(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記判定部は、前記判定時点よりも前に算出されたキャパシタンスの平均値であるキャパシタンス平均値に所定の定数を乗じた値を前記基準値として、前記判定キャパシタンスが前記基準値よりも小さいか否かを判断することにより、前記判定時点における前記蓄電素子の劣化状態を判定する
請求項2に記載の劣化状態検知装置。
前記判定部は、0.8〜0.9の間の値を前記定数として、前記判定キャパシタンスが前記基準値よりも小さいか否かを判断することにより、前記判定時点における前記蓄電素子の劣化状態を判定する
請求項3に記載の劣化状態検知装置。
前記取得部は、複素インピーダンス法を用いた測定に基づいてナイキスト線図を描画したときに現れる円弧の虚軸成分が極大値となる点における周波数を頂点周波数としたとき、前記頂点周波数が所定の閾値以下である場合の前記キャパシタンスを取得する
請求項6に記載の劣化状態検知装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(本発明の基礎となった知見)
上記従来の技術においては、蓄電素子の急激な性能低下を事前に検知することができないという問題がある。すなわち、特にハイブリッド自動車や電気自動車用途で使用されるリチウムイオン二次電池では、寿命末期に電池性能が急激に低下するため、電池性能の急激な低下を事前に精度良く検知することが極めて重要である。しかし、従来の技術では、二次電池の劣化状態を判定しているだけであり、二次電池の急激な性能低下を事前に検知することはできない。
【0012】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、蓄電素子の急激な性能低下を事前に検知することができる劣化状態検知装置、劣化状態検知方法及び蓄電システムを提供することを目的とする。
【0013】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係る蓄電素子の劣化状態検知装置は、蓄電素子の劣化状態を検知する劣化状態検知装置であって、前記蓄電素子のキャパシタンスを取得する取得部と、取得された前記キャパシタンスの変化から、前記蓄電素子の劣化状態を判定する判定部とを備える。
【0014】
これによれば、劣化状態検知装置は、蓄電素子のキャパシタンスの変化から、蓄電素子の劣化状態を判定する。ここで、本願発明者らは、鋭意検討と実験の結果、当該キャパシタンスの変化から、蓄電素子の急激な性能低下が生じるか否かを事前に判定することができることを見出した。このため、当該劣化状態検知装置によれば、蓄電素子の急激な性能低下を事前に検知することができる。
【0015】
また、前記判定部は、所定の判定時点において算出されたキャパシタンスである判定キャパシタンスが、基準値よりも小さいか否かを判断することにより、前記判定時点における前記蓄電素子の劣化状態を判定することにしてもよい。
【0016】
ここで、本願発明者らは、鋭意検討と実験の結果、所定の判定時点において算出されたキャパシタンスが、基準値よりも小さいか否かを判断することにより、判定時点において、蓄電素子の急激な性能低下が生じるか否かを事前に判定することができることを見出した。このため、当該劣化状態検知装置によれば、蓄電素子の急激な性能低下を事前に検知することができる。
【0017】
また、前記判定部は、前記判定時点よりも前に算出されたキャパシタンスの平均値であるキャパシタンス平均値に所定の定数を乗じた値を前記基準値として、前記判定キャパシタンスが前記基準値よりも小さいか否かを判断することにより、前記判定時点における前記蓄電素子の劣化状態を判定することにしてもよい。
【0018】
ここで、本願発明者らは、鋭意検討と実験の結果、判定キャパシタンスが、判定時点よりも前に算出されたキャパシタンスの平均値に所定の定数を乗じた値よりも小さいか否かを判断することにより、判定時点において、蓄電素子の急激な性能低下が生じるか否かを事前に判定することができることを見出した。このため、当該劣化状態検知装置によれば、蓄電素子の急激な性能低下を事前に検知することができる。
【0019】
また、前記判定部は、0.8〜0.9の間の値を前記定数として、前記判定キャパシタンスが前記基準値よりも小さいか否かを判断することにより、前記判定時点における前記蓄電素子の劣化状態を判定することにしてもよい。
【0020】
ここで、本願発明者らは、鋭意検討と実験の結果、判定キャパシタンスがキャパシタンス平均値の80〜90%の間の値よりも小さい場合に、蓄電素子の急激な性能低下が生じる前の状態であると判定することができることを見出した。このため、当該劣化状態検知装置によれば、蓄電素子の急激な性能低下を事前に検知することができる。
【0021】
また、前記取得部は、前記判定時点までの複数の時点において、前記蓄電素子のキャパシタンスを取得し、前記判定部は、前記判定時点よりも前に取得された複数のキャパシタンスを平均して前記キャパシタンス平均値を算出することで、前記判定時点における前記蓄電素子の劣化状態を判定することにしてもよい。
【0022】
これによれば、劣化状態検知装置は、判定時点までの複数の時点においてキャパシタンスを取得し、キャパシタンス平均値を算出することで、判定時点において、蓄電素子の急激な性能低下が生じるか否かを事前に判定する。これにより、当該劣化状態検知装置によれば、容易に、蓄電素子の急激な性能低下を事前に検知することができる。
【0023】
また、前記取得部は、複素インピーダンス法を用いた測定に基づいて前記キャパシタンスを算出することにより、前記キャパシタンスを取得することにしてもよい。
【0024】
これによれば、劣化状態検知装置は、複素インピーダンス法を用いた測定に基づいてキャパシタンスを算出する。これにより、劣化状態検知装置は、高精度に、キャパシタンスを取得して、蓄電素子の急激な性能低下を事前に検知することができる。
【0025】
また、前記取得部は、複素インピーダンス法を用いた測定に基づいてナイキスト線図を描画したときに現れる円弧の虚軸成分が極大値となる点における周波数を頂点周波数としたとき、前記頂点周波数が所定の閾値以下である場合の前記キャパシタンスを取得することにしてもよい。
【0026】
ここで、本願発明者らは、鋭意検討と実験の結果、頂点周波数が所定の閾値よりも大きい場合には、蓄電素子が劣化していなくとも、キャパシタンスの値が非常に小さくなってしまうことを見出した。このため、当該劣化状態検知装置によれば、頂点周波数が所定の閾値以下である場合のキャパシタンスを取得することで、蓄電素子の急激な性能低下を事前に精度良く検知することができる。
【0027】
また、前記判定部は、前記蓄電素子の劣化状態の判定結果に基づいて、前記蓄電素子の充電上限電圧または前記蓄電素子への通電最大電流を制限することにしてもよい。
【0028】
これによれば、劣化状態検知装置は、蓄電素子の急激な性能低下を事前に判定した場合に、蓄電素子の充電上限電圧または蓄電素子への通電最大電流を制限することで、蓄電素子の急激な性能低下を抑制することができ、寿命延命措置をとることができる。
