(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
少なくとも前記外径寸法が大きい各アンギュラ玉軸受において、前記軸方向外側に位置するアンギュラ玉軸受は前記軸方向内側に位置するアンギュラ玉軸受よりも玉ピッチ円径において大きいことを特徴とする請求項1に記載の組合せ玉軸受。
前記ハウジングは、前記ビルトインモータのステータが取付けられる外筒ハウジングと、該外筒ハウジングの前部に設けられ、前記前側軸受の外輪が内嵌される前側軸受ハウジングと、前記外筒ハウジングの後部に設けられ、前記後側軸受の外輪が内嵌、又は、軸受スリーブを介して支持される後側軸受ハウジングと、を有し、
前記前側軸受ハウジングは、外周面が大径外周面と小径外周面とを有する段付き形状に形成され、
前記前側軸受ハウジングの小径外周面の少なくとも一部は、前記ステータのエンドコイルと半径方向から見てオーバーラップするように、前記ステータのエンドコイルの内側に配置され、
前記モータ側軸受の少なくとも一つは、前記前側軸受ハウジングの小径外周面と半径方向から見てオーバーラップする位置で、前記前側軸受ハウジングに内嵌されることを特徴とする請求項3に記載の主軸装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献2に記載の4つのアンギュラ玉軸受は、同一の構成のものが使用されているが、主軸剛性の増加による高精度加工や、軸受の疲れ寿命の増加、耐焼付性の向上が求められており、さらなる改善が必要であった。また、主軸装置では、主軸の衝突により、刃物先端に荷重が負荷されると、刃物側軸受で最も荷重を受けるため、玉と軌道面との接触部で圧痕が形成されやすく、耐衝撃性においても改善が求められていた。
【0006】
また、特許文献1に記載の主軸装置では、ビルトインモータのステータ113の軸方向両端部には、エンドコイル114と呼ばれるステータコイルの渡り部が突出している。
図7の主軸装置では、前側軸受106、107が内嵌される前部ハウジング102は、エンドコイル114の軸方向外側に形成されており、前後軸受106、107、108、109間のスパンが大きくなっている。そのため、主軸105の全長が長くなって、全体寸法が大きくなるという問題があった。
【0007】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、主軸剛性の増加による高精度加工や、軸受の疲れ寿命の増加、耐焼付性の向上、及び耐衝撃性の向上に寄与することができる組合せ玉軸受、及び主軸装置、並びに工作機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 軸方向に配列されてなる4列以上のアンギュラ玉軸受を有し、接触角の向きが同じ2列以上の前記アンギュラ玉軸受同士が背面組合せされてなる組合せ玉軸受であって、
前記各アンギュラ玉軸受は、それぞれ等しい内径寸法を有し、
前記接触角の向きが同じ前記各アンギュラ玉軸受同士は、それぞれ等しい外径寸法を有する一方、前記接触角の向きが異なる前記各アンギュラ玉軸受は、それぞれ異なる外径寸法を有し、
少なくとも外径寸法が大きい前記各アンギュラ玉軸受において、軸方向外側に位置する前記アンギュラ玉軸受は軸方向内側に位置する前記アンギュラ玉軸受よりも玉径及び接触角において大きいことを特徴とする組合せ玉軸受。
(2) 少なくとも前記外径寸法が大きい各アンギュラ玉軸受において、前記軸方向外側に位置するアンギュラ玉軸受は前記軸方向内側に位置するアンギュラ玉軸受よりも玉ピッチ円径において大きいことを特徴とする(1)に記載の組合せ玉軸受。
(3) 回転軸が前側及び後側軸受を介してハウジングに回転自在に支持されるとともに、前記回転軸がビルトインモータによって回転駆動される主軸装置であって、
前記前側軸受は、(1)または(2)に記載の組合せ玉軸受によって構成され、前記外径寸法が小さい各アンギュラ玉軸受を前記ビルトインモータ寄りのモータ側軸受とし、前記外径寸法が大きい各アンギュラ玉軸受を該モータ側軸受に対して前記ビルトインモータから離れた反モータ側軸受とすることを特徴とする主軸装置。
