(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
内燃機関の排気ガスによって回転駆動されるタービンと、前記タービンへ導く排気ガスの流速を調整可能な可変ノズルと、前記タービンによって回転駆動されて前記内燃機関の吸入空気を過給するコンプレッサと、を有するターボ過給機と、
前記可変ノズルを制御する制御装置と、を用いた内燃機関の制御方法であって、
前記制御装置にて、前記タービンの下流側の排気圧力であるタービン下流排気圧力に対する前記タービンの上流側の排気圧力であるタービン上流排気圧力の比、または前記タービン下流排気圧力と大気圧とを加算したタービン下流合成圧力に対する前記タービン上流排気圧力と大気圧とを加算したタービン上流合成圧力の比、であるタービン前後圧力比を求める、タービン前後圧力比算出ステップと、
前記制御装置にて、前記タービン前後圧力比の上昇割合である圧力比上昇率を求める、タービン前後圧力比上昇率算出ステップと、
前記制御装置にて、前記タービン前後圧力比が、前記圧力比上昇率に基づいて変化していった場合に、予め設定された圧力比許容最大値を超えるか否かを予測する、タービン前後圧力比予測ステップと、
前記制御装置にて、前記圧力比上昇率に基づいて変化していった前記タービン前後圧力比が前記圧力比許容最大値を超えると予測した場合は、前記タービンへ導く排気ガスの流速を低下させる側に前記可変ノズルを制御する、タービン前後圧力比強制低下ステップと、を有し、
前記タービン前後圧力比予測ステップにて、
前記コンプレッサの上流側の吸気圧力であるコンプレッサ上流吸気圧力に対する前記コンプレッサの下流側の吸気圧力であるコンプレッサ下流吸気圧力の比、または前記コンプレッサ上流吸気圧力と大気圧とを加算したコンプレッサ上流合成圧力に対する前記コンプレッサ下流吸気圧力と大気圧とを加算したコンプレッサ下流合成圧力の比、である過給圧力比と、前記内燃機関が吸入している空気の量である吸入空気量と、に基づいて、前記圧力比許容最大値を超えないための前記圧力比上昇率として予め設定された許容上昇率を求め、
前記圧力比上昇率が、前記許容上昇率を超えた場合に、現在の前記タービン前後圧力比が、前記圧力比上昇率に基づいて変化していった場合に前記圧力比許容最大値を超える、と予測する、
内燃機関の制御方法。
内燃機関の排気ガスによって回転駆動されるタービンと、前記タービンへ導く排気ガスの流速を調整可能な可変ノズルと、前記タービンによって回転駆動されて前記内燃機関の吸入空気を過給するコンプレッサと、を有するターボ過給機における前記可変ノズルを制御する内燃機関の制御装置であって、
前記タービンの下流側の排気圧力であるタービン下流排気圧力に対する前記タービンの上流側の排気圧力であるタービン上流排気圧力の比、または前記タービン下流排気圧力と大気圧とを加算したタービン下流合成圧力に対する前記タービン上流排気圧力と大気圧とを加算したタービン上流合成圧力の比、であるタービン前後圧力比を求める、タービン前後圧力比算出手段と、
前記タービン前後圧力比の上昇割合である圧力比上昇率を求める、タービン前後圧力比上昇率算出手段と、
前記タービン前後圧力比が、前記圧力比上昇率に基づいて変化していった場合に、予め設定された圧力比許容最大値を超えるか否かを予測する、タービン前後圧力比予測手段と、
前記圧力比上昇率に基づいて変化していった前記タービン前後圧力比が前記圧力比許容最大値を超えると予測した場合は、前記タービンへ導く排気ガスの流速を低下させる側に前記可変ノズルを制御する、タービン前後圧力比強制低下手段と、を有し、
前記タービン前後圧力比予測手段にて、
前記コンプレッサの上流側の吸気圧力であるコンプレッサ上流吸気圧力に対する前記コンプレッサの下流側の吸気圧力であるコンプレッサ下流吸気圧力の比、または前記コンプレッサ上流吸気圧力と大気圧とを加算したコンプレッサ上流合成圧力に対する前記コンプレッサ下流吸気圧力と大気圧とを加算したコンプレッサ下流合成圧力の比、である過給圧力比と、前記内燃機関が吸入している空気の量である吸入空気量と、に基づいて、前記圧力比許容最大値を超えないための前記圧力比上昇率として予め設定された許容上昇率を求め、
前記圧力比上昇率が、前記許容上昇率を超えた場合に、現在の前記タービン前後圧力比が、前記圧力比上昇率に基づいて変化していった場合に前記圧力比許容最大値を超える、と予測する、
