特許第6565766号(P6565766)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ JFEエンジニアリング株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6565766-放射性セシウム含有物の除染方法 図000003
  • 特許6565766-放射性セシウム含有物の除染方法 図000004
  • 特許6565766-放射性セシウム含有物の除染方法 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6565766
(24)【登録日】2019年8月9日
(45)【発行日】2019年8月28日
(54)【発明の名称】放射性セシウム含有物の除染方法
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/28 20060101AFI20190819BHJP
   G21F 9/10 20060101ALI20190819BHJP
   G21F 9/12 20060101ALI20190819BHJP
【FI】
   G21F9/28 Z
   G21F9/28 525A
   G21F9/10 E
   G21F9/12 501J
   G21F9/28 521A
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-70029(P2016-70029)
(22)【出願日】2016年3月31日
(65)【公開番号】特開2017-181335(P2017-181335A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2018年8月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085109
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 政浩
(72)【発明者】
【氏名】多田 光宏
【審査官】 右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−181882(JP,A)
【文献】 特開2014−235011(JP,A)
【文献】 特開2013−178149(JP,A)
【文献】 米国特許第05679256(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性セシウム含有被処理物と、酸水溶液とを処理槽に送入し、所定時間、所定温度で攪拌、混合する酸洗浄工程と、前記酸洗浄工程で得られた放射性セシウム含有被処理物と酸水溶液を含む混合物を固液分離し、第一上澄み液と第一沈殿物とに分離する第一分離工程と、前記第一上澄み液と第一沈殿物を収容する槽から前記第一上澄み液を排出した後、放射性セシウムを含まない水を添加し、所定時間攪拌、混合する水洗浄工程と、前記水洗浄工程で得られた前記第一沈殿物と前記水を含む混合物を固液分離し、第二上澄み液と第二沈殿物とに分離する第二分離工程と、前記第二上澄み液と第二沈殿物を収容する槽と放射性セシウムの吸着剤が充填された容器との間で前記第二上澄み液を所定時間循環させる放射性セシウム吸着工程とを有することを特徴とする放射性セシウム含有物の除染方法。
【請求項2】
前記放射性セシウム吸着工程終了後、前記第二上澄み液と第二沈殿物について、前記水洗浄工程と、前記第二分離工程と、前記放射性セシウム吸着工程とを一回以上繰り返すことを特徴とする請求項1に記載の放射性セシウム含有物の除染方法。
【請求項3】
前記酸洗浄工程において、処理槽内の液を70℃〜100℃に加温することを特徴とする請求項1又は2に記載の放射性セシウム含有物の除染方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性セシウムで汚染された土壌などの放射性セシウム含有物の除染方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所等の放射性物質を取扱う施設から排出される廃棄物には放射性物質が含まれており、そのなかで放射性セシウムは半減期が134Csで約2年、137Csで約30年と長いので、その保管には細心の注意を払う必要がある。特に、最近では福島県の原子力発電所の事故により多量の放射性物質が放出されて広範囲にわたって汚染を引起し、その汚染地域から出される土壌等の放射性セシウム含有物の処理も問題になっている。
