特許第6565377号(P6565377)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6565377
(24)【登録日】2019年8月9日
(45)【発行日】2019年8月28日
(54)【発明の名称】誘電体組成物および電子部品
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/12 20060101AFI20190819BHJP
   C04B 35/04 20060101ALI20190819BHJP
   C23C 14/08 20060101ALI20190819BHJP
   C01G 35/00 20060101ALI20190819BHJP
   H01G 4/33 20060101ALI20190819BHJP
【FI】
   H01G4/12 090
   C04B35/04
   C23C14/08 K
   C01G35/00 C
   H01G4/33 102
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-129687(P2015-129687)
(22)【出願日】2015年6月29日
(65)【公開番号】特開2017-17090(P2017-17090A)
(43)【公開日】2017年1月19日
【審査請求日】2018年1月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(72)【発明者】
【氏名】政岡 雷太郎
(72)【発明者】
【氏名】内山 弘基
(72)【発明者】
【氏名】藤井 祥平
(72)【発明者】
【氏名】城川 眞生子
【審査官】 上谷 奈那
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−083386(JP,A)
【文献】 特開2000−327412(JP,A)
【文献】 特開平05−266711(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/12
C01G 35/00
C04B 35/04
C23C 14/08
H01G 4/33
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式 xAO−yBO−zC
(Aは、Ba、Ca、Srの少なくとも一種以上から選択される元素、BはMg、Cは、Nb、Taの少なくとも一種以上から選択される元素。)
で表され、x、y、zの関係が
x+y+z=1.000
0.000<x≦0.281
0.625≦y<1.000
0.000<z≦0.375
である複合酸化物を主成分として含む誘電体組成物が成膜されてなる誘電体膜
【請求項2】
前記一般式において、x、y、zの関係が
x+y+z=1.000
0.000<x≦0.281
0.625≦y<1.000
0.000<z≦0.125
であることを特徴とする請求項1に記載の誘電体
【請求項3】
請求項1または請求項2のいずれかに記載の誘電体を有する電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体組成物および電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォンやタブレットに代表される移動体通信機器の更なる高速大容量通信化に対応するために複数の周波数帯域を同時に用いるMIMO技術(Multi−Input Multi−Output)の実用化が始まっている。通信に使用する周波数帯域が増えると、周波数帯域毎にそれぞれ高周波部品が必要となるが、機器サイズを維持したまま部品点数を増やすには、各部品の更なる小型化、高機能化が求められる。
【0003】
このような高周波対応の電子部品として、例えばダイプレクサやバンドパスフィルタ等がある。これらはいずれもキャパシタを担う誘電体とインダクタを担う磁性体の組み合わせによって構成されているが、良好な高周波特性を得るためには、高周波領域でのそれぞれの損失を抑制することが求められる。
【0004】
誘電体に注目すると、(1)小型化の要求への対応として、キャパシタ部の面積を小さくするために、比誘電率(εr)が高いこと、(2)周波数の選択性を良好にするために、誘電損失が低い、すなわちQ値が高いこと、(3)耐電圧が高いなどが要求される。
【0005】
