特許第6565601号(P6565601)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6565601
(24)【登録日】2019年8月9日
(45)【発行日】2019年8月28日
(54)【発明の名称】画像補正装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/22 20060101AFI20190819BHJP
   H01J 37/252 20060101ALI20190819BHJP
   H01J 37/28 20060101ALI20190819BHJP
   G01N 23/225 20180101ALI20190819BHJP
【FI】
   H01J37/22 502H
   H01J37/252 B
   H01J37/28 X
   H01J37/252 A
   G01N23/225
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-212456(P2015-212456)
(22)【出願日】2015年10月29日
(65)【公開番号】特開2017-84631(P2017-84631A)
(43)【公開日】2017年5月18日
【審査請求日】2018年2月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大越 暁
(72)【発明者】
【氏名】石川 丈寛
(72)【発明者】
【氏名】永井 正道
【審査官】 藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/089911(WO,A1)
【文献】 特開平05−290787(JP,A)
【文献】 特開平07−272665(JP,A)
【文献】 特開2003−240738(JP,A)
【文献】 特開2007−219911(JP,A)
【文献】 特開2007−298397(JP,A)
【文献】 特開2010−067516(JP,A)
【文献】 特開2010−101907(JP,A)
【文献】 特開2015−008038(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/22
G01N 23/225
H01J 37/252
H01J 37/28
G06T 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a) 試料の測定対象領域を所定の速度で走査しつつ前記測定対象領域内の各測定点における所定の物理量を測定することにより得られた、前記測定対象領域における前記物理量の測定値の分布を表す主画像と、前記測定対象領域を前記所定の速度よりも高速で走査しつつ前記各測定点における前記物理量を測定することにより得られた前記物理量の測定値の分布を表す参照画像とが保存された記憶部と、
b) 前記参照画像と前記主画像の対応する測定点における前記物理量の測定値の差分を求める差分算出部と、
c) 前記差分が予め決められた閾値以上である1乃至隣接する複数の測定点を含む補正対象領域を抽出する補正対象領域抽出部と、
d) 前記主画像の前記補正対象領域を1測定点ずつ面内で移動させ、各移動位置において前記主画像と前記参照画像の各対応測定点の測定値の差分の前記補正対象領域全体としての所定の統計量が最小となる移動量を決定する移動量決定部と、
e) 前記主画像の前記補正対象領域内の各測定点の測定値を前記移動量だけ移動して測定値を置き換える補正実行部と
を備えることを特徴とする画像補正装置。
【請求項2】
前記主画像及び前記参照画像のうちの一方の画像を複数の分割画像に分割し、各分割画像の各測定点の測定値を他方の画像の測定点の測定値と比較して各分割画像のドリフト量を求めるドリフト量算出部と、
前記ドリフト量を相殺するように前記分割画像を移動させて前記一方の画像のドリフトを補正するドリフト補正部と
を備え、
前記差分算出部が、前記ドリフト補正部によるドリフト補正後の前記参照画像又は前記主画像を用いて対応する測定点における前記物理量の測定値の差分を求める
ことを特徴とする請求項1に記載の画像補正装置。
【請求項3】
前記ドリフト補正部が、前記主画像及び前記参照画像のうちのいずれか一方における位置を表す座標を他方の位置を表す座標に変換するための関数を作成するものであることを特徴とする請求項2に記載の画像補正装置。
