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-69864(P2015-69864)
(22)【出願日】2015年3月30日
(65)【公開番号】特開2016-189688(P2016-189688A)
(43)【公開日】2016年11月4日
【審査請求日】2018年1月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】518133201
【氏名又は名称】富士通クライアントコンピューティング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002918
【氏名又は名称】特許業務法人扶桑国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯田 智士
【審査官】 坂東 博司
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−103532(JP,A)
【文献】 特開2010−022105(JP,A)
【文献】 特開2011−101458(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0293117(US,A1)
【文献】 特開2014−233785(JP,A)
【文献】 特開2003−256083(JP,A)
【文献】 特開2011−229337(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0304542(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0260689(US,A1)
【文献】 米国特許第6031356(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 7/02
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のバッテリを有し、メインメモリ以外の全ての電源がオフしている状態であるS3モードもしくは全ての電源がオフしている状態であるS4モードに移行可能な情報処理装置の電源制御を行う電源制御装置であって、
前記複数のバッテリの残量を判定する判定部と、
前記複数のバッテリのうち残量が前記S3モードから前記S4モードへの移行可能残量以下のバッテリを、残量が前記移行可能残量より多くなるまで充電させ、前記複数のバッテリそれぞれの残量が前記移行可能残量より多くなることを優先する制御部と、
を有する電源制御装置。
【請求項2】
複数のバッテリを有し、メインメモリ以外の全ての電源がオフしている状態であるS3モードもしくは全ての電源がオフしている状態であるS4モードに移行可能な情報処理装置の電源制御を行う電源制御装置であって、
前記複数のバッテリの残量を判定する判定部と、
前記複数のバッテリのうち残量が前記S3モードから前記S4モードへの移行可能残量以上のバッテリを、残量が前記移行可能残量になるまで優先して放電させる制御部と、
を有する電源制御装置。
【請求項3】
前記複数のバッテリは、前記情報処理装置の内蔵バッテリ及び増設バッテリである、
請求項1又は2に記載の電源制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、
前記複数のバッテリのそれぞれの残量が前記S3モードから前記S4モードへの移行可能残量以下の場合、前記内蔵バッテリを優先して充電させる、
請求項3に記載の電源制御装置。
【請求項5】
前記制御部は、
前記増設バッテリを優先して放電させる、
請求項3に記載の電源制御装置。
【請求項6】
複数のバッテリを有し、メインメモリ以外の全ての電源がオフしている状態であるS3モードもしくは全ての電源がオフしている状態であるS4モードに移行可能な情報処理装置の電源制御を行う処理をコンピュータに実行させる電源制御プログラムであって、
前記複数のバッテリの残量を判定し、
前記複数のバッテリのうち残量が前記S3モードから前記S4モードへの移行可能残量以下のバッテリを、残量が前記移行可能残量より多くなるまで充電させ、前記複数のバッテリそれぞれの残量が前記移行可能残量より多くなることを優先する、
電源制御プログラム。
【請求項7】
複数のバッテリを有し、メインメモリ以外の全ての電源がオフしている状態であるS3モードもしくは全ての電源がオフしている状態であるS4モードに移行可能な情報処理装置の電源制御を行う処理をコンピュータに実行させる電源制御プログラムであって、
前記複数のバッテリの残量を判定し、