(4) 前記ハウジングは、前記ビルトインモータのステータが取付けられる外筒ハウジングと、該外筒ハウジングの前部に設けられ、前記前側軸受の外輪が内嵌される前側軸受ハウジングと、前記外筒ハウジングの後部に設けられ、前記後側軸受の外輪が内嵌、又は、軸受スリーブを介して支持される後側軸受ハウジングと、を有し、
前記前側軸受ハウジングは、外周面が大径外周面と小径外周面とを有する段付き形状に形成され、
前記前側軸受ハウジングの小径外周面の少なくとも一部は、前記ステータのエンドコイルと半径方向から見てオーバーラップするように、前記ステータのエンドコイルの内側に配置され、
前記モータ側軸受の少なくとも一つは、前記前側軸受ハウジングの小径外周面と半径方向から見てオーバーラップする位置で、前記前側軸受ハウジングに内嵌されることを特徴とする(3)に記載の主軸装置。
(5) 前記モータ側軸受と前記反モータ側軸受とは、定位置予圧が付与されており、
前記モータ側軸受の外輪は、嵌め合いすきまを持って、前記前側軸受ハウジングに内嵌されることを特徴とする(4)に記載の主軸装置。
(6) 前記モータ側軸受と前記反モータ側軸受とは、定位置予圧が付与されており、
前記モータ側軸受の外輪は、軸方向すきまを持って、前記前側軸受ハウジングに対して軸方向に位置決めされることを特徴とする(4)又は(5)に記載の主軸装置。
(7) 前記後側軸受の外輪が前記軸受スリーブに内嵌されるとともに、前記軸受スリーブが前記後側軸受ハウジングに内嵌され、
前記軸受スリーブの少なくとも一部は、前記ステータのエンドコイルと径方向から見てオーバーラップするように、前記ステータのエンドコイルの内側に配置されることを特徴とする(4)〜(6)のいずれかに記載の主軸装置。
(8) 前記後側軸受の外輪は、前記後側軸受ハウジングに内嵌され、
前記後側軸受ハウジングの少なくとも一部は、前記ステータのエンドコイルと径方向から見てオーバーラップするように、前記ステータのエンドコイルの内側に配置されることを特徴とする(4)〜(6)のいずれかに記載の主軸装置。
(9) (3)〜(8)のいずれかに記載の主軸装置を備えたことを特徴とする工作機械。
(10) 前記主軸装置がチルト機構又は旋回機構に搭載されていることを特徴とする(9)に記載の工作機械。
【発明の効果】
【0009】
本発明の組合せ玉軸受によれば、接触角の向きが同じ2列以上のアンギュラ玉軸受同士が背面組合せされてなり、各アンギュラ玉軸受は、それぞれ等しい内径寸法を有し、接触角の向きが同じ各アンギュラ玉軸受同士は、それぞれ等しい外径寸法を有する一方、接触角の向きが異なる各アンギュラ玉軸受は、それぞれ異なる外径寸法を有する。また、少なくとも外径寸法が大きい各アンギュラ玉軸受において、軸方向外側に位置するアンギュラ玉軸受は軸方向内側に位置するアンギュラ玉軸受よりも玉径及び接触角において大きい。これにより、上記組合せ玉軸受を主軸装置に適用し、外径寸法が大きい各アンギュラ玉軸受を切削荷重(ラジアル荷重やアキシアル荷重)を負荷する刃物側に配置することで、主軸剛性(モーメント剛性及びアキシアル剛性)の増加による高精度加工や、軸受の疲れ寿命の増加、耐焼付性の向上に寄与することができる。さらに、刃物先端に荷重が負荷された際に、最も荷重を負担する軸方向外側のアンギュラ玉軸受の圧痕の発生を抑制することができ、耐衝撃性を向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の各実施形態に係る主軸装置について図面に基づいて詳細に説明する。
【0012】
(第1実施形態)
図1に示す、本実施形態の主軸装置Mは、ビルトインモータタイプのものであり、チルト機構や旋回機構を有する工作機械に組み付けて使用される。主軸装置Mは、回転軸80が前側及び後側軸受40、60を介してハウジングHに回転自在に支持されるとともに、回転軸80がビルトインモータ70によって回転駆動される。
【0013】