【0029】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態に係る劣化状態検知装置、及び当該劣化状態検知装置を備える蓄電システムについて説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも本発明の好ましい一具体例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、本発明の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、より好ましい形態を構成する任意の構成要素として説明される。
【0030】
まず、蓄電システム10の構成について、説明する。
【0031】
図1は、本発明の実施の形態に係る劣化状態検知装置100を備える蓄電システム10の外観図である。
【0032】
同図に示すように、蓄電システム10は、劣化状態検知装置100と、複数(同図では6個)の蓄電素子200と、劣化状態検知装置100及び複数の蓄電素子200を収容する収容ケース300とを備えている。
【0033】
劣化状態検知装置100は、複数の蓄電素子200の上方に配置され、複数の蓄電素子200の劣化状態を検知する回路を搭載した回路基板である。具体的には、劣化状態検知装置100は、複数の蓄電素子200に接続されており、複数の蓄電素子200から情報を取得して、複数の蓄電素子200の電池性能の急激な低下を事前に検知する。
【0034】
なお、この事前に検知される蓄電素子200の急激な性能低下が生じる前(直前)の状態を性能低下前状態ということとする。つまり、劣化状態検知装置100は、蓄電素子200の性能低下前状態を検知する。
【0035】
なお、ここでは、劣化状態検知装置100は複数の蓄電素子200の上方に配置されているが、劣化状態検知装置100はどこに配置されていてもよい。この劣化状態検知装置100の詳細な機能構成の説明については、後述する。
【0036】
蓄電素子200は、電気を充電し、また、電気を放電することのできる二次電池であり、より具体的には、リチウムイオン二次電池などの非水電解質二次電池である。本実施の形態では、6個の矩形状の蓄電素子200が直列に配置されて組電池を構成している。なお、蓄電素子200の個数は6個に限定されず、他の複数個数または1個であってもよい。また、蓄電素子200の形状も特に限定されない。
【0037】
また、蓄電素子200は、非水電解質二次電池には限定されず、非水電解質二次電池以外の二次電池であってもよいし、キャパシタであってもよい。なお、劣化状態検知装置100が劣化状態を検知する対象となる蓄電素子200としては、リチウムイオン二次電池であるのが好ましい。
【0038】
具体的には、蓄電素子200は、アルミニウムやアルミニウム合金などからなる長尺帯状の正極基材箔上に正極活物質層が形成された正極と、銅や銅合金などからなる長尺帯状の負極基材箔上に負極活物質層が形成された負極とを有している。ここで、正極活物質層に用いられる正極活物質、または負極活物質層に用いられる負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵放出可能な正極活物質または負極活物質であれば、適宜公知の材料を使用できる。
【0039】
ここで、蓄電素子200は、正極活物質として層状構造のリチウム遷移金属酸化物を含むリチウムイオン二次電池であってもよい。具体的には、正極活物質として、LiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2など、Li
1+xM
1−yO
2(MはFe、Ni、Mn、Co等から選択される1種または2種以上の遷移金属元素、0≦x<1/3、0≦y<1/3)等の層状構造のリチウム遷移金属酸化物等を用いたものが挙げられる。なお、当該正極活物質として、LiMn
2O
4やLiMn
1.5Ni
0.5O
4等のスピネル型リチウムマンガン酸化物や、LiFePO
4等のオリビン型正極活物質等と、上記層状構造のリチウム遷移金属酸化物とを混合して用いたものであってもよい。また、負極活物質としては、例えば、リチウム金属、リチウム合金(リチウム−ケイ素、リチウム−アルミニウム、リチウム−鉛、リチウム−錫、リチウム−アルミニウム−錫、リチウム−ガリウム、及びウッド合金等のリチウム金属含有合金)の他、リチウムを吸蔵・放出可能な合金、炭素材料(例えば黒鉛、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素、低温焼成炭素、非晶質カーボン等)、ケイ素酸化物、金属酸化物、リチウム金属酸化物(Li
4Ti
6O
12等)、ポリリン酸化合物などが挙げられる。
【0040】
次に、劣化状態検知装置100の詳細な機能構成について、説明する。
【0041】
図2は、本発明の実施の形態に係る劣化状態検知装置100の機能的な構成を示すブロック図である。また、
図3は、本発明の実施の形態に係る記憶部130の判定用データ131の一例を示す図である。
【0042】
劣化状態検知装置100は、蓄電素子200の劣化状態を検知する装置であり、具体的には、蓄電素子200の急激な性能低下を事前に検知する、つまり蓄電素子200の性能低下前状態を検知する装置である。同図に示すように、劣化状態検知装置100は、取得部110、判定部120及び記憶部130を備えている。
【0043】
記憶部130は、蓄電素子200が性能低下前状態であるか否かを判定するための判定用データ131を記憶しているメモリである。ここで、判定用データ131は、蓄電素子200が性能低下前状態であるか否かを判定するために必要な情報の集まりであり、具体的には、
図3に示すように、第一時点、第二時点などの所定の判定時点までの複数の時点におけるキャパシタンスの値等が記憶されている。
【0044】
取得部110は、蓄電素子200のキャパシタンスを取得する。つまり、取得部110は、第一時点、第二時点などの所定の判定時点までの複数の時点におけるキャパシタンスの値を取得し、記憶部130の判定用データ131に書き込む。
【0045】
また、判定部120は、取得部110が取得したキャパシタンスの変化から、蓄電素子200の劣化状態を判定する。具体的には、判定部120は、当該キャパシタンスの変化から、蓄電素子200が性能低下前状態であるか否かを判定する。
【0046】
これらによって、劣化状態検知装置100は、蓄電素子200の劣化状態、つまり蓄電素子200の性能低下前状態を検知することができる。
【0047】
ここで、取得部110は、LCRメータによる測定などにより蓄電素子200のキャパシタンスを取得したり、複素インピーダンス法で取得されるデータに基づいて蓄電素子200のキャパシタンスを取得したりするなど、様々な手法を用いて当該キャパシタンスを取得することができる。以下では、当該キャパシタンスを取得することができる手法の一例として、複素インピーダンス法を用いることで蓄電素子200のキャパシタンスを取得する手法について説明する。