前記複数のバッテリのうち残量が前記S3モードから前記S4モードへの移行可能残量以上のバッテリを、残量が前記移行可能残量になるまで優先して放電させる、
電源制御プログラム。
【請求項8】
複数のバッテリを有し、メインメモリ以外の全ての電源がオフしている状態であるS3モードもしくは全ての電源がオフしている状態であるS4モードに移行可能な情報処理装置の電源制御を行う処理をコンピュータが実行する電源制御方法であって、
前記複数のバッテリの残量を判定し、
前記複数のバッテリのうち残量が前記S3モードから前記S4モードへの移行可能残量以下のバッテリを、残量が前記移行可能残量より多くなるまで充電させ、前記複数のバッテリそれぞれの残量が前記移行可能残量より多くなることを優先する、
電源制御方法。
【請求項9】
複数のバッテリを有し、メインメモリ以外の全ての電源がオフしている状態であるS3モードもしくは全ての電源がオフしている状態であるS4モードに移行可能な情報処理装置の電源制御を行う処理をコンピュータが実行する電源制御方法であって、
前記複数のバッテリの残量を判定し、
前記複数のバッテリのうち残量が前記S3モードから前記S4モードへの移行可能残量以上のバッテリを、残量が前記移行可能残量になるまで優先して放電させる、
電源制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電源制御装置、電源制御プログラム及び電源制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内蔵バッテリと増設バッテリとを有する電子機器において、内蔵バッテリを増設バッテリよりも先に充電する手法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−103532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、内蔵バッテリから優先的に充電すると、増設バッテリの残量によっては電子機器をS3のスリープモード(以下、「S3モード」ともいう。)からS4の休止モード(以下、「S4モード」ともいう。)へ移行させることが困難になる場合がある。例えば、増設バッテリの残量がS3モードからS4モードへの移行可能残量以下の場合、増設バッテリが充電される前に内蔵バッテリがPCから取り外されると、S3モードからS4モードへの移行に失敗し、メモリに保存されているデータが破損する場合がある。
【0005】
そこで、一側面では、本発明は、S3モードからS4モードへの移行に失敗することによるデータの破損を回避することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一つの案では、複数のバッテリを有し、メインメモリ以外の全ての電源がオフしている状態であるS3モードもしくは全ての電源がオフしている状態であるS4モードに移行可能な情報処理装置の電源制御を行う電源制御装置であって、前記複数のバッテリの残量を判定する判定部と、前記複数のバッテリのうち残量が前記S3モードから前記S4モードへの移行可能残量以下のバッテリを、残量が前記移行可能残量より多くなるまで充電させ、前記複数のバッテリそれぞれの残量が前記移行可能残量より多くなることを優先する制御部と、を有する電源制御装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
一側面によれば、S3モードからS4モードへの移行に失敗することによるデータの破損を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】一実施形態にかかるPCの概観の一例を示す図。
図2】一実施形態にかかるPCのハードウェア構成の一例を示す図。
図3】一実施形態にかかるPCのバッテリ残量とS3→S4の移行との関係を示す図。
図4】一実施形態にかかるPMUの機能構成の一例を示す図。
図5】一実施形態にかかる充電制御処理の一例を示すフローチャート。
図6】一実施形態にかかる充電制御処理を説明するための図。
図7】一実施形態にかかる放電制御処理の一例を示すフローチャート。
図8】一実施形態にかかる放電制御処理を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について添付の図面を参照しながら説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く。
【0010】
[PCの概観]
まず、本発明の一実施形態にかかるPC(Personal Computer)10の概観について、図1を参照しながら説明する。本実施形態にかかるPC10は、ノート型PCであり、CPUやメモリ等が内蔵された筐体10a及び画像を表示するディスプレイ11を有する。