【請求項4】
前記記憶部に、前記主画像を取得するための測定において前記所定の物理量と別の種類の物理量を測定することにより得られた、前記測定対象領域における前記別の種類の測定値の分布を表す対象画像が保存されており、
前記補正実行部が、前記主画像における補正対象領域及び移動量を用いて前記対象画像を補正する
ことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の画像補正装置。
【請求項5】
a) 試料の測定対象領域を所定の速度で走査しつつ前記測定対象領域内の各測定点における所定の物理量を測定することにより得られた、前記測定対象領域における前記物理量の測定値の分布を表す主画像が保存された記憶部と、
b) 前記主画像を平滑化処理することにより参照画像を作成する参照画像作成部と、
c) 前記参照画像と前記主画像の対応する測定点における前記物理量の測定値の差分を求める差分算出部と、
d) 前記差分が予め決められた閾値以上である1乃至隣接する複数の測定点を含む補正対象領域を抽出する補正対象領域抽出部と、
e) 前記主画像の前記補正対象領域を1測定点ずつ面内で移動させ、各移動位置において前記主画像と前記参照画像の各対応測定点の測定値の差分の前記補正対象領域全体としての所定の統計量が最小となる移動量を決定する移動量決定部と、
f) 前記主画像の前記補正対象領域内の各測定点の測定値を前記移動量だけ移動して測定値を置き換える補正実行部と
を備えることを特徴とする画像補正装置。
【請求項6】
前記閾値が、全ての測定点における前記測定値の差分を統計的に処理することにより求められることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の画像補正装置。
【請求項7】
前記閾値が、全ての測定点における前記測定値の差分の標準偏差に所定の係数を乗じた値を、該全ての測定点における前記測定値の差分の平均値に加算することにより求められることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の画像補正装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像補正装置に関し、特に、電子線マイクロアナライザ等の走査型顕微鏡を用いて試料の測定対象領域を走査しつつ所定の物理量を測定することにより得られた二次元画像を補正する画像補正装置に関する。
【背景技術】
【0002】
走査型顕微鏡では、試料載置台に試料を載置して、該試料の測定対象領域の各微小領域に電子線等を順次照射しつつ該測定対象領域を走査してその二次電子により表面の形状を観察する。さらに、各照射位置から放出されるX線等の所定の物理量を検出して試料表面の元素分布などを測定することもできる。
【0003】
例えば、走査型顕微鏡の1つである電子線マイクロアナライザ(EPMA)では、試料表面の測定対象領域を電子線で走査して該試料から発せられる二次電子や特性X線を検出する。図1に、電子線マイクロアナライザ101の要部構成を示す。電子線源102から発せられた電子線は、集束レンズ103、走査コイル104、対物レンズ105を順に通過し、試料載置台106に載置された試料107の表面に照射される。電子線の照射位置は、制御部110からの制御信号に基づき駆動部108が走査コイル104を動作させることにより移動される。
【0004】
電子線が照射されることにより試料表面の測定領域から放出された二次電子は電子検出器109により検出され、特性X線はX線検出器111により検出される。電子検出器109やX線検出器111からの出力信号は制御部110に送られ、該出力信号に基づいて測定対象領域における形状の画像と、元素の分布を表す二次元画像が作成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−115636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電子線マイクロアナライザでは、電子線の走査速度、及び二次電子や特性X線を検出する時間間隔に応じて決まる、nmオーダーの長さで離間する多数の測定点において二次電子や特性X線の検出信号が得られる。従って、nmオーダーの高い分解能で二次元画像を得ることが可能である。