ハウジングHは、図示しない工作機械のブラケットに固定される外筒ハウジング10と、外筒ハウジング10の前部に設けられた前側軸受ハウジング20と、外筒ハウジング10の後部に設けられた後側軸受ハウジング30と、後側軸受ハウジング30の内側に配置され、後側軸受ハウジング30に対して軸方向に相対移動可能な軸受スリーブ36と、を有する。
【0014】
図2及び
図3にも示すように、前側軸受40は、前側軸受ハウジング20と回転軸80の前部との間に配置される4列のアンギュラ玉軸受を有する。即ち、前側軸受40は、接触角の向きが同じ並列組合せされてなる、ビルトインモータ寄りのモータ側軸受41,51と、接触角の向きが同じ並列組合せされてなる、該モータ側軸受41,51に対してビルトインモータ70から離れた反モータ側軸受42,52と、を備える。モータ側軸受41,51と反モータ側軸受42,52は、前側軸受ハウジング20に内嵌される外輪41a,51a,42a,52aと、回転軸80に外嵌される内輪41c,51c,42c,52cと、外輪41a,51a,42a,52aと内輪41c,51c,42c,52cとの間でそれぞれ接触角を持って転動する転動体として複数の玉41b,51b,42b,52bを有し、外輪間座43,内輪間座45を介して背面組み合わせで軸方向に配列されている。
なお、モータ側軸受41,51及び反モータ側軸受42,52は、アンギュラ玉軸受41,51,42,52とも呼ぶ。
【0015】
また、外輪41a,51a,42a,52aは、以下に詳述するが、前側軸受ハウジング20と、前側軸受ハウジング20に固定される外輪抑え部材47との間で、外輪間座43、44を介して軸方向に位置決めされる。さらに、内輪41c,51c,42c,52cは、回転軸80に形成されたねじ溝80aに軸受固定ナット86を回転軸80の段部80dに向けて締付けることで、内輪間座45、46を介して軸方向に固定され、これにより、軸受41,51,42,52には予圧が付与される。
【0016】
なお、軸受固定ナット86は、後述するステータ71のエンドコイル73の内側で、前側軸受ハウジング20の後端部とロータ72(本実施形態では、ロータスリーブ81)の前端部との間に配置される。また、軸受固定ナット86が螺合するねじ溝80aは、前側軸受40が嵌合する回転軸80の外周面に形成され、ロータスリーブ81が嵌合する外周面より大径に形成されている。また、回転軸80の刃物側端部の外周面は、前側軸受40が嵌合する回転軸80の外周面よりも大径に形成され、また、外輪間座44とともにラビリンスシール構造を形成するシール部80eを有する。したがって、回転軸80は、刃物側端部から後方に向かって断続的に外周面が縮径するように形成されている。
【0017】
また、
図4に示すように、後側軸受60も、軸受スリーブ36と回転軸80の後部との間に配置され、ビルトインモータ寄りのモータ側軸受61と、該モータ側軸受61に対してビルトインモータ70から離れた反モータ側軸受62と、を備える。モータ側軸受61と反モータ側軸受62は、軸受スリーブ36に内嵌される外輪61a,62aと、回転軸80に外嵌される内輪61c,62cと、外輪61a,62aと内輪61c,62cとの間でそれぞれ接触角を持って転動する転動体として複数の玉61b,62bを有するアンギュラ玉軸受であり、外輪間座63,内輪間座64を介して背面組み合わせされている。
【0018】
また、外輪61a,62aは、軸受スリーブ36と、軸受スリーブ36に固定される外輪抑え部材65との間で、外輪間座63を介して軸方向に位置決めされる。また、内輪61c,62cは、回転軸80に形成されたねじ溝80bに軸受固定ナット87を回転軸80の段部80fに向けて締付けることで、内輪間座66及び速度センサ95の被検出部用リング部材67を介して軸方向に固定され、これにより、軸受61,62には、予圧が付与される。
【0019】
図1に戻って、ビルトインモータ70は、前側軸受40と後側軸受60との間のスペースに配置され、外筒ハウジング10の内周に冷却筒11を介して固定されたステータ71と、回転軸80の外周に設けられたロータスリーブ81に焼き嵌めされたロータ72と、を有し、ステータ71の軸方向両端部には、ステータコイルのエンドコイル73が略環状の凸部として突出している。なお、ロータスリーブ81は、回転軸80の外周上に焼バメ締結されている。
