(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであることに留意すべきである。又、以下に示す実施形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の実施形態は、構成部品の構造、配置などを下記のものに特定するものでない。この発明の実施形態は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0011】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態に係る成膜装置1は、
図1に示すように、処理対象のワーク100が格納されるチャンバー10と、チャンバー10の内部に配置され、ワーク100に成膜するために電力が供給される電極20と、電極20の温度を調整する温度調整装置30とを備える。
【0012】
図1に示した成膜装置1は、プラズマCVD法によってワーク100に成膜するプラズマCVD装置であり、電極20に電力を供給する電源40と、ガス供給機構50及び排気機構60を備える。電源40は、例えば高周波電源である。ガス供給機構50は、ワーク100上に形成する薄膜の原料ガス510をチャンバー10の内部に供給する。排気機構60は、チャンバー10内のガスを外部に排気する。排気機構60には図示を省略するガス調圧弁が備えられ、チャンバー10内の圧力を一定に保つ。
【0013】
成膜装置1では、ワーク100に対向してチャンバー10に配置された電極20とワーク100が搭載されるワークホルダ70との間で原料ガス510のプラズマが形成される。例えば、電極20をカソード電極とし、ワークホルダ70をアノード電極とする。チャンバー10の内部に形成されたプラズマにワーク100が曝されることによって、原料ガス510に含まれる原料を主成分とする膜がワーク100に成膜される。
【0014】
以下に、成膜装置1によって薄膜を形成する方法の例を、
図2を参照して説明する。
【0015】
ステップS11において、温度調整装置30によって電極20を所定の温度に調整する。次いで、ステップS12において、電極20を所定の温度に調整しつつ、成膜処理対象のワーク100をチャンバー10内に格納する。その後、排気機構60によってチャンバー10内を真空にする。
【0016】
ステップS13において、ガス供給機構50によって原料ガス510をチャンバー10内に導入する。次いで、排気機構60によってチャンバー10内を減圧し、チャンバー10内の原料ガス510を所定のガス圧に調整する。
【0017】
成膜工程のステップS14において、電源40をオンして所定の電力を電極20に供給する。これにより、チャンバー10内の原料ガス510がプラズマ化される。形成されたプラズマ中の励起種がワーク100の表面で反応し、ワーク100の表面に薄膜が形成される。この成膜工程においても、温度調整装置30によって電極20の温度が調整される。つまり、電極20を所定の温度に調整しつつ、ワーク100の成膜が行われる。
【0018】
ワーク100に所定の膜厚の膜が形成された後、ステップS15において電源40をオフし、成膜工程を終了する。次いで、排気機構60によって原料ガス510をチャンバー10から排気する。その後、ステップS16において、電極20を所定の温度に調整しつつチャンバー10を大気開放して、チャンバー10から成膜済みのワーク100を搬出する。
【0019】
上記の一連の成膜処理によって、ワーク100に所定の膜が成膜される。なお、成膜装置1を連続運転する場合には、ステップS11に戻って、未処理の新たなワーク100をチャンバー10に格納する。
【0020】
温度調整装置30は、電極20に堆積した成膜物が電極20から剥離しないように、
図2を参照して説明した一連の成膜処理において電極20の温度が一定であるように、電極20の温度を調整する。即ち、成膜装置1では、ワーク100に成膜する成膜工程と成膜工程以外の他の工程とで電極20の温度が一定に保持される。例えば、ワーク100の交換のためなどでチャンバー10を大気開放したときと、成膜工程中とで、電極20の温度は一定である。このため、温度変動による電極20の変形が抑制される。その結果、電極と成膜物との熱膨張率の差に起因して電極から成膜物が剥離することが抑制される。
【0021】
図1に示した温度調整装置30は、電極20に配置される調整部31と、調整部31の温度を設定する設定部32を有する。例えば、調整部31として電極20の内部に温水の流れる循環水路を設ける。そして、設定部32で温度を調整した温水を調整部31に供給し、温水を電極20の内部で循環させて電極20の温度を調整する。或いは、ヒータなどの加熱素子を調整部31に使用し、この加熱素子を設定部32によって制御して電極20を所定の温度に調整してもよい。
【0022】
成膜装置1によって、例えば、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO:O[Si(CH
3)
3]
2)と酸素(O
2)を含む原料ガス510をプラズマ重合して得られるSiO
XC
Y:H構造を有する薄膜を、バリア膜として樹脂材であるワーク100に成膜できる。このとき、電極20の材料に金属材、例えば銅(Cu)を使用すると、ワーク100に成膜されるバリア膜と電極20の熱膨張係数の差が大きい。このため、成膜工程と他の工程との間の温度変化によって電極20が変形すると、電極20と電極20に堆積した成膜物との熱膨張率の差に起因して、電極20から成膜物が剥離する。