【0011】
筐体10aは、キーボード12、タッチパッド13、PC10への電源投入のための電源ボタン14、CD(Compact Disc)やDVD(Digital Versatile Disk)が装填される装填口15を有している。キーボード12及びタッチパッド13は、ユーザの入力操作に使用される。キーボード12の下にはCPU、チップセット等が配置されている。
【0012】
本実施形態にかかるPC10には、内蔵バッテリ17及び増設バッテリ18の2つのバッテリが搭載されている。内蔵バッテリ17は、出荷時にPC10に内蔵されているバッテリである。増設バッテリ18は、出荷後にPC10に搭載されたバッテリである。
【0013】
図1の筐体10aの裏面には蓋部10bが形成され、内蔵バッテリ17の取り外しが可能になっている。別途、充電器で内蔵バッテリ17を急速充電したいときや、バッテリ交換時などの際に内蔵バッテリ17を取り外すことが考えられる。また、増設バッテリ18は、例えば装填口15から取り外しが可能である。つまり、本実施形態にかかるPC10は、内蔵バッテリ17及び増設バッテリ18を筺体10aから取り外すことが可能な構造を有している。
【0014】
図1のPC10は複数のバッテリを有する情報処理装置の一例である。情報処理装置の他の例としては、複数のバッテリを有するデスクトップPCやタブレット型機器等の電子機器が挙げられる。内蔵バッテリ17及び増設バッテリ18は、情報処理装置に設けられる複数のバッテリの一例である。また、情報処理装置に設けられる複数のバッテリは、2以上の内蔵バッテリのみであってもよいし、2以上の増設バッテリのみであってもよいし、2以上の内蔵バッテリと増設バッテリとの組み合わせでもよい。
【0015】
[PCのハードウェア構成]
次に、PC10のハードウェア構成の一例について、図2を参照しながら説明する。PC10は、ディスプレイ11、内蔵バッテリ17、増設バッテリ18、メインメモリ20、
HDD(Hard Disk Drive)21、ACアダプタ23、CPU(Central Processing Unit)24、電源マイコン25及び充電器26を有する。
【0016】
ACアダプタ23は、ACラインからの電源をCPU24、電源マイコン25及び充電器26等に供給する。また、ACアダプタ23は、電源マイコン25のGPIO25bからの出力信号によりACラインからの電源供給を遮断することができる。ACアダプタ23は、充電器26に内蔵バッテリ17及び増設バッテリ18を充電するための電流を供給する。
【0017】
充電器26は、内蔵バッテリ17及び増設バッテリ18の充放電を制御する回路である。充電器26は、ACラインからの電源の供給がオフしているときに内蔵バッテリ17及び増設バッテリ18からの放電を制御し、PC10の各部に電源を供給する。充電器26は、ACラインからの電源の供給がオンしているときであって、内蔵バッテリ17及び増設バッテリ18が満充電されていないときに各バッテリの充電を制御する。
【0018】
CPU24は、PC10の全体の動作を制御する。例えば、CPU24は、所定の場合、OSの制御の下、PC10をS0の稼働モード(以下、「S0モード」ともいう。)からS4モードへ移行させる。S4モードへ移行する際、実行中のアプリケーションのデータ等は、メインメモリ20からHDD21に保存される。この結果、次にPC10の電源ボタン14が押され、電源がオンされたとき、PC10は、実行中のアプリケーションのデータ等をHDD21から取り込み、再び該アプリケーションを実行させることができる。
【0019】
電源マイコン25は、内蔵バッテリ17及び増設バッテリ18の残量を監視している。電源マイコン25は、バッテリアービター(BAVPL)25a、GPIO(General Purpose Input/Output)25b、IC(I-squared-C : Inter-Integrated Circuit)コントローラ25c及びPMU(Power Management Unit)25dを有する。
【0020】
バッテリアービター25aは、バッテリ持続時間の向上を実現させるための調停機能を有する。GPIO25bは、電源マイコン25と充電器26及びACアダプタ23とを接続するためのインターフェースである。
【0021】
Cコントローラ25cは、ICの信号を出力し、シリアルバスによるデータ通信及び充放電の制御を行う。PMU25dは、PC10の電源管理を行う。PMU25dは、内蔵バッテリ17及び増設バッテリ18の残量に応じて内蔵バッテリ17又は増設バッテリ18のいずれを優先して充電又は放電させるかを制御する。PMU25dは、所定の場合、S3モードからS0モードへの自動移行を制御する。電源マイコン25は、複数のバッテリを有する情報処理装置の電源制御を行う電源制御装置の一例である。