【0020】
また、外筒ハウジング10の内周面には、冷却用溝10aが形成され、冷却筒11が内嵌されることで、冷却経路を構成する。さらに、互いに嵌合する外筒ハウジング10の内周面と、前側軸受ハウジング20の外周面との間にも、前側軸受ハウジング20の外周面に冷却油溝20aが形成されることで、他の冷却経路を構成している。
【0021】
回転軸80の内径部には、軸方向に延びるドローバー93と、ドローバー93の先端側に設けられ、図示しない工具ホルダを回転軸80のテーパ部80cに固定するためのクランピングユニット90と、ドローバー93と回転軸80との間に設けられ、クランピングユニット90を反工具側に引き込む皿バネ94と、が組み込まれている。また、後側軸受ハウジング30の後方には、回転軸80の内径部に組み込まれた皿バネ94を圧縮して工具ホルダをアンクランプする図示しないアンクランプユニットが取り付けられている。
【0022】
ここで、
図2に示すように、前側軸受40では、モータ側軸受41,51と反モータ側軸受42,52とは、それぞれ等しい内径寸法(d41=d51=d42=d52)を有する。また、接触角の向きが同じモータ側軸受41,51同士、及び、接触角の向きが同じ反モータ側軸受42,52同士は、それぞれ等しい外径寸法(D41=D51、D42=D52)を有する一方、モータ側軸受41,51と反モータ側軸受42,52とは、それぞれ異なる外径寸法を有し、具体的に、反モータ側軸受42,52は、モータ側軸受41,51より外径寸法が大きい(D42=D52>D41=D51、)。
【0023】
また、外径寸法が大きい反モータ側軸受42,52において、軸方向外側に位置するアンギュラ玉軸受42は、軸方向内側に位置するアンギュラ玉軸受52よりも玉径、接触角及び玉ピッチ円径のいずれにおいても大きく設定されている(即ち、Da42>Da52、α42>α52、dm42>dm52)。
【0024】
一方、外径寸法が小さいモータ側軸受41,51において、軸方向外側に位置するアンギュラ玉軸受41と軸方向内側に位置するアンギュラ玉軸受51とは、玉径、接触角及び玉ピッチ円径のいずれにおいても互いに等しく設定されている(即ち、Da41=Da52、α41=α51、dm41=dm51)。
【0025】
即ち、外径寸法が大きい各アンギュラ玉軸受42,52を切削荷重(ラジアル荷重やアキシアル荷重)を負荷する刃物側に配置することで、主軸剛性(モーメント剛性及びアキシアル剛性)の増加による高精度加工や、軸受の疲れ寿命の増加を行うことができる。
一方、外径寸法が小さいモータ側軸受41,51では、反刃物側に配置されることで、切削荷重の負荷が小さいので、軸受の耐久性や寿命低下の心配がなく、剛性上の不都合がない。
また、モータ側軸受41,51同士、及び反モータ側軸受42,52同士が、それぞれ等しい外径寸法を有することで、加工費用や組付費用の増加を抑えることができる。仮に、モータ側軸受41,51や反モータ側軸受42,52の外径寸法を異ならせた場合、はめあいの管理部位が2箇所或いは4箇所となり、加工工数が増加し、加工費用や組付費用の増加につながる。さらに、反モータ側軸受42,52の外径寸法を異ならせた場合、外輪42a,52aの軸方向位置決め(適正な外輪軸方向押え代の確保)が困難となる。
【0026】
また、モータ側軸受41,51では、外径寸法が小さいことで玉ピッチ円径も小さくなり、ロータ72の発熱により熱的負荷を受けやすいモータ側軸受41,51のdmn(dm:玉ピッチ円径とn:回転数(min-
1)との積)値が小さくでき、高速回転時に生じやすいモータ側軸受41,51の焼付きを防止することができる。
【0027】
また、外径寸法が大きい各アンギュラ玉軸受42,52において、軸方向外側に位置するアンギュラ玉軸受42が軸方向内側に位置するアンギュラ玉軸受52よりも玉径において大きく設定されることで(Da42>Da52)、刃物先端に荷重が負荷された際に、最も荷重を負担する軸方向外側のアンギュラ玉軸受42の限界荷重(玉と軌道面との接触部に圧痕が発生する最低の荷重)が大きくなり、圧痕の発生を抑制することができ、耐衝撃性を向上することができる。
