(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記濃度情報は、前記作用極と前記対極との間に流れる電流値のうち、最も高い電流値である酸化ピーク電流値と、液体中の二酸化炭素の濃度とが予め関連付けられた情報であり、
前記濃度導出部は、前記メモリに保持された濃度情報を参照して、前記電流値測定部によって測定された酸化ピーク電流値から二酸化炭素濃度を導出することを特徴とする請求項5に記載の二酸化炭素濃度導出装置。
前記濃度情報は、前記作用極と前記対極との間に流れる電流値のうち、最も低い電流値である還元ピーク電流値と、液体中の二酸化炭素の濃度とが予め関連付けられた情報であり、
前記濃度導出部は、前記メモリに保持された濃度情報を参照して、前記電流値測定部によって測定された還元ピーク電流値から二酸化炭素濃度を導出することを特徴とする請求項5に記載の二酸化炭素濃度導出装置。
【背景技術】
【0002】
火力発電所、製鉄所、ボイラー等のプラントにおいては、大量の化石燃料(例えば、石炭、重油、超重質油)を燃焼させている。したがって、化石燃料の燃焼に伴って、二酸化炭素(CO
2)、硫黄酸化物(SO
x)、窒素酸化物(NO
x)を含む排気ガスが上記プラントから排出されることとなる。排気ガスに含まれる物質の中で、二酸化炭素は、地球温暖化の要因となっており、気候変動に関する国際連合枠組条約等において大気への排出量が規制されている。
【0003】
そこで、二酸化炭素の大気への排出を削減するために、二酸化炭素回収貯留技術(CCS:Carbon dioxide Capture and Storage)が開発されている。二酸化炭素回収貯留技術は、分離回収プロセス、輸送プロセス、圧入プロセス、貯留プロセスの4つのプロセスで構成される。具体的に説明すると、分離回収プロセスは、燃焼で生じる排気ガスや、製造過程で生じる排気ガス等の二酸化炭素を含む排気ガスから二酸化炭素を分離して回収するプロセスである。輸送プロセスは、分離回収プロセスで回収された二酸化炭素を海底まで輸送するプロセスである。圧入プロセスは、輸送プロセスで輸送された二酸化炭素を海底の岩盤に圧入するプロセスである。貯留プロセスは、圧入プロセスで圧入した二酸化炭素を海底の岩盤中に貯留するプロセスである。
【0004】
このように、二酸化炭素回収貯留技術では、最終的に海底の岩盤中に二酸化炭素を貯留することとなるが、貯留プロセス中に岩盤から二酸化炭素が漏洩し、海水中に分散してしまうおそれがある。そこで、貯留プロセスにおいて、岩盤からの二酸化炭素の漏洩を監視するために、海水中の二酸化炭素の濃度をモニタリングすることが求められている。
【0005】
二酸化炭素の濃度を導出する技術として、炭酸水素イオンを取り込むと、電気伝導度、荷電容量、および、交流インピーダンスのうちいずれかが変化する導電性ポリマーと、水を保持する絶縁性ポリマーとを含んで構成される二酸化炭素センサが開示されている(例えば、特許文献1)。特許文献1の技術では、絶縁性ポリマーが保持する水と大気中の二酸化炭素とが反応することにより生じた炭酸水素イオンを、導電性ポリマーが取り込むことにより生じる電気伝導度、荷電容量、および、交流インピーダンスのいずれかの変化に基づいて、炭酸水素イオン濃度を導出し、炭酸水素イオン濃度に基づいて間接的に二酸化炭素の濃度を導出している。
【0006】
また、内部液と、内部液に浸漬され、内部液のpHの変化を測定する2つの電極(イオン感応性電界効果型トランジスタ、塩素イオン選択性電極)と、内部液および2つの電極を覆い、外部のガスを内部液に透過させるガス透過性膜とを含んで構成され、ガス透過性膜を透過した二酸化炭素による内部液のpHの変化を測定することで、外部の二酸化炭素の濃度を間接的に導出する技術も開発されている(例えば、特許文献2)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1の技術は、気体中の二酸化炭素の濃度を導出するための技術であるため、海水等の液体中の二酸化炭素の濃度を導出することはできない。仮に、特許文献1の技術を改良して液体中の二酸化炭素の濃度の導出を試みたとしても、海水は、二酸化炭素以外の要因、例えば、海水の塩濃度の変化、pHの変化、水温によって、炭酸水素イオンの濃度が変化することがある。このため、炭酸水素イオンの濃度を導出することで間接的に二酸化炭素の濃度を導出する特許文献1の技術では、二酸化炭素の濃度を正確に導出することができない。