内燃機関の制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された内燃機関の過給圧制御装置では、フィードバック制御により可変ノズルの開度を制御している。過給の応答性を向上させるために、実際の上流側排気圧を最終目標上流側排気圧まで迅速に上昇させようとしてフィードバックゲインを大きくすると、たとえ最終目標上流側排気圧が所定圧力比(圧力比許容最大値)を超えないように設定されていても、オーバーシュートが発生してタービン前後圧力比が所定圧力比を超えてしまう場合がある。タービン前後圧力比のオーバーシュートが発生しないようにするためには、フィードバックゲインを小さくしなければならならない。タービン前後圧力比が所定圧力比を超えないように設定することは、過給の応答性の向上よりも優先する必要があるため、過給の応答性が犠牲にされてしまう。このように、フィードバック制御では、実際の上流側排気圧を検出して、すでに変化した実際の上流側排気圧を次回の制御に反映する(フィードバックする)ので、制御の応答遅れが避けられず、オーバーシュートが発生し易い。
【0006】
そこで従来では、ターボ過給機を保護するため、タービン前後圧力比が圧力比許容最大値を超えないように、可変ノズルのベース開度を開き側に設定し、タービン効率をあえてやや低く設定している。そして、やや低めに設定したタービン効率で所望する過給比(コンプレッサ下流圧力/コンプレッサ上流圧力)を得るために、より大きなタービンサイズのターボ過給機を選定している。このため、より大きなタービンによる車両への搭載性の影響、ターボラグ(質量の大きなタービンによる過給応答遅れ)の発生等の懸念がある。
【0007】
本発明は、このような点に鑑みて創案されたものであり、過給の応答性の向上とタービン前後圧力比のオーバーシュートの防止とを両立してターボ過給機の性能を充分に利用することが可能であり、適切なサイズのターボ過給機をより安全に使用することができる、内燃機関の制御方法及び内燃機関の制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明に係る内燃機関の制御方法及び内燃機関の制御装置は次の手段をとる。まず、本発明の第1の発明は、内燃機関の排気ガスによって回転駆動されるタービンと、前記タービンへ導く排気ガスの流速を調整可能な可変ノズルと、前記タービンによって回転駆動されて前記内燃機関の吸入空気を過給するコンプレッサと、を有するターボ過給機と、前記可変ノズルを制御する制御装置と、を用いた内燃機関の制御方法であって、前記制御装置にて、前記タービンの下流側の排気圧力であるタービン下流排気圧力に対する前記タービンの上流側の排気圧力であるタービン上流排気圧力の比、または前記タービン下流排気圧力と大気圧とを加算したタービン下流合成圧力に対する前記タービン上流排気圧力と大気圧とを加算したタービン上流合成圧力の比、であるタービン前後圧力比を求める、タービン前後圧力比算出ステップと、前記制御装置にて、前記タービン前後圧力比の上昇割合である圧力比上昇率を求める、タービン前後圧力比上昇率算出ステップと、前記制御装置にて、前記タービン前後圧力比が、前記圧力比上昇率に基づいて変化していった場合に、予め設定された圧力比許容最大値を超えるか否かを予測する、タービン前後圧力比予測ステップと、前記制御装置にて、前記圧力比上昇率に基づいて変化していった前記タービン前後圧力比が前記圧力比許容最大値を超えると予測した場合は、前記タービンへ導く排気ガスの流速を低下させる側に前記可変ノズルを制御する、タービン前後圧力比強制低下ステップと、を有する、内燃機関の制御方法である。
【0009】
次に、本発明の第2の発明は、上記第1の発明に係る内燃機関の制御方法であって、前記タービン前後圧力比予測ステップにて、前記コンプレッサの上流側の吸気圧力であるコンプレッサ上流吸気圧力に対する前記コンプレッサの下流側の吸気圧力であるコンプレッサ下流吸気圧力の比、または前記コンプレッサ上流吸気圧力と大気圧とを加算したコンプレッサ上流合成圧力に対する前記コンプレッサ下流吸気圧力と大気圧とを加算したコンプレッサ下流合成圧力の比、である過給圧力比と、前記内燃機関が吸入している空気の量である吸入空気量と、に基づいて、前記圧力比許容最大値を超えないための前記圧力比上昇率として予め設定された許容上昇率を求め、前記圧力比上昇率が、前記許容上昇率を超えた場合に、現在の前記タービン前後圧力比が、前記圧力比上昇率に基づいて変化していった場合に前記圧力比許容最大値を超える、と予測する、内燃機関の制御方法である。
【0010】