さらに、アンギュラ玉軸受42では、玉径Da42を大きくすることで、転がり摩擦による発熱がある程度増大するが、軸方向外側に位置することで、軸受自身の転がり摩擦による発熱分を外部に逃がすことが容易であり、軸受の転がり摩擦による発熱で焼付く可能性は低い。したがって、玉径を大きくして、軸方向外側に位置するアンギュラ玉軸受42の転がり摩擦による発熱がある程度増大したとしても、問題なく使用することができる。
【0028】
また、軸方向外側に位置するアンギュラ玉軸受42は軸方向内側に位置するアンギュラ玉軸受52よりも接触角において大きく設定されているので(α42>α52)、組合せ玉軸受及び主軸装置のアキシアル剛性を高めることができる。
主軸系のラジアル剛性は、軸受の剛性以外に回転軸の曲げ剛性が影響するが、アキシアル剛性に関しては、軸受の剛性でほぼ決定される。一般に接触角を大きくすると、スピン滑りやジャイロ滑りなど、滑りが大きくなり、軸受の発熱量が増大する。軸方向外側のアンギュラ玉軸受42では、発熱量の増加をある程度許容することができるが、軸方向内側のアンギュラ玉軸受52では、発熱量の増加を許容することができない。このため、軸方向内側のアンギュラ玉軸受52の接触角を小さくしている。
【0029】
また、軸方向外側に位置するアンギュラ玉軸受42は、軸方向内側に位置するアンギュラ玉軸受52よりも玉ピッチ円径において大きく設定されているので(dm42>dm52)、モーメント長を長くすることができ、組合せ玉軸受及び主軸装置のモーメント剛性を高めることができる。
一方、玉ピッチ円径を大きくすることによる弊害として、軸受回転時のdmn値が大きくなり、軸受の転がり摩擦による発熱が大きくなることが挙げられる。しかしながら、上述したように、軸方向外側のアンギュラ玉軸受42では、軸受の発熱が増大したとしても、問題なく使用することができるが、軸方向内側のアンギュラ玉軸受52では、発熱量の増大を避けなければならない。このため、軸方向内側のアンギュラ玉軸受52の玉ピッチ円径dm52を小さくしている。
【0030】
なお、本実施形態では、外径寸法が大きい反モータ側軸受42,52と、外径寸法が小さいモータ側軸受41,51との間での玉径、接触角及び玉ピッチ円径の関係は、Da42>Da52>Da41=Da51、α42>α52≧α41=α51、dm42>dm52>dm41=dm51に設定されている。
【0031】
また、
図3に示すように、本実施形態では、前側軸受ハウジング20は、外周面が外筒ハウジング10の内周面と嵌合する大径外周面21と、該大径外周面21より小径の小径外周面22とを有する段付き形状に形成される。また、前側軸受ハウジング20の小径外周面22の少なくとも一部は、ステータ71のエンドコイル73と半径方向から見てオーバーラップするように、ステータ71のエンドコイル73の内側に配置される。
【0032】
また、前側軸受40において、組合せ玉軸受において軸方向外側となるモータ側軸受41は、前側軸受ハウジング20の小径外周面22と半径方向から見てオーバーラップする位置で、前側軸受ハウジング20に内嵌される。前側軸受ハウジング20の内周面は、モータ側軸受41,51が内嵌される小径内周面23と、反モータ側軸受42,52が内嵌される大径内周面24とで段付き形状に形成されている。また、本実施形態では、モータ側軸受41は、ステータ71のエンドコイル73と半径方向から見てオーバーラップするように、ステータ71のエンドコイル73の内側に配置される。
【0033】
反モータ側軸受42,52の外輪外径と前側軸受ハウジング20の内径の嵌め合いすきまL1は、モータ側軸受41,51の外輪外径と前側軸受ハウジング20の内径の嵌め合いすきまL2より小さくしている(L1<L2)。
【0034】
即ち、反モータ側軸受42,52の外輪外径と前側軸受ハウジング20の内径の嵌め合いすきまL1は、直径すきまで、0μm〜20μm程度とし、より好ましくは、0μm〜10μm程度としている。