【0007】
しかし、試料の所定領域を走査する間にその試料自体が移動し或いは走査が乱れてしまうと電子線の照射位置が制御上の測定点からずれてしまう。すると、ある測定点で取得した測定値が実際には1乃至数個ずれた測定点の測定値であるという、測定点の位置ずれが起こる(例えば特許文献1)。こうした位置ずれが起こると、測定値の集合である二次元画像にブレが生じてしまう。具体的には、この画像のブレは、局所的なひげ状の振動や画像全体の歪みとなって現れる。
【0008】
従来、除震台や磁気シールドを用いて上記測定点の位置ずれを防止したり、電子線照射系に供給される電流や電圧の値の時間的な変化を計測器で計測して各測定点の位置ずれを補正したりしているが、これらを導入すると装置が高価になってしまう。また、測定点の位置ずれが生じる要因は上記だけとは限らず、上記全てを導入したとしても測定点の位置ずれを必ずしも解消することはできない、という問題があった。
【0009】
ここでは、電子線マイクロアナライザを例に説明したが、電子線で測定対象領域を走査するもの以外に、他の荷電粒子線(イオンビーム等)で測定対象領域を走査するものや、電流、電圧を入力しつつ探針で測定対象領域を走査するものにおいても上記同様の問題があった。
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、試料の測定対象領域を走査しつつ所定の物理量を測定することにより得られた二次元画像を安価かつ確実に補正することができる画像補正装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために成された本発明に係る画像補正装置の第1の態様は、
a) 試料の測定対象領域を所定の速度で走査しつつ前記測定対象領域内の各測定点における所定の物理量を測定することにより得られた、前記測定対象領域における前記物理量の測定値の分布を表す主画像と、前記測定対象領域を前記所定の速度よりも高速で走査しつつ前記各測定点における前記物理量を測定することにより得られた前記物理量の測定値の分布を表す参照画像とが保存された記憶部と、
b) 前記参照画像と前記主画像の対応する測定点における前記物理量の測定値の差分を求める差分算出部と、
c) 前記差分が予め決められた閾値以上である1乃至隣接する複数の測定点を含む補正対象領域を抽出する補正対象領域抽出部と、
d) 前記主画像の前記補正対象領域を1測定点ずつ面内で移動させ、各移動位置において前記主画像と前記参照画像の各対応測定点の測定値の差分の前記補正対象領域全体としての所定の統計量が最小となる移動量を決定する移動量決定部と、
e) 前記主画像の前記補正対象領域内の各測定点の測定値を前記移動量だけ移動して測定値を置き換える補正実行部と
を備えることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る画像補正装置が対象とする主画像には、電子ビームで測定対象領域を走査して得られる画像の他、例えばイオンビームといった荷電粒子のビームを照射しつつ走査して得られる画像や、探針で走査しつつ電流、電圧を入力して得られる画像などがある。また、前記所定の物理量は、例えば二次電子、反射電子、特性X線、蛍光、電流、電圧等である。
【0013】
前記1乃至隣接する複数の測定点を含む補正対象領域は、該1乃至隣接する複数の測定点を含む補正対象領域そのものであってもよく、1乃至隣接する複数の測定点を含む補正対象領域と前記走査方向において隣接する所定数の測定点を加えた補正対象領域としてもよい。
【0014】
本発明に係る画像補正装置の第1の態様では、所定の速度で測定対象領域を走査しつつ所定の物理量を測定して得た主画像を、測定対象領域を高速走査して該物理量を測定して得た参照画像を用いて補正する。主画像では、測定時間が長いため測定点の位置ずれが生じていることが多い。一方、参照画像では、高速で走査されるため、主画像に比べて測定点の位置ずれが少ない。上記第1の態様の画像補正装置では、主画像と参照画像の測定値の差分の大きさが予め決められた閾値以上である測定点を補正対象領域とし、主画像において測定点の位置ずれが生じた位置であると判定する。そして、その補正対象領域を面内で(x-y方向に)1測定点ずつ移動させてゆき、補正対象領域全体としての参照画像の測定値との差(一般的には、所定の統計値)が最小となる移動量を求める。これを、主画像のずれによる移動量として、主画像の各測定点の測定値を該移動量だけ移動して置き換えることにより、測定点の位置ずれを補正する。