例えば、GHz帯で誘電損失が低い代表的な材料として、アモルファスSiNx膜が挙げられる。しかし、比誘電率(εr)が6.5と低いことから、目的の機能をもたせるためには大きな面積が必要となり、小型化の要求に応えることが困難であった。
【0006】
特許文献1には、誘電損失が低い、すなわちQ値が高い材料であるBa(Mg1/3Ta2/3)Oについての技術が開示されている。これらは1500℃以上の熱処理を経て得られた緻密な焼結体として、10GHzで比誘電率(εr)=24.7、Q=51000を得ている。
【0007】
また、非特許文献1では、Ba(Mg1/3Ta2/3)OをPLD法(パルスレーザー蒸着法)によって成膜し、600℃の熱処理により結晶化し、2.66GHzで比誘電率(εr)=33.3、tanδ=0.0158(Q値に換算するとQ=63.3)を得ている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Jpn. J. Appl. Phys. vol. 42 (2003) pp. 7428−7431『Properties of Ba(Mg1/3Ta2/3)O3 Thin Films Prepared by Pulsed−Laser Deposition』
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平8−319162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1の技術は焼結体であり、誘電特性を得るためには十分な体積が必要となるため、高周波対応の電子部品に用いるにはサイズが大き過ぎ、一方、小型化を図るため特許文献1のBa(Mg1/3Ta2/3)Oを薄膜化すると、従来焼結体で得られていたような高いQ値を得ることが困難であることが分かった。また、非特許文献1の技術は、薄膜として比誘電率(εr)=33.3、Q値換算で63.3が得られているものの、高周波対応の電子部品に用いるには、より高いQ値が求められる。
【0011】
また、特許文献1および、非特許文献1は、耐電圧に関する言及はない。
【0012】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、小型化した場合でも、比誘電率が高く、誘電損失が低い、すなわちQ値が高く、更に耐電圧が高い誘電体組成物及びその誘電体組成物を用いた電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明にかかる誘電体組成物は、
一般式 xAO−yBO−zC
(Aは、Ba、Ca、Srの少なくとも一種以上から選択される元素、BはMg、Cは、Nb、Taの少なくとも一種以上から選択される元素。)
で表され、x、y、zの関係が
x+y+z=1.000
0.000<x≦0.281
0.625≦y<1.000
0.000<z≦0.375
である複合酸化物を主成分として含むことを特徴とする。
【0014】
前記x、y、zの範囲にすることで、比誘電率が高くQ値が高く、更に耐電圧が高い誘電体組成物が得られる。
【0015】
また、上記本発明に係る誘電体組成物を使用することにより、従来高周波対応の電子部品に用いられて来た誘電体組成物と比較して、小型化した場合でも十分に高い比誘電率を得られ、Q値が高く、すなわち、高いS/N比を示し、更に耐電圧が高い誘電体共振器や誘電体フィルタ等の電子部品を提供することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、小型化した場合でも、比誘電率が高く、誘電損失が低い、すなわちQ値が高く、更に耐電圧が高い誘電体組成物及びその誘電体組成物を用いた電子部品を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る薄膜コンデンサの断面図である
図2図2は、基板を200℃に加熱して成膜した、本発明の一実施形態に係る誘電体組成物(実施例1)の表面をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態について、場合により図面を参照して説明する。
【0019】
<薄膜コンデンサ10>