一方、モータ側軸受41,51の外輪外径と前側軸受ハウジング20の内径の嵌め合いすきまL2は、直径すきまで、10μm〜5mm程度のすきま(=ΔR)程度としている。
【0035】
モータ側軸受41,51の外輪外径と前側軸受ハウジング20の内径との嵌め合いすきまL2(=ΔR)を大きくすることで、高速回転中に、遠心力や内外輪温度差により発生する内部予圧の増加により、当該すきま部分で外輪41a,51aが膨張する。該外輪41a,51aの膨張作用は予圧が抜ける方向に作用し、前側軸受40全体としての予圧増加を軽減する効果がある。したがって、モータ側軸受41,51のみならず、前側軸受40全体の焼付きを防止することができる。
【0036】
なお、嵌め合いすきまL2が5mmを越えると、軸受内径がφ100mm以下(標準的なスピンドルサイズ)の軸受の場合、反モータ側軸受42,52の外輪42a,52aを固定する肩部平面が確保できなくなる。
一方、嵌め合いすきまL2が10μmより小さいと、外輪41a,51aが膨張した際、該すきま部分がなくなり、予圧軽減効果が不十分となる。なお、嵌め合いすきまL2は、実用的には、10〜200μm程度が望ましい。
【0037】
また、本実施形態では、反モータ側軸受42,52の外輪42a,52aは、一端側が前側軸受ハウジング20の肩部25に外輪間座43を介して接触固定され(または、直接、接触固定されてよい)、他端側が外輪間座44を介して外輪抑え部材47で固定されて、軸方向に位置決めされている。
【0038】
一方、モータ側軸受41,51の外輪41a,51aは、一端部が外輪間座43を介して反モータ側軸受42,52に固定され(または、反モータ側軸受42,52に直接接触固定されてもよい)、他端部が前側軸受ハウジング20の他の肩部26との間に軸方向すきま(ΔA)を設けて、配置されている。軸方向すきまΔAは、ΔA>0であれば、特に数値は問わない。
この場合、前側軸受ハウジング20の肩部25に接触する外輪間座43は、両端部の切欠き部分の内径寸法を異ならせており、モータ側端部は、外輪41a,51aと当接するように反モータ側端部よりも小径に形成されている。
【0039】
特に、精密スピンドルの場合、外輪41a,51a,42a,52aの締め付け時の歪な変形を抑えるため、押し付け代の精度管理は、数μm〜十数μmのバラつきに抑える必要が有り、外径寸法が異なる4つの軸受41,51,42,52を、それぞれ肩部25、26に同時に適正な押し付け代で固定するのは非常に困難である。
一方、本実施形態のように、軸方向すきま(ΔA)を設ける、つまり、軸受41,51の外輪単体幅と小径内周面23の幅の各単体部品の加工誤差を考慮して、ΔA>0となるように軸受41,51の外輪単体幅と小径内周面23の幅の寸法を加工設定しておけば、主軸組立時の後加工や微調整が不要となる。前側軸受40の軸方向の固定は、大径内周面24の幅に対して、軸受42,52の外輪単体幅、外輪間座43、44との寸法差を確認した後、外輪抑え部材47の幅を調整するのみで可能となる(日常、実施されるスピンドル組込作業と同様)。
仮に、本発明と異なり、軸受41,51も同時に前側軸受40と同一の押え代で締め付けようとした場合、さらに、軸受41,51の外輪単体幅に対して、小径内周面23の幅(肩部25、26間の距離)の数μmレベルの調整が必要となり、加工部位が穴の奥部であることから微調整加工が極めて困難である。なお、本実施形態のように、軸受41,51の間に間座43,45が配置されている場合、外輪間座43を含めた調整が必要であり、さらに煩雑となる。
【0040】
なお、通常、固定側軸受となる前側軸受40は剛性及び回転精度確保のため定位置予圧が負荷されているので、モータ側軸受41,51の外輪41a,51aは、予圧により外輪間座43と密着嵌合している。したがって、反モータ側軸受42,52が
図2にように固定されていれば、上記すきま(ΔR及びΔA)があっても、モータ側軸受41,51の外輪41a,51aが回転中に内輪41c,51cと共回りすることはない。