【0009】
また、特許文献2に記載されたガス透過性膜は、二酸化炭素のみならず、二酸化炭素以外のガスを透過させる機能を有する。したがって、海水に含まれる二酸化炭素以外のガスによって内部液のpHが変化することがあるため、pHの変化を測定することで間接的に二酸化炭素の濃度を導出する特許文献2の技術では、二酸化炭素の濃度を正確に導出することができない。
【0010】
そこで、参照極、対極、および、アミノ基を基材の表面に固定した作用極を備えた三極式電気化学セルで構成されるセンサを用いて、液体中の二酸化炭素の濃度を測定することが考えられる。このようなセンサでは、作用極を構成する基材との間で電子の授受を行うとともに、アミノ基への二酸化炭素の結合の有無に応じて、基材への接近の可否が決定されるマーカ分子を、測定対象である被測定液中に分散させて、被測定液の二酸化炭素の濃度を測定している。
【0011】
ただし、海、湖、川等の自然環境にある液体を被測定液として測定する場合、自然環境にマーカ分子が拡散してしまうおそれがある。このため、上記三極式電気化学セルで構成されるセンサを用いて測定を行う場合、ビーカー等の収容器に被測定液を採取して、収容器内においてマーカ分子を分散させる必要がある。このため、被測定液を採取したり、マーカ分子を分散させたりする手間がかかるという課題があった。
【0012】
本発明は、このような課題に鑑み、マーカ分子を被測定液に分散させる処理を行わずとも、二酸化炭素の濃度を精度よく導出することが可能な二酸化炭素濃度導出装置、および、電極を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明の二酸化炭素濃度導出装置は、測定対象である被測定液の二酸化炭素の濃度を導出する二酸化炭素濃度導出装置であって、1または複数の作用極と、1または複数の参照極と、1または複数の対極と、参照極に対して作用極の電位を変化させる電圧印加部と、作用極と対極との間に流れる電流値を測定する電流値測定部と、を備え、作用極は、被測定液に接触する基材と、基材の表面に結合された、アミノ基を有する有機分子およびフェロセニル基を有する有機分子と、を少なくとも含んで構成され
、基材の表面からフェロセニル基までの距離が、基材の表面からアミノ基までの距離より長い。
【0015】
上記課題を解決するために、本発明の他の二酸化炭素濃度導出装置は、測定対象である被測定液の二酸化炭素の濃度を導出する二酸化炭素濃度導出装置であって、1または複数の作用極と、1または複数の参照極と、1または複数の対極と、参照極に対して作用極の電位を変化させる電圧印加部と、作用極と対極との間に流れる電流値を測定する電流値測定部と、を備え、作用極は、被測定液に接触する基材と、基材の表面に結合された、アミノ基を有する有機分子およびフェロセニル基を有する有機分子と、を少なくとも含んで構成され、フェロセニル基を有する有機分子の主鎖を構成する炭素数は、アミノ基を有する有機分子の主鎖を構成する炭素数よりも大
きい。
【0016】
また、基材はAuであり、アミノ基を有する有機分子およびフェロセニル基を有する有機分子は、スルフィド結合によって基材の表面に共有結合されているとしてもよい。
【0017】
また、基材はAuであり、基材と、アミノ基およびチオール基を有する有機化合物およびフェロセニル基およびチオール基を有する有機化合物とを接触させることで、アミノ基を有する有機分子およびフェロセニル基を有する有機分子を基材の表面に共有結合させるとしてもよい。
【0018】
また、作用極と対極との間に流れる電流値と、液体中の二酸化炭素の濃度とが予め関連付けられた情報である濃度情報を保持するメモリと、メモリに保持された濃度情報を参照し、電流値測定部によって測定された電流値に基づいて、被測定液中の二酸化炭素濃度を導出する濃度導出部と、をさらに備えるとしてもよい。