図1は、本発明の一実施形態に係る誘電体組成物を用いた電子部品の一例としての、薄膜コンデンサ10の断面図である。薄膜コンデンサ10は、支持基板1の表面に積層された下部電極3と、上部電極4、及び下部電極3と上部電極4の間に設けられた誘電体膜5とを備えている。支持基板1と下部電極3の間に、支持基板1と下部電極3の密着性を向上させるために下地層2を備える。支持基板1は、薄膜コンデンサ10全体の機械的強度を確保する機能を有する。
【0020】
薄膜コンデンサの形状に特に制限はないが、通常、直方体形状とされる。またその寸法にも特に制限はなく、厚みや長さは用途に応じて適当な寸法とすればよい。
【0021】
<支持基板1>
図1に示す支持基板1を形成するための材料はとくに限定されるものではなく、単結晶としてはSi単結晶、SiGe単結晶、GaAs単結晶、InP単結晶、SrTiO単結晶、MgO単結晶、LaAlO単結晶、ZrO単結晶、MgAl単結晶、NdGaO単結晶や、セラミック多結晶基板としてはAl多結晶、ZnO多結晶、SiO多結晶や、Ni、Cu、Ti、W、Mo、Al、Ptなどの金属や、それらの合金の基板などによって支持基板1を形成することができるが特に限定されるものではない。これらの中では、低コスト、加工性から、Si単結晶を基板として使用されることが一般的である。支持基板1は、基板の材質によってその抵抗率が異なる。抵抗率が低い材料を基板として使用する場合、そのまま使用すると基板側への電流のリークが薄膜コンデンサ10の電気特性に影響を及ぼすことがある。そのため、支持基板1の表面に絶縁処理を施し、使用時の電流が支持基板1へ流れないようにする場合もある。例えば、Si単結晶を支持基板1として使用する場合においては、支持基板1表面を酸化させてSiO絶縁層の形成を行うことや、支持基板1表面にAl、SiO、Siなどの絶縁物を形成してもよく、支持基板1への絶縁が保てればその絶縁層の材料や膜厚は限定されないが、0.01μm以上が好ましい。0.01μm未満では絶縁性が保てないため、絶縁層の厚みとして好ましくない。支持基板1の厚さは、薄膜コンデンサ全体の機械的強度を確保することができれば、とくに限定されるものではないが、たとえば、10μm〜5000μmに設定される。10μm未満の場合は機械的強度が確保できなく、5000μmを超えると電子部品の小型化に寄与できないといった問題が生じる場合がある。
【0022】
<下地層2>
本実施形態において、図1に示す薄膜コンデンサ10は、好ましくは、絶縁処理を施した支持基板1表面に、下地層2を有している。下地層2は、支持基板1と下部電極3の密着性向上を目的として挿入される。一例として、下部電極3にCuを使用する場合には下地層2はCrを、下部電極3にPtを使用する場合にはTiを下地層2として挿入することが一般的である。
【0023】
密着性向上を目的としていることから、前記材料に限定されるものではなく、また支持基板1と下地層2の密着性を保つことが出来れば、下地層2は省略しても良い。
【0024】
<下部電極3>
下部電極3を形成するための材料は、導電性を有していれば良く、例えば、Pt、Ru、Rh、Pd、Ir、Au、Ag、Cu、Niなどの金属や、それらの合金、又は導電性酸化物などによって形成することができる。そのため、コストや誘電体層4を熱処理するときの雰囲気に対応した材料を選択すればよい。誘電体層4は大気中の他、不活性ガスであるNやAr、またO、不活性ガスと還元性ガスであるHの混合ガスで熱処理を行うことが出来る。下部電極3の膜厚は電極として機能すれば良く、0.01μm以上が好ましい。0.01μm未満の場合、導電性が悪くなることから好ましくない。また、支持基板1に電極として使用可能なCuやNi、Pt等や酸化物導電性材料などを使用した基板を使用する場合は、前述した下地層2と下部電極3は省略することができる。
【0025】
下部電極3の形成後に熱処理を行い、下地層2と下部電極3の密着性向上と、下部電極3の安定性向上を図ってもよい。熱処理を行う場合、昇温速度は好ましくは10℃/分〜2000℃/分、より好ましくは100℃/分〜1000℃/分である。熱処理時の保持温度は、好ましくは400℃〜800℃、その保持時間は、好ましくは0.1時間で〜4.0時間である。上記の範囲を超えると、密着不良の発生、下部電極3の表面に凹凸が発生することで、誘電体膜5の誘電特性の低下が生じやすくなる。
【0026】
<誘電体膜5>
誘電体膜5を構成する誘電体組成物は、一般式 xAO−yBO−zC
(Aは、Ba、Ca、Srの少なくとも一種以上から選択される元素、Bは、Mg、Cは、Nb、Taの少なくとも一種以上から選択される元素。)