【0003】
ところで、放射性物質によって汚染された土壌の細粒分は、風化した黒雲母、バーミキュライト、イライト等の鉱物からなり、放射性セシウム等の放射性物質が吸着している。
【0004】
そこで、この放射性物質を酸を用いて脱着し除染する方法が開発されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、セシウムの付着した土壌及び/又は土壌成分に、硝酸、硫酸、塩酸、酢酸アンモニウム及びそれらの二以上の組合せからなる群より選択される水溶液を加え攪拌し、混合物を得ることと、前記混合物を60〜90℃で1〜6時間保持する脱離処理と、前記混合物中の土壌及び/又は土壌成分から水溶液を除去する分離処理と、を含む、土壌からセシウムを除去する方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、放射性セシウムを含有する土壌を除染する土壌除染装置であって、前記土壌と酸溶液を含む溶離液とを収容して前記土壌中のセシウムを前記溶離液に溶離させる処理槽と、前記溶離液中のセシウムを吸着する吸着剤を収容する吸着塔と、前記処理槽と前記吸着塔の入水口とを接続する第1の配管と、前記吸着塔の出水口と前記処理槽とを接続する第2の配管と、前記第1の配管に介装され、前記溶離液を前記処理槽と前記吸着塔との間で循環させる移送ポンプとを有することを特徴とする土壌除染装置、が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013−88362号公報
【特許文献2】特開2014−235011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、セシウム等の放射性物質が吸着している土壌を酸洗浄する特許文献1の方法は、固液分離する際に、固体残渣に放射性物質で汚染された酸が残留し、放射性物質の濃度を低下させるために何度も酸洗浄する必要があった。
【0009】
特許文献2の方法も、その実施例1〜3に示されているように、基本的に酸で繰返し洗浄する方法であり、実施例4では、吸着塔を用いて、酸でセシウムを溶離する連続運転が示されているが、それでもセシウムの溶離率は70%であった。また、この特許文献2では、セシウムの溶離率と溶離剤のpHとの関係も調べており、pH1.5になると溶離率が40%まで低下してしまうので、pHを1.5以下にすることが望ましいとしている。
【0010】
本発明の目的は、放射性セシウムで汚染された土壌などの放射性セシウム含有物から、放射性セシウムを少ない酸量で効率よく除染する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、これらの課題を解決するべくなされたものであり、放射性セシウムで汚染された土壌などの放射性セシウム含有物を、1回の酸洗浄と、その後に、放射性セシウムの吸着剤が充填された容器を用いて循環水洗浄することによって、放射性セシウムを効率よく除染できることを見出してなされたものである。
【0012】
すなわち、本発明は、
放射性セシウム含有被処理物と、酸水溶液とを処理槽に送入し、所定時間、所定温度で攪拌、混合する酸洗浄工程と、前記酸洗浄工程で得られた放射性セシウム含有被処理物と酸水溶液を含む混合物を固液分離し、第一上澄み液と第一沈殿物とに分離する第一分離工程と、前記第一上澄み液と第一沈殿物を収容する槽から前記第一上澄み液を排出した後、放射性セシウムを含まない水を添加し、所定時間攪拌、混合する水洗浄工程と、前記水洗浄工程で得られた前記第一沈殿物と前記水を含む混合物を固液分離し、第二上澄み液と第二沈殿物とに分離する第二分離工程と、前記第二上澄み液と第二沈殿物を収容する槽と放射性セシウムの吸着剤が充填された容器との間で前記第二上澄み液を所定時間循環させる放射性セシウム吸着工程とを有することを特徴とする放射性セシウム含有物の除染方法と、
前記放射性セシウム吸着工程終了後、前記第二上澄み液と第二沈殿物について、前記水洗浄工程と、前記第二分離工程と、前記放射性セシウム吸着工程とを一回以上繰り返すことを特徴とする上記の放射性セシウム含有物の除染方法と、
前記酸洗浄工程において、処理槽内の液を70℃〜100℃に加温することを特徴とする上記の放射性セシウム含有物の除染方法とを提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、除染に使用する酸の量を大幅に削減することができ、耐酸性の設備も小型化でき、除染コストを大幅に低下させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施例で用いた実験装置の概略構成を示す図である。