【0019】
また、濃度情報は、作用極と対極との間に流れる電流値のうち、最も高い電流値である酸化ピーク電流値と、液体中の二酸化炭素の濃度とが予め関連付けられた情報であり、濃度導出部は、メモリに保持された濃度情報を参照して、電流値測定部によって測定された酸化ピーク電流値から二酸化炭素濃度を導出するとしてもよい。
【0020】
また、濃度情報は、作用極と対極との間に流れる電流値のうち、最も低い電流値である還元ピーク電流値と、液体中の二酸化炭素の濃度とが予め関連付けられた情報であり、濃度導出部は、メモリに保持された濃度情報を参照して、電流値測定部によって測定された還元ピーク電流値から二酸化炭素濃度を導出するとしてもよい。
【0021】
上記課題を解決するために、本発明の電極は、測定対象である被測定液中の二酸化炭素の濃度を導出するための作用極として用いられる電極であって、被測定液に接触する基材と、基材の表面に結合された、アミノ基を有する有機分子およびフェロセニル基を有する有機分子と、を備え
、基材の表面からフェロセニル基までの距離が、基材の表面からアミノ基までの距離より長い。
上記課題を解決するために、本発明の他の電極は、測定対象である被測定液中の二酸化炭素の濃度を導出するための作用極として用いられる電極であって、被測定液に接触する基材と、基材の表面に結合された、アミノ基を有する有機分子およびフェロセニル基を有する有機分子と、を備え、フェロセニル基を有する有機分子の主鎖を構成する炭素数は、アミノ基を有する有機分子の主鎖を構成する炭素数よりも大きい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、マーカ分子を被測定液に分散させる処理を行わずとも、二酸化炭素の濃度を精度よく導出することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0025】
図1は、本実施形態にかかる二酸化炭素濃度導出装置100を説明するための図である。なお、
図1中、信号の流れを破線の矢印で示す。
図1に示すように、二酸化炭素濃度導出装置100は、作用極110と、参照極120と、対極130と、制御装置150とを含んで構成される。
【0026】
作用極110、参照極120、対極130は、それぞれが電極であり、測定対象である被測定液の二酸化炭素の濃度を測定する際には、被測定液に接触するように配される。
【0027】
具体的に説明すると、作用極110は、被測定液に接触する基材と、基材の表面に共有結合された、アミノ基を有する有機分子(以下、「アミノ分子」と称する)、および、フェロセニル基を有する有機分子(以下、「フェロセニル分子」と称する)とを含んで構成される。作用極110の基材は、例えば、金(Au)であり、作用極110においてアミノ分子およびフェロセニル分子は、スルフィド結合によって基材の表面に共有結合されている。
【0028】
参照極120は、銀/塩化銀(Ag/AgCl)電極、飽和カロメル電極、標準水素電極、可逆水素電極の群から選択されるいずれかの電極であり、好ましくは、銀/塩化銀電極である。飽和カロメル電極は、水銀が用いられているため、仮に参照極120が破損した場合、被測定液に水銀が混入してしまい、廃棄処理に要するコストが上昇してしまう。また、標準水素電極、および、可逆水素電極は、水素ガスを供給する必要があり、取り扱いが煩雑となるため、銀/塩化銀電極が好ましい。
【0029】
対極130は、白金(Pt)、銀(Ag)、銅(Cu)、ステンレス、アルミニウム(Al)等の金属で構成される。
【0030】
制御装置150は、中央制御部152と、メモリ154とを含んで構成される。中央制御部152は、CPU(中央処理装置)を含む半導体集積回路で構成され、ROMからCPU自体を動作させるためのプログラムやパラメータ等を読み出し、ワークエリアとしてのRAMや他の電子回路と協働して制御装置150全体を管理および制御する。メモリ154は、ROM、RAM、フラッシュメモリ、HDD等で構成され、中央制御部152に用いられるプログラムや各種データ、例えば、濃度情報を保持する。濃度情報については、後に詳述する。