【0022】
なお、S0モードは、PC10のすべての電源がオンしている状態である。S3モードは、メインメモリ20の電源だけをオン、それ以外のPC10の電源をオフしている状態である。S4モードは、退避するPC10のすべての電源がオフしている状態(いわゆる、ハイバーネーション)である。S4モードでは、メインメモリ20のデータをHDD21に退避した後、PC10のすべての電源がオフされる。S0、S3、S4は、Windows(登録商標)のOS搭載PCの規格であるACPI(Advanced Power & Configuration Interface)によるシステムの省エネ状態の定義の一つである。
【0023】
[PCのバッテリ残量とS3→S4の移行の可否]
ACアダプタ23からの電源の供給が停止され、PC10が内蔵バッテリ17又は増設バッテリ18の放電電流により駆動している場合、S3モード中においても内蔵バッテリ17又は増設バッテリ18の残量は減っていく。
【0024】
この場合、内蔵バッテリ17及び増設バッテリ18の残量の平均値が、予め定められた閾値DCL(Design Capacity of Low)を下回ると、電源マイコン25は、データを保護するためにPC10をスリープ状態であるS3モードから起動状態であるS0モードに移行させる。S0モードへ自動移行すると、CPU24は、OSの制御下、メインメモリ20のデータをHDD21に保存し、S0モードからS4モードに移行する。このようにしてPC10におけるS3モードからS4モードへの自動移行が実行される。
【0025】
例えば、閾値DCLは、S3モードからS4モードに移行することが可能なバッテリ残量の2倍の値に設定されている。つまり、DCL/2は、S3モードからS4モードへの自動移行が可能なバッテリ残量の下限値を示す。バッテリの残量が閾値DCLを下回ると、電源マイコン25は、上記のS3モードからS4モードに自動移行する処理を実行する。
【0026】
2つバッテリを搭載しているPC10では、電源マイコン25は、バッテリの残量として2つのバッテリの残量の平均値を算出し、その平均値と閾値DCLとを比較する。例えば、電源マイコン25が、内蔵バッテリ17及び増設バッテリ18の残量を10分経過毎に監視する場合を例に挙げる。
【0027】
電源マイコン25は、図3の(a)に示すように、前回(例えば時刻t)監視した内蔵バッテリ17及び増設バッテリ18の残量の平均値がDCL以上と判定し、今回(例えば時刻tから10分後)監視した両バッテリの残量の平均値がDCLを下回ると判定したとする。この場合、電源マイコン25によりS3モードからS0モードへの自動移行が実行される。S0モードへ移行後、OSの制御によりデータがHDD21に保存され、S0モードからS4モードへの自動移行が実行される。これのようにして、監視している内蔵バッテリ17及び増設バッテリ18の残量の平均値がDCL以下になったとき、PC10は、自動でS3モードからS4モードへ移行することが可能になる。
【0028】
しかし、前回監視した両バッテリの残量の平均値がDCL以上であっても、今回監視した両バッテリの残量の平均値がS3モードからS4モードへの移行可能残量を下回ってしまうと、S3モードからS4モードへの移行に失敗してしまう。この場合、実行中のアプリケーション等のデータをHDD21に退避できず、データを破損する恐れがある。電源マイコン25が、S3モードにおいてバッテリの残量を監視するのは例えば10分間隔である。このため、劣化が進んでいるバッテリを使用している場合や、一方のバッテリがS3モード中に図3の(b)に示すように外されると他方のバッテリがS3モードからS4モードの移行可能残量を下回り、S3モードからS4モードへ移行できない状態になる。
【0029】
充電時、増設バッテリ18の残量の多少にかかわらず内蔵バッテリ17を優先して充電させる制御方法がある。しかし、このような制御方法では、増設バッテリ18の残量がS3モードからS4モードへの移行可能残量を下回る状況が生じ得る。この場合、S3モード中に内蔵バッテリ17が取り外されるとS3モードからS4モードへの自動移行に失敗してしまう可能性がある。
【0030】
放電時、内蔵バッテリ17及び増設バッテリ18を順に放電するシリアル放電の場合、増設バッテリ18の残量が0%になるまで放電してから内蔵バッテリ17に切り替えて内蔵バッテリ17を放電させる制御方法がある。しかし、このような制御方法では、増設バッテリ18の残量がS3モードからS4モードへの移行可能残量を下回っている状況においてS3モード中に内蔵バッテリ17が取り外されると、S3モードからS4モードへの自動移行に失敗してしまう可能性がある。充電時、放電時のいずれにおいても、S3モードからS4モードへの自動移行に失敗してしまうと、データをHDD21に退避できず、データを破損する恐れがある。