図2】実施例で得られた液部分のセシウム濃度の循環水洗回数による変化を示すグラフである。
図3】同じく、ゼオライトに吸着されたセシウムの吸着率の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
放射性セシウム含有被処理物の種類は問わないが、例えば放射性セシウムで汚染された土壌、草木類、ゴミ焼却場から排出される焼却灰、下水汚泥、建設廃棄物等である。本発明の方法は、これらのなかで、土壌は一般にセシウムを吸着する鉱物を含んでおり、特に土壌に対して有効である。
【0016】
酸洗浄工程
この工程は、放射性セシウム含有被処理物に酸水溶液を加えて攪拌、混合することにより被処理物を酸洗浄し、該被処理物に含まれている放射性セシウムを溶離して酸水溶液に移行させる工程である。
【0017】
酸水溶液の酸は、被処理物からセシウムを溶離できるものであり、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、過塩素酸等の塩素酸、フッ酸等の無機酸、シュウ酸、リンゴ酸、マレイン酸、フマル酸、ピルビン酸、コハク酸、ギ酸、クエン酸、酢酸、乳酸、マロン酸等の有機酸を用いることができる。pHとしては3以下、好ましくは1〜2程度が適当である。酸水溶液の使用量は、放射性セシウムを充分に溶離できることに加え、被処理物を流動でき、さらに、酸洗浄後の酸水溶液の70〜90%程度、好ましくは80〜90%程度を上澄み液として被処理物から沈降分離できるように定められるのがよい。
【0018】
放射性セシウム含有被処理物と酸水溶液とを投入して酸洗浄を行う処理槽は、通常の円筒形あるいは箱形等の形状のものでよく、内部を攪拌する攪拌機と加熱機構を備えたものである。攪拌機の種類も特に限定されないが、プロペラ型、パドル型のものなどでよい。
【0019】
酸洗浄条件は、被処理物に含まれている放射性セシウムが充分に溶離して酸水溶液に移行するまでで、溶離を促進するために加熱することが好ましい。好ましい加熱温度は70〜100℃、より好ましくは80〜90℃であり、洗浄時間は10〜120分間程度、通常10〜30分間程度でよい。
【0020】
第一分離工程
この工程は、酸洗浄の終った被処理物から酸水溶液の一部を第一上澄み液として分離する工程であり、沈降を促進させ、かつ上澄み液量を増すために凝集剤を加えることが望ましい。そして、凝集剤には、無機系凝集剤と高分子凝集剤を組み合わせて用いると、無機系凝集剤によってフロックの荷電制御で凝集を促進し、高分子凝集剤によって、架橋してフロックを大きくさせ沈殿凝集させるので好ましい。無機系凝集剤としては、ポリ塩化アルミニウム(PAC)や硫酸アルミニウムなど、高分子凝集剤としては、ポリアクリルアミド系高分子凝集剤などを用いることができる。添加量としては、無機系凝集剤が100〜5,000ppm程度、高分子凝集剤が1〜1,000ppm程度とするのがよい。
【0021】
凝集剤は、熱い内に加えてもよく、添加後緩く攪拌、静置して、被処理物を沈降させる。静置時間は、通常5〜20分間程度である。
【0022】
この第一分離工程を行う槽は、特段の事情がなければ処理槽をそのまま用いることができる。
【0023】
水洗浄工程
この工程は、第一分離工程を行った槽から第一上澄み液を排出した後、残った第一沈殿物に放射性セシウムを含まない水を添加し、攪拌、混合することにより、第一沈殿物を水洗する工程である。
【0024】
放射性セシウムを含まない水は、後の放射性セシウム吸着工程でセシウムに優先して吸着剤に吸着してしまう物質を含まないものがよく、軟水や純水、蒸留水などを用いることが好ましい。この水は、排出した第一上澄み液に置換するものである。
【0025】
洗浄条件としては、常温で5〜60分間程度攪拌すればよいが、供給される水が温水あるいは熱水の場合そのままの温度でもよい。
【0026】
尚、排出させた第一上澄み液は、放射性セシウムの吸着剤が充填された容器に送ってセシウムを除去した後、保管しておくことによって放射性セシウム含有物を処理する際に再び利用することができる。セシウムを除去する際に第一上澄み液を循環させてもよい。
【0027】
第二分離工程