【0031】
本実施形態において、中央制御部152は、電圧印加部160、電流値測定部162、濃度導出部164、結果出力部166としても機能する。
【0032】
電圧印加部160は、作用極110と参照極120との間に電圧を印加し、参照極120に対して作用極110の電位を変化させる。電流値測定部162は、電圧印加部160が電位を変化させる(掃引する)ことで作用極110と対極130との間に流れる電流値を測定する。濃度導出部164は、メモリ154に保持された濃度情報を参照して、電流値測定部162によって測定された電流値から二酸化炭素濃度を導出する。
【0033】
本実施形態では、本測定を開始する前に、二酸化炭素の濃度が既知である被測定液(以下、「標準液」と称する)を用いて、電流値と二酸化炭素の濃度との関係を定めた濃度情報を作成し、予めメモリ154に保持しておく。例えば、標準液に作用極110、参照極120、対極130を接触させ、電圧印加部160が電圧を印加して電位を変化させ、電流値測定部162が電流値を測定して、濃度情報を作成する。以下、濃度情報の作成処理について説明し、続いて、本測定について説明する。
【0034】
(濃度情報の作成処理)
ここでは、まず、作用極110の表面で生じる現象について説明し、続いて、電圧印加部160が印加する電圧の変化および電流値測定部162による測定結果について説明し、最後に、濃度情報の作成処理について説明する。
【0035】
(作用極110の表面で生じる現象)
図2は、作用極110の表面で生じる現象について説明するための図である。上述したように、作用極110は、金で構成された基材の表面に、アミノ基を有する有機分子と、フェロセニル基を有する有機分子とがスルフィド結合によって共有結合されたものである。ここでは、
図2(a)に示すように、金とスルフィド結合を形成するアミノ分子として、(−S−(CH
2)
2−NH
2)を例に挙げ、金とスルフィド結合するフェロセニル分子として、下記構造式(1)に示す有機分子を例に挙げて説明する。
【化1】
…構造式(1)
【0036】
図2(a)に示すように、作用極110の基材の表面には、アミノ分子と、フェロセニル分子が共有結合されている。本実施形態において、作用極110は、基材の表面からフェロセニル基までの距離が、基材の表面からアミノ基までの距離より長くなるように構成されている。例えば、
図2に示すように、スルフィド結合を構成するSとアミノ基との間が直鎖の炭化水素で構成されるアミノ分子と、スルフィド結合を構成するSとフェロセニル基との間が直鎖の炭化水素で構成されるフェロセニル分子とが、基材の表面に結合される場合、フェロセニル分子の炭素数が、アミノ分子の炭素より大きくなっている。
【0037】
二酸化炭素が分散されていない、または、ほとんど分散されていない被測定液に作用極110が接触している場合、アミノ分子のアミノ基(−NH
2)は、中性(−NH
2)である。また、フェロセニル分子のフェロセニル基(−(C
5H
4)Fe(C
5H
5))を構成する鉄は、二価である(Fe
2+)。
【0038】
ここで、電圧印加部160によって、作用極110に電位(電圧)が印加されると、作用極110の基材の表面と、フェロセニル基との間で電子の授受が行われ、すなわち、フェロセニル基の電子(フェロセニル基を構成する鉄が有する電子)が基材に移動して、鉄が二価から三価に変化する。なお、フェロセニル基から移動する電子は、負電荷を帯びているが、アミノ分子のアミノ基が中性であるため、フェロセニル基が有する電子は、アミノ基と反発することなく、作用極110の表面(基材の表面)に到達する。こうして、作用極110と対極130との間に電流が流れることとなる。
【0039】
なお、フェロセニル基から基材への電子の移動は、2つのパターンが推測される。第1のパターンは、
図2(a)中、(A)で示すように、フェロセニル基から、当該フェロセニル基に結合された主鎖(炭化水素)を通って基材に直接電子が移動するパターンである。第2のパターンは、基材に電子が移動して三価の鉄(Fe