で表される複合酸化物を主成分として含む。
【0027】
また、誘電体組成物の主成分をxAO−yBO−zCと表したときに、x、y、zの関係がx+y+z=1.000、0.000<x≦0.281、0.625≦y<1.000、0.000<z≦0.375である。
【0028】
本発明者らは、高いQ値を維持したまま、単純なMgOと比べて比誘電率も高くなる効果が得られる要因を次のように考えている。一般的に、結晶の対称性が良好なMgOは高いQ値を持つことが知られているが、その対称性ゆえに十分な誘電分極が得られず、高い比誘電率を得ることはできなかった。前記AおよびCで表わされる元素を添加することで、MgOの一部がペロブスカイト型のA2+(B’2+1/3B’’5+2/3)Oとなるため、高いQ値を維持したまま、単純なMgOと比べて比誘電率も高くなるものと考えている。
【0029】
またOの2p軌道とMgの3s軌道の最外殻原子軌道のエネルギー準位の差が大きいため、MgOを多く含有させることで電子の励起が起り難く、代表的な破壊モードである電子なだれが起り難くなる効果が高められ、耐電圧が高くなるものと考えている。
【0030】
xが0.281を超えると、過剰なBaOが大気中のHOやCOと反応しBa(OH)やBaCOを生じ、十分なQ値を得られない。yが0.625に満たないと十分なQ値を得られない。zが0.375を超えると、過剰なTaが酸素欠損を起こしやすく、半導体化し、誘電損失が大きくなる、すなわちQ値が低くなってしまう傾向にある。x、y、zの範囲を、x+y+z=1.000、0.000<x≦0.281、0.625≦y<1.000、0.000<z≦0.375とすることで、高い比誘電率と高いQ値、高い耐電圧を両立することが可能となる。
【0031】
更に、前記一般式において、x、y、zの関係がx+y+z=1.000、0.000<x≦0.281、0.625≦y<1.000、0.000<z≦0.125であることが好ましい。
【0032】
前記x、y、zの範囲にすることで、MgOの一部がペロブスカイト型のA2+(B’2+1/3B’’5+2/3)Oとなり、バンドギャップエネルギーの大きいMgOを多く含むことで、高い耐電圧を維持したまま、より高いQ値が得られ易くなる効果がある。
【0033】
Aは、Ba、Ca、Srの少なくとも一種以上から選択される元素である。Ba,Ca,Srを一種で用いても、複数含有させて用いても同様な効果が得られる。また、BはMgであり、Cは、Nb、Taの少なくとも一種以上から選択される元素である。これらについても、一種で用いても複数含有させて用いても同様な効果が得られる。
【0034】
誘電体膜5の厚さは、好ましくは10nm〜2000nm、より好ましくは50nm〜1000nmである。10nm未満では絶縁破壊が生じやすく、2000nmを超える場合においては、コンデンサの静電容量を大きくするために電極面積を広くする必要があり、電子部品の設計によっては小型化が困難となる場合がある。誘電体膜厚の計測はFIB(集束イオンビーム)加工装置で掘削し、得られた断面をSIM(走査型イオン顕微鏡)等で観察して測長すれば良い。
【0035】
誘電体膜5は、好ましくは真空蒸着法、スパッタリング法、PLD(パルスレーザー蒸着法)、MO−CVD(有機金属化学気相成長法)、MOD(有機金属分解法)やゾル・ゲル法、CSD(化学溶液堆積法)などの各種薄膜形成法を用いて形成したものである。その際に使用する原料(蒸着材料、各種ターゲット材料や有機金属材料等)には微少な不純物や副成分が含まれている場合があるが、絶縁性を大きく低下させる不純物でなければ、特に問題はない。
【0036】
誘電体組成物はまた、本発明の効果である誘電特性、すなわち比誘電率やQ値、耐電圧を大きく劣化させるものでなければ、微少な不純物や副成分を含んでいてもかまわない。よって、残部である主成分の含有量は特に限定されるものではないが、たとえば前記主成分を含有する誘電体組成物全体に対して50mol%以上、100mol%以下である。
【0037】
また、誘電体膜5は通常、本発明の誘電体組成物のみで構成されるが、別の誘電体組成物の膜と組み合わせた積層構造であっても構わない。例えば、既存のSi、SiO、Al、ZrO、Ta等のアモルファス誘電体膜や結晶膜との積層構造とすることで、誘電体膜5のインピーダンスや比誘電率の温度変化を調整することが可能となる。
【0038】
<上部電極4>