【0031】
S3モード中に内蔵バッテリ17や増設バッテリ18が取り外されるケースとしては、バッテリ交換や別途の充電器によって急速充電を行うときが考えられ、内蔵バッテリ17であっても増設バッテリ18と同様に取り外されることは十分に想定されることである。
【0032】
そこで、本実施形態にかかる電源マイコン25は、S3モードからS4モードへの自動移行に失敗しないように、S3モード中にバッテリの残量がS3モードからS4モードへ移行可能残量を下回る状況を未然に防ぐように充放電制御を行う。以下、本実施形態にかかる電源マイコン25のPMU25dの機能構成、電源マイコン25による充電制御及び放電制御を順に説明する。
【0033】
[PMUの機能構成]
電源マイコン25のPMU25dの機能構成の一例について、図4を参照しながら説明する。PMU25dは、判定部151及び制御部152を有する。判定部151は、内蔵バッテリ17及び増設バッテリ18の残量を監視する。
【0034】
バッテリが2つあるPC10において、充電時、制御部152は、一方のバッテリの残量がS3モードからS4モードへの移行可能残量以下であって、そのバッテリから優先的に充電するように制御する。ただし、制御部152は、両方のバッテリがS3モードからS4モードへの移行可能残量以下のとき、内蔵バッテリを優先して充電するように制御する。
【0035】
バッテリが2つあるPC10において、シリアル放電時、制御部152は、一方のバッテリの残量がS3モードからS4モードへの移行可能残量以上のとき、そのバッテリから優先的に放電する。ただし、制御部152は、両方のバッテリがS3モードからS4モードへの移行可能残量以上のとき、前記増設バッテリを優先的に放電する。制御部152は、先に放電している増設バッテリ18がS3モードからS4モードへの移行可能残量以下になる前に内蔵バッテリ17の放電に切り替える。
【0036】
[充電制御処理]
次に、本実施形態にかかる充電制御処理について図5を参照して説明する。図5は、本実施形態にかかる充電制御処理の一例を示すフローチャートである。本処理は、主に電源マイコン25によって制御される。
【0037】
なお、DCL/2には、S3モードからS4モードへの移行可能残量の下限値が設定されている。例えばDCLがバッテリの満充電の5%に設定されている場合、S3モードからS4モードへの移行可能残量は3%に設定してもよい。本実施形態では、2つのバッテリの残量の平均値が閾値DCLを下回るとS3モードからS4モードへの自動移行が実行されるが、自動移行を実行するか否かの閾値として用いられる値は、DCLに限らずDCL/2〜DCLの範囲のいずれかの値を設定してもよい。また、内蔵バッテリ17及び増設バッテリ18の異常時や充電器26の異常時等に実行するエラー処理については、図5のフローチャートから省き説明を省略する。
【0038】
まず、本処理が開始されると、判定部151は、PC10にバッテリが2つ搭載されているかを判定する(ステップS10)。判定部151は、PC10にバッテリが2つ搭載されていないと判定した場合、ステップS20に進む。
【0039】
判定部151は、PC10にバッテリが2つ搭載されていると判定した場合、内蔵バッテリ17の残量を判定し、その残量がS3モードからS4モードへの移行可能残量以下であるかを判定する(ステップS12)。判定部151が、内蔵バッテリ17の残量がS3モードからS4モードへの移行可能残量以下と判定した場合、制御部152は、内蔵バッテリ17を充電する(ステップS14)。たとえば、図6の(1)に示すように、内蔵バッテリ17の残量がDCL/2に到達するまで、ステップS12およびステップS14の処理が繰り返され、DCL/2に到達したと判定された場合、ステップS16に進む。
【0040】
次に、判定部151は、増設バッテリ18の残量を判定し、その残量がS3モードからS4モードへの移行可能残量以下であるかを判定する(ステップS16)。判定部151が、増設バッテリ18の残量がS3モードからS4モードへの移行可能残量以下と判定した場合、制御部152は、増設バッテリ18を充電する(ステップS18)。たとえば、図6の(2)に示すように、増設バッテリ18の残量がDCL/2に到達するまで、ステップS16およびステップS18の処理が繰り返され、DCL/2に到達したと判定された場合、ステップS20に進む。
【0041】