3+)となったフェロセニル基に、二価の鉄(Fe
2+)で構成されるフェロセニル基から電子が移動し(
図2(a)中、(B1)で示す)、その後、上記第1のパターンと同様に、主鎖を通って基材に間接的に電子が移動する(
図2(a)中、(B2)で示す)パターンである。
【0040】
一方、
図2(b)に示すように、二酸化炭素が多く分散された被測定液に作用極110が浸漬されている場合、アミノ分子のアミノ基の一部は、被測定液中の二酸化炭素と結合し、カルバメートイオン(−NH−COO
−)となり、負電荷を帯びることとなる。上記したように、作用極110は、基材の表面からフェロセニル基までの距離が、基材の表面からアミノ基までの距離より長くなるように構成されているため、フェロセニル基を構成する鉄が有する電子は、主鎖を通る間に、カルバメートイオンと反発(静電的反発)して、作用極110の表面(基材の表面)に到達しにくくなってしまう。したがって、電圧印加部160によって、作用極110に電位(電圧)が印加されたとしても、作用極110の基材の表面と、フェロセニル基との間で電子の授受が行われにくくなり、
図2(a)の場合と比較して、作用極110と対極130との間に流れる電流値が低下することとなる。
【0041】
カルバメートイオンの生成、すなわち、アミノ基と二酸化炭素との結合反応は、平衡反応であることから、被測定液中の二酸化炭素の濃度に応じて、作用極110の表面の負電荷の量が変化する。つまり、被測定液中の二酸化炭素の濃度に応じて、作用極110と対極130との間で流れる電流値が変化することとなる。
【0042】
つまり、電圧印加部160が、作用極110と参照極120との間に電圧を印加することで、参照極120に対して作用極110の電位を変化させ、これに応じて変化する、作用極110と対極130との間で流れる電流値の挙動は、被測定液中の二酸化炭素濃度に応じて異なることとなる。
【0043】
図3は、電圧印加部160による電位の変化および電流値測定部162によって測定される電流値の挙動について説明するための図である。
図3(a)に示すように、本実施形態において、電圧印加部160は、作用極110および参照極120に電圧を印加して、参照極120に対して作用極110の電位を直線的に変化させる(掃引する)。具体的に説明すると、1の測定サイクルで、電圧印加部160は、最低電位Emin(例えば、0.1V)から最高電位Emax(0.7V)まで、正方向に、直線的に電位を掃引し、最高電位Emaxに達すると、最高電位Emaxから最低電位Eminまで、負方向に、直線的に電位を掃引する(三角波で掃引する)。
【0044】
そして、電圧印加部160が電位を掃引している間に、電流値測定部162が測定した電流値に基づいて、横軸を電圧印加部160によって印加された電位とし、縦軸を電流値測定部162によって測定された電流値としたグラフを作成すると、
図3(b)に示す、固有の形状を有する曲線(サイクリックボルタモグラム)を得ることができる。
【0045】
測定開始時刻(最低電位Eminを印加する時刻)をT1、最高電位Emaxに到達する時刻をT2、再度最低電位Eminに到達する時刻をT3として、サイクリックボルタモグラムについて具体的に説明する。
図3(b)に示すように、電圧印加部160によって最低電位Eminから最高電位Emaxまで正方向に電位が掃引される(T1からT2まで時間が経過する)と、作用極110において酸化反応が進行し、
図3(b)中矢印で示すように、電流値は上昇し、電位が0.5V付近となったところで正のピークに達し、さらに電位を上げると電流値は低下することとなる。
【0046】
また、電圧印加部160によって最高電位Emaxから最低電位Eminまで負方向に電位が掃引される(T2からT3まで時間が経過する)と、作用極110において還元反応が進行し、
図3(b)中矢印で示すように、電流値は低下し、電位が0.4V付近となったところで負のピークに達し、さらに電位を下げると電流値は上昇することとなる。
【0047】