本実施形態の一例において、薄膜コンデンサ10は、誘電体膜5の表面に、薄膜コンデンサ10の他方の電極として機能する上部電極4を備えている。上部電極4を形成するための材料は、導電性を有していれば、とくに限定されるものではなく、下部電極3と同様の材料によって、上部電極4を形成することができる。上部電極4の膜厚は電極として機能すれば良く、10nm以上が好ましい。膜厚が10nm以下の場合、導電性が悪化するため上部電極4として好ましくない。
【0039】
上述した実施形態では、本発明の一実施形態に係る誘電体組成物を用いた電子部品の一例としての、薄膜コンデンサを例示したが、本発明に係る誘電体組成物を用いた電子部品としては、薄膜コンデンサに限定されず、たとえば、ダイプレクサ、バンドパスフィルタ、バランやカプラ等、誘電体膜を有する電子部品であれば何でも良い。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0041】
<実施例1><比較例1>
まず、350μm厚のSiの表面に6μm厚のSiO絶縁膜を備えた10mm×10mm角の支持基板の表面上に、下地層であるTi薄膜を20nmの厚さとなるようにスパッタリング法で形成した。
【0042】
次いで、上記で形成したTi薄膜上に下部電極であるPt薄膜を100nmの厚さとなるようにスパッタリング法で形成した。
【0043】
形成したTi/Pt薄膜に対し、昇温速度を400℃/分、保持温度を700℃、温度保持時間を30分、雰囲気を酸素雰囲気とし常圧下で熱処理を行った。
【0044】
誘電体膜の形成にはPLD法を使用した。誘電体膜の形成に必要なターゲットは次のように作製した。
【0045】
まず、表1に示す試料No.1〜試料No.9、および試料No.11〜試料No.14のMg、Taの量となるようにMgO、Taの秤量を行い、1Lの広口ポリポットに秤量した原料粉末と水、及びφ2mmのZrOビーズを入れて20時間の湿式混合を行った。その後、混合粉末スラリーを100℃、20時間で乾燥させ、得られた混合粉末をAl坩堝に入れ、大気中1250℃で5時間保持する焼成条件で1次仮焼を行い、MgO−Ta仮焼粉末を得た。
【0046】
次に、表1に示す試料No.1〜試料No.14の比率となるように、得られたMgO−Ta仮焼粉末とBaCOとを秤量し、1Lの広口ポリポットに秤量した原料粉末と水、及びφ2mmのZrOビーズを入れて20時間の湿式混合を行った。その後、混合粉末スラリーを100℃、20時間で乾燥させ、得られた混合粉末をAl坩堝に入れ、大気中1050℃で5時間保持する焼成条件で2次仮焼を行い、BaO−MgO−Ta仮焼粉末を得た。
【0047】
Mgを含まないBaO−Ta系化合物は、目的とするBaO−MgO−Taの生成を阻害してしまうが、このように2段階の仮焼を行うことで、BaO−Ta系化合物が生成することを抑制することができる。
【0048】
得られた仮焼粉末を乳鉢に入れ、バインダとして濃度6wt%のPVA(ポリビニルアルコール)水溶液を、仮焼粉末に対して4wt%となるように添加し、乳棒を使用して造粒粉を作製した後、φ20mmの金型へ厚みが5mm程度となるように造粒粉を入れた。次に一軸加圧プレス機を使用し成形体を得た。成形条件は、圧力:2.0×10Pa、温度:室温とした。
【0049】
その後、得られた成形体について、昇温速度を100℃/時間、保持温度を400℃、温度保持時間を4時間として、雰囲気は常圧の大気中で脱バインダ処理を行った後に、昇温速度を200℃/時間、保持温度を1600℃〜1700℃、温度保持時間を12時間とし、雰囲気は常圧の大気中で焼成を行った。
【0050】
次いで、得られた焼結体の厚さが4mmとなるように、円筒研磨機で両面を研磨し、誘電体膜を形成するために必要なPLD用ターゲットを得た。
【0051】
こうして得られたPLD用ターゲットを用いて、下部電極上に400nmの厚さとなるようにPLD法で誘電体膜を形成した。PLD法による成膜条件は、酸素圧を1×10−1(Pa)とし、基板を200℃に加熱した。また、下部電極の一部を露出させるために、メタルマスクを使用して、誘電体膜が一部成膜されない領域を形成した。上記誘電体膜に対し、O雰囲気下600℃で1時間、アニール処理を施した。
【0052】
誘電体膜厚の計測はFIBで掘削し、得られた断面をSIMで観察して測長した。
【0053】
成膜後の誘電体膜は、すべての試料について、下記に示す方法により組成分析を行い、表1に記載の組成であることを確認した。