【0048】
なお、以下では、一部ナイキスト線図を用いて処理手順を説明するが、ナイキスト線図は、複素インピーダンス法で取得されるデータからキャパシタンスを取得する過程において装置の内部で行われている処理について、前記処理が実質的に意味するところを説明するためのものにすぎず、取得部110がキャパシタンスを取得する処理を行う装置の内部でナイキスト線図が可視的に作図されるわけではない事についてはいうまでもない。
【0049】
取得部110は、まず、複素インピーダンス法を用いた測定によって、周波数(f)、実軸インピーダンス(Z
re)及び虚軸インピーダンス(−Z
im)の組み合わせからなるデータ列を取得する。つまり、このデータ列は、これをプロットすればナイキスト線図を生成し得るに足る情報を備えている。
【0050】
そして、取得部110は、前記データ列に基づいて、ナイキスト線図に表れる円弧におけるインピーダンスの実軸成分の幅に相当するインピーダンスRと、当該円弧においてインピーダンスの虚軸成分が極大値となる点における周波数に相当する頂点周波数fとを取得する。つまり、取得部110は、当該ナイキスト線図に表れる円弧形状の部分を抽出し、当該円弧形状の直径に対応するインピーダンスの実軸成分の幅をインピーダンスRとし、当該円弧形状においてインピーダンスの虚軸成分が極大値となる点における周波数を頂点周波数fとして取得する過程に相応する作業を行っているといえる。
【0051】
そして、取得部110は、取得したインピーダンスRと頂点周波数fとから、キャパシタンスC=1/(2πfR)の関係式を用いて、キャパシタンスを算出する。つまり、取得部110は、キャパシタンスC=1/(2πfR)の関係式に、インピーダンスRと頂点周波数fとを代入して、キャパシタンスCを算出する。これにより、取得部110は、キャパシタンスを取得する。
【0052】
ここで、取得部110は、所定の判定時点までの複数の時点において、それぞれの時点に対応したインピーダンスと頂点周波数とから算出されたキャパシタンスを取得する。なお、判定時点とは、後述の判定部120が蓄電素子200が性能低下前状態であるか否かを判定する時点であるが、詳細については、後述する。
【0053】
つまり、取得部110は、所定の判定時点までの複数の時点において、複素インピーダンス法を用いた測定を行い、この結果に基づいてナイキスト線図を描画したときに現れる円弧の直径に相当するインピーダンスRと、前記円弧の虚軸成分が極大値となる点における周波数である頂点周波数fとからキャパシタンスCを算出することで、それぞれの時点におけるキャパシタンスを取得する。
【0054】
このそれぞれの時点におけるキャパシタンスを取得する際には、取得部110は、頂点周波数が所定の閾値以下である場合のキャパシタンスを取得する。つまり、取得部110は、頂点周波数が所定の閾値以下であるか否かを判断し、頂点周波数が所定の閾値以下であると判断した場合に、当該頂点周波数に対応するキャパシタンスを取得する。これは、頂点周波数が所定の閾値よりも大きい場合には、蓄電素子200が劣化していなくとも、キャパシタンスの値が非常に小さくなってしまうからである。なお、所定の閾値とは、例えば10Hzである。
【0055】
ここで、取得部110は、判定時点までのそれぞれの時点において、インピーダンスと頂点周波数とを、記憶部130の判定用データ131に書き込むとともに、インピーダンスと頂点周波数とから算出されたキャパシタンスを当該判定用データ131に書き込む。
【0056】
なお、取得部110は、判定時点までのそれぞれの時点におけるキャパシタンスの値のみを判定用データ131に書き込むことにしてもよい。この場合は、判定用データ131には、所定の判定時点までの複数の時点におけるキャパシタンスのみが記憶されていることとなる。
【0057】
ここで、判定時点、及び判定時点までの複数の時点について、説明する。
【0058】
判定時点とは、蓄電素子200の充放電を伴う使用を開始して所定の期間が経過した時点である。なお、当該所定の期間はどのような期間であってもよく、特に限定されない。また、当該所定の期間の単位も特に限定されず、例えば、秒オーダー、分オーダー、時間オーダー、日オーダー、月オーダーなどの期間である。つまり、判定時点は、秒、分、時、日、月など、どのような単位で表現されてもかまわない。
【0059】
また、判定時点までの複数の時点とは、性能低下前状態を検知する基準となる時点から判定時点までの複数の時点であり、例えば、蓄電素子200が初期状態のときの時点から判定時点までの複数の時点である。なお、蓄電素子200が初期状態のときの時点とは、蓄電素子200の製造時点、工場出荷時点または電気自動車等の応用機器への搭載時点などの時点である。
【0060】
なお、当該複数の時点は、蓄電素子200が初期状態のときの時点から判定時点までの複数の時点であることには限定されず、例えば、蓄電素子200が充放電を伴う使用を開始して所定の期間が経過した時点から判定時点までの複数の時点でもかまわない。また、当該複数の時点間の間隔は、秒オーダー、分オーダー、時間オーダー、日オーダー、月オーダーなど、どのような期間間隔であってもよく、当該複数の時点は、分、時、日、月など、どのような単位で表現されてもかまわない。
【0061】
但し、複数の時点が非常に少ない場合や、複数の時点が性能低下前状態の直前に偏在する場合などには、判定部120が正確な判定を行えない虞がある。そこで、蓄電素子200の使用開始から性能低下に至るまでのおおよその期間は予測できるから、前記複数の時点は、蓄電素子200の使用開始時点を含めると共に、性能低下に至るまでに数点以上が含まれるように設定することが好ましい。
【0062】
次に、判定部120が行う処理について、詳細に説明する。
【0063】
判定部120は、取得部110が取得したキャパシタンスの変化から、蓄電素子200の劣化状態を判定する。具体的には、判定部120は、当該キャパシタンスの変化から、蓄電素子200が性能低下前状態であるか否かを判定する。つまり、判定部120は、当該キャパシタンスの変化から、蓄電素子200の充電または放電可能な容量の急激な低下が生じるか否かを事前に、または蓄電素子200の入出力特性で示される入出力性能の急激な低下が生じるか否かを事前に判定することで、蓄電素子200の急激な性能低下が生じるか否かを事前に判定する。
【0064】
具体的には、判定部120は、取得部110が判定時点よりも前に算出して取得した複数のキャパシタンスを平均して、判定時点よりも前に算出されたキャパシタンスの平均値であるキャパシタンス平均値を算出する。つまり、判定部120は、記憶部130の判定用データ131から、取得部110が判定時点よりも前に取得した複数のキャパシタンスを読み出して、当該複数のキャパシタンスの平均値を算出する。
【0065】
そして、判定部120は、所定の判定時点において算出されたキャパシタンスである判定キャパシタンスを、キャパシタンス平均値と比較することにより、判定時点において蓄電素子200が性能低下前状態であるか否かを判定する。つまり、判定部120は、取得部110が判定時点において算出して取得したキャパシタンスを判定用データ131から読み出し、算出したキャパシタンス平均値と比較する。