ステップS10〜ステップS18の処理では、内蔵バッテリ17及び増設バッテリ18の両方の残量がS3モードからS4モードへの移行可能残量以下である場合、図6の(3)に示すように、内蔵バッテリ17の充電が優先される。すなわち、内蔵バッテリ17の残量がDCL/2に到達するまで、ステップS12およびステップS14の処理が繰り返される。そして、内蔵バッテリ17の残量がDCL/2に到達した後、増設バッテリ18の残量がDCL/2に到達するまで、ステップS16およびステップS18の処理が繰り返される。
【0042】
このようにして内蔵バッテリ17及び増設バッテリ18の両方の残量がS3モードからS4モードへの移行可能残量以上になると、図5のステップS20において、内蔵バッテリ17を増設バッテリ18よりも優先して充電する充電モードに切り替わる。
【0043】
判定部151は、PC10に内蔵バッテリ17があるかを判定する(ステップS22)。判定部151は、内蔵バッテリ17の取り外し等により内蔵バッテリ17がないと判定した場合、ステップS28に進む。判定部151は、内蔵バッテリ17があると判定した場合、内蔵バッテリ17の残量が充電停止残量を下回っているかを判定する(ステップS24)。充電停止残量は予め定められており、例えば、80%の充電モードであれば、最大充電可能量の80%が充電停止残量であり、電源マイコン25は、バッテリが最大充電の80%まで充電されたとき、充電を停止する。
【0044】
判定部151は、内蔵バッテリ17の残量が充電停止残量を下回っていると判定する間、内蔵バッテリ17の充電を行い(ステップS26)、内蔵バッテリ17の残量が充電停止残量以上と判定したとき、ステップS28に進む。
【0045】
ステップS28において、判定部151は、PC10に増設バッテリ18があるかを判定し、増設バッテリ18がないと判定した場合、本処理を終了する。一方、判定部151は、増設バッテリ18があると判定した場合、内蔵バッテリ17の残量が充電停止残量を下回っているかを判定する(ステップS30)。判定部151は、増設バッテリ18の残量が充電停止残量を下回っていると判定する間、増設バッテリ18の充電を行い(ステップS32)、増設バッテリ18の残量が充電停止残量以上と判定したとき本処理を終了する。
【0046】
以上に説明したように、本実施形態にかかるバッテリの充電制御では、以下のように充電が制御される。
【0047】
(1)内蔵バッテリ17の残量がS3モードからS4モードへの移行可能残量(=DCL/2)以下の場合、内蔵バッテリ17が増設バッテリ18よりも優先して充電される。
【0048】
(2)一方、増設バッテリ18の残量がS3モードからS4モードへの移行可能残量以下の場合であって内蔵バッテリ17の残量がS3モードからS4モードへの移行可能残量よりも多い場合、増設バッテリ18が内蔵バッテリ17よりも優先して充電される。
【0049】
(3)両バッテリの残量がS3モードからS4モードへの移行可能残量以下の場合、S3モードからS4モードへの移行可能残量になるまで、内蔵バッテリ17、増設バッテリ18の順で充電が制御される。
【0050】
なお、両バッテリの残量がS3モードからS4モードへの移行可能残量以上になった後は、内蔵バッテリ17を優先して充電の制御が行われる。
【0051】
以上、本実施形態にかかる電源マイコン25によれば、PC10にバッテリが2つ以上ある場合に上記の充電制御を行うことで、S3モードからS4モードへの移行に失敗することによるデータの破損を回避することができる。
【0052】
[放電制御処理]
次に、本実施形態にかかる放電制御処理について図7を参照して説明する。図7は、本実施形態にかかる放電制御処理の一例を示すフローチャートである。本処理は、主に電源マイコン25によって制御される。
【0053】
なお、DCLの値の設定、バッテリの異常時等に実行するエラー処理については、図5の充電制御処理と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0054】
まず、本処理が開始されると、判定部151は、PC10にバッテリが2つ搭載されているかを判定する(ステップS50)。判定部151は、PC10にバッテリが2つ搭載されていないと判定した場合、制御部152は、パラレル放電の制御を行い(ステップS60)、ステップS62に進む。なお、パラレル放電では、内蔵バッテリ17及び増設バッテリ18の両方を並行して放電する。シリアル放電では、内蔵バッテリ17及び増設バッテリ18のいずれかを順番に用いて放電する。
【0055】
判定部151は、PC10にバッテリが2つ搭載されていると判定した場合、シリアル放電のモードか否かを判定し(ステップS52)、シリアル放電のモードでないと判定した場合、制御部152は、パラレル放電の制御を行い(ステップS60)、ステップS62に進む。