次に、本発明の第3の発明は、上記第2の発明に係る内燃機関の制御方法であって、前記タービン前後圧力比強制低下ステップにて、前記圧力比上昇率と、前記吸入空気量と、に基づいて、予め設定された前記可変ノズルの開度を補正する補正量を求め、求めた前記補正量に基づいて前記可変ノズルの開度を補正する、内燃機関の制御方法である。
【0011】
次に、本発明の第4の発明は、内燃機関の排気ガスによって回転駆動されるタービンと、前記タービンへ導く排気ガスの流速を調整可能な可変ノズルと、前記タービンによって回転駆動されて前記内燃機関の吸入空気を過給するコンプレッサと、を有するターボ過給機における前記可変ノズルを制御する内燃機関の制御装置であって、前記タービンの下流側の排気圧力であるタービン下流排気圧力に対する前記タービンの上流側の排気圧力であるタービン上流排気圧力の比、または前記タービン下流排気圧力と大気圧とを加算したタービン下流合成圧力に対する前記タービン上流排気圧力と大気圧とを加算したタービン上流合成圧力の比、であるタービン前後圧力比を求める、タービン前後圧力比算出手段と、前記タービン前後圧力比の上昇割合である圧力比上昇率を求める、タービン前後圧力比上昇率算出手段と、前記タービン前後圧力比が、前記圧力比上昇率に基づいて変化していった場合に、予め設定された圧力比許容最大値を超えるか否かを予測する、タービン前後圧力比予測手段と、前記圧力比上昇率に基づいて変化していった前記タービン前後圧力比が前記圧力比許容最大値を超えると予測した場合は、前記タービンへ導く排気ガスの流速を低下させる側に前記可変ノズルを制御する、タービン前後圧力比強制低下手段と、を有する、内燃機関の制御装置である。
【発明の効果】
【0012】
第1の発明によれば、現在のタービン前後圧力比が、圧力比上昇率に基づいて変化(上昇)していった場合に、近い将来に圧力比許容最大値を超えるか否かを予測する。つまり、(タービン前後圧力比が圧力比許容最大値よりも低い現在の時点から)上昇中のタービン前後圧力比が、この圧力比上昇率で上昇していくと、やがて(近い将来に)圧力比許容最大値を超える可能性があるか否かを予測する。すなわち、実際のタービン前後圧力比が圧力比許容最大値を超える圧力に達しているか否かを判定するフィードバック制御よりも、非常に早い時点において、近い将来にタービン前後圧力比が圧力比許容最大値を超えるか否か(超える可能性があるか否か)を予測する。そして、当該予測に基づいて可変ノズルの開度を迅速に補正する。これにより、オーバーシュートを適切に防止し、タービンの寿命をより長くすることができる。また、フィードバック制御よりも非常に早い時点で可変ノズルの開度を補正してオーバーシュートを防止できるので、フィードバックゲインをより大きく設定することが可能となり、過給の応答性をより向上させることができる。従って、過給の応答性の向上とタービン前後圧力比のオーバーシュートの防止とを両立することができるので、必要以上に大きなサイズのターボ過給機を使用しなくて済み、適切なサイズのターボ過給機を使用することができる。
【0013】
第2の発明によれば、求めた圧力比上昇率が、過給圧力比と吸入空気量とに対応させて予め設定した許容上昇率を超えた場合に、(近い将来に)タービン前後圧力比が圧力比許容最大値を超えると予測する。これにより、容易に、かつ短時間に、かつ適切に、予測を行うことができる。
【0014】
第3の発明によれば、(近い将来に)タービン前後圧力比が圧力比許容最大値を超えると予測した場合において、圧力比上昇率と吸入空気量とに対応させて予め設定した補正量に基づいて、可変ノズルの開度を迅速に補正する。これにより、迅速に、かつ適切に、可変ノズルの開度を補正してオーバーシュートの発生を防止することができる。
【0015】
第4の発明によれば、第1の発明の内燃機関の制御方法を適用した制御装置を、適切に実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明を実施するための形態を図面を用いて説明する。
●[制御対象の内燃機関の概略構成(
図1)と、制御装置50の入出力(
図2)]
まず
図1を用いて、制御対象の内燃機関の概略構成について説明する。本実施の形態の説明では、内燃機関の例として、車両に搭載された4気筒のエンジン10(例えばディーゼルエンジン)を用いて説明する。エンジン10には、エンジン10の各気筒45A〜45Dへの吸入空気を導入する吸気管11が接続されている。またエンジン10には、各気筒45A〜45Dからの排気ガスが吐出される排気管12が接続されている。各気筒45A〜45Dには、燃料配管42A〜42Dを介してコモンレール41に接続されたインジェクタ43A〜43Dが設けられている。また吸気管11の吸気経路にはターボ過給機30のコンプレッサ35が設けられており、排気管12の排気経路にはターボ過給機30のタービン36が設けられている。制御装置50は、少なくとも、制御手段51、記憶手段53を有している。