【0066】
具体的には、判定部120は、判定キャパシタンスがキャパシタンス平均値の85%よりも小さいか否かを判断することで、判定時点における蓄電素子200の劣化状態を判定する。つまり、判定部120は、キャパシタンス平均値の85%の値を算出し、算出したキャパシタンス平均値の85%の値と判定キャパシタンスとを比較することで、判定時点において蓄電素子200が性能低下前状態であるか否かを判定する。
【0067】
そして、判定部120は、判定キャパシタンスがキャパシタンス平均値の85%よりも小さいと判断した場合に、判定時点において蓄電素子200が性能低下前状態であると判定する。
【0068】
このように、判定部120は、判定キャパシタンスが基準値よりも小さいか否かを判断することにより、判定時点における蓄電素子200の劣化状態を判定する。つまり、判定部120は、キャパシタンス平均値に所定の定数を乗じた値を当該基準値として、判定キャパシタンスが当該基準値よりも小さいか否かを判断することにより、判定時点における蓄電素子200の劣化状態を判定する。さらに具体的には、判定部120は、当該定数を0.8〜0.9として、判定キャパシタンスが当該基準値よりも小さいか否かを判断することにより、判定時点における蓄電素子200の劣化状態を判定する。そして、本実施の形態においては、当該定数は0.85(85%)である。なお、当該定数は0.85には限定されないが、以下では、当該定数は0.85(85%)であるとして説明する。
【0069】
なお、判定部120は、算出したキャパシタンス平均値またはキャパシタンス平均値の85%の値を、記憶部130の判定用データ131に書き込んでおき、蓄電素子200が性能低下前状態であるか否かの判定に使用することにしてもよい。また、劣化状態検知装置100は記憶部130を備えておらず、取得部110は、他の機器にキャパシタンスの値などを記憶させ、判定部120は、当該他の機器からキャパシタンスの値などを取得することで、蓄電素子200が性能低下前状態であるか否かを判定することにしてもよい。
【0070】
そして、判定部120は、蓄電素子200の劣化状態の判定結果に基づいて、蓄電素子200の充電上限電圧または蓄電素子200への通電最大電流を制限する。
【0071】
具体的には、判定部120は、蓄電素子200が性能低下前状態であると判定した場合に、蓄電素子200の充電上限電圧を制限する信号を発して、蓄電素子200が満充電になる前に蓄電素子200の充電を停止させる。または、判定部120は、蓄電素子200が性能低下前状態であると判定した場合に、蓄電素子200への通電最大電流を制限する信号を発して、蓄電素子200に流れる電流値が過剰になるのを抑える。
【0072】
なお、判定部120は、充電上限電圧や通電最大電流を制限する前に、または制限するのに代えて、警告を行ったりしてもよいし、蓄電素子200が性能低下前状態であると判定した場合に、蓄電素子200への充電を停止させることにしてもよい。
【0073】
次に、取得部110が蓄電素子200のキャパシタンスを取得する処理の一例について、ナイキスト線図を用いて説明する。
【0074】
図4は、本発明の実施の形態に係る蓄電素子200を用いて実際に繰り返し充放電を行い、0サイクル、50サイクル、150サイクル、300サイクル、500サイクル、700サイクル及び900サイクル目において複素インピーダンス測定を行った結果をナイキスト線図の形でプロットしたものである。
【0075】
ここで、同図に示すように、各サイクルにおいて、ナイキスト線図には円弧形状の部分が表れる。そして、当該円弧形状の部分は、蓄電素子200の使用を継続していくほど(サイクル数が大きくなるほど)、右方向(インピーダンスの実軸成分の値が大きくなる方向)にずれるとともに、直径が大きくなっている。
【0076】
つまり、蓄電素子200の使用を継続していくほど、当該円弧形状の直径に対応するインピーダンスの実軸成分の幅であるインピーダンスが大きくなり、当該円弧形状においてインピーダンスの虚軸成分が極大値となる点における周波数である頂点周波数が小さくなる。
【0077】
次に、劣化状態検知装置100が蓄電素子200の劣化状態(性能低下前状態)を検知する処理について、説明する。
【0078】
図5は、本発明の実施の形態に係る劣化状態検知装置100が蓄電素子200の劣化状態を検知する処理の一例を示すフローチャートである。
【0079】
同図に示すように、まず、取得部110は、所定の判定時点までの複数の時点におけるキャパシタンスを取得する(S102)。この取得部110がキャパシタンスを取得する処理の詳細な説明については、後述する。
【0080】
次に、判定部120は、蓄電素子200の劣化状態を判定する(S104)。具体的には、判定部120は、取得部110が取得したキャパシタンスの変化から、蓄電素子200が性能低下前状態であるか否かを判定する。この判定部120が、蓄電素子200の劣化状態を判定する処理の詳細な説明については、後述する。
【0081】
以上により、劣化状態検知装置100が蓄電素子200の劣化状態(性能低下前状態)を検知する処理は、終了する。
【0082】
次に、取得部110がキャパシタンスを取得する処理(
図5のS102)について、詳細に説明する。
【0083】
なお、上述のように、取得部110は、様々な手法を用いて蓄電素子200のキャパシタンスを取得することができるが、以下では、当該キャパシタンスを取得することができる手法の一例として、複素インピーダンス法で取得されるデータに基づいて蓄電素子200のキャパシタンスを取得する手法について説明する。
【0084】
図6は、本発明の実施の形態に係る取得部110がキャパシタンスを取得する処理の一例を示すフローチャートである。また、
図7A及び
図7Bは、本発明の実施の形態に係る取得部110がキャパシタンスを取得する処理を説明するための図である。具体的には、
図7Aは、寿命初期において取得部110が取得したデータをナイキスト線図の形でプロットしたグラフであり、
図7Bは、寿命中期以降において取得部110が取得したデータをナイキスト線図の形でプロットしたグラフである。
【0085】
まず、
図6に示すように、取得部110は、所定の時点において、複素インピーダンス法を用いた測定によって、データを取得する(S202)。
【0086】
具体的には、取得部110は、蓄電素子200に対して交流信号を印加して、複素インピーダンスを測定し、周波数(f)、実軸インピーダンス(Z
re)及び虚軸インピーダンス(−Z
im)の組み合わせからなるデータ列を取得する。このデータ列をプロットすれば、寿命初期においては、
図7Aに示すような円弧が1つのナイキスト線図として表され、寿命中期以降においては、
図7Bに示すような円弧が2つのナイキスト線図として表される。
【0087】
