(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
圧力の異なる2つの空間を隔てるシール構造であって、前記圧力の異なる2つの空間のうち高圧側の空間に配置される筒状のハウジングと、前記ハウジングに挿入されるシャフトと、前記シャフトに固定されて前記シャフトとともに回転または、軸方向に移動し、前記ハウジングに接して、前記ハウジングと前記シャフトとの間に設けられた隙間を密封する環状の第1シール部材と、前記シャフトの外径面で前記第1シール部材と所定の間隔を有し、前記第1シール部材よりも高圧側空間寄りの位置に固定されて、前記シャフトとともに回転または軸方向に所定の距離間を移動し、前記ハウジングに接して、前記隙間を密封する環状の第2シール部材と、を有し、前記ハウジングは、前記隙間の内、前記第1シール部材と前記第2シール部材とで囲まれる空間に冷却用流体を通過させるための複数の貫通穴を備えることを特徴とするシール構造。
前記第1シール部材及び前記第2シール部材は、前記シャフトの径方向内側に向かって突出し、前記シャフトおよび前記シャフトの一端部に固定されて、前記シャフトとともに回転する回転部材に挟まれて固定されるシールフランジ部を備えることを特徴とする請求項1に記載のシール構造。
前記第1シール部材及び前記第2シール部材は、前記リップ部と、前記環状連結部と、前記固定部とで囲まれる空間に設けられて、前記リップ部を前記ハウジングに押し付ける付勢部材を備えることを特徴とする請求項3に記載のシール構造。
前記第1シール部材及び前記第2シール部材の、前記リップ部と、前記環状連結部と、前記固定部とで囲まれる空間は、前記圧力の異なる2つの空間のうち、高圧側の空間に向かって開口していることを特徴とする請求項3または4に記載のシール構造。
前記第1シール部材と、前記第2シール部材との軸方向間隔は、前記シャフト,前記第1シール部材及び前記第2シール部材が軸方向に移動可能な距離よりも大きく設定されることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のシール構造。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された技術は、密封性を高めるものの、オイルシールがハウジングに取り付けられるため、例えば、プロセス室内でワークを加熱するような場合、ワークの熱は平板を介して回転軸に伝わり、接触式シールの温度も上昇する。一般的に、シールに用いられるゴムやエラストマー等の弾性部材は熱伝導性が低く、シールからハウジングへ熱を放熱しづらいため、シール周りの温度が上昇しやすくなる。接触式シールの温度が上昇すると、接触式シールが熱膨張し接触式シールの回転軸または平板に対する接触圧が大きくなるので、接触式シールの摩耗が進みやすくなる。このため、接触式シールの寿命が短くなり、部品交換の頻度が高くなる可能性があった。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、回転軸及び接触式シールの温度上昇を防ぎ、接触式シールの交換頻度を低減することができるシール構造、回転−直動駆動装置、搬送装置、工作機械および半導体製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係るシール構造は、圧力の異なる2つの空間を隔てるシール構造であって、
前記圧力の異なる2つの空間のうち高圧側の空間に配置される筒状のハウジングと、前記ハウジングに挿入されるシャフトと、前記シャフトの外径面で固定されて、前記シャフトとともに回転または、軸方向に所定の距離間を移動し、前記ハウジングに接して、前記ハウジングと前記シャフトとの間に設けられた隙間を密封する環状の第1シール部材と、前記シャフトの外径面で前記第1シール部材と一定の間隔を有し、前記第1シール部材よりも高圧側空間寄りの位置に固定されて、前記シャフトとともに回転または軸方向に所定の距離間を移動し、前記ハウジングに接して、前記隙間を密封する環状の第2シール部材と、を有し、前記ハウジングは、前記隙間の内、前記第1シール部材と前記第2シール部材とで囲まれる空間に冷却用の流体を通過させるための複数の貫通孔を備えることを特徴とする。