【0018】
流量検出手段21は、例えば吸入空気の流量を検出可能な流量センサであり、吸気通路11Aに設けられている。制御手段51は、流量検出手段21からの検出信号に基づいて、エンジン10が吸入した吸入空気の流量である吸入空気流量を検出することが可能である(
図2参照)。
【0019】
回転検出手段22は、例えば内燃機関の回転数(例えばクランク軸の回転数)や回転角度(例えば各気筒の圧縮上死点タイミング)等を検出可能な回転角度センサであり、エンジン10に設けられている。制御手段51は、回転検出手段22からの検出信号に基づいて、エンジン10の回転数や回転角度等を検出することが可能である(
図2参照)。
【0020】
大気圧検出手段23は、例えば大気圧センサであり、制御装置50に設けられている。制御手段51は、大気圧検出手段23からの検出信号に基づいて、大気圧を検出することが可能である(
図2参照)。
【0021】
圧力検出手段24Aは、例えば圧力センサであり、コンプレッサ35の上流側である吸気通路11A、かつコンプレッサ35の近傍、に設けられている。制御手段51は、圧力検出手段24Aからの検出信号に基づいて、コンプレッサ35の上流側の吸入空気の圧力であるコンプレッサ上流吸気圧力を検出可能である(
図2参照)。
【0022】
圧力検出手段24Bは、例えば圧力センサであり、コンプレッサ35の下流側である吸気管11、かつコンプレッサ35の近傍、に設けられている。制御手段51は、圧力検出手段24Bからの検出信号に基づいて、コンプレッサ35の下流側の吸入空気の圧力であるコンプレッサ下流吸気圧力を検出可能である(
図2参照)。
【0023】
アクセルペダル踏込量検出手段25は、例えばアクセルペダル踏込角度センサであり、アクセルペダルに設けられている。制御手段51は、アクセルペダル踏込量検出手段25からの検出信号に基づいて、運転者によるアクセルペダルの踏込量を検出することが可能である(
図2参照)。
【0024】
電子スロットル装置47は、吸気管11(吸気経路)に設けられており、制御手段51からの制御信号に基づいて吸気管11の開度を調整するスロットルを制御し、吸気流量を調整可能である。制御手段51は、スロットル開度検出手段47S(例えば、スロットル開度センサ)からの検出信号と目標スロットル開度に基づいて、電子スロットル装置47に制御信号を出力して吸気管11に設けられたスロットルの開度を調整可能である(
図2参照)。
【0025】
ターボ過給機30は、コンプレッサインペラ35Aを有するコンプレッサ35と、タービンインペラ36Aを有するタービン36とを備えている。タービン36には、タービンインペラ36Aへ導く排気ガスの流速を制御可能な可変ノズル33が設けられており、可変ノズル33は、駆動手段31によって開度が調整される。制御手段51は、開度検出手段32(例えば、ノズル開度センサ)からの検出信号と目標ノズル開度に基づいて、駆動手段31に制御信号を出力して可変ノズル33の開度を調整可能である(
図2参照)。
【0026】
コンプレッサ35には、吸気通路11Aと吸気管11が接続されている。そしてコンプレッサ35は、吸気通路11Aから吸入空気を吸入してコンプレッサインペラ35Aにて圧縮し、圧縮した吸入空気を吸気管11に吐出することで過給する。タービン36には、排気通路12Aと排気管12が接続されている。排気管12からの高温高圧の排気ガスは、タービン36に導入されてタービンインペラ36A(及びコンプレッサインペラ35A)を回転駆動して排気通路12Aへと吐出される。
【0027】
圧力検出手段26Aは、例えば圧力センサであり、タービン36の上流側である排気管12、かつタービン36の近傍、に設けられている。制御手段51は、圧力検出手段26Aからの検出信号に基づいて、タービン36の上流側の排気ガスの圧力であるタービン上流排気圧力を検出可能である(
図2参照)。
【0028】
圧力検出手段26Bは、例えば圧力センサであり、タービン36の下流側である排気通路12A、かつタービン36の近傍、に設けられている。制御手段51は、圧力検出手段26Bからの検出信号に基づいて、タービン36の下流側の排気ガスの圧力であるタービン下流排気圧力を検出可能である(