ここで、酸化反応が進行する際の電流のピーク値、すなわち、電流値測定部162が測定した電流値のうち、最も高い電流値を酸化ピーク電流値OPとし、還元反応が進行する際の電流のピーク値、すなわち、電流値測定部162が測定した電流値のうち、最も低い電流値を還元ピーク電流値RPとする。
【0048】
このように、電圧印加部160が、三角波で電位を掃引して、電流値測定部162によって測定された電流値をプロットすると、2つのピーク(酸化ピーク電流値OP、還元ピーク電流値RP)を有するサイクリックボルタモグラム(曲線)を得ることができる。
【0049】
図4は、二酸化炭素の濃度の違いによる、酸化ピーク電流値OPおよび還元ピーク電流値RPの変化について説明するための図である。なお、
図4中、被測定液中の二酸化炭素の濃度が0mMである場合のサイクリックボルタモグラムを実線で、被測定液中の二酸化炭素の濃度が0.056mMである場合のサイクリックボルタモグラムを破線で示す。
【0050】
図4に示すように、被測定液中の二酸化炭素の濃度が0mMである場合の酸化ピーク電流値OPaは、被測定液中の二酸化炭素の濃度が0.056mMである場合の酸化ピーク電流値OPbより大きく、被測定液中の二酸化炭素の濃度が0mMである場合の還元ピーク電流値RPaは、被測定液中の二酸化炭素の濃度が0.056mMである場合の還元ピーク電流値RPbより小さいことが分かる。換言すれば、二酸化炭素が少ない方が、酸化ピーク電流値OPが大きく、還元ピーク電流値RPが小さい。また、酸化ピーク電流値OPと還元ピーク電流値RPとの電位差は、二酸化炭素が少ない方が、大きくなることが分かる。つまり、二酸化炭素の濃度に応じて、酸化ピーク電流値OP自体、還元ピーク電流値RP自体、および、酸化ピーク電流値OPと還元ピーク電流値RPとの電位差が変化することが分かる。
【0051】
したがって、本測定の開始前に、標準液(二酸化炭素の濃度が既知である被測定液)を用いて、電圧印加部160が電圧を印加して電位を変化させ、電流値測定部162が酸化ピーク電流値OPを測定し、酸化ピーク電流値OPと、液体中の二酸化炭素の濃度とを関連付けた濃度情報を作成して、予めメモリ154に保持しておく。なお、測定サイクル1回のみで酸化ピーク電流値OP(サイクリックボルタモグラム)を測定することができるが、本実施形態では、安定したデータを得るために、同じ測定サイクルを3回実施して、3回目の測定サイクル(T5からT7まで、
図3(a)参照)における酸化ピーク電流値OPを取り扱うこととしている。
【0052】
図5は、濃度情報の具体的な構成を説明するための図である。
図5に示すように、濃度情報は、例えば、検量線である。
【0053】
二酸化炭素の濃度が異なる複数の標準液を用いて、酸化ピーク電流値OPを測定し、検量線を作成した。濃度情報を作成するための標準液は、海水の塩濃度程度の塩化ナトリウム(NaCl)を含む水溶液(500mMのNaCl水溶液)に、炭酸水素ナトリウム(NaHCO
3)の量を異ならせて添加することで、二酸化炭素の濃度が、0mM、0.0056mM、0.014mM、0.028mM、0.056mMである標準液を調製した。なお、炭酸水素ナトリウムから二酸化炭素への解離平衡から、添加した炭酸水素ナトリウムの0.28%が水溶液中で二酸化炭素として存在すると仮定して、炭酸水素ナトリウムの添加量を決定した。
【0054】
このようにして測定を行った結果を二次関数に近似すると、
図5に示すような検量線が得られた。かかる検量線は、少なくとも、通常の海水の二酸化炭素の濃度(推定値0.25ppm)から10倍の濃度(2.5ppm)までを含む広い範囲で相関性を有することが分かった。
【0055】
(本測定)
本測定においては、二酸化炭素の濃度が未知である被測定液を用いるものの、濃度情報の作成処理と同様に、電圧印加部160が電圧を印加して、電位を変化させ(
図3(a)参照)、電流値測定部162は、酸化ピーク電流値OPを測定する。
【0056】
そして、濃度導出部164は、メモリ154に保持された濃度情報を参照して、電流値測定部162によって測定された酸化ピーク電流値OPから二酸化炭素濃度を導出する。
【0057】