【0015】
本発明に係る画像補正装置では、試料の位置ずれが比較的高速で生じる場合、例えば、試料が振動するような場合であっても、参照画像を形成する際の走査速度をそのような(予想される)振動よりも高速で行うことにより、同様に補正を実施することができる。そのため、除震台等等の付加的な装置を使用することなく、従来に比べて安価に主画像を補正することができる。また、測定点の位置ずれの要因を問わず、主画像を確実に補正することができる。
【0016】
前記第1の態様の画像補正装置は、さらに
前記主画像及び前記参照画像のうちの一方の画像を複数の分割画像に分割し、各分割画像の各測定点の測定値を他方の画像の測定点の測定値と比較して各分割画像のドリフト量を求めるドリフト量算出部と、
前記ドリフト量を相殺するように前記分割画像を移動させて前記一方の画像のドリフトを補正するドリフト補正部と、
を備え、
前記差分算出部が、前記ドリフト補正部によるドリフト補正後の前記参照画像又は前記主画像を用いて対応する測定点における前記物理量の測定値の差分を求める
ことが望ましい。
【0017】
一般に、主画像を取得する際には、各測定点における所定の物理量を十分な強度で測定するため、長時間をかけて(例えば特性X線を測定する場合、数時間かけて)測定対象領域を走査する。走査型顕微鏡において長時間の測定を行うと、上述の測定点の位置ずれとは別に、電子ビーム照射系等の走査系と試料の相対位置にずれが生じる(いわゆるドリフトが起こる)ことが多い。主画像にドリフトの影響が含まれていると、主画像と参照画像の同じ測定点であっても試料の測定対象領域における位置が異なるため、主画像と参照画像の各測定点における測定値の正しい差分を求めることができなくなる。前記ドリフト量算出部及び前記ドリフト補正部を備えた上記態様の画像補正装置を用いると、主画像と参照画像の測定値の差分を求める前にドリフトの影響を排除するため、測定値の正しい差分を求めることができる。
【0018】
また、前記ドリフト補正部は、前記主画像及び前記参照画像のうちのいずれか一方における位置を表す座標を他方の位置を表す座標に変換するための関数を作成するようにしてもよい。
【0019】
上記課題を解決するために成された本発明に係る画像補正装置の第2の態様は、
a) 試料の測定対象領域を所定の速度で走査しつつ前記測定対象領域内の各測定点における所定の物理量を測定することにより得られた、前記測定対象領域における前記物理量の測定値の分布を表す主画像が保存された記憶部と、
b) 前記主画像を平滑化処理することにより参照画像を作成する参照画像作成部と、
c) 前記参照画像と前記主画像の対応する測定点における前記物理量の測定値の差分を求める差分算出部と、
d) 前記差分が予め決められた閾値以上である1乃至隣接する複数の測定点を含む補正対象領域を抽出する補正対象領域抽出部と、
e) 前記主画像の前記補正対象領域を1測定点ずつ面内で移動させ、各移動位置において前記主画像と前記参照画像の各対応測定点の測定値の差分の前記補正対象領域全体としての所定の統計量が最小となる移動量を決定する移動量決定部と、
f) 前記主画像の前記補正対象領域内の各測定点の測定値を前記移動量だけ移動して測定値を置き換える補正実行部と
を備えることを特徴とする。
【0020】
前記主画像の平滑化には、例えば3×3や5×5のメディアンフィルタ等の平滑化フィルタを用いることができる。
【0021】
上記第1の態様の画像補正装置では、測定対象範囲を高速走査して取得した参照画像を用いたが、上記第2の態様の画像補正装置では主画像を平滑化処理することにより参照画像を作成する。第2の態様の画像補正装置の差分算出部、補正対象領域抽出部、移動量決定部、及び補正実行部は第1の態様と共通であり、第1の態様と同様の効果を得ることができる。また、第2の態様では主画像から参照画像を作成するため(即ち、元が同じ画像であるため)ドリフトを考慮する必要がなく簡便に主画像を補正することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る画像補正装置を用いることにより、試料の測定対象領域を走査しつつ、所定の物理量を測定することにより得られた二次元画像を安価かつ確実に補正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】電子線マイクロアナライザの要部構成図。
