(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
化学プラント、下水処理場等の環境で使用される電子機器では、雰囲気中に含まれる腐食性ガスや塵埃等により、プリント基板に形成された配線パターンの腐食による配線抵抗の増加や断線、あるいは配線間の絶縁低下等の不具合が生じることがある。
【0003】
そこで、このような電子機器では、プリント基板上に模擬パターンを形成し、その模擬パターンの一端に基準電圧を印加し、当該模擬パターンの他端の電圧を検出することにより、パターン腐食による配線抵抗の増加や断線あるいは絶縁低下を検出するようにした検出装置を備えたものがある。
【0004】
特許文献1には劣化検出用パターンから出力される検出電圧をA/D変換器でデジタル値に変換し、そのデジタル値に基づいて劣化検出用パターンの異常を検出するようにした検出装置が開示されている。
【0005】
特許文献2には、他の配線より狭い幅のパターンや絶縁距離の狭いパターンにより、パターンの腐食による断線やマイグレーション等による短絡等を検出可能としたプリント基板を備えた制御盤が開示されている。
【0006】
特許文献3には、異なる種類の金属と各金属毎に異なる抵抗値を備えた抵抗素子とをそれぞれ直列に接続し、これらを並列に接続して、その並列回路の両端子間の抵抗値を検出することにより、各金属の腐食速度を検知する腐食検知装置が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示された検出装置及び特許文献2に開示された制御盤では、異なる複数の条件での異常を検出するためには、各条件毎に検出パターン及び判定回路を必要とするため、検出装置あるいは制御盤の構成が複雑化する。また、パターンの異常を正確に検出するためには、検出回路あるいは判定回路の精度を向上させる必要があり、コストが上昇する原因となっている。
【0009】
特許文献3に開示された腐食検知装置では、複数の腐食監視対象が並列に接続されているため、腐食監視対象のいずれかが断線せずに高抵抗状態となった場合、いずれの腐食監視対象で腐食が進んでいるかが判別できない場合がある。
【0010】
この発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は異なる条件の複数の監視対象の異常を容易に検知し得る異常検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する異常検出装置は、共通電極と、前記共通電極に対し、複数の異なる条件で導通の異常が発生するようにした検出部と、前記各検出部間にそれぞれ接続される抵抗と、前記共通電極に定電圧を供給するとともに、前記共通電極と前記検出部のいずれか一つとの間の抵抗値を測定する抵抗値測定回路とを備えることを特徴とする。
【0012】
この構成により、検出部に導通の異常が発生すると、抵抗値測定回路で抵抗値の変化が検出される。
また、上記の異常検出装置において、前記検出部は、前記共通電極との間隔がそれぞれ異なる複数の検出電極を備え、前記抵抗値測定回路は、前記共通電極との間隔が最も広い電極と前記共通電極との間の抵抗値を測定することが好ましい。
【0013】
この構成により、各検出電極と共通電極との間に短絡が発生すると、抵抗値測定回路で抵抗値の変化が検出される。
また、上記の異常検出装置において、前記検出部は、基端部が前記共通電極に接続され、耐腐食性に対する条件がそれぞれ異なる複数の検出パターンを備え、前記抵抗を前記検出パターンの先端部間にそれぞれ接続し、前記抵抗値測定回路は、耐腐食性が最も低い前記検出パターンの先端部と前記共通電極との間の抵抗値を測定することが好ましい。
【0014】
この構成により、各検出パターンに腐食による断線が発生すると、抵抗値測定回路で抵抗値の変化が検出される。
また、上記の異常検出装置において、前記検出部は、一端が前記共通電極にそれぞれ接続されるとともに、溶断温度が異なる複数の温度ヒューズを備え、前記抵抗を前記温度ヒューズの他端部間にそれぞれ接続し、前記抵抗値測定回路は、もっとも溶断温度の低い前記温度ヒューズの他端部と前記共通電極との間の抵抗値を測定することにより、測定点の到達温度を検知できる。
【0015】
この構成により、各温度ヒューズが溶断されると、抵抗値検出回路で抵抗値の変化が検出される。