図1に戻って説明すると、結果出力部166は、濃度導出部164が導出した二酸化炭素の濃度を、外部の表示装置に出力する。
【0058】
以上説明したように、本実施形態にかかる二酸化炭素濃度導出装置100によれば、作用極110が、二酸化炭素と特異的に結合するアミノ基と、アミノ基への二酸化炭素の結合の有無に応じて電子の移動の可否が決定されるフェロセニル基とを備えているため、被測定液に、作用極110、参照極120、対極130を接触させるだけといった簡易な処理で、二酸化炭素の濃度を測定することができる。
【0059】
また、アミノ基への二酸化炭素の結合の有無に応じて電子の移動の可否が決定されるマーカ分子を被測定液に分散させる処理を省略することができる。したがって、海、湖、川等の自然環境にある液体を被測定液として測定する場合であっても、自然環境にマーカ分子を分散させる必要がないため、自然環境にマーカ分子が拡散されてしまう事態を回避することが可能となる。
【0060】
また、作用極110の表面に結合されたアミノ基は二酸化炭素と特異的に結合することから、二酸化炭素濃度導出装置100は、二酸化炭素のみの濃度変化を捉えることができる。したがって、外乱による測定結果のバラツキを低減することができ、二酸化炭素の濃度を安定して精度よく導出することが可能となる。
【0061】
(作用極110の製造方法)
続いて、上記作用極110の製造方法について説明する。まず、金で構成された基材を、アルミナのスラリーで研磨する。次に、研磨後の基材をイオン交換水で洗浄する。そして、洗浄後の基材を、アミノエタンチオール(HS−(CH
2)
2−NH
2)および6−(フェロセニル)ヘキサンチオール(HS−(CH
2)
6−(C
5H
4)Fe(C
5H
5))のエタノール溶液に浸漬する。そうすると、アミノエタンチオールのチオール基(−SH)および6−(フェロセニル)ヘキサンチオールのチオール基(−SH)が基材の表面の金と共有結合し、基材の表面にアミノ分子およびフェロセニル分子の自己集積単分子膜が形成されることとなる。
【0062】
このように、金で構成された基材を、アミノエタンチオールおよび6−(フェロセニル)ヘキサンチオールのエタノール溶液に浸漬する(接触させる)だけといった簡易な構成で作用極110を容易に製造することが可能となる。
【0063】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0064】
例えば、上記実施形態において、作用極110の基材が金である場合を例に挙げて説明した。しかし、作用極の基材は、他の物質、例えば、炭素やダイヤモンドであってもよい。この場合、アミノ分子は、チオール基に代えて、二酸化炭素とともにカルバメートイオンを形成するアミノ基以外の別のアミノ基を有しており、作用極においてアミノ分子は、別のアミノ基によって基材の表面に共有結合(アミド結合)されることとなる。また、フェロセニル分子は、チオール基に代えてアミノ基を有しており、アミノ分子と同様に、作用極においてフェロセニル分子は、アミノ基によって基材の表面に共有結合(アミド結合)されることとなる。なお、アミノ分子およびフェロセニル分子は、基材の表面に結合されていればよく、共有結合に限らず、他の結合態様(例えば、水素結合等)で結合されていてもよい。
【0065】
また、上記実施形態において、アミノ基およびチオール基を有する有機化合物として、アミノエタンチオールを例に挙げて説明した。しかし、アミノエタンチオールに限らず、アミノ基およびチオール基を有する有機化合物であればよく、例えば、HS−(CH
2)
n−NH
2(nは、1、または、3以上の整数)であってもよい。
【0066】
また、上記実施形態において、フェロセニル基およびチオール基を有する有機化合物として、6−(フェロセニル)ヘキサンチオールを例に挙げて説明した。しかし、6−(フェロセニル)ヘキサンチオールに限らず、フェロセニル基およびチオール基を有する有機化合物であればよく、例えば、(HS−(CH
2)
n−(C
5H
4)Fe(C
5H
5))(nは、1、または、3以上の整数)であってもよい。
【0067】