そして、取得部110は、ナイキスト線図上の円弧の直径に相当するインピーダンスと円弧頂点に対応する周波数とを取得する(S204)。つまり、取得部110は、当該ナイキスト線図に表れる円弧形状の部分を抽出し、当該円弧形状の直径に対応するインピーダンスの実軸成分の幅をインピーダンスRとし、当該円弧形状においてインピーダンスの虚軸成分が極大値となる点における周波数を頂点周波数fとして取得する処理に相応する処理を行っているといえる。
【0088】
ここで、
図7Aに示すナイキスト線図においては、−Z
im≧0となる周波数範囲における最大の周波数をf1とし、周波数がf1のときのZ
reをインピーダンスR1とする。また、周波数f1よりも低周波数側の円弧部分において、−Z
imが極大値となるときの周波数のうち最小の周波数を、頂点周波数fとする。そして、頂点周波数fよりも低周波数の範囲において、−Z
imが極小値をとるときのZ
reをインピーダンスR2とする。そして、インピーダンスRが、R=R2−R1により算出される。
【0089】
以上のように、寿命初期においては、取得部110は、頂点周波数fとインピーダンスRとを取得する。
【0090】
また、
図7Bに示すナイキスト線図においては、−Z
im≧0となる周波数範囲における最大の周波数をf1とし、周波数がf1のときのZ
reをインピーダンスR1とする。また、周波数f1よりも低周波数側の円弧部分において、−Z
imが極大値となるときの周波数のうち最小の周波数を、頂点周波数fとする。そして、頂点周波数fより大きく周波数f1よりも小さい範囲の周波数において、−Z
imが極小値をとるときのZ
reをインピーダンスR1’とする(ただし、極小値をとるZ
reがない場合は、R1’を定義しない)。そして、頂点周波数fよりも低周波数の範囲において、−Z
imが極小値をとるときのZ
reをインピーダンスR2とする。そして、インピーダンスRを、R=R2−R1’またはR=R2−R1により算出する。
【0091】
以上のように、寿命中期以降においては、取得部110は、頂点周波数fとインピーダンスRとを取得する。なお、寿命中期以降においても
図7Aに示すようなナイキスト線図になる場合もあり、この場合には、取得部110は、寿命中期以降においても、
図7Aに示すようなナイキスト線図から頂点周波数fとインピーダンスRとを取得する。
【0092】
なお、インピーダンスRとして、低周波数側(右側の円弧部分)のR=R2−R1’を用いてもよいし、高周波数側(左側の円弧部分)も含めたR=R2−R1を用いてもよいが、低周波数側のR=R2−R1’を用いるのが好ましい。
【0093】
これは、低周波数側のR=R2−R1’から算出されるキャパシタンスは正極に起因するものであり、当該キャパシタンスの変化によって電池性能の急激な低下を事前に検知することができるものと考えられるからである。
【0094】
しかし、低周波数側及び高周波数側の2つの円弧部分を分離困難な場合には、低周波数側のR=R2−R1’を用いることは困難である。このため、本願発明者らは、鋭意検討と実験の結果、高周波数側の円弧部分は比較的小さいため、低周波数側のR=R2−R1’の代わりに、高周波数側も含めたR=R2−R1を用いることができることを見出した。
【0095】
このため、取得部110は、インピーダンスRとして、低周波数側のR=R2−R1’を取得するように動作するのが好ましいが、高周波数側も含めたR=R2−R1を取得するように動作することにしてもよい。
【0096】
なお、取得部110は、同じ周波数側でのインピーダンスRを統一して取得するのが好ましい。つまり、取得部110は、低周波数側のR=R2−R1’を取得する場合には、常にR=R2−R1’を取得することとし、高周波数側も含めたR=R2−R1を取得する場合には、常にR=R2−R1を取得するのが好ましい。これにより、取得部110が取得するインピーダンスRが急変して劣化状態の誤判定を導くことを避けることができる。
【0097】
ただし、取得部110は、後述の頂点周波数が所定の閾値よりも大きい場合のインピーダンスRについては、同じ周波数側で統一して取得していなくともかまわない。つまり、取得部110は、最初にR=R2−R1にて取得したインピーダンスRにおいて頂点周波数が所定の閾値よりも大きかった場合には、次からのインピーダンスRをR=R2−R1’を用いて取得してもかまわない。
【0098】
そして、取得部110は、取得した頂点周波数fとインピーダンスRとを、記憶部130の判定用データ131に書き込む。
【0099】
次に、
図6に戻り、取得部110は、取得したインピーダンスと頂点周波数とから、キャパシタンスを算出することで取得する(S206)。つまり、取得部110は、判定用データ131から頂点周波数fとインピーダンスRとを読み出し、キャパシタンスC=1/(2πfR)の関係式に、インピーダンスRと頂点周波数fとを代入して、キャパシタンスCを算出する。
【0100】
なお、取得部110は、頂点周波数が所定の閾値以下である場合のキャパシタンスを取得する。例えば、取得部110は、頂点周波数fが10Hz以下である場合のキャパシタンスを取得する。
【0101】
つまり、本願発明者らは、蓄電素子200が劣化していない場合には、定義に従って算出した頂点周波数が所定の閾値よりも大きくなってしまうことを見出した。すなわち、劣化初期では、頂点周波数は、正極と負極の両方の情報を含んだ周波数となっており、所定の閾値よりも大きくなってしまう場合があると考えられる。しかしながら、本願発明は、上述のように正極の情報を含んだ頂点周波数から算出したキャパシタンスを用いることで電池性能の急激な低下を事前に検知することができるものであるため、負極の情報も含んだ周波数は除外する必要がある。このため、取得部110は、頂点周波数が所定の閾値以下である場合のキャパシタンスを取得する。
【0102】
そして、取得部110は、取得したキャパシタンスを、記憶部130の判定用データ131に書き込む(S208)。
【0103】
以上により、取得部110がキャパシタンスを取得する処理(
図5のS102)は、終了する。なお、取得部110は、所定の判定時点までの複数の時点において、以上のようにキャパシタンスを取得し、それぞれのキャパシタンスを判定用データ131に記憶させる。
【0104】
次に、判定部120が蓄電素子200の劣化状態を判定する処理(
図5のS104)について、詳細に説明する。
【0105】
図8は、本発明の実施の形態に係る判定部120が蓄電素子200の劣化状態を判定する処理の一例を示すフローチャートである。また、
図9A、
図9B、
図10A及び
図10Bは、本発明の実施の形態に係る判定部120が蓄電素子200の劣化状態を判定する処理を説明するための図である。
【0106】
なお、以下では、蓄電素子200の劣化状態を判定するためにキャパシタンスの変化を用いることを特徴とする本発明の効果について、他の方法と比較するために、複素インピーダンス法を用いて得たデータを示している。
【0107】
具体的には、
図9Aは、蓄電素子200が使用を開始して性能低下状態に至るまでの間に随時複素インピーダンス測定を行った場合の結果(インピーダンスRをR2−R1’とした場合)の一例を示す表であり、