また、上記の異常検出装置において、前記抵抗値測定回路の定電圧供給端子と抵抗値検出端子との間に、前記抵抗を接続した検出部を直列に複数段接続することが好ましい。
【0016】
この構成により、多数の検出部により抵抗値測定回路で抵抗値の変化を多段階に検出可能となる。
また、上記の課題を解決する故障防止装置は、異常検出装置の抵抗値測定回路の測定値に基づいて異常を判定する判定部と、前記判定部の判定結果に基づいて異常原因を抑制する異常抑制装置とを備えたことを特徴とする。
【0017】
この構成により、異常が判定されると、異常抑制装置により異常原因が抑制される。
【発明の効果】
【0018】
本発明の異常検出装置によれば、異なる条件の複数の監視対象の異常を容易に検知することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第一の実施形態)
図1は、雰囲気中に例えば硫化水素等の腐食ガスを含む環境に設置され、腐食ガスによるマイグレーションの発生を検知することにより、当該環境中に設置される他の電子機器の配線パターンの異常による故障を未然に防止するための故障防止装置の一例を示す。
【0021】
故障防止装置に備えられた配線異常検出回路1は、共通電極2に対し検出電極3a,3b,3cが対向して配設されている。検出電極3a,3b,3cと共通電極2との間隔は、それぞれ異なる間隔に設定されている。
【0022】
そして、検出電極3aと共通電極2の間隔がもっとも狭く、検出電極3cと共通電極2の間隔が最も広く設定されている。検出電極3bと共通電極2の間隔は検出電極3aと検出電極3cの中間である。
【0023】
また、検出電極3aの共通電極との対向面には、断面三角形状の複数の凹凸4が連続して形成されている。
検出電極3aと検出電極3bは抵抗R1を介して接続され、検出電極3bと検出電極3cは抵抗R2を介して接続されている。抵抗R1,R2の抵抗値は、この実施形態では抵抗R1の抵抗値は抵抗R2の抵抗値の3倍〜10倍程度に設定されるとともに、抵抗R1,R2の抵抗値は1〜100kΩの範囲で設定することが望ましい。
【0024】
共通電極2には、抵抗値測定回路5から定電圧が印加され、検出電極3cが抵抗値測定回路5に接続されている。そして、抵抗値測定回路5では、共通電極2に印加される定電圧と、検出電極3cから抵抗値測定回路5に流れる電流値に基づいて共通電極2と検出電極3cとの間の抵抗値が測定されるようになっている。
【0025】
このような構成により、例えば検出電極3aのみが共通電極と短絡状態となると、抵抗値測定回路5で検出される抵抗値はR1+R2となる。また、検出電極3bが短絡状態となると、抵抗値測定回路5で検出される抵抗値はR2となる。また、検出電極3cが短絡状態となると、抵抗値測定回路5で検出される抵抗値はほぼ0となる。検出電極3a〜3cがすべて不導通状態であれば、抵抗値測定回路5で検出される抵抗値は無限大である。
【0026】
従って、配線異常検出回路1ではいずれの検出電極が短絡状態であるか否かに基づいて、抵抗値測定回路5で異なる抵抗値を検出可能となっている。
抵抗値測定回路5で測定された抵抗値は、抵抗値判定回路6に出力される。抵抗値判定回路6では、入力された抵抗値に基づいてマイグレーションの進行状況を判定し、その判定信号をファン制御回路7に出力する。
【0027】
ファン制御回路7は、判定信号に基づいてファン8の送風量を制御する。そして、ファン8の動作に基づいて電子機器の設置環境の周囲の雰囲気が腐食ガス除去装置9に通風されて、腐食ガスが除去される。腐食ガス除去装置9には、腐食ガス吸着材としてヨウ素添着炭等が収容されている。
【0028】
次に、上記のように構成された故障防止装置の作用を説明する。
故障防止装置の設置環境が良好である場合には、共通電極2に定電圧が印加されている状態で、共通電極2と検出電極3a〜3cとの間の絶縁が確保される。すると、共通電極2と検出電極3cとの間の抵抗値はほぼ無限大となるので、抵抗値判定回路6では入力された抵抗値に基づいてマイグレーションが進行していないことを判定する。この結果、ファン8を作動させないか、あるいは通風量が低く設定される。
【0029】