【0007】
これにより、ハウジングの貫通孔によって第1シール部材と第2シール部材との間の空間に冷却用流体を流すことで、ハウジング内径面、シャフトの外径面、第1シール部材、第2シール部材を冷却することができる。
また、シャフトが回転または軸方向に移動するときに生じる、第1シール部材及び第2シール部材とハウジングとの間の摩擦熱や、ワークの加熱やプロセス室内の環境によってシャフトに伝わる熱を外部に逃がすことで、シャフト,第1シール部材及び第2シール部材の温度上昇を抑制できる。よって、本発明に係るシール構造は、接触式シールである第1シール部材及び第2シール部材の交換頻度を低減することができる。
【0008】
本発明の望ましい態様として、前記第1シール部材と前記第2シール部材との間隔は、前記シャフト及び前記第1シール部材、前記第2シール部材が軸方向に移動可能な距離よりも大きく設定するとともに、
前記複数の貫通孔の前記空間側の開口部は、前記第1シール部材の前記高圧側の空間側への軸方向移動端と、前記第2シール部材の前記低圧側の空間側への軸方向移動端と、の間に形成されることが好ましい。
【0009】
これにより、前記貫通穴は、前記シャフトの軸方向の移動範囲全域において、前記空間に冷却用流体を流すことができる。
【0010】
本発明の望ましい態様として、前記第1シール部材及び第2シール部材は、前記シャフトの径方向内側に向かって突出し、前記シャフトおよび前記シャフトの一端部に固定されて、前記シャフトとともに回転する回転部材に挟まれて固定されるシールフランジ部を備えることが好ましい。
【0011】
これにより、シャフトがハウジングに対して回転する際、第1シール部材及び第2シール部材の、シャフトに対する相対的な回転が抑制される。すなわち、第1シール部材及び第2シール部材は、シャフトとともに回転しやすくなる。このため、シール構造は、第1シール部材及び第2シール部材がハウジングとの摩擦により滑る可能性を低減できる。よって、シール構造は、第1シール部材及び第2シール部材とシャフトとの間に摩擦が生じる可能性を抑制することができる。
【0012】
本発明の望ましい態様として、前記第1シール部材及び第2シール部材は、前記シャフトに接する固定部と、前記ハウジングに接するリップ部と、前記固定部と前記リップ部とを連結する環状連結部と、を備えることが好ましい。
【0013】
これにより、リップ部の弾性変形による弾性力により、第1シール部材及び第2シール部材はハウジングに押し付けられる。このため、シール構造は、ハウジングに対する第1シール部材及び第2シール部材の押圧力を高め、隙間の密封性を向上させることができる。そして、第1シール部材及び第2シール部材は、Oリング等である場合に比較して、ハウジングとシャフトとの間のヒートブリッジとなる部分が小さいため、ハウジングとの間で生じる摩擦熱をシャフト側へ熱伝導しにくくしている。これにより、シール構造は、摩擦熱の外部空間側への放熱をより促進することができる。このため、シール構造は、第1シール部材及び第2シール部材の摩耗を抑制することができる。
【0014】
本発明の望ましい態様として、前記第1シール部材及び第2シール部材は、前記リップ部と、前記環状連結部と、前記固定部とで囲まれる空間に設けられて、前記リップ部を前記ハウジングに押し付ける付勢部材を備えることが好ましい。
【0015】
これにより、第1シール部材及び第2シール部材は、リップ部の弾性変形による弾性力および付勢部材の弾性変形による弾性力により、ハウジングに押し付けられる。このため、シール構造は、ハウジングに対する第1シール部材及び第2シール部材の押圧力を高め、前記隙間の密封性を向上させることができる。そして、リップ部に摩耗が生じても、付勢部材は、ハウジングに対する第1シール部材及び第2シール部材の押圧力を維持するように作用する。このため、シール構造は、接触式シールである第1シール部材及び第2シール部材の交換頻度を低減することができる。
【0016】
本発明の望ましい態様として、ハウジングに上述したシール構造を備えるとともに、第2ハウジングに前記シャフトを回転させる電動機とを備える、回転駆動装置であることが好ましい。この構造により、回転駆動装置は、高い密封性を実現でき、かつ接触式シールの交換頻度を低減することができる。