図9Bは、当該結果に基づいてキャパシタンスの変化をプロットしたグラフである。また、
図10Aは、蓄電素子200が使用を開始して性能低下状態に至るまでの間に随時複素インピーダンス測定を行った場合の結果(インピーダンスRをR2−R1とした場合)の一例を示す表であり、
図10Bは、当該結果に基づいてキャパシタンスの変化をプロットしたグラフである。
【0108】
まず、
図8に示すように、判定部120は、取得部110が判定時点よりも前に算出して取得した複数のキャパシタンスを平均して、キャパシタンス平均値を算出する(S302)。
【0109】
ここで、
図9A〜
図10Bにおいては、取得部110が複数の時点において取得する複数のキャパシタンス、及び判定部120が算出するキャパシタンス平均値の一例を示すために、具体例として、以下の45℃、1CmA充放電サイクル試験を行った結果を示している。
【0110】
つまり、当該1CmA充放電サイクル試験では、アルミニウム箔上に正極合剤が形成された正極と、銅箔上に負極合剤が形成された負極とを有するリチウムイオン二次電池を用いた。ここで、正極合剤は、正極活物質と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデンと、導電材としてのアセチレンブラックとを含み、正極活物質は、LiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2で表される層状構造のリチウム遷移金属酸化物である。また、負極合剤は、負極活物質である黒鉛質炭素材料と、結着剤としてのスチレンブタジエンゴム及びカルボキシメチルセルロースとを含む。また、電解液には、エチレンカーボネート(EC):ジメチルカーボネート(DMC):エチルメチルカーボネート(EMC)=25:20:55(体積比)の混合溶媒に、LiPF
6を1mol/L添加することにより調製した。
【0111】
そして、45℃、1CmA充放電サイクル試験においては、充電は、45℃、電流1CmA(=700mA)、電圧4.2V、充電時間3時間の定電流定電圧充電とし、放電は、45℃、電流1CmA(=700mA)、終止電圧2.85Vの定電流放電とした。なお、充電と放電の間、及び、放電と充電の間にはそれぞれ10分間の休止時間を設けた。休止時間は電池を開回路状態とした。
【0112】
また、放電容量確認試験時には、充電は、25℃、電流1CmA(=700mA)、電圧4.2V、充電時間3時間の定電流定電圧充電とし、放電は、25℃、電流1CmA(=700mA)、終止電圧2.85Vの定電流放電とした。なお、充電と放電の間、及び、放電と充電の間にはそれぞれ10分間の休止時間を設けた。休止時間は電池を開回路状態とした。即ち、充電、休止、放電、休止の4工程を1サイクルとする。なお、この放電容量確認試験は、0サイクル、50サイクル、150サイクル、300サイクル、500サイクル、700サイクル及び900サイクルの後にそれぞれ実施した。
【0113】
また、複素インピーダンス測定としては、電池をSOCが50%になるまで充電して調整し、25℃、測定周波数範囲0.02〜10
6Hz、開回路電位に対して、印加交流電圧5mVとして測定を行った。なお、この複素インピーダンス測定は、0サイクル、50サイクル、150サイクル、300サイクル、500サイクル、700サイクル及び900サイクルの後にそれぞれ実施した。
【0114】
なお、
図9Aに示す「サイクル数」は、蓄電素子200の使用の程度が充放電サイクル試験における当該サイクル数に相当する時点であることを示している。また、当該サイクル数のそれぞれにおいて、「R」はインピーダンスR(=R2−R1’)を示しており、「f」は頂点周波数fを示しており、「C」はキャパシタンスCを示しており、「Cav」はキャパシタンス平均値Cavを示しており、「Cav×0.85」はキャパシタンス平均値Cavの85%の値を示している。
【0115】
つまり、例えば、蓄電素子200の使用の程度が充放電サイクル試験における500サイクルに相当する時点であれば、取得部110は、
図9Aに示す「500サイクル」の欄に相当するデータを取得する。そして、判定部120は、サイクル数が50、150、300及び500サイクルのときのキャパシタンスCの平均値(=(1.7+1.7+1.7+1.8)/4=1.73)に0.85を乗じて、キャパシタンス平均値Cavの85%の値である1.47を算出する。
【0116】
また同様に、
図10Aに示す「サイクル数」は、蓄電素子200の使用の程度が充放電サイクル試験における当該サイクル数に相当する時点であることを示している。また、当該サイクル数のそれぞれにおいて、「R」はインピーダンスR(=R2−R1)を示しており、「f」は頂点周波数fを示しており、「C」はキャパシタンスCを示しており、「Cav」はキャパシタンス平均値Cavを示しており、「Cav×0.85」はキャパシタンス平均値Cavの85%の値を示している。
【0117】
つまり、例えば、蓄電素子200の使用の程度が充放電サイクル試験における500サイクルに相当する時点であれば、取得部110は、
図10Aに示す「500サイクル」の欄に相当するデータを取得する。そして、判定部120は、サイクル数が50、150、300及び500サイクルのときのキャパシタンスCの平均値(=(1.2+1.2+1.2+1.2)/4=1.2)に0.85を乗じて、キャパシタンス平均値Cavの85%の値である1.02を算出する。
【0118】
なお、
図9A及び
図10Aともに、サイクル数が0サイクル(初期状態)の場合は、頂点周波数f(=63.1Hz)が所定の閾値(例えば10Hz)よりも大きいので、取得部110は、サイクル数が0サイクルの場合のキャパシタンスC(=0.1F)を取得していない。このため、判定部120は、サイクル数が0サイクルの場合のキャパシタンスCを含めることなく、キャパシタンス平均値Cavの算出を行う。
【0119】
ここで、キャパシタンスCの取得数や取得時期によっては、判定部120が判定を行うために適切なキャパシタンス平均値Cavを算出できない場合がある。例えば、キャパシタンスCの取得頻度が非常に少ない場合や、性能低下前状態の直前に初めてキャパシタンスCの取得を開始した場合などである。この場合には、判定部120は、算出したキャパシタンス平均値Cavが判定を行うのに適切な値か否かを判断し、適切な値ではないと判断した場合には、エラーを出力するなどによってユーザに通知する機能を有していてもよい。
【0120】
そして、
図8に戻り、判定部120は、所定の判定時点において算出された判定キャパシタンスが、キャパシタンス平均値の85%よりも小さいか否かを判断する(S304)。
【0121】
具体的には、
図9Aに示すように、判定部120は、蓄電素子200の使用の程度が充放電サイクル試験における500サイクルに相当する時点であれば、判定キャパシタンスC=1.8が、サイクル数が300サイクルまでのキャパシタンス平均値Cavの85%の値である1.45よりも小さくないと判断する(S304でNo)。また、判定部120は、蓄電素子200の使用の程度が充放電サイクル試験における700サイクルに相当する時点であれば、判定キャパシタンスC=1.4が、サイクル数が500サイクルまでのキャパシタンス平均値Cavの85%の値である1.47よりも小さいと判断する(S304でYes)。