図2参照)。
【0029】
EGR通路13は、排気管12と吸気管11とを連通し、排気管12内の排気の一部を吸気管11に還流させることが可能である。EGR弁14は、EGR通路13に配設されており、制御手段51からの制御信号に基づいて、EGR通路13の開度を調整する(
図2参照)。
【0030】
コモンレール41には燃料タンク(図示省略)から燃料が供給され、コモンレール41内の燃料は高圧に維持されて燃料配管42A〜42Dを介してインジェクタ43A〜43Dのそれぞれに供給されている。インジェクタ43A〜43Dは、各気筒45A〜45Dに対応させて設けられており、制御手段51からの制御信号によって各気筒内に所定のタイミングで所定量の燃料を噴射する(
図2参照)。
【0031】
制御手段51は、例えばCPU(中央処理ユニット)であり、
図2に示すように、上述した各種の検出手段等からの検出信号が入力されて、エンジン10の運転状態を検出し、インジェクタ43A〜43D、EGR弁14、可変バルブの駆動手段31、電子スロットル装置47を駆動する制御信号を出力する。また制御手段51は、自身がインジェクタ43A〜43Dに出力した制御信号(噴射指令信号)によって、各気筒45A〜45Dに供給した燃料量を検出することが可能である。また制御手段51への入力、及び制御手段51からの出力は、
図1及び
図2の例に限定されず、種々の検出手段(冷却水温度検出手段、NOx検出手段、排気温度検出手段等)、種々のアクチュエータ(タービンバイパスバルブ、各種ランプ等)が有る。なお
図2中における符号51A〜51Dの各手段の説明については後述する。
【0032】
記憶手段53は、例えばFlash−ROM等の記憶装置であり、後述する処理を実行するためのプログラム、過給圧力比と吸入空気量とに対応させて予め設定した許容上昇率の特性、圧力比上昇率と吸入空気量とに対応させて予め設定した補正量の特性等が記憶されている。
【0033】
●[制御手段51における補正量の算出の処理手順(
図3、
図5〜
図8)]
内燃機関を非常に高負荷・高回転で運転すると、タービンインペラ36Aの前後に大きな圧力差が発生する。また、内燃機関の爆発工程毎には排気の脈動が発生する。この圧力差と排気脈動によって、タービンインペラ36Aの前後に応力が発生し、所定応力以上の応力を長時間受け続けるとタービンインペラ36Aの寿命が短くなる場合がある。これを回避するためには、タービン上流排気圧力/タービン下流排気圧力(タービン前後圧力比)を、圧力比許容最大値(例えば実際の車両での実験等によって予め設定された値であり、3.5等)を超えないように制御する必要がある。
【0034】
また、運転者からの加速要求に対してレスポンス良く加速するためには、可変ノズルを閉じる側に制御してタービンへの排気の流速を増し、タービン回転数(すなわちコンプレッサ回転数)を迅速に上昇させて、吸気の過給圧を迅速に上昇させることが好ましい。しかし、前記のようにして過給圧を迅速に上昇させた場合、タービン前後圧力比も迅速に上昇してしまい、タービン前後圧力比が圧力比許容最大値以下となるようにフィードバック制御していても、タービン前後圧力比がオーバーシュートし易い。そこで、オーバーシュートが発生しないようにフィードバックゲインを下げると、今度は過給圧を迅速に上昇させることが困難となる。本願では、以下に説明する処理手順にて、(加速要求に対して)過給圧を迅速に上昇させること、タービン前後圧力比が圧力比許容最大値を超えない(オーバーシュートしない)ように制御すること、を両立している。
【0035】
以下、
図3に示すフローチャートの各ステップの処理を説明する。
図3に示すフローチャートの処理は、所定タイミング(例えば数ms〜数10ms等の所定時間間隔)で実行される。制御手段51は、
図3に示す処理が起動されると、ステップS110へと処理を進める。
【0036】
ステップS110にて制御手段51は、圧力検出手段26A(
図1参照)からの検出信号に基づいてタービン上流排気圧力を取得し、圧力検出手段26B(
図1参照)からの検出信号に基づいてタービン下流排気圧力を取得し、ステップS115に進む。
【0037】
ステップS115にて制御手段51は、大気圧検出手段23(