【0023】
しかし、成膜装置1では、チャンバー10にワーク100を格納してから成膜工程を経てワーク100をチャンバー10から搬出するまで、電極20の温度が略一定であるように温度調整装置30によって電極20の温度が調整される。したがって電極20が変形せず、電極20からの成膜物の剥離が抑制される。電極20の温度を略一定に維持するとは、電極20から成膜物が剥離しない程度にしか電極20が変形しない温度に維持されることを意味し、好ましくは、電極20が全く変形しないように電極20の温度が完全に一定に維持される。
【0024】
電極20の温度は任意に設定可能である。例えば、チャンバー10の大気開放時の放熱による電極20の温度低下を抑制するように、チャンバー10が大気開放されたときの電極20の温度を、成膜工程での電極20の温度と略同じ温度に調整する。或いは、成膜レートが高い場合のチャンバー10の内部温度に合わせて電極20の温度を調整してもよい。特に、成膜レートが高く、且つ、所望の膜質の膜がワーク100に良好に成膜される温度に電極20の温度を調整することが好ましい。
【0025】
例えば、以下のように、成膜工程時のワーク100の温度に合わせて電極20の温度を設定する。ワーク100が樹脂である場合には、ワーク100の温度を室温よりも高く設定することが成膜のために好ましい場合がある。例えばHMDSOを用いて成膜する場合には、ワーク100の温度が60℃〜80℃であると膜がワーク100に良好に着膜する。このように所定の温度に設定したワーク100がチャンバー10に格納される場合に、電極20の温度もワーク100の温度に合わせて設定しておく。これにより、ワーク100の温度変化を抑制できる。このため、温度調整装置30によって電極20の温度を60℃〜80℃に設定する。
【0026】
なお、温度調整装置30によって、チャンバー10を大気開放中の温度に電極20の温度を設定してもよい。大気開放中の電極20の温度よりも成膜工程中の電極20の温度の方が高い場合、例えば調整部31にペルチェ素子などを使用することによって、成膜工程中の電極20の温度を低くする。
【0027】
ただし、電極20の温度を高くすることによって、大気開放時にチャンバー10の内壁面などに吸着する水分を、ベーキング効果によって少なくすることができる。これにより、チャンバー10の内部を排気する時間の増大を抑制できる。したがって、電極20の温度は室温よりも高いほうが好ましい。このため、チャンバー10が大気開放されるときの電極20の温度よりも高い温度で、電極20の温度を一定に調整する。例えば、電極20の温度が最も高くなる成膜工程での温度で一定になるように、温度調整装置30によって電極20の温度を調整してもよい。
【0028】
また、成膜工程で上昇する電極20の温度とチャンバー10を大気開放したときに下降する電極20の温度との間の温度変化以外にも、電極20の温度変化は生じる。例えば、電極20に供給される電力が変化した場合に電極20の温度が変化する。また、成膜時間が長い場合や、ワーク100を交換しながら成膜処理を連続する場合に、電極20の温度は徐々に上昇する。このように、電極20の温度を調整しない場合には、様々な要因によって電極20の温度変化が成膜処理ごとに発生する。
【0029】
これに対し、本発明の第1の実施形態に係る成膜装置1では、成膜工程を含む一連の成膜処理において電極20の温度が一定に調整される。このため、電極20の温度変化に起因して成膜物が電極20から剥離することが抑制される。その結果、成膜装置1によれば、ワーク100に成膜物が付着して膜質が劣化したり膜厚が不均一になったりするなどの問題を防止できる。
【0030】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態に係る成膜装置1は、
図3に示すように、チャンバー10の内部にワーク100に対する処理がそれぞれ行われる複数の処理領域が設定されている点が、
図1に示した成膜装置1と異なる。その他の構成については第1の実施形態と同様である。
【0031】
図3は、複数の処理領域としてチャンバー10内に第1の処理領域101と第2の処理領域102が設定された例を示す。ワークホルダ70は、第1の処理領域101と第2の処理領域102に渡って、ワーク100をチャンバー10内で移動させる。
【0032】
図3に示した成膜装置1は、第1の処理領域101がスパッタ法によってワーク100に成膜するスパッタ処理領域であり、第2の処理領域102がプラズマCVD法によってワーク100に成膜するプラズマCVD処理領域である例を示している。第1の処理領域101では、ターゲット201がターゲット電極202上に取り付けられている。ターゲット電極202は高周波(RF)電力或いは直流(DC)電力を供給するスパッタ電源203に接続されている。第2の処理領域102の構成は
図1に示した成膜装置1と同様である。
【0033】
以下に、スパッタ処理領域における処理とプラズマCVD処理領域における処理を連続して行う場合について説明する。
【0034】
まず、温度調整装置30によって電極20を所定の温度に調整しつつ、チャンバー10内にワーク100を格納し、
