【実施例】
【0040】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0041】
<実施例1><比較例1>
まず、350μm厚のSiの表面に6μm厚のSiO
2絶縁膜を備えた10mm×10mm角の支持基板の表面上に、下地層であるTi薄膜を20nmの厚さとなるようにスパッタリング法で形成した。
【0042】
次いで、上記で形成したTi薄膜上に下部電極であるPt薄膜を100nmの厚さとなるようにスパッタリング法で形成した。
【0043】
形成したTi/Pt薄膜に対し、昇温速度を400℃/分、保持温度を700℃、温度保持時間を30分、雰囲気を酸素雰囲気とし常圧下で熱処理を行った。
【0044】
誘電体膜の形成にはPLD法を使用した。誘電体膜の形成に必要なターゲットは次のように作製した。
【0045】
まず、表1に示す試料No.1〜試料No.9、および試料No.11〜試料No.14のMg、Taの量となるようにMgO、Ta
2O
5の秤量を行い、1Lの広口ポリポットに秤量した原料粉末と水、及びφ2mmのZrO
2ビーズを入れて20時間の湿式混合を行った。その後、混合粉末スラリーを100℃、20時間で乾燥させ、得られた混合粉末をAl
2O
3坩堝に入れ、大気中1250℃で5時間保持する焼成条件で1次仮焼を行い、MgO−Ta
2O
5仮焼粉末を得た。
【0046】
次に、表1に示す試料No.1〜試料No.14の比率となるように、得られたMgO−Ta
2O
5仮焼粉末とBaCO
3とを秤量し、1Lの広口ポリポットに秤量した原料粉末と水、及びφ2mmのZrO
2ビーズを入れて20時間の湿式混合を行った。その後、混合粉末スラリーを100℃、20時間で乾燥させ、得られた混合粉末をAl
2O
3坩堝に入れ、大気中1050℃で5時間保持する焼成条件で2次仮焼を行い、BaO−MgO−Ta
2O
5仮焼粉末を得た。
【0047】
Mgを含まないBaO−Ta
2O
5系化合物は、目的とするBaO−MgO−Ta
2O
5の生成を阻害してしまうが、このように2段階の仮焼を行うことで、BaO−Ta
2O
5系化合物が生成することを抑制することができる。
【0048】
得られた仮焼粉末を乳鉢に入れ、バインダとして濃度6wt%のPVA(ポリビニルアルコール)水溶液を、仮焼粉末に対して4wt%となるように添加し、乳棒を使用して造粒粉を作製した後、φ20mmの金型へ厚みが5mm程度となるように造粒粉を入れた。次に一軸加圧プレス機を使用し成形体を得た。成形条件は、圧力:2.0×10
8Pa、温度:室温とした。
【0049】
その後、得られた成形体について、昇温速度を100℃/時間、保持温度を400℃、温度保持時間を4時間として、雰囲気は常圧の大気中で脱バインダ処理を行った後に、昇温速度を200℃/時間、保持温度を1600℃〜1700℃、温度保持時間を12時間とし、雰囲気は常圧の大気中で焼成を行った。
【0050】
次いで、得られた焼結体の厚さが4mmとなるように、円筒研磨機で両面を研磨し、誘電体膜を形成するために必要なPLD用ターゲットを得た。
【0051】
こうして得られたPLD用ターゲットを用いて、下部電極上に400nmの厚さとなるようにPLD法で誘電体膜を形成した。PLD法による成膜条件は、酸素圧を1×10
−1(Pa)とし、基板を200℃に加熱した。また、下部電極の一部を露出させるために、メタルマスクを使用して、誘電体膜が一部成膜されない領域を形成した。上記誘電体膜に対し、O
2雰囲気下600℃で1時間、アニール処理を施した。
【0052】
誘電体膜厚の計測はFIBで掘削し、得られた断面をSIMで観察して測長した。
【0053】
成膜後の誘電体膜は、すべての試料について、下記に示す方法により組成分析を行い、表1に記載の組成であることを確認した。
【0054】
<組成分析>
組成分析は、室温において波長分散型蛍光X線分析法(リガク社製ZSX−100e)を用いて行った。
【0055】
次いで、得られた上記誘電体膜上に、蒸着装置を使用して上部電極であるAg薄膜を形成した。上部電極の形状を、メタルマスクを使用して、直径100μm、厚さ100nmとなるように形成することで、