また、本構成としても、加工中に主軸に負荷されるラジアル荷重は、サイズが大きく、負荷容量が大きい、反モータ側軸受42,52によって負荷されるので、支障がない。
【0041】
以上のように、本実施形態の組合せ玉軸受を構成する前側軸受40は、接触角の向きが同じ2列のアンギュラ玉軸受41,51,42,52同士が背面組合せされてなり、各アンギュラ玉軸受41,51,42,52は、それぞれ等しい内径寸法を有し、接触角の向きが同じ各アンギュラ玉軸受41,51,42,52同士は、それぞれ等しい外径寸法を有する一方、接触角の向きが異なる各アンギュラ玉軸受41,51,42,52は、それぞれ異なる外径寸法を有する。そして、外径寸法が大きい各アンギュラ玉軸受42,52において、軸方向外側に位置するアンギュラ玉軸受42は軸方向内側に位置するアンギュラ玉軸受52よりも玉径及び接触角において大きく設定されている。これにより、上記組合せ玉軸受を主軸装置に適用し、外径寸法が大きい各アンギュラ玉軸受42,52を切削荷重(ラジアル荷重やアキシアル荷重)を負荷する刃物側に配置することで、主軸剛性(モーメント剛性及びアキシアル剛性)の増加による高精度加工や、軸受の疲れ寿命の増加、耐焼付性の向上に寄与することができる。また、刃物先端に荷重が負荷された際に、最も荷重を負担する軸方向外側のアンギュラ玉軸受の圧痕の発生を抑制することができ、耐衝撃性を向上することができる。
【0042】
また、外径寸法が大きい各アンギュラ玉軸受42,52において、軸方向外側に位置するアンギュラ玉軸受42は軸方向内側に位置するアンギュラ玉軸受52よりも玉ピッチ円径において大きく設定されているので、組合せ玉軸受及び主軸装置のモーメント剛性を高めることができる。
【0043】
また、本実施形態の構成の主軸装置Mでは、前側軸受ハウジング20は、外周面が大径外周面21と小径外周面22とを有する段付き形状に形成され、前側軸受ハウジング20の小径外周面22の少なくとも一部は、ステータ71のエンドコイル73と半径方向から見てオーバーラップするように、ステータ71のエンドコイル73の内側に配置され、前側軸受40は、ビルトインモータ寄りのモータ側軸受41,51と、該モータ側軸受41,51に対してビルトインモータ70から離れた反モータ側軸受42,52と、を備える。そして、組合せ玉軸受において軸方向外側のモータ側軸受41は、前側軸受ハウジング20の小径外周面22と半径方向から見てオーバーラップする位置で、前側軸受ハウジング20に内嵌される。
これにより、外径の小さいモータ側軸受41を、エンドコイル73内に配置でき、スピンドルの短寸化が図れ、回転軸80の全長の短縮に貢献することができ、それにより、主軸装置Mの軸方向寸法のコンパクト化と軽量化を図ることができる。
【0044】
また、回転軸80の前後軸受40、60間スパンの減少により、回転軸80の固有振動数を高くすることができて、最高回転数をより高速にすることも可能となり、動剛性が高くなることで、振動を小さく抑えることも可能となる。また、回転部のイナーシャ減により、急加速性の向上と電力減による省エネ効果も期待できる。また、チルト機構や旋回機構に搭載する場合は、主軸装置Mのコンパクト化と軽量化により、チルト機構や旋回機構の構造のコンパクト化も図れる。
【0045】
また、本実施形態では、軸受スリーブ36は、ステータ71のエンドコイル73と径方向から見てオーバーラップするように、ステータ71のエンドコイル73の内側に配置される円筒部37を有するので、回転軸80の全長をさらに短縮することができる。さらに、後側軸受60のモータ側軸受61がステータ71のエンドコイル73の内側に配置されるので、回転軸80の全長をより効果的に短縮することができる。
【0046】
なお、上記実施形態では、外径寸法が大きい反モータ側軸受42,52において、軸方向外側に位置するアンギュラ玉軸受42は、軸方向内側に位置するアンギュラ玉軸受52よりも玉径、接触角及び玉ピッチ円径のいずれにおいても大きく設定されているが、本発明は、軸方向外側に位置するアンギュラ玉軸受42が、軸方向内側に位置するアンギュラ玉軸受52よりも、少なくとも玉径及び接触角において大きく設定されるものであればよい。