故障防止装置の設置環境において、雰囲気中に腐食ガス、塩分あるいは湿度等が増大して、電子機器の配線パターンにマイグレーションが発生しやすい状況では、共通電極2との間隔が狭い電極ほど、マイグレーションが進行しやすい。従って、まず検出電極3aの凹凸4部分にマイグレーションが発生して、共通電極2との絶縁が低下し、あるいは短絡状態となる。
【0030】
この状態では、抵抗値測定回路5で測定される共通電極2と検出電極3cとの間の抵抗値がR1+R2まで低下する。すると、抵抗値判定回路6では、隣接する電子機器の配線パターンで腐食ガス等によるマイグレーションが発生しやすい状況であることを判定する。
【0031】
また、共通電極2と検出電極3bとの間の絶縁が低下し、あるいは短絡状態となると、共通電極2と検出電極3cとの間の抵抗値がほぼR2まで低下する。すると、抵抗値判定回路6では、隣接する電子機器の配線パターンでマイグレーションがさらに発生しやすい状況であることを判定する。
【0032】
また、共通電極2と検出電極3cとの間の絶縁が低下し、あるいは短絡状態となると、共通電極2と検出電極3cとの間の抵抗値がほぼ0となる。すると、抵抗値判定回路6では、隣接する電子機器の配線パターンでマイグレーションがさらに発生しやすい状況であることを判定する。
【0033】
このような判定結果により、ファン8を作動又は通風量を増大させて雰囲気中からの腐食ガス等の除去が進められるとともに、必要に応じて電子機器のプリント基板の交換が行われる。
【0034】
共通電極2への電圧印加は、常時、間欠のどちらでもよいが、マイグレーションの進展を促進するためには、常時印加することが望ましい。
検出電極3cまで短絡状態となったときには、共通電極2への定電圧の供給を停止すると、無用な電力消費を抑制することが可能となる。
【0035】
また、例えば1日に1回等、一定時間間隔で共通電極2と検出電極3cとの間の抵抗値を測定するようにすれば、条件の異なる検出電極3a〜3cで短絡に至るまでのおおよその時間を検出することができる。
【0036】
そして、各電極の短絡が検出された時点で、注意喚起信号や警告信号を順次出力するようにしてもよい。
上記のような故障防止装置では、次に示す効果を得ることができる。
(1)共通電極2と検出電極3cとの間の抵抗値の変化を検出することにより、検出電極3a〜3cでのマイグレーションによる絶縁低下あるいは短絡を検出することができる。従って、隣接して配設される電子機器のプリント基板のダメージを推定することができる。
(2)一つの配線異常検出回路1と抵抗値測定回路5で、共通電極2と検出電極3a〜3cとの間の3段階の抵抗値の変化を測定することにより、3種類の線幅の配線パターンの間隙でのマイグレーションによる短絡の発生可能性を判定することができる。従って、異なる複数の条件での異常の発生可能性を簡便な構成で判定することができる。
(3)抵抗R1,R2の抵抗値の設定により、共通電極2と各検出電極3a〜3cが高抵抗で接続される状態となっても、抵抗値の変化に基づいて当該状態を容易に判定することができる。
(第二の実施形態)
図2は、配線異常検出回路の別の実施形態を示す。第一の実施形態と同一構成部分は、同一符号を付して説明する。この実施形態の配線異常検出回路10は、腐食ガス等による配線パターンの断線を検出する異常検出部として好適である。
【0037】
共通電極11から平行に延設される4本の検出パターン12a〜12dはそれぞれ異なる線幅で形成され、検出パターン12aから検出パターン12dに向かって順次幅広となるように形成されている。そして、各検出パターン12a〜12dの基端が共通電極11に接続されている。
【0038】
検出パターン12aの先端と検出パターン12bの先端は、抵抗R3を介して接続され、検出パターン12bの先端と検出パターン12cの先端は、抵抗R4を介して接続され、検出パターン12cの先端と検出パターン12dの先端は、抵抗R5を介して接続されている。抵抗R3〜R5の抵抗値は、この実施形態では同一抵抗値とする。
【0039】
共通電極11には、抵抗値測定回路5から定電圧が供給され、検出パターン12aの端子が抵抗値測定回路5に接続される。
なお、共通電極11は樹脂コーティングあるいはめっき等により腐食ガスによる腐食が生じない構成とすることが好ましい。
【0040】
このように構成された配線異常検出回路10では、検出パターン12a〜12dに腐食による断線が生じていないと、共通電極11と配線パターン12aとの間の抵抗値はほぼ0となる。