【0056】
判定部151は、シリアル放電のモードであると判定した場合、制御部152は、増設バッテリ18の放電を行う(ステップS54)。判定部151は、増設バッテリ18がS3モードからS4モードへの移行可能残量になったかを判定し(ステップS56)、制御部152は、S3モードからS4モードへの移行可能残量になるまで増設バッテリ18を放電させる。判定部151が増設バッテリ18がS3モードからS4モードへの移行可能残量になったと判定したとき、制御部152は、内蔵バッテリ17を放電させる(ステップS58)。
【0057】
これによれば、図8に示すように、増設バッテリ18の残量がDCL/2に到達するまで増設バッテリ18の放電が行われ、増設バッテリ18の残量がDCL/2に到達したら内蔵バッテリ17の放電が行われる
図7に戻り、次に、判定部151は、内蔵バッテリ17及び増設バッテリ18の残量の平均値がDCL以下になったかを判定し(ステップS62)、両バッテリの残量の平均値がDCL以下になるまで内蔵バッテリを放電させる。判定部151は、両バッテリの残量の平均値がDCL以下になったと判定した場合、PC10の状態がS0モード又はS3モードであるかを判定する(ステップS64)。判定部151は、PC10の状態がS0モード及びS3モードのいずれでもないと判定した場合、本処理を終了する。
【0058】
一方、判定部151は、PC10の状態がS3モードであると判定した場合、制御部152は、PC10をS3モードからS0モードへ移行させる(ステップS66)。これにより、PC10の状態は、スリープ状態から稼働状態へ移行する。
【0059】
ステップS64において、判定部151がPC10の状態がS0モードであると判定した場合、又はステップS66においてS3モードからS0モードへ移行した場合、CPU24は、OSの制御の下、PC10をS0モードからS4モードへ移行させ(ステップS68)、本処理を終了する。これにより、PC10の状態は、稼働状態から休止状態へ移行する。S0モードからS4モードへ移行する際、メインメモリ20のデータがHDD21に保存される。この結果、次にPC10の電源ボタン14が押され、電源がオンされたとき、PC10は、データをHDD21から取り込むことができる。
【0060】
以上に説明したように、本実施形態にかかるバッテリの放電制御では、シリアル放電時に、増設バッテリ18の残量がS3モードからS4モードへの移行可能残量になったとき、内蔵バッテリ17の放電に切り替える。内蔵バッテリ17の放電中において内蔵バッテリ17と増設バッテリ18の残量の平均値がDCL以下になったとき、PC10がS0モード又はS3モードであれば、S4モードに自動的に移行させる。
【0061】
以上、本実施形態にかかる電源マイコン25によれば、PC10にバッテリが2つ以上ある場合に上記の放電制御を行うことで、S3モードからS4モードへの移行に失敗することによるデータの破損を回避することができる。
【0062】
PCにバッテリが2つあり、残量に関係なく内蔵バッテリから優先的に充電する制御方法がある。この制御方法では、内蔵バッテリが充電停止残量まで充電されたとき、増設バッテリの充電に切り替えらえる。
【0063】
また、PCにバッテリが2つあり、シリアル放電が行われている場合、先に放電している増設バッテリが残量0%になるまで放電してから内蔵バッテリの放電に切り替える制御方法がある。
【0064】
これに対して、本実施形態によれば、PC10にバッテリが2つある場合であって、S3モードからS4モードへの移行可能残量以下のバッテリがあるときには、S3モードからS4モードへの移行可能残量以下のバッテリから優先的に充電制御が行われる。両方のバッテリの残量がS3モードからS4モードへの移行可能残量以下の場合、内蔵バッテリから優先的に充電制御が行われる。
【0065】
また、本実施形態によれば、PC10にバッテリが2つある場合であって、シリアル放電している場合、増設バッテリの残量がS3モードからS4モードへの移行可能残量を下回る前に内蔵バッテリの放電に切り替えられる。両方のバッテリの残量がS3モードからS4モードへの移行可能残量以上の場合、増設バッテリから放電制御が行われる。
【0066】
以上の充放電制御により、2つのバッテリを搭載するPC10において、一方のバッテリの残量がS3モードからS4モードへの移行可能残量を下回るケースが起こりにくくなり、S3モードからS4モードへの自動移行の失敗を未然に防ぐことができる。これにより、S3モードからS4モードへの移行に失敗することによるデータの破損を回避することができる。
【0067】