【0017】
本発明の望ましい態様として、上述したシール構造と、被搬送物を移動させる可動部材を備え、前記シャフトの回転及び軸方向移動と、前記可動部材とが連動する、搬送装置であることが好ましい。この構造により、搬送装置は、高い密封性を実現でき、かつ接触式シールの交換頻度を低減することができる。
【0018】
本発明の望ましい態様として、上述したシール構造を備える、工作機械であることが好ましい。この構造により、工作機械は、高い密封性を実現することができ、かつ接触式シールの交換頻度を低減することができる。その結果、工作機械は、工作の品質を高めることができる。
【0019】
本発明の望ましい態様として、上述したシール構造を備える、半導体製造装置であることが好ましい。この構造により、半導体製造装置は、高い密封性を実現することができ、かつ接触式シールの交換頻度を低減することができる。その結果、半導体製造装置は、製造物である半導体の品質を高めることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、接触式シールの交換頻度を低減することができるシール構造、回転−直動駆動装置、搬送装置、工作機械および半導体製造装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態(以下、実施形態という)につき、図面を参照しつつ説明する。なお、下記の実施形態により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0023】
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係るシール構造を備えた半導体製造装置を模式的に示す断面図である。
図2は、実施形態1に係るシール構造を模式的に示す断面図である。
図1および
図2は、回転部材3の回転中心軸Zrを含み、かつ回転中心軸Zrと平行な平面でシール構造1を切った断面を示している。なお、実施形態1において、軸方向とは、回転中心軸Zrと平行な方向であり、径方向とは、回転中心軸Zrに対して直交する方向である。
図3は、実施形態1に係る第1シール部材の周辺部分の拡大図である。シール構造1は、例えば、真空環境、減圧環境、プロセスガス充填環境等の特殊環境下におかれる内部空間Vの密閉を保ちながら回転を伝達する機械要素である。内部空間Vと隔てられた外部空間Eは、内部空間Vに対して高圧である空間または大気雰囲気の空間である。シール構造1は、半導体製造または工作機械製造等の製造装置、搬送装置、回転駆動装置に適用される。ここでは、一例として、半導体製造のための製造装置において、スピンドルを回転軸として備える回転駆動装置(スピンドルユニット)にシール構造1を適用する場合を説明するが、シール構造1の適用対象はこれに限定されるものではない。
【0024】
図1に示すように、例えば半導体製造に用いられる半導体製造装置100は、シール構造1と、筐体10と、電動機8と、直動機構7と、電動機8及び直動機構7を制御する制御装置91を含む。シール構造1と、電動機8と、直動機構7とは、回転−直動駆動装置6として、電動機8の回転を伝達して、搬送テーブルとしての可動部材33を回転させるとともに、直動機構7の軸方向の運動を伝達して可動部材33を軸方向に移動させる。半導体製造装置100は、筐体10の内部空間Vを真空環境、減圧環境、プロセスガス充填環境にした上で、内部空間Vにある被搬送物(例えば、半導体基板、工作物または工具)を可動部材33に搭載して移動させる。被搬送物を移動させる場合、電動機8及び、直動機構7を内部空間Vに設置すると、電動機8及び、直動機構7の動作により異物が発生する可能性がある。そこで、半導体製造装置100は、内部空間Vに可動部材33を残したまま、電動機8及び、直動機構7を外部空間Eに設置する。そして、シール構造1は、内部空間Vと外部空間Eを隔てて密封性を高めながら、外部空間Eに設置された電動機8及び、直動機構7の動力を内部空間Vに伝える。電動機8は、例えば、ダイレクトドライブモータ、ベルトドライブを用いた駆動装置、リニアモータ、サーボモータなどである。直動機構7は、例えば、モータ、ねじ機構、直動案内機構を用いた駆動装置である。制御装置91は、入力回路と、中央演算処理装置であるCPU(Central Processing Unit)と、記憶装置であるメモリと、出力回路とを含む。メモリに記憶させるプログラムに応じて、電動機8及び、直動機構7を制御し、内部空間Vにある被搬送物(例えば、半導体基板、工作物または工具)を搬送テーブル(可動部材)33に搭載して移動させ、半導体製造装置100は、所望の製品を製造することができる。