【0122】
また同様に、
図10Aに示すように、判定部120は、蓄電素子200の使用の程度が充放電サイクル試験における500サイクルに相当する時点であれば、判定キャパシタンスC=1.2が、サイクル数が300サイクルまでのキャパシタンス平均値Cavの85%の値である1.02よりも小さくないと判断する(S304でNo)。また、判定部120は、蓄電素子200の使用の程度が充放電サイクル試験における700サイクルに相当する時点であれば、判定キャパシタンスC=1.0が、サイクル数が500サイクルまでのキャパシタンス平均値Cavの85%の値である1.02よりも小さいと判断する(S304でYes)。
【0123】
そして、
図8に戻り、判定部120は、判定キャパシタンスがキャパシタンス平均値の85%よりも小さいと判断した場合に(S304でYes)、判定時点において蓄電素子200が性能低下前状態であると判定する(S306)。
【0124】
具体的には、
図9A及び
図10Aに示すように、判定部120は、蓄電素子200の使用の程度が充放電サイクル試験における700サイクルに相当する時点であれば、判定キャパシタンスがキャパシタンス平均値よりも小さいと判断するため、判定部120は、当該時点において、蓄電素子200が性能低下前状態であると判定する。なお、
図9B及び
図10Bに示すように、サイクル数が700サイクル以降において、キャパシタンスの値が急激に低下しているのが分かる。
【0125】
また、
図8に戻り、判定部120は、判定キャパシタンスがキャパシタンス平均値の85%よりも小さくないと判断した場合には(S304でNo)、処理を終了する。
【0126】
そして、判定部120は、蓄電素子200が性能低下前状態であると判定した場合に、蓄電素子200の充電上限電圧または蓄電素子200への通電最大電流を制限する(S308)。つまり、判定部120は、判定時点において蓄電素子200が性能低下前状態であると判定した場合に、蓄電素子200の急激な性能低下を抑制するように制御を行う。
【0127】
以上により、判定部120が蓄電素子200の劣化状態を判定する処理(
図5のS104)は、終了する。
【0128】
次に、劣化状態検知装置100が蓄電素子200の劣化状態(性能低下前状態)を検知できていることについて、説明する。
【0129】
図11A及び
図11Bは、本発明の実施の形態に係る劣化状態検知装置100が蓄電素子200の劣化状態を検知できていることを説明する図である。具体的には、
図11Aは、
図9A〜
図10Bでの充放電サイクル試験におけるサイクル数と蓄電素子200の放電容量(可逆容量)との関係を示すグラフであり、
図11Bは、当該充放電サイクル試験におけるサイクル数と蓄電素子200の抵抗値(内部抵抗)との関係を示すグラフである。
【0130】
まず、
図11Aに示すように、サイクル数が700サイクル以降において、蓄電素子200の放電容量(可逆容量)が急激に低下している。ここで、当該700サイクルは、判定部120が、判定キャパシタンスがキャパシタンス平均値よりも小さいと判断したサイクル数である。つまり、判定部120は、判定キャパシタンスがキャパシタンス平均値よりも小さいか否かを判断することで、蓄電素子200の可逆容量の急激な低下が生じ始める状態であるか否かを事前に判定することができている。
【0131】
そして、蓄電素子200の可逆容量の急激な低下が生じ始める状態とは、蓄電素子200の急激な性能低下が生じ始める状態である。このため、判定部120は、当該キャパシタンスの変化から、蓄電素子200の可逆容量の急激な低下が生じ始める状態であるか否かを事前に判定することで、蓄電素子200が性能低下前状態であるか否かを判定することができる。
【0132】
また、
図11Bに示すように、サイクル数が700サイクル以降において、蓄電素子200の抵抗値(内部抵抗)が急激に上昇している。つまり、蓄電素子200の入出力性能が急激に低下している。ここで、当該700サイクルは、判定部120が、判定キャパシタンスがキャパシタンス平均値よりも小さいと判断したサイクル数である。つまり、判定部120は、判定キャパシタンスがキャパシタンス平均値よりも小さいか否かを判断することで、蓄電素子200の入出力性能の急激な低下が生じ始める状態であるか否かを事前に判定することができている。
【0133】
そして、蓄電素子200の入出力性能の急激な低下が生じ始める状態とは、蓄電素子200の急激な性能低下が生じ始める状態である。このため、判定部120は、当該キャパシタンスの変化から、蓄電素子200の入出力性能の急激な低下が生じ始める状態であるか否かを事前に判定することで、蓄電素子200が性能低下前状態であるか否かを判定することができる。
【0134】
また、
図12A及び
図12Bは、本発明の実施の形態に係る劣化状態検知装置100が奏する効果を説明するための図である。具体的には、
図12Aは、
図9A〜
図10Bでの充放電サイクル試験におけるサイクル数とインピーダンスとの関係を示すグラフであり、
図12Bは、当該充放電サイクル試験におけるサイクル数と頂点周波数との関係を示すグラフである。
【0135】
まず、
図12Aに示すように、サイクル数とインピーダンスとの関係からは、サイクル数が700サイクルの場合に蓄電素子200が性能低下前状態であることを検知することができていない。つまり、インピーダンスの変化からは、蓄電素子200の急激な性能低下を事前に検知することができない。
【0136】
また、同様に、
図12Bに示すように、サイクル数と頂点周波数との関係からは、サイクル数が700サイクルの場合に蓄電素子200が性能低下前状態であることを検知することができていない。つまり、頂点周波数の変化からは、蓄電素子200の急激な性能低下を事前に検知することができない。
【0137】
これに対し、本発明の実施の形態に係る劣化状態検知装置100によれば、キャパシタンスの変化から、蓄電素子200の急激な性能低下を事前に検知することができている。
【0138】
以上のように、本発明の実施の形態に係る劣化状態検知装置100によれば、蓄電素子200のキャパシタンスの変化から、蓄電素子200の劣化状態を判定する。ここで、本願発明者らは、鋭意検討と実験の結果、当該キャパシタンスの変化から、蓄電素子200の急激な性能低下が生じるか否かを事前に判定することができることを見出した。このため、劣化状態検知装置100によれば、蓄電素子200の急激な性能低下を事前に検知することができる。
【0139】
また、本願発明者らは、鋭意検討と実験の結果、キャパシタンスの変化から、蓄電素子200の可逆容量または入出力性能の急激な低下が生じ始める状態であるか否かを事前に判定することができることを見出した。そして、蓄電素子200の可逆容量または入出力性能が急激に低下し始めるということは、蓄電素子200の急激な性能低下が生じ始めるということを示している。このため、劣化状態検知装置100によれば、蓄電素子200の可逆容量または入出力性能の急激な低下が生じ始める状態であるか否かを判定することで、蓄電素子200の急激な性能低下が生じるか否かを事前に判定することができる。