以上、電源制御装置、電源制御プログラム及び電源制御方法を上記実施形態により説明したが、本発明にかかる電源制御装置、電源制御プログラム及び電源制御方法は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々の変形及び改良が可能である。また、上記実施形態及び変形例が複数存在する場合、矛盾しない範囲で組み合わせることができる。
【0068】
また、上記実施形態にかかるPC10の構成は情報処理装置の一例であり、本発明の範囲を限定するものではなく、用途や目的に応じて様々な構成例があることは言うまでもない。情報処理装置に搭載されるバッテリの個数は、2つに限られず、3つ以上でもよい。情報処理装置に搭載されるバッテリは、内蔵バッテリ及び増設バッテリの場合、2つ以上の内蔵バッテリの場合、2つ以上の増設バッテリの場合であってもよい。
【0069】
以上の説明に関し、更に以下の項を開示する。
(付記1)
複数のバッテリを有する情報処理装置の電源制御を行う電源制御装置であって、
前記複数のバッテリの残量を判定する判定部と、
前記複数のバッテリのうち残量がS3モードからS4モードへの移行可能残量以下のバッテリを優先して充電させる制御部と、
を有する電源制御装置。
(付記2)
複数のバッテリを有する情報処理装置の電源制御を行う電源制御装置であって、
前記複数のバッテリの残量を判定する判定部と、
前記複数のバッテリのうち残量がS3モードからS4モードへの移行可能残量以上のバッテリを優先して放電させる制御部と、
を有する電源制御装置。
(付記3)
前記複数のバッテリは、前記情報処理装置の内蔵バッテリ及び増設バッテリである、
付記1又は2に記載の電源制御装置。
(付記4)
前記制御部は、
前記複数のバッテリのそれぞれの残量がS3モードからS4モードへの移行可能残量以下の場合、前記内蔵バッテリを優先して充電させる、
付記3に記載の電源制御装置。
(付記5)
前記制御部は、
前記増設バッテリを優先して放電させる、
付記3に記載の電源制御装置。
(付記6)
複数のバッテリを有する情報処理装置の電源制御を行う処理をコンピュータに実行させるための電源制御プログラムであって、
前記複数のバッテリの残量を判定し、
前記複数のバッテリのうち残量がS3モードからS4モードへの移行可能残量以下のバッテリを優先して充電させる、
電源制御プログラム。
(付記7)
複数のバッテリを有する情報処理装置の電源制御を行う処理をコンピュータに実行させる電源制御プログラムであって、
前記複数のバッテリの残量を判定し、
前記複数のバッテリのうち残量がS3モードからS4モードへの移行可能残量以上のバッテリを優先して放電させる、
電源制御プログラム。
(付記8)
前記複数のバッテリは、前記情報処理装置の内蔵バッテリ及び増設バッテリである、
付記6又は7に記載の電源制御プログラム。
(付記9)
前記複数のバッテリのそれぞれの残量がS3モードからS4モードへの移行可能残量以下の場合、前記内蔵バッテリを優先して充電させる、
付記8に記載の電源制御プログラム。
(付記10)
前記増設バッテリを優先して放電させる、
付記8に記載の電源制御プログラム。
(付記11)
複数のバッテリを有する情報処理装置の電源制御を行う処理をコンピュータが実行する電源制御方法であって、
前記複数のバッテリの残量を判定し、
前記複数のバッテリのうち残量がS3モードからS4モードへの移行可能残量以下のバッテリを優先して充電させる、
電源制御方法。
(付記12)
複数のバッテリを有する情報処理装置の電源制御を行う処理をコンピュータが実行する電源制御方法であって、
前記複数のバッテリの残量を判定し、
前記複数のバッテリのうち残量がS3モードからS4モードへの移行可能残量以上のバッテリを優先して放電させる、
電源制御方法。
(付記13)
前記複数のバッテリは、前記情報処理装置の内蔵バッテリ及び増設バッテリである、
付記11又は12に記載の電源制御方法。
(付記14)
前記複数のバッテリのそれぞれの残量がS3モードからS4モードへの移行可能残量以下の場合、前記内蔵バッテリを優先して充電させる、
付記13に記載の電源制御方法。
(付記15)
前記増設バッテリを優先して放電させる、
付記13に記載の電源制御方法。
【符号の説明】
【0070】
10:PC
10a:筐体
11:ディスプレイ
12:キーボード
13:タッチパッド
14:電源ボタン
15:装填口
17:内蔵バッテリ
18:増設バッテリ
20:メインメモリ
21:HDD
23:ACアダプタ
24:CPU
25:電源マイコン
25a:BAVPL
25b:GPIO
25c:ICコントローラ
25d:PMU
26:充電器
151:判定部
152:制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8