この工程は、水洗浄の終った被処理物の懸濁液をそのまま放射性セシウムの吸着剤が充填された容器に送り込むと被処理物がこの容器に大量に流入してしまうので、懸濁液を沈降させて上澄み液だけを吸着剤の容器に送るための工程である。
【0028】
凝集剤は、第一分離工程で使用した無機系凝集剤と高分子凝集剤を用いることができる。
【0029】
沈降時間は、通常5〜20分間程度でよい。
【0030】
放射性セシウム吸着工程
この工程は、第二分離工程における沈降で形成された第二上澄み液を放射性セシウムの吸着剤が充填された容器に送って循環させ、第二上澄み液中の放射性セシウムを吸着剤に吸着させて除去する工程である。
【0031】
吸着剤としては、ゼオライト、フェロシアン化物、珪チタン酸、陽イオン交換樹脂などを用いることができる。ゼオライトは合成品と天然品があり、X型、Y型、A型、モルデナイト型、チャパサイト型などがあるが、その種類によらずセシウムを吸着できるものであればよい。フェロシアン化物もフェロシアン化カリウム、フェロシアン化ナトリウム等種々の金属の錯塩があるがその種類によらず用いることができる。珪チタン酸も塩であってもよい。
【0032】
吸着剤を充填する容器は、塔、槽のいずれであってもよい。
【0033】
この吸着工程を実施するために、第二分離工程で用いられた槽と吸着剤が充填された容器の間に循環ラインを形成する。この循環ラインには通常送液ポンプが設けられ、その外、第二上澄み液中に含まれる被処理物等の懸濁物を除去するフィルターを設けることも好ましい。
【0034】
循環は、上澄み液の放射性セシウム濃度の低下がほぼ停滞するようになるまで行い、この循環時間は、通常5〜120分間程度である。
【0035】
循環終了後は第二上澄み液を排出させ、保管する。
【0036】
一方、残った被処理物である第二沈殿物は、新たな放射性セシウムを含まない水を加えて水洗浄し、放射性セシウム濃度が100ベクレル/kg以下になるまで水洗浄を繰返す。繰返す回数は、被処理物の含有する放射性セシウムの濃度によるが、2〜10回程度でよい。
【0037】
吸着剤は、吸着能力が低下したら新たな吸着剤と交換する。放射性セシウムを吸着している取り出した吸着剤は、保管する。
【実施例】
【0038】
実施例で用いた実験装置の概略構成を図1に示す。
【0039】
この装置は、湯煎3に入れられた、攪拌機2を有する処理槽1と、この処理槽1内の液を引き抜くチューブポンプ4と差圧計5とフィルター6と吸着剤が充填された容器7が直列に配置されている循環ライン8からなっている。吸着剤としてゼオライトを用いた。
【0040】
モデル土壌として、セシウムを41.321mg/g吸着しているバーミキュライトを用いた。
【0041】
pH1の8%シュウ酸水溶液300mLを入れた処理槽1にバーミキュライト15g(セシウム吸着量619.815mg)を投入して、攪拌しながら湯煎3中で80℃に加熱し、80℃に保ちながら60分間攪拌して洗浄した。これに、凝集剤として、無機系凝集剤のポリ塩化アルミニウム(PAC)と高分子凝集剤のダイヤフロックを添加し、5分間静置して沈降分離を行って第一上澄み液と第一沈殿物とに分離し、第一上澄み液200mLを排出した。
【0042】
さらに、第一沈殿物に蒸留水300mLを加えて攪拌し、それから5分間静置して沈降分離を行って第二上澄み液と第二沈殿物とに分離した。次いで、チューブポンプ4を作動させて、第二上澄み液を100mL/分の速度で常温で10分間循環させた。第二上澄み液の放射性セシウム濃度が低下しなくなった時点で、循環を終了して処理槽1内を攪拌後5分間静置して沈降分離を行い、第二上澄み液200mLを排出した。この循環洗浄操作を4回繰返した。
【0043】
各回毎の上澄み液を100倍に希釈してセシウム濃度を測定し、溶出率、バーミキュライト中の残存吸着量を算出した結果を表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
得られた結果の、液部分のセシウム濃度の循環洗浄回数による変化を図2に、ゼオライトに吸着されたセシウムの吸着率の循環洗浄回数による変化を図3に、それぞれ示す。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明によって放射性セシウムを含む土壌等の汚染物を効率よく除染できるので放射性セシウム汚染物の除染に幅広く利用できる。
【符号の説明】
【0047】
1 処理槽
2 攪拌機
3 湯煎
4 チューブポンプ
5 差圧計
6 フィルター
7 吸着剤収容容器
8 循環ライン
図1
図2
図3