【0025】
シール構造1は、ハウジング2と、回転部材3とを含む。実施形態1において、ハウジング2は、例えばアルミニウム合金、鉄またはステンレス鋼等の金属で形成されており、軸方向に貫通する貫通
孔22と、半径方向に貫通する流体通路
(貫通穴)23,23を有する筒状部21Aと、筒状部21Aの軸方向中間に形成されるフランジ部21Bを備える。
【0026】
フランジ部21Bは、板状の鍔部材である。実施形態1において、フランジ部21Bの形状は、平面視が円形であるが、これらの形状は円形に限定されない。ハウジング2は、フランジ部21Bを筐体10の外部から筐体10の開口部10eを覆うようにあてがい、フランジ部21Bと筐体10の壁面とをボルト27で締結することで筐体10に固定されている。これにより、ハウジング2は、筐体10の開口部10eを筐体10の外部から塞ぐことができる。このため、ハウジング2の一端からフランジ部21Bまでの外壁は外部空間Eに曝されている。フランジ部21Bは、平面視で筐体10と重なり合う部分に環状溝21cがあり、この環状溝にOリング11がはめ込まれている。Oリング11は、フランジ部21Bと筐体10との間の隙間を密封し、シール構造1の密封性を向上させている。
【0027】
回転部材3は、例えばアルミニウム合金、鉄またはステンレス鋼等の金属で形成されており、シャフト81と、可動部材33と、シール固定部材35と、を備えている。シャフト81及びシール固定部材35の外径は、ハウジングの貫通孔22の内径よりも小さくなっており、シャフト81及びシール固定部材35は、ハウジング2の貫通孔22に挿入されている。シャフト81の一端にはシール固定部材35が固定され、シール固定部材35の端部には、可動部材33が固定されている。実施形態1において、シャフト81とシール固定部材35及びシール固定部材と可動部材33とはそれぞれに形成されたねじによって固定されている。シャフト81の他端部は、電動機8の出力シャフト81に接続されている。実施形態1において、シャフト81は、電動機8の出力シャフトと一体に形成されているが、シャフト81と電動機8の出力シャフトとの間にカップリングを介しても良い。
【0028】
可動部材33は、シャフト81及びシール固定部材35とともに回転する。可動部材33は、シール固定部材35の一端部に接する円柱状の胴部331と、胴部331のシール固定部材シャフト81側とは反対側の一端部に設けられる載置部332とを有する。胴部331の外径は、シャフト81と同様、ハウジングの貫通孔22の内径よりも小さくなっている。実施形態1において、載置部332は、胴部331と一体に形成される板状の部材であって、平面視が円形である。載置部332の外径は、胴部331の外径よりも大きくなっている。載置部332の胴部331側とは反対側の面に被搬送物が載置される。なお、胴部331および載置部332は、別部材で構成されてもよい。
【0029】
なお、上述した実施形態において、可動部材33は電動機8によって回転運動し、直動機構7によって軸方向に直線運動するが、可動部材33の動作は必ずしも回転運動または直線運動のいずれか一方である必要はない。例えば、可動部材33が電動機8によって回転運動した状態で、直動機構7によって直線運動してもよい。
【0030】
シャフト81の一端にはシール固定部32が形成されている。シール固定部32は、回転中心軸Zrを中心とした環状の切り欠きであるシール固定凹部32bを有する。同様に、シール固定部材35の一端にはシール固定部36が形成されている。シール固定部36は、回転中心軸Zrを中心とした環状の切欠きであるシール固定凹部36bを有する。
【0031】