図1参照)からの検出信号に基づいて大気圧を取得する。そして制御手段51は、下記の(式1)より、タービン前後圧力比を算出してステップS120に進む。なお、下記の(式1)の代わりに(式2)からタービン前後圧力比を算出してもよい。ステップS115の処理は、タービン下流排気圧力に対するタービン上流排気圧力の比、またはタービン下流排気圧力と大気圧とを加算したタービン下流合成圧力に対するタービン上流排気圧力と大気圧とを加算したタービン上流合成圧力の比、であるタービン前後圧力比を求める、タービン前後圧力比算出ステップに相当している。そして当該タービン前後圧力比算出ステップを実行している制御手段51は、タービン前後圧力比算出手段51A(
図2参照)に相当している。
タービン前後圧力比
=(タービン上流排気圧力+大気圧)/(タービン下流排気圧力+大気圧) (式1)
タービン前後圧力比
=タービン上流排気圧力/タービン下流排気圧力 (式2)
【0038】
ステップS120にて制御手段51は、前回の処理(例えば
図3の処理を10ms毎に実行している場合は10ms前の処理)にて求めたタービン前後圧力比[i−1]と、今回の処理にて求めたタービン前後圧力比[i]と、を用いて、下記の(式3)より、圧力比上昇率を算出し、ステップS125に進む。なお(式3)における計測時間間隔は、この場合、
図3の処理を実行する時間間隔である(10ms毎に
図3の処理を実行する場合は、10msが計測時間間隔である)。制御手段51は(式3)より、単位時間あたりのタービン前後圧力比の上昇割合を認識することができる。ステップS120の処理は、タービン前後圧力比の上昇割合である圧力比上昇率を求める、タービン前後圧力比上昇率算出ステップに相当している。そして当該タービン前後圧力比上昇率算出ステップを実行している制御手段51は、タービン前後圧力比上昇率算出手段51B(
図2参照)に相当している。
圧力比上昇率
=(タービン前後圧力比[i]−タービン前後圧力比[i−1])/計測時間間隔 (式3)
【0039】
ステップS125にて制御手段51は、圧力検出手段24A(
図1参照)からの検出信号に基づいてコンプレッサ上流吸気圧力を取得し、圧力検出手段24B(
図1参照)からの検出信号に基づいてコンプレッサ下流吸気圧力を取得し、ステップS130に進む。
【0040】
ステップS130にて制御手段51は、ステップS115にて取得した大気圧を利用して、下記の(式4)より、過給圧力比を算出してステップS135に進む。なお、下記の(式4)の代わりに(式5)から過給圧力比を算出してもよい。(式4)を用いた場合、制御手段51は、コンプレッサの上流側の吸気圧力であるコンプレッサ上流吸気圧力と大気圧とを加算したコンプレッサ上流合成圧力に対するコンプレッサの下流側の吸気圧力であるコンプレッサ下流吸気圧力と大気圧とを加算したコンプレッサ下流合成圧力の比を、過給圧力比として求める。(式5)を用いた場合、制御手段51は、コンプレッサ上流吸気圧力に対するコンプレッサ下流吸気圧力の比を、過給圧力比として求める。
過給圧力比
=(コンプレッサ下流吸気圧力+大気圧)/(コンプレッサ上流吸気圧力+大気圧) (式4)
過給圧力比
=コンプレッサ下流吸気圧力/コンプレッサ上流吸気圧力 (式5)
【0041】
ステップS135にて制御手段51は、流量検出手段21(
図1参照)からの検出信号に基づいて内燃機関が吸入している空気の量である吸入空気量を取得してステップS140に進む。
【0042】
ステップS140にて制御手段51は、過給圧力比と吸入空気量とに基づいて、圧力比許容最大値を超えないための圧力比上昇率として予め設定された許容上昇率を求め、ステップS145に進む。例えば記憶手段53(
図1参照)には、過給圧力比と吸入空気量とに対応させて予め設定した許容上昇率の特性である許容上昇率特性(
図5)が、予め記憶されている。
図5に示す許容上昇率特性の例は、(過給圧力比、吸入空気量)が(Ra、Ma)の場合の許容上昇率がSa3であり、(過給圧力比、吸入空気量)が(Rb、Mb)の場合の許容上昇率がSb2である例を示している。
【0043】
次に、
図5に示す許容上昇率特性の作成方法の例について説明する。例えば
図5において、(過給圧力比、吸入空気量)が(Ra、Ma)の位置における許容上昇率を決める場合、
図6に示すように、(過給圧力比、吸入空気量)=(Ra、Ma)からの種々の加速パターンGa1〜Ga4(アクセルペダルの踏み込み量等が異なる種々の加速パターン)を、実際の車両等を使って測定する。なお
図6は横軸が時間、縦軸がタービン前後圧力比である。