図2】実施例1の画像補正装置の要部構成図。
図3】実施例1の画像補正装置において参照画像を変形してドリフト補正する例。
図4】実施例1の画像補正装置において主画像と参照画像の測定点の差分を求める例。
図5】測定点の差分値から補正対象対象補正点を決定するための閾値に関して説明する図。
図6】補正対象測定点、補正対象領域、及び比較領域の関係を説明する図。
図7】補正対象領域の測定値を置き換えて画像を補正する例。
図8】補正前の主画像と補正後の主画像の比較。
図9】実施例2の画像補正装置の要部構成図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明に係る画像補正装置の具体的な実施例について、以下、図面を参照して説明する。以下、電子線マイクロアナライザにおいて電子ビームで試料表面の測定対象領域を走査することにより得た画像を補正する場合を例に説明するが、その他、イオンビーム等の荷電粒子のビームを照射しつつ走査して得られる画像や、探針で走査しつつ電流、電圧を入力して得られる画像についても同様に補正することができる。
【0025】
<実施例1>
実施例1の画像補正装置1の要部構成を図2に示す。
画像補正装置1は、制御部10と、該制御部10に接続された入力部18と表示部19を備えている。制御部10は、記憶部11のほかに、機能ブロックとしてドリフト量算出部12、ドリフト補正部13、差分算出部14、補正対象領域抽出部15、移動量決定部16、及び補正実行部17を備えている。制御部10の実体は、所要のオペレーティングソフトウェア(OS)等がインストールされたパーソナルコンピュータである。
【0026】
記憶部11には、電子線マイクロアナライザにおいて電子ビームで測定対象領域よりも広い領域を高速走査して二次電子を測定することにより得た画像である参照画像、及び同じ測定対象領域を低速で走査して二次電子及び特性X線を測定することにより得た画像である主画像(二次電子像)と対象画像(X線像)が予め保存されている。参照画像は、電子線マイクロアナライザにおいて電子ビームで測定対象領域と同じ領域を測定することにより取得しても良いが、後述するドリフト補正をより正確に実行するために、測定対象領域よりも広い領域を走査することにより得られたものであることが好ましい。
【0027】
以下、本実施例の画像補正装置1において、主画像及び対象画像の位置ずれを補正する手順を説明する。
【0028】
使用者が、入力部18を通じて主画像の補正開始を指示すると、まず、ドリフト量算出部12は、主画像と、これに対応する参照画像を記憶部11から読み出す。そして、主画像を複数の画像(分割画像)に分割する(図3(a))。そして、各分割画像が参照画像のどの位置に相当する画像であるかを決定(テンプレートマッチング)し(図3(b))、その領域のドリフト量を求める。テンプレートマッチングは、例えば、従来知られている正規化相互相関関数を用いて行うことができる。なお、図3(a)では複数の分割画像を分かりやすく示すために分割画像間に空白の領域を設けているが、主画像を格子状に分割して複数の画像(分割画像)に分けるようにしてもよい。また、分割画像の大きさ及び数は該画像上の試料の形状等を考慮して適宜に決めればよい。
【0029】
全ての分割画像について、テンプレートマッチングを行いドリフト量が決まると、ドリフト補正部13は、それぞれのドリフト量に基づき参照画像を変形させる。具体的には、求めたドリフト量から参照画像の各測定点(より正確には、各測定点に対応する参照画像上の微小領域を代表する、該微小領域の中央)の座標位置を主画像の各測定点の座標位置に変換する多項式(例えば3次多項式)を作成し、これを用いて参照画像を変形させる(図3(c))。これにより、主画像(及び対象画像)を取得する際に生じたドリフトの影響が排除される。なお、以下の説明では、測定点に対応する画像上の微小領域を便宜上、測定点とも呼ぶ。
【0030】