【0140】
また、本願発明者らは、鋭意検討と実験の結果、所定の判定時点において算出されたキャパシタンスが、基準値よりも小さいか否かを判断することにより、判定時点において、蓄電素子200の急激な性能低下が生じるか否かを事前に判定することができることを見出した。このため、劣化状態検知装置100によれば、蓄電素子200の急激な性能低下を事前に検知することができる。
【0141】
また、本願発明者らは、鋭意検討と実験の結果、判定キャパシタンスが、判定時点よりも前に算出されたキャパシタンスの平均値に所定の定数を乗じた値よりも小さいか否かを判断することにより、判定時点において、蓄電素子200の急激な性能低下が生じるか否かを事前に判定することができることを見出した。このため、劣化状態検知装置100によれば、蓄電素子200の急激な性能低下を事前に検知することができる。
【0142】
また、本願発明者らは、鋭意検討と実験の結果、判定キャパシタンスがキャパシタンス平均値の80〜90%の間の値(本実施の形態では85%)よりも小さい場合に、蓄電素子200の急激な性能低下が生じる前の状態であると判定することができることを見出した。このため、劣化状態検知装置100によれば、蓄電素子200の急激な性能低下を事前に検知することができる。
【0143】
また、劣化状態検知装置100は、判定時点までの複数の時点においてキャパシタンスを取得し、キャパシタンス平均値を算出することで、判定時点において、蓄電素子200の急激な性能低下が生じるか否かを事前に判定する。これにより、劣化状態検知装置100によれば、容易に、蓄電素子200の急激な性能低下を事前に検知することができる。
【0144】
また、本願発明者らは、鋭意検討と実験の結果、頂点周波数が所定の閾値よりも大きい場合には、蓄電素子200が劣化していなくとも、キャパシタンスの値が非常に小さくなってしまうことを見出した。このため、劣化状態検知装置100によれば、頂点周波数が所定の閾値以下である場合のキャパシタンスを取得することで、蓄電素子200の急激な性能低下を事前に精度良く検知することができる。
【0145】
また、劣化状態検知装置100は、複素インピーダンス法を用いた測定に基づいてキャパシタンスを算出する。これにより、劣化状態検知装置100は、高精度に、キャパシタンスを取得して、蓄電素子200の急激な性能低下を事前に検知することができる。
【0146】
また、劣化状態検知装置100は、蓄電素子200の急激な性能低下を事前に判定した場合に、蓄電素子200の充電上限電圧または蓄電素子200への通電最大電流を制限することで、蓄電素子200の急激な性能低下を抑制することができ、寿命延命措置をとることができる。
【0147】
以上、本発明の実施の形態に係る蓄電システム10及び劣化状態検知装置100について説明したが、本発明は、この実施の形態に限定されるものではない。つまり、今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0148】
例えば、上記実施の形態では、判定部120は、判定キャパシタンスをキャパシタンス平均値と比較することにより、蓄電素子200が性能低下前状態であるか否かを判定することとした。しかし、判定部120は、判定キャパシタンスを前回の時点でのキャパシタンスの値と比較するなど、過去のキャパシタンスの値と比較することにしてもよい。
【0149】
また、上記実施の形態では、取得部110は、一例として複素インピーダンス法を用いた測定に基づいてキャパシタンスを算出して取得することとした。しかし、取得部110は、複素インピーダンス法を用いることなく、外部の装置からキャパシタンスを取得することにしてもよい。
【0150】
また、上記実施の形態では、取得部110は、頂点周波数が所定の閾値以下である場合のキャパシタンスを取得することとした。しかし、取得部110は、頂点周波数が所定の閾値よりも大きい場合のキャパシタンスも取得することにしてもよい。この場合、判定部120は、取得部110が取得した当該キャパシタンスを含めずに判定を行ってもよいし、当該キャパシタンスを含めて判定する場合には、判定のための数値(85%)を変更するなどにより、対応できる。
【0151】
また、上記実施の形態では、取得部110は、LCRメータによる測定により蓄電素子200のキャパシタンスを取得したり、複素インピーダンス法を用いて蓄電素子200のキャパシタンスを取得したりすることとした。しかし、取得部110は、どのような手法で蓄電素子200のキャパシタンスを取得することにしてもよい。
【0152】
また、本発明は、このような蓄電システム10または劣化状態検知装置100として実現することができるだけでなく、劣化状態検知装置100に含まれる特徴的な処理部をステップとする劣化状態検知方法としても実現することができる。
【0153】
また、本発明に係る劣化状態検知装置100が備える各処理部は、集積回路であるLSI(Large Scale Integration)として実現されてもよい。例えば、
図13に示すように、本発明は、取得部110及び判定部120を備える集積回路140として実現することができる。
図13は、本発明の実施の形態に係る劣化状態検知装置100を集積回路で実現する構成を示すブロック図である。
【0154】
なお、集積回路140が備える各処理部は、個別に1チップ化されても良いし、一部または全てを含むように1チップ化されても良い。ここでは、LSIとしたが、集積度の違いにより、IC、システムLSI、スーパーLSI、ウルトラLSIと呼称されることもある。
【0155】
また、集積回路化の手法はLSIに限るものではなく、専用回路または汎用プロセッサで実現してもよい。LSI製造後に、プログラムすることが可能なFPGA(Field Programmable Gate Array)や、LSI内部の回路セルの接続や設定を再構成可能なリコンフィギュラブル・プロセッサを利用しても良い。
【0156】
さらには、半導体技術の進歩または派生する別技術によりLSIに置き換わる集積回路化の技術が登場すれば、当然、その技術を用いて機能ブロックの集積化を行ってもよい。バイオ技術の適応等が可能性としてあり得る。
【0157】
また、本発明は、劣化状態検知方法に含まれる特徴的な処理をコンピュータに実行させるプログラムとして実現したり、当該プログラムが記録されたコンピュータ読み取り可能な非一時的な記録媒体、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、CD−ROM、MO、DVD、DVD−ROM、DVD−RAM、BD(Blu−ray(登録商標) Disc)、半導体メモリとして実現したりすることもできる。そして、そのようなプログラムは、CD−ROM等の記録媒体及びインターネット等の伝送媒体を介して流通させることができるのは言うまでもない。