図6の例では、加速パターンGa4ではタービン前後圧力比が圧力比許容最大値を超え、加速パターンGa1〜Ga3ではタービン前後圧力比が圧力比許容最大値を超えなかったことを示している。この場合、タービン前後圧力比が圧力比許容最大値を超えなかった加速パターンのなかで、最もタービン前後圧力比が高かった加速パターンGa3において、最大の傾きSa3(単位時間あたりのタービン前後圧力比の上昇割合である圧力比上昇率)を、許容上昇率に決定する。すなわち、(過給圧力比、吸入空気量)=(Ra、Ma)における許容上昇率を、Sa3とする。
【0044】
同様に、(過給圧力比、吸入空気量)=(Rb、Mb)の位置における許容上昇率を決める例を、
図7を用いて説明する。
図7は、(過給圧力比、吸入空気量)=(Rb、Mb)からの種々の加速パターンGb1〜Gb4(アクセルペダルの踏み込み量等が異なる種々の加速パターン)を、実際の車両等を使って測定した例である。
図7の例では、加速パターンGb4、Gb3ではタービン前後圧力比が圧力比許容最大値を超え、加速パターンGb1、Gb2ではタービン前後圧力比が圧力比許容最大値を超えなかったことを示している。この場合、タービン前後圧力比が圧力比許容最大値を超えなかった加速パターンのなかで、最もタービン前後圧力比が高かった加速パターンGb2において、最大の傾きSb2(単位時間あたりのタービン前後圧力比の上昇割合である圧力比上昇率)を、許容上昇率に決定する。すなわち、(過給圧力比、吸入空気量)=(Rb、Mb)における許容上昇率を、Sb2とする。
【0045】
ステップS145にて制御手段51は、下記の(式6)が成立するか否かを判定し、成立する場合(Yes)はステップS150に進み、成立しない場合(No)はステップS155Bに進む。なお、オフセットとは、圧力比上昇率に対するマージンであり、適宜設定される値である。ステップS125〜S145の処理は、タービン前後圧力比が、圧力比上昇率に基づいて変化(上昇)していった場合に、予め設定された圧力比許容最大値を超えるか否かを予測する、タービン前後圧力比予測ステップに相当している。そして当該タービン前後圧力比予測ステップを実行している制御手段51は、タービン前後圧力比予測手段51C(
図2参照)に相当している。なお、下記の(式6)の代わりに(式7)が成立するか否かを判定するようにしてもよい。
[(今回求めた)圧力比上昇率−オフセット]>許容上昇率 (式6)
[(今回求めた)圧力比上昇率−オフセット]≧許容上昇率 (式7)
【0046】
ステップS150に進んだ場合、制御手段51は、圧力比上昇率と吸入空気量とに基づいて、可変ノズルの開度を補正するために予め設定された補正量を求め、ステップS155Aに進む。例えば記憶手段53(
図1参照)には、圧力比上昇率と吸入空気量とに対応させて予め設定した補正量の特性である補正量特性(
図8)が、予め記憶されている。
図8に示す補正量特性の例は、(圧力比上昇率、吸入空気量)が(Sm、Mm)の場合の補正量がDmであり、(圧力比上昇率、吸入空気量)が(Sn、Mn)の場合の補正量がDnである例を示している。なお、(圧力比上昇率、吸入空気量)が(Sm、Mm)の位置における補正量Dm、(圧力比上昇率、吸入空気量)が(Sn、Mn)の位置における補正量Dn、等を決める場合、実際の車両等を使ってタービン前後圧力比が圧力比許容最大値を超えないように、適切な値を決定する。
【0047】
ステップS155Aにて制御手段51は、ステップS150にて求めた補正量を可変ノズル補正量に代入して処理を終了する。なお、可変ノズル補正量の使用方法は、
図4に示すフローチャートの処理にて説明する。ステップS150、S155A、及び
図4に示すステップS215、S220、S230の処理は、圧力比上昇率に基づいて変化(上昇)していったタービン前後圧力比が圧力比許容最大値を超えると予測した場合に、タービンへ導く排気ガスの流速を低下させる側に可変ノズルを制御する、タービン前後圧力比強制低下ステップに相当している。そして当該タービン前後圧力比強制低下ステップを実行している制御手段51は、タービン前後圧力比強制低下手段51D(
図2参照)に相当している。
【0048】
ステップS155Bに進んだ場合、制御手段51は、可変ノズル補正量にゼロを代入して(補正なし)処理を終了する。
【0049】
●[制御手段51における補正量の反映の処理手順(
図4)と、動作波形の例(
図9)]
図4に示すフローチャートの処理は、例えば
図3の処理に続けて起動される。制御手段51は、
図4に示す処理が起動されると、ステップS210へと処理を進める。
【0050】