図3に示すようにワーク100を第1の処理領域101に配置する。そして、ガス供給機構50の不活性ガス供給源52からアルゴン(Ar)ガスなどの不活性ガス520がチャンバー10内に導入される。スパッタ電源203からターゲット電極202に電力を供給して不活性ガス520を放電させ、ターゲット201の表面近傍の気相中にプラズマを形成する。プラズマ中で加速された不活性ガス520の正イオンがターゲット201の表面に衝突し、スパッタリングによりターゲット原子が放出される。ターゲット201の表面から放出された原子がワーク100の表面に被着・堆積されて、薄膜が形成される。
【0035】
第1の処理領域101でのスパッタ処理が終了した後、
図4に示すように、ワークホルダ70に搭載されたワーク100が第1の処理領域101から第2の処理領域102に移動する。その後、第2の処理領域102において、
図2を参照して説明した成膜方法によって、電極20を所定の温度に調整しつつ、ワーク100についてプラズマCVD法による成膜処理が行われる。即ち、排気機構60によって真空に排気されたチャンバー10の内部に、ガス供給機構50の原料ガス供給源51から原料ガス510が導入される。そして、チャンバー10内で原料ガス510がプラズマ化され、ワーク100の表面に薄膜が形成される。その後、チャンバー10から処理済みのワーク100が搬出される。
【0036】
上記に説明した成膜処理に亘って電極20の温度が一定であるように、電極20の温度が温度調整装置30によって調整される。
【0037】
なお、第1の処理領域101には、昇降機205によってチャンバー10内を上下方向に移動するシャッター204が配置されている。第2の処理領域102での成膜処理の間は、
図4に示すように上昇したシャッター204によってターゲット201の表面が保護されている。また、ワーク100の交換時などでチャンバー10を大気開放する間も、シャッター204によってターゲット201の表面が保護される。一方、スパッタ処理の間は、
図3に示すようにシャッター204は下降している。
【0038】
以上に説明したように、本発明の第2の実施形態に係る成膜装置1によれば、第1の処理領域101における処理と第2の処理領域102における処理を真空連続によって行うことができる。このため、処理ごとにチャンバー内を真空にする場合と比べて、トータルの処理時間を短縮できる。また、ワーク100を大気に曝すことがないため、例えばワーク100に形成した膜が変質することや、膜に不純物が付着することを防止できる。
【0039】
更に、第2の実施形態に係る成膜装置1においても第1の実施形態と同様に、プラズマCVD法による成膜工程と成膜工程を除いた他の工程とで電極20の温度が一定であるように電極20の温度が温度調整装置30によって調整される。このため、温度変化による電極20の変形が抑制され、電極20と成膜物との熱膨張率の差に起因する電極20からの成膜物の剥離が抑制される。その結果、第2の実施形態に係る成膜装置1においても、ワーク100に電極20から剥離した成膜物が付着するなどの問題が防止される。他は、第1の実施形態と実質的に同様であり、重複した記載を省略する。
【0040】
なお、第1の処理領域101での処理と第2の処理領域での処理の順番は任意である。例えば、上記のように第1の処理領域101において処理を行った後に第2の処理領域102において処理を行ってもよいし、或いは、第2の処理領域102において処理を行った後に第1の処理領域101において処理を行ってもよい。
【0041】
図3に示した成膜装置1は、射出成型プラスチック製品の加飾用途などに使用される。例えば、ドアノブや計器類などの自動車部品に金属質感を出すためにアルミニウム膜、ステンレス鋼(SUS)膜、チタン膜などを成膜する場合に好適である。また、家電製品、玩具、化粧品容器、時計の文字板などの加飾用途にも使用可能である。
【0042】
例えば、スパッタ法によってワーク100に酸化しやすい第1の膜(例えばアルミニウム膜など)を形成した後、真空連続で、第1の膜の酸化を防止する第2の膜を保護膜として第1の膜を覆ってプラズマCVD法によって形成する。例えば、自動車ヘッドランプのリフレクターの製造などにおける、樹脂部品の表面にアルミニウム膜を形成する場合などに上記の成膜方法は有効である。
【0043】
(その他の実施形態)
上記のように、本発明は実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0044】
上記では、ワーク100が水平にワークホルダ70に搭載される例を示したが、例えば
図5に示すように、ワーク100がボートタイプのワークホルダ70に垂直に搭載される成膜装置1にも本発明は適用可能である。
図5に示した成膜装置1では、電極20がワーク100と対向して垂直方向に延伸する。
【0045】
また、成膜装置1がプラズマCVD装置である場合を例示的に説明したが、他の成膜方法を使用する成膜装置であっても、チャンバー内に配置された電極を有する成膜装置に本発明は適用可能である。例えば、スパッタ装置のターゲット電極の温度を温度調整装置30によって一定に設定することにより、ターゲット電極からの成膜物の剥離を抑制できる。
【0046】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。