図2に示すように、本実施形態において、シャフト81とシール固定部材35とは、シャフト81の一端に形成されたねじ部81aと、シール固定部材35に一端に形成されたねじ穴35aによって互いに固定されるが、シャフト81とシール固定部材35との固定方法はこれに限定されない。例えば、シャフト81にねじ穴を、シール固定部材35に貫通孔を形成し、1本、又は複数のボルトによって両者を締結固定してもよい。同様に、シール固定部材35と可動部材33とは、シール固定部材35の他端に形成されたねじ部35bと、可動部材33の胴部331に形成されたねじ穴331aとによって互いに固定されるが、シール固定部材35と可動部材33との固定方法はこれに限定されない。例えば、シール固定部材35の他端面にねじ穴を、可動部材33に貫通穴を形成し、1本、又は複数のボルトによって両者を締結固定しても良い。
【0032】
シール固定部材35のシール固定部36には第1シール部材5Aが、シャフト81のシール固定部32には第2シール部材5Bが備えられている。第1シール部材5A及び第2シール部材5Bは、例えば、樹脂またはゴム等の非金属材料で形成されている。第1シール部材5A及び第2シール部材5Bは、回転中心軸Zrを中心とした環状の弾性部材であり、ハウジングの貫通孔22の内径面に接するようにシール固定部材35のシール固定凹部36bに第1シール部材5Aが、シャフト81のシール固定凹部32bに第2シール部材5Bがそれぞれ嵌められるとともに、シール固定部材35のシール固定部36と、
可動部材33の胴部331の端面とで第1シール部材5Aが、シャフト81のシール固定部32とシール固定部材35の端面とで第2シール部材5Bがそれぞれ挟まれて固定されている。これにより、第1シール部材5A及び第2シール部材5Bは、シャフト81,シール固定部材35及び
可動部材33とともに回転中心軸Zrを中心として回転する。第1シール部材5A及び第2シール部材5Bは、シャフト81の外径面82bとハウジング2の貫通穴22との間の第1隙間15を密封する。
【0033】
図3に示すように、第1シール部材5A及び第2シール部材5Bは弾性部材であり、それぞれに、リップ部51A,51Bと、固定部52A,52Bと、環状連結部53A,53Bと、シールフランジ部54A,54Bと、を備える。リップ部51A,51Bは、ハウジング2が有する貫通孔22の内壁に沿った環状部材であり、貫通孔22の内壁に接する。第1シール部材5Aの固定部52Aは、シール固定部材35の外径面35bに沿った環状部材であり、シール固定部材35の外径面35bに接する。第2シール部材5Bの固定部52Bは、シャフト81の外径面82bに沿った環状部材であり、シャフト81の外径面82bに接する。環状連結部53A,53Bは、リップ部51A,51Bと固定部52A,52Bとを連結している。この構造により、リップ部51A,51B、固定部52A,52Bおよび環状連結部53A,53Bを含む断面形状が略U字形状となっている。これにより、リップ部51A,51Bの弾性変形による圧力により、ハウジング2に対する第1シール部材5A及び第2シール部材5Bの押圧力が高められる。このため、第1隙間15の密封性が向上する。
【0034】
シールフランジ部54A,54Bは、固定部52A,52Bから径方向内側に向かって突出する部材である。シールフランジ部54A,54Bは、例えば、環状で板状の部材であり、シール固定部32,36のシール固定凹部32b,36bに挿入されている。シール固定部材35に可動部材33を固定すると、可動部材33は、シール固定部材35のシール固定凹部36bに挿入された第1シール部材5Aのシールフランジ部54Aを挟み込み固定する。さらに、シャフト81にシール固定部材35を固定すると、シャフト81およびシール固定部材35は、シャフト81のシール固定凹部36bに挿入された第2シール部材5Bのシールフランジ部54Bを挟み込み固定する。これにより、第1シール部材5A及び第2シール部材5Bの回転部材3に対する相対的な回転が抑制される。すなわち、第1シール部材5A及び第2シール部材5Bは、回転部材3とともに回転しやすくなる。このため、シール構造1は、第1シール部材5A及び第2シール部材5Bがハウジング2との摩擦により、回転部材3に対して滑る可能性を低減できる。よって、シール構造1は、第1シール部材5A及び第2シール部材5Bと回転部材3との間に摩擦が生じる可能性を抑制することができる。