【0041】
腐食ガスにより、配線パターン12a〜12dの腐食が進むと、まず配線パターン12aが断線する。すると、抵抗値測定回路5で測定される共通電極11と配線パターン12aの先端との間の抵抗値は、抵抗R3の抵抗値となる。
【0042】
次いで、配線パターン12bが断線すると、共通電極11と配線パターン12aの先端との間の抵抗値は、抵抗R3と抵抗R4の抵抗値の和となる。
次いで、配線パターン12cが断線すると、共通電極11と配線パターン12aの先端との間の抵抗値は、抵抗R3と抵抗R4と抵抗R5の抵抗値の和となる。
【0043】
次いで、配線パターン12dが断線すると、共通電極11と配線パターン12aの先端との間の抵抗値は、ほぼ無限大となる。
また、例えば1日に1回等、一定時間間隔で共通電極11に定電圧を印加して、共通電極11と検出パターン12aとの間の抵抗値を測定するようにすれば、条件の異なる検出パターン12a〜12dの異常の有無を判定可能である。
【0044】
このような配線異常検出回路10を第一の実施形態と同様な故障防止装置に使用すると、次に示す効果を得ることができる。
(1)共通電極11と検出パターン12aとの間の抵抗値の変化を検出することにより、異なる複数の条件の検出パターン12a〜12dでの腐食による断線を検出することができる。
(2)一つの配線異常検出回路10と抵抗値測定回路5で、共通電極11と検出パターン12a〜12dの先端との間の4段階の抵抗値の変化を測定することにより、配線異常検出回路10に隣接して配設される電子機器での対応する4種類の異なる条件の配線パターンの腐食による断線の可能性をそれぞれ判定することができる。従って、異なる複数の条件での配線パターンの断線の可能性を簡便な構成で判定することができる。
(第三の実施形態)
図3は、配線異常検出回路の別の実施形態を示す。この実施形態は、第二の実施形態の配線異常検出回路10に類似する配線異常検出回路13a〜13cを直列に3段接続したものである。
【0045】
異常検出部13a〜13cは、回路上は第二の実施形態の配線異常検出回路10と同様であり、各異常検出部13a〜13cの検出パターンの条件が異なる。そして、異常検出部13aから同13cに向かって条件が厳しく、腐食により断線しやすい検出パターンを形成するようにする。
【0046】
このような構成により、第二の実施形態に比して、さらに多数の異なる条件や場所での断線の可能性を判定することが可能となる。
(第四の実施形態)
図4は、異常検出部の別の実施形態を示す。この実施形態の異常検出回路14は、電子機器の設置位置の温度の異常な上昇を検知するものであり、第二の実施形態の配線異常検出回路10の検出パターン12a〜12dを温度ヒューズ15a〜15dに置き換えたものである。
【0047】
温度ヒューズ15a〜15dの溶断温度は、温度ヒューズ15aから同15dに向かって順次高くなるように設定し、例えば温度ヒューズ15aの溶断温度を80℃、温度ヒューズ15bの溶断温度を100℃、温度ヒューズ15cの溶断温度を120℃、温度ヒューズ15dの溶断温度を140℃とする。
【0048】
このような構成により、周囲温度の上昇により、温度ヒューズ15a〜15dがこの順番で順次溶断されると、抵抗値測定回路5で検出される抵抗値が順次増大する。そして、温度ヒューズ15a〜15dがすべて溶断されると、抵抗値測定回路5で検出される抵抗値は無限大となる。
【0049】
このような動作により、温度の上昇を段階的に検出することができる。
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・第一の実施形態において、第一〜第三の検出電極の共通電極との対向面の全てに凹凸を設けてもよい。
・第一の実施形態において、第一〜第三の検出電極の共通電極との対向面に複数の穿孔部を設けてもよい。
・第二の実施形態において、線幅の異なる検出パターンに代えて、パターンの厚さを変えて条件の異なる検出パターンを形成してもよい。
・第二の実施形態において、銅あるいは銀等、検出パターンの材質を変えて条件の異なる検出パターンを形成してもよい。
・第一の実施形態の配線異常検出回路1と、第二の実施形態の配線異常検出回路を並行して動作させて、マイグレーションによる配線異常と、腐食による配線異常を並行して検出するようにしてもよい。