ステップS210にて制御手段51は、既存の処理等にて可変ノズルの開度量を求め、求めた開度量を可変ノズル開度量に代入してステップS215に進む。例えば制御手段51は、可変ノズルの目標開度に対して、フィードバック処理にて可変ノズルの開度量を求める。なお、ステップS210の処理内容については、特に限定しない。
【0051】
ステップS215にて制御手段51は、
図3のステップS155AまたはステップS155Bによる可変ノズル補正量がゼロであるか否かを判定し、可変ノズル補正量がゼロである場合(Yes)はステップS230に進み、可変ノズル補正量がゼロでない場合(No)はステップS220に進む。
【0052】
ステップS220に進んだ場合、制御手段51は、可変ノズル補正量に基づいて可変ノズル開度量を補正して(更新して)ステップS230に進む。例えば、可変ノズル補正量が、可変ノズル開度量に加算する補正量D1(
図9参照)である場合、制御手段51は、可変ノズル開度量+可変ノズル補正量を新たな可変ノズル開度量として更新し、ステップS230に進む。また、例えば可変ノズル補正量が、可変ノズルを開く側に制御する傾きDθ(
図9参照)である場合、制御手段51は、
図9に示す傾きDθを実現するための傾き補正量を求め、可変ノズル補正量+傾き補正量を新たな可変ノズル開度量として更新し、ステップS230に進む。
【0053】
ステップS230に進んだ場合、制御手段51は、可変ノズル開度量に基づいて可変ノズルの開度を制御して処理を終了する。
【0054】
以上の説明では、圧力検出手段26Bからの検出信号に基づいてタービン下流排気圧力を求める例を説明したが、圧力検出手段26Bを省略することもできる。圧力検出手段26Bを省略した場合は、タービン上流の排気ガスの流速と、タービン上流の排気ガスの温度と、タービン上流の排気ガスの圧力と、可変ノズルの開口面積と、を用いてノズル式と呼ばれる理論式にてタービン下流排気圧力を算出する。
【0055】
以上、本実施の形態の説明では、主に内燃機関の制御方法について説明したが、この内燃機関の制御方法を実施するための装置である内燃機関の制御装置50を、
図2に示すように構成してもよい。
【0056】
図9は、本実施の形態にて説明した
図3及び
図4のフローチャートの処理によって、タービン前後圧力比が圧力比許容最大値を超えないように制御される様子の動作波形の例を示している。
図9における「アクセルペダル踏込量」に示すように、運転者からアクセルペダルの踏込みによる加速要求が発生すると、「エンジン回転数」と「吸入空気量」が上昇し、タービン前後圧力比も上昇していく。本願における制御手段51は、「タービン前後圧力比」におけるタイミングPにおいて、「このタイミングPの時点の圧力比上昇率では、近い将来に圧力比許容最大値を超える」と予測する。そして制御手段51は、タイミングPにおいて、補正量D1または傾きDθにて、可変ノズルの開度を、迅速に開く側(タービンに導く排気ガスの流速を低下させる側)に制御して、タービン前後圧力比の上昇にブレーキをかける。
図9の例に示すように、「タービン前後圧力比」が従来では圧力比許容最大値を超えてしまう可能性があった。しかし本願では、より早いタイミングで、タービン前後圧力比が圧力比許容最大値を超えることを予測して迅速に可変ノズルの開度を補正するので、「タービン前後圧力比」が圧力比許容最大値を超えることを適切に防止することができる。これにより、過給の応答性の向上とタービン前後圧力比のオーバーシュートの防止とを両立してターボ過給機の性能を充分に利用することが可能となり、適切なサイズのターボ過給機をより安全に使用することができるようになる。
【0057】
本発明の内燃機関の制御方法及び内燃機関の制御装置は、本実施の形態で説明した構成、処理、動作等に限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更、追加、削除が可能である。
【0058】
また、本発明の内燃機関の制御方法及び内燃機関の制御装置を適用する対象制御システムは、
図1の例に示すものに限定されず、可変ノズルを有するターボ過給機を備えた、種々の内燃機関に適用することが可能である。
【0059】
本実施の形態の説明では、許容上昇率を過給圧力比と吸入空気量に対応させて設定した例を説明したが(
図5参照)、過給圧力比と吸入空気量に限らず、他の入力等に対応させて許容上昇率を設定するようにしてもよい。
【0060】
本実施の形態の説明では、可変ノズルの開度の補正量を圧力比上昇率と吸入空気量に対応させて設定した例を説明したが(
図8参照)、圧力比上昇率と吸入空気量に限らず、他の入力等に対応させて補正量を設定するようにしてもよい。