【0035】
実施形態1において、可動部材33は、搬送テーブルの機能を有する戴置部332と、第1シール部材5Aを挟み込むためのシール押えの機能を有する胴部331とが一体に形成されている。この構造により、シール構造1は、部品点数を削減することができ、製造コストを抑制できる。なお、戴置部332と胴部331とは、別部材であってもよい。
【0036】
図3に示すように、リップ部51A,51Bと、環状連結部53A,53Bと、固定部52A,52Bとで囲まれる空間には、付勢部材56A,56Bが配置されている。付勢部材56A,56Bは、例えばステンレス鋼等であり、平板状の板状部561a,561bおよび板状部561a,561bを屈曲部562a,562bで折り曲げた、断面視でV字状となる弾性体である。付勢部材56A,56Bには、板状部561a,561bの開先側先端同士が広がるように弾性力が生じている。これにより、付勢部材56A,56Bは、リップ部51A,51Bをハウジング2の貫通孔22に押し付けることができる。
【0037】
第1シール部材5A及び第2シール部材5Bは、リップ部51A,51Bの弾性変形による圧力および付勢部材56A,56Bの弾性変形による圧力により、貫通孔22に押し付けられる。このため、シール構造1は、貫通孔22に対する第1シール部材5A及び第2シール部材5Bの押圧力を高めることができる。
【0038】
また、
図3に示すように、第1シール部材5A及び、第2シール部材5Bのリップ部51A,51Bにおいては、先端部511a,511bが貫通孔22に接触している。一方、リップ部51A,51Bの基部512a,512bは、貫通孔22に接触しておらず、貫通孔22との間に隙間をあけて対向している。これにより、第1シール部材5A及び第2シール部材5Bは、リップ部51A,51Bの先端部511a,511bにて線状に貫通孔22に接触するので、密封性を向上させることができる。
【0039】
さらに、ハウジング2には、第1シール部材
5Aと、第2シール部材
5Bによって囲まれた冷却用空間Mに冷却用流体を通過させるための流体通路23,23が設けられている。これにより、冷却用空間Mに触れているハウジング2の内周面(内壁
)、シール固定部材35の外周面、第1シール部材5A,第2シール部材5Bを冷却することができる。
【0040】
流体通路23,23は、ハウジング2の筒状部21Aの軸方向中間位置に形成される。筒状部21Aの貫通孔22の内壁には環状溝22aが形成され、環状溝22aの底
部に
流体通路
23が開口している。
流体通路23及び環状溝22aは、シャフト81のハウジング2に対する軸方向移動の範囲において、常に第1シール部材5Aと、第2シール部材5Bとの間に位置する様な位置に形成される。また、第1シール部材5Aと、第2シール部材5Bとの間の間隔は、回転部材3の軸方向ストロークと、環状溝22aの軸方向幅寸法とを足した値よりも大きくすることが望ましい。もし、第1シール部材5Aと第2シール部材5Bとの間隔が回転部材3の軸方向ストロークよりも小さい場合、回転部材3の軸方向移動時に、第1シール部材5A,第2シール部材5Bのいずれか一方が、環状溝22aを通過してしまう恐れがあるので好ましくない。
【0041】
実施形態1においては、シャフト81が回転すると、接触式シールである第1シール部材5A及び第2シール部材5Bと、ハウジング2の貫通孔22との間で摩擦が生じる。第1シール部材5A及び第2シール部材5Bは上述したように樹脂またはゴムで形成されているため、第1シール部材5A及び第2シール部材5Bの熱伝導率は、金属で形成された他の部材と比較して1/1000から1/100程度である。したがって、第1シール部材5A,第2シール部材5Bおよび貫通孔22の間で生じた摩擦熱の大部分は、貫通孔22側に伝わり、回転部材3の温度上昇は抑制される。可動部材33と貫通孔22との間には、高真空環境である内部空間Vに繋がる隙間が設けられているため、実施形態1における貫通孔22の熱は、可動部材33側へ伝熱しにくくなっている。一方、貫通孔22の熱は、フランジ部21Bから筒状部21Aに伝熱する。冷却用空間M及び外部空間Eでは、高真空環境である内部空間Vと異なり空気の対流があるため、外部空間Eの空気と外側部材21の外表面との間で熱伝達が生じやすい。これにより、第1シール部材5A及び第2シール部材5Bとの摩擦によってハウジング2の貫通孔の内