図1に示す構造の試料No.1〜試料No.14を得た。
【0056】
得られたすべての薄膜コンデンサ試料について、比誘電率、Q値、耐電圧を、それぞれ下記に示す方法により行った。
【0057】
<比誘電率(εr),Q値>
比誘電率(εr)およびQ値は、薄膜コンデンサ試料に対し、基準温度25℃において、RFインピーダス/マテリアルアナライザ(Agilent社製4991A)にて、周波数2GHz,入力信号レベル(測定電圧)0.5Vrmsの条件下で測定された静電容量と膜厚測定の結果から算出した(単位なし)。比誘電率は高い方が好ましく、10以上を良好とした。また、Q値は高い方が好ましく、650以上を良好とした。
【0058】
<耐電圧(Vbd)>
耐電圧は、薄膜コンデンサ試料に対し、下部電極が露出している領域と上部電極にデジタル超高抵抗/微少電流計(ADVANTEST R8340)を接続し、5V/秒のステップで電圧を印加して計測し、初期抵抗値から2ケタ低下したときの電圧値を読み取り、その値を試料の破壊電圧値(V)とした。得られた破壊電圧値(V)を誘電体膜厚で除した数値を耐電圧(kV/μm)とし、表1に記載した。耐電圧は高い方が好ましく、0.5kV/μm以上を良好とした。
【0059】
【表1】
【0060】
試料No.1〜試料No.9
試料No.1〜試料No.9は、
図2に示したものと同様に表面にクラック等の欠陥は見られなかった。表1より、BaO−MgO−Ta
2O
5を主成分とする誘電体組成物であって、前記誘電体組成物の主成分をxBaO−yMgO−zTa
2O
5と表したときに、x、y、zの関係がx+y+z=1.000、0.000<x≦0.281、0.625≦y<1.000、0.000<z≦0.375である試料No.1〜試料No.9は、比誘電率が10以上、Q値が650以上、耐電圧が0.5kV/μm以上であることが確認できた。
【0061】
試料No.1、試料No.2、試料No.6、試料No.8、試料No.9
表1より、誘電体膜の主成分をxBaO−yMgO−zTa
2O
5と表したときに、x、y、zの関係がx+y+z=1.000、0.000<x≦0.281、0.625≦y<1.000、0.000<z≦0.125である試料No.1、試料No.2、試料No.6、試料No.8、試料No.9は、比誘電率が10以上、Q値が850以上、耐電圧が0.5kV/μm以上であることが確認できた。このように、zの範囲を限定することで、比誘電率及び耐電圧を維持したまま、Q値を更に高めることが可能であることが確認できた。
【0062】
試料No.10〜試料No. 14
x>281であった試料No.10は、クラックのため誘電特性を評価できなかった。試料No.11〜試料No.14は、
図2に示したものと同様に表面にクラック等の欠陥は見られなかった。y<0.625であった試料No.11〜試料No.14は、耐電圧が0.5kV/μm未満であることが確認できる。
【0063】
<実施例2>
Ba、Ca、Sr、Mg、Taの量を表2に示す値となるように、BaCO
3、CaCO
3、SrCO
3、MgO、Ta
2O
5の秤量を行い、1次仮焼ではMgO−Ta
2O
5仮焼粉末を、2次仮焼ではそれぞれ、CaO−MgO−Ta
2O
5(試料No.15)、SrO−MgO−Ta
2O
5(試料No.16)、(Ba−Ca)O−MgO−Ta
2O
5(試料No.17)、(Ca−Sr)O−MgO−Ta
2O
5(試料No.18)、(Sr−Ba)O−MgO−Ta
2O
5(試料No.19)、(Ba−Ca−Sr)O−MgO−Ta
2O
5(試料No.20)の仮焼粉末を得た。組成以外は実施例1と同様にしてターゲットを作製し、それぞれ試料No.15〜試料No.20の薄膜コンデンサ試料を作製した。実施例1と同様の評価を行った結果を表2に示す。
【0064】
【表2】
【0065】
試料No.9、試料No.15〜試料No.20
試料No.15〜試料No.20は、