ドリフト補正が完了すると、差分算出部14が、主画像の各測定点における測定値(二次電子の検出強度)を上記変形後の参照画像の対応する測定点における測定値と比較し、その差分を求める。そして、補正対象領域抽出部15が、差分値が予め決められた閾値を超える測定点(補正対象測定点)を抽出する。図4(a)は主画像の一例、図4(b)は上記変形後の参照画像の一例、図4(c)は該主画像と該参照画像の差分値に基づき補正対象測定点を白塗りで表示した例である。
【0031】
上記の閾値は、全ての測定点における差分の平均値と標準偏差σを求め、該標準偏差に所定の係数nを乗じた値を平均値に加算した値(平均値+nσ)とするなど、種々の統計的手法により決めることができる(図5参照)。上記係数は、画像の補正を実行する前に決めておいてもよいが、該係数を変化させることにより抽出される測定点の数や場所の変化等を確認しながら決定するようにしてもよい。
【0032】
補正対象領域抽出部15は、図4(c)に示すように補正対象測定点を抽出すると、続いて、隣接して位置する複数の補正対象測定点からなるグループ(図6(a))に、測定時の電子ビーム走査方向に両側に3測定点ずつ追加した測定点を補正対象領域(図6(b))とする。
【0033】
補正対象領域が決まると、移動量決定部16は、補正対象領域(図6(b))から測定時の電子ビーム走査方向に両側に2測定点ずつ、非走査方向に1測定点ずつ拡大した領域を比較領域に設定する(図6(c))。そして、この比較領域内で補正対象領域を1測定点ずつ移動させ、補正対象領域を構成する各測定点の測定値と参照画像の対応する各測定点の差分の二乗和を求め、その値が最小になる移動量を決定する。本実施例では差分二乗和が最小になるように移動量を決めるが、その他、差分の絶対値の和や正規化相関関数を用いる等、種々の方法により移動量を決めることもできる。
【0034】
全ての補正対象領域について、上記手順で移動量が決定すると、補正実行部17は、各補正対象領域の測定値を主画像から切り出し(図7(a))、該補正対象領域について求められた移動量だけ移動させ、その測定点の測定値と置き換える。このとき、補正対象領域の測定点の測定値の切り出し及び移動に伴って測定値が欠落する測定点が生じる。そこで、電子ビーム走査方向において該測定点の両側に位置する測定点の測定値に基づく測定値(例えば両側の測定点の測定値の平均値)を用いてこれら測定点の測定値を補完する(図7(b))。
【0035】
以上の手順により主画像の補正が完了する。図8に、補正前の主画像(図8(a))と補正後の主画像(図8(b))を示す。図8(a)の補正前の主画像では対象物のエッジ部にギザギザの乱れが確認できるのに対し、図8(b)の補正後の主画像ではこの乱れが補正されていることが分かる。
【0036】
本実施例のように、主画像以外にも補正の対象である画像(対象画像)が存在する場合、補正実行部17は、さらに、主画像に関する補正対象領域及び該領域の移動量をそのまま対象画像に適用して対象画像を補正する。主画像と対象画像は同じ測定から得られたものであり、位置ずれの場所や量は両画像で同じになるため、主画像の補正対象領域及び移動量をそのまま用いて対象画像の測定点の位置ずれを補正することができる。
【0037】
実施例1に係る画像補正装置では、所定の速度で測定対象領域を走査しつつ二次電子を測定して得た主画像を、測定対象領域を高速走査して二次電子を測定して得た参照画像を用いて補正する。さらに、主画像の補正結果(補正対象領域及び移動量)を用いて、主画像と同時の測定に特性X線を検出することにより得た対象画像も補正する。実施例1に係る画像補正装置では、従来のように除震台等の付加的な装置を使用することなく、安価に主画像を補正することができる。また、測定点の位置ずれの要因を問わず、ドリフトなどの遅い振動等により生じる画像全体の歪みと、装置自体あるいはその周辺での速い振動等により画像に生じる局所的なひげ状の乱れの両方を確実に補正することができる。
【0038】
<実施例2>
次に、実施例2に係る画像補正装置20について、図面を参照して説明する。実施例1と同じ構成要素については同一の符号を付して、適宜説明を省略する。
【0039】
実施例2の画像補正装置2の要部構成を図9に示す。
画像補正装置2は、制御部20と、該制御部20に接続された入力部18と表示部19を備えている。制御部20は、記憶部21のほかに、機能ブロックとして参照画像作成部22、差分算出部14、補正対象領域抽出部15、移動量決定部16、及び補正実行部17を備えている。制御部20の実体は、所要のオペレーティングソフトウェア(OS)等がインストールされたパーソナルコンピュータである。