壁に生じた熱の放熱が促進される。このため、第1シール部材5A及び第2シール部材5Bの温度上昇が抑制されるので、第1シール部材5A及び第2シール部材5Bの熱膨張が抑制される。したがって、第1シール部材5A及び第2シール部材5Bの貫通孔22に対する接触圧の増加が抑制されることで、第1シール部材5A及び第2シール部材5Bの摩耗の進行が抑制される。
よって、シール構造1は、接触式シールである第1シール部材5A及び第2シール部材5Bの交換頻度を低減することができる。
【0042】
なお、シール構造1は、回転部材3がハウジング2に対して回転運動するとともに、軸方向に移動するため、ハウジング2の貫通孔22の、第1シール部材5Aとの摺接面の軸方向長さを、回転部材3のハウジング2に対する軸方向ストロークよりも大きくする。同様に、貫通穴22の、第2シール部材5Bとの摺接面の軸方向長さも、回転部材3のハウジング2に対する軸方向ストロークよりも大きくする。これにより、回転部材3が軸方向に所定の距離移動する全域において第1シール部材5
Aによって内部空間Vを外部空間Eに対して密封することができる。
【0043】
上述したように、第1シール部材5A(第2シール部材5B)は、リップ部51A(51B)と、固定部52A(52B)と、環状連結部53A(53B)と、を備える。これにより、第1シール部材5A及び第2シール部材5Bは、例えばOリング等である場合に比較して、貫通孔22と回転部材3との間のヒートブリッジとなる部分が小さいため、貫通孔22との間で生じる摩擦熱を回転部材3側へ熱伝導しにくくしている。さらに、第1シール部材5Aと第2シール部材5Bとの間の空間に冷却用流体を流すことにより、ハウジング2,回転部材3,第1シール部材5A及び第2シール部材5Bを冷却している。これにより、シール構造1は、摩擦熱の外部への放熱をより促進することができる。このため、シール構造1は、第1シール部材5A及び第2シール部材5Bの摩耗を抑制することができる。
【0044】
また、実施形態1においては、リップ部51A,51Bに摩耗が生じても、付勢部材56A,56Bが接触圧を維持するように作用する。このため、シール構造1は、接触式シールである第1シール部材5A及び第2シール部材5Bの交換頻度を低減することができる。
【0045】
第1シール部材5A及び第2シール部材5Bの材質は、ポリエチレンまたはポリテトラフルオロエチレンであるとより好ましい。ポリエチレンまたはポリテトラフルオロエチレンは、第1シール部材5A及び第2シール部材5Bの材質として、耐摩耗性、耐薬品性に優れ、ハウジング2の貫通孔22との潤滑に好適である。
【0046】
第1シール部材5A及び第2シール部材5Bが接触するシャフト81,シール固定部材35,およびハウジング2の貫通孔22の材質は、高炭素クロム軸受鋼鋼材、マルテンサイト系ステンレス鋼、析出硬化系ステンレス鋼、Siを3.4質量%以上含む析出硬化性ステンレスの高珪素合金のいずれか1つが好ましい。この構造により、第1シール部材5A及び第2シール部材5Bの摩耗が抑制され、実施形態1においてシール構造1は、接触式シールである第1シール部材5A及び第2シール部材5Bの交換頻度を低減することができる。
【0047】
以上、実施形態1について説明したが、前述した内容により限定されるものではない。また、実施形態1の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換および変更のうち少なくとも1つを行うことができる。
例えば、上述の実施形態1では、第2シール部材5
Bは、第1シール部材5
Aと同一のものを用いているが、同様の構成であれば、形状や大きさは異なっていても良い。例えば、シャフト81に対して、回転部材3の外径を大きく、又は小さく形成し、それに合わせて第1シール部材5
Aに対して大きい、又は小さい第2シール部材5
Bを使用しても良い。