【0054】
<組成分析>
組成分析は、室温において波長分散型蛍光X線分析法(リガク社製ZSX−100e)を用いて行った。
【0055】
次いで、得られた上記誘電体膜上に、蒸着装置を使用して上部電極であるAg薄膜を形成した。上部電極の形状を、メタルマスクを使用して、直径100μm、厚さ100nmとなるように形成することで、図1に示す構造の試料No.1〜試料No.14を得た。
【0056】
得られたすべての薄膜コンデンサ試料について、比誘電率、Q値、耐電圧を、それぞれ下記に示す方法により行った。
【0057】
<比誘電率(εr),Q値>
比誘電率(εr)およびQ値は、薄膜コンデンサ試料に対し、基準温度25℃において、RFインピーダス/マテリアルアナライザ(Agilent社製4991A)にて、周波数2GHz,入力信号レベル(測定電圧)0.5Vrmsの条件下で測定された静電容量と膜厚測定の結果から算出した(単位なし)。比誘電率は高い方が好ましく、10以上を良好とした。また、Q値は高い方が好ましく、650以上を良好とした。
【0058】
<耐電圧(Vbd)>
耐電圧は、薄膜コンデンサ試料に対し、下部電極が露出している領域と上部電極にデジタル超高抵抗/微少電流計(ADVANTEST R8340)を接続し、5V/秒のステップで電圧を印加して計測し、初期抵抗値から2ケタ低下したときの電圧値を読み取り、その値を試料の破壊電圧値(V)とした。得られた破壊電圧値(V)を誘電体膜厚で除した数値を耐電圧(kV/μm)とし、表1に記載した。耐電圧は高い方が好ましく、0.5kV/μm以上を良好とした。
【0059】
【表1】
【0060】
試料No.1〜試料No.9
試料No.1〜試料No.9は、図2に示したものと同様に表面にクラック等の欠陥は見られなかった。表1より、BaO−MgO−Taを主成分とする誘電体組成物であって、前記誘電体組成物の主成分をxBaO−yMgO−zTaと表したときに、x、y、zの関係がx+y+z=1.000、0.000<x≦0.281、0.625≦y<1.000、0.000<z≦0.375である試料No.1〜試料No.9は、比誘電率が10以上、Q値が650以上、耐電圧が0.5kV/μm以上であることが確認できた。
【0061】
試料No.1、試料No.2、試料No.6、試料No.8、試料No.9
表1より、誘電体膜の主成分をxBaO−yMgO−zTaと表したときに、x、y、zの関係がx+y+z=1.000、0.000<x≦0.281、0.625≦y<1.000、0.000<z≦0.125である試料No.1、試料No.2、試料No.6、試料No.8、試料No.9は、比誘電率が10以上、Q値が850以上、耐電圧が0.5kV/μm以上であることが確認できた。このように、zの範囲を限定することで、比誘電率及び耐電圧を維持したまま、Q値を更に高めることが可能であることが確認できた。
【0062】
試料No.10〜試料No. 14
x>281であった試料No.10は、クラックのため誘電特性を評価できなかった。試料No.11〜試料No.14は、図2に示したものと同様に表面にクラック等の欠陥は見られなかった。y<0.625であった試料No.11〜試料No.14は、耐電圧が0.5kV/μm未満であることが確認できる。
【0063】
<実施例2>
Ba、Ca、Sr、Mg、Taの量を表2に示す値となるように、BaCO、CaCO、SrCO、MgO、Taの秤量を行い、1次仮焼ではMgO−Ta仮焼粉末を、2次仮焼ではそれぞれ、CaO−MgO−Ta(試料No.15)、SrO−MgO−Ta(試料No.16)、(Ba−Ca)O−MgO−Ta(試料No.17)、(Ca−Sr)O−MgO−Ta(試料No.18)、(Sr−Ba)O−MgO−Ta(試料No.19)、(Ba−Ca−Sr)O−MgO−Ta(試料No.20)の仮焼粉末を得た。組成以外は実施例1と同様にしてターゲットを作製し、それぞれ試料No.15〜試料No.20の薄膜コンデンサ試料を作製した。実施例1と同様の評価を行った結果を表2に示す。
【0064】
【表2】
【0065】
試料No.9、試料No.15〜試料No.20
試料No.15〜試料No.20は、図2に示したものと同様に表面にクラック等の欠陥は見られなかった。表2より、AO−MgO−Taを主成分とする誘電体組成物であって、Aが、Ba、Ca、Srの少なくとも一種以上含有した試料No.9、試料No.15〜試料No.20は、ほぼ同様な特性を示し、比誘電率が10以上、Q値が650以上、耐電圧が0.5kV/μm以上を有することが確認できる。