【0040】
記憶部21には、電子線マイクロアナライザにおいて電子ビームで測定対象領域を低速で走査して特性X線を測定することにより得た画像である対象画像が予め保存されている。なお、この対象画像は、第2の態様の画像補正装置における主画像に相当する。
【0041】
以下、本実施例の画像補正装置2において、対象画像の位置ずれを補正する手順を説明する。実施例1の画像補正装置1では、参照画像を用いて主画像を補正し、該主画像の補正結果から対象画像を補正したが、実施例2の画像補正装置2では対象画像のみから該対象画像を補正する。
【0042】
使用者が、入力部18を通じて対象画像の補正開始を指示すると、参照画像作成部22は、記憶部21から対象画像を読み出す。そして、対象画像に平滑化処理を行い、参照画像を作成する。つまり、実施例2では、対象画像を敢えてぼかすことにより、位置ずれによって生じた対象物のエッジ部に乱れを低減して参照画像を取得する。この平滑化処理には、3×3(3測定点四方)や5×5(5測定点四方)のメディアンフィルタや、平均化フィルタ、加重平均化フィルタ、ガウシアンフィルタなど、従来知られている様々な方法を用いることができる。
【0043】
参照画像を作成した後の画像補正に係る手順は実施例1と同じであるため、説明を省略する。
【0044】
実施例2に係る画像補正装置では、実施例1と同様、安価かつ確実に画像を補正することができるのに加え、対象画像を直接補正することができる、という利点がある。例えば、目的とする画像が特性X線を検出することにより得られるものである場合、試料から発せられる特性X線の強度が小さいため高速走査により参照画像を得ることが難しい。従って、上記実施例1では、二次電子について参照画像と主画像を取得し、該主画像に関する補正結果を用いて対象画像を補正する必要があった。一方、実施例2に係る画像補正装置を用いると対象画像を直接補正することができるため、二次電子についての参照画像や主画像を取得する必要がない。また、対象画像そのものを平滑化処理して参照画像を作成するため、実施例1のようにドリフトの影響を排除する(参照画像を変形してドリフト補正する)必要がなく、画像の補正に係る処理が簡便である。実施例2に係る画像補正装置では、測定点の位置ずれの要因を問わず装置自体あるいはその周辺での速い振動等により画像に生じる局所的なひげ状の乱れの両方を確実に補正することができる。
【0045】
上記実施例はいずれも一例であって、本発明の趣旨に沿って適宜に変更することができる。
例えば、上記実施例では、補正対象測定点に隣接する測定点を含めて補正対象領域としたが、補正対象測定点そのものを(隣接する測定点を含めず)補正対象領域としてもよい。
【0046】
また、上記実施例1では、主画像のドリフト量を求め、該ドリフト量に基づき参照画像を変形したが、主画像を取得する測定において電子ビーム等の走査系と試料の相対的な関係が変化していない(即ちドリフトが発生していない)と考えられる場合にはドリフト量の算出及び該ドリフト量に基づく参照画像の変形を行わなくても良い。ただし、上記実施例のように特性X線を測定する場合、数μm四方の大きさであっても数時間にわたり測定対象領域を走査し特性X線を測定することが一般的であり、ドリフトが生じている可能性が高いと考えられることから、ドリフト量の算出及び参照画像の変形(ドリフト補正)を行うことが好ましい。
【0047】
その他、実施例1において分割画像が参照画像のどの位置に相当するかを決定したり、補正対象測定点を抽出したり、比較領域内で補正対象領域を移動させたり、補正対象領域を移動させて測定値を置き換えたりする等の各処理を行う際に、その内容を適宜表示部19に表示させるようにしてもよい。また、実施例2においても同様に、各処理を行う際に、その内容を適宜表示部19に表示させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0048】
1、2…画像補正装置
10、20…制御部
11、21…記憶部
12…ドリフト量算出部
13…ドリフト補正部
14…差分算出部
15…補正対象領域抽出部
16…移動量決定部
17…補正実行部
22…参照画像作成部
18…入力部
19…表示部
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