また、上記実施形態において、スルフィド結合を構成するSとアミノ基との間が直鎖の炭化水素で構成されるアミノ分子、および、スルフィド結合を構成するSとフェロセニル基との間が直鎖の炭化水素で構成されるフェロセニル分子を例に挙げて説明した。しかし、スルフィド結合を構成するSとアミノ基との間、および、スルフィド結合を構成するSとフェロセニル基との間のいずれか一方、または、両方は、直鎖の炭化水素で構成されている必要はない。例えば、分岐された炭化水素であってもよいし、炭化水素に官能基が結合されていてもよい。この場合、フェロセニル分子の主鎖を構成する炭素数が、アミノ分子の主鎖を構成する炭素数よりも大きいとよい。ここで、主鎖は、スルフィド結合を構成するSとフェロセニル基との間、もしくは、スルフィド結合を構成するSとアミノ基との間を結合する炭化水素を示す。
【0068】
また、スルフィド結合を構成するSとアミノ基との間、および、スルフィド結合を構成するSとフェロセニル基との間のいずれか一方、または、両方を、炭素および水素以外の他の原子で構成してもよい。
【0069】
また、上記実施形態において、基材の表面からフェロセニル基までの距離が、基材の表面からアミノ基までの距離より長い作用極110を例に挙げて説明した。しかし、作用極は、少なくともアミノ分子と、フェロセニル分子とが、基材の表面に共有結合された電極であればよい。例えば、基材の表面からフェロセニル基までの距離と、基材の表面からアミノ基までの距離とが等しくてもよいし、基材の表面からフェロセニル基までの距離が、基材の表面からアミノ基までの距離より短くてもよい。
【0070】
また、上記実施形態では、1の作用極110、1の参照極120、1の対極130を含んで構成される二酸化炭素濃度導出装置100を例に挙げて説明した。しかし、作用極110、参照極120、対極130それぞれの数に限定はなく、それぞれが複数設けられていてもよいし、作用極110、参照極120および対極130のうち、いずれか1または2の電極が複数であってもよい。かかる構成により、電極の表面積を大きくすることができ、二酸化炭素濃度の測定感度を向上させることが可能となる。
【0071】
また、上記実施形態において、メモリ154が保持する濃度情報が、酸化ピーク電流値OPと、液体中の二酸化炭素の濃度とが予め関連付けられた情報である場合を例に挙げて説明した。しかし、濃度情報は、還元ピーク電流値RPと、液体中の二酸化炭素の濃度とが予め関連付けられた情報であってもよい。この場合、電流値測定部162は、還元ピーク電流値RPを測定し、濃度導出部164は、メモリ154に保持された濃度情報を参照して、電流値測定部162によって測定された還元ピーク電流値RPから二酸化炭素濃度を導出する。
【0072】
また、上記実施形態において、メモリ154が保持する濃度情報が検量線を示す関数である場合を例に挙げて説明した。しかし、濃度情報は、酸化ピーク電流値OPと、液体中の二酸化炭素の濃度とが予め関連付けられた情報、もしくは、還元ピーク電流値RPと、液体中の二酸化炭素の濃度とが予め関連付けられた情報であれば、検量線を示す関数以外であってもよく、例えば、検量線を示すテーブルであってもよい。さらに、濃度情報は、酸化ピーク電流値OPや還元ピーク電流値RPにかかわらず、サイクリックボルタモグラムで囲まれた面積と、液体中の二酸化炭素の濃度とが予め関連付けられた情報であってもよい。少なくとも、濃度情報は、作用極110の電位を変化させることで変化する、作用極110と対極130との間に流れる電流値と、液体中の二酸化炭素の濃度とが予め関連付けられた情報であればよい。
【0073】
また、上記実施形態において、二酸化炭素濃度導出装置100が濃度導出部164を備える構成について説明したが、濃度導出部164は必須の構成ではない。例えば、電流値測定部162が測定した酸化ピーク電流値OPが予め定められた閾値を超えた場合に、結果出力部166が、その旨を外部に出力(報知)するとしてもよい。同様に、電流値測定部162が測定した還元ピーク電流値RPが予め定められた閾値未満となった場合に、結果出力部166が、その旨を外部に出力するとしてもよい。