【0066】
<実施例3>
Ba、Mg、Ta、Nbの量を表4に示す値となるように、BaCO、MgO、Ta、Nbの秤量を行い、1次仮焼ではそれぞれ、MgO−Nb(試料No.21)、MgO−(Ta−Nb)(試料No.22)の仮焼粉末を、2次仮焼ではそれぞれ、BaO−MgO−Nb(試料No.21)、BaO−MgO−(Ta−Nb)(試料No.22)の仮焼粉末を得た。組成以外は実施例1と同様にしてターゲットを作製し、それぞれ試料No.21、試料No.22の薄膜コンデンサ試料を作製した。実施例1と同様の評価を行った結果を表3に示す。
【0067】
【表3】
【0068】
試料No.9、試料No.21、試料No.22
試料No.21、試料No.22は、図2に示したものと同様に表面にクラック等の欠陥は見られなかった。表3より、BaO−MgO−Cを主成分とする誘電体組成物であって、Cが、Nb、Taの少なくとも一種以上含有した試料No.9、試料No.21、試料No.22は、ほぼ同様な特性を示し、比誘電率が10以上、Q値が650以上、耐電圧が0.5kV/μm以上を有することが確認できる。
【0069】
<実施例4>
Ba、Ca、Sr,Mg、Ta、Nbの量を表4に示す値となるように、BaCO、CaCO、SrCO、MgO、Ta、Nbの秤量を行い、1次仮焼ではそれぞれ、MgO−(Ta−Nb)(試料No.23〜試料No.26)の仮焼粉末を、2次仮焼ではそれぞれ、(Ba−Ca)O−(Mg)O−(Ta−Nb)(試料No.23)、(Ca−Sr)O−(Mg)O−(Ta−Nb)(試料No.24)、(Sr−Ba)O−(Mg)O−(Ta−Nb)(試料No.25)、(Ba−Ca−Sr)O−(Mg)O−(Ta−Nb)(試料No.26)の仮焼粉末を得た。組成以外は実施例1と同様にしてターゲットを作製し、それぞれ試料No.23〜試料No.26の薄膜コンデンサ試料を作製した。実施例1と同様の評価を行った結果を表4に示す。
【0070】
【表4】
【0071】
試料No.23〜試料No.26
試料No.23〜試料No.26は、図2に示したものと同様に表面にクラック等の欠陥は見られなかった。表5より、AO−BO−Cを主成分とする誘電体組成物であって、Aは、Ba、Ca、Srの少なくとも一種以上から選択される元素を含み、BはMg、Cは、Nb、Taの少なくとも一種以上から選択される元素を含有した試料No.23〜試料No.26は、ほぼ同様な特性を示し、比誘電率が10以上、Q値が650以上、耐電圧が0.5kV/μm以上を有することが確認できる。
【0072】
<実施例5>
誘電体膜の成膜をスパッタリング法で成膜した以外は実施例1の試料No.9と同様の手法で試料を作製し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表5に示す。
【0073】
<実施例6>
誘電体膜厚みを800nmとした以外は、実施例1の試料No.9と同様の手法で試料を作製し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表5に示す。
【0074】
【表5】
【0075】
試料No.27、試料No.28
試料No.27、試料No.28は、図2に示したものと同様に表面にクラック等の欠陥は見られなかった。表7より、誘電体膜の製法(試料No.27)や誘電体膜厚(試料No.28)が異なっても、本実施形態の誘電体膜を使用することで、比誘電率が10以上、Q値が650以上、耐電圧が0.5kV/μm以上であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0076】
以上に説明したように、本発明は、誘電体組成物及び電子部品に係るものであり、本発明は小型化しても比誘電率が高く、誘電損失が低い、すなわちQ値が高く、更に耐電圧が高い誘電体組成物及びその誘電体組成物を用いた電子部品を提供する。それにより、誘電体組成物を使用する電子部品において、小型化、高機能化を図ることができる。本発明は、たとえば、誘電体膜を使用する、ダイプレクサやバンドパスフィルタなど薄膜高周波部品等に対して広く新技術を提供するものである。
【符号の説明】
【0077】
1… 支持基板
2… 下地層
3… 下部電極
4… 上部電極
5… 誘電体膜
10… 薄膜コンデンサ
図1
図2