図2に示したものと同様に表面にクラック等の欠陥は見られなかった。表2より、AO−MgO−Ta
2O
5を主成分とする誘電体組成物であって、Aが、Ba、Ca、Srの少なくとも一種以上含有した試料No.9、試料No.15〜試料No.20は、ほぼ同様な特性を示し、比誘電率が10以上、Q値が650以上、耐電圧が0.5kV/μm以上を有することが確認できる。
【0066】
<実施例3>
Ba、Mg、Ta、Nbの量を表4に示す値となるように、BaCO
3、MgO、Ta
2O
5、Nb
2O
5の秤量を行い、1次仮焼ではそれぞれ、MgO−Nb
2O
5(試料No.21)、MgO−(Ta−Nb)
2O
5(試料No.22)の仮焼粉末を、2次仮焼ではそれぞれ、BaO−MgO−Nb
2O
5(試料No.21)、BaO−MgO−(Ta−Nb)
2O
5(試料No.22)の仮焼粉末を得た。組成以外は実施例1と同様にしてターゲットを作製し、それぞれ試料No.21、試料No.22の薄膜コンデンサ試料を作製した。実施例1と同様の評価を行った結果を表3に示す。
【0067】
【表3】
【0068】
試料No.9、試料No.21、試料No.22
試料No.21、試料No.22は、
図2に示したものと同様に表面にクラック等の欠陥は見られなかった。表3より、BaO−MgO−C
2O
5を主成分とする誘電体組成物であって、Cが、Nb、Taの少なくとも一種以上含有した試料No.9、試料No.21、試料No.22は、ほぼ同様な特性を示し、比誘電率が10以上、Q値が650以上、耐電圧が0.5kV/μm以上を有することが確認できる。
【0069】
<実施例4>
Ba、Ca、Sr,Mg、Ta、Nbの量を表4に示す値となるように、BaCO
3、CaCO
3、SrCO
3、MgO、Ta
2O
5、Nb
2O
5の秤量を行い、1次仮焼ではそれぞれ、MgO−(Ta−Nb)
2O
5(試料No.23〜試料No.26)の仮焼粉末を、2次仮焼ではそれぞれ、(Ba−Ca)O−(Mg)O−(Ta−Nb)
2O
5(試料No.23)、(Ca−Sr)O−(Mg)O−(Ta−Nb)
2O
5(試料No.24)、(Sr−Ba)O−(Mg)O−(Ta−Nb)
2O
5(試料No.25)、(Ba−Ca−Sr)O−(Mg)O−(Ta−Nb)
2O
5(試料No.26)の仮焼粉末を得た。組成以外は実施例1と同様にしてターゲットを作製し、それぞれ試料No.23〜試料No.26の薄膜コンデンサ試料を作製した。実施例1と同様の評価を行った結果を表4に示す。
【0070】
【表4】
【0071】
試料No.23〜試料No.26
試料No.23〜試料No.26は、
図2に示したものと同様に表面にクラック等の欠陥は見られなかった。表5より、AO−BO−C
2O
5を主成分とする誘電体組成物であって、Aは、Ba、Ca、Srの少なくとも一種以上から選択される元素を含み、BはMg、Cは、Nb、Taの少なくとも一種以上から選択される元素を含有した試料No.23〜試料No.26は、ほぼ同様な特性を示し、比誘電率が10以上、Q値が650以上、耐電圧が0.5kV/μm以上を有することが確認できる。
【0072】
<実施例5>
誘電体膜の成膜をスパッタリング法で成膜した以外は実施例1の試料No.9と同様の手法で試料を作製し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表5に示す。
【0073】
<実施例6>
誘電体膜厚みを800nmとした以外は、実施例1の試料No.9と同様の手法で試料を作製し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表5に示す。
【0074】
【表5】
【0075】
試料No.27、試料No.28
試料No.27、試料No.28は、
図2に示したものと同様に表面にクラック等の欠陥は見られなかった。表7より、誘電体膜の製法(試料No.27)や誘電体膜厚(試料No.28)が異なっても、本実施形態の誘電体膜を使用することで、比誘電率が10以上、Q値が650以上、耐電圧が0.5kV/μm以上であることが確認できた。