【0047】
また、外径寸法が小さいモータ側軸受41,51において、軸方向外側に位置するアンギュラ玉軸受41と軸方向内側に位置するアンギュラ玉軸受51とは、玉径、接触角及び玉ピッチ円径のいずれにおいても互いに等しく設定されているが、本発明は、これに限らず、組合せ玉軸受の軸方向外側に位置するアンギュラ玉軸受41が、軸方向内側に位置するアンギュラ玉軸受51よりも、玉径、接触角及び玉ピッチ円径の少なくとも一つにおいても大きく設定されてもよい。
【0048】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る主軸装置について
図5に基づいて詳細に説明する。なお、第1実施形態と同一または同等部分については、同一符号を付して、説明を省略或いは簡略化する。
【0049】
第1実施形態では、後側軸受60として、組合せアンギュラ玉軸受が使用されていたが、本実施形態では、
図5に示すように、後側軸受60として、単列円筒ころ軸受68が使用されている。
【0050】
このため、円筒ころ軸受68の外輪68aは、後側軸受ハウジング30に直接内嵌されており、後側軸受ハウジング30に固定される外輪抑え部材65によって軸方向に固定される。また、円筒ころ軸受68の内輪68cは、回転軸80に外嵌され、ねじ溝80bに軸受固定ナット87を締め付けることで、内輪間座69、被検出部用リング部材67を介して、軸方向に固定される。外輪68aと内輪68cとの間には、複数の円筒ころ68bが配置される。
【0051】
後側軸受ハウジング30は、ステータ71のエンドコイル73と径方向から見てオーバーラップするように、ステータ71のエンドコイル73の内側に配置される円筒部31を有する。したがって、単列円筒ころ軸受68を用いることで、第1実施形態の主軸装置と比べて、さらに短寸化を図ることができる。
また、本実施形態のように、円筒ころ軸受68の少なくとも一部を、径方向から見て、エンドコイル73とオーバーラップさせることで、さらに、短寸化を図ることができる。
その他の構成及び作用については、第1実施形態のものと同様である。
【0052】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が可能である。
【0053】
例えば、本実施形態では、4列背面組合せアンギュラ玉軸受の各アンギュラ玉軸受間に内輪間座及び外輪間座が配置されているが、各内輪間座及び外輪間座をなくして、さらに短寸化を図ってもよい。
【0054】
また、後側軸受についても、2列以上の組合せアンギュラ玉軸受を適用する場合、前側軸受と同様に、反モータ側軸受外輪外径>モータ側軸受外輪外径とするなど、前側軸受と同様の構成をしてもよい。
【0055】
さらに、上記実施形態では、後側軸受ハウジングや軸受スリーブの少なくとも一部は、ステータのエンドコイルと径方向から見てオーバーラップするように、ステータのエンドコイルの内側に配置されて、短寸化を図っている。しかしながら、本発明の主軸装置は、上記実施形態の組合せ玉軸受を構成するものであればこれに限らず、例えば、
図6に示す変形例のように、後側軸受ハウジング30がステータ71のエンドコイル73の内側に配置されていない構成であってもよい。
【0056】
また、上記実施形態では、主軸装置の前側軸受として適用される、4列のアンギュラ玉軸受を組合せ玉軸受として説明しているが、本発明の組合せ玉軸受は、これに限らず、軸方向に配列されてなる4列以上のアンギュラ玉軸受を有し、接触角の向きが同じ2列以上のアンギュラ玉軸受同士が背面組合せされてなるものであればよい。
【0057】
加えて、本発明の組合せ玉軸受は、本実施形態のハウジングの形状に限定されず、回転軸がビルトインモータによって回転駆動される任意のビルトインモータタイプの主軸装置に適用可能である。即ち、該組合せ玉軸受を用いた本発明の主軸装置は、外径寸法が小さい各アンギュラ玉軸受をビルトインモータ寄りのモータ側軸受とし、外径寸法が大きい各アンギュラ玉軸受を該モータ側軸受に対してビルトインモータから離れた反モータ側軸受とするものであればよい。